拾ってください
ここは・・・
ここはどこだろう・・・
私は外に出る事ができたのかな?
い、息が!?息ができない!
まさか、これが『いしのなかにいる』ってやつかぁぁぁ!
「…ゴボッガボ!ブベボッ!?」
違った。なんか私ゴボゴボ泡吐いてる。
冷たい、全身が濡れ・・・わぁ、液体だ。
み、み、水の中にいる!!
おいおいおい、また水中からなのかよぉ!
培養液はまだ呼吸ができたけど、ただの水じゃそれも不可能だ。
イリスちゃんにはエラ呼吸が実装されていないって理解しろよな。
空気、空気はどこ?…なんだか上の方が明るい、とにかく上に行ってみよう。
手足をバタつかせて私は必死に上を目指した。
「………プッハァ!エホッ…うぇぶ…」
やった!何とか水面から顔を出せた。
会いたかったよ、酸素さん窒素さん!
アルゴンと二酸化炭素と、その他よくわからん大気成分の皆も久しぶり。
今、私の肺に取り込んであげるからね~。
ふぃ~すぃ~ふしゅるるるる~・・・ああ、呼吸ができるって素晴らしい。
ぶぇっ!?水しぶきが顔面にクリティカル!うぁ、鼻の奥がツーンとするぅ!
なんだここは水が動いて、流れというものがちゃんとある?
ここは人工的なプールや貯水槽などではない。
「かわ!?川なのか!」
私はやっと自分の状況を理解した。
庭園最下層から旅の扉を通り抜け、転移した場所は何処とも知れぬ川の中だったのだ。
最大の懸念であった、転移した瞬間に『死』が決定するような事態は避けられた。
いいぞぉ!まず一つ私は賭けに勝った。
この調子で私の生存フラグを築き上げるのです!
激流とまでは言わないが、川の流れはなかなかに速い。
小さな私の体は翻弄されるがまま流されている真っ最中だ。
ずっと流されているけれど、いつまでこうしていればいい?
早いところ陸地に上がって安心したい。
あれ?この川、なんか先がなくなってない?
目の錯覚かな?川がぶっつり途切れているように見えるんだけど?
それに、ドドドドドドッッ!って音も聞こえる。
私の推測が正しければこの先に待ち受けるものは・・・
「滝…だと…!!」
ひょぇぇぇ!
このままだと私あそこから下に落っこちちゃう!
今更川の流れに逆らうため、力の限り手足を動かしたが時すでに遅し。
必死の抵抗も虚しく私の体は押し流されて行き、そして・・・
「ちょっ、待って、嫌ぁ、いぇああああああああ~~~!!!」
突然の浮遊感、滝口から宙に投げ出された事に恐怖した私は情けない悲鳴を上げた。
生存フラグを築き上げるなどと、その気になっていた私の姿はお笑いだったぜw
あーう(^p^)
大自然すらも牙をむく。この世界どこまで私に厳しいんだよ!
●
滝壺に
その間きっと、水面を漂う私の右下には『つづく』と表示されていたに違いない。
再び感じた息苦しさで目を覚ました私は、残された体力で何とか岸まで泳ぎ着く。
地獄から這い出た亡者のような動作で陸地へと上がり、ゆっくりと立ち上がった私はおぼつかない足取りで前へと進む。
大きな樹の根元までたどり着いた私は、着衣と髪の水分を飛ばすためぶるぶると体を震わせてから、樹の幹へと背中を預け座り込んだ。
「つ、疲れた。ちょっと休憩…させて…」
培養カプセルで目覚めてからここまで、いろいろありすぎてもうクタクタだ。
精神的にも肉体的にも辛いよぉ。
少し休んで体力を回復させないと、行き倒れになってしまう。
自分が落ちて来た滝を見ながらボーっとする。
こうして見ると、大きくて立派な滝だなぁ。
あんな高い所から落ちて無事だった私もかなり立派だと思う。
どうやらここは自然豊かな森の中らしい。
現在位置は全く以って不明だが、不思議と焦りは感じない。
「空…きれい……」
どこまでも広がる青空があまりに綺麗だったので、素直な感想が口から漏れた。
木漏れ日から差し込む太陽光も温かく眩しい。
爽やかな風、澄み切った空気もおいしく感じる。
鳥の鳴き声、川のせせらぎも耳に心地よい。
どれもこれも庭園での地下生活では味わえないものだ。
本物の自然を久しぶりに感じた事で少し癒された気がする。
「これから、どうしよう…」
危機的状況から逃げる事ばかり考えていて、脱出後の計画など何一つ立ててはいない。
完全にノープラン。私は何の準備もなく未知の環境に体一つで放り出された事になる。
私の持ち物は今身に着けている簡素な検査着のみだ。
お金も、身分を証明する物も、何も持っていない。家族も知り合いもいない。
何にもない、得体の知れない怪しさ満点の少女。
こんな私が外の世界でやって行けるのかな?
不安ばかりが先走ってちょっと落ち込む。
うー、ダメだダメだ。
こういう時こそポジティブに物事を考えよう。
ここまで生き残って来た自分のしぶとさを信じるのだ。
私は異能生存体、自分を異能生存体だと思う事にする!
炎の匂い染み付いて~むせる。
あーあ、誰か裕福で親切な人が拾ってくれないかしら?
お髭の似合うダンディなおじさまが颯爽と現れて、私を娘に迎えてくれたら最高だ。
そう上手く事が運ばないのはわかっている。
別にいいでしょ、妄想ぐらいは自由にさせてくれ。
妄想でちょっと元気が出た。
ここからは真面目に思考する。
まずは、どこか人のいる場所へ向かおう。
話を聞いてくれそうな人に助けを求めてみる事から始めようかな。
教会の聖職者や遊撃士ならば、身元不明の私でも無下にはされないと信じたい。
同情を誘うなり、働くなりして、寝床と食い扶持の確保を優先しよう。
身の安全を第一に考えて行動すれば、そう易々と死にやしない。
次にどうするかは、その時また考えればいい。
「……ふぁ……ねむ…」
今後の大まかな方針を決めると、不意に欠伸が出た。
疲労の溜まった体が『もう寝なさい』と睡眠の必要性を訴えているのだ。
お腹も空いているけど、今は眠気の方が勝る。
次第に瞼が重くなって来た。これには逆らえそうにない。
空の女神様、空気読んでくれよ。
魔獣に寝込みを襲われてバッドエンドはやめてね。
じゃ、おやすみなさい・・・( ˘ω˘)スヤァ
●
「いかんなぁ…一匹もかからんとは」
川に釣り糸を垂らしていた男は芳しくない釣果に首を傾げた。
釣りを始めてかれこれ一時間以上経過しているが、小魚一匹すらヒットしない。
そういえば、今日は森の雰囲気もどこかおかしい。
動物たちはおろか魔獣たちも息を潜めて隠れてしまっている。
まるで急な天候の変化や、突発的な災害等を警戒しているような素振りだ。
快晴の空を見る限り、そんな事は無いと思うのだが。
「季節外れの嵐でも来たりしてな」
これ以上粘っても無駄だと思った男は釣りを切り上げる事にした。
道具の片づけを始めようとした、その時、森の奥から一瞬だけ不可思議な力の流れを感じた。
今のは何だ?空気が震動した?
気のせいだと思えるような僅かな違和感、だがそれが妙に引っ掛かる。
「行ってみるか…」
自分の直感を信じる事にした男は、何もなければそれでいいと思いながら、森の奥へ足を進めた。
・・・・・・・・・・
大滝のある場所までやって来た。
この大滝は高さ97アージュの崖から勢いよく流れ落ちる壮大な滝で、自然豊かな森の中でも屈指の絶景スポットだ。
滝壺付近では豪快な音や水しぶきを間近で体感することができ、大自然のパワーをひしひしと感じる。
ここの景色は昔と変わらない。
妻が生前だった頃はよく訪れたものだ。
「何だ?」
大樹の根元、キラリと何かが光った。
魔獣?あのような色を出す個体はこの辺りにはいないはず。
近づくにつれ、それが人の形している事に気付いた。それも幼い子供の形だ。
緊急事態だと判断した男は持ち前の身体能力を活かして一気に目標へと接近する。
「女の子…だと?」
それは小さな少女だった。
幼女と言っても過言ではない小柄な体躯をしている。
先程の光は彼女の不思議な髪色が陽光を反射したモノだったのだ。
脈と呼吸を確認して、少女が生きていると分かり安堵する。
薄い布だけの簡素な着衣と体が濡れたままだ。滝壺からここまで這って来たような痕跡もある。
まさか、あの滝から落ちて来たのか?良く生きていたな・・・
「おい、しっかりしろ。一体何があった?」
少女の体を揺すり、その頬を軽くペチペチと叩いてみる。
無理に起こすのは可哀想と思ったが、まずは話を聞いてみないと何も始まらない。
「ふみゅ……ぅ…」
可愛らしい声と共に少女がゆっくりと目を開けた。
宝石のような輝きを持つ美しい瞳に見つめられ、思わず息を呑む。
髪だけでなくその瞳も非常に珍しく不思議な色合いだ。
「大丈夫か?ここが何処で、自分が誰かわかるか?」
我に返った自分が問いかけると、微睡んだままの少女はこちらへと手を伸ばして来た。
咄嗟にその小さな手を掴む。
体が冷えているのか冷たい手だ。だが、しっかりとした力で握り返して来た。
「おじさま…」
安心したかのように少女が相好を崩す。
夢が叶ったとでも言いたげな、どこか儚げで優しい笑み。
亡き妻に似ていると思ってしまった・・・
「私を……拾ってください…」
それだけ告げて、少女はまた意識を失った。
再び揺り起こそうとしたが、今度はどうやっても起きる気配がない。
穏やかな寝息を立てているので、今のところ心配はなさそうだが、無防備な少女をこのまま放置するわけにはいかない。
それにしても『助けて』ではなく『拾って』と来たか、この子は見た目より豪胆なのかもしれない。
「やれやれ、仕方ない」
ここは少女の願いを聞き届けるしかなさそうだ。
持参していたタオルで体の水気を拭いてやり、小さな体を抱き上げる。
釣りに出かけておいて見知らぬ少女を持ち帰ったら、子供たちは自分をどう思うだろうか?
こういう事は
少女を連れ帰る事にした男は、子供たちの反応を気にしながら家路に着いた。
案の定、子供たちには『またか』という顔をされた。
同じ前歴を持つ長女には、自分を非難する権利は無いと思う。
●
むぅ・・・
なんだか体がポカポカしている。
まるであったかい布団に包まれているような心地よさ。
もうずっとこのままでいたい。
あれ?あれれ?
私は滝壺に落ちてそれから、それから…理想通りの素敵なおじさまが来てくれたような?
アレは私の願望が見せた夢だったのかな。
意識が覚醒して目を開ける。
知らない天井?いや、本当にマジで知らない天井だ。
身動ぎすると、自分の体がベッドに寝かされておりフカフカの布団を掛けられていた事に気付く。
家の中?ここはどこだ?
「あら、起きたのね」
涼やかな声のした方向に視線をやる。
スミレ色の髪をした女の子が椅子に座りこちらを見ていた。
私より幾分か年上のとても綺麗な少女である。
読みかけの文庫本らしき物を持っている事から、私が目覚めるまで傍にいてくれたらしい。
女の子には妙な色っぽさがあって、見つめられるとソワソワして落ち着かない。
この子が助けてくれたのだろうか?
だったら呆けていないで、今すぐにでも深い感謝の意を伝えねばならない。
ついでにあなたのことを『お姉さま』とお呼びしていいですか!
身を起こそうとする私をお姉さま(仮)が『無理に起きちゃダメよ』と、優しく介助してくれた。
ち、近いですお姉さま////
めっちゃいい匂いと美しきご尊顔で頭がクラクラします!
「落ち着いて、何も心配しなくていいわ」
「あ…ぅ…」
「ここにはあなたを害するモノはないし、傷つける人だっていない」
「……?」
「それどころか、リベール王国一安全な場所だって保証してあげる」
リベール王国?私は今リベール王国のどこかにいるらしい。
人生をやり直す出発点としては、なかなか良い国に飛んだのではなかろうか?
いいね!私の生存フラグが息を吹き返して来たぞ。
お姉さまの発言で気になった『王国一安全』とはどういうことですのん?
ここは民家ではなく、軍事基地や王城の内部だとでも?
はっ!その美貌と漂う気品…まさかお姉さまは王族関係者?
だとしたらヤバい。
王族放置したまま爆睡かまして不敬罪からの死刑ルートが確定しちゃう!!
「あなたは、お姫様であらせられますか!?」
「そんな風に思ってくれて光栄ね。でも、私はただの
それはないと全力否定していいですか?
お姉さまは絶対にただ者ではないと私の本能が告げているんだ。
わかったぞ。
お姉さまの正体は王国に雇われた凄腕エージェントで、機甲兵に対抗するため開発された巨大人型兵器を駆り、帝国の秘密結社を相手に様々な任務をこなしている。
コードネームは『告死天使』がいいですね!愛機の主武装はビーム刃を形成する大鎌が似合うと思います!デスサイズです!
「残念だけど違うわ。でも、なぜか所々当たってるww」
どっちですか?
笑って誤魔化さないでくださいよ~。
「ここが安全なのはね。王国最強と言ってもいい人の家だからよ。当然、その家族も強者揃い」
「あなたも強者ですか?」
「自慢じゃないけど、そうなるわね。私はこの家の次女だから」
次女と言った時のお姉さまの顔が嬉しそうだった。
王国最強?
そんな人の家に転がり込んでしまったのか、これが凶と出るか吉と出るか・・・
どうか怖い人じゃありませんように。
「家の皆を紹介するわ。少し騒がしくなるけど、大目に見てあげてね」
ウインクを寄越したお姉さまは、部屋のドアを開けて声をかけた。
「二人とも、あの子が起きたわよ!父さんもこっちに来てちょうだい」
よく通る声が別の部屋にいるであろう誰かを呼んだ。
程なくして、ドドドッ!と階段を駆け下りる音が聞こえた。
そして、ドアが勢いよくバーンッ!と開け放たれる。
突然の事で私の体はビクッとなってしまう。
「本当に!本当に起きたの?会わせて、今すぐ会わせて!」
「ちょ、待ちなさい、彼女がビックリしてるわ」
「…………ん?」
現れたのは元気が有り余っているような人物だった。
長い茶色の髪をツインテールにした表情豊かな女性、お姉さんである。
入室するなりお姉さまの肩をガクガク揺さぶったお姉さんは、ベッドで身を起こす私をロックオンした。
そうして見つめ合うこと数秒、口を開けたまま硬直している彼女に対し私はペコリと会釈してみせた。
何を言ったらいいかわからないけど、とりあえず自分は無害だと伝えたい。
「うわーっ!うわーっ!うわーっ!なにコレなにコレ何なのこの子!?」
ひぃぃぃ!なにコレはこっちのセリフぅ!?
「超~カワイイんですけどぉぉ!!」
物凄いスピードでにじり寄って来たお姉さんが眼前まで近づいて、勝手に私の頬っぺたを弄んでいる。
その目はやたらキラキラしており、若干ハァハァしているので正直怖い。
彼女から悪意等は感じないので反撃する事もできず、私はなすがままだ。
「落ち着きなよ。相手は病み上がりってこと忘れてない?」
また誰かが部屋にやって来た。今度は男の人だ。
私を揉みくちゃにしているお姉さんを注意すると『ごめんね』と小声で謝罪して来た。
キュピーン!私のイケメンセンサーに反応ありだ!
ヒャッホー!黒髪の爽やかお兄さん来たぁぁーー!!
どうせ揉みくちゃにされるなら、彼を指名したいところだ。
「ねえ見て見て!この子、髪だけじゃなく瞳もビックリするぐらい綺麗なの!宝石みたい」
「わかったから、一旦落ち着こう。彼女が困ってるよ」
「やっぱりこうなったわね…」
私を見て大はしゃぎのツインテお姉さん、そんな彼女を落ち着かせようとする黒髪のお兄さん。
いつもの事なのか、やれやれと首を振るスミレ髪のお姉さま。
何だこのメンバーは?
「騒がしいな。家中に声が響いてるぞ」
「あ……」
「お?目が覚めたのか」
最後にやって来たのは、私が夢に見たと思った例の『おじさま』だった。
夢だけど夢じゃなかったぁァァァッッ!!
私はこの人に拾われてお持ち帰りされたのね。
何という幸運!今日だけは空の女神様に心の底から祈ってやってもいい。
おじさまは未だ騒がしいお姉さんを、私の前からどかすと目線を合わせて話しかけて来た。
「体は大丈夫か?」
「はい、おかげさまで」
私が感謝の言葉を述べると『シャベッタァァァ!!』とお姉さんが興奮した。
あの、さすがにうるさいです。
「受け答えはしっかりしてるな。お前さん何者だ?どうしてあんな場所にいた?」
「まあ、その、いろいろありまして…」
「ふむ。訳アリか」
顎に手を当てて思案するおじさま。
もっといろいろ追及されるかと思ったが、おじさまを含める面々は私を労わるような目で見ている。
まるで、
恩人に自分の事情を説明したいところだが、どこまで話すかちょっと悩む。
『子供を実験動物扱いしていたヤバい施設から命からがら逃げて来ました』
『そして私は古代遺物と融合した化物で、人間ではありません』
これ正直に言って大丈夫か?
全然大丈夫ではない気がするね!
見ず知らずの子供にこんな事を言われたら、虚言癖を心配するか頭の病院へ入れられるよ。
どうしたものかと悩んでいると、不意に私のお腹から音が鳴ってしまった。
そういえば腹ペコだったのをスッカリ忘れていた。
「聞き苦しい
「難しい言葉を知っているわねw」
「素直にお腹が鳴ったって言いなさいよw」
もう、恥ずかしいなあ。
私のお腹が鳴った事で、皆が顔をほころばせた。
積もる話は後にしてまずは食事にしようと、お兄さんが提案する。
皆がそれを了承したところで、私はベッドから降りて四人家族に相対する。
こういうのは最初が肝心だからね。
「私の名前はイリスと言います。助けて下さって、本当にありがとうございます」
あなた方に心からの感謝を。
しっかりと深く一礼すると、そんなに畏まらなくていいと皆が少々面食らっていた。
「イリス…イリスかぁ~。いい名前ね!私はエステル、気軽にエステルって呼んでね」
「僕はヨシュアだ。よろしく」
「レンよ。あなたとはたくさんお話したいわ」
「三人の保護者をしている、カシウスだ。遠慮せず自分の家だと思って寛いでくれ」
エステル、ヨシュア、レン、カシウス・・・恩人たちの名を深く心に刻み込んだ。
自分の家、最低最悪の環境だったので寛げねぇなと思っていると、エステルに自然な動作で手を引かれた。
あったかい…こんなに温かい手の人っているんだ。
不思議に思って彼女を見上げるとニッコリ笑いかけてくれる。
うん。彼女はとっても良い人だ。
私とエステルの些細なやり取りを、他の三人が見守っているのを感じる。
ずっとだ…ずっと、この家で目覚めた時からずっと、体だけでなく胸の奥がポカポカする。
こんなにポカポカするのは初めての感覚だ。でも、嫌じゃない。
ドクターや主任と会話が弾んだ時に似ている気がした・・・
食卓の席へと案内され椅子に座る。
事前に用意されていたのか、たくさんの家庭料理らしき物がテーブルに運ばれて来た。
どれもこれも美味しそうで、口内に早くも唾液が溢れてしまう。
お腹もまた鳴ってしまいそうだ。
なんと!これ食べていいんですか?あなたたち神ですね!
いかんいかん。食べるのはちゃんと『いただきます』をしてからだ。
人として当然のマナーぐらいは守れる。守れなかったババアと私は違う。
「イリス、あなたを歓迎するわ。ブライト家へようこそ!」
皆が席に着きエステルの音頭で和やかな食事が始まった。
料理の数が多いので何か祝い事でもあったのか?と聞いたら、私の歓迎パーティーらしい。
すんごい恐縮した。でも、それ以上に、とてもとても、とっても嬉しかった。
私・・・この家の子になりたい。