『44番ヒソカ、三次試験通過第2号!!所要時間6時間17分!!』
えー……こちら俺です。
あれから二時間くらい待ちました。
単純計算でも、九時半からこの塔にいるって算段なら外は今午後の三時くらいだろうな。ちなみに昼食が出たのだが、場所が場所なので普通に囚人食だった。よくドラックストアなどで売ってるカルシウムや鉄分入りのウエハース的なものと、最低限の栄養素やエネルギーが取れる食事だった。
味は何というか…病院食よりも味気ないって感じだった。正直、この牢獄を運営している組織からしても特定の季節じゃないと仕入れられない食べ物などは品切れになって困るからだろうけど…。だからってコーンサラダは子供っぽ過ぎるだろ!?おやつなんてものは存在しなかったよ……。
…とまあそんなことをやっている内に、俺が待ち望んだ相手がようやく試験を通過してこの殺風景な場所へとやってきた。もちろん相手はヒソカであるし、何だったらヒソカの方が俺がいることに驚いてないか?…まあそれはそうか。
『301番ギタラクル、三次試験通過第3号!!所要時間12時間!!』
次は、ヒソカより六時間遅れでやってきた針男。…っていうか、あの人ギタラクルって名前なんだ。ギター弾いてラクレット*1が好物みたいな名前だな…。乳製品かチーズでも食べんのかな。あとウエハースの食べ方がポッキ◯CMかじゃ◯りこCMにありそうな食べ方してるんだな…。
『294番ハンゾー、三次試験通過第4号!!所要時間12時間5分!!』
そんな特徴的な名前のヤツから五分遅れで現れたのは、二次試験後半でメンチから逆ギレされていた忍っぽい人。名前はハンゾーというらしい。忍なら沢山喋って情報漏洩したら一番いけない立場だと思うんですがそれは。…もしかして、この人それが原因でジャポンから出たのか?
「って、アンタよく一番でここまで来たな!?どうやったら三時間半で済んだんだ!?」
「え、俺?」
「いやいや、アンタ以外に誰がいるんだよ?」
そう言って唐突に話しかけてきた辺り、マジでハンゾーは忍に向いてないコミュニケーション力だな。…いや、情報収集力ってだけだったら優秀かもしれないけども。そうしてせっかく集めた情報を、ペラペラと周囲に喋りまくってバラすなら意味ないじゃん。
…つーかさ、俺ってヒソカよりも早かった理由ってやっぱ塔をそのまま直で降ったからじゃん?まあつまり、半ば投身自殺と言ってもいい形でRTAした訳じゃん?いやちゃんと着地できたから、別にそれは結果良ければ全て良しで済ませられるんだけどさ。
「あー…塔をロッククライムで降りようとしたおっさんと一緒にそのまま落ちてきた、かな」
ハンゾーの質問に対して少し躊躇しながらも答えると、質問してきたハンゾー以外の二人が何処かびっくりしたようにこちらを見ていた。…うんまあ、かなり一か八かの賭けをしたみたいなものだからな。側から見れば。悪いな、でも事実なんだ。
「……は??…肝心の、そのおっさんは何処行ったんだよ???」
「また来年に向けて頑張るってさ」
「…はあ、それで……三時間半…??」
そう言って俺が言ったことを何だか納得できないとばかりに首を傾げているハンゾーに対して、俺はそりゃそうかというような苦笑いしか出てこない。ハンゾーが
ただまあ、
比喩ではなく、本当に"オデノカラダハボドボドダ!"*2になってしまう。それとも何だ、"ミンチよりひでぇよ"*3って言えばいいのか?それくらい俺の身体は
その後、一応試験官が見ていることもあって余計なことは喋らないようにしたかったのだが…。ハンゾーに絡まれるあまり、ちょっとした世間話やら武勇伝を聞かされる羽目になった。…俺じゃなかったらウザ絡みの域で拒否ってるからなおい。感謝してくれ??
体感的には永遠、と言っていいハンゾーとの会話に耐え続けること50時間前後。ある意味試験よりも人によっては地獄である時間も、設けられた制限時間ギリギリにやってきたゴン達が姿を現したことで終了した。一人知らない受験者が混じっていたが、そんなヤツは知らん。
最終的な通過者は25名となり、制限時間が終了を迎えたことで俺は一度潜ってしまった扉がゆっくりと開いた。ある意味久しぶりとも言える太陽光が隙間から差し込んで、紫外線独特の刺激を目に感じた。目がぁぁぁぁあっ!?目がぁぁぁあっ!!!*4
待機中は食っちゃ寝ばっかりしていた身体で外に出ると、外はやけに吸いやすい空気があるように感じた。閉じ込められた後の外気って、何で澄んでたり美味しく感じるんだろうな…。しょうもないことを考えていると、目の前には今回の試験官であるリッポーと補佐的な人が立っていた。
「諸君、タワー脱出おめでとう。残る試験は四次試験と最終試験のみ」
アッハイ。
今気付いて申し訳ないのだが、俺は試験開始からしばらくして塔をおっさんと共に
そんなこんなで山と谷しかない試験をどうにか乗り越えてきた受験者達に対して、リッポーは残りの試験のことを伝える。最初の一次試験からすれば確かに沢山の受験者達が脱落やら死亡して行ったが、二次試験までに関しては半分くらいがヒソカのせいだと思いますはい。
「四次試験はあのゼビル島にて行われる。では早速だが……」
関係ないことをつらつらと俺が考えている中で、リッポーはそう言って遠くに見える島を指差した。…何だ、あつまれどう◯つの森でもやるのか?いい度胸じゃねえか、俺はこれでも個人で達成できる実績は全部やったゲーマーだぜ?…フレンドいないので全実績ではないけどな!!
すると、唐突にリッポーは恐らく必要ではない筈の指パッチンをする。それを合図にしていたかのように、実際に補佐だったらしい男が小さな箱を持って差し出した。その箱の蓋と思われる部分には、人一人の拳が余裕で入りそうな穴が開けられていた。…クジでもすんのか?
「これからクジを引いてもらう」
「クジ……?」
「これで一体なにを決めるんだ?」
ここでクジが登場することに嫌な予感がとてもするが、どうこう言ったところで乗った船から逃れるにはもう遅い。あとハンゾー、お前質問する側ならめっちゃいい質問してると思うぜ。ハンゾーにそう聞かれたリッポーは、よくぞ聞いてくれたとばかりに笑みを深めた。
「
何処か愉快そうにも見える笑みを浮かべたリッポーが、さらりと口にした物騒な言葉の並びに受験者達の間に緊張感が漂った。お、モンス◯ーハンターでもすんのか?リオレ◯スかリ◯レイアがいたら尚更そうだな。…でもそれとクジは関係ないよなあ。
「この箱の中には25枚のナンバーカード。すなわち今、残っている諸君らの受験番号が入っている。今からタワーを脱出した順に一枚ずつ引いてもらおう。第1号の者から」
…ん?と半分話をふざけ気味に聞いていた俺に対して、リッポーの補佐役から目線が向けられた。…あ、俺か。そっかそっか、そういえばヒソカよりも先に通過してたから俺か。まさかここでその通過順が使われるなんて思っていなかったので、少しびっくりしながらもクジを引いた。
引いたクジに書いてあった番号は1。一旦それを確認して、次にクジを引きに来たヒソカや他の受験者達にも見えないように衣服の影へと上手いこと滑らせてフォグに引き渡した。ヒソカと入れ違いになって元の位置に戻ると、ヒソカも俺と同じようにクジを引いていた。
するとヒソカもそうだったが、引いたクジ…もとい統一性のある硬めのカードを持ってそのカードに貼られた番号シールを見ていた。…全員が持つことになるとはいえど、リッポーが先に言っていた言葉の内容的には周囲に見せびらかすのはやめておいた方がいいな。
そんなことを考えながら適当に突っ立っていると、最後にクジを引いたのはゴン達と共に現れた名前の知らない受験者だった。リッポーは全員がその引いた内容を確認したと見たのか、早速とばかりに説明を再開する。…つーかここで運試しかよ。
「全員、引き終わったね。今、諸君がそれぞれ何番のカードを引いたのかは、全てこの機械に記憶されている。したがって、もうそのカードは各自自由に処分してもらって結構。……そして、それぞれのカードに示された番号の受験者が、それぞれのターゲットだ」
……はあー、なるほど。
ある意味幸運って言えるのか分かんねえけど、俺のターゲットは俺なのね。うん、ふざけてんのか???言いたかねえよ俺だってこんなこと。でも事実だし、現に他の受験者達と争う必要がなくなったってことだろ?感謝するべきなのか、怒るべきなのか分かんねえなあ…。
「奪うのはターゲットのナンバープレート。自分のターゲットとなる受験生のナンバープレートは3点。自分自身のナンバープレートもまた3点。そして、それ以外のナンバープレートは1点。最終試験に進むために必要な点数は、6点!」
そう言って、リッポーは両手で6本の指を立てる。つまり、俺はもう既にターゲット分の得点を自分自身の得点と同義にしているという訳か。本来は、他の受験者から得点を得ることで多少の近道だったんだろう。ターゲットと自身のナンバープレートを守ればいいだけになるからな。
だがしかし…俺の場合、逆に周囲からウザがられる荒らしみたいなことをしなくちゃならないって訳だ。何せ本来はターゲットにならない筈だからこそ、3点となる自分自身のナンバープレートがターゲットだった。
つまり、だ。
まあ俺は[持ってる得点=ターゲット得点]になってしまった。
ちなみに本来は[持ってる得点≠ターゲット得点]こうだろう。
…そして、この四次試験を通過する為に必要な得点は6点。
勘のいいガキは流石に気付いているだろうが、俺はこの試験を通過する為にターゲットでもない受験者を三名犠牲にしなくてはいけないということだ。うん、正直どうしてもクソの所業。
思わず重いため息を吐くと、俺が何気なく近くへと移動していたゴン達四人組が少し驚いたような目で見る。そんでもってフォグから最悪影に引き込もう、と提案された。…いや、それは最終手段にさせてくれ。多分、四次試験でも監視はあるだろうし。
「ゼビル島の滞在期間中に6点分のナンバープレートを集める事。それが合格基準だよ。それじゃあ、下に船が待ってるから。それに乗ってくれたまえ」
試験官であるリッポーがそう言って説明を終わらせると、何処か重い雰囲気を誰しもが抱えたままで移動し始める。…流石のハンゾーもこの雰囲気でおしゃべりをかます程、肝が据わってる訳じゃないらしい。ある意味それはそれで安心した気がした。
世間話すら出来ない雰囲気で大人しく船に乗り込んだ受験者達は、やはりと言うべきか…お互いのターゲットにバレないように自身のナンバープレートを隠し始めた。俺はもはや晒してるくらいの感覚で、一次試験前に付けたままの状態にしている。
大半の受験者達がナンバープレートを隠し、自身を狙う相手が誰なのかと警戒している中。俺を除いたヒソカ・ギタラクル・キルアの三名だけがナンバープレートを隠すことなく、堂々とその胸元に付けたままだった。
そんな中、そこそこの美人さんであるハンター協会の職員であろう女性が少しでも雰囲気を和やかにしようと、マイクを持ってにこやかにしながら説明を始めた。頑張れ、俺はアンタの勇気を応援しているぞ…。内心でそんなことを思いながら、せめてちゃんと説明を聞こうと耳を傾けた。
『ご乗船の皆様、三次試験お疲れ様でした!当船はこれより二時間ほどの予定でゼビル島に到着します。ここに残った皆様25名の方々は来年の試験会場無条件招待権が与えられます。例え今年受からなくても、気を落とさずに来年また挑戦してくださいねっ!』
「あ、そうなんだ」
『もちろんですっ!』
サラッと明かされた来年のハンター試験のことに対して、俺が思わず独り言を言ってしまった。すると、かなり食い気味にアナウンスをしている女性職員が反応してきた。お、おう…まあ確かに俺以外の受験者達はみんな沈黙で返してるもんな。
でもまあ、一次試験前まで誘導されたのは前年度にハンター試験を受けていたら当たり前のことなのか。それなら、この試験は別に無理してまで通過する必要もないよな…。まあ通過できそうならするってくらいにしておこう。死んだらまた最初っからだし。
「質問いいですか?」
『はい、どうぞ!』
「各自持参した物は、集合までに処理すれば期間中に使っても問題はないですか?」
『問題はありませんっ!ですが…紛失してしまったりすると、試験後に回収するのをお断りする可能性が高いので所持品の管理は自己責任で行なってください!』
「はーい」
フッ……勝ったな。
そんな確信を先程の質問で得た。正確には、別に周囲と進んで敵対しなくてもいいんじゃないかという疑問がなくなった。俺が今回持ってきている荷物の中には、キャンプでもするのかというような道具が沢山入っている。
つまり、どうせ来年も参加まで誘導してくれるならここで無理する必要もないなと判断した。それに3点足りないからと言ってゴン達と敵対したい訳でもない。むしろ協力したいのだが、ターゲットの相手によってはそう簡単に済ませられないだろう。
だから、俺は基本気ままにキャンプするくらいの気分で一週間を過ごそうと思う。命あっての物種なのは変わらないし、なんだったら俺がここで無理して死んだら全部が水の泡になる。それくらいなら、別に来年を考えるくらいは大して高いハードルでもない。
まあ一番の問題はヒソカがどう動くかなんだが…。とりあえず、俺をターゲットにしている受験者は誰一人としていない筈だ。一応ターゲットが狙えなかった連中は警戒しようとは思うが、基本は状況次第で考えよう。…今日の晩御飯はどうしよっかなあ。
多分俺だけがめっちゃ呑気に物事を考えてる中、先に予告された通り二時間経過した辺りで受験者達を乗せた船は目的地に到着した。四次試験会場となるゼビル島に着岸すると、出港前にアナウンスしていた女性職員が再度姿を表した。
「それでは、先ほどクジを引いた順番に下船して頂きます!一人が下船してから二分後に次の人がスタートする方式となります!滞在期限は丁度一週間!その間に6点分のプレートを集めて、またこの場所に戻ってきてください!それでは1番の方、スタート!!」
そう掛け声がかけられた直後、俺はその後に飛び出して行くであろうヒソカから少しでも逃げようと思って爆速で逃げた。やめろーっ!!性別が変わったとしても俺はノンケなんだあーっ!!!キャンプなんて開いてる場合かあーっ!!!
本当はそう叫びたい気持ちをグッと胸の内に堪えて、俺は鬱蒼としたゼビル島の森林へと姿を消した。二分後に放出されるヒソカから少しでも離れて隠れる為に。…少しはゴン達を待つことも考えたが、集団になっても今の状態ではヒソカを退けられないだろう。
(とりあえず、初日は様子見に徹しよう…)
俺が船から飛び出した後のことだ。
ヒソカを危険視していただけあって、ヒソカは恐らくターゲットではないだろう受験者達を通りすがりで始末していた。ちなみに目撃者は総じて始末されているので、実際の現場を見ていたのはフォグである。その時の俺はフォグに夜間の見張りを任せ、普通に寝ていた。
あと試験前に予想した通り、一人の受験者に対して行動などを見張るハンターが各自張り付いているようだった。ヒソカが襲撃した受験者を監視していたハンターは既に船に戻ったらしい。そりゃもう監視対象が死んだらそうなるわな。
大体落ち着いたのを確認した二日目の早朝。
俺はそこで寝起きの瞼を擦って、グゥーっと縦に伸びた。理由も分からずに心地よいその動作をした後、俺はあまり美味しくない携帯食をご飯として食べた。…どう美味しくないかって?兵糧みたいな感じで、人間が必要としてる栄養素が取れればいいやっていう投げやりな味だよ!!
携帯食を食べた後はさっと顔を洗った。その後、
テントから少し距離を取った場所で焚き火を作り、わざと人がいることがバレるように煙を立てた。そしてフォグにゴンやキルアなどの一部受験者を除いた受験者が接近してきた際、問答無用で気絶させておくように言った。
そしたらフォグから魚が食べたいとリクエストが来たので、他の受験者達が来るまではずっと釣りをして時間を潰すことになった。魚自体は中々に大漁となったが、肝心な他の受験者達は誰一人として訪れなかった。二日目は非常に平和なままで終わった。
三日目、特に何もないまま果物を集めていた。
また川魚を釣り、それを一日の食糧として消費しただけだった。強いて言うならば、三日目の夜に103番のナンバープレートを持った受験者がフォグに見つかって気絶させられていた。
「…ようやく1点かあ」
微妙な気分になりながら、二度寝した。ちなみに深夜帯で現れたので翌日の朝に睡眠不足となって影響した。名前も知らん103番のおっさんはフォグによって、その日の夜間中に船の一番近くに放り出されていた。流石にどうかと思っておっさんのポケットに携帯食を二つ入れておいた。
四日目、マジで特に何もなかった。
ただ、一度別行動しようとなって半日程いなかったフォグが知らんナンバープレートを拾って帰ってきた。話を聞くと草むらの中にポツンと残っていたらしい。番号は197。近くにがっくしと肩を落としたハンゾーが居たらしいので、もしかしたら探しているのかもしれない。
「これで2点…」
五日目、豪雨が来た。
実際に変化があったのは雨が止んだ夜辺りのこと。雨が止んだ後にハンゾーを探して出かけていた帰りにテントへと戻ると、テントで勝手に寝ている人がいた。黄色くい大きめの帽子を被った女の子だったのだが、雨に濡れていて全身ビチャビチャだった。
それどころか、本人を起こすとどうやら体調も悪くなっていた。何だったら、どうしても食料が取れずに難航していたところで豪雨に降られたらしい。ちなみに翌日まで居ていいと言ったら、安心してそのまま寝てしまった。
そのまま翌日まで平和なままかと思いきや、女の子が熱を出して一見死んだかのように爆睡する中でハンゾーが焚き火のところに現れた。受験者じゃないフォグがハンゾーの前に出てくるのはおかしいので、仕方なく俺だけで対応した。
早速とばかりに197番のナンバープレートのことを話すと、交換して欲しいとめっちゃ迫られたので交換した。ターゲットだったらしい。手持ちの197番が無くなった代わりに、198番・362番・89番を交換して貰えた。
「……そういえば、ゴン達は何してるんだろう?」
六日目、寝ずにテントを畳んだ。
日付が変わった後、寝ずに焚き火を眺めてうとうとしている間に女の子は去っていた。果物をいくつか置いて去ったことを確認し、テントや焚き火を片付けて拠点自体の位置を集合場所に近いところに移した。
流石に臭ってきたので一度盛大に水浴びをしてから寝た。その後、女の子から移されたのかは分からないが俺も体調を崩したので、その日は丸一日ジッとしていた。そんな感じで七日目をあっさりと迎えてしまった。
ボォーーー!!
と、ゼビル島の沖合に停まった船から大きな汽笛が鳴らされた。結果、俺はそれを目覚ましがわりにして飛び起きる羽目になった。眠いが出来るだけ急ぎ目で荷物を畳んだ。
『只今をもちまして、四次試験を終了とさせていただきます!受験生の皆様は速やかにスタート地点にお戻りください!これより一時間の猶予時間を与えます!それまでに戻らなければ全て失格となりますのでご注意ください!なお、スタート地点に到着後のプレートの移動は無効です!確認され次第失格となりますのでご注意ください!』
ついこの間に聞いた声と同じ声が、船からアナウンスとして受験者達を呼び寄せる。直後、スタート地点近くの森林から次々と人影が姿を表す。もちろんそこに俺もいたのだが、寝ぼけていたので一度木の根っこに足を取られてこけた。
「おっと…大丈夫か?」
「うぅ…ごめんクラピカ…」
一時間以内に集合場所に戻ってこれたのは合計十人。ゴン、キルア、クラピカ、レオリオ、ヒソカ、ギタラクル、ハンゾー、53番の青年、191番のじっちゃん。そして盛大にずっこけた俺だった。キルアからは「ドジだなー」と言われた。うるさいやい。
「…そういえば、キルア以外の三人はなんか傷だらけだけど…何かあった?」
「少し、な。しかし、それもゴンのおかげで何とかなった」
「そうだな。ここで死んでもおかしくなかったかもしれねぇ」
「えっ!?」
その時の俺が聞けるだけ話を聞いたところによると、俺のテントで休んでった女の子に殺されかけたらしい。ハチやヘビに襲われて、危うく毒で死んでしまうところだったのをゴンが身を挺してどうにかしたらしい。具体的には教えてくれなかった。
「…ゴリ押しすぎる…何それ??」
「…んなムチャしてたら、そりゃズタボロになるに決まってんだろ!」
「うっ………ごめん…」
「んでレアンそれはお前もだかんな!!オレらの目の前で塔から飛び降りたの忘れたと思うなよ!!」
「す、スミマセンデシタ…」
そんな感じで俺に続けてゴンが自己犠牲に走ったせいか、不満が溜まったキルアに纏めてお叱りを受けた。クラピカとレオリオはその光景を呆れながら見ていた。一次試験で出会った時と変わらないと思っていたが、ゴンが何処か空元気である理由を誰も聞けなかった。
聞こうにも、あのゴンが空元気で笑って隠すレベルのことだ。他の受験者達がいるこの場でそう易々と聞いていいことなのか分からない。だからか、俺達はどうしようもなく何気ない話を垂れ流すしかなかった。
そうこうしていると、もはや最近何度も聞きすぎて覚えてしまったゴオンゴオンという飛行船の音が近付いてきた。相変わらずの凄まじい風で髪の毛がぐちゃぐちゃになった。ゆっくりと飛行船が着陸すると、そこからリッポーと豆顔の職員が降りてきた。
「それではプレートを確認させてもらおう」
リッポーがそう言ったので、受験者達は自ずと適当な順番でリッポーへと自身の所持するナンバープレートを手渡した。渡された全てのナンバープレートが問題ないことを確認すると、飛行船は受験者達を乗せてその場から離陸した。この感じだと全員合格だったらしい。
飛行船に乗った後はメンチの時と同じように各自自由行動となり、ゼビル島で一週間も警戒状態に晒されていた緊張感を解してゆっくり身体を休めることになった。無防備にもあくびを一つすると、フォグがまた何か言いたげにしていた。…何か言いたいなら言わんと伝わらないぞ?
特に昼寝をする気分でもなかったので、食事を取るというキルア達に同行した。ゴンは部屋で休むらしい。…本当になんかあったらしいな、あの感じだと。珍しくその表情に疲れが滲み出ていたゴンを見送って、食堂でキルア達が食事しているのをただぼーっと眺める。
「……レアンは食べねぇのか?」
「ん?…あぁ、いや…どれ食べても重そうだなあって思って」
「…お前、本当に十代だよな?大人でも三十代になってからだぞ、胃もたれになんのはよ」
「あーあー、何も聞こえなーい」
むしろ個人的にびっくりしたのは、まともに食事をしているクラピカとレオリオを差し置いてパフェを食ってるキルアの方だ。そっちの方がちゃんと前菜とか食べてから食べるもんだろ…。なーにメインディッシュどころか、デザートだけ食べてるヤツには言われたくないね。
『えー、これより会長が面談を行います。番号を呼ばれた方は二階の第一応接室までお越しください。それでは、受験番号1番の方。1番の方、お越しください』
「…あ、俺だ。呼ばれたから行ってくる」
「おう、また後でな」
早速ばかりに一番手にされた俺は、アナウンスの言っていた通りに飛行船内の二階を目指して移動した。…だがしかし、一分程待っても俺が来ないことが向こうで判明したらしい。結局は
「…お前さんは本当に抜けておるの。第一応接室まで大して遠くもないだろうに」
「うるさいじーちゃん」
「ワシはお前さんのじーちゃんじゃないんじゃが?」
*****
【287期ハンター試験】
【受験番号1番】
レアン
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「うーん…悪い意味でも
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「………やっぱ
【287期ハンター試験】
【受験番号44番】
ヒソカ
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「悩むね…♣︎うん、
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「伸び代っていう意味では、
【287期ハンター試験】
【受験番号53番】
ポックル
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「
【287期ハンター試験】
【受験番号99番】
キルア
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「ゴンとレアンかな。そう、1番と405番の。同い年だし」
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「
【287期ハンター試験】
【受験番号191番】
ボドロ
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「
【287期ハンター試験】
【受験番号294番】
ハンゾー
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「そりゃ
【287期ハンター試験】
【受験番号301番】
イルミ(ギタラクル)
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「
【287期ハンター試験】
【受験番号403番】
レオリオ
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「つー訳で
【287期ハンター試験】
【受験番号404番】
クラピカ
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「良い意味で
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「理由があれば戦うし、理由がなければ誰とも戦わない。…だが、どんな形であれ気が進まないのは
【287期ハンター試験】
【受験番号405番】
ゴン
質問1:お主以外の九人の中で一番注目しているのは誰かの?
「44番のヒソカが一番気になってる。色々あったから」
質問2:では、八人の中で一番戦いたくない者は?
「う~ん……
この最終試験まで残った合計十名の受験者達と面談したネテロは、その面談結果を元として筆を走らせた。紙に描かれていくのは、トーナメント形式の表だ。参考にされるのは身体能力値・精神能力値・印象値の三つ。そして極め付きは最後の面談。
面談結果な言わずもがなだが…。身体能力値は、
それすなわち、その者にハンターの資質がどれだけあるかの評価である。言わば、ハンターとして必要になる
「ほぉ!思ったより偏ったのぉ」
そんなネテロの言葉を聞いて、同じ場にいた試験官達はネテロの作ったトーナメント形式の最終試験表を見て目を見開いた。驚きが一番最初に訪れた後、続けて試験官達に襲いかかって来たのは不安だった。「本当にこれをやるんだろうか」と、そんな不安がよぎったのだ。
「会長……これ、本気ですか?」
「大マジじゃ」
(((確かに本気の目だ……)))
試験官の誰かがそう言ってネテロの冗談であって欲しいと思うが、ネテロはそれに対して大真面目に肯定した。口先だけではなく、ネテロ本人の目が試験官達にその言葉が真実であることを告げてくる。無論、試験官達の不安などが晴れることはなかった。
「試験が楽しみじゃのぉ!」
ただそんな雰囲気の中で、ネテロ一人だけが愉快そうに笑っていた。
*****
『最終試験が目前となりましたが、これから当飛行船は三日程かけて審査委員会が経営しているホテルに向かいます。その間は自由時間となります。また、飛行船内の客室のいくつかは扉に各受験番号の紙が貼られており、食堂で協会職員から部屋の鍵を借りることができます。その他お困りのことがあれば、協会職員までお知らせください』
「だってさ!オレは部屋の鍵を借りてこようと思うんだけど、四人はどうするの?」
受験者達全員の面談が終了した後、日が落ちて夕方になった辺りに飛行船内ではそんなアナウンスが流れていた。ゴンが早速とばかりにそんな反応をする通り、他の受験者達も食堂にいる豆顔の職員から鍵を借りて部屋に散って行っているようだった。
「俺はせめて晩飯食ってからにする…今寝たら明日まで起きねえ予感がしてんだ…」
「…そうだな、私も夕食を食べてからにしようと思う。キルアとレアンはどうするんだ?」
「んー…オレはゴンに同じく」
「あー…俺はクラピカとレオリオみたいに晩御飯食べてからにするよ」
これでも地味に四次試験を終えた当日中だ。
感覚的にはたったの一週間といえど、慣れない食べ物を食べなくてはいけない状況に俺は置かれていた。…だから多分、予想が間違ってなければ今日の夜辺りに不調のピークが来てもおかしくない。今のうちに食べなければ、後になって食べることが厳しくなるだろう。
「それと、前にクラピカが俺に聞いてたこととかを明日に話したいんだけど…食堂に集合でいいかな?」
「…それってクモワシの直前に話してたヤツ?」
「そうそれ!」
「分かった!じゃあ明日、食堂に集合だね!」
肝心の伝えなくてはいけないことをちゃんと伝えてから、ゴンとキルアの二人とはそこで別れた。その後、俺・レオリオ・クラピカの三人で他愛もない話題を話しながら夕食を食べて解散した。そこで発覚したこととしては、レオリオとクラピカが同室であろうことだった。
俺は内心で
俺がおかしいのか分からずにいると、目の前からゴンとキルアが歩いて来ていた。同じく、二人もクラピカが男性であることに対して特段驚きを見せることがなかった。…どうやら俺だけらしかった。そしてゴンとキルアも同じく同室であった。
各自の部屋自体はそこまで離れていなかったが、やはりと言うべきか俺が貸し出された部屋は一人部屋だった。本来は二人部屋である部屋を俺だけに貸しているという構図ではあるので、ベッド自体は二つあった。そこで四人とは明日会う約束をして別れた。
パタン、と一人部屋の扉を閉じる。
どうやら鍵はオートロック式らしく、扉を閉じただけでガチャリと鍵がかかった。一次試験が始まってから休憩時間以外はずっと背負っていたリュックをドスン、と背中から降ろした。
長時間肩に負荷をかけていた重しがなくなり、気のせいか凝りを感じる両肩を回しながら軽く身体を伸ばした。その間にチラチラと部屋全体を見回して監視カメラなどがないことを確認する。しゃがむ動作で誤魔化し、ベッドの下を軽く確認して立ち上がった直後に立ちくらみがした。
「…うっ、悪いな…フォグ」
すると、何処からか姿を現していたらしいフォグがよろめいた俺の身体を背後から支えてくれた。俺の言葉に対してフォグはまた、あの独特なテレパシーのような何かで俺の脳内に直接語りかけてくる。そのままフォグは出入り口に近い方のベッドに腰掛けて、俺を膝の上に座らせた。
前世で一度は泊まったことがあるビジネスホテルのような内装になっているせいか、俺とフォグがいる目の前には縦長の鏡が鎮座していた。鏡には、上下どころかその靴や靴下までもが真っ黒けっけな青年が、金髪赤眼の美少女を膝に座らせていた。
その時点でかなり事案臭がするのだが、更に肌以外の全てが真っ黒コーデであるフォグは俺との身長差が大きく開いている。例えに出すのは少々どうかと思うのだが、ヒソカとゴンよりも身長差があるといえばいいだろうか。
その上で、俺はゴンよりも身長が低い。少なくとも2cmから3cmくらいはゴンよりも低い。反対にヒソカの身長は明らかに180cm代である。実際に測ったことも見比べたこともないが、目測ならばフォグもヒソカと同じくらいの身長がある。
…つまり、だ。
こういう言い方はしたくないが…ゴンがヒソカにとっては簡単に持ち上げられるように、俺もフォグから簡単に持ち上げられるサイズ感なのだ。
よく昔のアニメや漫画などである、原作キャラの身長が分からないが故にファンアートなどでキャラの身長がごっちゃになってしまう現象みたいな…。いや、尚更分かりにくいか…。じゃあ、180cm前後の青年が140cmはあるであろうテディベアを抱えてる感覚とでも例えようか。
「(ファミチキください)」
不思議そうに首を傾げられた。何だそれは、とテレパシーも飛んできた。くっ、やっぱこのネタは通じないよな。ならばこうだ!!
「(こいつ直接脳内に…!)」
さらに首を傾げられた。無念。
…つーか、どれだけ考えないようにしていても事案臭が凄い。フォグに何があったか俺は詳しく知らないし、聞いても話したがらないので知らない。だが、言われずとも分かることがいくつか存在する。現に、フォグが隠していなくてもバレるところはバレている。
一番は、人間に対する偏った知識不足だ。
人が日々を生活していく中で必須となる、衣食住の理解自体はちゃんと出来ている。だがしかし、フォグが人ではないということもあって…フォグは、人がどうやって増えるのかを知らない。
もっと具体的に表すならば、繁殖行動やそれに繋がるアピール行動などを知らない。その為、フォグ自体が大人しくしていれば好青年のように見えなくもないことも含めて、俺が少し席を外した時に女性からめっちゃ話しかけられていることはよくあることだ。
ただ、フォグからすると興味のない存在に対して話しかけること自体がないらしい。なのでフォグからするとモテているという認識ではなく、人間の雌がなんか集まってきた…みたいな感覚なんだと思う。ちなみにほぼ同じ理由によって、フォグはファッションセンスがない。
食欲に関しては俺がフォグと再会したことで、少しずつ興味が出てくるようにはなってくれた。だが、フォグが今後自発的にその興味を持ち続けてくれるかと聞かれたら、俺は分からないと答える。事実、フォグは必要最低限しか栄養の補給を行わないからだ。