BAD COP   作:ノキシタ

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 ……ユキノは?ユキノはどこ?(未実装)


聴取

CRANE(クレイン)1、こちらCRANE2。待機空域到達、交代する。オーバー』

『CRANE1了解。3と共にこれより離脱する。アウト』

 

 すっかり明るくなった、淡い水色を描く空を背に、2機のヘリコプターが離脱していく。人員を輸送するMH-60Mと火力支援を行うMH-60DAPが1機ずつだ。これとすれ違うようにして、同じ編成の編隊が空域に入る。いずれの編隊も、MH-60Mに1個SRT小隊を搭乗させていた。

 その様子を、戦術マップ上の表示という形で見ている場所がある。SRT特殊学園本校地下にあるオペレーションセンターである。

 

「CRANE2、4、ホールディングエリア到達」

「空中給油機、CRANE1及び3を捕捉、給油態勢に入ります」

 

 オペレーター達からの報告を聞きつつ、というより半ば聞き流しつつ、オペレーションセンターの指揮統制官はお気に入りのマグカップからコーヒーを呷った。

 キヴォトスの治安悪化と連邦生徒会長の失踪、そして前後して発生した七囚人の脱走と不知火カヤによる政治的工作によって、ここ1ヶ月はほとんどカヤの言いなりとなっていた指揮統制官は、今日はいつにもまして不機嫌さを増していた。

 

「夜を徹してのオペレーションにも全く動きに乱れがない。さすがだな」

「そりゃ実働してるのは貴方が鍛え上げた連中ですからね、作戦部長殿」

「私が言っているのはここで勤務するオペレーター達のことだ。さすがにこう言った仕事は専門外だよ」

 

 統制官席の傍で仁王立ちのままモニターを睨むのは、SRT参謀本部の作戦部長だった。SRT全体としての作戦や運用訓練を統括する立場にある彼女は、ただのいち小隊に過ぎなかった部隊をティア1クラスの精鋭部隊に鍛え上げ、その後は部隊運用の分野で成果を出してのし上がってきた叩き上げである。

 

「そろそろ教えてもらえませんかね、何の用があって参謀本部の作戦部長殿が出張っていらしたんです?暇を持て余してってワケじゃあないでしょう」

 

 そう聞かれた作戦部長はちらと指揮統制官を一瞥し、そしてすぐに視線をモニターに戻した。

 

「個人的に聞いておきたいことがあってな」

「なんなりと」

「今回の作戦、こっち(参謀本部)に来た資料では現地協力者の氏名と所属が伏せられていてな。現場レベルで何か掴んでいないか知りたい」

 

 大真面目な顔でそんなことを聞いてきた作戦部長に、指揮統制官はうんざりそうに答えた。

 

「生憎我々も、現地協力者がヴァルキューレの捜査員だってことぐらいしか知りませんよ。それも随分やんちゃと来てる」

「やんちゃ?」

 

 指揮統制官の言葉尻に、作戦部長が視線を再び指揮統制官に向けた。

 

「2人いるんですが、その片割れがね。D.U.とアビドスを行ったり来たりですよ。それも夜中のサンクトゥムタワーに出入りしてると来た。まあ只者じゃないんでしょうな、不必要に関わるのは御免被りたいもんです」

「……そうか」

 

 それだけ言うと作戦部長はさっさとオペレーションセンターを出て行ってしまった。

 

「……あれが参謀本部の作戦部長ですか」

 

 副官の1年生がそう呟くように言う。そういえば彼女は作戦部長と直接の面識はなかったなと、指揮統制官は思い出した。

 

「ティア1部隊の隊長だったか何か知らんが、現場のことなら何でもわかってないと気が済まないんだろうよ。どうせ深い意味なんざありゃしないさ」

「元々はあのFOX(フォックス)小隊で小隊長をされていたと聞きますが」

「解隊されるまではな」

 

 鼻で笑いながら、指揮統制官は背もたれに寄りかかって体を伸ばした。

 一方、当の作戦部長は、本校地下の冷たい廊下を歩きながら思いを巡らせていた。

 

「(サンクトゥムに出入りでき、SRTの作戦に参加できるヴァルキューレの捜査員、か……何者だ?)」

 

 どこの所属だろう、作戦部長は心当たりのある組織を並べていく。公安局のナンバー部隊か、警備局の独立特殊警備中隊か、はたまた捜査局薬物係の強制介入班か。

 ――あるいは、1()()()()思い当たる人物。

 

「(お前なのか、コイ……?)」

 

 ふと立ち止まって思い出す、かつての仲間。

 たった2ヶ月だけ同じ小隊で戦った、そして病気が見つかり突然小隊を去った、戦友。

 

「……いや、ないな」

 

 病気が原因で小隊を去ったのだ、現場にいるはずがない。そう思って首を横に振った。

 そんな時、ポケットのスマホが鳴る。防衛室長からの電話だ。

 

「はい、七度です」

『朝早くにすみません、今どちらに?』

「SRT本校の地下ですが」

『ちょうどよかった、オペレーションセンターに向かってください』

「何かあったんですか?」

 

 聞きながら、オペレーションセンターに引き返す作戦部長。

 カヤはため息交じりに説明した。

 

『今お願いしている作戦に大幅な変更が生じましてね、今後の為にあなたにも聞いておいてもらいたい』

「承知しました。間もなく入ります」

『ありがとうございます。それでは』

 

 カヤが電話を切ったのを確認してスマホを入り口の携帯端末ホルダーに放り込むと、作戦部長、七度(しちど)ユキノはオペレーションセンターの扉を開いた。

 

 

 

 午前4時。コイ達の覆面パトカーの後ろに並ぶようにして1台のワンボックスカーが停車した。ヴァルキューレのカーナンバーである。

 コイとシイナが下車すると、ワンボックスカーからも組織犯罪対策係の捜査員が6名降りてきた。

 

「おはようございます」

「随分早かったねェ。アイナは?」

「二度寝してます」

 

 捜査員の1人が車を指す。助手席で鼻提灯を膨らませる白髪の係長が見えた。

 

「なるほど。容疑は?」

「詐欺で取ってます」

「了解。じゃ早速頼むわ」

 

 疲れているのであろうアイナを寝かせたままにして、コイ達はビルに向かっていく。

 先頭に立ったのは令状を持った捜査員達だ。入口の警備兵達が気付いて立ちはだかるが、捜査員は一切ひるむことはない。

 

「すみません警察ですけども、ここの責任者の方呼んでもらっていいですか?」

「なに、警察?誰だろうがここは立ち入り禁止だ」

「いいから責任者の方出してもらえますかね?こちとら公務で来てるんで」

 

 言いつつ、懐から令状をちらと見せる捜査員。さすがに邪魔をすると不味いことはこのオートマタ達もわかったのだろう、片方がビルに入っていった。

 1分するかしないかの間を置いて、先のオートマタと、警備責任者と思しき少女兵が出てきた。

 

「ここの責任者をしている九重路カオリと申します。ヴァルキューレがどのようなご用件で?」

「詐欺の被疑事件に関連してこのビルを捜索させていただきます。こちら令状です」

「詐欺?何かの間違いでは――」

 

 カオリとやらが表情に狼狽を見せ始める。よほどカイザーにとって見られたくないものがあるらしい。

 

「間違いかどうかはこっちで決めます。午前4時12分、着手!」

 

 号令一下、組織犯罪対策係の捜査員達は段ボール片手にどかどかとビルに乗り込んでいく。

 3人が1階、残り3名が2階に上がろうと階段に向かった。

 

「お、おい待て!」

 

 するとオートマタの1人が咄嗟に捜査員の肩を掴む。ほとんどカイザーに牙を剝くことがないヴァルキューレとこのビルにあるもの、後者の方が重要だと思ったらしい。

 しかしカオリはそれを見て顔面を真っ青にした。こういう時往々にして悪い予感は的中するものであるから、カオリの懸念通りにことは運んでしまう。

 

「あ?」

 

 捜査員が振り向く。先程までと打って変わって、獲物を狙う猛獣のような眼光がオートマタを貫いた。

 

「なんやお前、邪魔すんのかボケコラ、逮捕するぞこの野郎!」

「ひっ、す、すみません……」

 

 オートマタが手を引っ込める。不良が出すような見栄っ張りではない、どすの利いた怒鳴り声はカオリですら滅多に感じることのない恐怖と衝撃を相手に与えた。

 もっともアビドスから承認を得ているとはいえ「荒っぽいことはしない」という条件があることは捜査員達もわかっていたので、それ以上オートマタに追及がいくことはなかった。本来ならこのまま公務執行妨害で逮捕している。

 

「おやおや、随分と賑やかですね」

 

 そんな声と共に、2階から男性――と思しき人物が降りてきた。

 スーツを着た真っ黒のマネキンみたいなその人物は、捜査員達を認めるや、尋ねた。

 

「それで、どのような用件でしょう?」

「家宅捜索です。2階も見せてもらいますよ」

「それは困りますね。見せられないものがありまして」

 

 そう問答している間に、シイナがカオリに近寄って小声で聞いた。

 

「すみません、あの方はどちら様でしょうか。クライアントの方とか?」

「ええ、そうです。便宜上黒服様と呼んでいます」

「カイザーとのご関係は?」

「そこは私の方ではお答えいたしかねます」

「そうですか……」

 

 深堀しても答えてはくれないだろうと思い、シイナもそれ以上聞くことはなかった。いずれにしろ、カイザー兵複数に指揮官クラスまで配置しての警備をつけられるとなれば、カイザーと無関係でもないだろう。

 話はコイも聞いていた。コイは捜査員達をかき分けて前に出ると、その黒服とやらに切り出した。

 

「んじゃこうしましょう。我々はあなたから話を聞かせてもらう。代わりに、我々は2階には一切立ち入らない。どうです?」

「私にはあなた方に話すようなことはないのですが……おや?」

 

 ふと、黒服がコイを見て何かに気付く。少し考えこむ様子を見せたと思えば、いきなり笑みを浮かべ始めた。

 もっとも見かけ上は最初から笑っているように見えはするのだが。

 

「これはこれは、別の方向ではありますが興味深い。あなたもヴァルキューレの生徒でしょうか?」

「ええ、そうですが?」

「そうですか……クックック、いいでしょう」

 

 いやに上機嫌なままコイ達を1階の応接室らしき部屋に手招きする黒服に、コイは不気味さを覚えた。

 普通、こういう研究者タイプは自身の興味の埒外にある者とはあまり口を利こうとしない。それが上機嫌に手招きまでされるとなれば、コイの何かが気に入ったのだろう。あまり嬉しいことではない。

 とはいえ彼からカイザー関係の情報を聞き出したいのも事実であり、捜索は捜査員達に任せてコイとシイナだけで応接室に入ることにした。

 

「さて、私は何をお話すればよろしいのでしょうか?」

 

 ソファに腰掛けた黒服が言う。最初のボールはまずコイから投げろということらしい。

 

「カイザーとのご関係から」

 

 対面に座って単刀直入に切り出すと、黒服は唸る。

 

「カイザーとの関係ですか……一応協力関係のようなものは結ばせていただいておりますよ。()()()()()()ね」

「破局なさるご予定でもおありで?」

「予定ではありませんが、破局()()()なのです。トラブルがありまして」

「そのトラブルについて詳しく教えてください」

「いいでしょう」

 

 話せる範囲で、と前置いて、黒服はカイザーとの現在までの関係について話した。

 

 

 

 黒服はキヴォトスである研究をしており、その基盤を確保するためカイザーと協力関係にあったという。

 当初はカイザーコーポレーション本体との関係であったが、研究の費用と環境を用意してもらうために提供した「アビドス砂漠に眠る宇宙戦艦」の情報がプレジデントの野心に火を付けた。発掘事業のためカイザーの軍事部門たるカイザーPMCを動員し、黒服のアビドスでの活動は専らカイザーPMCと連携するようになった。

 

「私の研究には、アビドス高等学校の小鳥遊ホシノにご協力いただく必要がありました。また、カイザーPMCにとっても宇宙戦艦の発掘事業を進める上で妨害になるであろうホシノを排除したがっていた。利害の一致を見たというわけです」

 

 そこでカイザーPMC――厳密にはPMC理事の主導により小鳥遊ホシノ捕獲計画は始動した。

 アビドスの借金の借入先であるカイザーローンの首脳部を自派閥に取り込み、アビドスにだけ利率を跳ね上げて財政を圧迫。さらにブラックマーケット経由で足がつかぬようにヘルメット団や傭兵などを雇用してアビドスを襲撃させ、心身ともに疲弊を誘う。余裕がなくなったところに、黒服が学校の抱える借金返済を肩代わりする条件でホシノを引き込み、実験に()()してもらう。そんな計画だった。

 ――()()()という。

 

「そこにトラブルが起きて、計画の失敗どころかカイザーとの関係にひびが入るまでになった?」

「その通り。トラブルは2つありました。1つはホシノが予想以上に頑なに取引を拒否し続けていたこと。もう1つはカイザーPMCがカイザー本体から離反したことです」

「離反?」

 

 コイが怪訝そうに聞く。そんな話は初耳だし、あの手この手で傘下の企業を雁字搦めにするカイザーには似つかわしくない事態だ。

 

「私も知ったのはつい先程ですがね、理事は宇宙戦艦などよりも、目の前にある力が欲しかったのでしょう」

 

 黒服を騙る手紙からホシノの神秘とやらが強力な兵器に転用し得る力を持っていると知らされた理事は、その力を持ってカイザー本体、プレジデントに対する離反を決意。発掘事業を隠れ蓑に、アビドスへの圧力を増していった。

 そしてその情報がどこからか漏れ、本社監督部隊が到来、理事の一派がこれを制圧してしまったために本体との決別が決定的となったのだ。

 

 

 

「と、ここまでが現在までの経緯です」

 

 一通り話し終えたところで、黒服は鞄から取り出した水筒に口を付ける。

 こんな奴でも喉は乾くんだな、などと思いながら、コイは続けて聞いた。

 

「その実験というのはどういったもので?」

「それは聞かない方がよろしいかと。聞いたらあなた方は私を捕まえようとするでしょうからね」

「警察に言えないようなことを17、8の子供を使ってやる、と?」

「ご想像にお任せします。今は敵を増やしたくないですし、それ以前にあなたには大変興味があります。敵にしたくはないのですよ」

「そうですか」

 

 それ以上深堀りすることはやめた。どうせ聞いてもコイ達にはどうでもいいし、どうしようもない。

 アビドス自治区内で黒服を逮捕するにはアビドス側の承認が必要だ。今のところ代表者は小鳥遊ホシノであるが、そのホシノが首を縦に振らなければコイ達ヴァルキューレは黒服の身柄を押さえられない。

 そして黒服の提案はホシノにとっては論外だが、最終手段ではある。何せ自身と引き換えに債務の半分が消滅するのだ、追い詰められれば提案に乗りかねないのがホシノであることを、コイは見抜いている。

 そんなホシノにとって黒服の逮捕は歓迎すべきことではないのだろう。当然令状の執行について首を縦に振ることはない。

 

「(()()()()()()()()()()でね、ってのはそういうことか)」

 

 荒事で最終手段を潰されては困る。そんな企図をコイは理解した。

 

「では今度はこちらからお聞きしても?」

「答えられる範囲でよければ」

 

 今度は黒服がコイに質問する番だった。

 

「あなたは何者なのでしょう?」

「……ご覧の通り、ヴァルキューレの警察学生ですが」

「ほう。私には()()()()()()()()()()()()()()()()()()のように見えますが?」

「はあ?」

 

 コイは眉をひそめる。わけのわからない、しかも人をキメラ呼ばわりとは愉快ではない。

 黒服はお構いなしに喋り続ける。

 

「普通の生徒なら、持っている神秘は――持っているという表現が適切かはさておき、神秘はそれぞれ1人に1つ、その人物固有のものであるはずです。それはヘイローにも表れていますね。

 しかしあなたはそうではない。固有の神秘としての特徴、形質が弱まっている代わりに、それが――ざっくり4人分でしょうか?それぐらい混ざり合っている。まるで複数種類の金属を混ぜ合わせた合金のように」

「4人分……」

 

 その人数に心当たりがあったのか、コイは思わずおうむ返しに呟いてしまう。

 黒服がそれを聞き逃すはずもなかった。やや前のめりになって、興味津々といった様子で聞いてくる。

 

「何か心当たりがおありでしょうか?」

「……いえ、腹壊して入院したぐらいですかね」

 

 ご協力感謝します、そう告げてコイは立ち上がり、シイナは扉を開けて外に出た。話はこれまでだというサインだ。それは黒服も理解している。

 

「最後に1つお聞きしたい。()()と協力するつもりはありませんか?」

「我々?」

「ええ。観察者であり、探求者であり、研究者、そんな者達の集団です。『ゲマトリア』とお呼びください」

 

 どうでしょう、とさらに尋ねてくる黒服に、鼻で笑ってコイは答えた。

 

「我々ヴァルキューレは平素より()()との協力関係構築に取り組んでおりますよ」

 

 市民としての義務と規則をさえ守っていれば協力はする。それができないなら協力するつもりはない。

 コイの込めた意味は、黒服にも伝わったらしい。

 

「……左様ですか」

「私からも1つ。ゲマトリアと名乗られましたね?」

「ええ。それが?」

 

 ゲマトリア。コイが追い続けた存在を探し求める中で出てきたワード。そして目の前にいる()()()()()()()()()()()

 聞かずにはいられなかった。

 

「極めて高度に訓練されており、黒尽くめの装備をし、生徒を容易に殺傷できる武器を持ったヘイローのない男達。この特徴に合致する集団に心当たりは?」

 

 すると黒服の表情から、少なくとも雰囲気としての笑みが消える。

 

「あなた方も彼らを追っているのですか?」

「つまりそちらの勢力ではない?」

「勿論です。それどころか、その者達に仲間を殺害されましてね」

 

 その言葉にコイは少し驚く。生徒どころかこの異質な者の仲間さえ殺せるとは。

 

「その点については協力できるのではありませんか?情報共有という形で」

「もちろん()()()()()()()には迅速に対応しますよ」

「左様ですか。クックック」

 

 愉快そうに笑いながら黒服もまた席を立つ。

 そして作り笑いを浮かべながら黒服を睨むコイをよそに、さっさと応接室を出て、足早に別の部屋に入っていった。

 

『W.C.』

 

 扉にはそう書いてあった。

 今まで尻尾を見せなかったゲマトリアの一員が姿を現したのは、単純にタイミングが悪かっただけらしい。

 

「お待たせシナモン。帰るぞ」

 

 苦笑を嚙みこらえながら、コイもまた応接室を出た。周囲では空の段ボールを組み立てた捜査員達がビルを出ていくところだ。

 

「了解。……何を話してたんですか?」

「スカウトされた」

「断ったんですか」

「市民との協力は大歓迎です、なんつってな」

「なるほど、()()ですか」

「奴らの嫌がりそうなことさ」

 

 鼻を鳴らして、コイはシイナとビルを出る。

 気付けばそれなりの時間が経っていたようで、外はすでに朝日が上っていた。

 

 

 

 対アビドス対策方面本部跡地の外壁上から眺める朝日はいつも、綺麗といえば綺麗だった。

 アビドス砂漠の朝日は砂の海に照り返される光が美しい。どこかの旅行パンフレットか何かで見たようなフレーズだ。もっとも、そんなものは警衛についているアビドス監視班の班員にはどうでもいいことである。

 

「もう朝かぁ」

 

 壁上の監視塔から望遠鏡で周囲を監視する配置に付けられた班員は、相棒が望遠鏡を覗く傍らで欠伸をしながら、持ち込んでいた業務用カルパスに手を伸ばしていた。

 

「やー、平和っすね」

「馬鹿言え、昨日もD.U.じゃ暴動があったって話だぞ」

「あー、あれっすか?連邦生徒会長代行の退陣を求めるってアレ」

「オレは一般市民税の増税反対デモがエスカレートしたって聞いたが」

「おー、やだやだ。世の中物騒っすね。あちきが卒業するまで平和のままでいてほしいっすよ。卒業した後はどうでもいいんで」

「お前そんなんでよくヴァルキューレ入れたな……」

 

 そんな他愛もない話で時間を潰そうと悪足搔きを続けていた時、望遠鏡を覗いていた班員が何かを見つけた。

 

「おー?」

「何だ、暴動でも見えたか?」

「んや、違うんすよ。飛行船っす」

「飛行船?」

「ええ。……なんかマーク書いてあるな」

「判別できるか?あと移動方向と速度」

「やってみるっす」

 

 片方が記録用紙を挟んだ図版を取り出し、有線の電話機に手を伸ばす。望遠鏡を覗いていた方は倍率や焦点距離を調整して、なんとか目標の飛行船を鮮明に捉えた。

 

「あ、見えた。……風紀委員会?」

「ゲヘナか、なんだってこんなとこに?」

「さあ……。観目方位角1400、移動方向概ね南西、速度概ね30ノット」

「了」

 

 とりあえず報告するかと受話器を取った時、呼び出し信号音が鳴る。下の警衛所から連絡が来る方が早かった。

 

『監視塔、こちら警衛所。東北東に飛行する飛行船確認できるか』

「こちら監視塔。今視認しました、ゲヘナ風紀委員会所属、観目方位角1400、移動方向概ね南西、速度概ね30ノットです」

『了解、今境界監視センサーがゲヘナ領から移動する大部隊を捉えた。3種かけるから監視よろしく』

「了解でーす」

 

 受話器を置くと、班員達は飛行船の監視に専念した。境界監視センサー、各学園間の緩衝地帯に設置された監視装置が大部隊の移動を捕えたとなれば、普段の民間の通行とは話が異なってくる。

 もちろん、その区域を担当するヴァルキューレの部署に話を通せば可能ではあるが、そうした通知は来ていない。予告なしの大部隊通行は他学園自治区に対する武力侵攻と取られる可能性さえあった。

 

『監視班、3種非常呼集。監視班、3種非常呼集』

『1、2分隊は出動準備。3分隊はそのまま警衛』

『1分隊呼集完了――あ了、2分隊も呼集完了』

『弾薬庫開けろ、キャリバー(M2QCB)も弾薬満載だ』

『ねー請求異動票どっか行ったんだけどー?』

 

 アビドス監視班の班員達は特に慌てる様子もなく、手早く出動準備を整えていった。




・アビドス監視班
 警備局の特別部署の1つ。対アビドス対策方面本部跡地に所在し、同敷地の警備、保全維持、及びアビドス方面の砂塵災害監視を任務とする。
 総員は32名。3個分隊及び1個支援組をもって編成されている。
 班員は全て人事係長時代のリコが選抜しており、練度が高いもののその他で問題を抱える班員が多い。

・CRANE小隊
 SRT特殊学園第1航空団第31小隊。
 MH-60MとMH-60DAPを2機ずつ装備しており、多様な作戦支援を可能にしている。
 航空教官曰く、「誰でも努力すれば行ける程度の練度」とのこと。
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