虹色イリス   作:青紫

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クミコ

 腹ペコシスター、リースさんの仕事に協力することになった。

 人を生贄にして悪魔召喚を企む、邪教の野望を阻止するのだ。

 

「へっくしゅ!」

 

 くしゃみが出た。

 牢屋の中が埃っぽいせいかな?

 

「寒い?」

「いえ、少し鼻がムズムズするだけです」

「あったかくしてないとダメ、こっち来て?」

 

 リースさんが私を手招きする。

 指示に従い近づくと、リースさんは私を抱きしめてくれた。

 彼女の温もりと柔らかな体の感触が心地よい。

 そして、とってもいい匂いがする。

 幸せ濃厚接触!

 もし私が風邪をひいていてたら、うつしていまいそうな距離だ。

 

「大丈夫。私はよく『お前は風邪とは無縁やろな』って言われる」

 

 それたぶん、バカにされていると思うけど?

 本人は気にしていないので指摘はしない。

 

「なっ!?お前、どうやって隣に移動した!」

 

 リースさんの体温を感じてぬくぬくしていると、驚く男の声がした。

 邪教徒のひとりが、牢屋の前まで来ていたのだ。

 

 あのさぁ、今、美人シスターとスキンシップの真っ最中だぞ!

 邪魔するなんて無粋にも程があろう!空気読め!

 

 邪教徒の男が、私を指差してワナワナしている。

 そんなにビビらなくていいってば。

 

「壁に穴が開いていましたよ」

「なんだ、驚かせやがって…」

「本当はイリスがパンチした」

「は?バカを言うな。そんなので壁に穴が開く訳ないだろw」

 

 リースさん、信じてもらえなかったからって、むくれないで。

 奴には想像力が欠如しているんですよ。

 私が見た目通りの非力な子供だと、誤解してくれた方が都合がいい。

 

「二人とも来い、教祖様がお呼びだ」

 

 男は手にした剣で私たちを脅している、つもりらしい。

 武器屋のワゴンセールで売っていそうな安っぽいロングソード、構えも持ち方も素人丸出しだ。

 全然怖くないけど、教祖様とやらの所へ案内してもらうため、ここは大人しく従っておこう。

 リースさんとアイコンタクトして、彼女も同じ考えだと理解。

 

 因みに、リースさんの武器である法剣は、男が来た瞬間に再び隠しているので見つかっていない。

 人の目から見えなくする神秘?すごいな手品みたいだ。

 

「どこまで行くんですか?」

「ククク、とてもいい所だ…期待してろ」

「イケメンパラダイスかぁ(´▽`*)」

「満漢全席あるかなぁ(´▽`*)」

「お前ら、自分がピンチだって理解してるか?してないだろ?」

 

 薄暗い通路を、私、リースさん、邪教徒の順番で進む。

 壁に設置された導力灯の微かな光がだけが辺りをぼんやりと照らしている。

 天然の洞窟を利用した、古い石造りの建物っぽいな

 

「ここって、何かの遺跡ですか?」

「ほう、よく気付いたな。ここは数百年前に造られた地下遺跡」

 

 そして今は悪い奴らのアジトか。

 こんな奴らの住処にされて遺跡も災難だな。

 

「ククク、今宵この場所で、我らの悲願が達成されるのだぁ!」

 

 剣を突き付け、先を促す邪教徒が『ククク』と不敵な笑みを浮かべている。

 ククク、こいつらの悲願とは一体、ククク。

 喋り方を真似してみたけど面倒なだけだった。

 

「イリス、ひとりで先に行くと危ない。手、つなごう?」

「はいです。えへへ、リースさんと地下遺跡をお散歩ですね♪」

「楽しんでんじゃねーよ」

 

 ハブられた邪教徒が何言ってる。

 悪いな、変な宗教にハマってる人と手は繋ぐなって、ブライト家で教えらているのよ。

 あ・・・なんかまた、くしゃみ出そう。

 

「光栄に思うがいい、お前たちは新たなか…」

へっくしゅん!!

「…新たな神の供物とし…」

へっくしゅん!!!

「…く、供物として捧げられるのだからなぁ、ククク…」

へっくしゅんッッ!!ぶるぁあーちくしょうめっっ!!

「うるせーんだよ!それっぽく不安を煽ってるんだから、ちゃんと聞けよ!!」

 

 え?何?全然聞いてなかったわ。

 さっきから鼻のムズムズが止まらい。

 なんだか喉も変な感じがする。

 何かが奥に引っ掛かっているような?

 こりゃあ、本格的に風邪を引いたかも。

 邪教を片付けたら、あったかい薬湯でも飲んで早く寝よう。

 

「クソッ、ふざけた態度でいられるのも今だけだ。お前たちの泣き叫ぶ姿が…」

「今気付いたけど、イリスの肩に変なのがいる?」

「『ふんばる人』の像です。気に入ったのならあげますけど?」

超いらないww

ですよねーwww

「コケにしやがってぇぇぇ!!」

 

 邪教徒がうるさい。

 何をそんなにイライラしているのか?

 便秘か?

 『ふんばる人』の像いる?

 今なら10万ミラで売ってあげるけど?

 

「いるかぁ!明らかにぼったくりだろ!もういいから、サッサと歩け」

 

 便秘が図星だったのか、余計に怒らせた。

 食物繊維を摂取するとお通じが良くなると教えてあげよう。

 

「キノコやごぼうを食べるといいですよ?」

「急に何だ!?」

「うぅ…ご飯の話、聞いているだけでお腹が空く」

 

 ●

 

 邪教徒(便秘疑惑)に急かされ、たどり着いたのは祭壇のある場所だった。

 この遺跡、元は何かを祀る地下神殿だったのかな?

 いい所だって言っていた癖に、私たちの望むものは何も用意されていない。

 ガッカリだよ。

 

「イケメンがいない(´Д`)」

「満漢全席もない(´Д`)」

「あるわけねえだろ!!」

 

 地下にしては随分と広い空間に高い天井だ。

 太く大きな柱が床と天井を支えるようにそびえ立っている。

 大昔の建設技術ってすごいなあと、素直に感心した。

 

 ローブ姿の邪教徒たちが祭壇に向かい跪いて祈りを捧げている。

 その数は20人前後、全員同じような恰好をしているで見分けがつかない。

 私たちをここまで連れて来た奴(便秘)も、役目を終えたとばかりにその輪へ加わっていった。

 

 周囲にはおどろおどろしい姿の石像が何体もズラッと並んでいる。

 翼の生えた悪魔像、今にも動き出しそうなほど精巧な造りだ。

 あれに比べたらまだ『ふんばる人』の方が愛嬌がある。

 

 壁と床にはよくわからない文字で描かれた魔法陣らしき物まである。

 この部屋全体が不気味でよくない空気に満ちていた。

 うーん、何だかヤバいのが出て来そうだなぁ。

 セーブポイントは設置されてないの?

 

「儀式の間へよくぞ来た!哀れな贄たちよ」

 

 無駄に偉そうな男の声がした。

 飾りのジャラジャラついた杖を持っており、ローブも他の奴よりちょっと豪華だ。

 あれが邪教徒のリーダー?

 

「教祖とやらは、あなたですか?」

「ククク、いかにも!ワシがこの教団の指導者だ」

「私たち以外にも、人を攫ったと聞きましたが?」

「案ずるな。お前たちもすぐ同じ所へ送ってやるわい」

 

 牢屋には人が閉じ込められていた形跡があった。

 そして、祭壇近くの床には拭いきれない血痕が・・・

 こいつらマジで救いようがないな。

 被害者たちの無念を晴らすためにも、必ず報いを受けさせてやる。

 

「リースさん。()っちゃっていいですか?」

「まだダメ」

 

 怒りに震えた私をリースさんが制する。

 始末する前に、情報を聞き出すつもりなのだ。

 

「悪魔を喚んでどうするつもり?」

「知れたこと…女神を排し、新たな神による世界と秩序を築くのだ!」

 

 あーはいはい。

 よくいる、典型的な女神信仰の排斥主義者ね。

 勝手に不平不満と溜め込んで、怒りの矛先を女神や教会、真面目に生きている人や世界にまで広げる連中。

 私に言わせたら、ただのアホだ。

 こういうのを放置しておくと増長して凶悪犯罪やテロを起こし出すから、早めの駆除が必要になる。

 その最たるものが【D∴G教団】だったんだけど、こいつらはその模倣犯ってヤツだろう。

 

「リースさん、早く殺りましょう。こいつら生かしておく理由が無いです」ヒソヒソ

「もうちょっと待って、古代遺物持っているかもだから」ヒソヒソ

 

 内緒話をする私たちを怯えていると解釈した教祖は、懐から丸い物体と取り出す。

 怪しい光が球体の奥で鼓動のようなリズムを刻み明滅している。

 ドラゴンボール?ではないよね。

 

「っ!?古代遺物(アーティファクト)、やっぱり持っていた」

 

 リースさんが教祖をキッと睨む。

 あの玉が遺物だったのか、売ったら金になるかな?

 

「この『デモンズソウル』に生贄の魂を捧げれば、煉獄より強力無比な悪魔が降臨するのだぁ」

 

 大ヒットした、死にゲーみたいな名前だ。

 教祖が玉を上に掲げると、邪教徒たちから『うおぉぉ!』と歓声が上がった。

 

 つまり、あの玉にエネルギーを注げば悪魔のいる世界との道が開くってこと?

 それって別に人間の魂じゃなくてもよくね?

 

「さあ、敬虔なる信徒たちよ。そやつらの魂を刈り取ってしまぇ!」

 

 教祖の命令が下される。 

 だが、邪教徒たちは一点を見つめたまま動かなかった。

 

「何をしておる!早くその女と……小さいのはどこへいった?」

「きょ、教祖様!古代遺物があ!」

「は?へ?あーーッ!!ない!玉が、ワシのデモンズソウルがない!」

「あ、お借りしてまーす」

「なにしてんだぁチビぃぃぃ!!」

 

 いや、隙だらけだったからさ。

 つい盗っちゃったぜ(*´▽`*)

 ほほう、これが悪魔召喚を可能にする古代遺物かあ。

 ひんやりしていて、表面がスベスベしたガラス玉みたい。

 強度はどのぐらいかな?

 

「やめろ!やめろぉぉ!」

 

 手に持った球を床にゴンゴン叩き付けてみたけど、割れたりはしない。

 へぇ、結構頑丈なんだな。

 

「か、返せ!デモンズソウルを返せ!」

味もみておこう( ̄д ̄)」ペロリ

「マジで何してんだぁ!?!?このガキぃぃぃ!!」

「イリス、そんなの舐めたらばっちい」

 

 ちょっとペロッたぐらいでガタガタぬかすな。

 ふむ、無味無臭だ!

 

「これは…食べ物ではない!」キリッ

「当たり前だろ!いいからそれを返せ!」

「はい」

「まったく、手癖の悪いガキだ…って!なんじゃあこりゃぁー!?」

 

 教祖は手渡された物を見て驚愕する。

 どう見ても『大きい方』をしている男の像だったからだ。

 邪教の指導者たる男が見ても、頭がおかしいとしか思えない像だった。

 

「『ふんばる人』の像です。この玉と物々交換しましょう」

「するかぁ!サッサと玉を返せ」

「嫌です」

「あの女がどうなってもいいのか?」

 

 教祖の指差す方を見ると、リースさんが武器を持った邪教徒どもに囲まれていた。

 リースさんがピンチだ。

 あのままだと、修道服の下の熟れた肉体を寄ってたかって弄ばれ・・・ゴクリッ

 美人シスターが邪教の儀式で闇堕ちしちゃうのかい!

 後学のために見学してもいいっスか?

 

「イリス、今やらしいこと考えた?」

「ち、違います!薄い本みたいな展開を期待なんてしていません////」

 

 あらヤダ、リースさんがジト目で睨んでるわ。

 

「何をくっちゃべっている。女の命が惜しければ玉を…」

「わかりました。この玉に足りないエネルギー、私が補給いたしましょう!」

「「はぁ???」」

 

 リースさんと教祖、そして邪教徒たちが間の抜けた声を上げた。

 ようするに、この玉『デモンズソウル』にエネルギーが必要なんだろ?

 邪教徒は人の魂でそれを補っていたが、それに代わるエネルギーなら魂じゃなくてもいけると思うのよ。

 私の持つ【虹霊子】は無限の可能性を持つ命の力だ。

 やってやれない事は無い!!はず。

 

「オラッ!虹パワー注入しまーす!」

 

 手の平に持った玉に【虹霊子】を注ぐ。

 おお、吸ってる吸ってる!

 ほれほれ、遠慮せずに、たーんとお飲み。

 

 【虹霊子】を吸収した玉は明滅の感覚が早まり、なんと!ひとりでに空中へ浮いた。

 一体、何が始まるんです?

 

「おぉ、うぉぉぉ!ついに、ついに!この時が」

 

 異常事態に誰もが唖然とする中、教祖ひとりだけが興奮している。

 その濁った眼は空中の球体にのみ向けられており、私のことはガン無視だ。

 ねえねえ、その玉にエネルギー貯めたの私だよ?

 なんかご褒美くれよ?

 

「イリス!伏せて!」

「はぎゅ!?」

 

 隙をついて包囲を抜け出したリースさんが、私に抱き着き覆いかぶさった。

 その瞬間、空中に浮かんでいた球体が弾ける。

 

 謎の古代遺物『デモンズソウル』から、邪悪な存在が現出した。

 

 ●

 

 球体が弾けた瞬間、辺り一面を眩しい光と衝撃波が襲った。

 教祖は吹き飛ばされて地面を転がり、邪教徒たちは何事かと騒然としている。

 

「無事?」

「大丈夫です。リースさんが守ってくれましたから」

 

 リースさん、着痩せするタイプなのね。

 お胸のクッションが中々素敵でしたよ。

 

「やらしい子、めっ!」

「あぅ(>_<)」

 

 デコピンされてしまった。

 もう、お堅いシスターですね。

 いい体をしているのだから、照れなくていいのに。

 

「思ったより衝撃を感じなかった、イリス何かしたの?」

「ちょっとした特技ですよ」

 

 私の体には〖虹霊子防御皮膜(ルミナススキン)〗と言う薄い防御層が常時展開されている。

 急な不意打ちによるダメージもオートガードしてくれる優れものだ。

 この力は接触した物や人にも伝わり、同様の効果を発揮する。

 だからリースさんも守れたって訳よ。

 

「よくわからないけど、ありがとう。でもイリス、勝手な行動はしたらダメ」

「すみません。ご心配をおかけし……あ、ヤベぇです」

 

 私は見てしまった。

 見てはいけないものをバッチリ見てしまった。

 何度か瞬きしてみるが、見間違いではない。

 

「古代遺物は慎重に扱わないといけない。もし強力な悪魔が復活したら、取り返しのつかない事態になる」

「あの、リースさん?大至急ご報告したいことが…」

「まだ私のターンは終わってない。大体、イリスは軽率すぎる、いくら子供でもやっていい事と悪い事が…」

 

 リースさんがお説教モードに入ってしまった。

 マズいな、背後のアレにまだ気づいてないよ。

 

「リースさん、後ろ!後ろを見て下さい!今すぐ!」

「そんな手口には騙されない、けど、必死なイリスに免じて一度だけ信じてあげる」

 

 プンスコしながら振り返ったリースさん。

 そこにいるモノを見た彼女はピタッと動きを止めた。

 数秒後、

 油の切れた導力機器のようにギギギとぎこちなく体を私に向き直したリースさん。

 青ざめた顔をしている。状況を理解したのだろう。

 

 (゚Д゚;)  ┐(´∀`)┌ヤレヤレ

 

 リースさんは私の首根っこを引っ掴むと、素早く柱の陰に身を躍らせた。

 今の動きすごい!しなやかな野生動物の如き俊敏さだったぞ。

 二人で身を隠したまま、現状を確認し合う。

 

「アレ何?」

「例の悪魔では?知りませんけど」

「なんで急に現れた?私たちまだ生贄になってない」

「私が残りのエネルギーを補給したからでは?知りませんけど」

「……」 

「……」 

「イリス…(#^ω^)ピキピキ」

「なんですか、リースさん?お顔が怖いですよ」

 

 リースさんがプルプルが震えている。

 綺麗な顔に青筋が浮いているのは気のせいだと思いたいね。

 

「悪い子はお仕置きする!」 

「いひゃい!いひゃいでふぅ!(痛い!痛いですぅ!)」

 

 頬っぺたをつねられ、力任せに引っ張られてしまう。

 痛たたたたた!伸びる!イリスのほっぺ伸びちゃう!

 どうせなら身長が伸びてほしい!

 

「悪魔召喚を止めるのが目的だったのに、なんで召喚の手助けしたの!?」

「純度100%の出来心です」

「イリスのバカ!バカバカ馬鹿ぁー!このおバカァッ!!」

「バカな子ほど可愛いと言いますよねw」

教育的制裁っ!!

「おごふっ!?」

 

 痛だぁッ!!

 額に衝撃が走り脳みそが揺れる。

 リースさんがいきなり頭突きをかまして来たのだ。

 こ、このシスター、なんてことをしやがる。

 聖職者にあるまじき暴挙をいとも簡単にやってのけるとは・・・

 

 〖虹霊子防御皮膜(ルミナススキン)〗の防御判定は割と曖昧だ。

 戦闘中や大ケガをしそうなダメージからはしっかり守ってくれるのだが、

 日常生活でのちょっとした微傷は『これぐらい我慢しろ』みたいな感じで防いでくれない。

 だから、料理中に指を切ったり火傷もするし、タンスの角に小指をぶつけて悶絶もする。

 リースさんのほっぺをつねりや、頭突きのダメージも無効化されず届いてしまうのだ。

 

「イリスが反省しない限り、愛の頭突きを続ける」

「そんなご無体な」

 

 うぅ…リースさんの石頭め。

 彼女も痛かったのか、ちょっと涙目になってる。

 これ双方にダメージ入るからやめましょうよ?

 

「ふか~く反省しました。ごめんなさいです」

「うん、許す。ちゃんと反省したイリスはいい子。私もデコを痛めた甲斐がある」

「やっぱり痛かったんですねw」

 

 おでこを痛め、私たちは友情を確かめ合った。

 これは間違ったスキンシップなので、一般人は真似したらアカン。

 

 ●

 

 私の軽率な行動により、悪魔が出現したらしい。

 まあ、やってしまったもんは仕方がない。

 今はアレをどうにかする方法を考えよう。

 

 リースさんと二人で柱の陰から様子を伺う。

 アレの全体像を確認して『うわぁ…』という呟きが漏れた。

 

「目ん玉お化け?」

「ですね。目力強すぎます」

 

 それは、宙に浮かぶ巨大な目玉であった。

 丸く大きな一つ目に、節くれだった腕と脚がくっ付いており、長くて太い尻尾と大きな翼まである始末。

 所々に鋭い棘らしき突起物が生えているのも 禍々しい。

 目だけが異様に発達し、頭部と胴体をどこかに忘れてしまったかのような姿だ。

 

 単眼の悪魔、見るからにヤバそうな奴である。

 

「…ここは現世か…実に久方ぶりだ」

 

 目玉が喋った!?

 発声器官が見当たらないのに、どこから声を出しているのだろう?

 目玉の吐息なのか『ふしゅるるる~』と呼吸のような音も聞こえる。

 こりゃあ、まともな生物ではないな。

 

「我輩を喚び出したのは何者だ?姿を見せよ」

 

 大目玉がギョロギョロと忙しなく動いている。

 瞬きしないけど、目が乾かないのかな?

 

「わ、ワシだぁ!お前を喚んだ功労者だぞ。全てワシのおかげだ!わかるだろう?」

 

 悪魔の問いかけにいち早く跳び起きた教祖が、唾を飛ばしながら召喚者は自分だと主張する。

 周りの邪教徒、置き去りにされてるよ。

 

 最後の後押しをしたのは私だってのに、自分ひとりの功績みたいによく言うわ。

 

「召喚者よ…貴様は我輩に何を望む?」

 

 え?どういうこと?

 召喚者には何かご褒美がもらえるの?

 だったら虹パワーを補給した私にも、ご褒美をもらえる権利があるの?

 

「おいしい話には裏がある。行ってはダメ」

「ごもっともです」

 

 リースさんの言う事が正しい。

 世の中そんなに甘くないってね。

 

 あいつを喚ぶために、罪なき人が殺されているんだぞ?

 そんな方法で出て来た奴が、素直に人の願いを叶えるとは到底思えない。

 だけど、そんなことすら教祖は考えていないみたいだ。

 

「富だ。一生遊んでも使いきれない巨万の富をくれ!私を億万長者にしろぉ!」

 

 おいおい、最初と言ってることが違うぞ。

 悪魔を神に据えて、新世界と新たな秩序を築くと言ってなかったか?

 偉そうなことを抜かしておいて、結局、金をくれって・・・

 なんかガッカリだわ。

 

 教祖の『金くれ』発言を聞いて我に返った、他の邪教徒も騒ぎ出す。

 全員が我先にと願いを口にし出したのだ。

 

「このクソ教祖!てめぇだけズルいぞ。俺にも金を!金を寄越せ!」

「帝国貴族の爵位を、いや、いっそのこと王族にしてもらおうか!」

「なんでも言う事聞く、絶世の美女がほしい!」

「王子様と結婚したいわ!他にも選り取り見取り男たちが、私を取り合って争えばいい」

「才能だ!俺を見下した連中に『ざまぁ』できる数多の才能を」

「全員バカなのか?こういうのはまず、叶えられる願いの数を増やすんだよ。とりあえず無限でよろ」

 

 20人ほどの大人たちが下劣な叫びを上げ続ける。

 果てのない欲望を垂れ流す邪教徒たちは見るに堪えない。

 本当に醜いなぁ。

 吐き気がしそうなほどの煩悩が渦巻いていて、なんだか気分が悪い。

 この不快感、美人シスターに浄化してもらおう。

 

「リースさんは願い事ってありますか?」

「健康を損なわない範囲で、美味しい物を食べたい」

「フフ、それぐらいが健全ですね」

「イリスの願い事は?」

「長生きして人生を謳歌したいです」

「いいね。元気で長生きが一番だよ」

「あと、素敵な殿方と情熱的な恋をして幸せな家庭を築き……そして伝説へ…

「結婚した後何があったww」

 

 リースさんとお話してホッコリ。

 こうやって、未来の希望を語り合うぐらいが丁度いい。

 そう思えるのは、今の私がそれなりに幸せだからだろうか?

 もし過去の私だったら、神や悪魔にだって縋ったかもしれない。

 結局、私の前に現れたのは【虹の雫】という、とんでもない奴だったけどw

 それで良かったのだと思うよ。

 

「富、名声、力…いつの世も人間は変わぬ。その醜悪さ、我輩は好ましく思う」

 

 宙に浮かんだ悪魔は芝居がかった仕草で翼と手を広げる。

 

「貴様らの願い理解した。ようするに幸福になりたいのだな?」

「そうだ!ワシのような人間こそ幸せになるべきだ!」

 

 アホを代表して教祖が返答する。

 他の邪教徒も『そうだそうだ』と高らかに声を上げているが、全員自己評価高過ぎじゃね?

 

「ならば、我輩の力をもって貴様ら全員を幸福に導いてやろう」

 

 あ・・・(察し)

 この流れは、もう駄目みたいだね。

 

 欲に目が眩んだ教祖たちは危機感を持っていない。

 『勝ち組決定』とか言って喜んでいる場合じゃないのに。

 

「喜ぶがいい、永遠の幸福と安寧、すなわち『死』を貴様らに授けよう!」

 

 ですよねー!

 そう来ると思ったわ。

 悪魔の行いとしては至極真っ当である。

 

「なん…だと…は、話しがちがっ……」

 

 死の宣告を理解した教祖は悪魔を糾弾しようとしたが、言葉はそこで途切れた。

 目玉から照射された黄色い光を浴びて固まってしまったからだ。

 

 教祖だけではない、その場にいた邪教徒全員がピタリと動きを止めてしまった。

 ずっと同じポーズのままだ。

 突然始まった集団静止芸ではない。こいつは・・・

 

「石になってます!?」

「うん。あの悪魔、石化ビームを使うみたい。厄介…」

 

 あの人数を一度に石化するとは、さすが悪魔だと言ったところか。

 そして、石化ビームは安直すぎる技名だと思う。

 

 石像になってしまった邪教徒から何かが抜け出てきた。

 ゆらゆら漂う(ともしび)のようなそれは、悪魔の方へ引き寄せられ行く。

 集まった20を超える数の灯は悪魔の体へと吸い込まれいった。

 

「なんか吸収されましたよ?」

「魂を喰われた。アレじゃあもう助からない」

「えぇ…怖いです(´Д`)」

 

 邪教徒たちが死んだ!

 石化を治療したところで、死体が残るだけ。

 あの石像には最早魂が存在しないのだ。

 

 自業自得とはいえ、あまりにあっけない死だったな。

 悪人だったので微塵も心が痛まないけど。

 

「クズどもの魂では腹の足しにもならぬな」

 

 不満気な悪魔の呟き、やはり魂をモグモグしちゃったらしい。

 体のほとんどが目玉の癖に、お前の腹ってどこだよ?

 

「どうします?」

「逃げる」

 

 リースさんの判断は早かった。

 私もあんなのとは戦いたくない。

 

「賛成です。撤退しましょう」

「外に出て応援が来るのを待つ、私たちだけじゃ分が悪い」

 

 リースさんによると仲間がこちらに向かっているらしい。

 あの悪魔と戦うなら、戦力は多いに越したことはない。

 星杯騎士団の強い人が来てくれることを祈ろう。

 

 息を殺し物音を立てずゆっくり移動だ。

 このまま気付かれませんよに・・・

 

「どこへ行く、貴様らは我輩の供物であろう?」

「っ!?」

「避けて!」

 

 飛び退くリースさん。

 滑り込むようにヘッドスライディングを決める私。

 何とか回避に成功。

 

 振り返ると、私たちが直前までいた場所に棒状の何かが突き立っていた。

 回避が遅れていたら私は串刺しになっていただろう。

 捻じれた槍のような物体は、悪魔の体に生えていた棘だ。

 あの棘が高速で飛来して私たちを襲ったのだ。

 

「逃げ場などない。潔くその魂を捧げるがよい」

 

 ちくしょう、バレバレだったか。

 あの悪魔は最初から私たちのことを認識していた。

 逃げられると思わせておいて、その希望を断つとはやってくれる。

 性格悪い。汚い、さすが悪魔、やり口が汚い!

 

 仕方なく悪魔の前に姿を晒す。

 正面に立つと、巨大な目玉の迫力がすごい。

 ジロジロどころではない、体の内側まで見透かされるような、強烈な視線を感じる。

 

「フン、女神の走狗か…その魂、絶望に染めてから喰ろうてやるわ」

「食べるのは好きだけど、食べられるのは嫌」

 

 悪魔が喜色のこもった声を上げる。

 対するリースさんは、悪魔を前にしてもマイペースを崩さない。

 

「ほう、もうひとりは幼子か、これはいい!無垢な魂はさぞや美味であろう」

「無垢?」

「身も心もピュアピュアなイリスです」

「笑うところ?」

「私は大真面目ですよ」

 

 リースさん、どうしてそこで首を傾げるの?

 私はピュアハートの持ち主なので、純真無垢に決まっているでしょ。

 悪魔さん、あなた人を見る目がありますね。目玉だけに。

 

 この悪魔、話が通じる相手だ。

 上手くすれば戦わずに済むかもしれない。

 そう思った私は悪魔との交渉に臨む。

 

「私たちに戦闘の意思はありません。ここは穏便に、お帰り願えませんか?」

「否だ。この大地を恐怖と絶望に染め上げるまで我輩は止まらぬ」

「それって楽しいですか?」

「楽しいぞ。無力な人間どもが嘆き苦しむ姿は、何物にも代えがたい娯楽だ」

 

 最悪なことを言いながら悪魔が嗤う。

 人間を食べられる玩具ぐらいにしか思っていないのだろう。

 こいつとの戦闘は避けられそうにない。

 だったら・・・

 星杯騎士団の応援が来るまで少しでも時間を稼ぐ。

 このまま会話を引き伸ばすぞ。

 

「はい!質問です」

「なんだ突然?まあいい、冥土の土産というヤツだ。戯れに付き合ってやるわ」

 

 お、話しに乗って来たぞ。

 人間を見下しつつも、他者との会話に飢えていたのかもしれない。

 自尊心高そうだし、下手に出ればコントロールしやすそうである。

 

 悪魔とトークし始めた私をリースさんが心配そうに見ている。

 まあ、ここは任せてくださいよ。

 

「悪魔には厳格な階級制度があると耳にしました。あなたの順位は?」

「ほう、幼き身で『悪魔ランキング』の存在を知っておるか。その利発さに免じて、特別に教えてやろう」

 

 どこでどんな雑学が役に立つかわからないものだ。

 これだから乱読はやめられないってね。

 

 気を良くしたのか、悪魔は翼と腕を広げてポーズを決める。

 そのポーズさっきもやってなかった?

 

「聞いて驚くなかれ、いや、盛大に驚け!そして絶望するがいい」

 

 わかった。

 頑張って驚くから教えてよ。

 

「我輩のランクは935。935位のエリート悪魔様だ!ひれ伏すがよい」

 

 935ねえ・・・

 

「……なんか微妙」

「反応に困る順位ですよね」

 

 私たちのリアクションが薄いので、悪魔は焦ったように言葉を続ける。

 

「悪魔の軍勢は数十万を超えるのだ!その中で1000位を切っている、我輩は選ばれし強者なのだぞ!」

「でも、もっと強いのが934体もいるんですね…」

「やっぱり微妙」

「微妙って言うな!我輩の偉大さがわからんとは、これだから人間は度し難い」

 

 落ち着けよ。

 『微妙だなあ』と思っただけだぞ。

 

「私はイリス、こっちのシスターはリースさん。935位さんのお名前は何ですか?」

「その手には乗らんぞ。我輩の名を聞き出し縛り付ける腹づもりなのだろうが、そうはいかん」

「そんなつもりはありません。ただ単に、名前が無いと不便だと思って」

「下賤な人間に名乗る名などないわ!」

 

 そんなに教えたくないのか?

 はっはーん。さては、ちょっと恥ずかしい名前なんだな。

 

「ご安心を、私は例えあなたの名前が『目玉おやじ』でも、笑ったりしませ……(〃>З<)ブフッww」

「目玉おやじwww」

「言ったそばから笑っておるではないかぁ!!」

「『おい鬼太郎』って言ってみれくれます?ちょっと甲高い声でww」

「言うか!キタロウって誰だ!?」

 

 目玉おやじ(仮)が激怒した。

 鬼太郎を知らないので、おやじではなかったらしい。

 

「仕方ないですねぇ。私があなたの名前を考えてあげますよ」

 

 親に命名されなかった私は、名無しの不便さを良く理解している。

 この悪魔にも立派な名前を付けてあげよう。

 

「おいバカやめろ!お前みたいなアホにアホな命名されるとか、屈辱極まる行いだぞ」

「935位……935…」

「やめろと言っているだろ!殺すぞ?本気だぞ!」

 

 ひらめいた!

 

「935なので、935(クミコ)クミコにしましょう!

「クwミwコwww」

 

 うむ、我ながらいいセンスだ。

 おや?リースさんが腹を抱えて震えている。

 まーた、お腹が減ったのかな?

 

ふ、ふ、ふざけるぁぁ!!我輩がクミコであってたまるかぁぁ!!

「相当気に入ってくれたようですね( ̄▽ ̄)」

「違うよイリス、クミコは怒っている。クミコwあははははははwww」

 

 リースさん、笑いが止まらなくなるキノコでも食べたんですか?

 

「もういい、殺す。惨たらしく殺してやるぞ!」

「まあクミコ!名付け親に対して『殺す』だなんて物騒ですよ?」

「クミコw怒らないであげて。イリスはこれでも真面目に…( ̄m ̄〃)ぷぷっ!」

 

 クミコの目玉が血走り、衝撃波を伴う咆哮を上げた。

 もう、そんなに喜ばれると照れる~////

 

お前ら二人とも地獄行き決定だぁ!!!!

 

 因みに漢字で書くと『久美子』になりますw

 

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