帝国領クロスベル州
市北部に位置する地上40階建ての市庁舎、オルキスタワー。
本日、そのタワー前広場は大勢の人でごった返していた。
市庁舎を出入りする職員やビジネスマンたちだけでなく、本日の催しを報道するマスコミや周辺警備を担当する警察官、野次馬をしている一般市民の姿も多々見受けられる。
クロスベル警察特務支援課に所属する捜査官〖ロイド・バニングス〗もその一人だ。
人混みに圧倒されるが、これも一警察官としての職務だと思い直し気合を入れた。
顔見知りの警察官や市民に挨拶をしつつ辺りを警戒する。
今のところ、特に異常はないようだ。
「来ていたか、バニングス」
「ダドリーさん。お疲れ様です」
捜査一課所属のアレックス・ダドリーを見つけた。
彼も今回の式典に警備担当として参加していたらしい。
「すごい人ですね…」
「新総督は人気者だからな。その姿を直に一目見ようという魂胆だろう」
生真面目なダドリーにしては珍しく、新総督という言葉にほんの少し忌避感があった。
クロスベルに暮らす者として思うところがあるのだろう。
「セルゲイは……またサボりか、あいつめ」
「はは、人混みは苦手なんだそうです」
一緒にやって来たはずの支援課課長、セルゲイ・ロウ
彼は『ちょっとタバコ吸ってくる』とだけ言ってどこかに行ってしまった。
今頃、港湾区のベンチで昼寝でもしているのだろう。
「警備は万全なはずだが妙な胸騒ぎがする。くれぐれも警戒を怠るな」
ダドリーはそれだけ告げて持ち場へ戻って行った。
今日は何かが起こる気がする。
そんな予感を自分だけでなく先輩であるダドリーも感じていた。
捜査官としての勘を信じるなら、これは事件が起こる前触れ?
それとも、もっと別の何かがクロスベルに・・・
・・・・・・・・・・・・・・
ディーター・クロイスを大統領としたクロスベル独立国の成立から《碧の大樹》の崩壊までの一連の事件。
通称・クロスベル事変によって、結果的にクロスベル自治州が宗主国エレボニア帝国に併合される事になった。
現在のクロスベル自治州は自治権を喪失し、帝国領クロスベル州なのである。
併合の立役者でもあるルーファス・アルバレアが総督に就任し、皮肉にも帝国の属州となったことで最大の問題点であった治安も改善されることとなる。
ルーファス総督は就任当初からその辣腕ぶりを遺憾なく発揮し、混乱するクロスベルの情勢を立て直すことに成功した。
帝国領になったことに不満のある者たちも、彼の出した成果に一定の評価をせざる負えない状況だ。
ルーファス総督の組織改革は今も着々と進行し、クロスベル警察も軍警に改組されることが決定している。
いずれ特務支援課も解体されるのだろう、今は束の間の猶予期間といったところだ。
また、彼は非常に見目麗しい青年であり、帝国貴族然とした気品のある振る舞いで、年頃の女性を中心に多くのファンを獲得するに至った。
ルーファス総督の功績を称え、その偉業を後世に伝えるため、彼の銅像を作ろという計画が持ち上がったのは一月前のことだ。
あれよあれよという間に話は進み、今日が完成した像の除幕式なのであった。
因みに、ルーファス総督は像の建設に反対したが、周りにゴリ押しされて仕方なく許可を出したらしい。
●
式典が始まり、マスコミたちの動きが慌ただしくなる。
多数の導力カメラが狙う標的は、クロスベル州の総督ルーファス・アルバレア、その人である。
彼はカメラのフラッシュを意に介さず爽やかな笑顔を浮かべている。
詰めかけた聴衆に手を振る姿はおとぎ話に出てくる王子様のようだ。
端正な顔立ちの彼が動く度、ファンたちから黄色い歓声が上がった。
「ここにいたのね、ロイド。ふぅ…見つかってよかった」
「エリィ、お疲れ様」
「ホントすごい人よね…何だかもう疲れちゃったわ」
支援課の同僚である〖エリィ・マクダエル〗がやって来た。
人混みをかき分けて来たせいか、彼女の長い銀髪が少々乱れてしまっている。
「二人とも見ましたか?みっしぃです。みっしぃが来てますよ。記念撮影をしなければ!」
「みっしぃの相手は式典が終わった後にしてほしいな」
「わかってます。はぁ……手早く終わってくれないでしょうか」
エリィの後ろから水色の髪をした小柄な少女が顔を出した。
〖ティオ・プラトー〗彼女も支援課の同僚である。
彼女の指差す方向を見ると、確かにみっしぃの着ぐるみが子供に囲まれていた。
この式典にゲストとしてわざわざ呼ばれたらしい。
「うわぁ…人がいっぱいだぁ」
更にもう一人、ティオよりも小さな少女の弾んだ声がした。
黄緑色の髪をした可愛らしい少女〖キーア・バニングス〗
一連の事件の後、自分が養女に迎え入れた大切な家族だ。
「キーア、今日はツァイトと遊ぶ予定だったんじゃ?」
「それがね、ツァイト急にどこかへ走って行っちゃったの」
ツァイトというのは支援課の警察犬という名目で共に暮らしている狼だ。
キーアは今日、彼と一緒に街のパトロールという名の散歩をする予定だったはず?
あの賢い狼がキーアを置いて一人でどこかへ行くとは珍しいこともあるものだ。
「ツァイトがね、街から出ずロイドと一緒にいろって…何かあったのかな?」
「彼のことだ、何か理由があるんだろう」
「『…来たか厄災』って怖い顔もしていたから、ちょっと心配だなあ」
ツァイトはただの狼ではない、彼に限って万が一は無いと思うが、式典が終わった後にでも心当たりを探してみよう。
「お仕事の邪魔はしないから、一緒にいていい?」
「ああ、大人しくしているんだぞ」
「やった!ロイド大好き」
キーアの出自は訳アリであり、支援課の身内として警察関係者に周知されている。
彼女の持つ不思議な力が事件の解決に貢献したこともあるので、自分たちと行動を共にしていても大目にみてくれるはずだ。
それに、今はキーアと一緒にいた方がいいと自身の直感が告げている気がする。
ルーファス総督の挨拶が終わると、今度は肥え太った男が前に進み出た。
丸々とした腹に脂肪でたるんだ頬を持つ男の見栄えはお世辞にもよろしくない。
総督に歓声を上げていた声もピタリと止んで、舌打ちも聞こえる。
「あれがザイデス議員か…」
「ええ、あの人にはお爺様も手を焼いているみたい」
太った男の名前はマジーデ・ウ・ザイデス
ルーファス総督の銅像を作ろうと言い出した人物であり、本日の除幕式を企画したのも彼だ。
マジーデはゴリゴリの帝国派議員であり、ルーファスが総督になってから議会での発言力を著しく高めたのだ。
共和国派の議員の排除に手を尽くし、中立派を引き込もうと躍起になっているのは有名な話だ。
議員になる前は老舗の宝飾店を経営してたらしく、その財力は今もなお健在なのだとか。
以前から何かと黒い噂のある人物であり、金の力で議員になったとも言われているが定かではない。
今回の除幕式もルーファスとその背後の帝国に媚を売り、自分の地位を盤石にしようと企んでいるのだろう。
その事は、この場にいる殆どの者が気付いてるがマジーデ本人は悪びれた様子もない。
むしろ、自分の成した事を誇らしく思っているのが表情から伺えた。
マジーデの挨拶は長かった。
ルーファスへの賛辞と帝国への忠誠を誓う文言が長々と続いたと思えば、自分と帝国派の議員たちこそがクロスベルに豊かな未来をもたらすと自画自賛し始めたのだ。
これには聴衆の全員がウンザリした。
小声で『まじでウゼェ』という悪態をつく者も一人二人ではない。
心なしか、褒められたはずのルーファス総督も辟易している気がする。
「ロイド…空が、あっちの方で何か光ったよ」
不意にキーアが袖を引いて来た。
空?
快晴の空を見上げたが、青空が広がっているばかりで何も光ってはいないが。
「音もしたよ。鉱山の方……あ、また光った」
「うーん。私にはわからないわ」
「ですね。鉱山では重機や爆発物を使うこともありますし、その音では?」
エリィとティオも特に何も見えたり聞こえたりしなかったらしい。
キーアの感覚は常人より優れているので、何かを感じ取っているのか?
そうこうしているうちにマジーデの長い挨拶が終わっていた。
「では、お披露目致しましょう。これこそが、ルーファス総督閣下を称える素晴らしき黄金像!」
一斉にカメラのフラッシュがたかれる。
像を覆っていた膜が取り除かれると、そこには金色に輝く像が立ってた。
なぜ金ピカ?銅像と聞いていたのだか?
「なんだか悪趣味ね」
「アゴが尖ってます。本人の3倍尖ってます。ハンサムを履き違えてます」
金ピカ像を見た周囲の反応はイマイチだ。
ティオが言うようにアゴが尖り過ぎて刺さりそう。危険物かな?
像を作らせたマジーデ本人だけが脂肪を揺らしながら一人で満足気だ。
「…来るよ」
「キーア?さっきからどうした?」
「来る。とっても大きな力を持った何かが来る」
来るって?一体何が、どこから?
「上!空から落ちて来るよ!」
キーアの声に再び空を見上げる。
よく目を凝らすと、キラリと光る何かがいた。
最初点のようだった何かはドンドンこちらに近づいて来ている。
アレは落ちているのだ。
自分たちがいる場所目掛けて落ちている真っ最中なのだ。
「……っ!!……!!」
「…!…………!…………!!」
上空の物体がジタバタしながら何事かを訴えているように感じる。
アレが何かわからないが、焦っているのは理解できた。
自分とキーア以外、アレの存在に誰も気づいていない。
すぐにこの場から全員を避難させなくては!
キーアを抱え上げ、エリィとティオに指示を出そうとしたが間に合わなかった。
なぜかアレはいきなり加速して突っ込んで来たのだ。
「…シャイィィィンスパァァァクッッ!!」
意味不明な言葉が聞こえた気がする。
直後、ドガンッ!と物凄い音と衝撃が響いた。
落下した何かはタワー前広場の地面に衝突したらしい。
土煙と割れた地面の破片が周囲に飛び散り、人々が驚きの声を上げている。
「キーア、エリィとティオも無事か?」
「うん。大丈夫」
「こっちは無事よ。一体何だったの?」
「すぐに調べます。エイオンシステム作動、周囲をサーチ……あーっ!そんな、みっしぃ…が…ぁ」
普段冷静なはずのティオが戦慄していた。
見れば、みっしぃの着ぐるみから頭部が外れてしまい、中の人が露出してしまっていた。
中の人は先程の衝撃で驚いた拍子に転んでしまったらしく、目を回して気絶していた。
既に介抱されている中の人は無事だが、ティオや熱烈なみっしぃファンには衝撃的光景だったに違いない。
「中の人などいません!みっしぃは、みっしぃなんです!」
ティオが必死に自分に言い聞かせている。
それはいいのだが、仰向けにした中の人の顔面に白い布を置くのはやめなさい。
「魔獣か?」
「いや、隕石だろ?」
「はーい、落ち着いてください。大丈夫ですから、落ち着いて」
落下物に対して様々な憶測が飛び交う中、警察官たちは市民を落ち着かせている。
全員がやけに落ち着いているのは、クロスベルが今まで様々なトラブルを乗り越えて来たからだろう。
『碧の大樹』や『結社の神機』に比べれば、隕石程度でパニックにはならない。
「な、な、な、なんということだぁーー!!」
一際大きな悲鳴が上がった。
それは長ったらしい挨拶を披露していた、太ましい議員マジーデであった。
叫び声を上げた彼は黄金像の前で喚き散らしていた。
ルーファス総督の黄金像、その首から上が綺麗サッパリ消失していたのだ。
マスコミが嬉々として黄金像を撮影する。
テレビで生中継をしているリポーターも突然のトラブルに興奮しながら実況を続けていた。
『面白くなって来やがった』という感情を隠しもしない彼らのなんと逞しいことか。
「これはこれはwどうやら首無しになってしまったようだw」
「か、閣下!?違います、これは私の意図したことでは」
頭部を失った像を見て、ルーファス総督本人が愉快そうに笑う。
あれは喜んでいるな。
尖ったアゴの自分が破壊されて喜んでいるな。
「デュラハン像として、このままにするのもアリだな。どう思う?」
「何を言い出すのです!…ええい!誰だ!私が丹精込めて作った総督閣下の像を台無しにした不届き者はぁ!」
真っ赤になったマジーデが激昂する。
像の頭部を破壊したのは、空から落ちて来た物体だろう。
その落下物は一体どこへ?
「ロイド、見て!何かいる」
「あれは……何だ?」
土煙が晴れると、落下物の姿形が見えて来た。
「まさか、人?……なのかしら?」
「え?何をどうやったらあんな状態に?」
エリィとティオ、そして落下物を目撃した誰もが『?』を浮かべて困惑した。
もちろん、自分とキーアも例外ではない。
広場の中心に何かが突き立っている。
それは随分と小さな、幼い子供の人体に見える物体だった。
逆さまになった子供の体、その首から上が地面にめり込んでいるのである。
なぜそうなったのか、まるで意味がわからない。
頭部を地面に埋没させたまま逆立ち状態なのも意味不明だ。
「ご覧ください、突然落ちて来た謎の物体、アレは一体何なのでしょうか?」
「はいそこ、危ないから下がって!下がれって言ってんだろ!」
落下物を撮影し報道しようとするマスコミと、すぐさま規制線を構築した警官隊が押し問答をしている。
特務支援課として自分たちはどう動くべきか思案していると、キーアが突然走り出した。
「助けなきゃ」
「待つんだキーア!」
「危ないわ、キーアちゃん」
「いけません。キーア、戻ってください」
止める間のなく謎の物体に近づくキーア。
慌てて追いかけた自分たちも規制線を越えて正体不明物へと接近した。
「おーっと!支援課です!特務支援課が登場しました。これは新たな大事件の前触れなのかぁ!」
「待て!お前たち、ああクソ…余計な仕事を増やすんじゃないぞ」
マスコミが好き勝手を言い、ダドリーさんも頭を抱えているが無視だ。
今はキーアの安全を第一に考えよう。
接近すると正体不明物の全貌がより鮮明見える。
やはりそれは逆立ちした子供のようで、上着やスカートが捲れあがってしまっていた。
スカートを履いているので、女の子なのだろうか?
黒いスパッツを大胆に見せつけているのが、なんだか酷く残念に思われた。
「武装している?」
「あの導力銃、おそらく特注品ね。相当な改造が施されているわ」
「腰にあるのは刀でしょうか?東方の特殊工作員が好んで使う形状です」
やはり普通ではない。
空から落ちて来た時点で既に普通とはかけ離れた存在なのは明白だが・・・
キーアより小さな体の子供が、見慣れない武装をしているなどと怪しすぎる。
「ほぇー、すごい力を感じるよ」
先に到着していたキーアは感心したように正体不明物を観察していた。
「キーア、これ…この子が何か知っているのか?」
「全然知らない。でも、悪いものじゃないと思う」
「そもそも、これは人なの?」
「その前に生きているのでしょうか?さっきから全然動きませんが」
本当に何なんだこれは?
全員で首を傾げることになった。
その直後、今まで直立不動だった正体不明物がビクンッ!と震えた。
そして腕や足を激しく動かしたのだ。
「「「「ひぃっ!?」」」」
エリィたちや支援課を見守っていた周囲から悲鳴が上がる。
それはさながら、溺れた人間が藻掻き苦しむようであった。
バタバタ!ピチピチ!プルプル!
小刻みに震えたり、間接を無視した動きも見せるので正直気持ちが悪い。
悪霊に取りつかれた人かな?
ホラーである。
真っ昼間からやっていい人体の動きではない。
首無しの黄金像、そして首が埋まった子供の人体(動きがキモい)。
一体、クロスベルに何が起ころうとしているのか?
●
数分間藻掻いた人体(仮)は、手足を地面につけ力んでいるようなポーズをとった。
あれは埋まった首を引っこ抜こうとしているのか?
しかし、何度力んでも首はまるで抜けそうにない。
そんな状態を見かねたのか、キーアがそっと人体(仮)の肩に触れた。
触られたことにビクッ!と反応する人体(仮)
「大丈夫?困っているなら手伝おうか?」
キーアは人体(仮)を安心させるよう優しく語りかけた。
聞こえているのか不明だが・・・
「……!……!!」
「うん。うん。……そう、わかった。ちょっと待ってて」
さすがキーアだ。
正体不明物との会話すらやってのけた彼女に身内として鼻が高い。
「ロイド、みんなも手伝って!『頭が抜けないから引っ張って』ほしいって言ってるよ」
いいのか?引っ張っていいのか?
キーアに言われるがまま人体(仮)の足を持ち引っ張ってみる。
それはちゃんと血の通った人体であった。
エリィとティオも半信半疑で、同じようにする。
だが、支援課の全員が力を込めて引くが抜けてはくれない。
ここにランディがいてくれたらと思うが、彼は今とある事情でクロスベルを離れている。
人体(仮)が地面をタップし始めた。
痛かったのだろうか?
「『遠慮せず思いっ切り引っ張れ!』だってさ」
キーアはなぜ意思疎通ができるのか?本当に謎である。
再度力を込めて引っ張ってみる。
うんとこしょ、どっこいしょ。それでも人体(仮)はぬけません。
「これ大丈夫なの?首が千切れたりしないの?」
「怖い事言わないでくださいよ」
抜けない。マジで抜けない。
俺たち支援課だけでは力不足だ。
「まったく何をしている?」
「ダドリーさん。手伝ってくれるんですか?」
「サッサと終わらせるぞ。これ以上式典を中断させる訳にはいかん」
背広を脱いだダドリーさんや他の警察官、それと暇を持て余した市民たちが手伝ってくれることになった。
大事になって来たが仕方がない。
クロスベルの団結力を今こそ見せる時だ。
「いくぞ!せーのっ!」
「「「「どっこいしょぉぉぉーーー!!!!」」」」
「……!……!!」
ダドリーさんの号令の下、息を合わせた大人たちが一斉に人体(仮)を引っ張った。
エリィの危惧したように首が千切れないことを祈りるばかりだ。
何度か繰り返しいると、ついにその時が来た。
スポンッ!!
抜けた!人体(仮)の頭部がようやく地面から解放されたのだ。
今まで力を込めていたロイドたちは尻餅をつき、固唾を呑んで見守っていた周囲から歓声が上がる。
そして解放された頭部の持ち主は、すっぽ抜けた反動で宙を舞っていた。
体勢を立て直したロイドはそれを受け止めようとするが、その必要はなかった。
空中で器用に体を回転させたそれは、何事もなかったかのように地面に着地してみせたのだ。
「ふぅ……やっと、抜け出せました」
少女特有の軽やかで澄んだ美しい声がした。
「「「「…………は?」」」」
声を出した者の正体を見た誰もが言葉を失う。
それは子供だった。
小さな子供の姿をしていた。
見慣れぬ銃と刀で武装し、アンティーク調の鞄を持った子供。
健康的で色白の柔らかそうな肌、恐ろしく整った顔立ち。
非常識なまでに美しく可愛らしい少女だった。
そして何よりも目を引く特徴があった。
サラサラと風になびく頭髪と、意思の通った力強い瞳。
その色が唯一無二の存在だと主張していた。
少女の髪と目は虹色に輝いていたのだ。
「え?何?えぇ?」
「わぁ……あァ…」
「きれい……」
「なん…だと…」
「か、かわいい////」
ざわ・・・ざわ・・・
・・・ざわ・・・ざわ・・・
「み、見えますでしょうか!あの不思議な色をした少女が、落下物の正体だったようです!あまりの事に現場は騒然としております」
正気を取り戻したマスコミ陣がカメラを少女に向ける。
少女を見た人々も騒めきも酷くなる一方だ。
当の少女は状況を理解していないようで、キョトンとした顔をしている。
「虹だぁ、虹みたい!キレイだね~」
「?…どなたか存じませんが、あなたが助けてくれたのですか?」
「私、キーア。ロイドとみんなで引っ張ったんだよ」
「そうでしたか!皆様どうもありがとうございました。この御恩は忘れません」
物怖じしないキーアがいの一番に話しかけた。
虹色の少女も愛想よく応え、周囲に向けてペコリと丁寧なお辞儀をした。
「ここは?クロスベルで合ってますか?」
「そうだよ。ここはクロスベル。ねえねえ、どうして空から落ちて来たの?」
「犬っころにやられました。あいつマジで許しません」
「いぬ?……よくわかんないけど、クロスベルへようこそ…えっと、名前聞いてもいい?」
「あ、私としたことが自己紹介がまだでしたね」
少女は髪を手櫛で整え、服の汚れを軽く掃ってから小さく咳ばらいをした。
「私はイリス。どこにでもいる普通の女の子です」
『それは違うよ!』と、その場にいる全員がツッコミを入れた。
普通の女の子は空から落ちて来ないし、虹色もしていないんだよなあ。