テーピングやら冷えピタしましたが、その晩はめっちゃ痛くて辛かったです。
あ、一部ダイジェストでお送りします。
書き溜めが少ないのと、リアルで用事があって更新が遅れ気味になって申し訳ない…。
それから、三時間が経過した。
レオリオがゴンに対して叫ぼうとして、それをクラピカが止めてからずっとだ。その間もゴンは"まいった"とは言わなかった。もちろん、ゴンに言わせねばならないハンゾーは仕方なくゴンを攻撃する。見るに耐えないが、それが最終試験だから変えようがない。
「もう……三時間だぜ」
「もはや血反吐も出なくなっているぞ」
これが試験でなければ止めに入りたくなるような光景に、
それとも、どれだけ不利的状況に持ち込んでも諦める様子のないゴンに対して絶妙な手加減で致命傷は与えていないハンゾーに対してなのか。それは、どちらでも通用する言葉だった。ただ、どちらもその"諦めない"という意思に対してのものなのは変わらないだろう。
「てめぇ、いい加減にしやがれ!ぶっ殺すぞ!俺が代わりに相手してやるぜ!」
そんな変わらない状況に対して、ついに堪忍袋の緒が切れたのはレオリオだった。ハンゾーとレオリオが戦えば、レオリオは実力差のあるハンゾーには敵わないだろう。だが、それでも気持ちは別だったということなのかもしれない。
「……見るに堪えないなら消えろよ。これからもっと酷くなるぜ」
こう言ってはなんだが、威勢よく吠えるレオリオに対してハンゾーは冷えた目で返答した。ゴンが諦めない限り、ハンゾーはそんなゴンを諦めさせようと必死になるということ考えると、事実を言っているだけだろう。決して煽っている訳ではない。
だが、頭に血が昇ってしまったレオリオには煽っているようにでも聞こえたのかもしれない。息を荒くして二人の試合に介入しようと一歩、前に踏み込んだ途端だった。レオリオの行手を阻むように現れたのは、恐らくハンター試験に関わっているであろう黒服の試験官達だ。
「1対1の勝負に他者は入れません。仮にこの状況で手を出せば、失格になるのはゴン選手です」
「っ!」
事実だ。極めて真っ当な事実だが、それは今この場においてとても冷えている回答に聞こえた。レオリオとてゴンを失格にしたい訳ではない。だからこそ、心底悔しそうだがその歯を食いしばって進もうとしていた足を止めた。すると、それを聞いていたらしいゴンがゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫だよ、レオリオ……。こん……なの平気さ。ま……だまだやれる」
「……」
息も絶え絶えだというのに、ゴンはレオリオの心配を払拭しようとかすれ声で呟いた。だが、その言葉に一番苦い顔をしたのはハンゾーだった。そう、ここまで時間をかけて致命傷にならない攻撃をちまちまと蓄積してきたというのに、ゴンには…まだ諦める様子がない。
これ以上時間をかけるのは意味がない、とでも判断したのだろう。ハンゾーはその顔色を変えてから、回避すらマトモに出来なくなっているゴンの身体を背後から拘束した。そしてそのまま床に押し倒し、その左腕に狙いを定めるようにグッと握り込んだ。
「腕を折る」
淡々とハンゾーの口から告げられた言葉に、試合を見ていた受験者達も息を呑んだ。そこまでするのか、と。それくらいしないと諦めないと思ったのか、と。誰かが強く、その歯を噛み締める音がした。誰かが強く、その拳を爪が食い込む程に握り締めた。
「本気だぜ。言っちまえ!」
「……い、嫌だ!!」
それでもゴンがハンゾーに抵抗の意思を示した途端、ボギッと何かが折れる音がした。聞いているこちらが痛く感じてしまうような音に、ゴンは悲鳴すら上げなかった。俺は少し聞き慣れている音だったが、それでも他人の身体から聞きたくはない音だった。
「……さぁ、これで左腕は使い物にならなくなったぜ」
ハンゾーは声色だけは余裕そうに言うが、その顔に最初のような余裕は消えていた。ハンゾーに折られた左腕を押さえて、歯を食いしばっているゴンにはそれがきっと見えないだろうが…。無駄ではないのだ。ゴンの行動は、確かにハンゾーに対して心理的なダメージを与えている。
…これはハンゾーがゴンに致命傷を与えた形になって反則負けになるか、ハンゾーが先に諦めてゴンの勝利になるかの二択かもしれないな。そんなことを思って、それでもゴンの痛々しい光景を眺め続けたダメージでため息を吐いた。しかし、近くから感じる殺気にバッと顔をあげた。
「クラピカ、止めるなよ。あの野郎がこれ以上何かしやがったら、ゴンにゃ悪いが抑えきれねぇ……!」
静電気にも似通ったそれに反射で顔を上げると、そこにはレオリオがいた。明らかにその身体から怒気と共に殺気が溢れており、これはマズいとゴンの心配よりもレオリオをどう止めるかに頭が回転し出す。とりあえずクラピカを巻き込もうと思い、クラピカがいる方を見た。
「止める?私がか?大丈夫だ。恐らくそれはない」
あーダメだったー!!!
冷静に物事を考えられるクラピカはまだ大丈夫かと思っていたが、どうやら感情移入した相手に対してはかなり判定が緩むのかもしれない。だが、それはここで行うとゴンが失格になってしまう。やっべえぞこれは!!しかも、クルタ族特有の緋の目を開眼しかけていらっしゃる!!
………あー、オーケー。分かった。俺が二人を精一杯止めよう。多分力技で言っても俺は二人を止めれないし、止めてもすぐに振り解かれるだろう。だからここは、説得だ。出来るだけ、俺の中で推測できる限りのゴンを語って引き止めよう。良いよ!来いよ!!!(諦め)
「…いや、止めるからね」
思考の半分以上が諦めに呑まれながらも、俺はレオリオとクラピカの服を掴んだ。大した制止にはならないが、時間稼ぎにはなるだろう。そう思ってゴンを少し見ると、目が合った。…なんだ、割と平気そうじゃないか。その感情を奥に押しやって、レオリオとクラピカに目を合わせた。
「止めんじゃねぇよレアン!!俺は」
「止めるよ、絶対に。ずっとでは、ないけど」
「何故だ。このままではゴンがもっと傷付く事態になってしまうというのに、どうしてレアンはそれを止めようとする」
「だって、俺もきっとゴンの立場だったらそうするから。ゴンも俺の立場だったら、きっと二人を止めると思う」
レオリオとクラピカの二人から責めるような目で見られて、俺は自ずとその言葉が口から出ていた。すると、二人は俺の言葉を聞いて驚いたように反論の言葉を呑んだ。たかがとは言わないが、まだ腕が折れた程度で済んでいる。死んでいないなら、まだ大丈夫だ。
「…もし今のゴンみたいな立場に俺がいて、誰かに助けられて得たハンターライセンスは何か…嫌なんだ。もちろん、助けてくれたことは嬉しいんだけどさ…。そんな思いをしてまでライセンスを貰うよりは、腕が折れるくらい別に良いかなって」
「お、お前なぁ!!レアンまでゴンみたいに無理する必要あんのかよ!?」
「あるよ。俺はみんなより身体が弱くて、来年参加してもここまで辿り着けるか分からないから」
「しかし……それはっ……!」
「それに、ゴンの相手の人はむしろゴンを殺したくないからあんな脅しをかけてるんだと思うよ。だってゴンに致命傷を負わせたら、困るのはゴンじゃなくて向こうだからね」
だから、もう少し待とう。
そう俺が最後に言うと、レオリオとクラピカはお互いに渋い表情になりながらも介入するのをやめた。それでも、悔しそうに握られた拳から力が抜けることはなかった。俺はそれに安堵のため息を吐きながら、ハンゾーとゴンの試合にもう一度目線を向けた。
すると、理由も経緯も見てなかったので分からないが…。何故かハンゾーはゴンの目の前で片手の逆さ立ちをしながら、自身の出生やら今まで積んできた経験の話をしている。…めっちゃ大隙だからか、目の前でそんなことをされているゴンの目は「チャンスだ!」とばかりに輝いている。
もう見るからに
そんな蹴りを受けたハンゾーは完全に不意打ちだったのか、顔から床に倒れ込んだ。反対に、ゴンは折られた左腕の痛みやら何やらに呻きながらも…今度はフラつくことなくもう一度立ち上がった。…うーん、やっぱハンゾーって忍としては割と抜けてるよな。
「って~~!くそ!痛みと長いおしゃべりで頭は少し回復してきたぞ!」
「よっしゃあああぁ!!ゴン!行け!!蹴りまくれ!!殺せ!!殺すのだ!!」
「それじゃ負けだよ、レオリオ……」
ゴンに不意打ちを喰らったハンゾーの姿に、レオリオはこの試合で溜め込んだ鬱憤を晴らすように大きな声でそんなことを言った。…いや、プロレスか何かじゃないんだから。あまりの発言に、同じくここまで耐えてきたクラピカすらも少し呆れ気味に返事をしていた。
そんな野次馬の歓声などゴンには聞こえていないようで、ゴンはレオリオの言葉に反応することなくハンゾーに向き合った。多分、脳震盪だかの影響で耳が上手く機能していないのかもしれない。それでもちゃんとその足でしっかりと立って、ハンゾーに対してこう言った。
「この戦いはどっちが強いかじゃない。最後にまいったって言うか言わないかだもんね」
ゴンの意図は分からないが、結果的に相手を煽るような言葉を放った。それに対して、ハンゾーは勢いよく床から飛び起きた。俺はその見事なまでの体幹に感心するが…。…その鼻からは、見事なまでの鼻血を流しながらもキメ顔をしていたことで落胆する。
「わざと蹴られてやったわけだが……」
「うそつけー!!」
ハンゾーの言葉に対して、レオリオが思わずツッコんだ。けれど、ハンゾーはそんなレオリオの鋭いツッコミを無視して鼻血が流れる鼻元を拭う。俺の知っている忍とこの世界の忍の違いがもしハンゾーのような例だとしたら、俺はこの世界の忍に落胆するな…。
「分かってねぇぜ、お前。俺は忠告してるんじゃないぜ。命令してるんだ。俺の命令は分かり辛かったか?なら、もう少し分かりやすく言ってやろう」
つい先程の失態で失ってしまった威圧感を取り戻すかのようにハンゾーはそう言った。そして、ゴンに歩み寄りながらもその左腕に巻いてあった布の下から、しっかりとした手入れが施された刃を引き出した。途端、失っていた威厳を取り戻したかのように緊張感が部屋を包み込んだ。
「脚を斬り落とす。二度とつかないようにな。取り返しのつかない傷を見れば、お前も分かるだろう。だが、その前に最後の頼みだ。まいったと言ってくれ」
ハンゾーが醸し出す威厳の割には言葉だけ見れば半ば懇願と化したそれは、ゴンに刃の先端を突き付けながら行われた。左腕の骨を折られて痛い筈のゴンは、ハンゾーの言葉を聞いても刃とハンゾー自体から一切目を逸らすことなく、直後にこう宣言した。
「それは困る!」
>>それは困る!<<と。
……いや、確かにそうだろうけどさ。そうだろうね、うん。ゴンだったらきっとそう言うかもしれないけども…。多分俺もあの立場に居たら、似たようなことを言うかもしれない。諦めたくはないが、足を切られてしまうのは普通に困るからな……。
だがしかし、目の前に刃が突き付けられている状況下でそんなにも堂々と宣言して良いことではない。物理的に目と鼻の先に凶器があるというのに、随分と呑気にも見えた。何かこう、「異議あり!!*1」みたいな感じで宣言するのやめてもらってもいいですか?*2
ゴンが真剣に、それでいてふざけていない筈の発言にその場にいる全員がポカンと口を開けてしまう。そんな中で、あまりにも雰囲気を考えていない上に本人は至って真剣であるということをいち早く勘付けた俺は、腹から込み上げてくる笑いを押し殺すことができなかった。
「脚を斬られちゃうのは嫌だ!でも、降参するのも嫌だ!だから、もっと違う方法で戦おうよ!」
「あっはっはっはっはっは!!!!」
「……なっ!立場分かってんのか、テメー!!」
腹を抱えて俺が笑い出すと、一番近くにいたレオリオとクラピカがギョッとした顔で俺を見た。過呼吸気味になって、ずっと掴んでいたレオリオとクラピカの服の末端を離してその場に
「勝手に進行すんじゃねぇよ!舐めてんのか!その脚、マジでたたっ斬るぞコラァ!!つーかそこのガキも笑うんじゃねぇッ!!」
「それでもオレはまいったって言わない!そしたらオレは血が一杯出て死んじゃうよ」
「む……」
最初こそ無茶苦茶なゴンの言葉にハンゾーも文句を言っていたが、その後に続けられた言葉に納得してしまったらしい。「確かに」とばかりに、勢いを失って黙り込んだ。それに人間の足は身体の中で一番大きい筋肉を有している。つまり、それだけ血液が出入りしている。
「そうなると失格になるのはあっちの方だよね?」
「あ、はい」
そんなことを仮にも忍であるハンゾーが知らない訳がない。ゴンはゴンで、自身の言葉が合っているかどうかを近くにいたハンター試験の職員に聞いていた。唐突に話しかけられた職員は、驚きと戸惑い混じりにゴンの言葉を肯定した。
「ほらね!それじゃお互い困るでしょ。だから、考えようよ」
ゴンは根拠が取れた自身の提案に対して、真剣にハンゾーへ持ちかける。反対に、ハンゾーは言葉自体の意味は理解できてもその提案を差し出される理由が分からず、困惑しているようだった。現にその表情は困惑のあまり、顰めっ面になっていた。
一歩か二歩遅れる形でゴンの意図をちゃんと理解したらしい周囲も、俺が笑ってしまった理由を理解したらしい。そのせいか、チラホラとその笑いを噛み殺そうとする野次馬は一人、また一人と増えていった。あのヒソカですら面白そうにニヤけている程だ。
「もう大丈夫だ。完全にゴンのペースだ」
「…そ、そうだね」
そう呟いたクラピカに対して、俺は腹の筋肉が引き攣るの感じ取りながらも肯定した。殺気や威圧感という空気で膨らんだ緊張感という名前の風船は、ゴンの無邪気さによって中に詰められた空気を全て抜かれてしまった。もう一度空気を入れ直すのは、相当な手間になるだろう。
もちろんだが、それはゴンと対戦しているハンゾーにとってはちっとも面白くない冗談だ。それ故に、ハンゾーは歯軋りをしたと思えばその刃をゴンの額に突き立てた。ゴンに空気を抜かれてしまった風船を、もう一度膨らませる為に。
「やっぱりお前は何にも分かっちゃいねぇ。死んだら次もくそもねぇんだぜ。片や俺はここでお前を殺しても、来年またチャレンジすればいいだけの話だ。俺とお前は対等じゃねーんだ!!」
そうだ、ハンゾーの言っていることはとても常識的なこと。だが、それはゴンに対してあまり効果的ではないだろう。俺は何となく、ゴンのやりたいことや行動の理由が理解できた。ゴンがここで折れない理由は、この現状が納得できないからだ。
脳震盪を起こして、三時間も一方的な攻撃を受けた。それはここで諦める理由にはならない。左腕の骨が折られた時もそうだろう。ゴンにとって、この試合のルールに違反しない範囲でありながら自身が諦める理由にならないものを突き付けられない限り、諦めるつもりなんて毛頭ないだろう。
現に、その額に刃の先端が掠めて血が流れて追い詰められている筈のゴンの目には、迷いも諦めもなかった。むしろ、「それがどうした」とばかりに堂々と立っている姿にハンゾーが威圧されている。ポタリ、と今までゴンの汗や血ばかりが滴っていた床にハンゾーの冷や汗が落下した。
「何故だ。たった一言だぞ……?それでまた来年再チャレンジすればいいじゃねぇか。命よりも意地が大切だってのか!?そんなことでくたばって本当に満足か!?」
「親父に会いに行くんだ」
ハンゾーの困惑と懇願が入り混じった言葉に対して、ゴンは全く揺らがずに一言告げた。どうやら、それが今回のハンター試験に参加した理由のようだった。ハンゾーが一歩間違えればゴンの頭に刃ごと突き刺さってしまうであろう状況に、少しも怯まずにゴンは言葉を続ける。
「親父はハンターをしてる。今は凄く遠いところにいるし、一度も会ったことはないけど。それでも会えると信じてる。でも、もし俺がここで諦めたら、一生会えない気がするんだ。だから退かない」
「退かなきゃ……死ぬんだぜ?」
まるでゴンが聖職者であるかのような、自身への強固な誓いにハンゾーの言葉もたじろいでいく。それは一種の誓約であり、その言葉を遵守する為だけにここまで来たんだろう。それこそ、目の前に刃物を突き付けられたとしても退かないことを選ぶ程に重く、力強い言葉だった。
「
そんなゴンを数秒間見つめて隙を窺っていたハンゾーは、ついにここでその刃を引いた。その目を閉じて、「勘弁してくれ」とでも言うような仕草で諦めの意を示した。今までゴンに対して脅すような言葉ばかり出てきた口から、「"まいった"」と吐き出して。
「俺にはお前は殺せねぇ。かと言って、お前にまいったと言わせる術も思い浮かばねぇ。俺は負け上がりで次に賭ける」
ハンゾーはそう言ってゴンの前から去ろうとするが、そんなハンゾーの背中をゴンは不満そうな表情で見ていた。「まだ終わってないのに」と言いたげなその表情は、三時間前は脳震盪でダウンしていたとは思えない程のものだった。図々しいというか、何というか。
「そんなの駄目だよ、ずるい!!ちゃんと二人でどうやって勝負するか決めようよ!」
「……そう言うと思ったぜ。馬鹿か、てめぇは!!てめぇはどんな勝負をしようが
つーか、ハンゾーもハンゾーでゴンが次に言いそうなことを言い当てた。いや、正確にはそれだけ理解してしまう程にゴンから戦意を奪われたんだろうけど。なんだか可哀想に見えてきたぜ…。これが一戦目とかマ??この後の試合どうすんだよ。
「だからって、こんな風に勝ったって嬉しくないよ!」
「じゃ、どうすんだよ!?」
「それを一緒に考えようよ!」
「
「うん!!」
「アホかーー!!!」
直後、ハンゾーから繰り出された拳がゴンの顎下の入り込む。ゴンの身体はその一撃を避けられずに受けてしまい、吹き飛ばされてそのまま床に倒れ込んだ。気絶してしまったらしく、直前に猛威を奮っていた言葉はそこで止まっていた。
「おい、審判。俺の負けだ。しかし、そいつが目覚めたら、きっと合格を辞退するぜ。一度決めたら意志の強さは見ての通りだ。不合格者はたった一人なんだろ?ゴンが不合格ならこの後の戦いは全て無意味なものになるんじゃないか?」
「心配ご無用。ゴンが何と言おうと合格じゃ。それは変わらんよ。仮にゴンがごねて儂を殺したとしても、資格が取り消されることはない」
「なるほどな」
ここぞ、とばかりにハンゾーは審判である
その後は、ゴンの時に消費された三時間が何だったのかと思う程にあっさり進んだ。第二試合は俺と191番のおっさんだったのだが、これはおっさんが先に辞退したので俺が自動的に勝ったことになった。……俺、何もして無いんっすけど。「子供と戦う気はない」んだとか。なんだそれ。
第三試合になったクラピカvsヒソカは、何かよく分からない形で終了した。ヒソカが半ば一方的にクラピカとの戦いを手のひらで転がしているかと思えば、最後の最後でクラピカの耳元で何かを囁いて辞退した。しばらくクラピカの雰囲気がピリピリしていた。
第四試合はハンゾーvs53番で、今度こそとばかりにハンゾーが一方的に試合を動かして勝利した。汚名を晴らしたかったのかもしれない。第五試合はヒソカvs191番のおっさんで、こちらも一方的に試合が動き続けた。
それがどうやらヒソカの気分を悪くしたらしく、おっさんに何か囁いた後におっさんが辞退した。…クラピカの時もそうだが、一体何を言ったらああなるんだか。第六試合はキルアvs53番だったが、「悪いけど、あんたと戦う気はないんでね」と舐めプしてキルアが辞退した。
そして、トーナメント形式の片面を埋めることになる一人を決める第七試合で変化は起きた。運が良いのか悪いのか、ゴンはまだ気絶から戻っていない状態だった。
「第七試合!キルア対ギタラクル!!」
試合が始まる直前から、言い表しようのない悪寒がずっと付き纏っていた。今まで黙っていたフォグですら少し顔を出そうとする程の、だ。それはきっとキルアも気付いている筈だ。それでも、キルアが試合に参加できる三回のうちの一回をもう使用してしまっていた。
「始め!!」
「久しぶりだねキル」
「!?」
唐突に、ギタラクルが親しげにキルアへ話しかけ出したのだ。これには試合に参加している当人であるキルアも、それを見ていたクラピカやレオリオ…もちろん俺だって驚いた。「知り合いだったのか?」ってね。でも、明らかにキルア側の反応が知らない相手へのものだった。
どういうことだとギタラクルと何故か驚いていなかったヒソカ以外の誰もが思っている中で、ギタラクルはその次の言葉を発さずに頭の至る所に刺さっている針を淡々と抜き始めた。一次試験の際にギタラクルを見かけてから、ずっと気になっていた針。それが、全て抜かれた途端だった。
バキリやらボキリやら、痛々しい音と共にギタラクルの頭部がゆっくりと…しかし確かに変形していった。明らかに常人の成せるものではない光景に、俺は自ずとギタラクルと名乗っていた相手が念能力者であったことを理解した。
確定ではないが、恐らく針が刺さって能力が発生することや影響している場所が肉体であることを考えると、特質系か操作系辺りだろうか。…っていうか、あれって形状を変えるだけだったら人間が人間を恐れる感情から生まれたツギハギ呪霊*3と同じじゃんか。
「……ぁ……兄貴……!!」
そうして全ての針が抜けて変形が終了したギタラクルの顔を見たキルアの顔は、貧血を疑う程の蒼白。その表情から受け取れるのは圧倒的な恐怖や恐ればかり。今までキルアが見せてきた表情の中でも一番宜しくないものに、見ているこちらもざわめいてしまう。
「やあ」
「キルアの兄貴…?」
「針で顔を変えていたのか…!?」
「……よりにもよって、ゴンがいない時に」
最終的に全てが元に戻ったであろうキルアの兄は、長く艶のある黒髪と無機質な黒目を持っていた。何処かフォグに似ている点があるなと思っていると、巻き添えを受けたフォグから苦情が入った。あんな変な服は着たりしない、ね…。そういうとこだぞ、そういうとこ。
「母さんとミルキを刺したんだね」
「…まあね」
は?おいおい、何肯定してんだよキルア。別に、お前は進んで人を傷付けたりするヤツじゃないだろ?俺はそう思っているものの、肝心のキルア本人はその顔や首筋に沢山の汗をかいていた。それがどういう理由で流れた汗なのか分からないが、恐らく極度の緊張感によるものだと思った。
「母さん泣いてたよ」
「そりゃそうだろうな、息子にそんな酷い目に遭わされちゃ…!」
「感激してた」
母親を刺したという言葉に対して否定しなかったキルアに対して、ギタラクルだった相手が母親が泣いていたことを告げると、レオリオがそれに対して当たり前だと言う。だが、その直後に付けられた言葉はレオリオのフォローを根本から否定するものだった。
だからか、ギタラクルだった相手の言葉にレオリオは漫画とかでしかやらないような典型的なずっこけを見せてくれた。…つーか、
…いや、今はそんなことを考えるよりも目の前のことだよな。そう思って、頭の中で展開されている考察を一旦閉じてキルアとギタラクルだった相手の試合へと意識を戻した。ゴンの時とはまた別の雰囲気が、二人の間には漂っていた。
「あの子が立派に成長してくれて嬉しいってさ。でもやっぱり外に出すのは心配だからって、それとなく様子を見るように頼まれたんだけど…奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんてね。実はオレも、次の仕事の関係上資格を取りたくてさ」
「…別に、なりたかったワケじゃないよ。ただ何となく受けてみただけさ」
「……そうか、安心したよ。心置きなく
妙に
「お前はハンターに向かないよ?お前の天職は…
それはそれはとても無慈悲な言葉が、キルアの身体に突き刺さったような気がした。
「お前は
確かに一次試験で出会ってからずっと、キルアは試験の内容に対して難しいと感じていない様子だった。まるで、それくらいならお茶の子さいさいであるかのような。…少なくとも俺がキルアと分断行動させられなかった時に関しては、ずっとそうだった。
「自身は何も欲しがらず、何も望まない」
むしろ、次のハンター試験で使う場所に移動する際に乗った飛行船に乗船した時の方が、一番感情的だったように見えた。それこそ、俺がフォグと再会した時のように
「影を糧に動くお前が、唯一喜びを抱くのは人の死に触れた時」
そんなことはありえない。この最終試験に移動する前に、キルアはパフェをとても美味しそうに食べていた。ゴンとキルアだけで
「お前はオレと親父にそう育てられた」
「…っ」
「そんなお前が何を求めてハンターになると?」
キルアは、人形ではない。
それは俺の中で確固たる事実だと言うのに、どうして
「…確かに、ハンターにはなりたいと思ってるワケじゃない。だけど…オレにだって、欲しいものくらいある」
「ないね」
「あるッ!!今望んでることだってある!」
流石に頭へ血が昇って、何か言おうとした途端だった。全く周囲から見えない訳じゃないが、それでもこっそりとフォグが影から手を伸ばして俺の片足首を掴んでいた。それとはまた別で、俺の肩にクラピカが手を置いていた。どうして止めるんだと目線を向けると、無言で首を振られた。
「ふーん…言ってごらん。何が望みだ?」
…フォグも、どうして俺を止めるんだ。……出てこれないからダメ、だって?何だよそれ、理由にすらなってないじゃないか。でもアイツ強そうって、俺だって
どうして、か。…別にフォグとキルアが同じだとは思ったことないが、それでも少し似ているところがあると思ってる。周囲に興味がなくて、基本的に無頓着なとことかそっくりだ。でも、フォグにもキルアにもちゃんと感情があって、好き嫌いがある。
俺にとってキルアは友達だし、フォグはもはや家族みたいなものだ。確かに冷たく感じるかもしれないが、ちゃんと生きてて感情だってある。それなのに、一方的に人形だって決め付けられて…そこに自由がないのが何よりも嫌なんだ。
キルアにもフォグにも食べたいものを食べたいって思うのは当たり前のことだし、好きなように生きるのは当然だ。その始まりがどんな形だったとしても、意思が一方的に折られていい理由にはならない。だから俺は、いつかフォグが一人で生きたいと言ったらそれを優先したいと思ってる。
え?あれだけ言ってた復讐はもういいのかって?それならもう、フォグがあの時生まれた時点で俺の復讐はとっくのとうに終わってる。フォグは好きな生き方でこの先を生きていけばいい。それがどんな形であったとしても、俺はもう願いは叶えた後だ。
「…どうした、ホントは望みなんてないんだろう」
「ッ違う!!!」
まあ…だからって言ったら安っぽく聞こえるかもしれないが、俺はキルアがやりたいように生きて欲しいと思っている。誰かの言いなりになったり、本当はやりたいと思っていることを無理に諦めることは、後になって人生にしこりを残す。
過去は消えないが、未来を変えることは誰にだってできることだ。過去の後悔は、どうやったって取り返しがつかないものだ。だからこそ、俺は今のキルアにとって後悔しない選択をして欲しい。どんな形であれ、自分自身の意思で選んだことは選ばないか諦めるよりはずっとマシだから。
「ゴンと……友達になりたい。もう人殺しなんてうんざりだ。ゴンと友達になって、…レアンとも友達になって…クラピカやレオリオとも友達になって、…みんなで…普通に遊びたい」
「ムリだね。お前に友達なんてできっこないよ。お前は人というものを、殺せるか殺せないかでしか判断できない。そう教え込まれたからね」
……っていうか、俺
「今のお前には彼らが眩しすぎて測りきれないでいるだけだ。友達になりたいワケじゃないよ」
「…違う」
どうしてキルアの考えを否定するんだよ。…どうして、否定されているキルアが苦しそうなのが分からないんだ。ゴンが眩しいという自覚があるのなら、尚更だ。どうして、仮にも自身の弟の価値観を否定できる。そもそも、兄弟だとしても兄弟である前に他人なんだ。
だから…家族であるからと言って全員が全員仲良しでいられないし、血が繋がっていなくとも家族として認識する程の絆を結べる時だってある。何故なら、どんな形であれど最初が他人であることに変わりはないからだ。身体を共有している訳でもないのなら、それは他人だ。
…少なくとも俺の中では、家族であっても他人だ。ただ偶然、血が繋がってしまっただけの他人なんだ。一定の礼儀は払わなければいけないと思っているし、家族だからと言って負荷をかけ過ぎてもいけないと思っている。
もしかしたら違う価値観のヤツもいるかもしれないが、とりあえず俺はそう思っている。この考えを強制するつもりもないし、共感してもらうとか理解してもらう必要性は誰にも求めていない。ただ俺はこう考えているという、本当にそれだけだ。
だからこそ、家族だからって身内の意見を否定していい理由にもならない。もちろん、肯定していい理由にもならない。少なくとも、俺が一番気に入らないのは家族であったりそういう育て方をしたからと言って、キルアの考えを否定したり解釈が違うと指摘していることだ。
「彼らの側にいれば、いつかお前は彼らを殺したくなるよ。殺せるか、殺せないか。試したくなる。何故なら、お前な根っからの人殺しだから」
…本当に、なんだよ
さも自分がそうだったから、キルアもそうだろうみたいな言い方しやがって。根っからの人殺しなのは
「ふざけんな!」
俺もそう怒鳴りそうになったところを、一歩先に行くようにレオリオが怒鳴った。
「ゴンや俺達と友達になりたいだって!?寝ぼけんな!とっくに俺達ダチ同士だろうがよ!」
「っ!!」
「…え」
「ゴンだってそう思ってるはずだぜ!」
…片耳がキーンとなりながらも、俺はレオリオの言葉に合わせて頷いた。よく言ったレオリオ。俺、レオリオのそういうとこめっちゃ好きだわ。言いたいことを言って、やりたいことをやって。不満に思ったら不満だと怒鳴り、反省すべきと感じたら反省して。
決して、それは人に褒められるようなことじゃないかもしれないが…。それでも、言わなかったりして後で後悔するよりはずっといい。社会生活の中でグッと言葉を堪えなくてはいけない場面など山程あるが、せめてその最後くらいは言いたいこと言いたいよな。
「そうなの?」
「あったりめぇだバァカ!!!」
「そーだそーだ!!!」
「その通りだキルア。私達はお互いに助け合い、時間を共にした……友達じゃないか」
だって、キルアは生きているんだ。
もちろん友達だってのもあるが、それを抜きにしても生き方くらい自分で決めていくのはそこまでおかしいことじゃない。無論、その責任を自分で果たす必要もある。だが、その覚悟さえあるのなら好きなように生きるのは決して悪いことじゃない。
その中には、誰かに指示してもらって生きる方が楽だと思う人もいるだろう。もし、その生き方で納得できるし構わないと思うなら別にそれを否定するつもりはない。ただ、後になっても納得ができる生き方をして欲しい。キルアにもそうあって欲しいと思うだけだ。
「…そうか、参ったな。あっちはもう友達のつもりなのか」
「よし、ゴンとレアンを殺そう」
「「「「!!」」」」
…………は?
「殺し屋に友達なんていらない。邪魔なだけだから。それに、一番歳が近いヤツから殺していけばキルアも思い出すだろうし」
……あまりにも、あまりにも良いことを思い付いたとばかりに告げられた言葉が頭に入って来ない。何を言ってるんだコイツは。何を、当たり前のように言いやがった。ついさっき、実の弟が友達になりたいと宣言した相手を、殺すだって…?
馬鹿げてる。これが殺し屋特有の思考だとするなら、キルアはむしろあの兄を持っていてよくあんなに人を見ることができる性格になったものだ。殺したからって何もかもが清算される訳じゃないってのに、さもそれが常識かのように話す辺りが本物だ。
それが、何をもたらすのかよく理解できていないんだろう。だから、あんなに軽率な提案でどうにかできると思ったんだろう。あぁ、これはキルアが怯えるのも分かるよ。だって、アイツは何よりも殺し屋として完成され過ぎている。
こんなのを生まれた頃からずっと強制されていたら、怯えるのも理解できてしまうのがまた恐ろしいところだ。デリカシーがないとか、もうここまで来るとそんなレベルじゃない。殺し屋だからこそ、思いやりがないのかもしれない。じゃないと、あまりにも、心無い言葉だ。
「最初は怪我で動けないゴンにしよう。彼はどこにいるの?」
ソレが歩き出す。
己の弟を友達だと認識している相手を、殺してしまう為だけに。もちろん、その対象に俺達も入っているだろうが…。それでも一番手っ取り早い相手を最初に選んだんだろう。一瞬だけ、俺に向けられた目に悪寒が走った。だが、それも怪我で動けないゴンへとシフトしていく。
「…!!ちょっと待ってください、まだ試合はっ」
慌てたようにレオリオの前で突っ立ったままになっていたハンター協会の職員がソレを追い、声をかけた。直後、ソレから遠慮なく針が飛ぶ。たった三つ、されど三つ。その針はソレに声をかけようとした職員の額に刺さり、職員が身に着けていたサングラスをずり落ちさせる。
途端、痛々しい音を出してその職員の顔面が強制的に変形していく。俺がよく見ると、それは明らかに操作系の念能力によるものだった。職員は苦しそうに呻き声をあげ、その顔の表面から苦痛による脂汗を流す。そして、中途半端な形で変形が停止する。
「どこ?」
ソレは問う。
中途半端な変形を遂げ、その頭部が苦痛に晒されている職員に対して。職員はその苦痛が、早く終わればいいと願ったのだろう。それは確かに後で責められたところで、どうしようもないことだった。それだけ、あまりにも理不尽な現実が職員を襲った。
「とナりのヒカえ室にぃいい」
「どうも」
職員が苦しみながらもソレの求める答えを告げると、無愛想な礼だけを言ってソレはゴンのいる部屋へ向かおうとする。それだけは許せないと、足が勝手に動く。フォグが怒っている。ごめん。でも、アイツのやってることは俺がどうしても許せないことだから。
「…?」
同じことを考える連中ってのは案外いるもので、俺と同じようにゴンがいる隣の部屋への扉に立ち塞がった。立ち塞がった人影は全部で四つ。クラピカ、俺、ハンゾー、レオリオの四人だ。ハンゾーはゴンとの一件があった分、アイツの強行を許容できないんだろうけど。
「まいったなぁ。仕事の関係上、オレは資格が必要なんだけどなあ。ここで彼らを殺しちゃったら、オレが落ちて自動的にキルが合格しちゃうねぇ。…あぁ、いけない。それはゴンとレアンを殺っても一緒かぁ…」
言葉を羅列すれば本当に困っているように聞こえるが、声色は明らかに棒読みだった。大袈裟に首を傾げ、その右手の人差し指を自身の側頭部に当てて困っているかのような仕草をする。あまりにわざとらしいその仕草と言葉に、自然と俺が握りしめていた拳の力が強くなる。
「…そうだ!まず合格してからゴンを殺そう」
「テメェ……ッ!!!」
ハンゾーを挟んだ隣に立っているレオリオが悔しそうに歯を食いしばる。言いたいことは分かるよ。それにこの野郎…もしかしてとは思っていたが、全部最初から最後まで脅しだってのかよ。なんだそれ、その脅しでキルアがどれだけ精神的に
「それなら仮にここの全員を殺してもオレの合格が取り消されることはないよね?」
「うむ、ルール上は問題ない」
あぁもうあのクソ
「聞いたかい?キル。オレと戦って勝たないと友達を助けられない。友達の為にオレと戦えるかい?」
ソレがゆっくりとした動作でキルアの方へ振り返る。
キルアの身体が、心が…ソレに対して恐怖を覚えているのが見て取れた。とてもじゃないが、キルアが戦える状況になっていない。目の前に実の兄がいるというだけで、戦意を喪失してしまっている。それだけ、キルアの力が通用しないと理解しているんだ…。
「できないね。何故ならお前は友達なんかより、今この場でオレを倒せるか倒せないかの方が大事だから」
「っ!!??」
「そして、もうお前の中で答えは出ている。"オレの力では兄貴を倒せない"と」
まるで、まるでこれじゃあ…洗脳だ。物理的な害こそ与えられていなくとも、事実と虚実を織り交ぜて言葉で洗脳をかけられているようなものだ。キルアがあれだけの恐怖を覚えていながら、それでも立ち向かおうとしている意思があるのなら、そういうことだ。
キルアは人形なんかじゃない。俺達のことを本当に友達だと思っているからこそ、ソレへの恐怖があっても立ち向かおうとしている。敵わないと分かっていても、奮い立とうとしている。あれだけ怯えた顔をしているのに、諦めたくないって心の何処かで願ってるんだ。
「勝ち目のない敵とは戦うな。オレが口を酸っっぱくして教えたよねえ」
「はっ、はぁっ……っ…ぅっ!!」
俺には、ソレが途端に墓穴を掘っているように見え出した。キルアに言っていることが本当ならば、キルアは勝ち目がないと分かっていても挑みたいと思っていることになる。倒せないと分かっていても、どうしてもそれが譲れないから。
「動くな。…少しでも動いたら、戦闘開始の合図と見なす。同じく、オレとお前の身体が触れた瞬間から戦闘開始とする。止める方法は一つだけ、分かるな?」
あれだけ言われていて、それでも動かないのか動けないのか分からないが…。キルアが、ソレの言っている通りではないことは確信できた。ちゃんと心があって、ちゃんと生きている。なんて事のない年相応の子供として、友達が欲しいと願っただけなんだ。
「だが忘れるな。お前とオレが戦わなければ、最初に動けないゴンが死ぬことになるよ?」
俺にはそれの何が悪いのか、全く理解できないね。友達が欲しいと願っただけで、どうしてその友達の命を狙われなきゃいけないんだよ。あまりにも過激すぎる。キルアが一体何をしたってんだ。そう思って、グッと歯を噛み締めた。確かに向けられた殺意に、争う為に。
「やっちまえキルア!!どっちにしろ、お前もゴンも、レアンだって殺させはしねぇッ!!」
一歩、前に足を踏み出した。
斜め後ろでハンゾーとクラピカが何か言いたげな目をしていたが、俺はわざとそれを無視する。レオリオが錯乱しかけのキルアに呼びかけている。その声がうるさいのは相変わらずだが、今はそのおかげで俺も勇気付けられている。
「ソイツは何があっても俺達が止める!!!お前のやりたいようにしろォ!!!」
…もしかして、
だから、キルアがあの言葉を口にする前に言わなくてはいけない。人が人を騙す時、騙す方の相手は騙したい相手に対して嘘と本当を入り混じらせて伝える。たったそれだけで、内容に
だから、キルアが口を開きかけたのを遮るように声を出した。
「あのさ、キルア。今言いかけたことを一旦呑み込んで、聞いて欲しいことがあるんだ」
「レアン………?」
「そ、俺レアン」
俺がにっこりと笑うと、キルアとその兄はよく分からないものを見るような目で俺を見た。…うわ、こんなところで兄弟の血を感じたくなかったなあ。流石に職員の一人が針の被害者になっただけあって、介入してくる職員は誰一人として現れない。
「キルアはさ、もし目の前の相手を騙したいと思ったらどうする?」
「急に、何を…」
「いいからいいから。キルアなりに考えてみてよ」
それでも一応とばかりに、試合を妨害してしまうような距離には足を踏み入れない。キルアに俺の表情がちゃんと見えて、それでいてお互いに会話が困らない程度の距離でいい。たったそれだけで、俺は自分なりの戦い方ができる。ゴンと違って、悪い知恵を働かせられる。
「…う、嘘を言う…とか?」
「そっか。じゃあ、次にその相手からキルアが言った嘘を信じて欲しいとしよう。キルアはどうする?」
「え…は???…嘘を信じさせるって…」
「俺はね、キルア。そういう時に、嘘と本当を混ぜて伝えるんだ」
「!!!」
直後、針こそ飛んでこないが鋭い殺意が俺の突き刺してくる。自ずと手が震えたが、俺はその意識を向けてきたソレに対してニヤリと笑った。視界の端でヒソカが意外そうな顔をしているのが見えたが、今はそれどころじゃない。どうやら図星だったらしいからな。
「そうだなあ…。"何故ならお前は友達なんかより、今この場でオレを倒せるか倒せないかの方が大事だから"…だっけ?あれってつまり」
「黙れ」
低く唸るような声が聞こえた直後、三つの針が俺に向かって飛んでくる。へっへっへ、コイツ俺のこと雑魚にしか見えてないだろ。そんなことを思ってただ笑っていたが、視野外から同じく三つのトランプが飛んできて針を弾いた。ほ…???
何かと思ってトランプが飛んできた方を見ると、ヒソカがとても良い笑顔でトランプをシャッフルしていた。反対に、キルア兄はヒソカのそんな態度を見て盛大に舌打ちしていた。…あー、えっと…うん、なんかよく分からないってことにしておこうかな!!!
「…あれってつまりさ。キルアが俺達のことを友達だと思ってるからこそ、俺達のことが引き合いに出された時、勝てないと分かっていても倒せるか倒せないかを考えたってことだろ?」
「ねえ、黙れって言ってるのが聞こえないの?」
「いや聞こえてるけどさ、俺アンタの友達じゃねえし。正直アンタの指示に従う理由ないんだよね。それに友達が困ってんのに、そのままにしておくってのはどーも気に入らなくてさ」
ド直球にキルア兄へそう言うと、部屋のどっかで誰かが吹き出す声が聞こえた。…うーん、多分位置的に
「……ねえキルア、付き合ってく相手は考えた方がいいよ。特にコイツとかさ」
「ま、とにかく。俺からすればキルアはアンタに敵わないって頭で理解してんのに、試合が開始してから今までずっと"
「た、確かに…言っては…ねーけど……でも………」
「なぁ…逆に考えたら、キルアが俺達のことを友達だって思ってくれてるいいヤツってことなんだぞ?友達の為に怖いことに立ち向かって、友達が危険だったらそれをどうにかしたいって思える。それって案外、普通の人間でも難しいことだからな?」
俺がそこまでお膳立てすると、キルアは恐怖と不安に塗れていた瞳がようやく正常な状態まで戻ってきた。未だに瞳自体は不安げにゆらゆらと彷徨っているが、それでもさっきよりは随分とマシなものに戻ってきている。よしよし、準備は上々だな。
「ほれ見ろ、俺だってこんなに手が震えてんだ。だからキルアはすげーよ。自信持て」
「はは………ホントだ、そんな…そんな手が震えてたら…何もできねーじゃん」
「でもキルアが頑張ってんのに、その友達として俺達が動かないのはなんか変だろ?…てかまあ、俺が動いた原因は今の状況をゴンが見てないってことなん」
「いい加減にしてくれる?」
直後、俺の意識が激しく揺れた。
ただでさえ貧弱な身体が訴えるのは、側頭部への激痛だ。あまりの鈍痛と、意識の混濁に膝が自ずと地面へと落ちていく。視界の端が暗い。視覚だけじゃなくて、聴覚までもがぐわんぐわんと揺れているような感じだ。床に手をついて必死に堪えようとするが、もたない。
キルアはもちろんのこと、クラピカとレオリオも何かを言っている。…ダメだ、どれだけ耳を澄ませても声が上手く聞き取れない。なんかこう、耳に水でも入ったみたいだ。だが、そんな中で一番忘れちゃいけない存在がいる。静かに見守ってくれていたフォグのことだ。
時間と共に見えなくなっていく視界の中で、俺の影が水面のように揺らめいていた。その影だけが、色が濃い。今にも影から飛び出して、キルア兄を殺しかねない勢いを持っているフォグに対してそっと投げかける。冷や汗が、冷たい床に滴った。
「だい、じょうぶ……だから………きたら、ダメだ…」
暗転。
え?
感想返信と作品内の前書き後書きだと、文面の雰囲気が違うって???
あははー、まさかそんなことあるわけないじゃないですかやだー。