虹色イリス   作:青紫

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一人用のポッド

 きゃっほぉ!新装備の完成だあ!

 七耀教会が誇る導力技術の粋を集めた装備を紹介しよう。

 

【エボニー&アイボリー】

 私用にカスタマイズされた二つの導力拳銃。

 黒い銃身のエボニーは精密射撃用、白い銃身のアイボリーは連射特化とそれぞれ性能が異なる。

 市販の弾丸のみならず、聖杯騎士団内で流通している聖印の刻まれた特殊弾(悪魔や不浄なる存在に効果テキメン)も発射できる。

 憧れの二丁拳銃だ。カッコよく使いこなしてみせよう。

 

【対装甲刀】

 アーマーシュナイダーを発展させた斬撃用の武器。

 大小二振りの刀剣で、忍者刀のような外見をしている。

 二刀流でござるよニンニン。

 

【スティレット投擲噴進対装甲貫入弾】

 格闘戦コンバットナイフとして使用できるほか,RAT(ロケット補助推進)システムの推力により飛翔し,離れた敵の装甲を貫通可能な投擲武器。

 投げっぱなしも考えられるため、予備も含めてたくさん作ってもらった。

 名前が長ったらしいので、私はロケット苦無(くない)と呼んでいる。

 

【ピアサーロック『ハーケンファウスト』】 

 左腕に装着した手甲から発射される有線式ロケットアンカー。

 クロー後部に内蔵されたブースターにより、射出後のある程度の軌道変更もできる。

 先端に備わるクローは鉤爪状となっており、射出せずにそのまま格闘戦を行うことも可能。

 使わない時は鉤爪を引っ込めて収納しよう。

  

 これらの装備、聖女様と一緒に見たアクション映画に影響されたのは言うまでもない。

 『エイリアンVSセクシーニンジャ』が面白過ぎたんだよね。

 私の無茶振りアイデアを取り入れてくれた、開発スタッフの皆さんに大感謝だ。

 

 服装も新しいのを仕入れてみました。

 リースさんたちに無理やりコーディネートされたとも言う。

 機能性とデザインを両立した物をいくつか購入して、今まで敬遠していたひらひらスカートにも挑戦してみよう。

 慣れないからスースーするけど我慢だ。

 

 守護騎士の戦闘法衣、それと同じ素材で出来ているコートも作ってもらった。

 防刃防弾、耐熱耐冷、軽いのに防御力はバッチリ、弾丸や苦無の収納ポケットも必要十分。

 ちゃんと私のサイズに合わせた物になっているのでありがたい。

 

 そして、個人的に一番嬉しかったものが新しい鞄だ。

 

【強欲の鞄】

 一見すると年季の入った革製のボディバッグだが。

 中は亜空間に繋がっており、見た目からは信じられない収納力を持つ。

 いわゆる『四次元ポケット』に酷似した力を持つ古代遺物である。

 私への餞別として法王様が特別に譲ってくれたレアアイテムだ。

 これのおかげで野営道具一式や食料品、予備武器や魔獣のドロップ素材なんかもたくさん持ったまま旅ができる。

 

 しかしこの古代遺物、一つだけ致命的な欠点があった。

 鞄自体が異様に重たいのだ。

 その重さ約200クリム(200㎏)…私の体重の10倍以上。

 便利だが持ち運びに難があり過ぎるという理由で誰からも使われず、今まで倉庫のような運用方法しかされてこなかったらしい。

 だがしかし、吸着物の重さをゼロにする異能を持つ私には、そのデメリットは意味をなさない。

 『あなたのためにあるような鞄ね』と、法王様も快く譲ってくれたのだ。

 

 因みに、無限に物が入るわけでなく普通導力自動車一台分ぐらいで満杯になる。

 満杯状態で物を入れようとすると『いれちゃらめぇぇ』と、野太いおっさんの声で警告音が鳴る。

 これを作った古代人は頭がおかしい。

 

 装備を整え、必要な道具類も揃えた。

 出発の時は近い。

 

 ●

 

 私の身体データ収集と虹霊子の研究は、いくら時間があっても足りないということで一端打ち切りとなった。

 大勢の研究者からティータさんのように『残ってくれ』と懇願されたが、お断りしたよ。

 ごめんなさいね、また気が向いたら協力するので、私の旅立ちを許しておくれ。

 

 法王様を筆頭に、この街でお世話になったたくさんの人に感謝と旅立つ旨を伝えた。

 みんな少し寂しそうにしながらも、私を応援すると言ってくれた。

 

 ケビンさん宅で私の旅立ちを祝うパーティー、送別会が開催され、守護騎士メンバーとお忍びで聖女様も来てくれた。

 ご馳走を用意して、飲んで騒いで歌って踊って……楽しかったなあ。

 普段過酷なお仕事をしている人たちも、たまにはハメを外したかったのかもしれない。

 

「イリス、あなたに伝えなければならない事があります」

「『スーパー女優ジュディスの素晴らしいところ』なら耳にタコが出来るほど聞きましたよ」

「まだ半分も語り終えていませんが…そうではありません。伝えたいのは、私が視たビジョンについてです」 

 

 パーティーが続く中、聖女様がこっそり話しかけて来た。

 何やら真剣な様子だったので、少し風に当たって来ると告げ二人で庭先に出た。

 

 聖女様は私の身長に合わせてしゃがむと、その額を私のおでこにくっつける。

 きゃ!綺麗な顔が近くてドキドキしちゃう。

 などと考えていると、不意に意識が暗転した!?

 

 ・・・・・・・・・・

 

 私は視た。

 モヤがかかった視界の中、揺蕩う意識だけになった私はそれを視た。

 

 途轍もなく大きな、大きすぎる何かがいる。

 体だけでなく、存在そのものが、内包するエネルギー量が、とにかく常軌を逸した巨大な何か。

 それが動く度、海が裂かれ、山が砕け、大地が崩壊していく。

 

「虹……」

 

 見慣れた色だ、アレは私の色だ、私の存在を主張する七色の輝きだ。

 

 そいつには虹色の翼が生えていた。

 

 ・・・・・・・・・・・

 

「……今のは?」

「私の視たビジョンを共有しました。あれは未来に起こる可能性のひとつです」

 

 私はケビンさん宅の庭に戻っていた。

 正確には私はずっとここにいて、意識だけが聖女様のいうビジョンを見ていたのだろう。

 

 未来?未来と言ったか?

 聖女様は未来を視る異能があったのか、そりゃあ聖女とか言われるわ。

 

「私の未来視はいつも一方通行。自由に未来を観測できるわけではなく、この先起こりうるであろう事柄を受信するだけ。それに何の意味があるのか、そもそもビジョンは正確なのか、その時になってみないとわからないのです」

 

 私の存在を予見する神託が降りた頃、聖女様は今のビジョンを視た。

 だから最初、私をあんなに警戒していたのか。

 

 アレが未来の私だと?

 でかすぎだろ!何食ったらあんな成長するんだよ。

 

「あの巨イナル存在は、世界を滅ぼすだけの力を有していると、そう思いました」

 

 さっき見たアレが私だって決めつけるの早くない?

 そもそも大きすぎて顔はおろか全体像がどんなのよくわからなかったんだけど?

 

 私が世界を滅ぼす?そんなまっさかぁ~。

 そんなことをしても私にメリットがない。

 何より、めんどくせぇ。

 

「今のあなたなら、そんなことをする子ではないと断言できます」

 

 しかし、未来の私が悪い子になっている可能性も捨てきれない、そういうことだね。

 聖女様が心配する気持ちもわかるけど、今の私がどうこうできる話じゃない。

 精々、闇堕ちしないよう善行を積むぐらいしかできないよ。

 

「そうですね。全ては私の杞憂であれば何も問題ないのです」 

「あんなに大きくなったら、恋愛も結婚もできません。私は人間サイズのイリスでいます」

「ええ、是非そうしてください」

 

 聖女様が微笑んで私の頭を撫でる。

 この人が笑っていられるよう、私はいい子でいようと思った。

 

「イリス…あなたが翼を広げる日か来ないことを、祈ってるわ」

 

 ●

 

 送別会の翌日、私は改めて皆に挨拶をした。

 撫でたり、ハグしたり、スリスリされたりと大変だったけど、私との別れを惜しんでの行動なので受け入れる。

 私からもいっぱいスキンシップしちゃった。

 男性、特にイケメンには念入りにしておいた!

 

 メルカバの発着場へと向かう。

 クロスベルまでケビンさんが送ってくれるのだ。

 

「イリスさん、何かあれば教会を訪ねてください。我々が出来る限り力になりましょう」

「ありがとうございます。トマスさん」

 

 トマスさんが見送りに来てくれた。

 他の守護騎士メンバーは任務があるので昨日の内に別れは済ませてある。

 みんな良い人だったなぁ。

 

「イリスの作ってくれたご飯の味、絶対忘れない」

「いくつかレシピを残して来たので、ケビンさんとたまには作ってみてくださいね」

「ん、頑張る。次は私がイリスにご馳走するから」

「楽しみにしてますよ」

 

 ケビンさんとリースさんと私、三人でキッチンに立ち料理した時は幸せだった。

 なんだか、ちゃんと家族になれたみたいで・・・

 あ、思い出したらちょっと泣けてくる。

 

「……本当は行かせたくないけど、でも、また会えるって信じてる」

「はい。絶対に会えますよ」

 

 リースさんと抱き合う。

 いっぱい仲良くしてくれて、ありがとう。

 固く抱き合う私たちを、ケビンさんとトマスさんが優しく見守っていた。

 

 ケビンさんと私が乗り込むと、メルカバはエンジン音を響かせながら飛翔した。

 窓の外を見るとリースさんが両手を大きく振っているのが見えた。

 その胸元には私があげた虹霊石(イリス玉)が輝いている。

 

 大聖堂のバルコニーや中庭に人が集まっているのも見えた。

 法王様に聖女様、枢機卿や聖杯騎士団のみんなに教会の研究員や職員がわざわざ見送りに出て来てくれたのだ。

 やめてー、泣いちゃうからやめてー(ノД`)・゜・。

 

「皆さん!お世話になりました!また会いましょう」

 

 私は元気よく手を振り返す。

 さよならは言わない。行ってきます!

 

 ●

 

「もうちょっとでクロスベルやな」

「いよいよですか、ワクワクしますね」

 

 確か今は自治州ではなく、エレボニア帝国に併合されて『帝国領・クロスベル州』になっているはず。

 西のエレボニア帝国と東のカルバート共和国に挟まれて、東西の文化とその他諸々が融合した都市だと本で読んだ。

 政治情勢から魔都など揶揄されることもあるが、お楽しみスポットもたくさんあるんだよね。

 大きな劇場やカジノ、超高層ビルや近くには遊園地なんて施設もあるらしい。

 

「いろいろあったみたいやけど、まあ基本は楽しい所やで」

「いろいろ、というのが気になります」

 

 独立宣言を行った大統領が逮捕されたり、街が戦場になったり、バカでかい大樹が生えたとか・・・

 一連の事件は『クロスベル事変』と呼ばれ、ケビンさんやエステルたちもその事件に関わったらしい。

 楽しいだけでは済まない、スリル満点の都市みたいでワクワクが加速するなあ。

 

「困ったことがあったら『特務支援課』を頼ったらええ」

「それワジ君も言ってました!」

 

 クロスベルには〖特務支援課〗というチームがあり、そのメンバーは『クロスベル事変』の解決に多大な貢献をしたとして知られる。

 市民にとっての英雄的存在で『お人好しの集まり』だとワジ君が言っていた。

 その話をしている時のワジ君が妙に楽しそうだったのが気になる。

 

 支援課というからには何かを手助けしてくれるのかな?

 私がイケメンと仲良くできるようサポートしてほしい!

 

()()()()()()()()()()の扱いは慣れとるやろうから、きっとイリスちゃんのことも受け入れてくれるはずや」

 

 ケビンさんも支援課のことを高く買っているようだ。

 頼りになる人たちみたいなので、一応心に留めておこう。

 

「メルカバで直接乗り込む訳にはアカンな。近くの森にでも着陸して……」

 

 ケビンさんの言葉を遮るように、艦内に警報が鳴った。

 何トラブルの予感がする。

 

「何事や!」

「レーダーに反応!ロックオンされました。誘導ミサイル来ます!」

「フレア射出!回避行動急げ!」

 

 操舵手が舵を切ると船体が大きく揺れた。

 ケビンさんが私の体を引っ掴んで支えてくれる。

 

 船の性能も相まってミサイルが命中したような衝撃は来なかった。

 回避は上手く成功したのだろう。

 

「ステルス航行が見破られたのですか?」

「どうやらそうみたいや、チッ!いきなり撃って来るとか、どこのどいつや?」

「所属不明機確認、映像出ます」

  

 艦内モニターに敵機であろう機体が映し出された。

 ヘリコプター?

 

 大きなプロペラを回転させて飛翔する、それはヘリコプターと呼ばれる航空機だ。

 ただ、私は知っているヘリとは随分と形状が違う。

 機体は大きくプロペラの数は三つ、ジェット推進器も取り付けられいる。

 そして機体各所にバルカン砲やミサイルがたんまりと装備されて、いかにも強そうだ。

 

「戦闘ヘリです。おお!カッコイイ」

「喜んどる場合やないで、あのマーク見てみい『蛇』や」

 

 機体に自信の尾を噛む蛇『ウロボロス』のマークがペイントされている。

 あれの印には見覚えがある。

 

「結社《身喰らう蛇》所属ですか。厄介ですね」

「グラハム卿、敵機から通信が入っております。いかがいたしましょう?」

「舐め腐りやがって…出てええよ。無礼者の顔を拝ましてもらおうやないか」

 

 ミサイルで攻撃しておいて何のつもりだ?

 相手の意図がわからない。

 

「あーっはっはっはっはっ!ごきげんよう、七耀教会の使いパシリ諸君」

 

「結社の強化猟兵大隊長〖ギルバート・スタイン〗とは、僕のことさっ!」

 

「さあ震えるがいい!そしてギルバート最高と称えるがいい!ふはははははははっ!」

 

 モニター越しにどアップの男が映し出されたかと思うと、彼はひとりで勝手に喋って高笑い。

 

 ・・・なんだ、頭の悪い人か。

 

「アホやな」

「アホですね」

「聞こえてるぞぉ!この僕を侮辱するとは……おや?おやおやおや~」

 

 この男、いちいち動きがオーバーリアクションでウザい。

 

「誰かと思えば、ネギ神父じゃないかぁ。今日はあの凶悪棍棒女はいないみたいだね」

「誰がネギや!お宅も相変わらずやな」

 

 はて?凶悪棍棒女とは誰のことだろう?

 私の恩人の彼女ではないと思いたい。

 

「ここで会ったが100年目!今日は試運転のつもりだったけど、キミの船を沈めるのも一興だろう」

「勝手なこと抜かすなや。逆に沈めたるわ」

「くふふふふ、守護騎士を倒したとなれば、きっとカンパネルラ様の褒めて下さる。そして僕は更なる出世を…」

「パネ様を知っているのですか?」

 

 知ってる人の名前が出たので、つい問いかけてしまった。

 このアホ、パネ様の部下なのかな?

 

「パネ様だとぉ!?あの方を変な呼び方で……うわぁぁっ!変な色のガキがいるぅ!!

「忌憚なきご意見どうもです」

 

 おい指をさすな。

 思った事をすぐ口にするのはあまり感心できないぞ。

 『変な色のガキ』ここまであからさまに言われたの久しぶりだわ。

 嘘がつけないというか、考えが足りない人なんだろうな。

 なんとも残念な奴め。

 

「まさか、そいつは星杯騎士団の生体兵器か?なんて禍々しい色をしているんだ!可愛い顔してビームを吐いたりするに違いない!」

「無茶苦茶言うとるが、半分当たっとるww」

「なんでバレたんでしょうねw」

「くっ!七耀教会はやはり恐ろしい組織だ。この僕が天誅を下してやろう!覚悟するんだね!」

 

 うわっ!撃って来た。

 戦闘ヘリのバルカン砲が火を噴き、多数のミサイルが白煙を引きながらメルカバに迫る。

 ギルバートというアホは勝手に喋って勝手に納得して、身勝手に攻撃して来た。

 話が通じない相手というのは本当に厄介である。

 

「ふっふっふっ、この『ギルバート号弐式ダブルツーセカンドツヴァイ』の性能を甘くみないことだ。それそれ~撃っちゃうぞぉー!」

「「『2』がいっぱいだぁ!」」

 

 弾幕を潜り抜けながらメルカバも応戦する。

 戦闘になってしまったが、ケビンさんを含めた乗組員は皆落ち着いたものだ。

 こういう事態になった場合の訓練も受けているのだろう。

 

「ちょっと席外すで、アホは適当に相手しとったらええわ。イリスちゃん、行こか」

 

 ケビンさんに手を引かれ私はブリッジを後にする。

 オペレーターさんたちに会釈してから向かった先は、メルカバの船体下部の格納庫。

 そこにある非常用コンテナに取り付けられたコンソールを、ケビンさんが慣れた手つきで操作する。

 

「悪いなイリスちゃん。アホのせいで慌ただしくなってもうて」

「構いません。この中には何が?」

「こんなこともあろうかと、緊急脱出装置を準備しとったんや。キミにはこれに乗ってクロスベルへ行ってもらう」

 

 え?私だけ脱出?

 あのアホってそんなに手強いの?

 

「手強いというか無駄にしぶとい奴やねん。このまま戦闘しとったらクロスベルから離れてしまう、その前にキミだけ先に逃がす」

 

 ケビンさんは私を気遣ってくれたようだ。

 今日中にクロスベル入りしたいので、申し訳ないがお言葉に甘えさせてもらおう。

 ひとりだけ逃げることになって、ちょっと気が引ける。

 

「心配せんでもアホ相手に遅れはとらん。イリスちゃんはクロスベルに行くことだけ考えてや」

 

 ロックの解除が終わったらしく、コンテナが開いていく。

 ケビンさんとはもっと落ち着いてお別れをしたかったが仕方ない。

 

「ケビンさん、しゃがんで下さい」

「ええよ。ハグするんか」

「チューもしますよ!」 

 

 ケビンさんに抱きしめてもらい、その頬に口付けをする。

 イイ男のぽっぺにキスするのがマイブームなイリスです。

 感謝の念を目一杯こめたハグを終えてから体を離した。

 

「いつもこんな事しとるんか?」

「気に入った人にだけです。ケビンさんに良い事がいっぱい起こる、おまじないですよ」

「そうか、おまじないか。イリスちゃん…幸せに、なるんやで」

「はい!」

 

 よし、これで心残りはない。

 後は脱出装置に乗ってクロスベルへ行くのみだ。

 

「さあ、これに乗るんやイリスちゃん」

「なん…ですと…」

 

 脱出装置は丸い形をしていた。

 中に人間ひとり座れる座席のある球体・・・

 

 一人用の脱出ポッド!?

 

 すごい既視感があるー!!

 似てるなんてレベルじゃない。

 これアレだ、サイヤ人の親父ぃが無残な最期を迎えたポッド(棺桶)じゃん。

 これに乗れというのか?

 もう嫌な予感しかしない・・・

 

「これ大丈夫ですか?伝説のスーパー息子に殺されたりしません?」

「はははw何を言っとるのかわからんけど、安心してええよ」

 

 ポッドは教会の技術部が開発した最新の脱出装置であり、何度もテストを重ねて安全性も保障されているのだという。

 信じるからね?

 あとで『全て嘘ですっ!』とか言わないでよ。

 

 ビビりながらポッドに乗り込む。

 お、座席がフカフカだぁ。

 安全ベルトをちゃんと締めておこう。

 

「ありがとうございました!リースさんとお幸せに!」

「ワイの方こそありがとう。キミに会えて良かったわ」

 

 ポッドの扉が閉まる。

 同時に背部の推進器が動き出し、非常用ハッチが解放される。

 最後にもう一度、窓越しに見えるケビンさんの姿が目に焼き付けて、さあ行きますか!

 ジェット噴射により加速したポッドが勢いよく射出された。

 

 ・・・・・・・・・

 

 逃げるメルカバを追いながら攻撃しているギルバートは、射出されたポッドに気付いた。

 この男、アホだが変なところで勘が働くのである。

 

「ん~?あれはもしや脱出艇か?敵前逃亡とは無様な…そんな奴にはミサイルをプレゼントだぁ!」

 

 ギルバートは残りのミサイルを全弾惜しげもなく発射した。

 後先考えず発射されたミサイル、その一発がポッドに命中する。

 戦闘ヘリのコックピット内でガッツポーズを取るギルバート。

 一瞬の油断、その直後、急加速したメルカバの体当たりを食らい戦闘ヘリに装甲が大きく破損した

 機体の前面に防護障壁を展開したメルカバの突撃は一撃でギルバートの愛機を戦闘不能に追い込んだのだ。

 

「今日はこの辺で勘弁してやる。お、覚えてろぉ~~!カンパネルラ様~タァスケテー!!」

 

 情けない捨て台詞を吐きながらギルバートの乗ったヘリは墜落して行った。

 ゴキブリ並みにしぶといの彼は、放っておいても生き残るだろう。

 メルカバ艦内のブリッジでケビンはやれやれと首を振った。

 

「脱出ポッドは?」

「無事です。ミサイルが一発命中したようですが、航行には問題ありません」

「技術部が自慢しとった装甲やからな。まあ、二発目以降は耐えられへんようやけど」

 

 ポッドの向かった先はクロスベル、そこであの子はどんな経験をするのだろう。

 何にせよ、彼女の進む先が幸せで満ちていることを願おう。

 

「イリスちゃん、元気でな」

 

 ●

 

 ポッドは操縦の必要がなく指定した目的地までオートで運んでくれる。

 モニターに表示された地図によれば、クロスベルから少し離れた森林地帯に着陸する予定みたい。

 

 ただ座っているだけというのも退屈だ。

 時間があるようなら、ちょっと寝ててもいい?

 

 ドォォンッッ!!!!

 

「うひゃぁ!?!?」

 

 何かぶつかった!?

 え、嘘、攻撃された?ブロリー来た?

 大丈夫?このまま座っていて私本当に大丈夫?

 

 モニターを見るとポッドの側面にダメージが入ったと警告されていた。

 だが、航行には問題ないらしく『まだ慌てるような時間じゃない』という意味の文字が表示されている。

 もしかして、さっきのアホがポッドを狙ってミサイルを撃ったのかも?

 なんて奴だ!次に会う機会があれば尻を思い切り蹴り上げてやろう。

 

 ・・・・・・・

 

 しばらくしてポッドが高度を落とし始めた。

 もうすぐ目的地だ。

 多少のトラブルはあったものの、クロスベルまで無事にたどり着きそうで安心した。

 今回は滝壺に落ちたり、悪魔と戦ったりしなくて済みそうだ。

 腐☆腐、勝ったな。

 

 着陸する時、人に見られないといいな。

 私がポッドから降りたところを見られて『虹色エイリアン』と誤解されても後が面倒だ。

 着陸したらポッドをどこかに隠しておかないと。

 教会に言ったら回収してくれると思うけど、まあ、降りてから考えるか。

 

 ドォォンッッ!!!!

 

「ふぁっきゅ!?!?」

 

 またしてもポッドに衝撃、危うく舌を噛みそうになった。

 

 ドカンッ!ドゴンッ!ズドンッ!

 

「いぃ!一体何事?何なんなの何なの?」

 

 衝撃は一度で終わらない、外の様子は不明だけど、異常事態なのは明白だ。

 

 ズドドドドドドドドドドッッッ!!

 ドガガガガガガガガガガッッッ!!

 

「嘘でしょ!?ヤバいって!これマジでヤバいってば!!」

 

 ポッドが攻撃されとる!

 『撃ち落とす!』という明確な意思のある攻撃がポッドを狙い撃ちしているだとぉ!

 

 あのアホの仕業か?

 最初の一撃はまだいいとして、ケビンさんが私への集中砲火を許すとは思えない。

 だとしたら別の何者かが私のクロスベル行きを阻んでいるのか?

 

 答えは出ないまま、モニターに表示されたポッドの状態が次々と『危険』『もう終わりだぁ』と知らせて来る。

 警報もずっと鳴り止まない。

 シュワット!ここのままではパラガスみたいに、ポッドが私の棺桶になってしまう!

 クロスベルに無事到着したなどど、その気になっていた私の姿はお笑いだったぜw

 これ滝壺に落ちた時にもやったよ!

 

 ともかくここから出ないと、私はモニターを操作して緊急時のマニュアルを呼び出す。

 えーっと、座席の下にあるレバーを引いて・・・

 レバーを操作すると頑丈な作りだったポッドの扉が開け放たれて、一気に外気が吹き込んで来て風強いやら寒いやら。

 座席が前へとせり出していき、座ったままの状態で外へと投げ出された。

 

「うわぎゃぁぁぁぁぁ!!」

 

 脱出ポッドから脱出させられた、イリスです。

 もうマジ最悪!なんて日だっ!

 

 あわやこのまま地面までボッシュートか?

 と思った直後、座席に備えられていたパラシュートが開き落下速度が大幅に低減された。

 ふぅービビらせやがって。

 人生初のスカイダイビングは私にトラウマを増やした。

 

 パラシュートのおかげでゆるりと降下中。

 後方を見上げると、ポッドが何らかの攻撃を受けて爆散するところだった。

 

 あ、危なかったぁ。本当に間一髪で助かった。

 ほんの少しだけ冷静さを取り戻した私は周囲を警戒する。

 アホの乗った戦闘ヘリはいない、飛行タイプの魔獣がいるわけでもない。

 だったら私は何から攻撃されたの?

 

 その疑問は程なくして解消されることになる。

 

「あぶっ!?」

 

 高速で迫る銀色の一閃。

 狙いは私の頭部、野生の勘で首を無理やり捻り辛くも命中を免れる。

 攻撃はまだ終わっていなかったのだ。

 

 攻撃の正体、それは怪しく煌めくの銀の刃だった。

 強いアーツの力を感じる。

 幻属性アーツ『シルバーソーン』の変化系、それを私に向けて撃ち込んで来た。

 なるほど、ポッドを落としたのアレの連射だったのか。

 

 頭の中で刹那の考察をしていると、避けた刃がパラシュートのキャノピーを突き破った。

 ・・・・・・あーう(^p^)

 

「いやぁぁぁぁ!落ちるぅぅぅッッ!!」

 

 パラシュートをが機能しなくなったら墜落するしかないじゃない。

 はいはい、結局こうなったよ。

 チクショウめ!毎度毎度『この世界はイリスに厳しい世界です』してんじゃねーよ。

 せめて乙女ゲーの世界に生まれたかった!

 

 泣きわめきながらも私の生存本能は仕事をする。

 無用の長物となったパラシュートのハーネスを切り離し、座席の安全ベルトも引きちぎる。

 これで座席とはおさらばだ。落下中だけど身軽になったぞ。

 

 直前まで私が座っていた座席が銀の刃で貫かれた。

 またもや間一髪!

 

「見つけた」

 

 攻撃は下から来ている。

 ポッドを攻撃し、外に投げ出された私を執拗に狙うのは幻属性の刃による高度狙撃。

 実に大した腕前だ、これはたっぷりお礼をしないと気が済まないなあ。

 

 私の全身に虹霊子の力が行き渡り、体からン虹色に輝く粒子が溢れ出す。

 戦闘態勢に入った私の瞳は望遠レンズのように敵の姿を捉えた。

 狙撃手は人ではなかった。大砲や人形兵器の類でもない。

 小高い丘に陣取り、こちらを見上げていたのは・・・

 

「犬こっろだとぉ!?」

 

 犬だ、青い体毛をした犬がいる。

 なんか妙に貫禄がある犬だ。

 狼型の魔獣かもしれないが、どうでもいい。

 あいつがアーツを使ったのか?

 熟練の魔導士もビックリのアーツをあの駄犬が?

 

 狙撃手は既に身を隠した後で、アレは偶然居合わせた野良犬の可能性も出て来た。

 犬を睨んでいると、不意に目が合ってしまう。

 私に見られていることに気付いた犬が『ヤベッ!』みたいな顔をしたのを、私は見逃さない。

 

 ・・・お前かぁぁぁぁッッ!!

 

 あいつだ絶対あいつだ。

 証拠はないが私にはわかる。奴の目を見ればわかる。

 私を殺そうとしたのは、あの犬っころで間違いない。

 真実はいつもひとつ!

 

 お前さぁ、ひどいよ。

 なんで私を撃っちゃうの?悲しいじゃん。

 私にこんなことさせんなよ。

 

 心機一転新たな冒険のスタートだったのによぉ!

 なのになんでこんな真似すんの?

 命狙われたら、お前のこと見逃してやれないよ。

 

 もう殺すしかなくなっちゃったよ。

 

 でもいいよな?一瞬で殺してあげるから。

 

死に晒せクソ犬がぁぁぁッッッ!!!!

 

 ルミナスブラスター長距離狙撃モードで発射!!

 

 空中で踏ん張りのきかない体が反動でブッ飛んでしまうが構うものか!

 私を狙った犬には死あるのみ!

 

 命中確認!ざまぁ!

 奴がいた丘は抉れてクレーターが出来てしまっている。

 死体も残らなかったか、躾のなってない犬には相応しい末路・・・

 

 舞い上がった粉塵の中から青い毛玉が飛び出した。

 尋常じゃない速度で崖を下り、私の目から隠れようとしている。

 チィッ!外したか。

 スピードを見るに回避性能の高い犬だったようだ。

 

逃がすかボケェェェッッ!!!!

 

 ルミナスブラスター二発目発射!!

 今度は威力を落として、逃げる犬を追いかけるようにビームを走らせる。

 虹色の光が過ぎ去った後の地面が悉く弾け飛んでいく。

 人気のない岩山でよかった、これなら誰かを巻き込んだり、建物を破壊しないですむ。

 

 くそっ!なんてすばしっこい奴だ。

 犬っころ未だ健在。

 私のブラスターを二度も回避するとは、あいつクミコたちより厄介な相手だぞ。

 

 もう一発ッ!!

 

 《警告、ブラスターの発射はおすすめできません》

 

 システムさんが私のラストシューティングに待ったをかけた。

 邪魔しないで、犬っころが逃げちゃう。

 

 《これ以上虹霊子を消費すれば、落下時のダメージから身を守ることが不可能になります》

 

 それはマズいっスよ!

 パラシュートを失った今、私の体を包む防護障壁が無ければ、墜落死エンドが確定してしまう。

 

 ぐぬぬぬぬぬぬ!

 私は断腸の思いでブラスターの発射を諦めた。

 

 青い犬っころは既に走り去った後だった。

 お前の顔覚えたからな?

 この恨み絶対に忘れんぞ。

 次に会った時はジワジワなぶり殺しにしてやる!

 解体して冷凍してリースさん宛てに『高級肉』のギフトとして発送してやるからな!

 

 恨みつらみを募らせている間も、どんどん落ちているんだよね。

 現在位置はどの辺だろう?

 ブラスターを二発も撃ったので、結構飛ばされてきたはず・・・

 

「あ!街が、ここはクロスベルの上空!?」

 

 眼下に広がるのはクロスベルの街だった。

 うわーすごい。私、鳥になったみたい。

 なんて思っている暇はない。

 落ちた先で誰かにぶつかったりしたら大変だ。

 防護障壁で私の体が無事でも、衝突された方は死んでしまうかも。

 ヤバいヤバい、なるべく人のいない方へ・・・

 

 そう思っているのに、私の体は超高層ビルが建っている場所へ落下していく。

 あれが有名なオルキスタワーなのだろう。

 間の悪いことに、タワー前の広場でイベントでもやっているのか、大勢の人が集まっているようだ。

 

 ひぇ!クロスベルに来て早々殺人はマズいって!

 あんな公衆の面前では言い逃れもできないし、現行犯逮捕されてしまう!

 

 空中でバタついてみても私の着弾予測地点は変更できそうにない。

 私は下にいる人たちに向けて力の限り叫んだ。

 

「すみません空から失礼しますーぅぅ!私が落ちますので避けてくださいぃぃぃ!!」

 

「危ない!あぶないあぶないあぶないあぶない!アッブナーーーイ!!」

 

「あ無理、も駄目、行っきまーす!…シャイィィィンスパァァァクッッ!!

 

 もうヤケクソで腕を前に突き出しながら落ちてしまった。

 犬っころへの憎悪、殺人を犯すことへの恐怖、新たな場所へ期待感。

 三つの心がひとつになったので必殺技が出ても仕方ないよね!

 ドワォ!

 

 今回の私、叫んでばっかり・・・

 

 あ、ヤベっ・・・何かにぶつかった気がする。

 人じゃないよね?

 ねえ?殺してないよね?

 

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