アークエンジェルは航路をユーラシア連邦の軍事要塞アルテミスへ向け、慣性航行によるサイレントランを決行した。ザフトからの発見を防ぐためにメインスラスターを僅かに吹かし、その慣性で進んでいくことによって敵レーダーに発見される確率を下げる目論見だ。
アークエンジェルはヘリオポリスで物資の搬入も行えず、直接月の地球軍基地に向かうことは難しい状況下にあり、アルテミスでの補給がもっとも無難な策だといえる。
もっとも、アークエンジェルとストライクは極秘計画の為にまだ友軍としての識別コードを持たず、ラミアス大尉ら大西洋連邦とユーラシア連邦とでは同じ地球連合軍の一員と言えど別派閥であるため、懸念されることもある。
「しかし、他に手の打ちようもないか」
リカルドはメビウス・ゼロの戦闘データを見ながらスラスター操作のOSに微調整を加える。フラガ大尉の細やかな操縦テクニックに対し、現在の設定ではスラスターの出力が大雑把過ぎるのだ。
ムウ・ラ・フラガ大尉。別名、エンデュミオンの鷹。月のグリマルディ戦線でジン六機を撃墜する大戦果を上げた地球連合軍のエースパイロットだ。
「そういうこった。いやはや、困るねどうも」
リカルドの独り言に応えたのはムウ・ラ・フラガその人であった。
「これはフラガ大尉! スラスターの調節を行ったのですが、確認していただけますでしょうか」
リカルドはメビウス・ゼロに施したスラスター面の調節のデータを渡し、確認を促す。フラガ大尉はそれを確かめると、コクピットに乗って各部スラスターの動作をチェックする。
「ふむ……、いいんじゃないの? 前よりも精密な操作が効きそうだ。あとは実践で試す他ないな」
コクピットから降りたフラガ大尉は満足そうな表情を浮かべるとリカルドの肩に手を置いて耳元に顔を寄せた。
「ところで、あんたが運び込んだデュエルの予備パーツ。あれを組んでGをもう一機ってわけにはいかないのか?」
「いや……無理ですね。あくまで腕部や頭部などの予備パーツでコクピットがありません。互換性がありますので万が一ストライクが負傷した場合に取り替えることは可能ですが……」
「そうか……。今は一機でも戦力が欲しいところなんだがね。――そうだ! あっちのジンはどうだ? 今はコクピットと下半身だけだが、一応全身分のパーツはあるんだろ?」
「フラガ大尉、無茶言わないでくださいよ。そもそもジンの操作はナチュラルじゃ厳しいからのG計画なわけです。現在、OSの開発は進めていますが、まともな戦闘機動も取れなければただのマトですよ」
「うーん、アークエンジェルのカバーに入る機体が一機でもいれば俺もストライクもかなり自由に動けるんだがな……。ジンを取り付かせない程度の働きでいいんだけどなぁ」
「それができりゃあエース級の働きですよ、大尉」
フラガ大尉の相談を受けているとマードック軍曹がやってきた。メビウス・ゼロの整備もほぼ完了し、少し手が空いたのだろう。
「ストライクのフェイズシフトでもありゃあ、ジンの通常装備なら無効化出来ますがねぇ」
マードック軍曹のぼやくような呟きにフラガ大尉は名案を閃いたとでも言いたげな顔でマードック軍曹を指差した。
「デュエルの予備パーツはフェイズシフト装甲が使えるんだろ?」
「ええ、まぁ……。ですが、コクピットがありませんよ?」
「だったらさ、あのテスト用のジンにデュエルの装甲を切り貼りするのはどうだ? そうだな、コクピット周りをフェイズシフトで覆えばいい。そうすりゃあ生存力が増す。そしてそいつはアークエンジェルと一緒に弾幕を貼ってくれりゃいい。時間さえ稼いでくれれば俺がなんとかしてやるさ」
「そんな無茶な! それにMSを動かせるOSもしくはパイロットがいませんぜ!」
「無茶でもなんでもやるしかないだろ? それにOSとパイロットならここに適任がいるじゃないの!」
そう言ってフラガ大尉はニヤニヤとリカルドを見遣る。
「私ですか! 確かにテストパイロットの経験はありますが実践経験はないし、ましてやOSはまだまだ実用化出来ていませんよ!」
「そこはなんとか頑張ってもらうしかないね。以前よりは格段に進歩したんだろ? キラにも合間を縫って手伝わせりゃいい。俺らには出来るだけの力があるだろ? だから出来ることをやろうぜ。そうしなきゃ生き残れないんだからさ」
「出来るだけの力、か。やってみますよ、次の戦闘には間に合わないでしょうが、やれるだけのことはやってみます」
「わかりやしたよ。ボウズにも声かけといてください」
「ああ、それじゃあ俺は一眠りしてくるよ。アルテミスに着くまで一度も戦闘にならないとは思えないからな。キラにはアルテミスに着いてから手を貸すように伝えておく」
フラガ大尉は二人へ手を振るとゼロに乗り込む。リカルドとマードック軍曹は顔を見合わせると、やれやれとお互いのこれからの大変さに苦笑しながら設計についての意見交換を始めた。