法王様との謁見は無事に終わり、私の自由は保障された。
はずだったのだが・・・
突如として現れた【終わりの聖女】により難癖をつけられてしまう。
この厄介な女を納得させるため、私は彼女の課す試練を乗り越えなければならなくなった。
非常に面倒臭いが自由を勝ち取るたにはやるしかない。
頑張れ私!
・・・・・・・・・・
本格的な活動はまた明日からということで、今日は解散となった。
法王様との謁見中は気にならなかったが、今になってドッと疲れが押し寄せて来ている。
前触れなく決まった法王様との面会。そして空気の読めない聖女様の乱入。
クミコ及びケビンさんとの戦いで体力を削り、法王様たちとのお話で気力を削った。
今夜はあったか~いお布団でぐっすり眠りたい。
星杯騎士団に所属している者はその仕事がら、一般には公開できない極秘任務に就くこともある。
普段は身分を偽り、表向きはただの神父やシスターとして振舞っているのだ。
ただ、わかる人にはわかるようで、ケビンさんを見て礼の姿勢をとったり緊張した態度を見せる者もチラホラいる。
「つまり巡回神父=星杯騎士団ということですか?」
「全員がそうやないよ。三分の一ってとこやね」
世界各地の教会を行ったり来たりする『巡回神父』という、やたら出張の多い役職は騎士団員のいい隠れ蓑になっているらしい。
ケビンさんやリースさんも、そうやって各地に派遣されて潜入捜査などもやって来たんだって。
本当は内緒だが、私には今更隠しても意味なしということで教えてくれた。
大変な仕事なのだろうけど、極秘任務とか潜入とか聞くとスパイみたいでカッコイイと思ってしまうよね。
大聖堂を出た私はケビンさんと並んで夕暮れの街を歩く。
本日から寝泊りする場所まで案内してくれるそうだ。
断る理由もないので、素直にお言葉に甘えます。
アルテリア法国の首都は美しい街並みだった。
古き良き建造物と、最先端の導力技術が見事に融合している。
外側は歴史のある石造りの建物でも、その内部はしっかりと現代風に機械化されているのだ。
電車やバスもちゃんと走っているし、飲み屋や少々大人な雰囲気のお店もちゃんと営業している。
法王様のお膝元であっても、ガチガチの清貧さを強制されることはないんだな。
想像していたよりずっと住みやすそうな街だと思う。
「全国民が狂ったように祈りを捧げて、寿命を終えるという話しはデマでしたか…」
「どんな国やねん」
このデマも庭園の大人たちがよく言っていたモノの一つだ。
あの連中にとって七耀教会と、その総本山がある国など反理想郷でしかなかったのだろう。
「トマスさん、大丈夫ですかね?」
「あの人ならまあ、うまくやると思うわ」
今頃、聖女様とトマスさんは私にどのような試練を与えるか吟味している最中だろう。
聖女様がクリア不可能な無理難題を言い出さないよう、トマスさんがストッパー役を買って出てくれたのだ。
面倒を押し付けてごめんなさいね。
「リースさんは?」
「『歓迎会の準備する』言うて走り去って行きおった。どこぞで食料品でも買い込んどるんやろ」
その買い込んだ食料、大半はリースさんの胃袋に消える思う。
私を歓迎してくれる気持ちは素直に嬉しいんだけどね。
武器屋、雑貨屋、オーブメント工房は必ずチェックするとして、市場や食料品店も見ておきたいな。
遊撃士協会にも顔を出して、お洒落な喫茶店や名物料理を出してくれるお店も・・・
「そういうのは追々な。ほら、着いたで」
街の主要施設を教えてもらいながら歩いていると、目的地まですんなり到着した。
ケビンさんの指差す先には、白塗りの壁にオレンジ色の瓦屋根が特徴的な一軒家があった。
こじんまりとしているが、なかなか素敵なお家だ。
「ここは?」
「ワイの家や。遠慮せず上がってな」
「ケビンさんのお家!?」
星杯騎士団の宿舎とかに部屋を用意してくれたのかと思ったら、お家にご招待された。
ほほう、つまりそういうことか?
「今日会ったばかりの女を家に連れ込むなんて…大胆ですね///」ポッ
「妙な勘違いやめーや」
「リースさんには秘密ですよ///」
「はいはい。ちょっと落ち着こうな」
む、軽くあしらわれてしまった。
リースさんがいるので私は眼中にないってか?
「【虹の御使い】を守護騎士が見張っとるいう建前が必要やってね。ワイがその役目を仰せつかったわけや」
なるほど、聖女様みたいな私に不信感を抱いている人向けの配慮か。
法王様たちは味方になってくれたけど、反イリス団体は少なくない数がいるらしい。
ケビンさんが私と暮らすことで『ちゃんと監視してますよ』という対外的なアピールになるわけだ。
「窮屈かもしれへんけど堪忍してや」
「問題ないです。むしろ、ケビンさんと同居できて嬉しいです」
「はは、そう言ってもらえて良かったわ」
男の人と同居なんてワクワクする。
ひとつ屋根の下に男と女、これは過ちが起きても仕方ない!
「まーた変なこと考えとるな」
「お気になさらず。ところで、ここは持ち家ですか?」
「いや、賃貸や。家賃めっちゃ安いんやでw」
家の外観は綺麗で、内部の部屋数も多い。
築年数はそれなりに経っているようだが、立地も商業施設や駅が近くて利便性が高い。
不動産に詳しいわけじゃないけど、この条件で格安ってのは掘り出し物だな。
家賃が安いというのは、守護騎士のケビンさんが高給取りだから、そう思うのでは?
「ここな幽霊が出るって有名やってん。前の前の、そのまた前の持ち主が事業に失敗して一家心中したとか言う噂が…」
事故物件だったぁー!?
そりゃあ家賃も安いわ!!
なんで宗教国家の首都が事故物件放置してるんだよ。職務怠慢だろ!
「嫌です怖いです呪怨です!ケビンさん今すぐにここを出ましょう!呪われてしまいます!」
「ビビりすぎやろww悪魔殺しとは思えん反応やなw」
なにわろとんねん!
こんなホーンデッドハウスに居られるか!
私は逃げるぞ。ネギは一人で呪われてろ。
「待って待って!一家心中ちゅうのは根も葉もない噂で、本当は夜逃げしただけやってん」
「なーんだ。脅かさないでくださいよ」
逃げ出そうとした私の首根っこを掴んでケビンさんが噂の真相を話してくれた。
事業に失敗した住人は借金取りから逃げるため夜逃げを敢行。
その際、一家心中を偽装したそうで、そういう噂が街中に広まってしまった。
物件を管理している業者はリフォームを行い、しばらくして次の住人が決まったのだが・・・
新たな住人は噂を信じているご近所からヒソヒソされ、些細な失敗やケガを『もしかして呪いのせい』と思い込むようになったのだという。
そうしてノイローゼになり出て行くケースが二回続いたところで、この物件にケビンさんが目をつけたらしい。
業者としても、七耀教会の神父が住んでくれるなら事故物件の噂も解消され願ったり叶ったり。
ということで、賃料格安で契約することになったというのが事の次第だ。
「念のため入居するときに軽く除霊したんやけど。浮遊霊ぐらいしかおらんかったなあ」
浮遊霊はいたのか・・・
簡単に言ったけど除霊とかできるの凄くね?
真っ当な神父としての能力もあるなんて、さすが守護騎士だ。
「そういう事やから心配せんでええよ。万が一幽霊が出て来てもワイがパパッと片付けたるからな」
「頼もしい限りです」
この世界はゴースト系の魔物もいるので、幽霊やお化けに全く動じない人も結構いる。
私はやっぱりちょっと怖い。
あいつら物理攻撃が利きにくいし、急に出て来てビックリするから嫌いだ。
適当な場所に荷物を置かせてもらい、家の中を探検した。
二階建てで、一階にリビングとダイニングとキッチン、バストイレ別完備。
独身男性の家にしては片付いている方だと思うけど少々埃っぽい。
「帰って来たの一ヵ月ぶりやからな。なんか飲む?子供やからビールはアカンよな…お、牛乳があったで」
「それ絶対賞味期限切れでしょ?お水でいいですから」
コートを脱いだケビンさんが冷蔵庫を漁っている。
傷んだ牛乳はお腹を壊すので捨ててくれ。
水道水でよかったのに、瓶入りのミネラルウォーターを出してグラスに注いでくれた。
ありがたくゴクゴク頂こう・・・ぷはぁーっ!生き返ったぜ。
水を飲んで一息つく。
リビングのソファはふかふかで座り心地がいい。
ケビンさんはテーブルに置いてある導力ラジオのスイッチを入れた。
ラジオからは天気予報や今日のニュース等が聞こえて来る。
『本日、○○州の山間部にて光の柱が出現したとう目撃情報が…』
『専門家によると、地下洞に溜まっていた可燃性ガスに何らかの要因で引火したと…』
『爆発で撒き上がった大量の粉塵が柱のように見えたと考えられて』
『なお、周辺では未調査の遺跡群も発見されており、古代遺物の力によるものではとの憶測も』
ふーん、どこかで爆発があったみたいだ。
「まさか、小さな女の子がビーム吐いたとは、誰も思わんやろねwww」
あ、これ私が原因だったのか。
ガス爆発というのは、七耀教会が流布したカバーストーリーみたい。
今日起こった事なのにもう偽装工作が完了している。
教会は今までもこんな感じで、古代遺物絡みの事件事故を隠蔽して来たんだろうね。
「部屋余っとるから、どこでも好きに使ってくれてええよ」
「個室は必要ありません。寝転べるだけのスペースがあれば十分です」
「欲がないんやね。でもそういう訳にはアカン、キミを丁重に扱うのもワイの仕事の内や」
「では、キッチンの使用許可と炊事掃除洗濯をやらせてください」
「そんな家政婦みたいな真似させられるかいな」
「家事をやるのが好きなんですよ!私のささやかな趣味なんですから、少しぐらいやらせてください」
「まあ、そこまで言うなら手伝ってもらおうか」
やった!今後の楽しみが増えた。
どこから始めようかな。
まずは家中をピカピカにして、これだけ広いキッチンなら大皿料理もいっぱい作れるし、ドラム式の導力洗濯機を使うのも楽しみだ。
この家でする家事について思いを巡らせていると、ケビンさんが私の正面に立って困ったような顔をし出した。
何?庭の草むしりもしろって?望むところだぁ!!
「えーっと…なんや、その、悪かったな」
「ん?何がですか?」
頭を掻きながら何かを謝って来るケビンさん。
いきなり家に連れ込んだ件なら気にしてないよ?
「そっちの言い分も聞かず、矢ぁ突き付けてしもうた事や。ワイの態度めっちゃ悪かったよな。すまんかった」
その事ならメルカバに乗っている時に、散々謝ってもらった気がするけど。
ケビンさんの中ではまだ謝罪が足らなかったらしい。
「もう気にしてませんよ。私が怪しい奴だったのは事実なので仕方ないです」
「そっちが良くてもワイの気が収まらん!あの時のワイは冷静やなかった。あいつが、リースが危ない目にあっとると思ったら無我夢中で…」
落ち着いているように見えたが、あの時のケビンさんは相当テンパっていたらしい。
大事な人の無事を確認したら、その横に得体の知れない虹色のガキ。
しかもそいつは、石皇(クミコ)という強力な悪魔をビームで撃破したっぽい。
『こいつめっちゃヤバい!』『リースは殺させへんで!』
という思考で一杯一杯になってしまったわけだ。
ケビンさんの立場に立つと、私の存在って怪しすぎ、そして怖すぎである。
「リースに何かあったら、姉さんに申し訳が立たん。あいつを失ってしもうたらワイは…」
「はは、言い訳やな。そんな事情キミには関係ないちゅーのに、聖痕の力まで使って…ホンマどうかしとったわ」
「こんな自己中男が守護騎士やっとるなんて笑い話にもならへんw」
リースさん本当に大事にされているんですね。
その『姉さん』という方も、恐らく立派な人だったんだろう。
自嘲気味に笑うケビンさん。
ああ、何か解った。きっとこの人、自分のことがあまり好きではないのだ。
『自分なんか死んでしまえばいい』と思った事があるのだ。
そんな顔していたらリースさんに怒られますよ?
「本当に申し訳なかった。全部ワイが悪かったんや。気のすむまで殴ってくれてかまへん」
「どうか許してくれ。この通りや」
精一杯頭をさげるケビンさん。
やれやれ、こんな子供に相手に何やってるんだか。
根がクソ真面目なんでしょうね。
「はい!謝罪は受け取りましたのでもう結構です」
「許してくれるんか?」
「許すも何も、あの時テンパってたのは私もですし、結構抵抗しましたし…と、とにかく!こういうのはもうやめましょう!」
気恥ずかしいというか、やりづらい。
いつまでもペコペコされるのは困る。
「シャキッとしてください。こんなところリースさんに見つかったら、私がイジメているみたいじゃないですかぁ」
「あー、あいつなら、そういう誤解するやろなぁw」
ようやくちょっと笑ってくれた。
そうそう、細かい事は気にせず笑って生きていきましょう。
その方が絶対にいいです。
「もう今日の件で謝るの禁止ですからね?」
「わかったわ。もう蒸し返したりせえへん」
「では一件落着ということで、はい」
私はケビンさん前で両手を広げる。さあ来いの構えだ。
「ん?何や?そのポーズ何?」
「気が利きませんねえ。仲直りのハグですよ」
「えぇ、そういうもんなん?」
「そういうものです。あ、そのまま抱っこしてくれると更に良しです」
「まあ、ええけどな」
これから同居するのだから、スキンシップぐらい気軽にやってもらわないと困る。
安心してください、私がアガットさんレベルの紳士に教育してあげますからね。
「うぉ軽っ!?小さい思っとたけど、軽すぎやろ?」
「紳士たるもの女性の体重を気にしてはいけません」
「キミ何歳や?日曜学校行っとる子よりも小さいやん」
「女性に年齢を聞くのもアウトです!」
デリカシーのないケビンさんの頬をペチペチする。
私そんなに小さいか?
食事量もっと増やさないとダメかな。
むふー、目線が普段より高くなって楽しい。
持論だが、やはり抱っこやおんぶしてもらうのは男性に限る。
力強くて安心するというか、私って男の人の匂い好きなんだよね。
ただしイケメンに限る!
こうして近くで見るとケビンさんも、なかなかイイ男。
リースさんもいないことだし、チューしてやろうかしら?
いや焦るな、まだ慌てるような時間じゃない。
もっと仲を深めてからでも遅くないはずだ。
ケビンさん、私を抱っこしながら部屋の中をぐるぐる移動。
時々ちょっと揺らしたりするのもいい感じです。
「イリスちゃんって、呼んでええか?」
「はいです。好きに呼んでください」
「え?じゃあ、ちんちくりんって…」
「『イリスちゃん』でお願いします!!」
「わかったwよろしくな、イリスちゃん」
ちんちくりんは酷くね?
どうやらケビンさんに揶揄われてしまったようだ。
悔しいので頬ずりしてやろう。うりゃうりゃ。
「イリスちゃん、随分戦い慣れしとるようやけど、師匠は誰なんや?」
「師匠ですか…」
うーん、私はいろんな人から戦い方を教わってるので、師匠や先生と呼べる人はたくさんいる。
一人に限定するのは難しいよ。
「そうか。じゃあ、質問変えるわ。その中で一番強い人って誰やと思う?」
一番、一番か。
皆それぞれ得意分野が違って強いけど。
私が今まで出会った中で最強といったら、あの人しかいない。
あ、マクバーン君からは火傷の痛みしか教えてもらえてないので除外します。
「カシウスおじさま!カシウスおじさまが最強なんですよ!」
リベール王国軍の重鎮であり、元S級遊撃士のカシウスおじさまが№1だ。
おじさまがどんなに凄い人か語ろうとしたところで異変に気付く。
ケビンさんが口をあんぐり開けたまま固まっていた。
この反応はなんだろう?口から魂が出ている幻覚が見えそうだ。
「おじさま……その、おじさまってリベールの」
「はい。カシウス・ブライトです」
ケビンさん?どうしたのだろうか?
急に汗をかき出して、私がくっついているから暑いのかな?
「…まだや、同姓同名ってこともある。諦めたらそこで試合終了や…」
なんかブツブツ言い出した。
わかったぞ。カシウスおじさまのご高名は星杯騎士団にも轟いているのだ。
私がその名前を出したのでビックリしたのだろう。
フフフ、私が一緒に暮らしていたと知ったらもっと驚くだろうな。
「あの、カシウスおじさまって、娘さんおるか?棍棒振り回す元気いっぱいの…おらへんよな?」
「エステルです。アレ?もしかしてお知り合いですか?」
「……」
ケビンさん沈黙。
汗の量が増えて、なんだか顔色も悪くなって来た。
「その娘さん、彼氏か旦那おったりする?かっこええ黒髪の双剣使い…」
「ヨシュアさん」
「スミレ色の髪した小悪魔系女子なんておらへんよな!頼む!そんなファミリーおらんって言ってくれぇぇ!!」
「レンねえさま!なんだ、やっぱり知り合いなんじゃないですか」
ケビンさん、エステルたちの知り合いだったみたいだ。
いやはや世間は狭いというか、エステルたちの顔が広いというか。
私は嬉々として、ブライト家で暮らしていた話をした。
彼らがみんないい人で、とても良くしてもらった事を自慢しながら話す。
思い出したら会いたくなって来ちゃったな。
だけどここはグッと我慢だ。
次に直接会う時は立派に成長した自分を見せるって決めてるんだから。
それにしてもケビンさんの顔色が悪い。
私の話を聞いて更に悪くなった。
大丈夫かコレ?
「ケビンさん、顔色が真っ青通り越してアバターみたいになってますよ?」
「平気や、ネギはな、育つと青くなるもんなんやで…」
何言ってんだこの人www
『アバターって何や!?』ってツッコミを期待したのに。
身も心もネギ星人になってしまったのだろうか?
「そうか、そうか、キミ…ブライトさん
末っ子と呼ばれるのは正直畏れ多い。
でも、あの人たちは私に対し本当の娘のように、妹のように接してくれた。
とても可愛がってもらった。
あの家での幸せな思い出は私の生きる原動力でもある。
ケビンさんは、私をそっと床におろした。
そして何を思ったか、信じらない行動に出る。
「この度は、大変申し訳ございませんでしたぁぁーーー!!」
「ええええええぇ!?」
【土下座】
東方文化に伝わる謝罪の究極奥義。
地に伏せ地面に頭を擦り付けることで、全力の反省を表し許しを請うポーズ。
これをやられると相手は余程の事がない限り、謝罪を受け入れ許さなくてはならない。
他にも上位技として【焼き土下座】なる奥義や、派生系の土下座が存在する。
その土下座をケビンさんが披露しているのだ!?
ちょちょちょ、もう謝らなくていいって言ったのに突然どうした?
やめてやめて!もうなんか普通に怖いって!
私が一体何をした?
「顔上げてください!おかしいですよケビンさん!正気に戻って!」
「くっ!ダメか、やっぱりジャンピング土下座にすべきやったか?しもうたわ」
違う、そうじゃない。
バリエーションの問題じゃねーんだよ。
土下座をやめろって言ってんの!
オラッ!立て!立つんだネギ!
お前それでも守護騎士か?
私みたいなガキに土下座なんてしてんじゃねー!!
ひれ伏したままのケビンさんを何とか立たせようと右往左往しているところで、玄関のドアが勢いよく開かれる。
誰か来た?
「ただいまー。ふぅ、今日はお肉が安かったらたくさん買って……」
両手の手提げ袋と背中のバックパックに大量の食品を詰め込んだ、リースさんがこちらを見て固まる。
虹色少女に土下座するネギ・・・どういうことなの?
「ケビンがイリスに『わからせ』されてる!?」
「違うんです!このネギがいきなり乱心して」
わからせもクソもねぇよ。
こっちは何がなんだかわかんねぇんだよ!
「おうリース、帰ったんか。さっそくやけどワイ、死んだかもしれん」
「……イリス恐ろしい子」
ダメだこいつら、早くなんとかしないと。(´Д`)
●
ケビンさんの土下座をやめさせ、リースさんの誤解を解く頃には日が暮れていた。
無駄に疲れたので、今日はもう料理をする気力が残っていない。
なので、リースさんが買って来た肉や野菜を適当に切って焼くだけにした。
今夜は私の歓迎会も兼ねた焼肉パーティーである。
「あっぶな!マジで危なかったわ。もう少しでエステルちゃんに殺されるとこやった」
肉を裏返しながら、ケビンさんがずっと『ヤバい』だの『危なかった』だの言っている。
ブライト家と縁のある私に無礼を働いたことで、彼らからの報復があると思い込んでいたらしい。
いくらなんでもエステルはそんなことしないよ。
「いや、あの娘はやる。身内に手ぇ出されたと知ったら、ここに乗り込んで来るぐらいやる。アレはそういう女や」
「うん。エステル、ヨシュアを取り戻すため結社の巨大戦艦に乗り込んだって言ってた」
「うげっ…その話マジですか」
ヤダ!私の恩人超怖い!
なんで結社にケンカ売ってるの?行動力が天元突破してるだろ?
ああでも、それだけヨシュアさんが大事ってことね。ヒューヒュー!
私の知らないエステルたちの一面を聞きつつ、焼肉を口にする。
うー美味しい。
疲れた体に肉の旨味が染み渡るぜ。
ちょっとリースさん、肉ばかり食べてないで野菜もバランスよく食べなさいってば。
ケビンさんとリースさんも、エステルたち一行と冒険を繰り広げた仲だった。
いいなぁ。私もご一緒したかったよ。
「どの辺りを旅したんですか?帝国?それとも共和国?」
「えーっとな…何と言ったらええか」
「影の国」
「そんな国ありましたっけ?」
「だいたいケビンのせい」
「ぐっ!その通りやから何も言えへん…」
よくわからないけど、いろいろあったようだ。
焼肉を食べ終え、食後のお茶を飲みながらまったり。
共通の知り合いがいたことが判明したので話題は尽きなかった。
もうちょっとお喋りしていたいが、そろそろ私の体が限界だ。
ソファに身を預けていると、こっくりこっくり船を漕いでしまう。
いけない。まだ後片付けが残ってる。
欠伸をしながらキッチンスペースへ、洗い物を片付けないと・・・
「それは俺がやっとっくから、今日はもうシャワー浴びて寝てええよ」
「うう、すみません。そう、させてもらえいます」
シャワーを浴びたら目が覚めてしまいそうだが、サッパリした体で眠りたいので仕方ない。
着替えは…ケビンさんのシャツでも何でもいいや。
「二階の部屋、自由に使ってええで。ベッドは整えてあるから好きに寝たってな」
「え?今日は一緒に寝てくれる約束じゃ」
「そんな約束した覚えはないで!?」
「ケビン、やらしい…私の前で堂々と浮気?サイテー、このロリコンネギ!」
「アガット君やあるまいし!そんなわけあるかい!」
『アガットさん=ロリコン』はこんなところでも共通認識だ。
なんだかホッコリする。
「イリスは今日私と寝よう?それがいい、そうしよう?」
「嫌ですね。私は男の人に密着していないと安眠できない体質なんです」
「そら難儀やなぁ」
「イリス…マセガキだったの?」
「メスガキでもありますよ(*´▽`*)」
「自分で言っとったら世話ないわw」
まあ、どっちでもいいんですけどね。
シャワーお先にもらいまーす。
・・・・・・・・・
イリスがシャワーを浴びている頃。
二人だけになった大人たちは、本日の目まぐるしい事件を思い返していた。
「すごいでしょ?」
「なんでお前が偉そうやねん。まあ、いろんな意味ですごい子や」
「イリスは私が見つけたの、私のお手柄」
「偶然やろ。でも、本当に何者なんや?ライサンダー卿すら詳しく知らんって…」
「総長なら何か知ってるかな?」
「たぶんな。それと法王猊下と聖女様も、イリスちゃんに心当たりがある素振りやった」
「どうする?」
「どうもこうも。ワイは職務を遂行するだけや」
「イリスの保護者就任、うらやましい」
お前も手伝うんやでと、ケビンはリースに念を押す。
いや、どっちかと言うとイリスの方がしっかりしているような気がしないでもない。
「それよりリース、今日は泊って行くきか?」
「もちろん。だからただいまって言った。そして今日からここは私の家」
「は?なんも聞いとらんで」
「ケビンとイリス、二人っきりにして間違いがあったらいけない。私はイリスを守るため、ここに寝泊りする。既に上の許可はとった」
荷物が多すぎると思ったらそういう魂胆だったか。
今日からイリスだけでなくリースもこの家で暮らす気らしい。
ま、別にええんやけどな。
三人暮らしか、ルフィナ姉さんが生きとった頃を思い出すわ。
騒がしくなりそうやなと、ケビンは苦笑するのであった。
「私がしっかり見張ってる。イリスに手を出したら、女神様の天罰が下ると思って」
「どっちかと言うと、俺の方が手ぇ出されそうなんやけどなぁ」
この日、イリスはケビンとリース二人の間に挟まれた、川の字スタイルで眠りに就いた。