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追記
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一話ずつ記入する際などで
講堂での説明会が終わってすぐ、俺は縦に伸びてあくびをした。…いや、だって説明自体も試験自体も長すぎだし。ゴンが無事だったのは良かったけど、なんかキルア兄と揉め出すしで時間を使ってたからな。立ち上がって首を左右に動かすと、パキパキと音がした。
何処か心地いいそれに
「あ〜……やっと終わったぁ…」
「そうみたいだね♥︎」
「…え?」
「やあ♠︎」
まだ聞き慣れない声が背後から聞こえて振り向くと、そこには某黄色と赤が特徴的なファストフード店のピエロのような感じで片手を上げてこちらに挨拶してくるヒソカがいた。見間違いかと思って目を擦ってからもう一度見てみるが、やっぱりヒソカがいた。
「そのぉ……食べても俺は美味しくないからな?」
「食べないよ♦︎少なくとも、レアンはゴンやキルアみたいに
流石に単独同士で話し合うのは初めてだったので、思わず後退りながそんなことを言うと怖いことを言われた。それってつまり俺が
「それより、電話番号交換しよう♪」
「え〜…なんで?」
「レアンを見てて気になることがいくつかあってね♥︎でも、ここじゃ話せないから電話でって思っただけだよ♠︎」
怪しいなあと思いながらも、俺は
「…レアンは思ってることがかなり顔に出るタイプだね♦︎」
「あぁ…うん、俺がヒソカを怪しんでるのが丸わかりってことだろ?」
「もしかして意図的?それはそれで傷付くなぁ♣︎」
「いや…だけど、ヒソカは俺が知ってる中でもまだ常識の範疇に片足突っ込んでくれてるからマシ。でも傷付いたならごめん。そういう意図はなかった」
携帯を持ってヒソカが言う電話番号を登録する手続きをしている間にそんなことを言われたので、俺はそれに対して普通の返答をした。…っていうか、ヒソカって幻影旅団のこと何か知ってたりしないのかな。クラピカのこともあるし、できるだけ情報集めくらいは手伝ってやりたいし。
「………なんだよその顔は」
「…いやぁ?レアンってゴンとは違う意味で素直なんだなって思っただけ♥︎」
「はぁ…」
俺とヒソカがそんな呑気な会話をしていると、キルアを除いたゴン達三人とピリピリした会話をしていたキルア兄がよく分からない顔をして戻ってきた。そして、ヒソカと話していた俺を見て少しびっくりしたような顔に変わる。そんなに驚くこと……いや驚くことだな。
「驚いた、人見知りなんじゃなかったの?」
「え、ヒソカって人見知りなのかよ」
キルア兄の言葉が聞き捨てならず、流石に言及するとヒソカは気まずそうに目を逸らした。…はぇ〜お前もそういう気まずそうな顔とかするんだなあ。とまあどうでもいいことを思っていると、キルア兄の向こうに立っていたゴン達と目が合った。
レオリオから無言でこっち来い的なジェスチャーがされる。どうせキルアの家に行くってことだろうなあ。ぼんやりとそう思いながら、携帯で電話番号がヒソカとちゃんと交換されたことを確認する。そして、「じゃ」とヒソカに軽く挨拶だけしてキルア兄の横を通り過ぎようとした時だった。
「…お前もあの三人と同じ考え?」
「それってゴン達のことか?」
「そう」
キルア兄から通り過ぎる際にそんなことを聞かれて、俺はどう答えるか迷った。ゴンはこの講堂に来てすぐにキルア兄へ絡んだ通り、多分キルアに関する事柄で頭が一杯一杯になってちゃんと考えられてない。だって別に、キルアと友達ならそこまで怒らなくたって行ける理由はある。
「なぁゴン。ゴンはどういうつもりでキルアのところに行くんだ?」
「友達としてキルアを連れ戻すためだよ!それで、キルアがやりたいことをやれるようにするんだ!」
…そういえば、ゴンって島育ちだって言ってたっけ。島自体に人はいるが、同い年だったりゴンより年下の相手は中々いなかったから動物達が遊び相手だったとか言ってたよな?まあゴンがキルアに関することで怒ってるのは本当だろうが…。
多分そこには、キルアがゴンの欲しかった友達そのものだってのもありそうだ。年齢的なものであれば俺もそうだが、キルアはゴンと同性で同い年だ。それこそ、ゴンが遊び相手として望んでいた相手に限りなく近いだろう。キルアもゴンと同じく友達を欲した辺り、マジで運命の相手じゃね?
ゴンがそれを自覚してるとは到底思えないが…。キルアがあまりにゴンの中にある友達の想像図に近かった分、今回あった一件を聞いて頭に血が昇ってしまった可能性が高い。まあそれだけゴンは、人間としての友達を望んでいたということになる。
だからこう…なんだろうな。かなりゴンの思考が、偏見的なものになってるように見えた。例えるなら、ゴンとキルアを友達として認めなかった相手に対して敵か何かのように見ている気がしてならない。キルア兄が悪いところももちろんあるが、過剰であることも否定しきれない。
「なるほどな。…じゃあもっと正々堂々と行こうぜ」
「…どういうこと?」
「キルアと友達なら、普通に"キルアと外で遊びたいから迎えに行ってもいいですか"って聞いた方が早くないか?それか、"キルアの家に遊びに行っていいですか"とかな」
だから、ゴンの言葉を少し別のものにすり替えた。今のゴンの言葉はキルア兄が圧倒的な悪者のような言い方をしていたので、キルアがキルア兄のことをどう思っているのか確認できない今はその言葉は危うい。その上で、ゴンがキルアに対して友達だと思っている意識を利用させてもらった。
「…どっちも対して変わってねぇじゃねぇか」
「そりゃ、どっちにしても力押しになるのは同じことだしな。耳障りがいい言葉にすり替えただけだよ」
「…………あっそ、じゃあ勝手にすれば。来たところで、どうせ辿り着けないだろうし」
レオリオが俺の言葉に呆れたので、それを軽く笑って流しているとキルア兄が口出ししてきた。もちろんそれを聞き捨てならなかったゴンが怒り心頭になるが、それをクラピカが宥めながら講堂の外へと連れて行く。相性が悪いと判断したんだろう。
「ほれ、レアンも行くぞ」
「分かってる」
今にもキルア兄と口論しかねないゴンと、それと止めるクラピカの背が講堂の出入り口扉の向こうに消えていく。それを見て、レオリオが遅れないようにと俺に声をかけてきた。俺ももちろん、キルアに関して色々と思うところはあるのでそれに続こうと思っていた。
「いや?レアンには個人的に聞きたいことがあるから、まだ少し残ってもらうよ。いいよね、レアン」
「あー……ごめんレオリオ、すぐ合流するからちょっと先行っててくれる?」
直後、キルア兄が俺の肩に手を置いた。
レオリオは少し距離があって気付いていないようだったが、俺の肩に置かれたキルア兄の手は強く力んでいた。恐らく、このまま俺が無視して動き出せば肩が脱臼しかねない力がかけられていた。俺はその物理的な圧に対する感情を顔に出さないようにしつつ、レオリオに返事した。
「おうよ!先行って待ってるからなあ!!」
…まあ案の定というか、そういう裏の世界にまだまだ疎いレオリオは俺の状況に気付かなかった。それでも一応レオリオが講堂の出入り口を潜って見えなくなるまでは、俺は作り笑いを続けた。レオリオの姿が扉の向こうに消えた途端、俺はぎこちなく振っていた手を下ろした。
「…で、俺に何の用?」
「オレさ、"死神"っていうハンターを探してるんだよね」
キルア兄から平坦な声で呟かれた言葉に、俺はギクリと身体が硬くなった気がした。俺の影に潜っている筈のフォグですら、どこか苦い沈黙を貫いている。…別にバレたって何の支障もないが、どうして探しているのかによっては話が変わってくるかもしれない。
「あぁそうなんだ♠︎初めて聞いたよ♦︎」
「だってヒソカには言ってないし」
「隠し事?酷いなあ♣︎」
気さくに会話を続けているヒソカとキルア兄の二人を横目で見る。ヒソカはこの話を知らなかったようだから一旦大丈夫としても、キルア兄はなんで今になってその話を持ちかけてきたんだろうか。それも、ここまでして聞きたい話を俺が持っていると確信できる理由はなんだ?
「でさ。どうにもその"死神"っていうハンターはライセンスを使っても協会の極秘会員だかで調べられないらしくて、ずぅっと困ってたんだよねえ」
「……昨日ライセンス得たばっかなのに調べたのか?」
「そんな面倒なことしないよ。既存のプロハンターを脅して調べさせただけだから」
裏を返せば、今回の試験でハンターライセンスを得るよりも先に…持っている誰かを脅してでも知りたかったことがあるということになる。そこまで急ぐ理由が何なのか知らないが、フォグが暗黒大陸にいた時の状態を考えるとあまり良いものとは思えない。
「そこで現れたのがレアン、お前なんだよね」
「………」
「これでも殺し屋を名乗ってるからさ、情報は常に目を通してる。今から約二年前のこと。クカンユ国内のある豪邸で"死神"による大量殺人の中で生き残った、金髪で赤眼の子供がいるのも知ってるワケ」
…グッと握り込んだ手が震えている。冷や汗がツゥっと背中を伝う。俺がフォグと再会したことを知っていた。それを知っているということは、最悪"お願い"のことを知っていてもおかしくない。現に今世で俺の母親(笑)だった相手はそれで死んでいる。
「いずれ探すか会いに行こうとは思ってたけど、ハンター協会に保護されただとかで行方が分からなかったからね…。だから二次試験の後半でレアンを見た時は驚いたよ」
キルア兄がそう言って俺の顎を無理やり掴み、自身の目線と合わせさせる。フォグとは別の意味で無機質さがあり、感情の機微が分かりにくい瞳に俺が映り込んでいた。その瞳に映り込んだ俺は怯えるような顔をしていて、今にも涙が出そうに見えた。
…でも、それだけはダメだ。確かに、実力で見ればフォグは十分周囲からすれば脅威になり得るだろう。だが、フォグは俺がこうして再会するまでの間を感じない程に精神が成長していない。ゴン以上に悪い意味で無邪気だ。フォグはそれだけ、子供に近い精神なんだ。
「…言いたいことはそれだけかよ」
威勢を張っていないと言ったら嘘にはなる。だが、これ以上は踏み込ませられる状態にない。フォグに関してのことは、まだ俺ですら分かっていないことが多い。不用意に踏み込めば、二度と後戻りできないものになってしまう。仮にも相手はキルアの兄だ。流石にそれはできない。
「ふーん…交渉決裂ってこと?」
「違う」
「…じゃあ、どういうこと?」
終始、キルア兄がゴンに掴まれていた腕とは逆で肩を掴んだりしていることに少し思うところはあった。だが、ここでフォグの力に頼るのは危険だ。そう決断して、顎を掴んでいたキルア兄の手を振り払う。そのまま一歩下がって、俺は俺の影を見つめた。
目の前でわざわざ俺の目線が影に落ちたのを見て、ヒソカとキルア兄も自ずと俺の目線の先に目を向けた。そしてそこで、フォグが潜んでいる影が
だって俺は手をあげていないのに、フォグが潜んでいる影だけが両手をあげてよく分からない動作をしている。俺もあまり見慣れないが、フォグが特に感情的であると勝手にそうなることが多い。いつもであればその辺りはちゃんと我慢してくれるのだが、流石に怖かったらしい。
「…うむ、相変わらずこの状態のコヤツは気色悪いのぅ」
「…気配が薄いのも、考えようによってはめんどくさいね♥︎」
「仕方あるまいて。キルアの兄がコヤツを不用意に刺激しとるのを見てしもうたから、対処せずにはいられんじゃろ」
どこからともなく
そんなことを考えている間にも、俺の影の中で怖がるフォグはその影をどんどんと捩れさせて奇怪にしていく。両手両足はあり得ない長さに伸びて、影としての法則の大半を無視して床を渦巻状に這う。影の胴体は実際であれば引きちぎれている長さにまで達していた。
「…アンタが言う"死神"っていうハンターに何を求めてるのか知らないが、フォグはそこまで高潔な存在じゃないからな?」
「その
「じゃなかったら話題に出さないっての。…まあとにかく、これはフォグなりの威嚇なんだよ。フォグがアンタを怖がってる何よりの証拠だ」
「……怖がってる?しかも威嚇なの?…これが??」
「なんと威嚇なんだなこれが。可愛いだろ」
俺が割と本気でそう言うと、限りなく近くにいた筈のキルア兄・ヒソカ・
「それに、アンタが思ってる
「…レアン」
「分かってるって。…フォグ、大丈夫だ。不安にならなくてもこれ以上相手が何かしてくることはないから」
その場でしゃがみ込んでフォグに語りかけると、フォグは次第に荒れていた感情が落ち着いていく。影もそれに連動して元の状態に戻っていく。元々俺がハンターライセンスを取る理由はこれだ。フォグが感情的になればなるほど、フォグは殺戮性を増していく。
凄い喜んだりとか、どっちかっていうとプラスよりの感情では中々ならないが…。怒りだったり恐怖、逆にマイナスに当たる感情が
理由は正直俺にも説明できない。フォグに対してどうしてかと聞いたことがあるが、本人から分からない発言をされた。だが…少なくとも命を狩ることで周囲から恐怖され、それで落ち着いているように見えた。なんでそんなことになったのかは俺も知らん。俺はドラ◯もんじゃねえからな。
ただまあ、一種の生存本能的なものなんだとは思う。フクロウとかの猛禽類だって似たようなことをするからな。出来るだけ身体を大きく見せて、分かりやすくパーソナルスペースに踏み込んでいることを周囲に警告した上で、それ以上踏み込んでくる存在に襲いかかる。
ゲームでも割とよくある理論の一つだ。「やられる前にやれ」だとか、「攻撃は最大の防御」だって言うだろ?相手が怖くて怖くてたまらないからこそ、その命を奪って安全を確保しようとしている。そう考えればまだ分かる方だ。今だって、キルア兄が怖いからと言って殺したがっている。
「アンタが何をしたいかは知らないが、これ以上フォグを刺激しないでやってくれ。…可哀想だ」
「じゃ、またな」とそこに固まっていたヒソカ・キルア兄・
「……え?キルアの家が何処だか分からない?」
俺がなんてことないように講堂から出てすぐ、近くで電子機器を囲むように
「そうなんだよ……レアンは何か知らない?」
「うぇえ…?そんなこと聞かれてもなぁ……ネットを使って調べても分からなかったなら、俺も分からないよ」
正直にそう言うと、ゴンは分かりやすく肩を落とした。いつだって場のムードメーカーだったゴンが落ち込んだことで、自然と俺を含んだ四人を包む雰囲気も沈んだものになる。これは困ったことになった、とどうするか考え始めた時だった。
「あー…落ち込んでるとこ悪いが、ちょっといいか?」
「何か用か?それならゴンの代わりに私が対応しよう」
そう言って話しかけにくそうにやってきたのは、ハンゾーとポックルという受験者達だった。ちなみにポックルの名前を俺は知らなかったので、こっそりレオリオに聞いて確認したら呆れられた。仕方ないだろ、覚えてる暇とか聞くタイミングとかなかったんだから!!
俺とレオリオがコソコソとそんな情報交換をしていると、落ち込んでいるゴンの代わりで対応していたクラピカからハンゾーとポックルの要件がまとめられた形で伝えられた。どうやら、せっかく同期として合格したのだから連絡先などを交換したいということらしい。
「っていうか、ゴンもレアンもホームコード教えてくれよ。でないと連絡ができない」
「いや、あの……ホームコードって…何?」
「ごめんだけど、それは俺も同じ。教えてくれると嬉しいんだが…」
俺達もそれに反対する理由もなかったので、それぞれで電話番号を交換している時にちょっとした問題が発生した。それは、俺とゴンがホームコードという制度を知らなかったことである。今まで知識的には負けたことがなかった分、俺は少し恥ずかしい気持ちも入り混じった。
「そっか…少なくとも、ゴンはハンターの仕事も知らないで試験に来たんだった…」
「は!?」
「……なんつーか、ぶっ飛ぶ方向性がおかしいだろ…!!」
若干いつもの口調が崩れかけているクラピカが額に手を当てながらそう呟くと、その呟きを聞いていたハンゾーとポックルが驚愕していた。特に最終試験で戦ったハンゾーはよりそれを実感しているのか、クラピカと同じように頭を抱えていた。ちなみに俺もびっくりしてるからな?
「…ゴン、お前の親父に会ったらオレは絶対に一回はぶん殴るからな!!!」
「え、急にどうしたのレオリオ…?」
「ハンター試験に参加する動機といい!!ゴンの家庭環境といい!!オメーの親父には反省してもらわねぇといけねえんだよ!!!」
「それはそう。その時は俺も呼んでよレオリオ」
反対に、レオリオはゴンからちょこちょこ垣間見えていた家庭環境の状況やハンター試験自体に参加した動機から、ゴンを放置した父親に対する怒りが爆発しているようだった。正直、それは俺も心底同意する。実質育児放棄だし、それを親戚のミトさんに預ける辺りが特に気に入らん。
ゴン一人が状況を把握できていない中で、こうしてひっそりと"ゴンの親父ぶん殴る派閥"が結成された。何せ父親がハンターだというのに、その子供であるゴンがハンターの仕事を知らないというのはそれだけ関わりが少なかったことを表す。
本当にゴンが言っている相手が実の父親なのかは知らないが、少なくともその父親が育てる責務を放棄していることは流石に理解できる。多分ここにキルアがいたら、きっとキルアもこの意見に同意してくれただろう。だって生まれてからほぼ一度も会ってないとかだぞ??
「話を戻すけど…。ホームコードっていうのは、いわば留守電専用の電話だよ」
「それって、家にある固定電話とかってこと?」
「うーん…全員がそうとは限らないけど、そういう使い方をする人が大半だとは聞いてるかな」
ポックルが話題をホームコードに戻すと、その例えに留守電だと言った。…なるほど。この世界での携帯に関する通信技術は俺が思っているよりも遅いことは知っていたが、多分そこにまだ技術的な発達が訪れていない時期なんだろう。
現に俺が知っている携帯関連の歴史でも、その発達はかなり直近のことだ。便利だからと言ってその分野に人が沢山集まった結果なんだろうが、そうなる前がポケベル辺りだったりと便利さに勝ってしまう程の不便さが同居していたのはなんとなく知っている。
だから、俺が今持っている携帯も一度に保存できる制限があったり、保存できないものが多かったりするんだろう。ただでさえハンターは世界中を飛び回りながらその制限と戦うことになるのだから、留守電制度を利用しているのは納得できることではある。
「ハンターってのは、大体が四六時中世界の何処かを飛び回っている商売だからな。現にお前の親父さんもそれで会えないんだろ?」
「うん。オレの知ってるハンターの人でも、独り立ちしてからはあんまり会う機会ないみたいだったよ」
ハンゾーが微妙な表情をしながらもゴンに問いかけると、ゴンはそれに頷いた。なんというか、自由奔放さが度を過ぎるとここまで酷いものに見えるんだな…。事実婚なのかできちゃった婚なのか、詳しくは聞きたくもない。だが、ゴンを放置するのはよろしくない。
…てか、この感じだとミトさんにも連絡してないっぽいし、マジでゴンの父親は子供を持つのに向いてないな。別に親として金を払えだとかそういうのはどうでもいいが、せめて年に何度か顔を出すくらいはしてやってもいいだろ。それがなかったから、ゴンはこうして飛び出してきた訳だし。
「そうか…。しかし、仮に忙しくてもハンターは情報収集をする必要がある。だが、それが携帯電話一つで完結する方が少ない上に、いつでも電話に出れる訳ではない。結果として、情報収集の為にメッセージ専用の電話がどうしても必要になるんだ」
「まあ…逆に携帯一つで完結できたとしても、流石に寝ている間に電話をかけられても取れないよな」
「そうそう。だから世界の何処にいても、携帯電話でその中から必要な情報を聞き出して行動できるようにする訳さ」
「そうなんだ……ハンターってスゴいんだね!」
「いや遅ぇよ」
そんな会話をしながら、ホームコードのことを知った俺とゴンは他四名に指導されながら、ホームコードやらの作成を行った。携帯などの機械を使うことにまだ慣れていないゴンが頭を沸騰させかけていたが、クラピカとハンゾーの熱心な指導によってどうにか最低限の状態になっていた。
頭を慣れないことに使った疲労でゴンが疲弊している横で、俺はふと思ったことがあったのでハンゾーに話しかけた。確かハンゾーは忍だと言っていた筈だ。その宣言が間違っていないのであれば、家系的に殺し屋っぽかったキルアの家の心当たりがあるんじゃないだろうか、と。
「家系的に殺し屋してる一族ぅ??」
「そう。キルアの兄って言ってた相手も殺し屋だって言ってるようなものだったし、キルア自身も殺し屋だってことは否定しなかったからさ。家族でそういう仕事してるのかなって思ったんだけど…心当たりってある?」
「……いや、あるにはあッ」
「それってどこ!!??教えて!!!」
ハンゾーに思いっきりタックルをかましたゴンによって言葉は遮られたが、キッカケを得ることはできた。どうやらキルアの家は世界を股にかける有名な暗殺一家らしく、ゴンにタックルされて割と痛そうなハンゾーからもたらされたほんの少しの情報だけで探し当てることができた。
むしろ、ハンターライセンスを使った検索をかけなくても一般の検索エンジンで引っかかる辺り、本当に有名どころのようだ。逆に考えると、それだけキルアの家族は暗殺業で稼いでる寸法になるんだが…。ゴンは、その恐ろしい事実にはまだ気付いていないようだった。
「…よし、あったぞ。バドキア共和国行きの飛行船チケットで、近くにはククルーマウンテンの観光バスが通ってる。道中でキルアの家である、ゾルディック家の目前まで行ってくれるようだ」
「オイオイ……ちょっとした観光名所にされてんじゃねぇか」
「だが、今の私達とってこれほどまでに好都合なものはない」
「仮にも人の家だっていうのに、観光名所にするとか……。大胆だなあ」
「でも、このバスのおかげでオレ達迷わずにキルアの家まで行けるね!!」
余談だが、この後取得したばかりのライセンスでゴンが親父であるジン=フリークスというハンターのことを調べている間、俺は大急ぎでハンターライセンスを使わずにバドキア共和国へ行けるようにと
まあ、流星街に捨てられる寸前だった身だからな…。クカンユ国に国籍があるかも怪しいし、その辺りを対処するよりも先にそのままハンター協会で保護されてたから何もできてなかったんだよ。ゴン達をちょっとばかし待たせる羽目にはなったが、飛行船に乗っている間で間に合った。
ゴオンゴオン、と流石に聴き慣れてくる飛行船の音が環境音として部屋にも少し響き渡っていた。講堂でライセンスの説明を受けた日の夜であることもあって、俺以外の三人はぐっすりと眠りに落ちていた。だが、俺は三人とは違ってすぐに寝れない事情があった。
電気で明るい部屋の中で、飛行船に在中していたハンター協会職員に用意してもらっていた公共用のパソコンを目の前に、俺はもらったばかりのハンターライセンスを使っていた。ハンターライセンスを片手にパソコンと格闘すること約十分。
「……これが、電脳ページ*2か」
スクロールするだけで様々な情報が区分けされる形で表示されているのを流し見しながら、俺はそこの検索欄に調べたい目的の単語を入力した。ハンター語と呼ばれるアルファベットとはまた別の言語に苦戦しながら入力を終えると、そこにはデカデカと『極秘指定人物』の文字があった。
「うげ…」
ゴンが自身の父親について調べようとして表示された、と言っていたのと全く同じ画面になって思わず顔を
…いや、それ使うと俺が調べたいことは調べられないんだよな。俺が知りたいのは、あくまでもフォグが周囲からどう見られているかであってフォグ本人のことを調べたいんじゃない。だから気持ちだけ貰っておくから、それは大事にしまっておきなさい。
「…何でってそりゃ、俺はフォグが悪く思われてるならそれを知らなきゃいけない。フォグ自体のことはフォグに聞けばいいけど、フォグのことをどう思ってるかは調べたり他の誰かに聞かないと分からないからな」
俺がそのままの言葉をフォグのハンターライセンスと一緒でフォグに突き返すと、フォグは少し黙り込んだ後にライセンスを影にしまっていた。…そこだけ見ると、某呪術のウニみたいな頭のキャラを思い出すなあ。影に物をしまったりできるって知った時はスゲェって思ったし。
横目でそんなフォグを見ながらも、俺は一旦一般のネットワーク上に戻って調べることにした。…これでダメだったら次は書籍かなあ。ニュース新聞とかからでもいいけど、それはそれで遡るのに時間かかるし…。可能なら書籍までには、ある程度概要が掴んでおきたい。
だがしかし、案の定というか当たり前というべきか…。一般のネットワークで閲覧できる範囲では、やはりアウトロー*3に該当するフォグのことはほぼ残っていなかった。それほどにハンター協会から警戒されているというか、情報統制が行われる存在として見られていようだ。
けれど、朗報として書籍であればハンター協会も規制を行えなかったものがいくつかあった。そこに名乗っていなかったらしいフォグの名前がない分、"死神"という二つ名で調べたらいくつかの本がヒットした。…何処かのタイミングで本屋でも見て確認するか。
俺だけ急ピッチで用意してもらった観光ビザを片手に、俺達は飛行船で三日かけてバドキア共和国に到着した。ゴンが意地でもライセンスを使おうとしないので、全員が釣られる形で観光ビザを使って入国した知らない国は随分と楽しそうに見えた。
道中で何度かクラピカに注意されながらも、目的地であるククルーマウンテンがあるデントラ地区行きの列車に乗り込む。ゴン以上に窓ガラスに張り付いて外を眺める度に、レオリオから呆れたような目を向けられた。
仕方ないだろ、俺ずっと流星街かクカンユ国以外に行けなかったんだから!!!少なくともマトモに生きれていた一度目ですら、研究職だったこともあって何処にも行けなかったし…。唯一行けたのは暗黒大陸だし、一番行ったらマズいとこだったし散々だったんだぞ??
お互いに仮眠だったりで、休憩を取りながら列車に揺られること数時間。興奮や期待でほぼ寝れなかった俺が列車の窓越しに、巨大な山を見つけた。それが事前に調べていたククルーマウンテンであると確信し、他の三人を叩き起こした。
そして一番最後にレオリオを起こそうとした時に、ふと思い出した。「あ、フォグを合流させようとしてたの忘れてた」と。一番最初に起こしたクラピカに二重の意味で大慌てしながら、「現地で知り合いのハンターが先に待っている」と軽く事情を話している間に列車からは降りていた。
「…という感じで、この真っ黒けっけが俺より先にハンターになってた…えー……幼馴染のフォグ、
「…本当に、肌以外は全部真っ黒だな」
ライセンスに関して説明を受ける直前にフォグと打ち合わせをしていた通り…フォグには普段の大人形態ではなく、160cm前後でゴンよりも少し年上に見える少年の姿になってもらった。実際の内面はゴン以上に幼いし、大人形態でいると誤解されるから仕方ない。
…つーか、現に今フォグの服装をまじまじと見ているクラピカにも若干怯えているらしく、俺よりも身長あるのに俺の背後に逃げたし。その目をキラキラとさせて自己紹介したそうなゴンからは、俺を中心にして鬼ごっこもどきを始めるくらいだ。
俺が二次被害で目が回りそうになっている中で、フォグはゴンに追いかけられ続けて結局手を掴まれて捕まっていた。まだ表情を動かすのが得意じゃないからか、雰囲気以外は困ったようには見えない真顔だが…。あれは明らかに困ってる雰囲気だな。
「オレ、ゴン!!よろしくねフォグ!!!」
「……」
「あー……えっとな、フォグは訳あって喋れないんだ。でも接してるうちに言いたいこととかがなんとなく分かるようになるから、凄く
「うん!!!オレは全然大丈夫!!!
「「「…???」」」
フォグと友達になるつもりしかなさそうなゴンから、妙に違和感のある言葉が飛び出して揃って首を傾げる羽目になったりと、始まりはかなりドタバタと慌しかった。ゴンに手を引かれて困ったフォグが、連鎖するように俺の手を引いて、三人揃って転んだりもした。
あとは、以前俺とフォグが再会するキッカケになった一件でフォグが"お願い"という言葉に反応してしまったのだが…。あの後、誰にも内緒という形でフォグとは"お願い"という単語を使ってきた相手を俺に知らせるように約束した。
その上で、その"お願い"に応じるかは俺と相談するという形にした。そのおかげか、ククルーマウンテンにあるというゾルディック家行きの観光バスなどで"お願い"という単語が聞こえても、"おねだり"へと繋がらずに済んだ。
そして、ゴンを筆頭にゾルディック家という仮にも有名な殺し屋一家の元へ向かっていると自覚していない面々に対して、堂々と「この馬鹿が!!!」と怒鳴ってくれたハンゾーは優しいヤツだ。相変わらず忍としてお喋りすぎるところで、結果的に救われたとも言えるだろう。
俺も含めて、電話越しでハンゾーにガミガミと叱られた飛行船での時間が無駄にならなくて良かった…。そんなよく分からない安心をしながらデントラ地区にあったバス乗り場で観光バスを待っていると、同じくバスを待っている客の中で見るからに一般人ではないヤツらが混じっていた。
「……明らかにカタギ*4じゃねぇ奴らが乗ってるな」
「…そうだな。奴らがハンゾーの言っていた、ゾルディック家の噂を軽く捉えている連中だろう」
普通の一般客がバス内のアナウンスによって視線が色々な場所に行ったり来たりしている中で、レオリオとクラピカが淡々と普通の客に紛れた連中について話し合っていた。…フォグはゴンに引き摺り回されているし、俺はそのフォグに腕を掴まれているしでこっちにそんな余裕はない。
そんな感じで振り回されている末端である俺は、車酔いになりそうでならないのを繰り返しながらも物騒な連中を時折
『最終地点には、かの有名な暗殺一家であるゾルディック家の豪邸があります』
それでも最低限はできているようだから、余程師匠になったハンターが優秀らしい。でも肝心の
『このバスに乗車している皆様も名前こそ聞いたことがある、という方が大半でしょう』
…っていうか、念能力を除いた素の時点で割と実力差が開いているように見える。それでいて、自身の力を過信しているようには見えなかった。そこ
『……はい、そのようですね。手を挙げてくださり、ありがとうございます』
そんなことを考えている俺の手が勝手にあげられたのを感じ取って、なんだなんだと顔を上げた。すると、バスガイドの女性を筆頭とした客の大半からゴン・フォグ・俺の三人は特に見られていた。…どうやらゴンがフォグと一緒に手を上げていたらしい。
『ではお話ししましょう…ゾルディック家のことを』
…フォグが困ったと、今度こそはっきりと俺に伝えてきた。
困ったのは十分理解できたが、ゴンといることがフォグにとって苦痛じゃないならもう少し様子を見たらどうだ?…別に嫌なら俺を盾に使えばいいし、せっかくお前に忖度なしで付き合ってくれる相手だぞ。友達第一号にするのにはピッタリじゃないか?
『それはこの地区に限らず、世界各地の著名人有名人が…あり得ない程の高額な金額を差し出してでも殺してしまいたい相手を殺害してくれるという、有名な暗殺一家のことです』
バスガイドのアナウンスに紛れながらも俺がフォグにそういうと、フォグはなんだか困ったを通り越して悩み始めてしまった。……危害を加えてくる訳じゃないんだから、そこまで悩まなくてもいいと思うんだがなあ。
『彼らが動くだけで…凶悪なマフィアや、あのハンター協会の暗部ですらが動揺するとまで言われています』
そんな感じの会話をこっそりしながらも、何かと大袈裟な例えを出してくるバスガイドのアナウンスに眠たくなりながらも、バスに揺られること約数十分。長いこと傾斜が続いたと思った辺りで、バスガイドが話途中だった話題を中断して、こうアナウンスした。
『さて、皆様。これよりゾルディック家の正門前にて一時停車致します。あまりバスから離れないようにお願いいたします』
唐突な知らせに客がざわめく中で、アナウンスされてから五分後に言及されていたであろう場所にバスが停車した。大半の客も流れでバスから降りて外を見に行く中で、フォグを加えて五名となった俺達もその流れに乗ってバスを降りた。
『ここは通称「
「なにぃー!?まだ山までかなりの距離があるぜ!?」
バスガイドがバスから降りて、小さな旗を片手にそう指摘する目の前には巨大な門があった。門の一番上には、日本でいうところの
門の至る所に施された装飾は、目を凝らしても見切れない程の数だ。そしてただでさえサイズが巨大なその門には、ローマ字数字のように見える記号が1から7までで刻まれていた。もっと観察しようと一歩近付いた辺りで、俺はフォグに少し強めに引っ張られて断念する。
っていうかやっぱり、この門の向こうから私有地なのか。そりゃこんなでっけぇ門を置くくらいだし、なんかあるとは思ってたが…。そんな当たり前のことだったのかよ…。むしろ、ここまで見学としてバスで来るのも非常識な気がするが、それは誰も指摘しないのか…。
しかし、よく見ると色々とデカい門の隅っことも言える横にはそこそこ丈夫そうな設計の小屋があり、そのすぐ隣には小さな扉があった。…小屋はまだ門番的な人が使うかもしれないで納得できるが、なんだあのちっこい扉は。
いや、あれが本来のサイズだってのは理解してるんだが…。わざわざこんなにデカい門を用意してんのに、あんな業務員用みたいな関係者以外が通れないとでも言われそうな出入り口を用意する理由はなんだ?…それともこのデカい門が見せかけなのか??
『はい。ここから先の樹海はもちろんククルーマウンテンも全て、ゾルディック家の敷地となっております』
「……マジかよ」
唖然と門を見上げるレオリオと同じく上を見上げていると、俺の左手を握っているフォグの力が一瞬だけ強くなった。俺はそれにびっくりしながらもフォグを見ると、フォグが立っている方とは逆を警戒するように見ていて目線が合わなかった。不思議に思って目線を逆に向けると、そこには…
「……」
「……え?」
レオリオ以上に身長があるように見える、…多分ツインテールで年齢を感じさせる皺を持つ執事服を身に纏った人だった。どのくらいの年齢なのかは、現状見た目からしか推し量れないが…。少なくとも、三十とかその辺りではないだろう。
むしろ、某「あの地平線〜♪」っていう主題歌のアニメ映画に登場する盗賊団を仕切ってるばあちゃん*7みたいな感じというか…。それにしては背筋が良すぎるというか、年齢に対して胸でけーな…。普通垂れるって聞くけど、デマだったのか…??
そしてどこからともなく現れた不思議なばあちゃんを見た俺は、自ずとSAN値チェックしながらも見間違いじゃないかと目を擦った。…だが、何度擦って見直してもばあちゃんはそこにいる。つーか、今俺とフォグ以外でばあちゃんの存在に気付いてる奴がいない。
すわ幽霊かとすら思ったが、足元に影があるので実体はそこにあるから違うだろう。…それにしても見たらいけないもの感が凄いから、これ以上見るのはやめるか。フォグにも見なかったフリをした方がいいと教えつつ、俺達は謎のばあちゃんを無視することにした。
その後、なんか色々あって自信過剰そうだった
バスガイドや乗ってきた観光バス自体もその頃にはスタコラサッサとばかりに居なくなっており、結局この巨大な門の前に残ったのはキルアに会いたい俺達だけだった。俺は俺でさてどうしようかと首を傾げていると、ゴンが門の前にあった小屋にいた人に話しかけていた。
「…ふむ、なるほど。君達は本当にキルア様のご友人である、と言いたい訳ですね」
「うん。…おじさんは、普通の門番さんじゃなさそうだね」
「おや…。何故そう思われたのです?」
「…えっと、こう……な、なんとなく!!」
結果的に誰よりも陽キャパワーが強いゴンが、小屋から現れたおじさんに対してそんなことを言った。すると、おじさんは少し面白いものを見るような目でゴンを見て、朗らかに笑った。…あと、多分俺とフォグの近くにいるばあちゃんのことも見えてた。
「御察しの通り…あたしゃ、守衛じゃない。ミケの後片付けをする掃除夫ですよ」
「"ミケ"…って誰のこと?」
「あぁ…いえ、それよりも…。念の為ではありますが、本館に繋がっている固定電話で確認を取るので少々お待ちを。…それと、そこのお二方は少しその場でお待ちください」
「ご、ごめん…レアン…フォグ…。ちょっと、ここで待っててくれる?」
…そうして、何故か俺とフォグだけ一度仲間外れにされた。若干の不満もあったが、仕方なく俺とフォグはそれに頷いた。ならず者によって簡単に扉を開けられてしまった小屋をおじさんはスルーして、門の壁沿いにゴン達と共に消えていく。
「…失礼致しますが、あなた様がフォグ様でございますでしょうか?」
この間のハンター試験だったら、一次試験の時みたいに騙されて死んでもおかしくないぞ…。とそんなことを考えておじさんを怪しんでいる俺の耳に、突如として知らない声が入り込んできた。バッと声のした方に目線を向けると、そこにはずっと無言で立っていたばあちゃんがいた。
…思いもよらないところからアクションがあったせいか、フォグは困ったように俺へと助けを求めてきた。いや俺も助けて欲しいくらいには困惑してる。とりあえず、フォグがフォグであることに変わりはないので頷いておいたらと言うと、フォグはぎこちなくばあちゃんの問いに頷いた。
「そうですか…。お待ちしておりました。私、ゾルディック家に仕える執事が一人…ツボネと申します。我が主人でいらっしゃるシルバ=ゾルディックの命により、フォグ様を屋敷にご案内させていただくことになりました」
「……」
「…お手を
フォグが喋れないことを知らないツボネさんは、少しばかり戸惑いながらもその大きな身体をかがめてフォグの目の前で膝をついた。そのままそっとシルク製に見える手袋がフォグに差し出され、フォグはそれをよく分からないままに空いていた左手で握り返した。
「…じゃ、フォグ様と手を繋いでいるお前はここを去りな」
「……へ?」
すると、突然ばあちゃんは俺に対して分かりやすく態度を悪くした。それこそ、露骨にしっしっと空いている手の甲で追い払う仕草をされるくらいだ。…お、俺なんかしたっけ…?そもそもゾルディック家に来るどころか、この地域に来るのも初めてなんだが。
「長男であらせられるイルミ様のことは、正直あまり好きになれなくてね。だが、ゾルディック家としてのご命令となれば一人の執事として従う他ないんだよ」
「そ、そうですか…」
「イルミ様からはね、アンタみたいな金髪赤眼のちびっ子を警戒するようにと言われているよ。仮にも殺し屋として実力のあるイルミ様がわざわざおっしゃるんだ。アンタを警戒して追い払うのは当たり前のことだろう?」
「……あぁ〜、なるほど?」
まず、"イルミ"っていう人から俺に注意するようにこのばあちゃんは言われたらしい。今初めて聞いた相手の名前だが、キルアと同じようにゾルディック家の人間であることは確定のようだ。…マジで誰??俺が何したってんだ。
…ゴンに申し訳なさそうな顔で謝られたついさっき以上に不満があったが、仕方ないと俺はフォグを繋いでいた手を離そうとした。パッと俺の手から力が抜け、手が離れると思いきや…フォグの手からは力が抜けなかった。
「…はぁ…フォグ」
ため息を吐きながらフォグの名前を呼んで暗に手を離すように言うが、フォグはツボネがいることなんてどうでもいいとばかりに思い切り首を横に振った。…見るからに拒絶の意を示されたので、俺は俺で空いている片手でフォグの手を引き剥がそうとしてみたが…。
「いっ…!?痛いって、骨折れるわ馬鹿!!」
力技でどうにかしようとしたせいか、フォグは思いっきり俺の手の骨を折る勢いの力を込めてきた。思わずそう怒鳴ると、それを見ていたツボネさんに鋭い目線を向けられる。……これどうしろってんだよ。なんで俺が板挟みになってんだよこの状況は…。
内心ではどうしようかと頭を抱える中で、とりあえず俺はフォグと手を繋いでいる方の腕を振り回したりしてなんとか離れないかと試してみるが…。その度にフォグの機嫌が悪くなっていくばかりで、結局は手も離れてくれないしで状況だけがただ悪化していく。
「……あの……本当にどうしようもないんですが、どうすればいいですかね…」
気のせいではなく、もう俺にも自覚できる程に全身に疲労感による気だるさを感じながらツボネさんに助けを求めた。正直、こうなったフォグは基本こっちが譲らない限りは言うことを聞いてくれなくなる。それだけ嫌だと言ってくるし、俺としても強制しにくくあった。
もうどうしようもないと諦めの気持ちが心や思考を満たす中で、どうしてか珍しく険しい顔をしているフォグがツボネさんを睨み付けていた。すると、一分も満たない時間でツボネさんが俺を驚いた表情で見た。そして何処からか携帯を取り出して、誰かと連絡を取り始めた。
「…あなた方と共に来られた三人と合流し、観光ビザが使用できなくなる前に来るように…とのことです」
その後、俺とフォグは何も状況を知らされないままで"試しの門"と呼ばれる、ゾルディック家恒例の登竜門を通れるようになるまでの約二週間*8を門前で消費する羽目になった。具体的には、どうもゴン・レオリオ・クラピカに開けさせたいらしく、俺とフォグは見ているだけだった。
ゴン達を連れて行っていたおじさんはどうもそれを手本的な感じで開ける役割の人らしく、門を開けるのを試しで見せてくれた時はそのおじさんが
「はぁ〜?……ゴン、お前何食って生きてきたんだよ…??」
「え?ミトさんの料理だけど…」
「いや、そういうことではないと思うぞゴン」
だがしかし、そこはやっぱりどっかがイカれてるゴンらしいと言うべきか…。あのクラピカですら驚きを隠せない程の速さで、ゴンは骨折していた片腕を完治させてしまった。その間に経過した期間はたったの十日。"試しの門"を最初にレオリオが開ける四日前のことだった。
その間もゴンどころか、"試しの門"を開けられればそれでいいという考えの元で俺を含めた全員が常日頃で重量生活を送り続けた。特に俺は女子であることもあり、最初に関してはとても苦労していた。それこそ、フォグかクラピカに引っ張ってもらわないと起きがれない時もあった。
まあそんなこんなもありつつ、俺達は観光ビザで滞在できる日数の半分以上を使ってようやく"試しの門"を潜ることができた。そしてゴン・俺・クラピカ・レオリオの中で、十九歳と一番年長であるレオリオが"試しの門"を開けることに成功する。
なお、歯を食いしばりながらも"試しの門"を開けてくれているレオリオの脇下をそろって潜り抜けた。*9約二週間も付き合ってくれたゼブロさんも一緒に"試しの門"の向こうへと足を踏み入れると、突然ゴンとフォグが身構えた。すると、ゼブロが一歩前に出て口を開いた。
「…あぁ、そんなに身構えなくても大丈夫ですよ。今やって来ているのは、以前話していた"ミケ"ですから。ただ、あまりその姿を見ても驚かれないでくださいね」
ゼブロがそう口にした直後だった。
何処かで覚えのある、一陣の風が俺達の元へと吹いた。何だかこの状態に対しての既視感が脳裏をよぎるが、どうにも場所が違うせいか確信にまで至らない。そんなモヤモヤとした状態も、その風と共に俺達の目の前に現れた一匹の獣によって消えてなくなる。
「…あ」
「"試しの門を開けて入ってきた者は攻撃するな"。ミケは、そう命令されてもいるんです」
少々毛皮が薄汚れてはいるものの、この世界に存在する獣の中でも巨大な部類に分けられるその巨体。そして、ゾウ以上の巨体を持ちながらも底知れない俊敏性と殺傷能力。また、人間の言葉を聞いてその言語がどういう意味なのかすら理解できる程の優れた頭脳。
人間以外にも独自の言語ツールを持って同族とコミュニケーションを取る生物は沢山存在するが、俺が一番最初の人生でゾバエ病になった後に出会ったことのある生物に"ミケ"は
何よりも、俺はこの生物に似た生き物を利用してよく緑頭で全裸の連中を蹴散らしていた。近縁種なのか原種そのものなのかは判断できないが、少なくとも俺が知っているその生物は人間の言葉を理解することが出来た。その上で、従う理由さえ揃っていたら指示を聞く程だ。
「ミケは今、初めて見る人間の姿と臭いを記憶してます。それ以上の感情は、何も持ってません」
俺の知っている彼らは、俺がゾバエ病を発症しているだけあって必要以上に接近したくないと何度も唸られた記憶が多い。それでいて、彼らはまだ暗黒大陸にいる生物の中ではまだ比較的安全な部類だ。まあ人間を餌か何かだと思っている辺りはいつも通りのことなんだが…。
暗黒大陸では、彼らは人間のように狩られるだけの獲物ではないだけで、限りなく弱者側であることは確実だった。何せ、暗黒大陸では強者であればある程に単独行動をする。群れを成している生物というのは、人間と同じと言うと語弊があるが…それでもあの大陸内では弱い部類になるのだ。
群れを作り上げ、物理的に種としての数を増やすことで一気に絶やされることを避けようとする本能なのだろう。逆にそれだけ周囲から狩られやすいこともあり、群れの増える速度は尋常じゃない程に早い。狩られにくい立場であればある程、種としての繁栄は遠のいていくということだ。
「機械と同じです。命令の条件が満たされれば、毎日顔を合わせている私をもためらいなく攻撃します」
ただ、俺が一番驚いているのはそこじゃない。仮にも人間の言葉を理解できるだけあって、彼らはちょっとやそっとじゃ言うことを聞いてくれない。何だったら彼らからして人間は餌であり、逃げるのも遅くて小さなオヤツだ。
何もかもがひ弱で、骨も肉も簡単に噛みちぎれて悲鳴を上げる人間の言うことを、大人しく聞いている"ミケ"の方がおかしいんだ。現に俺が緑頭全裸に追いかけられた時、俺は毎度彼らの元に駆け込んでは対処してもらった。
喉から声も張り上げられない身体を、美味しそうに食らっていたのをまだ覚えている。バキバキと身体が乗っ取られたことで貧弱になった骨が折られ、ぐちゃりべちゃりと用無しになっていた内臓が薄皮からはみ出て、過食部であるらしい筋組織がフライドチキンのようにしゃぶられていた。
「ゴン君…こいつと戦えるかい?」
もしそこで俺がゾバエ病を発症していなかったら、と考えなかった日は一度もない。あの暗黒大陸で人間が大量に死んでいくのはごく当たり前のことで、ただ俺はそうして死ぬ原因がゾバエ病だったというだけだ。たったそれだけの違いで、あの大陸では死に様が大きく変わる。
それだけ暗黒大陸では、沢山の生き物がお互いの命を掌握したいが為の虐殺劇が常に行われている。食べるという行為は最も原始的で、相手から命を剥奪する行為だ。相手の血肉を食い、自身の糧にすることで相手の何もかもを掌握して奪い取る根源だ。
…何だか某釘パンチの男*10が登場するような話をしているが、嘘は言っていない。そこに相手の尊厳など存在しないし、何処ぞのアリに関してはその尊厳を根本からへし折ってくるタイプの生態をしている。生存戦略的には理にかなっているが、道徳的に考えるとあまりにも酷いことだ。
「いやだ、怖い。絶対戦いたくない」
だから俺は、俺達の姿や臭いを一通り記憶し終えたらしい"ミケ"が図々しく地面に伏せる様にすら恐怖を覚えているらしいゴンにホッとした。ここですらいつも通りのゴンであれば、俺は何としてもゴンを暗黒大陸に踏み入らせるつもりはなかった。
反対に、"ミケ"が気付いているのか分からないが…"ミケ"に対して強気な姿勢を取っているフォグを引き止めた。おいコラ、何喧嘩売ろうとしてるんだお前。…いや、確かに"ミケ"と比べたらお前の方が強いかもしれないけどさぁ。
大前提として"ミケ"はゾルディック家の番犬だろ?勝手に殺したりしたら怒られるだろうが。……だからダメだって言ってるだろ!?ってかキルアのこともあるんだし、尚更殺したらダメだろうが!!………あそっかじゃねえよおい。…マジでもう…暴れん坊かお前は。
"死神"っていう二つ名を付けておいて、ハンター界隈でも十二支んが対応する案件扱いされているフォグのことを、あのゾルディック家が知らない理由がないなあと思いまして。
実は文章的に文字数が足りなかったり、序盤だと若干時系列が謎な幻影旅団サイドの外伝視点があって、設定やら背景はそこからの引用なのですが…。
具体的には、ヒソカがハンターライセンスを求めた理由が「人殺しを免責されない」以外に存在しなかったので、そこら辺を幻影旅団とフォグに関する接点にさせてもらおうかと思った次第です。
あと、レアンの可愛い判定がぶっ壊れてるのは暗黒大陸のせいです。
だってゾバエ病だったり、ヘルベルだったり、パブだったり、キメラアントだったりと、場合によっては見た目は危険がなさそうに見えて、実は危ない連中が多いじゃないですか。
それでも、作中で描写されている範疇というだけで…実際はそれ以外にも危ないか否かの判断が一見ではつけられない連中がいると考えたら、見た
その上、暗黒大陸に人類がドン=フリークス以外で生存しているとはとても思えません。その為、ゾバエ病にかかって限界状態だったレアンに対して多少の会話相手として精神的に補助していたこともあって、身内的な可愛さもあるでしょうね。