虹色イリス   作:青紫

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抗うべき運命(瓶詰)

「キミ、何者や?」

 

 後頭部にボウガンを突き付けられて尋問中のイリスです。

 

 何この状況、すごく落ち着かない。(*´Д`)

 初対面の子供に対する態度としては厳しすぎると思うの。

 

 冷たい声で威圧してくる男の名はケビンさん。 

 リースさんのすきぴらしいのだが、何故かすこぶる警戒されてしまっている。

 知らぬ間に、何か気に障ることでもしたかな?

 色か?この虹色ウザいですか?

 

「ケビンやめて!イリスはちょっとバカだけど、いい子なの。バカワイイ子なの」

 

 フフフ、何気に失礼ですね。リースさん。

 

「演技かもしれんやろ。バカな振りして油断させる算段ちゃうんか?」

「イリスは絶対に天然!真性のバカ!私が保証する」

 

 本当に失礼な人ですね!

 一緒に苦難を乗り越えた仲間を真正呼ばわりは酷くね?

 

「真性のバカが気分次第で極太ビーム発射する。それがどれだけ危険か想像してみいや」

「……イリスがバカなせいで世界がヤバい!?」

「せやろ?だからワイは見極めなあかんのや。この子がただのバカか、有害なバカかをな…」

「ごめんイリス、反論の余地がない」

 

 簡単に論破されないでくださいよ!

 お二人とも、ちょっとバカバカ言い過ぎではなかろうか?

 真性のバカを怒らせたら後が怖いですよ?

 ヽ(`Д´)ノプンプン

 

 リースさんが言いくるめられた。

 こうなれば自己弁護するしかないのだけど、聞いてくれるかな?

 

「ネギさん」

「…ケビンや」

 

 素で間違えた。やり直し。

 

「ケビンさん、私に七耀教会と敵対する意思は毛頭ありません」

「その言葉を信じろと?」

「信じてもらうしかないです。とりあえず、お互い顔を見て話しませんか?」

 

 相互理解のためには面と向かって話さないと。

 そう思って振り返ろうとしたのだけど、頭をボウガンで小突かれた。

 

「動くな。妙な動きをしたら撃つで」

「怖い人ですね……漏らしますよ?」

 

 うわーん、全然話聞いてくれないよ。

 漏らしたら責任とってくれるんでしょうね?

 

 このネギ野郎、彼女の前でイキりたいのはわかるが、子供相手に少々大人気ないのでは?

 私そんなに悪い事した?ちょっとビーム吐いたたけじゃん。

 

「悪く思わんといてな。こっちも仕事や」

「職務に忠実なのは良い事です。そのせいで私の頭に矢が刺さりそうですけど」

 

 落ち武者イリスになったら化けて出てやる。

 ゼムリアに落ち武者という概念があるのかは知らん。

 

「大人しく喋ってくれたら、そんな事にはならへんよ。協力、してくれへんかな?」

「お断りします」

「…なんやて?」

「『断る』と言ったのです。脅しをかけてくる相手に従う趣味はありません」

「い、イリス!?やっぱりバカな子」

 

 自分で強いと思っているやつにNOと言える女。

 それがこの私イリスです。

 咄嗟に強がってしまったが、これは中々に痛快である。

 

 なんて思っていたのは一瞬だけで、すぐに後悔が押し寄せて来た。

 私のバカ!なんで強がっちゃうかなぁ。

 その場のノリと勢いで行動すると、私みたいになるのでご注意ください。

 

「へぇ…大した度胸やな」

 

 イラッとしましたね?

 ボウガンの引き金に指をかけましたね?

 『殺すぞこのクソガキ』って思いましたね?

 

 ・・・漏らしていいですか?

 

「死ぬのが怖くないんか?」

「フフ、さあどうでしょうね?」

 

 意味あり気に微笑む強がりキャラを続行しちゃった。

 怖いに決まっとるわ!

 震えそうになる足を必死に押さえこんでいるんだぞ!

 うぅ、変な汗が出て背中がグッショリ濡れ濡れ。

 

「ケビン…やめて。イリスに酷い事したら、例えあなたでも許さない」

「さっきからえらい庇うなぁ、なんぞ弱みでも握られとるんか?」

「そんなことされてない。干し肉もらって、この後手料理をご馳走になる約束しただけ」

「餌付けされとるやないかい」

「勘違いしないで。食欲に流されたわけではなく、クミコという強敵を共に倒した私たちには熱い友情が芽生えたの」

「クミコってなんやねん!?」

 

 リースさんその調子で頑張って、私が人畜無害な存在だと、もっとアピールしちゃってよ。

 このピンチを乗り切ったら、お礼にたくさん料理を振舞っちゃおう。

 

「イリスはいい子、ご飯をくれるいい子、異論は認めない」

「よく知らん奴から食べ物もらったらアカンって、何度言えばわかるんや?で、クミコって何?」

「クミコはクミコであってクミコ以外の何物でもない」

「わけわからんわ!」

 

 背後で二人が言い争っている。

 お互い一歩も譲らず話は平行線だ。

 ケビンさん、私よりクミコの正体の方が気になってない?

 痴話喧嘩するなら私はもう解放してほしいのだけど?

 ・・・お腹空いたなあ。

 

 しばらく揉めていた二人だが、面倒な空気を悟ったケビンさんが先に折れた。

 

「わかった。リースがここまで言うなら、少なくとも悪い子ではないんやろ」

「うん、ずっとそう言ってる」

「せやけど、この子が規格外の力を持っとるのは星杯騎士団として看過できへん」

「イリスをどうする気?」

「とりあえず、身柄を拘束させてもらう。その後は……上の判断次第やな」

 

 え?私、捕まっちゃうの?

 嘘でしょ?いやいや、待って待って!

 それはかなり困るんですけど、勘弁してほしいんですけど。

 

 庭園では七耀教会とその戦闘部隊、星杯騎士団の悪辣さを耳にタコができる程聞かされて来た。

 座学を担当した講師曰く、奴らは血も涙もない冷血漢の集まりで人非人。

 神の名の下に、気に入らない相手をなぶり殺すなど日常茶飯事なのだと言う。

 女子供、老人や赤子でさえも一切合切容赦なく異端認定して笑いながら殺すのだ。

 と、熱くねちっこく語ってくれた。

 

 さすがにそれは偏見入り過ぎだと思ったよ。

 お前ら「庭園」の行いを棚上げして、何言ってんだかと心底呆れてしまった。

 子供を集めて人体実験したり、使い捨ての暗殺者として教育を強いている奴に言われてもねぇ・・・

 

 しかし、火のない所に煙は立たぬ。

 星杯騎士団が正義執行のためならば時に非情な行動をとることは真実らしい。

 中でも、古代遺物の回収と管理、悪魔とその崇拝者の排除にはなりふり構わないとドクターが言っていた。

 

『俺に言わせれば、庭園なんかよりよっぽど恐ろしい教信者集団だと思うね』

『封印指定って知ってるか?』

 

 ドクターとの雑談で興味深い話を聞いた。

 遺物の回収と並行して、騎士団は『異能者』の捜索も行っている。

 異能者とはアーツや法術の体系に当てはまらない希少な力を有する者たち。

 その異能者を教会が()()()()()()()ために『封印指定』というタグ付けをするのだと。

 

 封印指定されたらどうなるか・・・

 教会は騎士団を動かし対象の異能者を保護という名目で幽閉する。

 一般社会から隔離し、その名の通り封印するのだ。扱いは遺物とほぼ同じだ。

 これは、人間の形をした遺物を監禁し標本として飾っているのと変わらない。

 教会の総本山がある、アルテリア法国では世界中から封印指定を受けた異能者が幽閉されている。

 

『活動範囲が一つの街に限られる他は何不自由ない暮らしを約束されるという話だが』

『そんな都合いい話があるか?』

 

 その実態は、対象者の脳・神経・眼球・術式回路を取り出して、保存液が満たされた瓶に封入し、永久保存するというものである。

 瓶そのものが異能者の肉体の代替として機能し、生ける遺物として戦術利用することができる。

 

『実際に見た訳ではないし、俺も人づてに聞いただけだ。都市伝説の類だと思ってくれていい』

『ただ、七耀教会が特定の遺物や異能を独占し、情報開示を渋っているのは確かだ』

『何を信じるかはお前の自由だが、長生きしたかったら教会の暗部には近づくなよ』

 

 ドクターから聞いた話はトラウマものだった。

 

 私を怖がらせるために陰謀論を咄嗟に考えたのだと思いたい。

 思いたかったんだけど、話をしている時のドクターの目がマジだった気がする

 

 ・・・・・・

 

 それで私は思ったのよ。

 七耀教会、星杯騎士団には絶対に捕まってはならないと。

 自害した方がマシとさえ思ったね。

 クミコのふんばり石像刑と、どっちが地獄だろうか?

 

 しかも、しかもだよ。

 私がビーム吐いたのケビンさんにバレているし、リースさんは直接目撃してもいる。

 二人からは完全に異能者認定されてしまっている。

 虹の雫と融合して超常の力を得た。人の姿をした怪物、それが私だ!

 つまり、非常に最悪なことに。

 

 私の封印指定はどう考えても決定済み!?

 

 い、嫌だぁ!そんなの嫌だぁ!

 

 標本になるのも、便利な秘密道具扱いされるのも冗談じゃない!!

 

 ◆戦術礼装『イリスの瓶詰』

 戦闘中に使うとビームを発射して敵を攻撃する。

 しかも、なんかい使ってもなくならないぞ。

 店屋に売ろうとしても、これには値段はつけられないだろう。

 

 本当に冗談じゃねぇ!!!!

 

 くそっ!クソクソクソッ!

 七耀教会に関わる際はもっと慎重になるべきだった。

 虹霊子の力を見せた挙句ビーム吐いたのはやり過ぎだ。

 リースさんを救えたことに後悔はないけれど、それで私が酷い目にあうのは勘弁願いたい。

 

 私の中で教会への不信感と、瓶詰への恐怖が募っていく。

 そうこうしているうちに、ケビンさんとリースさんの話し合いは一応決着したようだ。

 なんか私を保護する方向に話が進んでいたみたいだけど、

 頼んでないんだよなあ。

 

「よっしゃ、ほな行こか。悪いようにはせえへんから…」

「嫌です」

「もう、意地悪するから拗ねちゃった。大丈夫だよイリス、安全な所に行くだけだから」

絶ッッッ対に嫌ですぅぅ!!

「この拒否反応?やっぱり何ぞ後ろ暗いことがあるんか?」

 

 後ろ暗いことをがあるのはそっちでしょ!

 もういい、こんなところにいられるか!

 私は逃げるぞ。

 

 未だに後頭部へとロックオンされいるボウガン、私はそっと自分から頭を押し付けにいく。

 

 プッピガン!

 

 よし、何とかなったな。

 

「今の音は?リースの腹の音か?」

「失礼な!私のお腹はあんな金属音出さない。ちゃんといつも『ズゴゴゴゴッ』って正常な音が出る」

「それは十分異常や…???何やコレ、どうなっとるや?」

「ケビン?イリスの頭で何遊んでるの?」

「遊んどるわけやない。外れん、この子の頭にボウガンがくっついて動かへん」

「はい?意味不明なんだけど」

「いや、マジやってん。これキミの仕業か?」

 

 気付いた時にはもう遅いっての!

 

 私のハードポイントは全身どこでも好みの場所に設置できる。

 吸着と取り外しは私次第、そして吸着物を操作することも可能だ。

 

 動揺したケビンさんはボウガンを握る手を緩めてしまう。

 その隙に私は振り向いた。

 ケビンさんと、リースさんが驚いた顔をしている。

 ボウガンを頭頂部に移動させてくるりと一回転。

 正面にいるケビンさんへと狙いをつけ、いつでも矢を放てる状態にした。

 

「形勢逆転ですね」

「なんじゃそりゃー!?!?」

「イリスの頭にボウガンが!?そんな使い方する人、初めて見た」

 

 混乱している二人に私はお別れを告げる。

 捕まるわけにはいかないのだ。

 

「さようなら、どうかお元気で。私のことは忘れてください」

「え?え?ちょっとイリス」

「ちょいちょいちょい、ワイのボウガン返して!どこ持っていく気や?」

「迷惑料として没収します。それ以上近づくと撃ちますよ」

「どうやって!?」

 

 おやおや、ただ頭に乗せているだけだと思ってる?

 甘く見るな、私が本気だということをわからせてあげよう。

 威嚇射撃も兼ねた試し撃ちをする。

 狙撃!発音は『ンソゲキッ!!!!』

 

 狙い通り、ケビンさんの足元に矢が突き立った。

 

「どわっ!?ホンマに撃って来よった」

「だからどうやって?」

 

 これも虹霊子のちょっとした応用だ。

 体にくっ付けた武器の引き金を引くぐらい造作もない。

 さあ今の内に逃げよう。超逃げよう。

 

「逃がさへんで!」

 

 ほう、矢に臆せず突っ込んで来ますか。

 そういうの嫌いじゃないが、今は鬱陶しい。

 

「連続発射」

「うわ、ちょ、こいつマジか!?」

 

 向かって来るケビンさんへ矢を連射する。

 リースさんに当てないようにしないと・・・

 

 このボウガン、さすが星杯騎士団が使う武装だ。

 矢の装填数も命中精度も市販品とは一線を画すレベル。

 それを焦りながらも、ことごとく回避するケビンさんもただ者ではない。

 

 あ、矢がなくなっちゃった。

 

「ビームだけやなかったんか、やっぱりこの子おかしいわ!」

「っ!」

 

 速い。やっぱりこの人を何とかしないと逃げるのは難しい。

 背中の重斬刀を構えようとして、背後に違和感!?

 

 ガキンッ!

 重斬刀の刃が背後からの襲撃者、その一撃を受け止めた。

 

「チィ!もう対応して来るんかいな」

 

 背後にいたのはケビンさん、コートの袖に隠し持っていた大型ナイフで奇襲をかけたらしい。

 正面にいたはずの彼が、またもや私の背後に回っている。

 危ないなぁ。一回見ていなかったら今のでやられていたぞ。

 

「幻属性のアーツと法術を組み合わせたってところですか?」

「はっ!そこまでわかるんか。キミ戦闘訓練受け取るな?それもかなりエグイやつ」

「ご想像にお任せします」

 

 自身の幻を創り出して注意を引き、本人は気配遮断と高速移動で敵の背後を取る。

 このテクニックは暗殺者が好んで使うヤツだよ。

 法術で限界まで気配を殺し、幻とは思えないほど精巧な身代わりを用意、高速移動を可能とする高い身体能力。

 ケビンさんの技量の高さが一連の動きに詰め込まれている。

 どれだけ修練を積み、どれだけ人を殺した?

 この人の方こそ、かなりエグイ経験をしているだろ。

 

「なら、こういうのはどうや!」

 

 いきなりケビンさんが五人に増えた。

 影分身?それとも質量を持った残像かぁ?化物め!

 

 それぞれが違う動きをしながら、私を囲い込むように襲って来た。

 いいさ、まとめて薙ぎ払う!

 五人の接近に合わせて、私は体を回転させる。

 重斬刀を握る手に力を込め、剣線は螺旋を描くように!

 

「なんやて!?」

 

 私の回転切りが、五人のうち三人を一度に切り捨てる。

 刃に虹霊子を付与していたので、想定以上の威力と効果範囲だ。 

 三人とも幻影だったようで淡い光となって消えていく、残り二体!

 どっちが本物?見分け方はもう考えてある。

 

 私は頭のボウガンを取り外し無造作に投げつけた。

 二体の内、一体が手を伸ばしてキャッチしようとするが、反応がやや遅れている。

 宙を舞うボウガンを見てほんの僅かに眉を動かしたのは・・・本物は、

 

「…こっち」

「ホンマに何なんやキミ!?」

 

 キャッチしに行かなかった方に重斬刀を叩き付ける。

 本物のケビンさんは両袖から刃物を取り出し、クロスさせた状態で防御している。

 さっきの大型ナイフといい、この刃の形状も暗殺者仕様。

 コートの下には他にも様々な武器や暗器が隠されているのだろう。

 

 重斬刀を打ち払ったケビンさんが仕切り直しのために後退。 

 させない、私は武器をアーマーシュナイダーに持ち替えて追撃をかけた。

 恐れるな!行け!飛び込め!やってしまえ!

 勝利を掴んで生き続けるんだ。

 私はいつだってそうやって来たのだから!

 

「あんま大人を舐めんなや!!」

「舐めていません、必死なだけです!!」

 

 互いの両腕の刃が何度もぶつかり合う。

 刃だけでなく、時に拳や蹴りの応酬も入り徐々にその激しさを増していく。

 いつもいつも思うけど、私の低身長と短い手足じゃ、大人の相手はかなり不利なんだよ!

 リーチが違い過ぎるから、自ずとこちらから限界まで近づく必要がある。

 飛んだり跳ねたり忙しいし疲れるけど、相手より速く多く動かないとやられちゃう。

 マジで手加減してほしい。年下には優しくしてよね。

 

 私とケビンさんは『うおおおお』とか言いながら剣戟アクションを繰り広げる。

 元々地力が違う。拮抗していたのは短時間で、今は私が押されている。

 このままではマズいな。

 

「二人とも、もうやめて!私のために争わないで」

「お前のためやない!引っ込んどれ!」

「そうです。危ないですから下がって」

「ごめんなさい。私がイイ女すぎて、二人が決闘までするなんて思わなかったの」

「「うわウザッ!!」」

 

 勘違いで自分に酔ったリースさんが激しくウザい。

 邪魔!あなたはその辺に落ちてるボウガン拾って向こうに行ってろ。

 一瞬気が緩んだ。

 そこを見逃さなかったケビンさんの蹴りが打ち込まれ、私は後方へと吹っ飛んだ。

 

 手で地面を削るようにしながら勢いを殺し立ち上がる。

 距離が空いた、今なら逃げ出せるか?

 いや無理だ。ケビンさんが地上へ上る道を油断なく塞いでいる。

 天井に空いた大穴も高過ぎて登れそうにない。

 やはり、この人を何とかしないと。

 

 体を動かしたおかげか少し冷静になって来た。

 ダメ元でもう一度交渉してみようかな。

 

「お疲れでしょう。リースさんを連れてお帰りになったらどうですか?」

「それはできへん相談やな。そっちこそ、かなり無理しとるのとちゃうんか?」

 

 無理はずっとしている。

 クミコ戦での大立ち回り、ブラスターを撃ったことでの激しい消耗、そして今の打ち合い。

 もう体力が底を突きそうだ。

 

「一応聞いてみるんやけど。キミ、誰かに無理やり戦わされたり、洗脳されとったりするか?」

「なんですか急に?」

「もしそうならワイらが力になる。キミがもう戦わずに平和に暮らせる環境を用意したるわ」

 

 なるほど、お優しいことで。

 でも、そういうのいらないよ。

 慈善事業がしたいのなら他を当たってほしい。

 誰かが助けてくれるのを待っていられるほど、気が長くはないのだ。

 弱いだけの無力な私はもういないのだから

 

「気遣い無用です。私は、自分の意思で戦っています、今までもこれからもそれは変わりません」

「そうか…そうなんやろうね」

 

 私がどう答えるかわかっていたみたい。

 本当に一応聞いただけだったらしい。

 

 さてどうしよう。状況は最悪と言っていいほど悪い。

 

「埒が明かんな…しゃーない。決着、つけようか?」

 

 ケビンさんの威圧感が増大した。

 これまでの比ではない、息苦しさすら感じるプレッシャー。

 何かする気だ。

 それも私が経験したことのない大技が・・・

 

「我が深淵にて煌めく蒼の刻印よ…」

 

 全身に悪寒が走った。

 ヤバすぎる、この感覚を私は知っている。

 マクバーン君が黒の大剣を抜き放った時や、カシウスおじさまに威圧された時と一緒だ。

 すなわち、圧倒的力が解き放たれる前兆。

 

「ケビン!ダメ!いくら何でもやり過ぎ、イリスが死んじゃう」

 

 安全地帯まで下がったリースさんが何か叫んでいる。

 え?私死ぬの?マジで?

 

 《聖痕(スティグマ)の反応を検知》

 

 その声は相棒?

 じゃなくてシステムさん!

 

 《ブラスター発射後の不具合により復旧が遅れました》

 

 そうだったのか。

 無事復活して良かったね。

 

 それで、スティグマとは何?アライグマより強い?

 

 《聖痕は元来、強化人間計画にて開発された永久機関でした》

 

 《しかし、致命的な欠陥が発見されたため計画は凍結》

 

 《負の遺産として残された聖痕は、宿主の生命力を消費しながら無尽蔵に増殖するウィルス感染に酷似した呪いへと変貌》

 

 《それを()()()()()()()浄化に成功し、プログラムを再構築し改変を加えたものが現行モデルの…》

 

 長いよ!

 なんか凄そうなのはわかったけど長い!

 とにかく、聖痕とかいうヤバい力をケビンさんが使おうとしているのね。

 

 対抗策は?

 私の防護障壁で耐えられる?

 

 《無理です。聖痕の力を使った攻撃にあなたは耐えられません》

 

 じゃあどうするの?

 このまま黙って見ているしかないのか?

 

 《ルミナスブラスターを発射して攻撃の相殺を狙うしかありません》

 

 そんなことが可能なの?

 というより、今の私にもう一度ブラスターを撃てるほどの力は残ってない。

 

 《常時発動型の障壁を全カット、必要最低限の力のみを残して後はブラスターに注力すれば》

 

 ありったけの力をかき集めろってことね。

 一時的に無防備になってしまうけれど、やるしかない。

 どうせ散るなら一発でかいの撃ってから散ってやるわ!

 

 私は全身の力を口内へと集中させる。

 ビームの吐き方って誰も教えてくれないから自己流だけどいいよね。

 本能に身を任せれば大抵のことはできる。

 面倒な調整は今もサポートしてくれているであろう、システムさんと相棒にお任せだ。

 

「イリスまでやる気になってる!?もうどうしたらいいの」

 

 はいはい、リースさんは巻き込まれないうちに逃げてくださいね~。

 

「天に昇りて煉獄を照らす光の柱と化せ…」

 

 ケビンさんの背中に青白い光の紋様が浮かび上がる。

 アレが聖痕?確かに凄い力を感じる。

 だけど、私だって負けない!

 

 私の全身から虹色の粒子が零れ出した。

 髪も目も私の集中に呼応してギラギラ輝いていることだろう。

 足腰に力を入れてブラスターの発射態勢を整えていく。

 この一撃で私の運命が決まる!

 

 『いくで!』

 『撃ちます!』

 

 ケビンさんと目が合う。

 私たちはお互いの切り札を解き放つ、はずであった。

 

「双方ともそこまで!」

 

 鋭い第三者の声、それと同時に体の各所に異変が起こる。

 

「なんですこの四角いの?」

(はこ)やと!?まさか」

 

 いつの間にか、腕と脚が青い光で形成された正方形の物体に包まれていた。

 何コレ?本当に何だコレ?初めて見る怪奇現象だ。

 その匣?は虹霊子の流れを断ち切りブラスターの発射を強制終了させた。

 見れば、ケビンさんにも同様の異変が起こっており聖痕も既に消えてしまっている。

 

「いや~ギリギリ間に合いましたね」

「ライサンダー卿、何でアンタがここに」

 

 眼鏡をかけ柔和な笑みを浮かべた男性がつかつかと歩み寄って来た。

 知らない男だ。この匣は奴の仕業か?

 

 《注意してください。彼も聖痕保持者(スティグマホルダー)です》

 

 聖痕持ち、ということはケビンさんと同等かそれ以上の力を持っている?

 見た感じ彼も星杯騎士団っぽいので、私の敵が増えたことになる。

 私とケビンさんの切り札を一瞬で止めた手並みといい、相当厄介な相手だぞ。

 今度こそ万事休すか・・・

 

「グラハム卿…部下が心配なのはわかりますが、緊急指令の無視は感心できませんよ」

「え?そんなはずは」

「まあ無理もありません。あなたがメルカバを飛び出す直前に発令されたみたいですし」

「……なんか、すんまへん。いやホント、反省してます」

 

 ケビンさんがペコペコ謝っている。

 この人、もしかして偉い人なのかな?

 

「副長、申し訳ありません。ケビンがまた粗相をしたみたいで」

「おいコラ、誰のせいやと思っとる!」

「まあまあ、リース君も無事で何よりです」

 

 リースさんにも気さくに声をかけている。

 悪い人ではない?

 いや、眼鏡の胡散臭い男は警戒しろってエステルが言ってた。

 ヨシュアさんもウンウン頷いていたので、ゼムリアでは『メガネは怪しい』は常識なはず。

 

 改めて見るとこのメガネ、すごく怪しいな。

 普段は糸目キャラで学校の先生とかやっていそうだ。

 

「それで、緊急指令って何やったんです?」

「ある人物を迎えに行くように言われたのです。近くにいた私とグラハム卿が抜擢されたのですが…まさか戦闘状態になっているとは、本当に間に合って良かったです」

「え?それって…」

 

 メガネ男が私の方を見た。

 ケビンさんとリースさんも何かを察して『あちゃー』みたいな顔をしている。

 

 ていうかさぁ。いつまで私このままなの?

 匣が体に現れてからずっと動けないんだよね。

 ケビンさんの匣はすぐ解除されたのに、私だけ拘束放置プレイとはやってくれるな。

 

「ああ、すみません。すぐに解除します」

 

 恨めしそうに見ていると、メガネ男が指を鳴らした。

 身動きを封じていた匣は消え、私は動けるようになる。

 

 手足を軽く振ってみるが特に異常はない。

 だけど、もう力を使い切ってしまったらしく、ブラスターどころか虹霊子の発現も不可能。

 なにより疲れ切っていて、もう戦えそうにない。

 お腹空いた、休みたい、風呂入って寝たい。

 

 メガネ男が私の傍まで来た。

 ケビンさんとリースさんも、その後に続いている。

 

 もう抵抗する気力もないので、私はその場に座り込んだ。

 封印指定?瓶詰?もう好きにしろよ。

 私は疲れているんだ。もう知らん、どうにでもなれ!

 

「なるほど『見ればわかる』とはこういう理由でしたか、ここまで小さな子だとは思いませんでしたが…」

「ライサンダー卿ご注意を、その子めっちゃ凶暴ですよ」

「イリスはいい子だよ。ケビンが脅かすから…」

 

 メガネ男は座り込んだ私と目線を合わせるように屈んだ。

 目が合う。ぱっと見は優しそうに見えるけど・・・

 

「初めまして、私は星杯騎士団所属、守護騎士(ドミニオン)"第二位"トマス・ライサンダー。皆からは『副長』などと呼ばれますが、気軽にトマスと呼んでください」

「あ、はい、どうも」

 

 丁寧な自己紹介をされてしまった。

 普段なら私も名前を告げるところだが、不穏な単語が聞こえて思考が飛んでしまった。

 守護騎士、第二位、副長・・・だってさwww

 私、庭園で『守護騎士に会ったら終わり』って聞かされてるんだけど?

 しかも第二位?副長?組織内の№2ってことだよね。

 ケビンさんも守護騎士ってことでOK?

 

 ああそっか、守護騎士って聖痕持ちが集まってるんだね。

 ふわぁーはっはっはっ、勝てるわけが無い!

 もう確実に死んだわ。いや、瓶詰だわ。

 せめてイケメンに、私を加工した礼装はイケメンに使ってほしいなあ。

 

「怖がらなくて大丈夫ですよ。グラハム卿はリース君に説教してもらいますから」

「なんでや?」

「うるさい、ケビン。イリスを虐めた罪は重い」

「ワイも結構やられたんやけどなあ」

 

 メガネ男、トマスさんが私の手を取る。

 あたたかな光が伝わり私の傷が回復していく。

 あ、これ治療の法術だ。

 治してくれたってことは、すぐに瓶詰にはしないのかな?

 

「あなたが『虹の御使い』ですね。お会い出来て光栄です」 

「いや私はそういうのじゃ…」

「七耀教会のトップ、法王猊下がお待ちしています。一緒に来ていただけますね?」

「……へ?」

 

 ふええ(´Д`)・・・法王様直々に瓶詰ですか?

 

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