転生主人公が非戦闘員なHUNTER×HUNTER   作:ネモ

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また飯テロの予感…。


移動=試合+復讐者

ゴオンゴオン、と飛行船の音がぼんやりとした意識の中で聞き取れた。…まだ少し寝ていたいと思って寝返りを打つが、必然的に同じ部屋だった誰かさんの手によって掛け布団が勢いよくひっぺがされた。寝ぼけ(まなこ)で犯人であろう人物を見ると、フォグは(わる)びれずに俺を見ていた。

 

 

「ふぁ……はぁ、おはよう」

 

 

フォグから朝の挨拶をされたので、あくび混じりに返事した。まあそれとは別で掛け布団を奪われたのは普通にイラッとしたので、反抗として枕を投げたら簡単に避けられた。何だったら落としたよ、とばかりに拾い上げられた。無敵の人*1かよお前!!!

 

通常運行のフォグに思わずため息を吐きながら、ベッドから起き上がった。そのまま部屋に備え付けられた洗面所に向かい、顔を洗う。ひんやりとした水が顔に染み渡った。ついでに寝癖が残った髪の毛を簡単に手で整えて、寝巻きから普段着に着替える。

 

同じく、部屋に備え付けられた鏡で変なところがないのを確認した。フォグにはいつも通り影に隠れてもらって、部屋を出た。部屋を出て食堂への廊下まで来ると、例の四人が先に来ていた。ゴンとレオリオは寝癖が残っていたが、まあ二人らしいと言えばらしかった。

 

 

「おはようレアン!!」

 

「…ゴン、寝起きの人間の耳元で大声出すんじゃねえ」

 

「あっ…ごめんね、レオリオ」

 

 

寝癖が残っているゴンが相変わらずの元気で手を振ってきたので、俺も合わせて振り返した。ゴンの隣でまだうつらうつらとしていたレオリオは、ゴンの声が目覚ましになる形でその寝ぼけ眼を開いた。寝起きにあの声はキツいぞおー…。

 

 

「はよー」

 

「おはよう、四人共」

 

 

そんな二人に続く形で、キルアが間延びした形で挨拶してくる。気のせいか、雰囲気がしなしなしている気がする…。あ、キックボードを持ってないからか。なあんだ。いつも以上に覇気がないというか、気だるげなキルアは目の前で豪快なあくびをした。…猫かよコイツ。

 

 

「あぁおはよう、昨日はちゃんと寝れたか?」

 

 

寝れたかと言われたら寝れたが、その中で嫌な夢というか……あまり何度も見たくない夢を見たので気分は良くない。俺がこっちに初めて生まれて、赤子として産声をあげてすぐに捨てられた記憶。どうして捨てられたのかは理解しているが、それでも嫌な思い出だ。

 

 

「うーん…まあ…それなりには」

 

「そうか…」

 

 

だが、俺と関係が深い訳でもないクラピカにそんなことを言う訳にもいかない。そう思って、苦笑いで話を濁した。クラピカは頭がいいので、何かを察したかのように合わせて話を濁してくれた。…うん、本当に言いたくないから仕方ないよな。

 

そんなよく分からない雰囲気で食堂に入ると、まばらに人が集まっていた。まあ受験者自体の総数が減った分、混むピーク時になっても人で溢れかえったりしないんだろうな。どうやらまたビュッフェ形式らしいので、食堂に入ってすぐ目の前にあったトレーを各自一つずつ手に取る。

 

 

「おー、スクランブルエッグだ」

 

 

ビジネスホテルなどに宿泊した経験がある連中なら、まあ分かると思うが…。バイキング形式かビュッフェ形式を朝昼晩の何処かで行っている宿泊施設では、異様にスクランブルエッグの登場確率が高い。そんでもって、白身がほとんどない。

 

多分、提携(ていけい)している店や組織から黄身ばかりがくるんじゃないだろうか。黄身だけを使用する料理で手短にできるものとなると、結果的にスクランブルエッグになるんだろう。まあ、シンプルで大抵は何にでも合うから余程じゃない限りは文句も言われないしな。

 

現に市販で売られているカルシウム配合のクッキーなどは、そういった場所で使用用途が限られた卵の殻を再利用する形で作られている場合が多い。もちろん、食べた時に殻が残ってたりしないようにされているので、卵の殻が入っているとは到底思わないだろう。

 

黄身は先程言ったスクランブルエッグに、白身はメレンゲなどで使えるが…。卵の殻は卵の用途の多さに対して使われる頻度が少ない。それでいて、アレルギー反応を持っている人もいるのでチョークなどの加工品にも出来ない。

 

なので、場合によっては粉々にして某ブロックだらけの四角い世界のように肥料的な扱いをされていてもおかしくはない。実際にそうされているかは知らないが、事実カルシウム配合系のクッキーなどは高確率でアレルギー表記に卵と書いている筈だ。卵アレルギーの人は泣いていいと思う。

 

 

「ベーコンとソーセージか…悩ましいな」

 

「向こうに食パンがあったから、俺はスクランブルエッグとベーコンを合わせて簡単なサンドイッチにしよっかな」

 

「……その手があったか!!」

 

「それなら、サラダのエリアにレタスもあったからそれを足すのもいいんじゃないか?」

 

「おぉ、確かに」

 

 

スクランブルエッグ以外だと、加工肉であるベーコンやハム。ソーセージなどの登場率も非常に高い。理由としては沢山あると思うが、その中の一つに加工肉の単価が高いということが関わってくるだろう。事実、一人暮らしになった俺が思い知ったことだ。

 

家族と暮らしている間や、まだ未成年の間はあまりその恩恵を自覚しないで通り過ぎてしまうが…。実際に自身の資金で暮らしていくとなると、加工肉は中々にお高めなものに感じてしまうのだ。どれだけ安いものでも、三百円前後は余裕で超えるので沢山買い込めないしな。

 

家族もしくは実家で暮らしている間に関しては、加工肉の値段的な高さよりも沢山の用途に使えることの方が重視されやすいんだろう。あれかな、デメリットよりもメリットの方が上回ったってヤツかな。美味しいし仕方ないね。

 

 

「キルア!奥にアイスが置いてあるよ!」

 

「え、マジで!?あとで取りに行こうぜ!」

 

「……アイツら、朝からアイスかよ。その若ぇ胃袋が羨ましいぜ」

 

「いや、レオリオもまだ若い部類だから食べれると思うけど……」

 

「んなことしてたら、一日の栄養バランスが一気に崩れんだよ!!カロリーと栄養素の比率が合わなくなっちまう!!」

 

 

…レオリオって栄養士の資格でも取るのかね?それくらい栄養に関して詳しいし、愚痴ってくるから向いてるんじゃないか?今度言ってみよう…。でも、それはそれで十代が言うセリフじゃない定期だぞ、お前。ちなみにそれをレオリオに言ったら、クラピカにも頷かれて唸っていた。

 

余談だが、キルアとゴンは俺を含めた他三人が完全に食事を終えてもしばらくはスイーツエリアで甘いものを食べ比べしていた。キルアは単に食べたいだけらしかったが、ゴンはミトという母親代わりの人に送る手紙に書く内容として食べていたらしい。不意にほっこりしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を食べに食堂へ訪れてから一時間半が経過した。大半の受験者達が飛行船内で自由行動しているので、食堂はハンター協会の職員以外の人影がほぼなかった。そんな中、ちらほらと気配が散っていくのを見(はか)らって俺は口を開いた。

 

 

「クラピカ」

 

「どうした、レアン」

 

「…クモワシの直前に話してたこと。その続きがしたいんだけど、今でも大丈夫?」

 

 

俺がそう口にした途端、クラピカの(まと)う雰囲気がピリッとした。その雰囲気に刺激されたように、さっきまで緊張のきの字もなかったキルアが甘いものを食べていた手を止めた。ゴンはそれを見て一瞬キョトンとしながら、持参したであろう何かの本と向き合っているレオリオに声をかけた。

 

 

「クモワシの直前に話してたことって、レアンの目の色のことだよね?」

 

「そう。クラピカ…一応聞くけど、俺を狙う悪い人を探してるのって知り合いがいるからとか?」

 

 

…俺は最初の振り落としの時からクラピカと一緒にいる訳じゃない。だから、クラピカがそれだけ興味を持っている理由も分からない。…一次試験の時に会ったキルアもそうだと思う。逆に言うと、一次試験の時点でクラピカと行動してたゴンとレオリオは分かってるってことか?

 

 

「いや…むしろ私は死んだ同胞の仇が、そういった連中ではないかと思って探しているんだ。…こうしてハンター試験に参加している理由でもある」

 

 

…ふむ。

つまり、クラピカの同胞の人達は俺と同じかそれくらいの希少性がある人達だったんだな。俺の目の色が珍しいように、その人達にも何か珍しいと言われるようなものがあった。だからこそ、その人達はクラピカ以外が居なくなるくらいのレベルで狙われた、と。

 

 

「コイツ、ハンターライセンスで賞金首(ブラックリスト)狩り(ハンター)になるんだと」

 

「へー」

 

 

レオリオがクラピカを指差してそういうと、キルアは若干どうでも良さげに相槌をした。…うーん、キルアさんや。アンタもしかして、フォグみたいに興味ないものには割と容赦ないタイプじゃないかい?まあ、それは今どうでもいいか。

 

 

「あのね、クラピカはクルタ族っていう一族の生き残りなんだって」

 

「それって…もしかして、五年前にあったっていうクルタ族襲撃事件の…?」

 

「…あぁ」

 

 

少し気が荒ぶっているクラピカを宥めていたゴンがクラピカの言葉に付け足すようにそう言うと、俺には一つだけ思い当たる節があった。それは三回目の人生で世話になったクルタ族が残酷な殺し方で、遺体は一族の特徴である緋の眼を主に欠損していたというものだ。

 

事件が発生したのは1994年、つまり五年前にクラピカはクルタ族の集落から出ていたのだろう。…確か外出試験に受からないと出れなかった筈だ。ハンター試験程じゃないけど、かなり厳しめな試験だった覚えがある。クラピカは事件直前に合格したんだな…。

 

 

「…クラピカはさ、多分幻影旅団がやったと思ってない?」

 

「……だが、少なくとも実行犯ではある筈だ」

 

「あー…それはそうだね。実際にやったのは幻影旅団で間違ってないと思う」

 

 

実行犯が幻影旅団であることは事実だろうが、俺は事件そのものを発生させる発端ではないと思う。その理由として…幻影旅団は流星街出身者が多いのだが、幻影旅団は流星街の人々とは違って犯行現場に文言を残さない。結成の時点で流星街の中でも特殊な連中だったんだろう。

 

幻影旅団に所属していない流星街の者が主導して発生した事件では、事件現場の何処かに必ずと言っていい程に文言が残されている。『我々は何者も拒まない だから我々から何も奪うな』とな。そしてクルタ族襲撃事件の現場にはその文言があった。

 

隠れ住んでいる筈のクルタ族の住居、それがバレたのが一番不思議なところだが…。とりあえず、クルタ族襲撃事件は実行犯が幻影旅団で主導は流星街と見ていいだろう。だが…クラピカのような被害者を増やさないようにするには、流星街にそれを依頼した存在を潰す必要があると思う。

 

…割と流星街で色んな依頼を色んなところから受け持ってるからなあ。まあ、それを特定するのが一番大変なところではある。ただ、一番の候補としては流星街に色々なものを流しているマフィアだろう。マフィアが利益を求めてクルタ族を狙ったとすると、話の筋は通ってる。

 

しかし、マフィアが利益のみを求めて行ったのなら緋の眼の市場価格を高く釣り上げたいのだろうか?すぐに利益を得たいのであれば、裏の市場に大量の緋の眼が出回ってもおかしくないんだが…。うん、気になるのはそこだ。マフィアが発端なのか、それとも更に上がいるのか。

 

 

「えっと…ごめん、ゲンエイリョダンって…?」

 

「簡単に言うなら、十二人いる犯罪者集団だ。大半が流星街出身のな」

 

「リュウセイガイ……??」

 

「あ"ーそこからか!」

 

 

流星街(りゅうせいがい)

それはこの世の何を捨てても許される場所。かつては単なるゴミ捨て場だったが、それが独裁者の人種隔離政策をキッカケに人すら捨てられるようになった地域だ。

 

一番最初の俺が捨てられたのが赤子の時なんだが…。今もその時と変わらずに、世間的に都合の悪い誰かが捨てられることは変わってないらしい。世界は政治的な空白地域で無人であると述べるが、実際には様々な事情で何もかもを失った人々が最後に辿り着く場所になっている。

 

世界がそう述べているだけあって、流星街の中では政治的な干渉が全く存在しないし通用しない。そう聞くととんでもない無法地帯のように思えるだろうが、実態的には流星街の中で生き残ってきた長老達による議会制度が統治を行っている。…今はどうなっているんだろうな。

 

幻影旅団(げんえいりょだん)

流星街出身者を主として構成された、十二人の団員全てが犯罪者として悪名高い連中だ。基本的に盗みや殺しをメインに活動しており、その目的は現状でも不明。団員一人一人が恐らく念能力に目覚めているようで、熟練のプロハンターでも侮れない程の実力を有しているという噂だ。

 

俺が流星街を出てから生まれた集団だから、俺もあまり詳しくは知らない。だが、団員の大半が流星街出身であることを考えれば仲間同士の絆はかなり深いだろう。…まあ、俺もちょっと理解できないようなところもあるから絶対そうとは言えないが。

 

 

「っつー感じだ。分かったか、ゴン」

 

「うーん…なんとなくは!」

 

 

レオリオがゴンにも分かるように幻影旅団と流星街について説明し終わると、ゴンは若干首を傾げながらも頷いた。…本当に分かってんのかそれ?反応的にそう思ってしまったが、ある程度は把握した……んだと思いたい。すると黙って聞いていたキルアが口を開いた。

 

 

「…なあ、実行犯はその幻影旅団だって分かってんだろ?それならそいつらを叩けばクラピカの仇は取れるんじゃねーの?」

 

「それはそうだろうけど…クルタ族襲撃事件は流星街が主導したものだと思うんだ。事件現場に流星街が主導してる事柄の時に共通する文言が残されてたからさ。多分、幻影旅団は流星街から頼まれたみたいな感じじゃないかな」

 

 

キルアの疑問に対して俺が持論を展開すると、レオリオは苦いものでも食べたみたいな渋い表情を浮かべた。ゴンは……うん、言葉は理解してるけど俺が説明したいことはまだ理解が追い付いていないみたいだな。キルアは反応が薄い。…本当にゴンや俺と同じ歳か?

 

 

「おいおい…とんでもねえ話だな…」

 

「うん、まあ………そうだね」

 

 

レオリオがドン引きしたかのような反応を見せたので、俺も同じくそれに同意した。…事実、いくらハンター協会のお膝元だとしてもだ。こんな沢山の人がいるような、もしくは簡単に情報が漏洩するような場所で話していいことではない。

 

それに幻影旅団が実行犯止まりだと思う理由のもう一つとしては、幻影旅団がいる現場に訪れた旅人の女性が生きているのがおかしいからだ。犯行現場を目撃した訳じゃなさそうだったが、それでも幻影旅団が周囲の目撃者になりそうな気配に気付かないとは思いにくい。

 

…ん?ちょっと待て、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まあ、それは後で考えるとして…。幻影旅団が過去に行ってきた事件や犯罪の大半は、目撃者が誰であろうと仲間じゃない限りは殺害されているケースが多い。それ故に幻影旅団の情報はかなり貴重であり、ハンター協会からも団員個人の情報レベルになると高価で取引される。

 

何てったって幻影旅団の情報を残せる相手が大半死んでいて、まともに事件情報を語れないからだ。つまり、殺害という形で旅団の情報が外部に漏れるのを防いでいる訳なんだが…。まあかなり力技ではあるが、確かに有効だからこそハンター協会ですら動いている。

 

 

「……では、私の仇は流星街なのか?」

 

「いや、流星街も多分誰かから依頼されただけだと思うよ。ただ、クルタ族が強いって知ってたから実力が高い幻影旅団を派遣しただけ。クラピカが探るべきなのは、流星街を通して緋の眼を求めた人じゃない?」

 

「そっか、流星街にこれが欲しいってお願いした人がいるってことだもんね」

 

「そうそう。流星街だって動くメリットがなかったら、わざわざ一つの種族を滅ぼす必要がないしさ」

 

 

俯いていて表情が見えないクラピカの質問に対し、俺は首を横に振った。…一応依頼主の心当たりを俺も考えてはいるものの、結局はクラピカがどれだけ怒ってるかによって話は大きく変わる。それこそ纏めて根絶やしにしたいくらいなのか、そうじゃないのか。

 

 

「どういう依頼方法だったのか分からないけど…。流星街や幻影旅団に対して全滅させろって指示してたなら、依頼した人が一番仇を取るって意味合いでは理想的だと思う。…まあ、全滅させろって指示が出てなかったなら…全員片っ端から叩くしかないね」

 

「はは……それは、随分と果てしない道のりになりそうだな」

 

 

低く淀んだ声でそう言ったクラピカの様子を見て、俺達はどうしようかと顔を見合わせる。…キルアが「お前が言い出しっぺだろ」と言いたげなジト目で俺を見た。全く言い逃れできないので、俺は大人しくクラピカを励ます言葉を考える。

 

 

「…えっとその……大丈夫だと思う!クルタ族としてはクラピカ一人かもしれないけど…今回のハンター試験を通してレオリオやゴン、それに俺とキルアにも会えた」

 

「そうだね!」

 

 

…今回の話を聞いて確信に至ったが、クラピカってクソ真面目だな。いや、物事に真面目なことは悪いことじゃないんだ。ただ、よりにもよってクラピカにとってほぼ無条件で頼れるクルタ族が滅びたものだから、クラピカは一人でどうにかするっていう覚悟でいる。

 

クラピカがいつクルタ族の元から旅立ったのかは分からないが、多分旅立ってそう時間が経過しない間に事件があったんだろう。そのせいで、クラピカは知らない外の世界で誰かを信じて頼るっていう経験が少ないままになってしまった。

 

ちゃんと物事を考える力があるから、多分この先でクラピカが誰かを頼るのはそこまで遠くないと思う。だが、その時にクラピカの行動原理を聞いてその上で理解を示してくれる相手はどれだけいるんだろうか。…腹を割って、心の底から信じると決められた相手はいるんだろうか。

 

それが分からない。

どれだけ考えても分からないから、俺がクラピカに言うことはこれにする。

 

 

「まあ…いつでも何でもできるって訳じゃないけど、今みたいにクラピカが考えてることを一緒に考えることは出来るよ。だから、クラピカが全部一人でやらなきゃって抱え込まないで」

 

「おうよ。俺も戦う力はねえが、怪我したら手当するくらいはしてやるよ」

 

「オレ達もクラピカが探してる相手、探せるよ!ね、キルア!」

 

「……まあ、そうだな。一人でやるよりは早い筈だぜ」

 

 

四人でそれぞれ、クラピカにそう言葉をかけた。

指を組んで顔を伏せていたクラピカはその肩を少し揺らした。少しばかり鼻を啜るような音がしたかと思えば、クラピカは伏せていた顔を上げた。緋色に変わると言われるその瞳は、澄んだブラウンのまま涙を浮かべていた。

 

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

今でも鮮明に思い出せる程に、あの時のことを、私ははっきりと覚えている。どうしても信じたくなくて、その日の新聞を買った手が震えていた。困惑と混乱が入り混じっていても、クルタ族が狙われていたことを自覚していた私は、運良くその日泊まっていた場所でそれを見ていた。

 

周囲にいたのは私が二ヶ月程前、一緒になってクルタ族の集落から飛び出してきた相棒だけ。目の前で見ている訳でもなく、あまりにも現実味のない新聞の内容に固まっていることしか出来なかった。…だが、私は外に出たからこそ理解できてしまった。

 

あぁ、時代が変わっても()()()()()()は狙われ続けるのか、と。

 

 

「……大丈夫、大丈夫だ。オレは、……」

 

 

現に、私が集落の外に出て一ヶ月前後で理解したことがそれを物語っていた。確かに時代は移り変わった。目に見えて差別することは世間的に忌避され、社会は多様性に満ち溢れていた。田舎から飛び出してきたばかりと言い訳をすれば、周囲の人は私にとても親切にしてくれた。

 

別にそれはいい。むしろ、その人達に恨みは一つも無い。ただその社会の在り方はとても良い在り方だったが、それだけ希少性が高いものは日に照らされない場所で行き交っていた。決して表に露見することがないように、平和の裏側でやり取りが行われていた。

 

そのやり取りは命の危険があったり、それだけ希少性が高かったりすればする程に買い手が熱狂するんだと商人から聞いた。言わば、一種のステータスとして周囲に見せびらかす。たったそれだけの為に、希少性が高いからと様々なものが飛び交うんだと教えてくれた。

 

…その背を借りて、集落から出てずっと一緒で旅をしてきた相棒が慰めるように鳴いていた。心配そうな相棒を表面上だけで慰めてしまって、その日は一睡も出来なかった。希少性があるからという言葉だけで、クルタ族がもう私以外全て殺害されてしまったことに怒りが消えなかった。

 

 

「……あの、この場所ってどこですか」

 

 

それからずっと、眠りに落ちる度に悪夢を見た。懐かしい集落でいつも通りにパイロと遊んでいた。いつか外に出たいと語っていると、何処からかシーラが現れて私を指差した。まるで親の仇でも見ているような怯え混じりの表情は、明らかに私へ向けられていた。

 

 

『な、なんで…あの子を見捨てたの…?』

 

 

そう言われて、あの子って誰だと私は首を傾げるのだ。そして隣にいたパイロにあの子って誰だろうと、そう聞こうとして私はやっとそれが夢であることを悟る。隣にいたパイロが跡形もなく消え去ってから、私は自覚する。嫌な汗が流れて、周囲を見渡した。

 

 

『ねえ、クラピカ』

 

「ぱ、パイロ……わたし、は……私は…」

 

『何も言わなくていいよ、クラピカ』

 

 

すると、絶対に私はその夢の中で首から上を失ったパイロを見つけてしまう。それを見る度に、私は「医者を見つけてくる」とパイロに約束したことを破ってしまったと後悔と罪悪感に追い詰められる。喋る口もないパイロは私の言葉を遮って、必ずその夢の中でこう言った。

 

 

『クラピカは、楽しかった?』

 

「っごめん、オレは…!!!オレは、みんなを…みんなを見捨てて、一人、生き残って……オレは…!!!」

 

 

いつもであれば、夢でパイロにそう聞かれる度に私は何度だって謝り続けた。謝ったって本人にはもう届かないと分かっていても、私は謝らずにいられなかった。事実、集落が襲われる前に外へ飛び出した私はたった一人で逃げ出したようなもの。行ってらっしゃいと、言った皆を置いてった。

 

結果的にそれが集落の皆との最後の会話になってしまったばっかりに、私は私が裏切り者のように見えてならなかった。生まれてからずっと身近に関わってきた人々を一斉に亡くした衝撃は、それだけ私の精神にダメージを与えた。

 

一人逃げ出した私は、何がなんでも皆の仇を打たねばならないのだと。…当時の私は、本当にそう思い込まないと心が耐え切れなかった。今まで関わってきた人を沢山失って、クルタ族という言葉すら知らない人々とどうやって生きていけばいいのか分からなかった。

 

皆の仇を殺したら、私も皆の背中を追おうと思っていた。もう誰一人としていない同胞に、会いに行きたくてたまらなかった。それだけ私は心理的な孤独を抱え続け、それだけ怒りと復讐心を溜め込み続けた。そうして、奥に秘めた底知れない寂しさを紛らわせた。

 

 

「……どう、だろうな」

 

 

だが、そんな何度も繰り返された夢に対して…私は初めてそう返した。ハンター試験という一つの試練の中で出会ったあの四人に、少しでも受け入れられたからだろうか。…分からない。分からないが、ただ、変わったんだということは自覚できた。

 

 

『クラピカ、ボクとの約束は覚えてる?』

 

「…あ、あぁ…覚えている」

 

『"楽しかった?"ってボクが聞くから、心の底から"うん"って答えられるような…そんな旅にしてきてね』

 

「約束する!!」

 

 

パイロが死んでしまっていることは、事件が起きた後の集落に戻って確かに確認している。もちろん、その時訪れた理由であった微かな希望は見事に断たれたが…。だからこそ、私は動揺した。パイロは確かに死んでいるというのに、何故そんな問いかけをしてくるのかと。

 

それでいて、皆を失う前の私であればパイロの言葉にすぐ返事をできたであろう、と気付いた。すると何故か…途端に、涙が溢れてきた。思い返す()に、私はパイロとの最後の約束を(ないがし)ろにしていたと気付いてしまったからだ。

 

 

 

 

 

「……っ!!」

 

「ぐがぁあ……ぐおぉぉ」

 

 

不意に夢から覚めると、真隣から野生の肉食動物と勘違いしてしまってもおかしくないイビキが聞こえた。相変わらず、例の夢を見た後の酷い寝汗に不快感を感じながら身体を起こす。イビキだけであれば動物並みであろうレオリオを横目に、涙を拭う。

 

身体が排出した水分を取り戻そうと、喉の渇きを訴え出した。これではシャワーを浴びることすら出来ないと判断して、部屋に備え付けられた小さい冷蔵庫に入った水のペットボトルを一つ空にする。ゴクリ、と最後の一滴まで飲み干して部屋のゴミ箱に入れた。

 

…とりあえず、この酷い状態をどうにかしなくては。そう考えて、着替えを脱衣所に用意してから寝汗を吸ったであろう寝巻きを脱ぎ捨てる。そしてシャワーカーテン付きのバスタブに立って、思い切り頭からシャワーのお湯を浴びた。

 

ほどほどの熱さに整えられたお湯が頭から首筋を伝い、私の身体を伝いながらも最終的に足場としているバスタブの底へ落下した。それがいくつも落下していくのを、しばらく眺め続けた。頭を洗い、それをお湯で流した。身体を洗い、それをお湯で流した。

 

 

「……"がんばって生きてみろ"、か」

 

 

中々に広さがある浴室につけられた、全身の四分の三を余裕で映す姿鏡に手を付いた。…あの時の私はどれくらいの身長だっただろうか、と関係ないことが頭をよぎる。それでいて、かつてシーラに見せてもらったD(ディノ)・ハンターの言葉も浮かんできた。

 

怒りも悲しみも、それこそ復讐心も簡単に変えられるような生半可なものではない。だが、パイロの元に医者を連れて行くという約束を破ってしまった以上、集落を出る直前に交わした最後の約束を破りたくはない。自然と、鏡に付いた手が離れた。

 

 

「…仇への復讐を止めるつもりは毛頭ない。…だが、そのあとで頑張って生きることは…少し、考えよう」

 

 

今も胸の奥で燃え盛る怒りに対して投げかけるように呟くと、私は少しばかり発生した変化を飲み込めるように思えた。その道中は決して楽しいどころで済ませられるものにならないだろうが、それでも。…その時はパイロに負い目なく、頷けるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…がぁあ……ぐごぉぉお」

 

 

用意していた着替えを見に纏い、髪を完全に乾かして脱衣所を出た私はレオリオのイビキを耳にした。そしてそれに対して、さっきまでが静かだった分の反動でとてもうるさく聞こえた。少し耳を塞ぎたくなってしまうその声に、ほんの微かに笑いが漏れた。

 

もしもの話をするのはらしくないが、それでも少し考えてしまう。いつかクルタ族の生き残りとして仇を、復讐を果たした後。その後は、あの四人の元にでも出かけよう。…特にゴンを見ていると、かつて族長に詰め寄っては掟だからと言い返されていた昔の私を思い出す。

 

純粋に外の世界に憧れて、見てみたいと願った時に戻っているようだった。もちろん、今の私がその純粋さを取り戻すことはできないだろう。だからこそ、いずれ私が復讐を終えて空っぽになった場所にあの四人との思い出を入れよう。

 

そうしたら、いつか何かの形で死んでパイロと再会した時に「楽しかった」と頷けるような。そんな予感が少しだけ、ほんの少しだけしていた。

 

 

「……そういえば、本当にレアンはクルタ族とは関係がないんだろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だかんだでクラピカに対して保留していた話を終え、その後は随分と呑気に時間が過ぎ去っていった。気のせいかクラピカの雰囲気も柔らかいものになり、それをゴンが一番喜んでいた。お前本当に良い子だなあ。ミトさんが心配するのも分かるよ俺は。

 

それから事前に予告されていた通り、飛行船に乗ってから三日程を過ごした。初日のような緊張感がある会話を交わすこともなく、受験者同士で世間話をすることもなく、飛行船だけが受験者達の中で高まる緊張感を感じ取っていたのかもしれない。

 

ゴオンゴオンと鳴らしながら、飛行船が到着したのはハンター試験の審査委員会が経営するホテルだった。このハンター試験の為だけに経営している訳ではないのだろう。相当に質が良く、管理の行き届いている内装に圧巻されていると、自然とホテルの大広間に辿り着いていた。

 

大広間には受験者達以外にも、今までの試験で関わってきた試験官達も同様に勢揃いしていた。そして、その代表格であるネテロ(ジジイ)の真横には布が被せられたボードのようなものが置かれていた。受験者達が全員揃ったのを見計らって、ネテロ(ジジイ)は口を開いた。

 

 

「さて、最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。そして、その組み合わせは……こうじゃ!」

 

 

そう言って、ネテロ(ジジイ)は真横に置いていた布を被ったボードから布を取り払った。そうして姿を受験者達の前に表したボードには、各受験者達の受験番号が一番下に並んでいた。紹介された通り、それらの番号は上に向かうに連れて対戦する数が少なくなっていた。

 

俺は1番の受験番号をその中から探し出すと、俺から見て最初に対戦することになる受験番号を見た。番号は191番。周囲の受験者達が自身の対戦相手を探すのと同じように探すと、191番の受験番号を持ったおっさんと目が合った。

 

そのおっさんの姿を頭の頭頂部から足先まで観察して、脳裏によぎったのは俺が無惨に負ける姿だった。…いやさ、だって191番のおっさんを見てる限り、明らかにあのおっさん武道とかを嗜んでる人だぞ?そんなの、貧弱貧弱ゥ!!印の俺が勝てる訳ないじゃん??

 

…つーか、何よりもあのトーナメント表が悪いだろ。なんていうか、全体的に偏ってるし…。レオリオとあの…そう、ギタラクルとかいう人に関しては最大二回までしか対戦の機会がないじゃねえか。それって色々とマズくねえか…??

 

 

「最終試験のクリア条件だが、いたって明確じゃ。たった1勝で合格である!!」

 

「なるほど、……つまり」

 

「このトーナメントは勝った者から抜けていき、敗けた者が上に登っていくシステムじゃ」

 

 

どうやら不公平なトーナメント表の意味を理解したらしいクラピカが口を開いたが、説明する役目が奪われたくなかったらしいネテロ(ジジイ)が食い気味に遮った。…おい、それは少し大人げねえぞ。ジト目で俺が見ると、ネテロ(ジジイ)は俺から目を逸らした。おいこっち見ろや。

 

 

「…ということは、戦う回数が多い方が有利らしいな」

 

「じゃあよ、この中から不合格者はたった1人ってことか?」

 

「その通りじゃ。しかも誰にでも2回以上の勝つチャンスを与えられておる」

 

 

…基準がなんなのか知らんが、そう考えるとこのトーナメン表は不利なままかもしれないな。最初の対戦が191番のおっさんである時点で割と不利だったけど、さらに不利ってことになる。現に俺がおっさんに負けたら、次はクラピカかヒソカと対戦する羽目になるしな…。

 

 

「何か質問は?」

 

「組み合わせが公平でない理由は?」

 

「うむ…当然の質問じゃな」

 

 

191番のおっさんから質問が出ると、ネテロ(ジジイ)はそれに対してその質問が来ることを予想していたと呟いた。まあ、ですよねとしか俺も言えないんだけどさ。こんなにも不公平なトーナメントだと、目に見えて子供であるゴンやキルア…そして俺みたいなのが苦しむことになる。

 

ゴンとキルアは今までの試験で見せてきた身体能力とかから、そこまで苦戦するようには思えないが…。問題は俺だ。もしここで何も出来なかった場合、俺は来年にまたハンター試験にチャレンジすることになってしまう。

 

……もしワガママを言うとすれば、可能な限りは今年で合格したい。せっかくあの四人と会えた上に、合格できたら俺はあの四人をこの世界で初めて出来た友達と認識してもおかしくない…よな?…まあ、嫌がられたらもう良いんだけどさ。

 

 

「この組み合わせは今までの試験の成績をもとに決められておる。簡単に言えば、成績のいい者にチャンスが多く与えられているということじゃ」

 

 

191番のおっさんから出された質問に対して、ネテロ(ジジイ)がそう答えた。すると、今まで大人しく話を聞いているように見えていたキルアがその目つきを変えて反応した。…何かしらあるとは思っていたが、どうやらそれ相応のプライドが出来るくらいには経験があるらしいな。

 

 

「それって納得出来ないな。もっと詳しく点数の付け方とか教えてよ」

 

 

憶測だが…恐らくキルアが気にしているのは、俺かゴンよりもキルアが成績が良くないということじゃないだろうか。……いや、トーナメント表を見る限りはゴンだな。俺はクラピカと同じくらい戦えるチャンスがあるし…。あぁでも、キルアよりは一回多いか。

 

それか、キルアの対戦相手になるかもしれないターバンの受験者に対してだろうか?…まあハンゾーも可能性はあるが、ハンゾーはハンゾーでそこそこ実力があるのは見て取れるからなあ。キルアがどういう印象を持ってるのかは流石に知らないし、予測でしか考えられない。

 

 

「ダメじゃ」

 

「なんでだよ!」

 

 

………ネテロ(ジジイ)もそうだが、キルアもキルアで思った以上に食い下がるんだな。単純計算でも、ゴンとハンゾーの二人が最大五回…と一番対戦回数が多いが…。その次に四回戦えるヒソカ、ターバンの受験者だったりクラピカ…そして俺になるのかね?

 

そうなると、一番少ないレオリオやギタラクルよりは対戦回数が一回多くてもキルアとしては納得いかないかもしれないな…。道中でも時折そうだったが、キルアはあまり集団行動に慣れてなさそうだったし…。年齢に対して過剰な程に高い戦闘能力は、単独で獲得してきたものなのかもな。

 

うーん…そう考えると、割とあのトーナメント表は戦闘能力だけで考えられてないだけマシじゃないか?戦闘能力が低いっていう意味合いだと、少なくとも俺とレオリオが最下位を争うことになるし…。逆に、レオリオは戦闘能力以外であの評価になる何かがあったってことにもなるけど。

 

 

「採点内容は極秘事項でな。不合格者も出る以上、全てを言うわけにいかん」

 

「…ッ」

 

 

…うん、非常に正論パンチである。確かに命の危機があったり、受験者同士で蹴落とし合うことになるのを考えると下手に言わない方がかえって安全だろう。それに、こういう試験で加点される条件を言いふらすと何処かしらで不正をしようとする連中が現れるのも事実だ。

 

ま、古典的な連中だと金で解決させようとするとかな。ネテロ(ジジイ)の立場は腐ってもハンター試験の要だ。そんな立場の人間が不用意なことを言ったら大変なことになるのは当たり前。下手に発言力もある分、もっと厄介だ。仕方ないと言えば仕方ないな…。

 

ネテロ(ジジイ)というハンター試験におけるお偉いさんから、そう正論で返されたキルアはグッと歯を噛み締めて俯いてしまった。紫外線をあまり浴びていなさそうな肌が、両手だけ強く握り込まれ過ぎて少し変色している。……余程認められないらしい。

 

 

「……まぁ、やり方くらいは教えよう」

 

 

それを見かねたらしいネテロ(ジジイ)が少しだけ口の紐を緩める。…いや、正確にはキルアの中のフラストレーションが今になって急激に溜まっていることでも察知したのかもな。試験中でもキルアは終始その行動が周囲を舐めていると言うか…、あまり脅威に感じていなかったみたいだしな。

 

もうすぐ十二歳になるってことも考えると、今まで自身が強かったり凄いんだっていう自信から急に突き落とされたら…そりゃ不安にもなる。いくら戦える能力が高くても、まだその心が子供であることに変わりはない。むしろ、その弊害を受けて育たなかったのが変わってきているんだ。

 

 

「まず審査基準。これは大きく三つじゃ…身体能力値、精神能力値、そして印象値。これらの三つから成る」

 

 

ネテロ(ジジイ)はそう言って、ゆっくりと三本の指を立てた。…それを見て、悔しげに俯いていたキルアの肩を軽く叩いた。キルアはその相手が俺であることに少し落胆しているように見えたが、まあ…試験後に油断してずっこける俺よりは成績が良いって思うのも分かるぞ俺は。

 

 

「身体能力値は敏捷値・柔軟性・耐久力・五感能力等の総合値を。精神能力値は耐久性・柔軟性・判断力・創造力等の総合値を示す」

 

 

…だって俺、キルアが文句言いたくなるくらいには身体能力が低っい自覚あるからなあ。別にこうなりたくてなった訳じゃないが、現に塔で閉じ込められた時はキルアから面と向かって説教されてるし…。精神うんぬんは高いとは思うが、突発的に動き出してリスクを考えなかった。

 

 

「だが、これはあくまで参考程度じゃ。最終試験まで残ったのじゃから、今更じゃな。重要なのは()()()!!これはすなわち、前に挙げた基準では測れない"()()()"!!言うなれば、ハンターの資質評価と言ったところかの。それと諸君らの生の声とを吟味した結果、こうなった以上じゃ!」

 

 

ネテロ(ジジイ)はそこまで説明しておいて、一番最後の項目を主張するように強く言う。そんな説明を聞いて、納得できたらしいクラピカは「なるほどな…」と呟いていた。…クラピカっていつかアイディア成功しちゃいけない場面でクリティカル出しそうなタイプだよな。

 

つーか、キルアがその印象値でゴンに負けたのは分かった。だけど、俺がそんなキルアよりも評価されてるのがよく分からない。…大人の事情で少し配慮されてるとかならまだしも、ネテロ(ジジイ)の性格的にそれを許容するようには思えないんだよなあ。

 

そこまで目立つようなことは………いや、してるな。うん、全っ然してるな…目立つこと。一次試験のマラソンで脱落するであろう受験者に水を渡したし、ヒソカに襲われそうになったレオリオとクラピカとは共闘もした。

 

握り寿司に関しては不合格扱いにはなったが、それでも割と正解まで迫った。その後の塔ではキルアに叱られるだけの、後先考えない行動で一人の受験者を救助しようとした。あとは…目立ってるか分からないが、一週間島で過ごした時は体調が悪そうな受験者を一人匿った。

 

 

「さて、最終試験に戻るぞい。戦い方は単純明快。武器オーケー、反則なし、相手に"まいった"と言わせれば勝ち!ただし、相手を死に至らせてしまった者は即失格!!その時点で残った全員が合格となり、試験は終了じゃ」

 

「…そう、残念♠︎」

 

 

早速最終試験が始まると思った矢先に、「殺しは無し」というネテロ(ジジイ)の言葉に心底残念そうにするヒソカがトランプをシャッフルしていた手を止めた。…怖ぇーよ、コイツ。何?お前もしかしてこの世界で唯一のサイ◯人だったりしないか??

 

本当にそう思ってしまう程、ヒソカが動く理由が戦闘であることが俺は少し恐ろしくなった。むしろ、本能的にそういう生物だって言われた方が安心するくらいだ。そんな戦々恐々(せんせんきょうきょう)としている俺を置いてけぼりにして、第一試合は始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第一試合!ハンゾー対ゴン!!」

 

 

その掛け声に合わせて、最後に残った受験者達の中からハンゾーとゴンが前に出る。両者が大広間の中央で向かい合う形で立つと、二人の対戦を邪魔しないようにと観客でもある他の受験者達は部屋の壁際に寄った。巻き添えを受けない、という意味もありそうだがな…。

 

なんとも言えない沈黙が部屋の雰囲気を支配する中で、ハンゾーとゴンだけはお互いの姿をただ静かに見つめ合っていた。体格も年齢も、なんだったらその身体で経験してきたことも違うであろう両者。だが、今この場においてハンターを目指しているという一点は揃っていた。

 

 

「始め!!」

 

「!!」

 

 

その声が部屋に響き渡った時には、ゴンは全力で横に走り出していた。だがしかし、そんなゴンとは格差を付けるかのように…ハンゾーは音を出さずにゴンの目の前に移動した。それはまるで、ゴンからすれば瞬間移動にでも見えているんじゃないだろうか。

 

そう思ってしまう程に、ハンゾーが距離を縮める速度は速かった。あれが漫画とかアニメとか、そういう作品で登場する縮地(しゅくち)ってヤツなのかは分からないが…。それともすり足だろうか。仮にもハンゾーは忍らしいしな。

 

 

「おおかた足に自信ありってとこか。認めるぜ」

 

 

ゴンが驚いてその身体を回避に切り替えるよりも先に、ハンゾーは鋭い手刀をまだ幼さが残るゴンの首筋に叩き込んだ。あまりにも素早いそれは、俺の目では追い切ることができなかった。ただ、かろうじてその仕草から手刀であろうことを見抜いただけで。

 

 

「子供にしちゃ上出来だ」

 

 

ハンゾーがゴンの足の速さに対してそう評価するが…。ゴンは恐らくハンゾーのその言葉すら正確に聞き取れないまま、その身体が正面から床に倒れ込んだ。…一瞬過ぎる攻防に、俺は思わず拳を強く握り締めていた。これでは、ゴンが合格できないかもしれない。そんな不安に駆られた。

 

 

「さて、決闘ならこれで終わりなんだが……」

 

 

ハンゾーが面倒臭そうに呟いた言葉を聞いて、俺はハッとした。…そうだ、この試験では相手に"まいった"と言わせない限りは終わることができない。つまり、ゴンを戦闘不能状態に陥らせてもハンゾーは勝つことが出来ないということになる。それでも、嫌な汗は止まらなかった。

 

 

「ほれ、目ぇ覚ましな」

 

 

ハンゾーがうつ伏せになっていたゴンの身体を仰向けにすると、その顔に水をかけた。下手に身体を蹴ったりして起こさない辺りは、まだ優しい方なのかもしれないが…。それでも、ゴンが顔から水を浴びて苦しそうに咽せながら起き上がるのは、見ているこっちが心配になる光景だった。

 

 

「気分最悪だろ?脳みそがグルングルン揺れるように打ったからな」

 

 

ゆっくりとしながらも起き上がったゴンはやはりと言うべきか、その目から闘志が消えているなんてことはなかった。しかし、少なからず手刀で気絶させられた影響が残っているのか、ゴンは何処か足元がフラついていた。それでいて、気持ち悪いのか口元を少し押さえた。

 

 

「分かったろ?差は歴然だ。早いとこギブアップしちまいな」

 

「……嫌だ!」

 

 

目に見えて闘志が失われていなかったゴンは、ハンゾーから提案された言葉をはっきりと拒絶する。だが…ある意味考える余地を与えてくれていたり、ゴン自身の意思で収めようとしている辺りはハンゾーなりに手加減してくれているように思えた。

 

それでも、この最終試験の試合は片方が"まいった"と宣言しない限りは終わらない戦いだ。どれだけハンゾーが温情をかけようと、ゴンがどれだけ不利であってもどちらかが諦めない限りは終わらない。それ故に、ハンゾーはゴンの側頭部を強く叩いた。脳みそを揺らしているんだろう。

 

 

「げほっ!……おえっ!」

 

 

ゴンの身体にその攻撃が通った直後、ゴンはその衝撃によってもたらされた強烈な吐き気に耐え切れなかった。苦しそうに咳き込み、胃から逆流してきた内容物を吐き戻してしまった。ツンと鼻に刺さってくるような刺激臭が、よりこの状況に対する涙を誘う。

 

 

「よく考えな。今なら次の試合に影響は少ない。意地張ってもいいことなんか一つもないぜ。さっさと言っちまいな」

 

「………誰が言うもんか!」

 

 

吐き戻しに対する本能的な動作はゴンの体力を少なからず削っているようで、ハンゾーの問いかけに対して拒絶する息は荒く変わっていた。肌には身体の不調を訴える汗が流れているが、それでもゴンの意思は折れなかった。それに対して、ハンゾーは険しい顔をする。

 

まさに忍耐を体現しようとしているゴンに対して、ハンゾーは拳でその身体の腹に重い一撃を入れた。刺さっているかのようにも見える一撃は、吐き気によって体内でも疲労を覚えるゴンにはよく効いたようだった。せっかく起き上がった身体は、再びうつ伏せになって苦しげに(うめ)いた。

 

 

「ゴン!無理はよせ!次があるんだぞ!ここは」

 

「レオリオ」

 

 

それを見かねたレオリオが、たまらないとばかりに叫んだ。そんなレオリオの言葉を、同じく試合を見ていたクラピカが止めた。レオリオの言いたいことも、クラピカが言いたいこともよく分かる。どちらもゴンのことを思っている。

 

 

「お前がゴンの立場ならまいったと言えるか?」

 

「死んでも言うかよ!あんな状態でえらそーにしやがって!分かってるが言うしかねぇだろ!」

 

「矛盾だらけだが、気持ちはよくわかる」

 

「……うん、俺も…同じ」

 

「……」

 

 

レオリオだって、クラピカだって。ゴンのようにとまではいかないが、この最終試合で諦めたいとは思わないだろう。けれど、それでもここで苦痛を味わうよりは来年に賭ける方がいいのではと思うのも、また事実だ。もちろん、受け入れた後だってずっと悔しいままだろうが…。

 

だが、ゴンであればそうするかもしれないと分かっていても…あまりにも試合の光景が一方的な蹂躙に見えて痛々しい。どちらが悪いとかの問題ではないが、それでもハンゾーを責めたくなってしまうような光景なのだ。お互いに諦めきれない、手詰まりがこの状況を生んだ。

*1
社会から孤立し、失うものが何もなくなった者を指すネットスラングです。




多分と言うか、ほぼ確定でこの先から独自の考察を含めた展開が出てきます。
ということで「独自展開」のタグを追加させていただきました。(遅い)

その結果として、初っ端からクラピカの死亡フラグをばっきりと折っておきました。ナイスですパイロ君、筆者はパイロ君以外にクラピカを(最終的に死なない形で)少しでも前向きにさせてくれる存在はいないと思っていました。
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