転生主人公が非戦闘員なHUNTER×HUNTER   作:ネモ

9 / 15
老人=会長

『それにしても合格者0人と言うのは、ちとキビシすぎやせんか?』

 

 

そんな時、予兆もなく施設の外から声が響き渡った。

 

それは少ししゃがれたような、老人の声。まるでその声に導かれるように受験者達は自ずと施設の外に出て、上空を見上げていた。そこには俺やフォグにとって見覚えのある飛行船が停まっていた。飛行船の側部に描かれているハンター協会のロゴに、周囲がどよめいた。

 

 

「審査委員会か!?」

 

 

受験者の誰かがそう叫ぶと、飛行船から何かが飛び出して落下してくるではないか。見上げているこちらからでも、かなりの距離感がある飛行船から落下したその影は人影だった。そう、どうにか頭が理解する頃には。

 

ドォーン!!

と、人影はとても人から発せられていい音とは思えない着地音と共に地面に降り立っていた。その着地音よりも微かに遅れる形で砂埃が舞い上がり、飛行船から降り立った人物を覆い隠す。しばらくの間舞い上がっていた砂埃は時間と共に地面へと落下し、人影の正体を明かす。

 

 

「な、何者だ?このジイさん……」

 

 

受験者の誰かが砂埃の向こうに隠れていた人物を見て、そう呟く。そう、かなりの高度があるであろう飛行船からその身一つで落下しながらも怪我一つ見当たらない人影。それは見事な白髭を生やし、和装を見に纏う高下駄の老人だった。

 

…俺はこの老人が誰であり、どんな立場の人間であるかを知っている。だが、この場において試験官以外の人間はあまり知らないと言ってもいいんだろう。あのヒソカですら少し気配を薄めている程だ。流石に初対面だったらしい。

 

相変わらずと言うべきか少し悩むところだが、数十mはあったであろう高さから飛び降りたくらいじゃどうもしない辺りは変わっていない。お元気そうで何よりと言ったら、またつまらなさそうな顔をするだろうが…。まあとにかく、気に入らない顔をしている辺りも変わっていない。

 

 

(…またあの、退屈そうな顔なままかよ)

 

 

その外見通りの年月を費やし、長い時を経て研ぎ澄まされ続けた(てん)*1はありえない程に滑らかだ。立ち姿はとても緊張感を何も感じさせない、ふざけているようにすら思える程の自然体だというのに、その一挙手一投足には全く隙がない。

 

例えるならば、酔拳のような状態とでも言えばいいだろうか。あっちへふらふら、こっちへふらふら。だが実際にはそう見えるだけで、動きそのものには付け入る隙がない。下手に手を出せば、実力の底すら見せない一撃を喰らわせられそうな強者。

 

 

「審査委員会のネテロ会長。ハンター試験の()()()()()よ」

 

 

ほぼ無意識のような形で呟かれた疑問に対して、メンチは先程とは打って変わって緊張したような(おもむき)で硬い返事をした。そんなメンチの側にいるブハラも、何処か緊張したような雰囲気を纏っていた。仕方ないと言えば仕方ないことだが。

 

そんな二人とは反対に、受験者達は突如として目の前に現れた老人がハンター試験における最高責任者だと聞いて驚きを隠せない。そしてその上でこの状況が好転し、結果が変わるかもしれないという期待感で各自が唾を呑む。…あながちその解釈は間違ってない。

 

 

「ま、責任者と言っても所詮裏方。こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃ。さて、メンチくん」

 

「は、はい!」

 

 

立場的に明確な上司が目の前にいるメンチは、露骨なまでにその背筋を伸ばして気を付けをしてから返事をした。…気分としては、仕事中に何気なく上司に肩を叩かれた感覚なのかもしれない。そりゃギョッとして、緊張せずにはいられないよな。

 

 

「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員がその態度に問題ありと、つまり不合格と思ったわけかの?」

 

「……いえ。受験生に料理を軽んじる発言をされてついカッとなり、更にはその際に料理方法が受験生達に知られてしまうトラブルが重なりまして……。頭に血が昇っているうちに腹が一杯にですね……」

 

「フムフム。つまり自分でも審査不十分だと分かっとるわけじゃな?」

 

「……はい。スイマセン。料理のことになると我を忘れるんです。審査員失格ですね。私は審査員を降ります。試験の無効かどうかに関してはお任せします」

 

「ちなみに辞退した合格者がいると聞いているが、その者をを合格にしたのは何故じゃ?」

 

「はい。それは――」

 

(あー…別にそれは説明しなくてもいいのに)

 

 

そんなことを思う俺の気持ちはここでは考慮されないようだ。でも辞退したことにメンチは関与していないし、それ自体は受験者である俺が勝手にやったこと。それはもう既にネテロ(ジジイ)へちゃんと伝わっているようだ。だからメンチの意見を純粋に聞きたかっただけなんだろう。

 

…ただし、説明は受験者達にしていたものとほぼ同じだったのでここでは省かせてもらう。以下同文ってヤツだ。まあ多分俺がここで辞退することは形式的には許されても、ハンター協会としては許されないだろう。何せ大人の事情が関わってくるもんだからな。

 

 

「フム……。なるほどのぅ。メンチくんの言い分は分かった」

 

「ありがとうございます」

 

「しかし、選んだメニューの難度が評価するにはお互いに少々高かったようじゃの」

 

 

それはそう。

ブハラがお題(メニュー)として出した豚の丸焼きはまだ簡単だし、単純にグレイトスタンプを討伐できるだけの実力を推し量るには十分だった。だが、メンチは実力を推し量る訳でもなく本格的な民族料理である寿司を求めた。それは作り方を知らない受験者にとってはあまりにも難題過ぎた。

 

確かに知っている俺からすれば所々にヒントはあった。だが、それは俺が寿司を知っているというアドバンテージの上で成り立っているものだ。寿司を知らない受験者からすれば、ヒントも何もありゃしない理不尽に感じられるのは当然だろう。

 

 

「よし!こうしよう、審査員は続行してもらう。ただし、新しいテストにも審査員である君にも実演と言う形で参加してもらう、というのでいかがかな?」

 

「「「!!」」」

 

 

しかしこれは客観的に見た評価であって、ネテロ(ジジイ)からすればメンチはいくつかの不運が重なっただけで試験をちゃんと行おうとする意思はあったと判断したんだろう。その上で、ハンターや料理人としてのあり方が舐められてしまったばっかりにカッとなってしまっただけ。

 

それにメンチ自身も反省の意思が見られている。そのことも加味し、ネテロ(ジジイ)は少し考えてから打開案を提案した。…ネテロ(ジジイ)のことだ、総合的に見てメンチも受験者達も含めて…ここで機会が失われるのは勿体無いと思ったんだろうな。

 

 

「その方が受験者達も合否に納得しやすいじゃろ」

 

 

つまり、どちらも改善の余地があったと考えた訳だ。ある意味折衷案とも言える提案に、メンチや事の成り行きを見守っていた受験者達も驚いたように目を見開いた。…うーん、流石あのパリストンに好かれるだけあるというか。これだからトラブル処理係にさせられるんだろうが…。

 

そんなネテロ(ジジイ)の提案を聞いたメンチは少し考えてから、上空で待機している飛行船を見上げた。そして今度は自身の身をもって実践するということも考えてから、その口を開いた。今度こそは受験者達も合否に納得できるようなお題(メニュー)を。

 

 

「……そうですね。では……()()()で」

 

 

メンチは真剣な顔で新しいお題(メニュー)を告げる。

 

ゆで卵か、電子レンジが無ければいいんだが…。もし電子レンジで加熱する馬鹿が居たら、せっかくの卵が殺傷性のない爆弾と化してしまう。俺がそんなことを考えていると、メンチはネテロ(ジジイ)へと目線を戻してから二次試験会場からも見える遠くの岩山を指差した。

 

 

「会長、あたし達をあの山まで連れて行ってくれませんか?」

 

「なるほど。もちろん、いいとも」

 

 

ネテロ(ジジイ)はメンチが何をしたいのかを理解し、朗らかそうな笑みを浮かべて快諾(かいだく)した。ハンター協会のトップであるネテロ(ジジイ)が頷いたのだから、もちろん目的地に移動する為の飛行船も二次試験会場へと降下してきた。当たり前だが、受験者達もその飛行船に乗った。

 

二度目になる飛行船にワクワクしていた俺は、それがある意味巧妙な罠と言ってもいい状態であることに乗ってから気付いた。何か言いたげなネテロ(ジジイ)の目線にも気付かなかったんだから、後で後悔したとしてももう戻れなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「……」」」」

 

 

二次試験後半。

つまり…メンチの試験で不合格にされた受験者達は全員飛行船に乗船し、束の間になるであろう空の旅を各自で味わっていた。まあ何が言いたいかって言うと、結果的に受験者達は一緒くたにされてたってこと。と言うことは、だ。

 

俺が可能な限りで隠してきた顔が、周囲にバレやすくなると言うことである。

 

 

「…そんなに見るくらい、俺おかしいとこあった?」

 

「ううん。オレはレアンがそうしたいなら今のままでいいと思うよ!」

 

 

現に今、ゴン・キルア・クラピカ・レオリオの四人から物凄く目線を感じていた。各自反応が微妙に違うのは分かるんだが、クラピカだけやけに険しい顔をしている。…いや、元からずっと隠し通せるとは思ってなかったさ。何があるかも分からん試験だしな。

 

ただ、金髪赤眼は妙に人体売買に狙われやすいし…。加えて、俺はフォグと同行していることからフォグが前に買ったかもしれない恨みの余波を受ける可能性があった。仮に念能力を持っていたとしても危険を全て凌げる訳じゃない。だから隠していた。

 

 

「てかお前、ちゃんと飯食ってんのかよ」

 

「失礼な!これでもちゃんと食べてるって」

 

 

まあレオリオにそう言われてしまう程、俺の身体が細っこいことは否定しない。だがしかし、レオリオだってその年齢に対しては……って文系なら割と妥当か。でも俺が細っこいのは俺のせいって言うより、母親(笑)が飯抜きにしてきたのが悪い!

 

それに消化に悪くて粗悪なものばっかり食べてたからか、パリストン達に回収されてネテロ(ジジイ)のとこにいる間もしばらくは摂食障害に苦しめられた。…いや、あれは摂食障害じゃなくて単に胃がびっくりしただけか。おかげでリゾットとかミルクがゆはとっくに飽きた。

 

 

「ホントかあ?何がどうなったら十二歳のガキがこんな育ち方すんだか、俺はお前の親の顔が見たいくらいだ」

 

「えぇ〜…凄い言うじゃん」

 

 

めっちゃ言うじゃんレオリオ。俺だって身体が言うこと聞くなら、もっとちゃんと食べたいけどさあ…。生憎俺だって多少はストレスを感じるし、俺が自覚してない分が身体に表れてるって言われたら否定できない。仕方ないよな。

 

精神的にはあの母親(笑)がどうでもよくても、本能がそう思ってるかは分からない。本当にどうでもいいのかもしれないし、どうでも良くなかったのかもしれない。そんなこともう分かってたら悩んでない。だから気にしない。

 

 

「しかしまあ…お前とクラピカって親戚だったりするのか?それくらい似てるぜ」

 

「あ、それはオレも思った。兄と妹って言われても違和感ねーぞ」

 

「…顔立ちは似ていないと思うのだが、そんなにか?」

 

「えっとね、顔立ちじゃなくて…なんて言うんだろう…雰囲気が似てるんだよ」

 

 

レオリオとキルアの二人に言われて、俺とクラピカは何となく顔を見合わせる。…色が同じ訳じゃないが、同じ金髪の部類だな。髪型は俺が伸ばそうって考えないで、大体ショートカットとかにするからクラピカに近くなってはいるか…?

 

一番の違いはやっぱり目の色だろうか。クラピカが澄んだブラウンだとしたら、俺はルビーみたい紅色だ。反対色ではないが、目立つ色ってのは印象に残るよな。…っていうか、クラピカって多分男だよな?なんでこんなに女顔なんだ?

 

 

「それより、なんであんなに隠してたんだよ。クラピカみたいに堂々としてりゃいいだろ」

 

 

割と鋭い質問をしてくるキルアに、俺はギクリとしてしまう。聞かれて困ることじゃないが、よりにもよってそれを聞いちゃうかあ…。まあキルアは狙われてもある程度は返り討ちに出来そうだし…。今はネテロ(ジジイ)の監視下だし大丈夫だろ。

 

…ただまあ、まだ子供であるゴンとキルアに直接的な言葉を使うのは流石によろしくないよな。人体売買って率直に言っても、二人の教育にも精神的にも悪いだけだ。まあクラピカとレオリオにはそれだけで伝わるだろうけどさ…。一応言葉は濁しておくに越したことはない。

 

 

「あー…その、俺の目の色が珍しいみたいでさ。悪い人に狙われちゃうんだ」

 

「っな、それは本当か!?」

 

「うぇっ?!」

 

 

俺が言葉を濁しつつ、ある程度どういうことなのか分かる程度に誤魔化すとクラピカが一番露骨な反応を示した。レオリオはまあ予想通りって感じの険しい顔だ。発想力はあると思うし、多分言わないだけで答えには辿り着いてると思う。

 

キルアはレオリオと同じく何も言わなかったけど、苦いものでも食べたみたいな顔をしている。反対にゴンはキョトンとしていた。…お前はそのままでいてくれ。そんでまあ、一番露骨な反応をしたクラピカなんだが…。その勢いのままこっちに迫ってきた。近いぞお前。

 

 

「まあ…そ、そうだよ…?」

 

「その相手の名前!顔や性別は覚えていないか!?」

 

「えぇ!?ちょ、ちょっと待って!後でちゃんと思い出すからさあ!」

 

 

クラピカにとって反応するだけの何かがあったのか、クラピカはそのまま俺達が座っているテーブルを台パンするくらいの勢いで迫ってきた。あまりの勢いに俺が怯むと、クラピカの隣に座っていたゴンがクラピカを宥めてくれた。なんだったんだ、一体。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオンゴオンと飛行船がメンチが二次試験会場から指差していた山に到着し、受験者達はメンチの案内に同行する形で山の頂上と思わしき場所に足を踏み入れる。そして、辿り着いた山を中央から二つに分けるように出来ている崖へと案内された。

 

 

「さぁ、ここよ」

 

 

メンチは至って真面目にその崖下を指差した。移動前に言っていた、()()()がここにあるということらしい。普通であればこんなところにそんなものがある訳ない。ただ…ふざけているようにも思えない以上、受験者達はその崖下へと行かねばならないのだが…。

 

恐る恐ると数名が指差された崖下を覗き込んだ。勇気ある受験者達の喉からは、ゴクリと唾を呑み込む音が聞こえた。俺も同じく警戒しながら崖下を覗き込んだ。…人間が入れば簡単には戻れないであろうその隙間の終わりが、見えなかった。

 

 

「下は……どうなってんだ?」

 

「安心なさい。下は深ーい河よ。流れが速いから落ちたら数十km先の海までノンストップだけど」

 

 

飛行船が現れる前、メンチを殴ろうとしてブハラの張り手に吹っ飛ばされていたレスラーっぽい男が崖下を眺め、その顔を青褪めさせながらメンチに質問した。メンチは極めて冷静な声色で、自身のブーツの脱ぎながら質問に答えた。…いやそれってダメなヤツじゃん!!!

 

確かに飛び込んだ際の衝撃で何処かにぶつかったりしないという安全はあるかもしれない…。だが、高い所から飛び降りて水面に着水した時の体勢が悪ければ…コンクリート並みの硬さになった水面に身体を打ち付けることになってしまう。

 

学校の水泳で飛び込み台を使うことがなくなったのも、確かそういった着水時の衝撃による事故があるからだった気がする。…確証はない。ただ、俺は飛び込み台で飛び込んだ時…運が悪いと鎖骨辺りを強打して痛かったり、付けていたゴーグルが衝撃で外れる程の力があるのは知っている。

 

考えろ、学校に設置されている25m程度のそこまで深くないプールでそれだけの衝撃が身体にかかるんだぞ?…崖下の河が見えない程の高さで、深いという河に着水を失敗した時にどうなるか。俺にはもう、頭の中で大体の想像図が浮かんでいた。

 

…だが、不問扱いになった寿司のお題よりは随分と分かりやすい課題になった。そんなことを思っていると、ブーツをせっせと脱いでいたメンチが崖際に歩み寄っていた。……え、まさかの素足飛び込みなのか?っていうかそれ、あっ…(察し)

 

 

「それじゃ、お先に」

 

「「「「はぁ!?なああああ!?」」」」

 

 

 

 

 

直後、軽やかなジャンプをしてメンチの姿は崖際から消えた。思わずうつ伏せの状態で崖下を覗き込むと、そこには大の字になって底の見えない崖と崖の間を落下しているメンチの姿があった。背後で遅れ気味に受験者達が驚く声が聞こえた。

 

 

「マフタツ山に生息するクモワシ。その卵を採りに行ったんじゃよ。クモワシは陸の獣から卵を守るために崖の間に丈夫な糸を張り、卵を吊るしておる。そして、今回の試験はその糸に上手く掴まり、1つだけ卵を採って岩壁をよじ登って戻ってくることじゃ」

 

 

受験者達の半分程が絶句している中で、ネテロ(ジジイ)が安心させるようにメンチの行動を説明している。…色々と言いたいことはある。まず、クモなのかワシなのかどっちかにして欲しいこと。多分卵生であって糸を使うのであれば、クモよりなんだろうけどさ。

 

 

(つーか、何で一つだけなんだ?それじゃあブハラの時みたいにもらっていくことが…)

 

 

と思っていると、何やら文句ありげな目線がネテロ(ジジイ)から向けられていることに気付く。……もしかして、ブハラの時にグレイトスタンプを何匹かオマケで捕獲していたのがバレてる?何となくそう感じて、反省する気持ちはあると苦笑いを返しておいた。

 

そんなしょうもないやりとりをしていると、メンチがなんてことないように崖を登って戻ってきた。怪我一つもないメンチの手には、殻が茶色の卵が一つあった。それを受験者達に見本、とでもいうように見せ付ける。ちゃんと実演したんだ…。

 

 

「よっと、この卵で()()()を作るのよ」

 

 

平然と崖を登って戻ってきたメンチを見て、レスラーっぽい男を始めとする何名かの受験者達は怖気付いたかのようにその顔を青褪めさせ、ただ無言で足踏みをしていた。どうやら、メンチがちゃんとしたハンターであることを本当に理解したようだった。

 

個々人によっては空気の重みが変わってくる場面で、それを払拭するような明るい声が響き渡った。とても、聞き覚えのある声だった。まさかと思って目線を動かすと、そこには全く戸惑わずに崖へ飛び込んでいくゴン・キルア・レオリオ・クラピカの姿があった。

 

 

「あー、よかった」

 

「こういうの待ってたんだよね!」

 

「走るのやら民族料理よりよっぽど分かりやすくていいぜ」

 

「右隣に同意する」

 

 

俺が止める間もなく飛び込んだ彼らを唖然と眺めていると、先陣を切った四人の姿に触発されたように他の受験者達も覚悟を決めて崖へと飛び込んでいく。…そうか、早めの方が取りやすい位置にある卵を取れるのか。そう感じてから、行動するのはすぐだった。

 

……余談だが、俺はその間のことを半分くらいしか覚えていない。気付いたらクモワシの卵を持っていて、後少しで飛び込む前の所に戻れるという辺りで正気に戻ったって言えばいいか?どうやら俺の苦手なものは、底が見えない高かったり深かったりするものらしい。

 

 

「残りは?ギブアップ?」

 

「「「「……」」」」

 

「やめるのも勇気じゃ。試験は今年だけではないからの」

 

 

やけにプルプルとする両腕で泣きそうになりながら戻ってくると、ゴンが満面の笑みで待っていた。その横では同じく先陣を切った三人が用意されていたお湯で卵を茹でている。崖から飛び降りた精神な衝撃から戻れない俺を、ゴンはお湯の前まで引き連れた。

 

言われるがままにクモワシの卵をお湯に入れて茹で終わる頃には、流石に俺の精神状態も元に戻っていた。あまり食べれなかったが、クモワシのゆで卵は何も付けずとも十分な美味しさがあった。濃厚な黄身はクリーミーで、少し塩っけを感じる白身と良く合っていた。

 

 

「それじゃ!!二次試験合格者は42名!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな過程を経て、今度こそは後腐れが残らない形で合否が決定した。事実、メンチは目の前で実演して見せたのだから文句を言う連中もいなくなっていた。もちろん、俺を含めて合格した42名は再び飛行船に乗って次の会場へと移動することになった。

 

ゴオンゴオンという飛行船の音がする中で、飛行船の外はいつの間にか夜の帳が降りていた。暗くなった空でもキラキラと輝いているのは、とても小さな星と都市部の人工的な灯りだけだった。幻想的な景色に見惚れていると、一番最初で受験者達に番号プレートを配っていた職員が現れた。

 

 

「次の目的地は明日の朝八時に到着予定です。こちらから連絡するまでは各自自由に時間をお使いください」

 

 

一次試験に会ったぶりである職員の言葉に、飛行船の中でも一番周囲が開けている場所で集まっていた受験者達は解散し、各自自由行動を開始する。何となくで近い場所に待機していたレオリオとクラピカはその言葉を聞いて、重々しいため息を吐いた。

 

 

「俺はとにかくぐっすり寝てぇぜ……」

 

「私もだ。恐ろしく長い一日だった……」

 

「ゴン!飛行船の中、探検しようぜ!!」

 

「うん!」

 

 

キルアとゴンは流石と言うべきか、その若さ故にあまり疲れを感じていないようだった。俺が飛行船に初めて乗ってワクワクしたように、やっぱりゴンとキルアも飛行船に乗ったのが疲れ以上の事柄として認識しているようだった。

 

 

「…ゴンとキルア、凄い元気そうだ」

 

「レアン…お前も俺からすれば元気そうな部類だぞ」

 

「え?」

 

 

レオリオの言葉に思わず驚きを隠せずに振り向くと、ぐったりしたレオリオがテーブルに突っ伏しながら俺を見ていた。同じテーブルを囲っているクラピカも、何処かその顔色は疲労を感じさせる。俺はそりゃ、プロのハンターから多少訓練されたから当たり前のことだ。

 

 

「ねえ!レアンも行こう!」

 

「あっ!ちょっと待って、部屋に荷物を置いて来ていい?」

 

「早くしろよー?」

 

「もちろん!」

 

 

キルアの催促に当然だと頷き返す。そして反対に食堂でぐったりとしているレオリオとクラピカの二人に手を振って、しばしの別れを告げた。俺は夕食が出るまでの間、ゴンとキルアを含めた三人行動で時間を潰すことにした。だって飛行船だぞ!?

 

いくら最初がパリストンの話をちゃんと聞かないで乗ったって言っても、やっぱワクワクするもんはワクワクするんだよな。どうせ何度も乗れるものじゃないし、せっかくなら今のうちに探検しておきたいよなあ!

 

 

(…それに、夜は一番安全な時間だって知ってるし)

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。

トラブルはあったものの、受験者達は無事にブハラとメンチによる二次試験を乗り越えた。そんな彼ら彼女らが食堂で夕食を取っている間、試験官として起用されたプロハンター達は別室で今回のハンター試験について話し合っていた。無論、食事をしながら。

 

 

「ねぇ、今年は何人くらい残ると思う?」

 

「合格者ってこと?」

 

 

メンチが聞かずにはいられないとばかりに話を振ると、彼女と同じ試験会場にいたブハラが一番早く反応する。そんな二人を向かいの席に座って眺めているのは、一次試験の際に試験官を務めたプロハンターであるサトツだ。

 

 

「そ。中々の粒ぞろいだとは思うのよね。料理はセンスがない連中ばっかだったけど」

 

「でも、それはこれからの試験内容次第じゃない?」

 

 

やはりまだ二次試験後半のことが後を引き摺っているらしいメンチに対し、ブハラがまだ期待するところがあるのではと言う。するとメンチはネテロが出張ってきたことも含めて反省はしているようで、ため息を吐いて少し言葉を変えた。

 

 

「そりゃまぁ、そうだけど~。それでも結構いい()()()出してた奴いたじゃない?(ねん)って意味じゃなくてさ。サトツさんはどぉ?」

 

「ふむ。そうですな……。ルーキーがいいですね、今年は」

 

「あ、やっぱりー!?」

 

 

メンチは自身の意見に同意された事が余程嬉しかったのか、目に見えてテンションが上がった。…いや、酒が多少入っているせいかもしれない。どちらにしても、メンチは同じ試験官であるサトツに同意してもらえたのが嬉しかったようだ。

 

 

「私は294番(ハンゾー)1番(レアン)がいいと思うのよねぇ〜。片方はハゲだけど、もう片方は可愛い女の子だし!」

 

 

そんなメンチの言葉を聞いて、ブハラは内心で(メンチのことだし…多分『スシ』を知ってたからでしょ。でもまあ、1番(レアン)がその点では意外だったのは分かるけど)と、当たりをつけた。人は見た目によらないとは言うものの、良い意味で裏切られた。

 

 

「私は断然99番(キルア)ですな」

 

「えー!?あいつ、きっとわがままでナマイキよ!絶対B型!一緒に住めないわ!」

 

 

サトツの意見に対して、同意できないとばかりに主張するメンチ。そんなメンチに対して、ブハラは(似てるもんね)と料理を口にしながらも内心で呆れた。同族嫌悪というヤツなのかもしれない。言えばメンチから睨まれるので、決して言いはしないが。

 

 

「私も1番(レアン)は注目してます。しかし、彼女はルーキーと呼ぶにはかなり特殊でしょう」

 

「あ~……まあ、それはそうね」

 

 

腐ってもメンチやブハラはプロハンターである。その為、ヒソカやレアンが針男と呼んでいる受験者達が只者ではないこと。そして(オーラ)の基礎的な扱いに長けたレアンが、時折(ハツ)と思わしき念能力を使っていることには気付いていた。

 

その上で、特にレアンはあのネテロ会長に目をかけられている受験者であることや、(オーラ)を可能な限り使わずに試験へと挑んでいることに事情があることは察していた。だからと言って、温情をレアンにかけたりはしないが。

 

 

「正直、1番(レアン)(オーラ)量はあたしが体感したものの中でも一番って言っても良いわね。まあ、(ハツ)がアレだったからハンターとしてどうなるかは分からないけど」

 

「ええ。ですが、44番(ヒソカ)301番(針男)よりは安全と見て問題はないと思いますね」

 

「それはそうだね」

 

 

ブハラはそんな言葉を口にしながらも、内心では(でも…湿原の時に44番(ヒソカ)が暴れてたのを考えると、44番(ヒソカ)は去年みたいに暴れるタイプの受験者かもしれない…。)と少なからず不安を抱えていた。現に去年は受験者の一人に試験官が殺害されかけていた。

 

仮にもプロハンターとして何年かマトモに活動してきたブハラ達があっさりやられることは考えにくいが、全くないとも言えないのだ。(サトツさんの時点で攻撃されたらしいし、警戒するに越したことはないよね…)とブハラは休憩する時間でありながら、気を緩められずにいた。

 

そんなことをブハラが考えている横でサトツとメンチの話題が、次第にサトツによる説教へとシフトチェンジしているとは知らずに。それによって、再度メンチが荒れたが受験者達に影響が及ぶことなくその出来事は幕を閉じる。それを知っているのは、声のない闇だけだ。

 

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

俺はフォグに叩き起こされるような形で目を覚ました。まだ何処か重く感じる瞼を擦りながら、さながらアニメなどのおかんキャラのような体勢で掛け布団を持ったまま固まっているフォグを見た。何か面白い体勢で固まってんなお前。

 

 

「ふぁ……おはよう、フォグ」

 

 

俺を起こした筈のフォグは何故か一人で勝手に困惑していた。相変わらずというか、困惑だったり混乱している時のフォグは何が言いたいのか分からなくなる。多分、元が人間じゃないからそのズレもあるんだろうけど。

 

 

「…ごめん、何言いたいのか分からん」

 

 

朝の身支度を整えた後は食堂に向かった。余談だが、悲しいことにフォグはこのハンター試験中にずっと同行することができない。正確には、他人の目があるところでは姿を現して行動することができないと言えばいいだろうか。その為、朝食は別行動になった。

 

 

「おはよう。ゴン、キルア」

 

「おはよう、レアン!」

 

「はよ〜」

 

 

俺が食堂に向かうと…流石は子供と言うべきか、ゴンとキルアが先んじて朝食を食べていた。そこまで早くに起きたつもりはないのだが、若いだけあって回復力も早いなあ。…まあ身体の年齢的には俺も若いんだけど、やっぱほら…精神的な年齢はとっくに三十路超えてるくらいだし?

 

こちらもまた余談だが、朝食は割と豪華なビュッフェ*2形式だった。ビュッフェとはなんぞや?と思うかもしれないが、簡単に言うとバイキング形式と似て非なるものだ。そもそもバイキングという言葉が食事関連で使われるようになったのは日本独自のもの。

 

その為、ビュッフェとバイキングを同じような表現として認識しているのは基本的に日本のみである。ちなみに、バイキング自体は決まった料金で好きな料理を好きなだけ食べれる制度…つまり「食べ放題」ができるプランのことだ。

 

まあ分からなければ…とりあえず「ビュッフェ」が海外産の食べ放題制度で、「バイキング」は日本産の食べ放題制度だと思ってくれ。なので日本文化を知らない海外の方にバイキングというと、海賊の方が先に連想されると思うので注意だ。…必ずしもそうであるとは限らないが。

 

俺が適当に朝食を食べて腹を満たす頃には、当たり前のようにゴンとキルアは食事を終えていた。…なのだが、昨日飛行船に乗ってすぐに疲労感を露わにしていたクラピカとレオリオがいない。まだ時間はあるが、あまり遅いなら起こしに行こうかな…。

 

 

「お、やっと来た」

 

「…む、待たせてしまっていたか」

 

「ふぁあ…お前ら起きるの早すぎだろ…」

 

「良かった二人共間に合って!遅かったら起こしに行こうと思ってたんだ!」

 

 

そんなこんなで昨日と同じ五人が集結して、ワイワイガヤガヤと誰一人として不調を訴えることなく集まっている時だった。ふと気付けば、時計の針は昨日に予告されていた朝の八時という予定時間をとっくに過ぎていた。

 

どうしたんだろう…とそんな疑問と不安が頭をよぎっていると、時計の針が九時半を指し示した辺りでゴオンゴオンと飛行船が着陸時の音を発していることに気付いた。その気付きに一歩遅れる形で、飛行船内には昨日と同じ職員によるアナウンスが鳴り響いた。

 

 

『皆さん、大変お待たせいたしました。まもなく目的地に到着です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日とはやはり数が減った受験者達がゾロゾロと飛行船から下船すると、そこは何処か不自然な円形をした石の足場だった。キョロキョロと周囲を観察すると、どうやらこの足場は相当高いところにでもあるらしい。昨日よりも強く、高所特有の風が吹いていた。

 

 

「ここはトリックタワーという塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタートとなります」

 

 

風に髪が靡く中、昨日と同じ豆のような顔をした職員が飛行船から降りてすぐのところに立っていた。そこで何かの書類を持ったまま、三次試験会場であろうこの場の説明を行う。それにしても、試験官は一次試験や二次試験と違ってこの場にいないんだな。

 

 

「それでは試験官からの伝言をお伝えします」

 

 

そんな職員が今回の試験官からの伝言と口にすると、受験者達は一斉に聞き逃すまいと耳を澄ませるのがより分かった。そりゃ、試験のヒントとかあるかもって思うよな。そうじゃなくても前回のメンチみたいな例もあるし、説明を聞き逃したら大変だ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()。制限時間は72時間』。飛行船が離れたらスタートです」

 

 

無事に伝言と試験開始の合図を告げると、その職員は飛行船に乗った。そしてそのまま、非常にゆっくりではあったが飛行船は三次試験会場から離陸した。…その時の俺は、何故か呑気に離れていく飛行船を眺めていた。何だったら手も振った。

 

 

「…と言われてもなあ、どうすんだよコレ」

 

 

何処から確認しなおしても、階段一つない絶壁。足や手をマトモに置けるような出っ張りもなければ、だからと言ってゆで卵の時のように下がどうなっているのかすら上からでは見えない。かといって足場の石材的に、簡単に動かせたりしそうなものもない。

 

 

「このくらいのとっかかりがあれば、一流のロッククライマーなら難なくクリア出来るぜ」

 

 

どの受験者達も大半が同じような問題に突き当たっていると、ある一人の受験者が塔のへりからゆっくりと小さな凹凸を探して降りているではないか。…おお、スゲェなあのおっさん。ああいう降り方もありなのか、とゴンやキルアも揃ってその受験者を見ていた。

 

 

「うわすげ~」

 

「もうあんなに降りてる」

 

「ありなんだアレ…」

 

 

つーか…あのおっさんみたいに地道に壁を降りるのがアリなら、俺はこっから飛び降りて例の浮くだけの念能力で着地すれば良くね?生身だったらヤバいが、最悪フォグが回収してくれるし…。まあ怪我する可能性は全然あるが、試してみる価値はあるな。

 

 

「あ…」

 

「ん?」

 

 

そんなことを考えていると、ゴンが何かを見て反応を示す。背後でどうにか安全に降りれないかと模索しているクラピカとレオリオに声をかける暇もなく、俺とキルアはゴンの声に釣られてその反応の原因を見てしまった。そこには、とんでもなくキメェ鳥がおっさんを狙って飛んできていた。

 

 

「うわあぁぁぁあ!!!」

 

 

 

 

お、おっさぁーん!!!

そんな叫びを上げたくなるくらいに悲痛なおっさんの叫びは、自然と俺の身体を動かしていた。…と言ってもかなり土壇場のこと。冷静な判断が下せる訳もなく、俺はただ背後でびっくりした顔をしてくるゴンとキルアに対して半ば叫ぶようにこう言った。

 

 

「っ後で合流するから!!!」

 

「えっ!?レアン!!!?」

 

「バカかお前ーッ!!!」

 

 

明らかに怒っていたキルアと、びっくりして硬直していたゴンの顔が石材の壁によってすぐに見えなくなる。轟々(ごうごう)と耳は落下と共に加速していく風切り音ばかり拾っている。俺自身の体重と荷物が入ったリュックの重さが加味して更に早くなる。湿原の時よりも少し濃い(オーラ)(エン)をする。

 

 

「おっさん!!助けるから壁から手ェ離せ!!!」

 

 

俺の喉から発せられる声がどうにか聞こえる中で、俺は出来るだけ大きな声でキメェ鳥に囲まれているおっさんに対して叫んだ。それが聞こえてなくても念能力で微調整しながら必死に手を伸ばして、おっさんに能力を行使した。

 

おっさんに念能力を使ってすぐに俺は周囲からキメェ鳥を追い払う為、久しぶり過ぎて意識的にしか出来ない通常出力での(オーラ)による(エン)に切り替えた。直後、俺の(オーラ)にビビったキメェ鳥が本能的に俺の(オーラ)を嫌がって逃げていく。…おっさんはその場で泡を吹いて気絶していた。

 

 

(…とりあえずは、セーフってとこか)

 

 

落下している中でふとそんなことを思っていると、フォグがどうして助けたのかと俺に聞いてきた。…落下してるって分かってんだから、別に後で良くね?そう思ってしまったが、まあ着地まで暇なのは変わらない。どうしてって、そりゃあ…

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

フッ…決まった、と内心で俺はドヤ顔をした。いやーまさかフォグからそんなことを聞かれるだなんて思ってなかったが、そんなことを聞かれたら俺はこう返す。某外見小学生の高校生探偵を知っている身としては、作中のセリフを言えるのは嬉しいからな。

 

……と呑気にカッコつけている俺に対して、フォグはこう返した。

風切り音で半分くらい聞こえなかった、とな。

 

予想出来なかったフォグからの切り返しに対して、俺は聞こえないのにカッコつけてしまった羞恥心やらが思わず溢れた。そのまま塔の側で落下し続けること数十分。やっと塔が立っている地面に足をつけた時、俺がチベスナ顔*3になっていたのも無理はないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、若干移動する羽目にはなったが…。塔の出入り口と思わしき場所を発見した俺は、監視カメラ越しに試験の試験官と少しやり取りをして本人確認をすることになった。余談だが話していた試験官がボソッと『飛び降りてどうにかなると思う受験者が現れるとはな…』と言っていた。

 

…いや、確かにそうですけども。一歩間違えたらただの自殺なのは分かってたけどもさ、ちゃんと無事に着地したじゃん。ちなみに、俺が飛び降りた理由であったおっさんは大人しく今年を諦めて来年に向けて頑張るらしい。ちょっと雰囲気がげっそりしてたのは気のせいじゃないと思う。

 

 

『1番レアン、三次試験通過第1号!!所要時間3時間45分!!』

 

 

そんなこんなで少し面倒な確認作業をすることにはなってしまったが、俺は無事に三次試験の通過を認められた。アナウンスの所要時間が思った以上に長いのは、無事そうな俺よりも疲弊したおっさんの方が優先されたからである。まあ、明らかに戦意喪失してたし。

 

 

「……さて、これから…どうしよう」

 

 

そう、実のところは俺が一番不安に感じ始めたのはそこだった。

 

…一応今回の試験官から、食事や睡眠などの必須な活動に関しては支給されると聞いたからまだいいとしても、だ。俺一人でこんなだだっ広くて開けた場所に居たって、なあんにも楽しくもない。だからと言って、試験官に見られている以上はフォグも出てこれない。

 

だからと言って暇を潰せるような物なんて持ってきてない。…そもそも、試験に受けると知っていて暇つぶしとして持ってくるものは本くらいしかないだろ普通。まあ俺はそれすら持ってきてないから尚更酷いが。

 

あの四人がここでへばるような連中じゃないのは理解してるが、一方的に安全であることを知らせることしかできないのは何だか複雑だ。向こうは今何してるんだろうか…。暇は人の精神すら病ませるんだぞ?そこんとこ分かってんのか?

 

残念なことに、昨日のようにぐっすり寝れる程の疲労が溜まっていれば良かったんだが…。現状の俺には多少(オーラ)が減っただけで、精神的にも肉体的にもあまり疲れていない。寝てもいいんだが、それもそれで何だか勿体無い。無駄使いをしている気分になる。

 

くっ…ここにトランプかUN◯があれば即席で修学旅行的な感じのノリでちょっとは時間が潰せたのに…!!いや待て、そういえばヒソカってトランプ持ってたよな??それならヒソカが来た時に何か適当な理由付けてトランプで遊ばせて貰おう!!

 

監視カメラがあってフォグが出てこれないということは、逆に考えればヒソカもどれだけイラついても俺を殺したりはできないって訳だ!…なんだよフォグ、言いたいことでもあるのか?…危険とかは考えないのかって?ぬるいな、そんなもの。

 

…フォグよ、知ってたか。人間っていう生き物はな、暇に勝るものがあれば何でも飛びつくんだぜ。…まあ人によって暇の基準が違ったりはするが、大抵は何もすることができない状況よりは何かできる状況の方が好きだろうな。

*1
オーラが拡散しないように、体の周囲にとどめる。体を頑丈にする、若さを保つ効果がある。

*2
ビュッフェは、フランス語の「buffet(飾り棚)」に由来し、立食形式やセルフサービスの食事スタイルを指します。

*3
無表情でぼんやりとした、あるいは悟りを開いたような表情を指す言葉です。




サトツさんの時に所々で描写していたと思いますが、レアンはその(オーラ)が禍々し過ぎることで周囲を怯えさせるが嫌なので、いつもは基礎的な(オーラ)の出力を最低限で済ませています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。