それよりも、だいぶ期間が空いてしまってすいません。ハーメルンがDOS食らってビビってしまいました。あと普通に多忙と難産でした。
どれだけ生死を繰り返しただろうか。大体十七回は死んだと思う。毎度二次成長期前に死ぬのは何か仕組まれてるのか?一応思い出す限り、十年前後は生きるがそれ以上は生きれない。何の仕打ちだ。流星街のみんなへ結局恩返しすら出来なかった
いつもいつも金髪赤眼で生まれては、多分五回目の人生辺りから、産みの両親には完全に嫌われるようになった。赤い眼は悪魔の目だとか言われて、目をえぐり取られそうになったのは流石に恐ろしかった。あと、両目を熱した鉄の棒で焼かれて死んだ時もある。赤子に何しやがる。
今回もまた、両親からは完全にネグレクトされた。自らの手を汚したくない癖に、直接手を下してくることこそないが食事を抜いてきたりはする。おかげで栄養失調になりそうである。なんなら私の後に生まれた妹も、両親を見習うように私を忌避している。そういうのよくないと思う。
ただ、三回目の人生だけはとても良いものだった。生まれつき目が赤いことを驚きつつも肯定してくれたのだ。山奥で質素な生活をしている集落だったけど、クルタ族は流星街のみんなと並ぶくらいに大好きだ。”私”ならきっとそう考えるだろう。
もし、クルタ族のみんなにもう一度会えるなら会いたい。そしたら彼らに流星街のみんなのことを伝えて、仲間になって欲しい。それに様々な連中から狙われなくなる。きっと、仲間になってくれるはずだ。俺はそんな自己中心的思考の”私”が嫌いだ。
まあ、そんな思い出話は一旦置いておこう。
そうやって様々な人生を歩んだ私は今、今回の九年と少し生きた人生において一番困惑していた。何故かって…?
「…」
「……えっと、何の用です?」
「……」
いくつか言いたい事があるが、まず一番優先して一つ言わせて貰おう。”私”は目の前に立つ、十代後半であろう黒髪黒目の青年とは初対面である。もう一度言おう、初対面である。さっきからめっちゃ見られているが初対面である。
むしろ初対面でなかったら、私は立場的に実の妹からいびられてしまう。あのイケメン何処で会ったのよ的な、うんまあアレだ。そもそも、私が彼に会うことになった原因である実の妹はさっさと私を置いて、気になっているらしい少年と遊びに行った。
もし”私”ではなく俺だったら、某奇妙な冒険の大ボスである金髪の少年の如く振る舞いたい。流石に
それにこんなに見つめてくることだが、流石に意味もなくやっているわけじゃないだろう…と思いたい…。これでVRゲーム内のモブだったら後で開発者に文句言ってやろうかな。それにこんな興味を示すのが、何故十歳にも満たない子供である”私”なのだ。ロリコンか?
互いにずっと何も言わないでいると、青年は無言でしゃがみ込んで”私”へその頭を撫でろとばかりに差し出した。…見た限りそこそこ見目は整っているのだから、そういった甘えた態度をするのは恋人にしてやれよ。なんでわざわざ”私”なんだ。構図を考えろ構図を。事案にしか見えんわ馬鹿。
そう即座に頭が現状をおかしいと訴えるが、青年は黙ったままだ。…というか、むしろ
しかし、どうしてその行動を望むのかは何故か伝わってこない。かなり直接的なものしか伝わっていないのか?…と考えては見たものの、よく見たらこの青年…誰かと似たような雰囲気を感じる。何と言うかこう、捨てられた子犬感というか。
私よりも小さな子供にすがられてる感というか。人間の言語でいうところの、母音しか喋れないフォグによく似ている雰囲気なのだ。
「……そうだよな。生きてるんだから、そりゃ暖かいよな」
ふと気付けば、私は目の前の青年の頭を撫でていた。加えて独り言も口から飛び出していく。そうだ。これと似たようなことを、フォグにしていた。でも、フォグは黒っぽい霧状の何かだったから、撫でてと言われる度に撫でられているのか困ったんだ。
いつもそうやって撫でているうちに、ベトーっと身体にへばり付いてくる。そんでもって、しばらく取れない。だからその時はいつも、フォグをそのままにしていた。そしてそんなフォグと同じ事をする青年は、フォグと同じように私にへばり付き、嬉しそうに頬ずりする。
…うん、絵図が事案なのは変わらんかったな。いつ離れてくれるんだ…。
「…あの、そろそろ離れて欲しいんだけど」
「………」
思わずそう言うと、青年はピタリと動きを止めた。好機と見て、自力で剥がそうとしたが力の差が大きく、文字通り微動だにしない。なんだコイツ、この細マッチョ的な見た目でゴリラか?ああ、ちなみに言うがさっきの頬擦りされている間も青年はほぼ無表情だった。
当然だが、まだ九歳である”私”と青年の力の差は歴然である。だが抵抗している事実は伝わったらしく、またも言外的な何かで青年が嫌がっているようなものを感じ取る。それもまた、嫌がっているというよりも寂しがっているような。そこだけ切り取れば主人の帰りを待つ飼い犬のようだ。
「困るよ。このままは」
それでもなお”私”の言葉をえらく嫌がる。恐らく180はある自らの図体のことを考えないように、言外的な否定のようなものしか繰り返さない。それでも離れて欲しいと言えば、ついに真顔で泣き始めた。おいおい、器用に涙だけを流して泣きじゃくるな。
泣いてる癖に離す気は未だ
まあでも、フォグに何も言わないまま一人で行ったこともあるから、バレなきゃ問題なかった。しいて、帰ってきた時に泣かれてしばらく離れなくなるくらい。だがそれも今の”私”ではなく、一番最初の”私”の話だ。現時点で青年とのことがバレていいことはないのだから。
「…ッ貴女、そこで何をやっているの!!?」
今回の”私”となってから、この声にどれだけ罵倒されたかもう覚えていない。相変わらず似合わないワインレッドの豪華そうなドレスのようなものを着て、実の母親が怒鳴りつける。何度鏡を見ても、俺の顔は両親のどちらにも似ていなかった。
「…」
「悪魔の分際でその男性を従えようとするなんて!!!皆様、不埒な悪魔だと思いませんこと!?」
そのまま無言でいたからだろうか、突如として目の前に現れた母親(笑)がいつものように”私”を罵る。耳に悪い声が、女の連れてきた客達に響き渡る。幼女に縋っている男という、謎の構図に野次馬は興味深々でこちらを伺う。俺は見せ物じゃない。
主に俺へ向けられる目線。軽蔑、興奮、嫌悪、情欲、羨望、嫉妬。それら一つ一つを認識する暇もなく、沢山の目線が多少の悪意と共にこちらへ矛先を向けた。何がどうなっているのか理解できていない青年は、何も言わずに俺へ縋る手の力を強めた。俺は、見せ物じゃない。
「さあそこのお方、そこの悪魔から離れた方がよろしくてよ。アレは、こっ酷く躾けないといけないのですわ」
「……」
青年は女の言葉に静かに首を振った。いつの間にか涙を流さなくなった酷く端正な顔に、何の感情も宿らないまま。流石にしゃがんだままでは駄目だと判断したようで、静かに立ち上がった。それでも俺の片手首を離さないまま、女に分かるようにまた首を振った。
「っ…どうしてです、ソレは赤い瞳で人間を誑かす悪魔なのよ…?」
「……」
青年は女の言葉に静かに首を振った。その真っ黒で底の見えない瞳には、自身の目の前で喋っている女は果たしているのだろうか。そう思ってしまう程に、青年の見つめる先は遠い何処かを見つめている。
女は自身を信じない青年に苛立ちを感じているのか、手に持っている木製扇子が少し軋んで小さな悲鳴をあげる。
「わたくしのお願いが!単なる平民が聞けないというつもりではないわよね!?」
「!…」
何がきっかけだったのか分からない。ただ、女の言葉に反応した青年はついに首を振らなくなった。…俺はそれを見て、少し失望した。そして先程までの執着は何処へとばかりに、青年は俺の手首を離して少し女の方へ歩いた。
女も分かっているんだろう。このクカンユ国では、未だに男尊女卑が激しいことを。だからこそ、女は自らが産んだ俺が下げた価値を悪魔のせいとしたいのだ。悪魔だと周囲に広め罵ることで、下げられた価値は被害を受けたからと言いたいんだろう。
金持ちの旦那に玉の奥として嫁いだらしい女は、俺の妹が自身の産んだ子ではないことを知っているんだろう。愛人としてやって来た別の若々しい女に、全てを奪われるのが嫌なんだろう。ただでさえこの国は価値の低くなった女に辛辣だから。
「ゆ、言うことが聞けるならさっさとそうして下さらないかしら?お陰でお気に入りの扇子を曲げてしまったのよ?平民の貴方に
女は突然言うことを聞いて自身に近付く青年に、少しだけ頬を染めつつも怖気付いたように後退した。今の青年は確かに女を視界に入れていた。それも、恐らく目線も合わせている。つまり、あの底のないような真っ黒な瞳に見つめられているのだ。俺だって少し怖く思う。
「その長い髪、全部ください」
青年の掠れつつあるハスキーな声が発した言葉に、一瞬で空気が凍った。女を含めた野次馬達や俺、その誰もが青年の言葉に理解が追い付かなかった。そんな雰囲気の中、ただ青年は女に対して両手を広げていた。そこに女の髪を欲しいと強請っていた。
「ふざけないで!!冗談じゃないわよ!!」
女は一番早く、青年の言葉に反応した。当人からすればとんでもない屈辱なのだろう。故に女は怒りに身を任せるように、手に握っていた扇子で思い切り青年の端正な頬を叩いた。べきん、と青年の頬を叩いた扇子が折れた。野次馬は青年の顔が傷付き、使い物にならなくなることを恐れた。
「夫人!!落ち着いてください!!」
「これで落ち着ける程、感情がないわけじゃありませんのよ!!使用人!いつもの鞭を頂戴!!早く!!!」
「はっはい!!」
「そのいつもの鞭、ください」
まさに混乱を体現したかのように、その場が荒れ始める。女は青年の言葉に堪忍袋の緒が切れ、使用人に俺へ躾けと称して振るう鞭を要求した。あわよくば青年を手元にと思う野次馬は、女を必死に止める。使用人は怒鳴るように命令された指示をこなそうとする。
「お前!いい加減にしないか!夫人に謝れ!!」
「その白いベスト、ください」
「夫人っ!ご要望の鞭をお持ちしました!!」
「…おい、これは何の騒ぎだ」
青年だけは周囲の混乱から取り残されたように、ただ誰も聞かない要求を投げる。俺はその光景を、何処かで見たことがあるように思えた。以前は悪い意味で印象的だったと記憶している筈のそれは、いくら探しても俺の頭の引き出しから出てこない。とても重要だった気がするのに。
「貴方!わたくしもう耐えられませんわ!!この悪魔をさっさと流星街に捨てさせてくださいまし!!」
「お母様…!!それはいい考えですわね!!」
「っ!!!お母様もうそれ以上はおやめ」
俺は今ここで何が起ころうとしているのか思い出し、女とその取り巻きを止めようと口を開いた。…助けようとする気持ちを踏み
それでも女に声をかけようと目線を上げるも、女は俺の頭をピンヒールで押さえ付ける。もう一度頭を上げようとすると、今度は額をピンヒールの鋭い
それに出来たばかりの額の傷から、そこそこの出血がまた邪魔をする。女は俺が何度も顔を上げて反抗する度、恐らく意図的にピンヒールで額を傷を広げる。生理的な涙が、土に染み込み始めた血に混ざった。
「そのピンヒール、ください」
「……何を言っている。お前などにそんなもの渡す理由は」
べちゃり。
瞬間、俺の頭を踏み付けていたピンヒールから重みが消える。とても嫌な音が、頭上からした。俺は顔半分が出血で赤くなりながらも、今度こそ顔を上げた。
「……やっぱり、そう、か」
頭を上げると、そこには沢山の血溜まりに浸かる衣服と白い粉のようなものが広がっていた。先程まで沢山の人間がいて、沢山喋っていたこの場はもう沈黙していた。二十人程度がいて、確かに数秒前までは呼吸をしていた筈の人間達は全て物言わぬ死者と化していた。
血こそあれど、肉らしい固形物はない。白い粉は骨だろうか。綺麗な金髪だったそれも、今はカツラのように纏まった状態で血に浸っていた。しっかりと手入れがされていた鞭は、もう血まみれで掴めない程だ。
綺麗だった筈のドレスやシャツも、それら全てが地面に広がる血溜まりに浸っている。先程まで俺を押さえ付けていたピンヒールも、何事もなかったように地面に転がっていた。この光景は一番最初の”私”だった時、暗黒大陸に置いて行かれる直前に見た光景そのままだ。
ガス状の何かから急に強請られて、調査隊員はそれを四回連続で断った。そして今のように、物理的ではない何かによって断った者とその者と親しい者が死んだ。
「…」
「…フォグ、で…いいんだよな?」
青年は深く、ゆっくりと頷いた。その端正な顔の片側は赤く腫れているが、もう反対は自身のものではない血飛沫が少し付いていた。そのまま自身の頬の状態をあまり気にせず、こうなる前のようにしゃがんで
アドレナリンが出ているのか、額の傷からは未だ出血しているのに痛みがない。最新のVRゲームでは脳に特殊な電波を受信させることで、痛みを疑似体験するのは知っている。それに、俺が選んで遊ぶゲームの大半は主人公補正ってのがないものだ。
だから世界観が俺に容赦ないのも理解しているんだ。
それならどうして、最初に歩んだ”私”の人生に登場したモブがどうして今の”私”に影響出来るんだ。実質それは、サブ垢でゲットしたレアキャラを本垢に移項しようとするようなものだ。ゲームシステム的に引き継げる訳が無いのに。あり得ないんだ、こんなこと。
現に俺は最初の”私”が持っていたという、禍々しい
本当ならば否定したい。しかし、それはフォグがいる時点で不可能な話だ。どれだけ俺が否定しようと、どれだけ俺が認めなくてもフォグは確かにここにいるのだから。分からない。今までどの”私”とも同じ世界で生きているとは思っていなかったのに。
パラレルワールドのように、少しだけ似ている世界線をいくつか体験しているだけのつもりだった。でも、それは今
最低でも十七回、その全ての人生をそれぞれ違う”私”として生きたつもりだった。最初は義理深い性格を演じた。次は卑屈な性格を演じた。その次は素朴な性格を演じた。そのまた次も、そのまた次も、それら全てをロールプレイングと認識していたのに。
でもそれらは地続きにしてしまったら、もはや何もなくなる。
完全な演技をしていたとは言わない。俺の個人的見解とか、意見も交えたりだってしたさ。それでも結局は演技に混ぜ込む隠し味でしかなく、あくまでも引き立て役。だが、ここまで事態が悪化したことを理解してしまった今、どうすればこの人生の”私”に戻れる?
「っ〜…」
「!」
いつの間にか、声もなく涙が溢れた。きっと額の傷が痛み始めたからだ。そう思い込みたい。そう思い込まないと、俺はこれをゲームとして見れなくなりそうだった。確かに、キャラとしてのロールプレイは正直壊滅的なまでに修復できないだろう。つまり終わってる*1。
軽々しく十七回は最低でも死んだとはいえ、どれも痛いし苦しいのは変わらない。ひとえに俺が死を耐えれたのはゲームとしての認識が強かったからであり、ゲームでないかもしれないと認識しそうな今は酷く恐ろしい。現実の俺は今どうなっているんだろう。
「いたい……っ」
「………」
涙で歪む視界の向こうで、俺を支えてくれている黒い瞳が心配そうにこちらを見ていた。まだ出血している額の傷に、そういうものだと理解していても過度に痛いように感じ、つい口から出ていく。自然と今度は俺がフォグへ縋るように服を引っ張った。
するとフォグは俺の行動に何を思ったのか、ただでさえ近くて事案ものな距離を更に近付ける。本来、幼馴染みの男女のどちらかが風邪を引いた時に行いそうな、おでこに手を当てるというそれを額の傷にしたのだ。触れられた瞬間、傷口に熱さを感じた。
「…………」
「……っあれ、…傷が」
数秒程フォグが額に触れてから、さも大丈夫というような、もうテレパシーと言っても過言ではないそれを聞いた。まさかぁ、と思って額に触れればそこに血の跡はあれど、傷口がないのだ。傷口じゃないところを触っているかもしれないと、何度も手で探るが出血跡をどれだけ辿っても傷口に触れれない。
普通人間が怪我をした際、まず何処を怪我していようと出血はする。擦り傷を例にするならば、基本的に皮膚を
だが、フォグの手には一切血の跡などない。それに額の傷は完全な瘡蓋になるまで、かなり時間がかかりそうなくらいに傷口が深かった。瘡蓋は大抵子供でも触らずに二週間くらいかければ完治するが、仮に瘡蓋がすぐ出来ていたとしても今のはあまりにも治るのが早過ぎる。
そしてその異常な傷の治りを体感し、近しい実例として脳裏によぎるのは先程のフォグの”おねだり”だ。だが俺へフォグは”おねだり”をしていないし、俺もフォグに”おねだり”されるようなこと言っただろうか。いや痛いとは言ったけど…え、違うよな?
「………」
見るからに
目の前で再度何かを送ってくるフォグがしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込んでいた。そんな時、この混沌とした現状の展開を一変させる人物が現れた。
「……なっ……!?こ、これはどういうことですか!!!」
「…酷い有様だな」
そう言って現れたのは二人。一人は、鮮やかな緑色の髪にベレー帽のようなものを被った眼鏡をかけた女。もう一人は、白と黒の牛を模したようなコスプレをしている男だった。牛男はフォグと俺の周囲に広がる
しかし、当人である筈のフォグはまるでその二人の言葉が聞こえていないかのようにガン無視していた。
「いやぁホントすみませんね!!ちょっと諸事情でお迎えが遅れて…って……あちゃー」
「あちゃー…じゃないですよパリストン!!!そもそも予定時間から何時間も…!!いや、この際それはいいんです。今回貴方が集められるだけの
「そのまさかの彼です!!」
「〜っ信じられないわ!!!人を待たせておいて、その上でこんなに厄介な事柄を持ってくるなんて!!」
…流石に混乱や困惑をしていた俺も驚きで正気に戻る程の大声で、新たに姿を現した金髪イケメンに緑髪の女が愚痴気味の文句を叫ぶように吐き捨てる。牛男も気が重いのか、目元に手を当てて俯いて黙り込んでいた。
そんな雰囲気をワザと読まないつもりで、無駄に整った顔面を使って金髪イケメンは笑った。フォグも大声には驚いたようだったが、少し背後をチラッと見ただけで興味を失ったように俺に向き直っていた。
「………それで、事の概要はなんなんだ」
「見て分かる通りですよ。通称”死神”の名を持つ彼、ハンターライセンスを持ちながら自身以外の殺人があまりにも多すぎてクレームが山になってるんです。こんな形でイメージダウンされたら、我々としても困るじゃないですか?」
そして先にしゃがみ込んでいたフォグの隣に、同じくしゃがみ込むように俺へ目線を合わせた。
「それで、君は一体誰かな?情報が正しければ、君の手を握る男の人はいつも一人で行動している人なんだ。過去に彼へ色仕掛けをかけたハンターは書類の山が出来るくらいにいるのに、彼はその女性の誰もを無いように扱った。ハンターだったから殺されなかっただけで、下手に近付いて半殺しまで攻撃されたハンターもいたんだよ。彼は生きる為に必要な物以外を必要としないし、これといった執着も見せない人だったんだ。なのにどうして今の彼は君に対して執着を見せているのかな?良ければ、お兄さんに理由を教えて欲しいなぁなんて」
何だかとても胡散臭い笑みを浮かべてそう言われるものだから、ちょっと信用できなくて後ずさる。思わず反射で、母親(笑)のことを言おうとするが即座にやめる。ついさっき死んだばかりの相手を、この話題に出してどうする。
そんなことをだた一人で考えていると、不意にその状況をジッと黙って見ていたフォグが何か言いたげにする。その胡散臭いイケメンから俺を庇うように腕を横から伸ばしてきたと思えば、胡散臭いイケメンが何かハッとしたような顔をする。
「あ、愛人ってコト……!?」
「いやいやいやちょっと待った!!フォグから何を聞いたのか知りませんけど、多分その言葉の意味絶対分かってないですからね!?」
「え、でも彼は"大事な人"だって…」
「それならば家族や親友もない訳じゃないですよね!?何故そこから愛人という発想になるんですか!!」
胡散臭いイケメンから聞き捨てならない言葉が聞こえて、慌てて話に
フォグが今の今まで何をしていたのか知らんが、フォグ自身が愛人と言っていないならおかしいだろうが!!そこまで
「いやだって…ねぇ?」
「そうだったら事案ですよ事案!!フォグを勝手にロリコンってことにしないでくれませんかね!?」
「…………パリストン、子供と言い合っている場合ではありません。彼が、"フォグ"という名前だと分かったことの方が重要なのでは?」
「そうだな。急ぎ上空で待つ会長達に伝えなくてはいけないだろう」
緑髪の女がそう言って会話を中断させようとしてくることに、俺は呆れ果てて額に手を当てた。結果的に自分自身の血が手に付いたが、そんなことはどうでもいい。どういうことなのか分からないが、フォグは知り合いらしい彼らに対して自己紹介をしていなかったのだ。
いや、自己紹介をせずに彼らとどうやり取りをしていたのか非常に気にはなるが、それ以上にフォグの名前が上司っぽい相手に報告されるだけのことだというのにも驚きが隠せない。フォグの腕を掴んで、目線のみで何故だと問いかける。
…フォグは俺のやりたいことが分かっていないのか、不思議そうに首を傾げた。…どうやら、アイコンタクトはほぼ通用しないものだと思った方が良さそうだ。そう感じてため息を吐く。フォグと出会って、今に至るまでにどれだけの時間が経過しているのか分からないが…。
フォグはそこまで、言語やコミュニケーション能力が成長している訳でもなさそうだった。
「えっと、……あなたは早めに家にお帰りなさい。ここはじきに、協会が遣わすハンターで溢れると思うので」
「……あの、そもそもさっきから話に上がっているハンターというもの自体が、あまりよく分かっていないんですが。協会ってことは、何かしらの組織に属する職業みたいなものという認識で合ってます?」
「………待て、君は何歳だ?」
「誕生日は分からないんですけど、九歳ですね」
「…ご両親は?」
「あー…………その、ご覧の通りです」
緑髪の女から家に帰るように言われたので、せめて意味の分からない言葉だけでも聞いておこうと思って聞いたくらいのつもりだった。しかし、それを聞いただけでフォグと俺以外の三人が揃って絶句する。…え、そんなこの世界だと知ってて当たり前的なことなの?
「…つまり、君からしたら彼は実の親を殺した相手になるんじゃないの?」
「あぁ…個人的にはむしろ、やっと解放されるって感じというか…。特に恨んだりはないですよ。お母さんにピンヒールで踏まれた額の傷も、フォグに治してもらいましたし」
不思議そうに首を傾げる胡散臭いイケメンの言葉に答えると、聞いてもいない緑髪の女が渋い顔をする。牛男に関しては、フォグが作り出した血溜まりの中でさらに赤くなったピンヒールを見つけ、険しい顔をした。
そんな一同の雰囲気を壊すように、上空からゴオンゴオンと大きな何かが動く起動音が聞こえた。自然と音の正体を確かめようと、目線は上へと向く。そうして向けた目線の先に佇んでいたのは、少しばかりの遊び心が感じられる大きな飛行船だった。
よくドラマなどでプライベートジェットという形で登場する、小型の飛行船なんて軽く超える程の大きさを持つ飛行船に、思わず感激して声を上げる。実は飛行船という乗り物自体、年々と運行数が減っている乗り物だったりする。
高層ビルの増加や飛行船そのものの維持自体がネックになり、日本においては2022年の時点で最後の飛行船が運行を終了している。高層ビルの間を飛行船が通り抜けることは厳しく、その上でより小型で安全性も高く維持も難しくないドローンが現れてしまった。
大空からの大々的な広告を行えなくなった飛行船は、その需要を失ってしまったのだ。
「………ボクら、あの飛行船でここに来たって言ったら驚く?」
「ええっ!?すごいなぁ!!羨ましい!!」
胡散臭いイケメンにわざとらしくそう言われても、俺は素直に羨ましいと答えた。世界的に見ても飛行船の運行数というのは減少傾向だし、どれだけお金をかけたところでレンタルくらいが限度というもの。
まさに現在進行形で過去のロマンになりかけている飛行船に乗ってきたなんて、羨ましい以外の何でもなかった。本当にゲームやアニメで多少登場するくらいの飛行船に、ちょっとくらい乗ってみたいと思っていたのだ。
「じゃあ、君も彼と一緒にあの飛行船へ乗るかい?もちろんタダでとは」
「乗る!!!乗らせてくれるなら乗りたい!!!」
胡散臭いイケメンの言葉を聞き逃さずに思わず食い気味で反応すると、提案してきた筈の本人も少しビックリしたのか目を丸くしていた。緑髪の女と牛男がどんな反応をしているのかなんて気にもせず、俺はあまりの嬉しさに少しばかり跳ねながら飛行船へ手を伸ばした。
ちなみに前話の時間表記ですが、あれはオリ主から見た時間経過です。
オリ主はゾバエ病に感染してから三ヶ月程度で、本来であれば自我を失うレベルの状態に至っていました。詳しくはネタバレになるのでまた別で書きますが、正確にはオリ主が暗黒大陸で置いてけぼりになってから死ぬまでは約二十五年程度です。バイオハザード的な感じで、ある程度意識はありましたが知能は軒並み低下していたので、時間の感覚は狂いまくりだった訳です。