「お前には女と子供を作ってもらう」死刑執行までのモノトリアムを過ごしていると、ある日女の刑務官に呼ばれてそう言われた。
「もし、お前の子供が生まれるなら、恩赦にしてやる」
「どういうことだ」
「この国は現在少子化だ。なんとか維持するために20年前から人工受精で子供をつくっているが、どうも成果が上がらない。体力、知能、芸術、あらゆる点で優秀な子供はできない。そこで、この国の希望の星としてお前が選ばれた」
「お前のDNAを後世に残す。それも昔のながらのセックスと子作りという方法でな」
「つまり、俺の子供を産んでもらうってことか」
「そうだ。それができればお前の刑期を終わらせてやる。どうだ……いい取引だろう」
女の刑務官が、上から目線で俺に言う。
まるで、ありがたい慈悲を授けるように。
「……お断りだ。他を当たれ、俺みたいな人殺しのガキなんて産みたくもないだろう」
「いいや、そうではない。むしろ逆だ。お前のDNAが優秀だと証明できれば、この国の未来は安泰だ。まだ未成熟なお前でも、必ずや優秀な子供が生まれるはずなのだからな」
女の言い分は確かに筋が通っているように思える。
「人殺しの親父なんて嫌に決まってんだろ」
俺は退室した。
■
『20人殺人鬼!死刑判決!』そう見出し
が躍った朝刊を、俺はみた。
今から五年前、俺はしがないアルバイターだった。しがないアルバイターの俺は、殺人罪で捕まったのだ。
容疑は20人の殺人。
その日、俺は市役所にいて、たまたまテロリストに遭遇した。テロリストたちは市役所に立てこもり、人質を連れて立てこもっていた。
テロリストは要求が通らないと次々に人質を殺し、籠城した。
俺はテロリスト雑用を命じられていた。
俺はテロリストの一人を刺殺し、そしてもう一人は瓦礫で頭を潰した。
その瞬間、残りのテロリストたちは俺を殺すことに決めたらしい。
テロリストたちは人質や市役所の職員を次々と殺していく。俺はどんどん不利になっていき、最終的にはテロリストが俺をリーダーとして担ぎ上げ、街一つを爆破した。
結局その時生き残ったのは俺だけであり、彼らの要求である国のトップを皆殺しにすることは達成できなかったため、彼らは逮捕された。
他の人質は全員目隠しされていて、爆発するその瞬間まで彼らが死んだことすら知らなかっただろう。
俺は重傷を負っており、一命をとりとめたもののそのまま病院に運ばれた。
そしてそこで警察に捕まったのだ。
俺は弁明をすることは無かった。元々、強盗で捕まった親父に捨てられて孤児で、ろくでもない人生だったし、人を二人殺したのは事実だ。何より俺がテロリストに協力したのも事実だった。その結果幼い娘と母親が殺されてしまった。
俺は警察に自分の罪を認め、裁判を受けた。
数年前に死刑の量刑が増えて、一人の殺人でも死刑になるそうだ。
『女子供を殺害した血も涙もない殺人鬼。死刑判決下る!』
新聞やマスコミはそう煽り立てた。
俺は誰も知らない場所に監禁された。そして毎日こうして、世間から誹謗中傷の雨を浴びている。
「馬鹿だなぁ、どうせ死ぬんだから殺害予告なんてするだけ無駄なのに」
そうして俺は死刑執行まで、ただただ死刑執行までの日数を減らしていくことに費やした。
■ ……独房に帰ると女がいた。金髪の美人と言っていい。
「言い忘れていた。」女看守は俺の後ろから言った。
「お前が断っても、相手側の女はOKだそうだ。こいつも死刑囚だ」
「はぁ?」
「こいつはやる気満々だ。なんせ恩赦の条件だからな。今日からお前達で生活してもらう。」
そうして、女刑務官は出ていった。
「お前、名前は?」
「◯◯◯◯」女は抑揚のない声で言う。
◯◯◯◯……聞いたことがある。確か、義理の父親を刺し殺した四肢を切断して山奥に捨てた死刑囚だ。
「宜しくね」
金髪女は俺の手を取った。
「悪いが、馴れ合うつもりはない」
「何故?馴れ合わないとセックスは出来ないよ」
金髪女はただ、淡々と言う。
「他に男はいないのか?」
「あなたの他に優秀な男はいない」
金髪女は俺を見上げながら言う。
「私はあなたの子供を産むの」
「断る」
俺がベットの上に座ると、金髪女も俺の前に座った。
「……お前、自分が子供を作ることがどういうことかわかっているのか?」
俺は金髪女に言う。
「もちろん」
金髪女は頷きながら答える。
「お前は自分が何を言っているか分かっているのか?」
「ええ、あなたのDNAを後世に残すことよ」
「死刑囚のガキが出来るんだぞ。そんなことが許されると思ってんのか?」
「ええ」
金髪女はただ頷く。
「……ちっ、駄目だな」俺は諦めて、ベッドに寝る。
すると、金髪女もベッドに乗っかってくる。
「おい、止めろ」
俺は金髪女を押し返すが、金髪女はめげない。
「だって、寝るとかがないじゃない」
「床で寝ろ」
「いやよ。あなたがどいて」
「なんで俺がどくんだ」
「なら、一緒に寝ましょ」
金髪女は強引に俺の横に寝転ぶ。
「おい、ふざけるなよ」
「ふざけてないわ。ただ寝るだけでしょう?」そう言って、金髪女は俺の手を握ってくる。「……おい、離せ」
「離さないわ」俺は金髪女の手を振りほどこうとするが、きつく握られて離せない。……面倒臭ぇなこいつ。そうして俺と金髪女は狭いベッドの上で寝たのだった。
■
ある日俺が目を覚ますと、隣で寝ていたはずの金髪女がいなくなっていた。
「あら、起きたの」金髪女は台所に立っていた。
「何してるんだ」
俺は寝癖を直しながら言う。
「朝ごはんあるわよ」
死刑囚は毎朝決まった時刻に朝食を与えられる。
パンに目玉焼き、ウインナーとスープとサラダが食卓に並ぶ。
「死刑囚が朝飯なんて贅沢だな」
俺は席に座ると、食べ始める。
「別に毒なんて入ってないわ」
金髪女は俺の前に座って言う。
「俺は何も言ってないぞ」俺は言う。
「分かるわ。死刑囚だもの」金髪女は言う。
「……そうかよ」俺は呟くと、食事をを二人で食べ始めた。
「なんでこの計画に乗ったんだ」俺は金髪女に尋ねる。
「何故って」金髪女はフォークをくわえながら言う。
「恩赦目当てか?ふん、ぐだらない。俺達は人殺しだ。そんなやつが娑婆に戻れる訳ないだろう」
「………」
「養父殺したんだってな。強姦でもされそうになったか?だからと言って同情しないぞ。俺は二人殺して、お前は一人殺した。それのどこに違いがある」
「……あなたには分からないわ」金髪女は悲しそうに言った。
「分からないな。分かりたくもないが……」俺は言う。
そうして俺達は黙々と食べ続けたのだった……。
■
その夜俺達は一緒に寝た。すると金髪女が俺に聞いてきた。
「ねえ、なんであなたはテロなんてしたの?」
「……俺はテロリストじゃない」
俺はふと、警察や弁護士ですら話さなかった、真実を話す気になった。
そう言って、俺は金髪女に話しかける。
「本当なの?」
「さあな、お前に同情されたくて、嘘を言ったのかも知れない」
「そう……」金髪女は呟く。
俺は何故話してしまったのか分からなかった。でも、何故だか気分は悪くなかった。
「……ありがとね」金髪女が言う。
「どうしてお礼を言うんだ?」俺は言う。
「だって、私が見たあなたはテロなんてするような人じゃなかったもの」
「そうかよ……ふん」
「でも、二人殺したのは事実だ。死刑なって当然だな」
「……」金髪女は俺を見る
「テロリストの奴らを調べたんだ。どいつもこいつも、人の命を何とも思ってない奴らばかりだった。そいつらに憤りを覚えたし、腹が立った」
「……」金髪女は黙って俺の話を聞いていた。
「でも、俺が殺した奴はちょっと違う。そいつは孤児で、自分の境遇を恨んでテロに参加していた。……そいつは俺と同じだ」
「……」金髪女は黙っている。
「そいつは別に素行が悪いとか、家庭環境が複雑だったとか、そんな理由でテロに参加した訳じゃない。ただ単に他人の境遇を変えたくてやっちまったんだ」
「そう」金髪女は静かに聞く。
「だから俺はそいつを殺した凶悪な殺人鬼だ」俺は金髪女を見た。金髪女は何も反応しない。ただ、黙って俺の話を聞いているだけだった。
そのまま俺は眠くなり、眠ってしまった。
次の日も俺は、金髪女とベッドに入った。
「おい」俺は金髪女に尋ねる。
「何?」金髪女が答える。
「……寝ないのか?」俺が言う。
「うん」金髪女は頷く。そして、ベッドから出ていく。
「……ちっ」俺は舌打ちをする……すると、今度は金髪女が口を開いた。
「ねぇ……あなたは私の事どう思うの?」金髪女が言う。
「……いきなりなんだよ」と俺。
「養父を殺したんだってな。クズだな」
「そうね」
「認めるのか。てっきり、乱暴でもされたのかと思った」
「ううん、私強姦なんてされてないわ。されそうになったのは妹」
「妹?」
「そう。妹がいるの。妹は養父に乱暴されてたの。私は妹を救うために養父を殺しちゃった。養父が寝てる間に刺し殺したの」
「……ううん。自殺しちゃったけどね」金髪女は言う。
「……そうかよ」俺は言う。
「私はその後逮捕されて死刑になったわ。そうしたら妹は自殺しちゃった。多分、私が死刑になるってわかってたからだと思うの」
「……」俺は何も言わない。
「妹はそんなに仲が良くないの。でも、死んで欲しいと思ったことは無かったわ。あの子と一緒にくだらない話をしたの。それでけでも死んでほしくない」
「……」俺は何も言わない。
「この計画に乗ったのは子供に妹の名前をつけようと思ったからなの」
「名前?」
「そう、その子に妹の名前をつけてあげようと思うの。だから、協力して欲しいの」
「……」俺は何も言わない。
「ねぇ」金髪女は俺を見る。
「……ダメ?」
俺は金髪女を、振り向かず、そっぽを向き、そのまま寝た。
■次の日も俺達は一緒に寝た。
「なぁ……三人作れないか?」
「え?何?」金髪女が振り向く。
「子供」俺は言う。
「え?私達の子供?」金髪女が言う。
「……ああ、そうだ。もしお前が三人産んでくれるんなら、俺は殺した二人のテロリストの名前を子供に引き継がせる」
「……」金髪女は考え込む。
「嫌か?」
「ううん、嫌じゃないわ。ただ、驚いて」
「……そうかよ」
「……うん」金髪女は頷く。
「でも、どうして?」金髪女は言う。
「なんとなくだ。俺みたいな人殺しより、お前の子供のほうが世界も平和になるだろう」
「そうかもしれないわね」金髪女は頷く。
「分かったわ」
「……良いのか?」俺は言う。
「うん」金髪女は言う。
そうして俺達は同じベッドで寝たのだった……。
■
一年後、金髪女は子供を産んだ。
「最初は私が決めた名前。次はあなたが決めて」
金髪女は俺に言う。「……」俺はじっと子供を見る。
「女の子よ」金髪女が言う。
「……そうだな、こいつは女か」俺は言う。
子供は泣くのを止めると、じっと俺を見る。
「ユリ……」
ユリ......金髪の女の妹の名前を付けた。俺はこの娘に、妹の名前を継がせたのだった。
多分、死刑囚の子供には良い人生は待ってないだろう。だが、それでも良い。
俺の妹と金髪女の娘が幸せになるなら、それでいいと思った……。
■終わり■ ■