前回までのあらすじ。
虹色少女イリス(主人公)は一つ目の悪魔(無駄にでかい)に遭遇した。
思いつきで悪魔に"クミコ"という素晴らしい名前をつけたイリス。
それにいたく感銘を受けたクミコは改心して光堕ちする。
クミコはこれまでの悪事を反省し、ボランティア活動に勤しむのであった。
つまり、イリスの活躍によって世界は救われたのでした。
めでたしめでたし。
「いや~、いい話でしたね」
「どこがだ!捏造だらけではないかぁ!!」
「私の存在ガン無視…」
なんだよぉ、ハッピーエンドの妄想ぐらい許してくれてもいいじゃないの。
ごめんなさい。
あらすじは私の希望マシマシでした。
現実はキレ散らかしたクミコが殺る気満々で戦闘不可避な状況だ。
そして、あらすじに登場しなかったリースさんも拗ねていらっしゃる。
二人とも機嫌直してくれないかな?
クミコって名前そんなにダメだった?
可愛いと思うんだけどなぁ。
「とにかく、貴様らは殺す。生きて帰れると思うな」
クミコが節くれだった両腕を振るう。
当たったら痛そうなので、当然回避だ。
一端下がってリースさんと合流、自前の剣を手にした彼女は既に戦闘態勢に入っていた。
「ネゴシエーション失敗しました。申し訳ないです」
「最初から最後までダメダメな交渉、止めなかった私がバカだった」
「辛辣ですが妥当な評価です」
ひどい!
これでも私頑張ったのに。
クミコって名前つけてあげたのに。
リースさんも笑っていた癖に。
そうこうしているうちに、クミコが体に生えた突起物をこちらに射出して来た。
捻じれた槍のようなそれは人間の体を貫くには十分な大きさと速度を持っている。
ちょっと数が多いぞ、避けきれないのはガードするしかないか。
「イリス、後ろに」
「かしこまり!」
リースさんが私を庇うように前に出た。
この美人シスターがそれなりの修羅場をくぐって来ていることはなんとなく察している。
ここはお手並み拝見させてもらおうかな。
リースさんの持つ剣、その刀身が割れた!?
等間隔に分裂した刃はワイヤーで繋がれており、鞭のようにしなり伸縮する。
変形機構を備えた法剣(テンプルソード)星杯騎士団員が好んで使う兵装だ。
使い手を実際に見るのは初めてなのでワクワクするね。
「これくれらいなら余裕」
「キャー、リースさんやるぅ!」
飛来してきた棘、クミコニードル(仮名)をリースさんが打ち払う。
剣としての剛性と鞭の柔軟性を合わせ持った刃は、棘の雨を次々と弾き飛ばす。
ニードルは私たちに当たることなく全弾撃墜された。
カッコイイなぁ!そしてリースさんの技量も大したものである。
「リースさん、今こそ卍解の時ですよ。狒狒王蛇尾丸でクミコをやっちゃってください!」
「ざび?何?…イリスがまた意味不明なことを言ってる」
ダメか?斬魄刀じゃないとやはりダメかぁ。
オサレな戦闘シーン見たかったなぁ。
「女神の狗風情が小癪な」
ニードルを防がれたクミコの目玉が怒りのせいなのか充血する。
一般人なら今ので終わりだったろうが、そうはいかない。
人間の力を甘く見るなっての。
ではでは、次は私のターンということで。
「リースさん、アーツで援護をお願いします」
「え、ちょ、ま、ああもう!なんて無鉄砲な子」
目標へ向け一直線に駆け出す。
手にしたアサルトライフルを撃ちながらクミコへの接近を試みる。
リースさんは面食らいながらもオーブメントを駆動させ、攻撃アーツでクミコを牽制する。
イイ感じに連携取れてますね。
実戦経験豊富な人はこういう時すごく頼りになる。
即興でも呼吸を合わせてくれるから、戦い安いんだよね。
走りながら目玉めがけて引き金を引く。
巨大でつぶらな瞳がなんだか射的の的みたいだ。
オラオラ、そのお目目をハチの巣にしてやんよ。
「フン!人間の豆鉄砲なぞ痛くも痒くもないわ!」
私の銃撃はしっかり命中しているが、クミコにダメージが入ってる様子がない。
奴の全身、そして一見柔らかそうなあの目玉も悪魔パワーの障壁で守られているのだろう。
やっぱり普通の攻撃は通らないか、めんどくさいなぁ。
でも、常時発動バリヤ持ちとの戦闘は経験済みなんだよね。
エンチャント発動!
ライフルの弾に虹霊子の力(ルミナスエナジー)を付与する。
銃の内部構造に結構な負荷がかかるけど、今は耐えてくれるのを祈るしかない。
「食らいやがりなさい!」
「無駄だといっているだろう」
虹色に煌めく弾丸が発射される。
私を侮っているクミコは避けようともしない。
狙いはバッチリ、弾丸は目玉の中心へと着弾した。
「きか…いだぁぁぁッッ!?!?」
効かぬ!とでも言おうとしたクミコはのけ反って悶絶した。
効いてる効いてる。
万能の力、虹霊子は悪魔の障壁も貫通することが証明されたね。
「リースさん!今です!」
「任された。焼き尽くせ!フレアスコール!」
悶絶中のクミコへとリースさんの発動させたアーツが追撃する。
揺らめく業火の雨が目玉へと降り注いだ。
火属性の攻撃アーツはわかりやすく派手でいいね。
アーツが不得手な私としては羨ましい限りだ。
「お、おのれぇ、妙な力を使いおって」
炎の雨をまともに食らいながらも、クミコは少し怯んだだけだった。
まだまだ全然ピンピンしていらっしゃる。
耐久性もそんじょそこらの魔獣とは桁違いってことね。厄介な・・・
銃弾を受け、体表を焼かれたクミコは憎々しい気な声で私たちを睨みつける。
今のコンボで多少なりともダメージ入ったのが気に喰わないらしい。
「どうです?人間の力も捨てたものではないでしょう?」
「笑わせるな。この程度、我輩には無傷に等しいわ」
「はて?『いだぁぁぁッッ!?』とか叫んでいたのは誰でしたっけ?」
「フンッ!貴様らがあまりに脆弱な故、花を持たせてやったまでよ」
「やせ我慢?」
「やかましいわっ!!」
リースさんの発言が図星だったのか、クミコが益々激昂した。
このままチクチク削って勝利と行きたいところだが・・・
「我輩を本気にさせたことを後悔するがいい!」
クミコの瞳が怪しく輝いた。
周囲一帯に淀んだ瘴気のような波紋が走り抜ける。
何らかの力を行使したようだ。
うーん、嫌な予感がする。
「ギ…ギ、ガガガッ…」
「ふぁっ!?」
「これは!?」
なんということでしょう。
この階層に設置されていた見事な彫刻の数々。
石で出来た不気味な悪魔像たちが一斉に動き出したではありませんか!
翼のある奴は羽ばたいて浮遊までしているんですけどぉ!?
「動く石像、ガーゴイルってやつですか」
「まだ終わりではないぞ。そぉらっ!」
再び輝く大目玉。
すると今度は石化ビームによりお亡くなりなった、邪教徒連中の成れの果てまで動き出す始末。
な、な、なんじゃあこりゃぁぁ!?
「アァ…ウゥゥ…」
「カネ…カネヲ…クレェェェェ」
石になり魂を失っても欲望の残りカスがまだあるらしい。
金だの女だのと呻きながら、こちらに向かって殺到して来る石ゾンビども。
何アレやだぁ、すごくキーモーイー!!
あれよあれよという間に囲まれてしまう、腹ペコシスターと虹色のおチビの私。
これってピンチなのでは?
ガーゴイルの軍勢を味方につけたクミコは笑い声を上げる。
「ふはははは!これぞ我輩の偉大なる権能だ」
「石像を操る程度の能力ですね」
「程度とか言うな」
「まさか…クミコの正体は…」
「知っているんですか、リースさん?」
クミコの能力を目にしたリースさんが思案顔になる。
何か思い当たる節があるなら教えてほしい。
「旧い経典に記されていた『あらゆる生命を石に変え、形ある石を意のままに操る』とても危険な奴が大昔に封印されたって…」
それって諸にクミコのことじゃないですか。
え?もしかし自称ではなくガチの高位悪魔なの?
「推定危険度AAAランクの悪魔"石皇"」
せきおう?それがクミコの本当の名前ですか?
「くだらん。人間風情が勝手つけた名称など、我輩は認めておらぬわ!」
「じゃあ、クミコでいいですね」
「そっちは論外だ!」
クミコは石化と石像操作能力を持つ悪魔さんだった。
恐らく、石工職人たちの町はクミコが過去に暴れ回った土地の上に出来たものなのだろう。
だとしたら、あの近辺で採掘される良質な石材って元々・・・
うん、考えるのはやめよう。
知らない方が幸せなことってあるよね。
そんなことより、私はいい事を思いついてしまった。
「クミコ!あなたの能力を見込んでお願いがあります」
「なんだ、今更命乞いをしても無駄だぞ」
ガーゴイルたちの動きを見るに、クミコが一々コマンド入力して動かしている訳ではないようだ。
操ると言っても、ある程度の自立行動を許可しているのだろう。
悪魔パワーで、物言わぬ石像に仮初の命を吹き込んでいると考えられる。
だったら、私の願いも実現できるはず。
私は自身の左肩に固定していた物体をクミコの前に掲げて見せる。
「是非!この『ふんばる人』の像に命を吹き込んでほしいのです」
「吹き込んでどうする!?」
え?だって気になるじゃないですか。
この『ふんばる人』が何をひり出そうとしているのか、気になりますよ。
で、出て来た物体が柔らかいのかカチコチなのか、それも多いに気になりますよ!
これは私だけでなく、この石像を心の支えにしている人たち全員が知るべき情報ですよ。
そういうことなので、このしかめっ面で力んでいる彼にどうか命の灯を・・・
「知るかぁボケェぇぇ!!」
「うわっと!」
不意に激怒したクミコが長くてぶっとい尻尾を横薙ぎにした。
クミコの尻尾攻撃は何体かのガーゴイルを粉砕して私に迫る。
咄嗟に避けたものの、私の手から『ふんばる人』の像が転げ落ちてしまう。
あ!っと思った時には手遅れだった。
尻尾の一撃をまともに受けた『ふんばる人』の像は、私の目の前で跡形もなく塵と化した。
「そんな!ふ、フンバルスキィィーーー!!」
私の悲痛な声が響き渡った。
今思い出した。彼につけていた『フンバルスキ―』という名を叫ぶ。
なんてことだ、私は彼を、短いながらも共に旅した仲間をマモレナカッタ・・・
「くっ!なんで…こんな…」
「イリス、元気出して」
膝をつき握り込んだ拳を震わせる私。
そんな私の背中を擦り、リースさんが慰めてくれる。
クミコは私の嘆きっぷりに愉悦を覚えたようだ。
「くはははは!その様子だと、相当大事なものだったようだな。愉快愉快!ざまぁみろというヤツだ!!お前の絶望と悲嘆の声が耳に心地よいわ!」
体を揺らしながら『ねえ、どんな気持ち?』と私を嘲笑うクミコ。
それに対する返答は決まっている。
「いえ、正直処分に困っていたので粉々になって清々しました」ケロッ
「だったらさっきのリアクションはなんなのだ貴様わぁ!!」
「そういう雰囲気かと思いまして」テヘペロ
「もう!我輩お前のこと本当に嫌い!!」
愉悦気分を台無しにされたクミコが怒り狂った。
なんか怒ってばっかだね。疲れない?
さよならフンバルスキ―、あなたのことは多分明日には忘れてる。
ごめんねエステル、せっかくのお土産が・・・
ブライト家全員から『いらん!』って言われそうなので、送らなくて正解だったと思う。
よし!万事結果オーライだ。
「もういい死ね!今すぐ死ね!お前の相手をしていると気が狂いそうだ!」
クミコがいよいよ本気モードなったようだ。
大目玉から溢れる殺気に私のスベスベもち肌がピリピリしちゃう。
ガーゴイルの軍勢も私たちを包囲してジリジリ詰め寄って来た。
こいつは覚悟を決めないといけないな。
「リースさん。おふざけはその辺にして、真面目に戦いますよ」
「いや、あの、ふざけていたのイリス…」
「フンバルスキーの弔い合戦です!!」
「えぇ…なんかイマイチやる気出ない」
きっとフンバルスキーも草葉の陰で見守ってくれている。
この戦い勝ちに行くぞ。