その理由としては戦場で示されるMSという新兵器の圧倒的戦術価値です。それに飲み込まれないようMS技術の発展は急務であり、今後の国防と政治の為にも必要なことだからです。
また、スカンジナビア王国はオーブと同様中立を表明する国家であり、オーブとスカンジナビア王国の同盟は表立っては出来ませんが、共に自衛のための力がなければ地球連合とプラントという巨大な勢力に飲み込まれてしまうため、オーブにとってスカンジナビア王国に力を付けてもらうのは二色化しつつある勢力図に対抗するための手段の一つというわけです。
「すごい……。立って歩くだけで精いっぱいだったものが、短時間でこれほどのものに」
整備中のストライクのパイロットシートに腰掛け、ストライクのOSを見たリカルドは感嘆の息を漏らした。芸術的なまでの完成度だ。MSを動かすOSとしてはかつてないほどだ。
鹵獲されたザフトのジンのOSも見たことがあるが、それよりも格段に優れたものだ。ストライクとジンの性能差もあるだろう。まるで人体の手足のように自在に動かすことができるGのフレームや関節の技術もあって、その動きを滑らかに操ることが出来るものに仕上がっている。
「もっとも、この性能を十全に活かすことはナチュラルにはかなり難しい。コーディネーター専用、いやキラ君専用と言ってもいいかもしれない」
並みのコーディネーターが同じように使いこなせるとはとても思えない。……思いたくない。すべてのコーディネーターがこれを扱えるのであれば地球軍に、いやナチュラルに勝ち目などない。
「これは下手に弄らないほうがいいな。ダメージを受けたフェイズシフト装甲の修繕と動作チェック、関節部やフレームに異常がないかのテストだけでいいだろう」
考えをまとめるとMSデッキの整備の総指揮を執るマードック軍曹へ意見を伝え、整備の方針を固める。そして、先ほど目にしたストライクのOSをコピーしたものをベースにナチュラル用のOSの作成に取り掛かる。
ラミアス艦長に許可をもらっているが、リカルドはストライクのOSを基にナチュラル用OSの開発も承っている。早々できるものではないと誰もが承知しているが、万が一キラ君がパイロットになることを拒否した場合、あるいは彼がパイロットとなっても負傷して誰かが代わりに乗らなくてはいけなくなった際に、だれも動かせませんでしたでは済まない。
完成しても地球連合軍に接収されることになるだろうが、そのノウハウを国に持ち帰ればスカンジナビア王国の国防にも大きく貢献することが出来る。
それに、たとえ困難であろうとやらなければならないのだ。でなければアークエンジェルに乗る全員の命はない。
「しかし、彼が作り上げたOSは非常に参考になる。暗礁に乗り上げていたナチュラル用OSの開発が格段に進展するだろう」
MS研究用に鹵獲されたジンのコクピット部から下半身にかけての機体が大破したモルゲンレーテ社からアークエンジェルへ運よく運び込まれていた。ナチュラル用OSの歩行テスト用に使用していたものだ。リカルドはそれに乗り込むとキラが作ったOSを機体へインストールしていく。
ストライクとキラに最適化されていたものだから、そのままでは勿論使えない。なので、先鋭的すぎる・ナチュラルには過剰すぎる部分をデチューンあるいは簡易化し、歩行あるいはスラスターの操作などを半自動化していく方針に変えていくのはどうだろうかと考えていた。
『総員、第一種戦闘配備! 総員、第一種戦闘配備! これより本艦は発進します!』
艦内にアラートが鳴り響き、クルーは戦闘態勢に移行する。ザフトの襲撃がまた始まったのだ。ストライクは結局どうするんだ?
リカルドがジンのコクピットから顔を覗かせるとストライクへ駆けていくキラの姿があった。
「やはり彼が乗るのか。まだ子供だろうに……」
しかし、代わりの手があるかと言えばない。彼には災難だが私達・そして彼自身の為にも戦果に身を投じてもらわなければならない。たとえそれが同胞との戦いとなろうとも。
残酷ではあるがそれが今の世界だ。また、彼が裏切ってザフトにつくこともないだろう。あの時一緒にいた友人を見捨てられるような人柄には見えなかった。コーディネーターとしての能力がなければ温和で優しそうな普通の少年だ。
その善良さゆえに彼はこれから苦しむことになるかもしれない。リカルドはスパイとしての己の眼力と判断で冷静に状況を俯瞰する。
「お互い出来ることをするだけだ。――戦わなければ守れないのだから」
カタパルトへ搬送されていくストライクの背を見送ると、リカルドは再びコクピットに腰掛け、シートを締める。OSの開発を再開した。彼もまた自国のために戦う一人なのだから。
――その後、ザフト軍との激闘によりヘリオポリスは崩壊。コロニーは宇宙の塵と化したのだった。
次の更新は3月23日予定です。