虹色イリス   作:青紫

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自由への逃走

 死んだ。

 

 名前も決まり人生これからという時に死んでしまった。

 残念無念、このままでは成仏などできるはずもない。

 

 やりたい事がいっぱいあった。

 叶えたい望みがたくさんあったのだ。

 挙げるとキリがないけれど、思いつく限り抜粋してみる。

 

 おいしい物をお腹いっぱい食べたい。

 暖かい布団でぐっすり眠りたい。

 冒険小説本の続きや、いろんな本を読んでみたい。

 広い世界を自由に歩き、この目で耳で全身で、この世界を感じ取りたい。

 

 いろんな人に会っていろんな話をして、笑ったり、泣いたり、怒ったりしたい。

 

 友達がほしい

 仲間がほしい

 家族がほしい。

 

 恋とやらを経験してみたい。

 自分以外の誰かを好きになってみたい。

 私の事を好きだと言ってくれる、素敵な誰かに会ってみたい。

 

 私はただ・・・今を生きていたかった。

 

 でも、それは叶わぬ夢・・・

 私の短い冒険はここで終わったしまったのだから。

 まだ何も始まっていないのに、終わるの早すぎない?

 なぜ私はあんなムダな時間を・・・

 ババアとの生活で時間を浪費したことが心底悔やまれる。

 

 思えば今まで頑張り過ぎたんだよなあ。

 雨にも負けず風にも負けずババアにも負けないよう、ずっと気を張ったまま生きて来た。

 小さな体で本当に、ここまでよく頑張ったと思うよ。

 誰も労ってくれないけど、自分だけは、自分を褒めてあげたい。

 

 ふぅ・・・

 なんだか疲れちゃった。

 

 もういいか・・・

 

 もういいよね?

 

 もう我慢しなくていいんだ・・・

 もう頑張らなくていいんだ・・・

 

 もうゴールしてもいいよね?

 

 もうこれで終わってもいい・・・

 だから・・・

 ありったけを・・・

 

 違う違う、なんか混ざってる。

 ありったけの念能力は要らないです。

 可愛いイリスちゃんが、ガチムチのイリスさんになったらヤバいでしょ。

 

 大層お疲れな私は、安らかな眠りを享受したいのよ。

 そういうわけで、

 

 おやすみなさい( ˘ω˘)スヤァ

 

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 

「まだよ……」

 

 ???

 

「まだ終わらない…」

 

 声が、聞こえる?

 

「いつか終わりの時は来る…でもそれは…」

 

 何かいる?

 

「今じゃない」

 

 グゴゴゴゴ……

 誰だ?わが眠りをさまたげる者は?

 安眠妨害しないでくださる?

 

 切ない感じでゲームオーバーを迎えた私は何者かの声に目を覚ました。

 気持ち良くまどろんでいたところを起こされて、私は今ちょっと不機嫌です。

 

 私はゆっくりと身を起こして目を開ける。

 あれ?おかしいな?体が…今の私には実体が感じられる!?

 何も見えない聞こえない、自意識だけが揺蕩(たゆた)う静かな所にいたはずでは?

  

 そこは真っ暗な空間だった。

 地面があるのか定かではないが、とりあえず立ち上がってみる。

 普通に立てた。ジャンプもできた。歩いて走って反復横跳びしても問題なし。

 全方位を闇が覆っている。どこまでも続く暗闇だが、不思議と恐怖は感じなかった。

 

「ここは?」

「心の奥底、深層領域とでも思えばいい」

 

 疑問に答える声あり。

 ずっとスルーしていたが、1人の少女が私のすぐそばにいるんだよね。

 闇の中でも彼女の体はしっかりと認識できる、不思議だねぇ。

 

「誰?」

「イリスよ」

「いや、それ私の名前…」

「そう。イリス(わたし)はあなた、あなたはイリス(わたし)

「訳がわからないよ?」

 

 なんなのこの子?

 名前を尋ねたら『お前は俺だ』とか言い出したぞ。

 頭の残念な子なのかな?

 私のドッペルゲンガーを演じるつもりなら、せめて姿を真似しろっての!

 

 目の前に佇む少女、その背丈は私と同じぐらいで、身に付けている服も同じ庭園支給の検査着だ。

 チビと呼ばれる体格と顔の造りも、まあ似てるっちゃあ似ている。

 だけど、この少女と私では決定的な差異あるのだ。

 

 それは色だ。色が全然違う!

 

 私の髪は何の変哲もない薄茶色をしていて、

 瞳の色もまったく面白味のないブラウン(茶色)だ。

 全体的に茶色ですまない。

 

 対して謎の少女は、髪も瞳も色鮮やかだ。

 自ら光を放つかのように淡く輝いて見える。

 なんて、なんて美しいのだろう。

 思わず目を奪われてしまい、ずっと眺めていたくなる美しさ。

 どこかで見たことのある、七色の光彩。

 呆けたまま私の口から声が漏れた。

 

「にじ…いろ……」 

 

 少女の髪と瞳は、虹色だったのだ。

 

 ●

 

 自称イリスちゃん(レインボー)と対峙する私(ブラウン)

 

 レインボーってお前・・・

 こんな変ちくりんカラーではさぞや生き辛いだろうな。

 派手でしょうがないというか、目がチカチカする。

 かくれんぼしたら即行で見つかるだろw

 

「問題ない。キラキラは調節できる」

「できるんだw」

 

 宣言通り、キラキラ加減を上下してみせるレインボーちゃん。

 最大だと『うおっまぶしっ!』てな感じで直視するのも辛いが、

 しっかり抑え込めば目に優しく、日常生活にも支障をきたさない。

 その日の気分に合わせて【弱・中・強】みたいに段階的に調整できたら楽しいだろうな。

 

 ・・・・・・・・

 

「レインボーちゃん。あなたの正体は…虹の雫なの?」

 

 虹色の輝き、それはあの石ころと同一だと私は直感した。

 というか、それしかないと思う。

 古代遺物なら、死者の魂に語りかける奇跡を成したとしても不思議ではない。

 私の問いかけにレインボーは微笑を返すだけだ。

 それは肯定と受け取っていいのか?

 

「行こう、(イリス)…」

 

 どうした急に?

 行くってどこに?

 私は、どこにも行けないよ?

 だって…私はもう、終わってしまったんだから

 

「違うよ、(イリス)。終わってなんかない」

 

「ここから、始まるの」

 

 始まる?何が?

 

「【空】と【幻】が現界した、【焔】と【大地】から生まれし七つの【鋼】も動き出す」

 

「【黒】に気を付けて、アレを【巨イナル一】にしてはダメ…」

 

 うわーん!

 意味深な用語が多くてチンプンカンプンだよぉ。

 

「行こう、(イリス)…みんなのところへ」 

 

 みんなって誰!?

 一方的に何かを告げて、微笑を浮かべたままのレインボー。

 そっと私に手を差し出して来た。

 混乱しっぱなしの私は、なんとなくその手を掴んでしまう。

 

 ちょっ!?レインボーの体がなんか薄くなって、ぼんやりとした光の粒子へと・・・

 お前・・・消えるのか?

 

「始まるよ…準備はいい?」

 

 いいわけないだろ!

 何がなんだか分からない事だらけだ。

 うわぁ!?私の体も薄くなって来たぁ!!

 ちっくしょー!せめて何が始まるか教えてよー?

 

「虹の軌跡を描く、(イリス)の物語が始まるよ」

 

 なんですかぁそれは!?

 打ち切りの臭いがプンプンするぜ!

 

 ●

 

 目が覚めた。

 なんだか頭がボーっとする。

 もうひとりの私がいて、それから打ち切り作品の主人公に抜擢される夢を・・・

 アレは本当に夢だったのか?

 というよりも、何故私はまだ生きて・・・ここどこ!?

 今の私、どういう状態?

 

「…ガボッ!……!?」

 

 自分の置かれた状況がよくわからない。

 声が出せない、まさかここ水中!?

 でも息苦しいとかはないな。緑色の液体に私は浸かっているみたいだ。

 落ち着け、まずは冷静になって現状把握だ。

 

 私は改造魔獣に襲われて致命傷を負った。

 これは間違いない。

 で、変な夢を見たと思ったら、今は緑の液体プールを満喫中だ。

 クリームソーダみたいな色してるな。

 味はどうだろう?・・・うん無味!

 あ!思い出した。

 コレって研究施設で見た改造魔獣の培養槽を満たしていたヤツだ。

 酸素を直接肺に送ってくれるから窒息しなくてすむとドクターが言ってたな。

 え?私ってば、魔獣用のカプセルに入っちゃってる?

 まさかドクター・・・私を改造したのか?

 

 イヤァァァぁ!!なにしてんのよぉぉーー!!

 

 確かに私は検体だったけど、助手として精一杯お手伝いしたじゃない。

 ドクターだって多少なりとも、私に愛着を持ってくれていると信じていたのに、この仕打ちか!

 いや待て、ドクターは庭園の中でも良識ある方だったはず?

 私に改造手術を施す指令を下したのはおそらく・・・アイツかぁ!!

 憎たらしい主任の顔が浮かんだ。アイツだ、あのキチガイ眼鏡がゴーサイン出しやがったに決まってる。

 もうマジ無理ぃ!せめて、本人の同意と意思確認をしてよぉ。

 ハハッ…実験動物にすぎない検体には人権はないってか…やっぱつれぇわ…

 

 ふーむ、私もいよいよ改造人間デビューか。

 ベルトは?変身アイテムのベルトはないんですか?

 決めポーズをしながら『変身!』とカッコ良く言ってみたい!!

 そうだ!必殺技も考えておかないと、トドメはやっぱキックですかね?

 なんだ、思ったよりワクワクするじゃないか。

 新番組『仮面ライダーイリス』はーじまーるよー♪

 

 仮面ライダーってなんやねん??

 なんかおかしい、頭の中に奇妙な言葉と映像の記憶がある。

 こんなもの私は知らない。

 知らないはずなのに、確かな情報として私の脳に刻まれている。

 これは、もしかして異世界の知識?

 私、実はウィスパードだったの?

 だからウィスパードって!なんやねーん???

 フルメタルパニックなパニック起こすぞコラ?

 

 ダメだ。完全に私の頭おかしくなっとる。

 改造手術のついでに脳みそクチュクチュされたのかもしれない。

 あのクソ主任ならやりかねんな!

 

 まあいい、存在しない知識のことはひとまず棚上げだ。

 まずはこのカプセルから出ないと、内側から開くのかコレ?

 私はどうやら円筒形の培養槽に入れられてている。

 ちゃんと検査着を身に付けていて、妙な管に繋がれているわけでもない。

 裸じゃなくて良かった・・・

 やっぱり内側に開閉スイッチらしき物は見当たらない。

 無理やりブチ破るしかないのか?貧弱な私にできる気がしないけど・・・

 特別な処理がされた強化ガラスをコンコンと叩く、硬そうだなあ。

 両手でちょっと強く叩いてみる。水の抵抗が邪魔だ。

 ドンッと音がしてガラスにヒビが入った!?

 え、嘘?案外脆い?これならいけるよ!

 二度三度と繰り返し叩き、四度目のパンチでカプセルは内側から砕け散った。

 緑の培養液と共に転がるように外へ出たぁ!

 

「…オボェェ……オロロロロ……」

 

 まず最初にやったのは体内から培養液を排出する事だった。

 つまりゲロです。ゲロインです。

 四つん這いの姿勢のまま、私はしばらくゲロゲロした。

 気のせいかしら?緑のゲロが心なしか七色に輝いて見えるわ。

 

 吐くモノ吐いてスッキリした私は周囲を見渡す。

 見覚えがない。研究棟の一室だとは思うが、どの辺りだろうか?

 検体の身分では立ち入り禁止の場所も多かったから、庭園の全てを把握できてはいない。

 とりあえず移動するか、おっとその前に濡れ透けの服を着替えておこう。

 検査着を堂々と脱ぎ捨てスッポンポンになる。誰も見てないからいいよね。

 

「傷が……ない!?」 

 

 裸になった自分の胸には、なんとも寂しい貧乳が鎮座していた。

 子供らしく瑞々しい肌には傷も手術痕も見当たらない。

 全身くまなくチェック、どこにも傷ひとつない・・・どういうことだ?

 私は魔獣に胸を貫かれ、その後滅多打ちにされボロ雑巾になったはずでは?

 先程まで浸かっていた培養液に治療効果があるとはいえ、あれだけの大ケガをここまで綺麗に治せるとは思えない。

 

「私の体どうなった?何をされたんだろう?」

 

 一気に不安が押し寄せて来る。

 冗談抜きで化物に改造されていたら、それは凄く困る。

 そもそも今の私、ちゃんと人の顔をしてるのか?

 体はやや引き締まった人間のロリだけど、顔だけクリーチャーだったら泣くぞ。

 鏡、鏡はありませんか?無いな、顔面の事はとりあえず保留にしよう。

 

 いつまでも裸族でいられない。

 ロッカーがあったのでそこから、手頃な服を拝借しよう。

 ロッカーの中には小さな私のサイズに合った検査着と靴があった。

 バスタオルもあったので濡れた体を隅々までを拭いておく。

 新品の検査着はともかく、使いこまれた靴は私が普段から愛用していたものだ。

 きっとドクターが用意してくれていたのだろう。

 ドクターに感謝しつつ、着替えを済ませて靴を履いた。

 よし、行動開始だ。

 

 出入口は機械仕掛けのロックが施されている。

 庭園の正門と似た感じの重厚な扉だ。

 普段なら庭園のシステム管理用機械知性が応対してくれるのだが、呼びかけてもボタンを押しても反応がない。

 システムダウンしている?ちょうどメンテナンス中だったりして・・・

 私の思考は中断を余儀なくされた。大きな音と同時に部屋全体が揺れたからだ。

 地震ではない、今の音、それに衝撃は爆発によるものだ。

 爆発?爆発だって!?

 なんだか今、非常にマズいことになっているのでは?

 焦った私はロックされた扉の隙間に手を突っ込む。

 子供の、しかも私のような幼女の力ではビクともしないのは百も承知だ。

 でも、ジッとしてはいられない。

 

「こんのぉ~~!ひ~ら~けぇ~……」

 

 んぎぎぎぎぎぎ!

 

 ダメか?やっぱそう簡単に開くわけな・・・あ?

 今、ちょっとズレた。その証拠に扉の隙間がさっきより広がっている。

 いける!私、実は怪力少女だったのかも。

 何だっていい、チャンスがあるなら行動あるのみ。

 気合を入れ直し、再び全力で扉に手をかける。

 

 せーのっ!おりゃぁァァァ!

 

 扉は少しずつ開いていき、私が通るには十分な広さの隙間が生まれた。

 すごい、本当に力づくで開ける事ができた。

 これが火事場のクソ力ってヤツか?

 力を出している時、ちょっと目がチカチカして周囲が明るくなった気がするけど、

 アレは何だったのか?

 悠長に検証している場合じゃない、今はここから移動しよう。

 誰かー!いませんかー?

 

 ●

 

 私がいた部屋から三枚目の隔壁扉をこじ開けた先で、景色は一変した。

 

「な、何が…」

 

 扉を開ける前から感じていた不安が現実となる。

 知の庭園、その施設全体が丸ごと地獄に落ちたのではないかと思った。

 

 散発的続く爆発音、銃声と悲鳴、建物が崩壊していく音。

 至る所から激しい火の手が上がり、黒煙が立ち昇っている。

 焼けつくような熱と、何かが焦げた不快な臭い。

 作業用機械と人形兵器の残骸に、あとは・・・

 大人も子供の関係なく、動かない肉となった者たちが雑に転がっている。

 

 死体、死体、死体、死体、死体、死死死死死死・・・

 どこもかしこも死体だらけだ!?

 

 自然災害とか実験中の事故などではない。

 この地獄は誰かが意図して創り出したものだ。

 庭園は今、何かから襲撃を受けている!!

 

「っ!ドクター、主任……どこですか?」

 

 ・・・・・・・・・・・

 

 地獄と化した庭園内をひた走る。

 ドクターたちを探しながら、小柄な体躯を活かしてコソコソ戦場を観察する。

 

 ここを襲った敵の情報が少しだけわかった。

 襲撃者たちの主戦力は人形兵器らしく、武装した人間たちの兵はそれほど多くない。

 しかし、それでも十分すぎる戦果を上げたようだ。

 人形兵器の性能が違い過ぎる。

 庭園に配備されている人形たちより高性能なのは一目瞭然だ。

 だって、デザインからして向こうの勝ちだもん。

 旧ザクVSゲルググぐらいかな?・・・ザク?ゲルググ?なにそれ?

 

 敵の傭兵団っぽい連中もヤバい。

 庭園ではお目にかかった事すらない、新型の導力銃や各種装備類、見ただけで勝ち目が無いとわかる。

 特にあの赤い装甲服を着たグループは練度が他とは桁違いだ。

 荒々しくも無駄のない動きで次々に対象を殲滅していく様は鬼か悪魔の所業だと思う。

 

 庭園側も当然迎撃したようだが、相手が格上過ぎてなす術なく蹂躙されている模様。

 この分だと、庭園の戦力はもう風前の灯火だろう。

 こりゃダメだ。サッサと白旗上げて降参したほうがいいよ。

 

 怪力を手に入れたとはいえ、私ひとりではどうにもならない。

 敵に見つかった瞬間にゲームオーバーが決定する。

 何の因果か、せっかく拾った命だ。

 それがまた理不尽に奪われるなど、冗談ではない。

 

「とにかく、逃げないと…」

 

 隠れて逃げてやり過ごす。

 これを繰り返せば意外と何とかなる。

 

 できれば、ドクターと主任に再会したいけど。

 希望的観測と同時に最悪の事態も想定しておこう。

 ここは本当に命の軽いところだから・・・

 脱出するチャンスがあるなら、私ひとりでも逃げ出すんだ。

 

 ・・・・・・・・・

 

「ここに居たんですか、ドクター」

 

 休憩所、スケルトンルームにてドクターを発見した。

 でも彼は既に事切れていた。

 一発の銃弾に頭を撃ち抜かれて即死だったみたい。

 苦しまずに逝けたのは幸いだったのかな?

 

 いつもの白衣に無精ひげが相変わらずだ。

 倒れ伏した彼の傍らには私の愛読書『赤毛のアドル冒険譚』が落ちていた。

 以前、私がおススメしたから読んでくれていたのか。

 是非とも感想を語り合いたかったな。

 

『ドクターは東方かぶれですね』

『かぶれってほどでもないがな。自分が育った環境とは違う文化に触れることは刺激になる』

『うらやましいです。私にはその機会はなさそうですし…』

『卒業したら、その機会とやらがあるかもな。精々頑張れ』

『他人事だと思って…あー旅行したい観光したい地上に出たいです!』

『駄々っ子はマイナス評価だなw』

『ぐぬぬ…』

『リベール王国、エレボニア帝国、カルバート共和国、そしてクロスベル……それぞれ見所があって良い国だ』

『知ってます、大陸西部の国家ですね!いいなぁ、風の向くまま気の向くまま旅がしたい…』

『お前ならいつか……いや、よそう。さ、仕事を続けるぞ』

『はーい』

 

 ドクターとの会話を思い出してちょっと笑ってしまう。

 あなたの助手だった時間、悪くなかったですよ。

 開いたまま光を失ったドクターの瞳をそっと閉じておく。

 まるで居眠りをしているかのように、安らかな寝顔になった。

 うん、これでいい。

 

「お疲れ様でしたドクター。私、行きますね…」

 

 振り返らずに私は休憩所を後にした。

 

 ●

 

「イリス!イリスじゃないか!」

「主任!無事だったんですねコンチクショウ!!」

 

 ドクターを発見してからしばらく進んだ後、主任と再会した。

 ここまで散々死体を見て来たので、正直諦めかけていたのだが、しぶとく生き残っていたらしい。

 白衣は少し汚れているけど、大きな外傷などはないようだ。

 

「ああ…イリス!本物のイリスなんだね」

「私以外の何に見えるって言うんですか?正真正銘のイリスちゃんです」

 

 何故か感動して震える主任、そんなに私に会いたかったの?

 とりあえず挨拶がてらに主任の尻をビンタしてやった。

 あ、喜んでるwwこのマゾ眼鏡めww

 

「その様子だと君、自分の姿をまだ確認していないね?」

「え?やっぱりどこか変ですか、鏡がないので顔面未確認なんです。それより一体何が…」

「移動しながら話そう。止まっていては、いい的になる」

「了解です。地上までレッツゴー!」

「ダメだ。上を目指してはいけない。そこはもう奴らに封鎖されている」

「そんなぁ。だったら他の脱出ルートは」

「僕らが目指すのは下だ。ここより更に下の階層に脱出に使える古代遺物がある」

 

 地上へのエレベーターは待ち伏せされているらしい。

 ノコノコ出て行ったら最後、弾丸の雨あられでハチの巣だ。

 遺物頼みというのが不安だが、主任の言に従うしかない。

 少しでも生存率の高い方を選ぶべきだ。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そうか、ドクターは逝ってしまったか…」

「はい。惜しい人を亡くしました」

「悲しくはないかい?」

「ドクターなら『泣く暇があるなら仕事しろ』っていいますよ」

「ははは、彼なら言いそうだ」

 

 ドクターの死を報告して、ちょっとだけ切なくなる。

 でも、泣いたりはしない。

 今泣いたりしたらきっと、ドクターに怒られちゃうから。

 

「庭園が現在進行形で地獄なんですけど?こうなった理由を聞かせて下さい」

「知の庭園は閉鎖が決定した。そして襲撃者たちが後始末をしに来た。で、今こうなってる」

 

 閉鎖ってことは知の庭園はなくなっちゃうって事か。

 後始末…この場所も人員も情報漏洩を防ぐためにまとめて処分しちゃうのね。

 オッケー、大体理解した。

 

「絶望的状況下でその冷静さ、君の胆力は常軌を逸しているなw」

「褒め言葉として受け取っておきます。敵の情報は?」

「別の庭園所属の暗殺者に【結社】の人形兵器と強化兵、傭兵団もいる…目立つのは【赤い星座】か」

 

 【結社】世界中で暗躍する秘密組織。ヤバい。

 【赤い星座】ゼムリア大陸西部最強と呼ばれる大猟兵団。こっちもヤバい。

 

 導力ネットの検索欄に『ヤバい』入力するだけで候補に上がる奴らじゃん!

 そんなのがここを襲ってるとか、マジで詰みです。

 

「そもそもなんで閉鎖になったんです?」

「予算に合った成果を出せなかったからだね。適合者の量産は叶わず、役に立たない遺物もガラクタ認定された」

 

 閉鎖の理由は大人の事情だった・・・世知辛いよぉ。

 

「だからってこんな大量殺戮…」

「掃除ついでに実験と演習をしているんだろう。知の庭園が崩壊しても、全てが無駄になるわけじゃない」

 

 新兵器の実験と兵士の演習、その場所として選ばれたのが知の庭園だったわけか。

 掃除の方がついでなのでは?と思ってしまう。

 

「人が死んでます。いっぱい死んでますよ?」

「生きているなら死ぬ。それは君もよく理解しているはずだ」

「そう、です…けど…」

「数の問題かい?1人、2人ならいいが100や200が一度に死ぬのは許せないと?」

「……」

 

 今更殺しがいけないなどと言うつもりはない。

 ないのだけれども…

 こんなにもたくさんの死を目の当たりにすると、気分が悪い。胸糞だ。

 やっぱり私は数を気にしているのかな?

 小を切り捨て大を選ぶのは間違ってるのかな?

 

 生と死、どちらか選べるなら生を選ぶ。

 誰も死なないで問題が解決できるならそれが一番じゃないか。

 そうも言ってられないから、めんどくさいんだよなぁ。

 

 あーもう!頭がグルグルしてこんがらがって来た。

 答えが出ない問題をいつまでも考えるほど暇じゃないつーの。

 

「君は本当に不思議だな。庭園の廃棄処分を仕方ないと割り切っておきながら、世の理不尽を憎み。自分が一番大事だと思いながらも他者を庇う行動をする」

「矛盾だらけですいませんね!でも、それが人間ってもんでしょ?」

「こいつは一本取られたな。まさにその通りだww」

 

 矛盾しても、間違っていてもいい。

 私は私のやりたいようにする!

 助けたいと思ったら助けるし、殺すべき相手なら殺す。

 信念とか覚悟とか知らんわ!

 その日、その時の気分次第で善にも悪にもなる。

 それが私、イリスなんだから!

 

「とか言いつつ、君は善寄りだよねw」

「うるさいですね」

 

 私が善人に見えるか?

 こう見えても私は…私は……なんだっけ?

 まあいいや、先を急ごう。

 

「私に何があったか教えて下さい」

「いいとも。まず最初に、君が危篤状態になったのは1ヶ月前だ」

「1ヶ月…」

「僕とドクターは君の廃棄処分を覆すため、計画の前倒しを試みた」

 

 1ヶ月も眠っていたのか・・・

 瀕死の私は使えない検体として処分するべきだったはずだ、それをドクターと主任が救ってくれたらしい。

 恩人が増えたよ。やはり頼れるのは女神様より血の通った人間だ。

 これは誠心誠意お礼をしないといけないな。

 キチガイ眼鏡とか言ってゴメン。

 

「こうして、適合者の体に古代遺物を融合させる計画は実行された」

「んんん??」

 

 おいキチガイ眼鏡、今なんつった?

 

 主任は私の胸、心臓の辺りを指差す。

 そこに古代遺物があるぞと、言っているみたいだ。

 

「手術そのものは成功、君が負った傷は立ちどころに修復された」

 

 遺物のパワーが私を治してくれたのか、だったらあの培養液は?アレ必要だっか?

 

「しかし、君は昏睡状態に陥ってしまう。計画は失敗したかに思えたが…」

「最悪のタイミングで目覚めてしまったと」

「いや、むしろ今が最善のタイミングだよ。こうして間に合ってくれたのだから」

「主任?」

 

 いや、間に合ってないでしょ。

 ドクターは死んじゃったし、庭園は崩壊寸前、ちょっと怪力を出せるからってそれが何になる?

 

「わかっていると思うが、君と融合した古代遺物は」

「虹の雫、ですよね。あの石ころが私の中に……」

 

 深層領域で会った、レインボーの正体はやはり虹の雫だった。

 なるほど、だから『(イリス)』と言っていたのか。

 

 怪力を手に入れた事を話すと主任は喜んでくれた。

 私の顔が今どうなっているか聞いたら、後のお楽しみということで内緒にされた。

 う~、鏡が恋しい。

 

 こんな状況でも一見普段通りの主任はさすがだと思う。

 私も大人がついてくれているから、ちょっと安心だ。恥ずかしいので言わないけど。

 時々、雑談も交えながら急ぎ足で見つからないよう進む。

 緊張感のない話だが、私はこのまま全てが上手くいく気がして来た。

 主任が何を考えているか、知ろうともしないで・・・

 

 レインボーの事を話そうと思った時、主任が足を止める。

 二人で物陰に身を隠し、前方の様子を伺う。

 一体の人形兵器が行く先を塞いでいた。

 

「アレは庭園の人形ではないですね」

「ああ、結社の新型だろう」

 

 参ったな、あそこを通過しないと先には進めない。

 人形の後ろは隔壁扉、あそこをから奥へ進むと更なる地下に続く道があるらしい。

 

「敵は一体。イリスが囮になってくれれば、その間に僕が扉のロックを解除しよう」

「やっぱりそう来ましたか。私のパワーで扉をこじ開けるのはダメですか?」

「あの扉は知の庭園内でも特別製だ、正門よりも耐久性と重量に優れている」

「うわぁ、さすがの私も無理そうですね」

 

 囮作戦…やるしかないか、嫌だけど。

 

 作戦の流れはこうだ。

 私が囮になって人形を扉から離れた場所に引き付ける。

 その間に主任がロックを解除。

 扉が開いたら二人でダッシュして扉の内側へ。

 主任が扉をロックして完了。

 

 大丈夫、私ならやれる。

 やってやらぁー!!

 私は人形の前に飛び出して大声で威嚇した。

 こちらに気付き勢いよく向かって来る人形、無機質なカメラアイが怖い。

 ビビるな。こいつらには動きのパターンがある。

 新型だろうとそれは変わらない。

 こちらは徒手空拳、攻撃は控えて回避に専念して時間を稼ぐ。

 頼みましたよ、主任・・・

 

 作戦は概ねうまくいった。

 

 私の検査着が人形の腕から伸びた大鎌で切り裂かれたりしたが、肉体に損傷はない。

 血の一滴も出ないとは・・・人間やめてるじゃん。

 腕力だけじゃなく、体の頑丈さも上がっているらしい。

 そうこうしているうちに、主任が隔壁扉を開けることに成功。

 機械知性がシステムダウンしていても、主任のマニュアル操作で何とかしたようだ。

 人形の攻撃を躱し、主任の待つ隔壁の向こう側へ滑り込むようにして突入する。

 しゃぁ!全然余裕だったぜ。

 

「ロックをお願いします!」

「任せたまえ!」

 

 主任の力強い返答に安堵する。

 取り残された人形ざまぁ!今更気付いても遅いんだよ。

 扉が閉まっていく音を聞きながら、私は戦闘で乱れた息を整える。

 良かった。これでまた一難去って・・・は?

 主任?

 何を…して、いるんですか?

 主任がいない、隣りにいたはずの主任は今、扉の外側からコントロールパネルを操作していた。

 私が唖然としている間に、隔壁扉は完全に閉じてしまう。

 向こう側に、主任と人形兵器を残して。

 

何やってんですかぁーーー!!主任んんんんっ!!

 

 私は叫んだ。

 なぜこんなバカな真似をしたのかと、襟首掴んで問いただしたかった。

 コントロールパネルに駆け寄りマイクボタンを連打する。

 今なら、外側のパネル付近にいる主任へと声が届くはずだ。

 

「早く!早く逃げてください!そこにいたら人形に殺されます」

「そうなんだろうね。参った参ったw」

「笑ってる場合か!何でこんなことを」

「何でって、この扉のロックは外側からしかできないからさ」

 

 は?そんなの説明されていない。

 知ってたのか?最初から自分が残って扉を閉める気だったのか?

 なんでだよ。

 私はただの検体だぞ?

 あなたは知の庭園でもかなり偉い人なんでしょ?

 ここから無事に逃げるべきはあなたでしょ!

 なのに・・・

 

 私を生かしてどうする?

 私なんかの犠牲になってどうする!!

 

 くっそ!開かない。

 私の腕力でも、この扉は動かせない。

 厚くて硬くてそして重い。

 頑丈すぎるだろ。

 

「犠牲などではない。これは僕が、僕の意思で行う、世界への贖罪だ」

 

 意味がわからない!

 私はあなたのことが最初から最後までわからない。

 

「僕はクズだ」

 

 知ってますよ!

 

「真理の探究という名目で、数多くの罪を山のように築き上げ、この世界を穢したクズだ」

 

「だがクズな僕は最後に、ひとつだけいいことをした!」

 

「イリス!!僕とドクターの最終にして最高傑作!!」

 

「わかったんだ!君をこの世に送り出すことが、この僕という生命の役割!僕の生きた証!!」

 

「マッドサイエンティスト冥利に尽きるなぁ!!フゥーハハハハハ!!」 

 

 高笑いする主任の声が耳障りで仕方がない。

 勝手なことを抜かすな!

 お前の気色悪い激重感情向けられも鳥肌しか立たんわ!

 何でもいいから、逃げて!お願いだから!

 私の願いは聞いてくれないか?

 

 なんで開かない!このバカ扉が!開けろ!開けろってんだよ!

 爪が割れて指から血が出るほど踏ん張っても、扉はビクともしなかった。

 力が強くなった?何だよそれ・・・

 肝心な時に役立てなければ意味ないじゃん。

 

 音がした、人形が主任を攻撃したのだろう。

 声がしなくなった。主任が崩れ落ちたからだろう。

 

 そんな・・・ドクターに続いて主任まで・・・

 

「なーんて…まだ、死んでないよーんw……」

 

 生きとったんかいワレ!!

 

 喜んだのも束の間、こちらのスピーカーから聞こえる主任の呼気がおかしい事に気付いてしまった。

 

「……フゥー…ケホッ……ぁぁ…‥‥心配ない…ただの、致命傷…だ」

「ダメじゃないですか!すぐに治療を」

「無駄だ……動脈を損傷したのが解る‥‥これでも天才だからw」

「扉を開けて下さい!私が手当てしますから、せめて看取るぐらいはやりますから!!」

「その、お願い、は…‥‥聞けない…よ」

 

 あなたが私のお願い聞いてくれた事なんて、3回に1回あるかないかだったでしょう!

 というか、人形は?主任にトドメを刺さずにどこへ行った?

 

「撤収した…んだろう‥‥作戦行動時間を過ぎたから…」

「だったらもう扉を閉める必要は」

「地中貫通爆弾」

「!?」

「襲撃者たちは撤収が完了次第…上空からそれを撃ち込んで来る‥‥」

 

 知の庭園の痕跡ごと消し去るつもりだと主任は笑った。

 地下施設破壊用の特殊爆弾『バンカーバスター』という兵器の情報が脳裏に浮かぶ。

 また知らない知識、今は邪魔だ!

 

「この隔壁扉が、どこまで持つかわからないが、爆風の余波ぐらいは防げる はず、君の生存率がわずかでも上がる…」

「そんなのいいから!一緒に逃げましょうよ!ねぇ!ねえったら!!」

 

 主任が吐血した音がする。

 たぶんもう長くはない、彼の声を聞くのは、これが最後だ。

 

「…君が抱えた矛盾は…いつか君を殺すだろう……でも、それは間違いじゃ…ない」

 

「イリス…僕の希望にして、世界の穢れを祓う虹翼よ…」

 

「どうか……君は……キミの…まま……で………」

 

 それっきり、主任の声はしなくなった。

 

「どいつもこいつも、勝手ばかりして…」

 

 扉に拳を叩き付けるが、もう誰も何も言ってくれない。

 男ってのはみんな『カッコつけたいだけの勘違い野郎』なのだと理解した。

 こっちのいう事を全然聞いてくれないのがマジムカつく。

 

 深いため息が出た。

 

 変な期待を押し付けられたのは癪だけど、最後の願いぐらいは叶えてやるよ。

 ドクターも主任も、私に生きろと言うのなら・・・

 そのオーダー確かに受諾した!

 あの世で見てろ、あなたたちの成果とやらの生き様をねえ!!

 

 隔壁扉に向けてしばし黙祷する。

 

「さよなら、主任。最後までキモかったですよw」

 

 私は更なる地下への通路を走り出した。

 

 ●

 

 通路は螺旋を描きながら下へと続いているようだ。

 ずーっと下まで続いているな。先はまだ長い。

 エレベーターを設置してほしかったよ。

 この通路には襲撃者たちも庭園の人員もいないっぽい。

 みんな血相変えて地上ルートを目指してしまったのだと思う。

 地下奥の古代遺物については秘匿されていたらしいので、誰も脱出用に使おうと思わなかったんだな。

 

 道幅の広さから、ここは徒歩ではなく車両を使って移動するのが一般的なのだろう。

 どこかで車をかっぱらって来ればよかった・・・なんて思わない。

 私、車運転できないから。

 操縦方法は一通り学んだけどね。無理なもんは無理。

 だって、ペダルに足が届かねぇんだもんよ!

 チビすぎてシートベルトもスッカスカだぞ! 

 へぇー、異世界にはチャイルドシートなる安全装置があるんだ・・・

 誰がチャイルドだ!私か!

 なんか、異世界情報がポンポン受信されるんだけど、私の脳大丈夫?

 情報量に耐え切れずに『パーンッ!!』て破裂とかやめてよね。

 

 虹の雫と融合した私は身体能力が格段に向上している。

 力と防御力とはもとより、前から自身のあったもスピードも言うに及ばず。

 車なんかなくても全然平気じゃん。

 結構な速度で走っているにもかかわらず、息も上がらないし疲れもない。

 時間が経つごとに、虹の雫の力が体に馴染んでいくのがわかる。

 本当に人間やめちゃったんだなぁ。

 

 まあいい、このまま一気に駆け抜ける!

 

 中間地点まで来ると、警備兵用の詰所が見えて来た。

 どうせ誰もいなし休憩の必要もないだろう。

 今は先を急ぐべし・・・あれ?あれは、何?

 いる、なんかいる!

 

 詰所の駐車スペースでウンコ座りしながら、タバコ吸ってる奴がいるんだけどぉ!?

 

 場違いな光景に思わず足を止めてしまう。

 地面には何本も吸い殻が落ちており、あの変な奴が結構な時間ここにいる事を物語っていた。

 どうしよう?声をかける?

 いやでも、明らかに普通じゃないし、知の庭園の関係者ではないと思う。

 だとしたら、やはり襲撃者の一味!敵か!

 刺激したらマズい、ここは奴がヤニに夢中な内にそーっと後退して・・・

 

「あん?」

「ひょ!?」

 

 目と目が合ってしまった。

 好きだと気付いたりはしなかった。

 でも、なんだろうこの人・・・今まであった男性とはどこか違う。

 そうか!顔だ!顔が良いんだな。

 

「い、イケメンですね///」

「は?何言ってやがる」

 

 イケメンとはイケてるメンズという意味でして、あなたがカッコイイと褒めているのです。

 通じないか?

 

「お前、その頭と目はどうした?」

「え?何か変でしょうか?」

「無駄にキラキラ光ってんぞ。色も、あーなんだ、見る角度で違って見えるのか…おもしれーw」

 

 うっ!近づいて来たイケメンにマジマジと見られて顔が熱くなる。

 私今、緊張してるの?照れてんのか!

 ちょい悪な感じの高身長イケメン!正直言ってタイプです!

 知らなかった。私って結構惚れっぽいんだな。

 

「ま、しゃーねーか。気は進まねぇが、こっちも仕事なんでね」

「いぃ!?!?」

 

 気だるそうに振るったイケメンの手から炎が噴き出し、私がいた場所を薙いだ。

 回避が遅れていたら、私はこんがりバーベキューになっていただろう。

 アチチ!何だ今のは!?アーツ?それにしては発動が早い。

 

「へぇ、思ったより動けるんだな。これが庭園の研究成果ってヤツかw」

「いきなり何をするんですか!黒焦げになるところでしたよ」

「活きが良いな。ガキをいたぶる趣味はないが、少しは遊べるか」

 

 獰猛な笑みを見せる男が怖くて堪らない。

 体が小刻みに震え、全身から嫌な汗が噴き出る。

 これはダメだ。これと戦ってはダメだ。

 勝てぬ!絶対に勝てぬ!

 私の中にある虹の雫も『逃げるんだよォ!』と最大級の警報を鳴らしているはずだ。

 

 ごめんなさい。ドクター、主任・・・

 私も意外と早くそっちに行くかもです。

 

 これが記念すべき、私とマクバーン君の初エンカウント。

 正直、漏らすかと思いました。

 

 彼が【結社】《身喰らう蛇》の《執行者》No.Ⅰ。

 《劫炎》の異名を持つ男だとは、この時の私は知る由もなかった。

 

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