BAD COP   作:ノキシタ

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 オトギちゃん メモロビなでなで かわいいな
 つか何その顔 好きになっちゃう(辞世の句)

※2026年5月6日午後18時15分:一部地の文を修正しました。


夜間捜査

 D.U.における空路の中心地である新シラトリ空港からレンタカーを飛ばすこと1時間。いつもの手口で連邦生徒会本部に入ったコイは、相変わらずノックなしで防衛室長室へ入室した。

 

「何かわかりました?」

「いきなりすぎでしょう。少しゆとりを持ったらどうなんですか」

 

 コーヒーを嗜んでいたカヤは呆れ気味に言う。カイザーの調査を命じた部下が、その日のうちに逆に自分に調べ物を頼んできたのだ。時間的余裕を持っておいてほしいし、そもそもカイザーと何の関係があるのか。

 

「というか随分酒臭いですね。ここをどこだと思ってるんですか?」

「まあまあいろいろあったんすよ。それで?」

 

 結果発表を促すコイに、怒りを通り越して呆れしか生じなくなってきたカヤ。

 とはいえ、ちゃんと調べ物はしてくれたようだ。資料を手渡して、説明してくれた。

 

「科学室の加納(かのう)審議官に問い合わせましたよ。連邦技研の職員は全員、技術の不正利用や流出を防ぐため、動向を監視する専用のアプリを入れたスマホの携帯が義務付けられているそうです。

 そのアプリで唯一動向が掴めなかった人物が――」

珠守(たまもり)エイコ研究員。第1技術検証部主任、ですか」

 

 資料にある名前を読み上げるコイ。身辺調査書の写真欄には、明るく微笑む紫髪サイドテールの生徒が写っていた。特徴的な2本の角から分かる通り、ゲヘナの出身らしい。

 

「動向がわからなかったのは17日前の午前11時から午後5時までの間。

 本人は『スマホのシステムアップデートをしていた』と主張しているようですが、まあ嘘でしょう」

「審議官にそんな嘘ついてまで隠したいことがあると」

「それがカイザー絡みならいいんですがね」

 

 頬杖をつきながら解説してくれたカヤは、今度は自分の番だとばかりにコイに聞く。

 

「で、何か収穫はあったんですか?」

「ある武器商人の証言で、カイザーローンが金を出して現地ヘルメット団に武器を供給していたらしいってことぐらいっすね」

 

 珠守エイコの件もそこから、ということも併せて告げておくコイ。すでに次の手も考えてある。

 

「では次はそのヘルメット団から調べると」

「カタカタ団は夜中決まって砂尾町のコンビニに集合します。そこを押さえるつもりです」

 

 そこまで言ってふと視線をカヤに戻すと、こめかみを指で揉んでいた。

 どうも期待されていた内容には届かなかったらしい。

 

「生駒班長、別にあなたを疑うわけではないんですが……進捗遅くないですか?」

「SRTの石頭や生活安全局の馬鹿共よりかいい仕事してると思うんすけどねェ」

 

 コイは雑に髪を撫で回しながら首を傾げる。

 が、カヤの指摘ももっともだ。以前ならこの程度の手掛かりに1日も費やしたりしない。

 

「まあ歳ってことすかね。それでは」

 

 ありがたく調査資料を頂戴して、コイは退室する。まだまだやることは残っているのだ。

 

「もう酒飲んでこないでくださいよ。入り口には全自動アルコールチェッカーがあるんですから」

「じゃそいつは取り替えたほうがいいですな、あたしが通っても作動しませんでしたぜ」

 

 言い残して、コイは扉を閉めた。残された言葉はただ、カヤの頭痛の種を増やすだけだった。

 

「まったく……ん?」

 

 まもなく、電話の呼び出し音が部屋に響く。

 カヤのポケットからではない、引き出しからだ。となれば相手も限られよう。

 引き出しからスマホを取り出して、番号を確認してから電話に応じた。

 

「これはこれは。こんな夜更けにどのような用件でしょうか、プレジデント。……はぁ?」

 

 余裕の笑顔で電話に出たカヤは、その表情をすぐさま呆然のそれに変えていた。

 

 

 

「出来た……!」

 

 シイナは汗を拭って、目の前にあるライフルを満足そうに見つめていた。

 マナカに銃の手入れやカスタマイズの仕方を教わりながら治し、又は組み替えたライフルは、先刻まで錆び果てていたジャンクとは思えない一丁の銃に生まれ変わっている。

 DDM4 PDW SBR。元々そんな名前だったらしいこの銃は、各部の錆落としに始まった改修によって本来の作動性を取り戻し、ハンドガード上にM1オープンドット、下にRVGフォアグリップを備えることで近距離咄嗟のサイティングに最適化されていた。

 

「こっちも出来たよ、シイナちゃん」

 

 そう言ってマナカも出来上がったハンドガンを隣に置く。

 STACCATO C2 2011をベースにカスタマイズされた銃を、シイナは手にとってみた。それだけで凄さがわかった。

 

「トリガー周りは注文通りにセットアップされて、さらにスプリングはより硬いものに交換されてますね。

 グリップセーフティ機能も削除してグリップを一体化、フレームとスライドの加工も相まって作動がすごく滑らかで速くなってる」

 

 スライドを引いたり、スライドストップをかけては外したりしながら、シイナはその動きの滑らかさを手に馴染ませていく。

 極限まで隙間や凹凸をなくしたスライドとフレームの噛み合わせは作動時の銃身の動揺による作動のロスタイムを無くし、強力なスプリングの実装はスライドの複座を高速化させている。

 

「あの商人が改造したレーザーサイト内蔵スプリングガイドもそのまま採用してあるから狙いやすい。スライド上のサイトは無難なRMRタイプですか。ライトはTLR-7A、小振りで取り回しに影響しないのはいいですね。とにかく速く取り回すコンセプトが素直に出ててありがたいです」

「わかってるねぇシイナちゃん。さすがコイがバディに選ぶだけはあるよ」

 

 マナカが嬉しそうに言う。自身の施したセットアップの趣旨を理解してくれるのはガンスミスとしては喜ばしいことだ。

 シイナにおいても、マナカが自らの戦闘スタイルに最適化された愛銃はこれが初めてである。感動はひとしおであった。

 

「で、名前はどうする?」

「名前……?」

 

 シイナは首を傾げた。少しして、銃の名前をどうするか聞かれているのだと気付く。

 アリウスから今まで制式銃を使ってきたために、銃に名前を付けるなどということ自体縁がなかった。

 ライフルを右手に持って、少し考えて、一言。

 

「ナイフ」

 

 次にハンドガンを左手に、一言、名を与える。

 

「フォーク。で、どうでしょう?」

「うん!いいと思う!『道具』って名前のショットガンみたい」

「褒められてる気がしないんですが、それは」

 

 微妙な褒め方に苦笑しつつ、シイナはナイフにスリングを付けて背負い、フォークを左ポケットに突っ込む。後で新しい私服とホルスターも買おうと決意した。

 

「まだ時間あるね。どうする?おかわりいる?」

「そうですね……その前にちょっと電話かけてきていいですか?」

「うん、いいよ。串焼きと烏龍茶も用意しとくね」

「ありがとうございます」

 

 礼を述べ、シイナは表に出てヴァルキューレ本校の公安局にダイヤルした。目当ては尾刃カンナ。2年前何があったのか気になるのだ。

 

『はい、ヴァルキューレ公安局です』

「お疲れ様です。交通局免許係の仲仁田です。尾刃局長に免許更新の件でお取次ぎ願います」

『少々お待ち下さい』

 

 応対した当直が電話を保留に入れ、しばらくヴァルキューレ警察学校歌が流れる。

 曲が2番に差し掛かるかと言ったところで、目当てのカンナが電話を取った。

 

『公安局長、尾刃だ』

「夜分遅くに申し訳ありません。交通局免許係の仲仁田と申します。尾刃局長の免許更新の件でお電話させて頂きました」

『私の免許なら昨年更新しているはずだが、なにか不具合でもあったのか?』

 

 訝しむような返事に、シイナは内心唸る。当たり前と言えば当たり前だが、免許の有効期限は把握しているらしい。出鱈目を言って誤魔化す手は使えないようだ。

 

「いえ、更新内容の確認です。普通2種と中型、大型免許の更新と記録されてまして」

『大型?私は大型免許など持っていないぞ』

「そうですよね、私もそう記憶していたんですよ。それでおかしいなと思い確認させて頂きました。更新記録はこちらで修正しておきますね」

『よろしく頼む』

 

 他に用件は?カンナはそう尋ねてきた。

 そんなことを聞いてくれる人はあまりいない。相手に気を遣ってくれる人なのだろうなと思いながら、シイナは本題を切り出した。

 

「後学のためにお聞きしたいんですが、尾刃局長が2年前に担当された中で一番印象的な事件は何でしょうか?」

『2年前、私が1年の時か』

「はい。誰かと協働していたとか、何かショックな出来事があったとか」

 

 尋ねると、数秒電話が沈黙する。切ろうとしてるわけではないらしい、すぐにカンナの声が戻ってきた。

 

『お前、免許係のどこの所属だ?』

「免許返納班です」

 

 電話の向こうで、落胆のような、失望のような、あるいは絶望の混じったため息が聞こえる。

 また沈黙が流れ、やがてカンナは少し震える声で告げた。

 

『……コイから何を聞いたのかは知らないが、私から『トマル屋事件』について話せることは何もない』

「えっ?」

『もう切るぞ。これでも多忙の身なのでな』

 

 そう告げてカンナは一方的に電話を切った。

 とはいえ、カンナの普通ではない態度、それに聞いたことのない事件。収穫は充分だった。

 

「トマル屋事件、か……」

 

 その名を呟いて、シイナは店に戻る。丁度、あの炭火焼きの香りが流れてきた頃だった。

 

 

 

 深夜1時半。言いつけ通りきっちりエンジェル24砂尾町南店に来てコイを待っていたシイナは、遅れて現れたタクシーの車内にコイを認めた。

 

「呼び出しといて遅れてるし……」

 

 ため息をつきながらもコンビニで買ったタピオカミルクティーを啜ることはやめない。クレジットカードで支払いを済ませたコイが助手席に乗り込んできても、それは同様だった。

 

「銃できたか?」

「その前に何か言うことがあるのでは?」

「つれないねェ。しばらくしたらカタカタヘルメット団がここに集合する。いつでも銃抜けるようにしとけ」

「そういう話じゃないんですがね……」

 

 シイナはそれ以上追及しなかった。どうせ無意味だろうことは目に見えて明らかだった。

 そんなことより例のトマル屋事件とやらについて聞こう。そう思った時、コイが身を乗り出してフロントガラス越しに人影を見出した。

 

「来たぞ。今日はちょいと早いな」

 

 言うやコイは車を降りる。シイナもとりあえずはそれに従った。

 集まってきたのはヘルメット団――というにはあまりにも疲弊しきった集団だった。

 ヘルメット団の身なりが汚いなんてことは珍しいことでもない。名前の知れている大手から無名の弱小勢力まで、ヘルメット団と言っても様々な組織が存在する。そしてその大半は超貧困層であり、食事にありつくのがやっとでそれ以外に資金を割く等ということはない。みずぼらしい服を着て乞食同然の生活を送る者がいるというのも自然な話だ。

 だが眼前のそれらは乞食とは一線を画する。なるほど多少は名の知れたヘルメット団であるから武器装備はそれなりのものを揃えているようだが、如何せん元気がない。乞食というよりは、敗残兵が近いように見えた。

 

「なんだあんたら?」

 

 先頭を歩くヘルメット団員、おそらくリーダー格なのであろう少女がコイ達を見て訝しむ。この時間、ここは自分達の縄張りであるはずなのに、そこに部外者がいるとなれば警戒もするだろう。

 

「訳アリで探し物してんだ。おたくらがカタカタヘルメット団だな?」

「だったらなんだよ」

「アビドス高校を襲撃した件について聞きたい。雇い主は誰だ?」

 

 そう尋ねると、ヘルメット団は余計に警戒した。どうやら相当痛い目に遭ったらしい、怯えの混じった表情がヘルメット越しにちらつく。

 

「……あんたら何者?」

「回答次第だな。まあ素直に答えてくれりゃ敵にはならんよ」

 

 リーダーはちらと後ろの仲間を見やると、肩をすくめて答えた。やはり戦闘は回避したいらしい。

 

「知らないよ、依頼主なんか。さ、答えたしさっさと――」

 

 しかしリーダーが喋り終える前に、そのみぞおちにコイの膝蹴りが捩じ込まれた。

 後ろのヘルメット団員が銃を構えるが、シイナもいつでも構えられるように小銃(ナイフ)に手を添える。同時にコイにも眉をひそめる。

 

「ちょっと生駒班長、傷害沙汰は今度こそ見逃せませんよ」

「まあまあ落ち着けよ、暴力を伴う尋問は公安局副局長公認だぞ」

「それはそうかもしれませんが……」

 

 抗議するシイナなどお構いなしに、コイはうずくまるリーダーの顔をしゃがんで覗き込む。

 

「舐めたこと抜かすんじゃないんだよ、おたくがカイザーローンから金を貰ってたことぐらいは調べがついてる」

「くっ、くそっ……わかった話すよ。確かにカイザーから金を貰ったし、アビドスを襲えと言われたよ」

「理由は?何故アビドスを狙う」

「あたしらが知るもんかよ!」

「そんなんじゃ後ろの舎弟ちゃん達は助けられんなァ」

 

 また答えを出し渋った――本当に答えられないのかもしれないが――リーダーにため息をついて、コイは今度は後ろにいるヘルメット団員達に目を向ける。

 極度に緊張していて、いつ誰が発砲してもおかしくはない。

 

「ま、待て!あいつらは関係ない!カイザーとのやり取りは全部あたしが――」

 

 リーダーの言葉も待たないうちに銃声が鳴る。5.56mmの発砲音。ヘルメット団員の最年少が緊張に耐えかねて引き金を引いた。

 発砲された弾丸はコイの側頭に直撃。ただの普通弾(フルメタルジャケット)だったために命に別状はないが、それが意味するところはひとつだった。

 

「撃ったな」

「撃ちましたね」

「シナモン、やれ」

「気が進みませんがね……」

 

 シイナもスリングを回してライフルを構える。他のヘルメット団員達もようやく諦めがついたようで、安全装置を外して発砲し始めた。

 

「撃つな!撃つんじゃない!」

 

 なんとか体を起こして部下を制止しようとするリーダーを、コイは頭を掴んで地面に叩き付け、そのまま右腕を背中に回して取り押さえる。

 

「初陣がこれとは――!」

 

 シイナは真っ直ぐに敵の隊列に突っ込みながら、まず目の前のヘルメット団員にライフルを連射する。

 .300BLKを叩き込まれ倒れるヘルメット団員の下に滑り込むと、その体を盾にしながら右隣のヘルメット団員に足を引っかけ、スライディングする体を回転させる。その間に左にいたヘルメット団員2名にライフル弾を容赦なく撃ち込んで黙らせると、回転の勢いのまま左手で引き抜いた拳銃(フォーク)で一番後ろのヘルメット団員に速射をかける。人差し指の動きに完璧に追随するトリガーフィーリングが、これまでの拳銃とは明らかに違う鋭い速攻を見せた。

 最後に足を引っかけてバランスを崩したヘルメット団員の顎に真下から、ライフルをスリングに委ねて手放した右手でアッパーカット。完全に倒れた時には気絶していた。これで全員を制圧したことになる。

 

「いいですね。これはなかなか」

 

 初陣の余韻を嚙みしめながら、さっさとヘルメット団員達を拘束していくシイナ。

 一方リーダーを拘束したコイはリーダーの頭に拳銃(ワンスリー)を突き付けていた。

 

「さて、そろそろ正直に喋ってもらいたいもんだが」

「だから知らないって!」

「よーしよくわかった。おたくが知らんなら舎弟ちゃん達に聞いてみるしかねェやな」

「待ってくれ!あいつらも絶対知らない!」

 

 しかし話は平行線のままである。もしかしたら本当に知らないのかもなと思いながらそれを眺めるシイナ。視線が流れてコンビニを見た時、シイナはあることを思い付く。

 

『暴力を伴う尋問は公安局副局長公認だぞ』

 

 脳裏に蘇るコイの言葉。このまま押し問答しててもしょうがないと考えてため息をつき、シイナはコイに声を掛けた。

 

「生駒班長、こいつトイレ連れてっていいですか?」

「は?」

「えっ?」

 

 その提案はコイにもリーダーにも予想外だった。リーダーの方が便意やら尿意やらを我慢している様子は全くないし、実際我慢しているわけではない。

 だがコイはすぐにシイナの意図を察した。その上でも意外といえば意外ではあるが。

 

「よしわかった。目ェ離すなよ」

「了解です」

「えっちょっ、あたし別にトイレとか――」

 

 困惑するリーダーを半ば強制的に引っ立て、シイナはコンビニに入っていく。

 2人が出てきたのはそれから5、6分後のことであった。気絶したリーダーを引き摺って、コンビニを出るや放り投げたシイナは、コイに報告した。

 

「戻りました。やっぱりカイザーの目的については知らないようですね」

「へぇー」

「ですが、カイザー周りで不審な人物がいると言っていました。場所も聞き出してあります」

「へぇー……」

 

 シイナから話を聞きつつ、コイは倒れたままのリーダーを見た。

 肩から上がびしょびしょに濡れている。何をやったかはある程度想像がついた。

 

「お前結構えげつないことするね?」

「アリウスじゃあれぐらい普通ですよ」

「そんなに地元出して大丈夫か?」

「……制服着てないですし、問題にはならないでしょう」

「あー、そう」

 

 そういう意味じゃないんだが、という一言は喉元で留めた。今はやることがあるし、自身の過去について本人が気にしないならコイが口を出す話でもないだろう。

 さっさと覆面パトカーの助手席に乗り込んだコイに、シイナが尋ねた。

 

「こいつらどうします?」

「ほっとけ。制服着てるわけでもないんだ、犯人転がしててもバレやしないさ」

「了解」

 

 シイナはちらと駐車場に転がるヘルメット団員達を一瞥すると、運転席に乗ってエンジンをかけた。

 リーダーだけは手錠の類も特にしていないので、目を覚ませば勝手に部下達の拘束ぐらい解けるだろう。

 

「聞き出した場所に向かいます」

「おうよろしく」

 

 カーナビに聞き出したビルの住所を入力して、シイナは覆面パトカーを発進させた。

 

 

 

 黒服のいるビルは、以前と変わってカイザーPMC兵による警備が厳重につけられていた。

 地下生活者を殺害したという例の黒い部隊が何者なのか、わかるまでの暫定措置である。

 そんなビル。いつもの部屋で黒服は電話をしている。

 

「そうですか。第3弾も失敗ですか」

 

 黒服はさして残念でもなさそうな声で言う。電話の相手は現在協力関係にある――というか利用させてもらっているカイザーPMCの理事だ。

 

『バリバリ団もゴシゴシ団も忽然と姿を消しおった。あのシャーレの『先生』とやらが手を回した可能性もある』

 

 憤慨する理事の声。第3弾に至ってはそもそも攻撃自体行われていないのだから余計に腹立たしいのだろう。

 ――何故消えたのかは黒服にもわからないが。

 

「しかしこれで終わりではない、そうでしょう?」

『無論だ。次の手は打ってある。少々準備が面倒ではあったが、何、これで小鳥遊ホシノの神秘とやらを手に入れられるのなら安いものだ』

「クックック。さすがはカイザーPMCの理事、抜かりがありませんね……失礼、今何と?」

 

 黒服は途中で聞き返した。この理事、というよりカイザーの目的は宇宙戦艦の発掘で、その妨害をしてくるから小鳥遊ホシノを排除したいのではなかったのか。

 それ以前に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『小鳥遊ホシノの神秘を手に入れるためなら安いものだと言った。兵器化すれば強大な力になるのだろう、あれは?』

「ええ、まあ、その可能性はあるといえばありますが、そのことをどちらでお聞きに?」

『おかしなことを言うな、黒服?お前が出してきた『手紙』に書いてあったぞ?』

「手紙……?」

 

 ますます訳が分からなくなる。そんな手紙を出した覚えはない。

 何者かの情報工作、それしか考えられなかった。

 

『まったく、しっかりしてくれ。すでに本社に嗅ぎつけられて監督部隊まで送り込まれているんだ。監督部隊はこちらで制圧したが、これ以上の誤算は御免だぞ』

「……わかりました、こちらも最善を尽くしましょう」

『頼むぞ』

 

 理事が電話を切る。受話器を置いて、黒服は思考を巡らせた。

 本社監督部隊を制圧してしまっているなら、本社に理事の離反がバレるのも時間の問題だ。そもそも何故、目標が小鳥遊ホシノになった途端、理事がカイザー本社に反旗を翻しているのか。

 

「元々、本社を快く思っていなかったのか……」

 

 それしか考えられない。そこに何者かが付け込んで、黒服の思惑と小鳥遊ホシノの神秘について吹き込み、カイザーへの離反を決心させた。それなら一応の説明はつく。

 だが、()()()()()

 

「……私への妨害、でしょうかね」

 

 黒服はそう仮定した。カイザーとは今回の実験以外でも活動基盤などの面で提携しており、今回ことがうまく運んで小鳥遊ホシノを確保できたとしても、このままでは黒服は理事の離反の共犯、最悪理事に離反を唆したと判断されかねない。そうなれば黒服のキヴォトスにおける活動基盤は大幅に制限される。

 ふとここで、黒服はプレジデントからの電話がないことに気付く。現地に不穏な動きがあるとなれば、真っ先に双方と関係のある黒服に確認をするはずだ。

 

「失礼します!月例点検で一部電話線の破断が見つかりましたので、修理しておきました!」

 

 警備を任せていたカイザー兵が入室してそう報告する。

 電話線の破断、それを聞いて黒服は尋ねた。

 

「ありがとうございます。何色の線でしたか?」

「赤いタグがついた黒色の線です」

「……よくわかりました。ありがとうございます」

 

 礼を述べるとカイザー兵は退室していった。扉が完全に閉じたのを見計らい、黒服は電話機に飛びつく。ダイヤルした相手はプレジデントだ。

 

『……随分と遅い連絡だな、黒服?』

 

 応対したプレジデントは明らかに不機嫌――それどころか怒りを隠せない様子だった。

 

「電話線の故障があったようでして、復旧に手間取っておりました」

『それでこちらから連絡しても一切応答がなかったわけだ。単刀直入に言おう、奴にこれ以上関わるな。実験など勝手にやっていればいいが、貴様が奴に協力するそぶりを見せれば支援は打ち切る』

 

 それだけ一方的に告げ、プレジデントは電話を切った。

 黒服は背もたれに背中を預けて天を仰ぐ。強制退去させられなかっただけましだ。実験についても止められてはいない。

 今後は理事に協力していると思われない範囲で動くしかないだろう。

 ふと、ブラインド越しに外を見る。すでに深夜3時になろうかというところだが、道路脇に停まる1台の車が目に付いた。先ほどまではいなかったはずだ。

 

「……」

 

 黒服は何かに気付くと、内線電話をかける。相手はここの警備責任者、九重路(くじゅうろ)カオリだ。

 

『はい、九重路です』

「ここを引き払います。移動の準備をお願いします」

『承知致しました』

 

 そして受話器を置き、黒服は引き出しから鞄へ重要な資料やラップトップを詰め込み始める。部屋の外も賑やかになり始めた。

 後は建物の外にいる車が動き出さないことを祈るのみだった。

 

 

 

「このビルだな」

 

 停車した覆面パトカーの中で、コイが雑居ビルを指さした。

 確かにヘルメット団リーダーが白状した目撃情報通りの建物ではある。問題は、その周囲にいるカイザー兵だった。

 

「警備はいないんじゃなかったのか?」

「聞いた話ではそのはずですが……警備が増強されたんですかね」

「増強せざるを得ない事由があったってことだな」

 

 コイは腕を組んで唸る。警備がいないか少数であればこのまま上がり込むのも一手だが、今回は警備のカイザー兵が複数名いる。情報収集段階である今、カイザーと正面切って交戦するのは避けたい。最低でも大義名分がほしいところだ。

 

「どうします?」

「多少強引だが搦め手を使う」

 

 そう言ってコイはスマホを取り出した。こんな夜更けにもかかわらず2コールで相手、ホシノは出る。普段から夜更かししているのか、すぐに起きれる体質なのか。

 

『もしもし~?』

「あたしだ。これから言う住所に捜索令状を取りたい。アビドスとしての承認をくれ」

 

 そう言って住所を告げる。するとホシノはしばらく黙った後、いつもと違った神妙な声で聞いてきた。

 

『捜索令状ってことは、逮捕はないんだよね?』

「ない。調べたいことがあるだけ。それが?」

『……なんでもない。いいよ。でも荒っぽいことはしないでね』

「さんきゅ」

 

 ホシノとの通話を終えると、コイは矢継ぎ早に別の番号にかけた。こちらはホシノと違い5コール目で出た。

 

『……あいもしもし?二藤部(にとうべ)ですけどもー?』

「あたしだ。アイナ、これから言う住所に家宅捜索令状をとってくれ。あと応援も頼むわ」

『ちょ、待ってよコマちゃん?組織犯罪対策係を便利屋かなんかだと思ってない?』

「大至急だ。住所送るぞ」

『あーもうわかったよぉ。筆記準備よーし』

 

 眠そうな声の電話相手、生活安全局組織犯罪対策係の係長である二藤部アイナに住所を告げるコイ。

 その間も、目標の建物を目で監視し続ける。

 

『……あい筆記かんりょー。うわここアビドスじゃん、めんど。そっち着くのは早くて4時半か5時ぐらいかな?』

「頼むわ。そんじゃ後で」

『はいはーい』

 

 通話を終え、コイは缶コーヒーを開ける。ここからは睡魔と、あと相手に気取られるかどうかの勝負だった。




・固有武器『フォーク』
 シイナの新たな愛銃となる9mm自動拳銃(STACCATO C2)
 コイが持参した密輸品にマナカが所要の改修を施した1丁。トリガーストロークの極限、スプリングの交換、レーザーサイト内蔵スプリングガイド、RMRドットサイト及びTLR-7Aライトの実装、グリップセーフティの削除、スライドとフレームの加工が施され、速射性に優れる。

 判断から発砲までのタイムラグを極限したこの銃はアリウス仕込みの近接戦闘術に適し、より攻撃的で正確な速攻を実現する。

 本格的な戦闘時、本銃は左手に装備されることから『フォーク』、ライフルは右手に装備することから『ナイフ』と名付けたらしい。


・固有武器『ナイフ』
 シイナの新たな愛銃となる7.62mm小銃(DDM4 PDW SBR)。.300BLK弾を使用する。
 マナカの武器店に長らく残っていたジャンクを社外品を用いて修復したもの。
 ハンドガード上にM1オープンドットサイト、アンダーにRVGフォアグリップを備え、近距離での咄嗟のサイティングに最適化されている。

 .300BLK弾による高威力と、的確な照準性能、重量を局限したセットアップが、シイナ独特の至近距離戦闘を支援する。
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