クロスベルに到着(墜落)して早々、警察のご厄介になってしまった。
こうなったのも全部、あのクソ犬が悪い!
この恨み晴らさでおくべきか!
「ごちそうさまでした」
私は今日、新たな知見を得た。
取調室で食べるカツ丼、メッチャ美味い!
美味すぎておかわりしちゃったよ。
厚めに切ったジューシーなカツとスライスされた玉ねぎの甘味、それらを包み込むふわとろの溶き卵。
そこに甘じょっぱいタレが絡み合い渾然一体の丼が完成している。
つまり最高なのであった。
カツ丼二杯、大変おいしゅうございました。
ブラスターを二連発したせいか、凄くお腹が空いていたのでぺろりと完食できたよ。
お腹が満たされ幸福感に包まれる。
このままお昼寝でもしたい気分なのだけど、現在地は警察署内なんだよなあ。
昼寝はここを出てからにしよう。出られるよね?
パトカーに乗って連れてこられたのはクロスベル警察署だった。
先程まで取り調べという名のお喋りをしていて、今は食事を兼ねた休憩中である。
カツ丼を食べさせてくれるということで、取り調べには話せる範囲で真面目に答えた。
『真犯人は犬!』という私の訴えは黙殺されてしまった。残念でならない。
取調室は窓の無い部屋に監視カメラがあり、出入口には今も見張りの警察官が待機している。
なりふり構わず強引にここから逃げだすことも可能だけど、それをやったら私はガチの凶悪犯になってしまう。
今後の活動に支障をきたすような行動は控えるべきだよね。
そんなわけで今しばらくは大人しくしよう。
カツ丼を食べ終えて一息ついていると、ひとりの男が取調室に入って来た。
先程まで取り調べを担当した〖アレックス・ダドリー〗という捜査官だ。
私に手錠をかけてしょっぴいた人物である。
眼鏡をかけたエリートビジネスマン風の男性で、いかにも仕事が出来そうな男だ。
捜査一課の主任捜査官という肩書も彼にピッタリである。
そのダドリーさんが対面に座り疲れたような顔をした。
「……釈放だ」
しゃくほう?今釈放と言ったよね。
つまり、私がテロリストではないことが証明されたんだな!
やったぁー!
嬉しいけど急な展開すぎる。何かあったのだろうか?
それとテロ容疑は晴れたけど、金ピカ像の頭を壊した罪はどうなる?
もしかして、弁償とかしないといけないの?
「像を壊した件は不幸な事故として処理することが決定した。今後、お前が罪に問われることはない」
「寛大な処置に感謝感激です」
「礼なら、ルーファス総督にするんだな。あの人の温情がなければ留置所送りだったぞ」
あの金髪王子様が手を回してくれたらしい。
さすが!イケメンは心もイケメン!
惚れてもいいですか?
「それだけではない、現在進行形で警察署に抗議と減刑を嘆願する声が殺到している。遺憾ながら、クロスベル市民の大半はお前の味方だ…」
なんと!市民の皆さんが私を助けようとしてくれている、だと?
私のような見ず知らずのガキのために行動を起こすとは、クロスベルは慈悲深い人たちが多いんだね。
あったけぇ・・・人の優しさが身に沁みるぜ。
「総督と市民のノリにはついていけないが、そっちはまあいい。問題は…」
ダドリーさんは疲れた表情のまま私をジッと見つめた。
そんな目で見つめるなよ…
興奮しちゃうじゃないか…❤
「イリス、もう一度改めて聞く。お前は一体何者だ?」
初対面の人っていつもそうですよね・・・!
私のことを何だと思っているんですか!?
「何度でも言いますが、私は何処にでもいる平々凡々な女の子で…」
「それはない!」
食い気味に否定されちゃった(´・ω・`)
私ってそんなに変かな?
ちょっと髪と目が虹色で、たまにビーム吐くだけだよ。
すげぇ変な奴じゃん!!
「お前を『釈放しろ』と抗議して来たのは市民たちだけではない。遊撃士協会と七耀教会からも厳重な抗議がよせられた」
ひょ!?
なんでギルドと教会が私のために動く?
そっか、きっと知り合いたちが動いてくれたのだ。
そうなるとだよ・・・もしかして見られた?
私が逮捕された決定的瞬間を知り合いたちに見られてしまった!
この分だと、ケビンさんやアガットさん、レンねえさまや他の人たちにも・・・
ほわぁぁぁぁ!イヤァァァァッ!
めがっさ恥ずかしいぃよぉ(〃ノωノ)
「極めつけは、リベール王国の王室から『今すぐ釈放しないと国際問題に発展する』という脅しに近いメッセージが届いたことだ。それも次期女王陛下から直々にな…警察上層部がどれだけ血相を変えたか、想像できるか?」
クローゼさんんんっ!
物凄くありがたいけど、何してるんスか?
やめてよぉ、一国の姫様が出てきたら大事じゃん。
これならまだエステルが動いた方がマシ・・・
あっ、なんか察したわ。
これエステルとクローゼさん結託したな。
ヨシュアさんとカシウスおじさまが止める間もなく即断即決しやがりましたね。
ホントにもう過保護なんだから。
「まさか…リベールの王族だったりするのか?」
「冗談がキツイですよ。私は天涯孤独の流浪人にすぎません。るろうにイリスです」
「お前みたいな子供がひとり旅をしているのが既に冗談だ」
各方面から圧力を受け、泡を食った上層部からも『即刻釈放せよ』と命令されてしまったらしい。
七耀教会からは私のことを詮索するなとも言われたとか。
それでダドリーさんは疲れていたのね。納得した。
「災難でしたね」
「元凶に労わられてもな…はぁ……」
ともかく私は釈放されることになった。
警察署を後にする前に、手間を取らせた事の謝罪とカツ丼のお礼を述べておこう。
「カツ丼二杯分のお金払います。おいくらですか?」
「子供が変な気を遣うな。俺の奢りにしておく」
「でも……いえ、ゴチになります!」
「フン…」
貸し借りを作るのは気が進まないけど、人の親切を素直に受け取ることも時には必要だ。
ここはありがたく奢ってもらおう。
ダドリーさん、仕事には厳しそうだけどいい人だな。
ツンデレ捜査官として慕われていそうだ。
そういう男嫌いじゃないわよ!
押収されていた
「ダドリー捜査官~。こちらが、イリスちゃんの押収品になります」
「ああ、すまないな」
「ふぅ…とんでもない重量でしたよ。小さな女の子がひとりで全部持っていたなんて信じられない」
私の武器は普通の人にはかなり重たいらしい。
耐久性を重視しているため、材料に超硬度の金属を使用しているのだが、そいつがとにかく重いのだ。
そして、法王様から頂いた便利な収納アイテム【強欲な鞄】の重さは250クリム。
「私はこう見えて力持ちなんですよ」
「そうは見えないけど…ま、イリスちゃんなら仕方ないか」
女性警察官の名前は〖フラン・シーカー〗
クロスベル警察本部でオペレーターとして勤務している人だ。
ほわほわした雰囲気の優しそうなお姉さんで、警察署に連行された直後の私にも気軽に話しかけてくれた。
恋愛トークがお好みらしく、取り調べが始まる前に少しお喋りして仲良くなったのだ。
カツ丼を配膳してくれたのも彼女である。
「その銃や刀は本物?」
「本物ですよ。殺傷能力は超強い聖職者たちのお墨付きです」
「鞄の中、ちょっと見えたんだけど…真っ黒な闇?みたいなのが広がって…」
「その鞄は秘密道具なのです。気にしたら負けです」
フランさんたちは特注品の武器や便利な鞄の事を訝しんでいたが、教会の偉い人にもらったと言ったら黙った。
教会怖いから仕方ないね。あの人たちは敵に回したらアカンよ。
武器に異常はない、鞄や貴重品類もオッケー。
ではいつものように装着だ。
うんしょっと・・・プッピガン!
「何の音!?」
「ゲップです」
「金属音がするゲップだと!?」
「ご存知ないのですか?女の子はカツ丼を食べると『プッピガン!』というゲップをするのですよ」
「そ、そうなのか…」
「いや嘘に決まってるでしょ。騙されないでくださいよ、ダドリー捜査官」
「くっ、虚偽申告罪だぞ」
プッピガン!に反応する大人たちが初々しい。
慣れるとアガットさんみたいに『うるせぇ』とすら言ってくれなくなる。
リースさんは『イリス、屁こかないで』と毎回言って来たけど、それも嫌だ。
正面玄関は大勢のマスコミが押しかけており大変騒がしい。
現在、世間を騒がせた謎の人物が警察署いるらしく、出て来たところを突撃取材する魂胆なのだとか。
「迷惑な人もいるものですね」
「こいつ自覚がないのか?アホなのか?」
「イリスちゃん、やっぱり面白い子w」
マスコミを避けるため、裏口から外に出ることになった。
「大変お世話になりました」
「もう戻って来るんじゃないぞ。いいか、頼むから来ないでくれ」
「フラグ立ててます?」
「立てとらん!」
「イリスちゃん、またね~」
「はい。ダドリーさん、フランさんも、ありがとうございました」
二人に見送られて警察署を後にした。
「う~…シャバの空気が美味しい」
取り調べで凝り固まった体をほぐす。
逮捕された時はどうなる事かと思ったけど、割りと早く出られて良かった。
これも、私のために尽力してくれた人たちのおかげだ。
知り合いたちには、ちゃんと私が釈放されたことをお礼と共に伝えておこう。
まずは今日の宿を見つけて、その後は街を巡りながら情報収集といきますか。
奴に繋がる手がかりがあればいいが・・・。
「待ってなさいよ。クソ犬!」
●
旧市街にある安宿で寝泊りする事にした。
数日分の料金を前払いして、ひとまずの拠点を確保だ。
いきなり逮捕されたりと散々だったが、今よりクロスベルでの活動開始じゃい!
最初に行くのは遊撃士協会だ。
無事釈放されたことを伝えて、これ以上の抗議は必要ないと言わなければならない。
遊撃士協会は横の繋がりが強い組織なので、クロスベル支部での話はすぐリベール王国側にも伝わるはずだ。
それでエステルやクローゼさん、その他の人たちも、振り上げた拳を下ろしてくれることを願う。
モンスターペアレントの暴走を見ている気分がして居たたまれないのよ。
私を大事に思ってくれる気持ちは大変嬉しいのだけどね。
「そろそろ来ると思っていたぜ、
「その二つ名、私は認めていません」
遊撃士協会クロスベル支部、受付の男性は私を見るなり二ヤリと笑った。
不名誉な二つ名がこんなところまで広まっていたの最悪。
「お前さんのことはリベールの連中から聞かされている。さっそくやらかしてくれたなw」
「アレは不幸な事故だったんですよ……えーっと、リベールの遊撃士協会から圧力的な何かをされましたか?」
「おう、いろいろ凄かったぜ。王国の名立たる遊撃士から『イリスを助けろ!』って連絡がもう引っ切り無しでよ」
「申し訳ございません!あの人たち私に甘いというか過保護なので…」
「わかってるよ。愛されてんだなぁ、ゴブリンw」
ゴブリン言うな。
受付さんと話をしていると、クロスベル支部所属の遊撃士たちが私を見つけて集まって来た。
いつものように髪と目に言及されたり、容姿を褒められたり可愛がられたりした。
彼らの反応は概ね好意的である。
カシウスおじさまにもらった遊撃士バッジを見せるまでもなく、私のことは知れ渡ってしまったようだ。
ここでも私は依頼を受けることが可能らしく、遊撃士(仮)としての活動も許可された。
クソ犬についての情報がないか聞いてみることにする。
遊撃士ならば、この近辺に生息する魔獣たちにも詳しいはずだ。
「人を襲う犬ねえ……そんな魔獣が出たなんて話はないな」
「クロスベルには犬…狼型の魔獣はいないのですか?」
「うーん。魔獣とは違うが、神狼の眷属はいるぜ」
「しんろう?」
クロスベルには童話として『聖女と白い狼』の伝説というのが存在する。
お話に出て来る狼は〖神狼〗として民間信仰の対象となっているらしい。
森に暮らす狼たちは神狼の眷属とみなされており、人を襲うことはないので魔獣とは認定されていない。
それどころか狼たちは人里から魔獣を追い払ったり、森で遭難した者を助けたという逸話もある。
以上の経緯があり、クロスベルに生息する狼たちは特定保護動物として狩猟等が固く禁じられているのだとか。
そういえばあの犬っころの毛、青だけじゃなくて白も混じっていたな。
伝説の神狼まさかね・・・
犬っころの情報が入ったら知らせてくれる約束を取り付け、私は次の場所へ向かった。
・・・・・・・
住宅街からマインツ山道へ進み少し歩けば到着だ。
七耀教会のクロスベル大聖堂。
アルテリア法国の総本山とは比べるべくもないが、ここも中々綺麗な教会である。
見晴らしの良い場所に墓地も併設されていて、お墓参りをしている人も見受けられた。
この教会のトップはエラルダ大司教いう厳格な人物だ。
彼は〖典礼省〗の出身であり、裏の仕事を担当する〖封聖省〗の存在をよく思っていない。
よって、封聖省の下部組織である〖星杯騎士団〗の活動にもご立腹らしい。
これらの情報は全部ケビンさんたちからの受け売りである。
身分を偽り潜入調査をしていたワジ君も、当時は何かと苦労したと言っていた。
不良のフリをしていたとか?
危険な臭いのするワジ君はちょっと見てみたい。
「…虹の御使いか」
エラルダ大司教は私を見るなりそう言った。
私の情報は教会の偉い人には周知されていると思ってよさそうだ。
「そんな大それた者ではありません。しばらくクロスベルに滞在するので、今日はご挨拶に伺ったまでです」
それと、私の釈放を嘆願してくれた事にも感謝している。
ありがとうございましたぁ!
「本部からの指示に従ったまでだ。悪徳議員に一泡吹かせたことが痛快だったとか思ってはおらん」
悪徳議員とは、私をテロリストだと決めつけた太ったおじさんのことかな。
ダドリーさんも愚痴っていたけど、あの人いろんなところで嫌われてるなあ。
「御使いよ、この地に留まるならば覚悟することだ。例え法王猊下の勅命でも、私の目が黒いうちは悪逆非道な行いは看過しないと知れ」
はーい。なるべく大人しくしています。
私はとってもいい子なので、大司教も大船に乗った気でいてください。
「クロスベルに来て早々、大騒ぎを起こした者が何を言う」
「本当に申し訳ございません(>_<)」
うぅ…犬っころのせいで謝ってばっかりだよ。
あの野郎、マジで許さんからな。
大司教も私の探している犬については心当たりがないそうだ。
ここでも〖神狼〗の話を聞いたけど、やはりそいつが私を撃ち落とした奴なのか?
情報が足りないな。まだ捜査する必要がある。
若干塩対応だった大司教であるが、教会には今後も自由に出入りしていいとの事だ。
困ったことがあれば相談ぐらいには乗るとも言ってくれた。
ツンデレ捜査官の次はツンデレ大司教か、嫌いじゃないわ!
空の女神にお祈りをしてから次の場所へ出発進行~。
・・・・・・・・・・・・・・
クロスベル市内をぐるりと一周して大体の主要施設は把握できた。
面白そうな店もたくさん発見したので、これからが楽しみである。
街を巡っていて分かった事だが、想像以上に私の面が割れてしまっている!?
私の髪と目はいつも人目を引くけれど、クロスベル市民の反応はこれまでに訪れたどの街よりも際立っていた。
往く先々で声をかけられたり、写真を撮られたり、握手やサインを求められたと忙しいのなんの。
ヤダっ!私ってば一躍スタァの仲間入りしちゃったのね(´∀`*)ウフフ
サングラスとかかけた方がいいのかしら?
虹色の髪でバレるから意味ないか。
西通り、美味しそうな匂いに誘われた私はベーカリー《モルジュ》というパン屋さんにたどり着いた。
小腹が空いたのでいくつかパンを購入してみる。
店の外にテラス席があるので、さっそく頂いてしまおう。
パクリ・・・うんま~い(*´▽`*)
この店は当たりなのでリピート必至だ。
「あー!テレビで見た変な奴がいるぞ!」
私がパンに舌鼓を打っていると、知らない少年がこちらを指差して叫んだ。
変な奴?後ろを振り返っても誰もいない。
もしかして私のことか?
なんだてめぇ?無礼千万であるぞ!
「ちょっとリュウ、やめなよ。いきなり失礼だよ」
「わっ、わ、虹色…きれい」
私を変な奴呼ばわりした少年、その背後から新たな子供たちが増えた。
ひとりは利発そうな少年で、最初の子より話が通じそうだ。
もうひとりは私を見てモジモジしている小柄な少女だった。
なんだこの三人組は?
「なあなあ!お前が金ぴか像ぶっ壊した奴だよな。すげぇな、総督の命を狙ったとかマジなのか?逮捕されたんだろ、牢屋に入ったりしたのかよ?なあ!」
リーダー格のやんちゃ坊主が詰め寄って来る。
ちょっとぉ、私今食事中なんですけどぉ(T_T)
距離感おかしい奴は嫌いなんですけど?
悪いけど私の好きなタイプは年上の男性である。ガキには興味ないね。
15歳未満はお断り!子供はママのところにでも帰んな。
無言のままジト目を続けていると、何故かやんちゃ坊主は顔を赤らめて後退した。
私を見たガキンチョにありがちな反応なので今更気にならない。
「突然何ですか?宗教の勧誘なら結構ですよ」
「そ、そ、そんなんじゃねえよ…////」
「リュウ君、照れてるのw」
「だねー。あの子、すごく可愛いから仕方ないよ」
「お、お前らうるせぇぞ」
子供たちが楽しそうに騒いでいる。
私はそれを横目で見ながら残りのパンを完食した。
元気な子供がいる街は平和ってことだよね。
「俺たちは《少年特務支援課》だ。クロスベルの事件は俺たちが解決するんだぜ。驚いたか?」
聞いてないのに答えられた。
少年特務支援課?まったく知らんな!
「遊ぶなら他を当たって下さい。私暇じゃないんです」
「パン食ってただろうが!」
パンぐらい食べますよ。
クロスベルでは虹色のガキは食事したらアカンのか?お?
「ごめんね。ちょっとだけ、君と話がしたいんだけど、いいかな?」
「まあ、少しだけなら…」
「やった。私、モモって言うの」
「僕はアンリ、こっちのうるさいのがリュウだよ」
「うるさいのとか言うなよ」
なるほど、この子たちはアレだ。
体は子供で頭脳は大人な名探偵の友人キャラだね。
「アユミにミツヒコ、それとゲンタですね。覚えました」
「全然違う!?」
「ゲンタ君、あなたはもっと太って下さい。うな重でも食ってろ!」
「ゲンタじゃねーよ!」
はいはい、リュウ君とアンリ君にモモさんですね。
名前を教えてもらったので、こちらからも『おっすオラ、イリス』と自己紹介しておいた。
この子たちは例の《特務支援課》に憧れて、勝手に《少年特務支援課》通称・JSSSを名乗っているそうだ。
ごっこ遊びなのだろうけど、本人たちは割と本気で街の治安を守っているつもりらしい。
「微笑ましいですね。まともに成長したら、きっといい警察官になれますよ」
「なんで上から目線!?お前の方が俺たちより年下だろ!」
「そう見えますか?」
「うん。イリスちゃん、モモより小さいの」
くっ、身長で負けてしまっているのが悔しい。
でも私は年齢不詳なのでワンチャン、モモさんより年上かもしれないのよ。
少年特務支援課は西通りを中心に活動しているんだってさ。
きっと家がこの近所なのだろう。
そうだ、一応この子たちにも聞いてみよう。
子供の直感や情報網が役に立つことだってあるはずだ。
「人を襲う青い犬?」
「そうです。青と白の毛も混ざった、割とでかい犬を知りませんか?」
「手配魔獣とかではないんだよね。だとしたら…」
「……ツァイト君、なの?」
「ああ!確かに条件はピッタリ合ってるな」
「でも、警察犬が人を襲うかな?」
「すみません、そのツァイトとかいう奴について詳しく!」
子供たちから得た情報は今日一番の収穫だった。
《特務支援課》には1匹の警察犬がいる。
神出鬼没の彼はとても賢く、人間の言葉を理解している節がある。
特務支援課と共に事件の解決に貢献し、あのキーアさんと大変仲がよろしいのだとか。
これは一度、挨拶に向かうべきだ。
宿に戻った私は今日一日の捜査情報をまとめてから眠りに就いた。
●
翌日、私は特務支援課が拠点としている三階建てのビルを訪れた。
インターホンを鳴らして声をかけてみる。
「ごめんくださーい」
しばらくすると、今起きたと言わんばかりの寝ぐせをつけた男がドアを開け顔を覗かせた。
「……ふぁ…ん?お前さんは、どこかで見たな…」
「突然の訪問失礼します。特務支援課の皆様はいらっしゃいますか?」
「あー悪いな。今は他の面子が出払っている」
「それは残念です。中で待たせてもらっても?」
「いつ戻るかわからんが、まあいい、とりあえず入んな」
「お邪魔します」
建物の中へ通された。さっそくお宅拝見。
1階が事務所兼ロビー、2階と3階をメンバーの居住区として割り当てられている感じか。
「俺は〖セルゲイ・ロウ〗支援課で名ばかりの課長をやっている」
「昨日クロベルにやって来た、イリスです」
「あー思い出した。総督の像ぶっ壊してテロ容疑かけられた奴。ダドリーがぼやいていたっけかw」
セルゲイ課長はダドリーさんの顔なじみらしい。
呼び捨てにするあたり、近しい間柄だったりするのかな?
「なんか飲むか?と言っても、コーヒーぐらいしかないが」
キッチンスペースでコーヒーを準備しようとするセルゲイさん。
寝起きなのか、その手つきはお世辞にもいいとは言えない。
「よろしければ、私が淹れましょうか?」
「あ?いや、客にやらすことじゃないが……いいのか?」
「任せて下さい。キッチンお借りしますね」
よそ様の台所だけど、コーヒーぐらいなら何とかなる。
豆や道具類がどこにしまってあるかだけ教えてもらい、私はドリップ式のコーヒーを二つ用意した。
セルゲイさん用のはブラックで、私用のはお砂糖とミルクもつけてと・・・
「……うまい。こんなに美味しいコーヒーは久しぶりだ」
「お粗末様です」
コーヒーを飲んだセルゲイさんはやっと警察官らしい顔つきになって来た。
私と雑談を交わしながらも、鋭くこちらを観察しているのがわかる。
この人、飄々としているけどやり手の警官なのかもしれない。
「イリスだったな。俺たち支援課に何か頼み事か?」
「少々、確認したいことがあります。こちらに警察犬がいると伺ったのですか、その犬は今どちらへ?」
「ツァイトのことか?そういえば昨日から姿を見ていないな。まあ、あいつは常駐しているわけじゃないし、気が向いたら戻って来るだろうさ」
支援課の警察犬は基本放し飼いらしい。
そんなのでいいのか?ちゃんとリードを付けてないと危なくない?
「その警察犬がどんな姿をしているか教えてもらっても?」
「ああ、それなら写真がある」
セルゲイさんが棚に飾ってあったフォトフレームを見せてくれた。
それは集合写真だった。
支援課ビルの玄関前でキーアさんや、昨日見た警察官たちを写したものだ。
私の目は写真の一点に釘付けとなる。
そこに、奴はいた。
私を撃ち落とした犬っころが写真に写っていたのだ。
見つけたぞ、コノヤロウ!!
「何か?おかしなところでもあったか?」
「いえ、疑問が解消されてスッキリしました」
「???」
〖ツァイト〗とか言うクソ犬め。
まさか警察犬のフリをして支援課に紛れ込んでいたとはな。
きっと、こいつの邪悪な本性に気付いているのは私だけだ。
市民に被害が出る前に、早急に処理しなければならない。
マジでどうしてくれようか?
「お、おい。なんか嬢ちゃんからヤバいオーラが漏れてる気がするぞ」
「お気になさらず。私ぐらいの子供にはよくある現象です」
「えぇ……」
いけないいけない。
武者震いと共に虹霊子がちょっと漏れちゃったよ。
犬をボロ雑巾にするシーンを想像して興奮しちゃった。
「ただいまー……あれぇ?イリスがいるー!?」
「あ、キーアさん。どうも……ふべっ!?」
「イリス、イリス、イリスーー!会いたかったよー!」
日曜学校から帰って来たらしい、キーアさんが私を見つけて突撃して来た。
鋭いタックルがみぞおちに決まり一瞬息が止まってしまう。
「かはっ……き、キーアさんは今日も元気ですね」
「元気だよ。それよりイリス大丈夫だった?警察で酷い事されてない?」
「この通り無事です。ご心配をおかけしました」
「なんだ、お前たち知り合いだったのか?」
「うん。私たち友達なんだよ」
「頭を引っこ抜いてもらった恩があります」
セルゲイさんは私をキーアさんに任せて自室へと引っ込んでいった。
私はキーアさんの分のコーヒー牛乳を作り、お喋りに興じる事にした。
もちろん、彼女から〖ツァイト〗の情報を聞き出すためである。
「では、街に居ない時の彼は市外をパトロールしているのですね?」
「うん。街道沿いを散歩しながら、強い魔獣や悪い人がいないか、監視してるって言ってた」
ほう、いっちょ前に番犬気取りか?
そうやって人間に取り入って何を企んでいるのやら。
「ツァイトに会いたいの?」
「ええ、ものすごく会いたいです」
「ツァイトの毛、超モフモフだもんね。イリスが会いたい気持ちもわかるよ」
「良質の毛皮が取れそうで楽しみです」
「気のせいかな。私とイリスの会話、噛み合ってない気がするよ」
「そんなことありませんよ。ふふ…」
楽しみだなぁ。早く会って撃ち落とされたお礼がしたいよ。
倍返しにしてやるから期待してろ!!
キーアさんとのお喋りを終えた私は宿に戻り準備をした。
今夜から張り込み開始である。
私が調べた結果、奴はキーアさんに執着を示している事が判明した。
彼女を監視していれば、いずれ姿を見せるだろう。
日中はキーアさんをさりげなくストーキングし、夜間は支援課ビルがよく見えるデパートの屋上に陣取り、標的が現れるのを待つ。
想定外の人物と遭遇するハプニングもありつつ張り込みを続け、数日後ついに奴は現れた。
クロスベルの街がまだ静かな早朝、日課の訓練をするため街道へ出ようとした私をそいつは待っていたのだ。
そっちから来てくれるなんて嬉しいなあ。
青と白の体毛に覆われた姿は見間違えるはずがない。
「数日ぶりですね…会いたかったですよクソ犬!」
「犬ではない、我は狼だ」
知ったことかぁ!
なんで喋ってるのかも知らん。
覚悟しろよこの犬畜生が!