BAD COP   作:ノキシタ

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 お ま た せ(半年以上更新無し)
 感想、高評価ありがとうございます。こんな駄文の塊でございますが、楽しんて頂けたら幸いです。

 今回からようやく第1章でございます。実はまだプロローグしか書けてません。だらしねえな!?(レ)
 相変わらず不定期更新ですがよろしくお願いします。

※令和6年10月19日午前11時10分:あとがきのキャラクター紹介を一部改訂致しました。
※令和8年5月10日午後17時15分:あとがきのキャラクター紹介を一部改訂致しました。


第1章 奪ったもの、押し付けたもの(アビドス安定化作戦)
プロローグ


 11月のアビドスは冷たかった。空気は乾燥し、風は手心を知らない。

 そんなアビドス自治区の某所、と称するしかなくなった場所に、アビドス高等学校の生徒が1人。スコップで今しがた掘ったばかりの穴を埋め戻そうとしていた。

 そこに空気も読まず、招かれざる客も来る。ヴァルキューレ警察学校の制服を着、まとまりの悪い黒髪をわしゃわしゃと撫でまわすその来客を認めるや、アビドスの生徒は言った。

 

「君か。用があるなら後にしてくれる?」

 

 そう言われても、ヴァルキューレの生徒は帰るでもなく近寄ってくる。いつものへらへらした顔はよく人を苛立たせるが、アビドス生にとってはもう慣れたものだった。

 ヴァルキューレの生徒は、埋め戻している穴の中を覗くと口笛を吹いた。アビドスの生徒が埋めようとしていたのは猫の死体である。

 

「こりゃまた可愛いホトケさんだねェ」

「……君には関係ない子だよ」

「ごもっとも。猫畜生1匹野垂れ死のうが知ったこっちゃねェやな。この猫どこの子?」

 

 変わらず尋ねる来客に、アビドス生はため息をついて答える。どうせ隠すような話でもない。

 

「野良猫だよ。ユメ先輩がよく可愛がってた。学校の前で冷たくなっててさ」

「で、先輩思い出して可哀想になったわけだ」

「……」

 

 ヴァルキューレ生の表現に、アビドス生はしばしの間沈黙を挟む。

 果たして猫が可哀想なのか、アビドス生が可哀想なのか。

 

「……それで、本題は?わざわざ世間話するために来たんじゃないよね」

梔子(くちなし)ユメの足取りを情報通信局に追わせて、一先ずの報告が上がってきたんでね」

 

 沈黙を破るように問いかけたアビドス生にヴァルキューレ生は報告書を渡しながら言う。その内容は先程までのアビドス生の態度を変えさせるに十分だった。

 

「……さすがヴァルキューレ、よくここまで調べたね」

 

 報告書をめくり、中身を速読しながらアビドス生は言う。

 結論だけ言えばあの先輩の足跡、行方を全て特定するには至らなかったということであるが、アビドス都市部を中心に徹底的な映像捜査と各種情報の突き合わせがなされており、都市部に滞在していたのはごく短時間だったことがわかっている。その間、どこで何をしていたのかも。

 また各幹線道路の防犯カメラやNシステム、各自治区より取り寄せた境界監視情報を照合した結果他自治区への越境は確認されず、やはりアビドス自治区内にいる可能性が高いことを裏付けた。

 アビドス生だけなら、この短期間にここまでの情報を得ることはできなかっただろう。

 

「でもどうしてこれを?」

「おたくには一宿一飯の恩があるもんで」

「空いてる教室を貸して、レーションをあげただけだよ。ここまでしてもらうほどじゃない」

 

 戸惑い一色の顔でアビドス生は尋ねる。

 普段他人に向ける警戒心はない。このヴァルキューレ生とは出会ってまだ数週間だが、少なくとも敵ではないことを彼女はすでに知っている。

 とはいえ、ここまで自分の()()()を手伝う理由もないはずだ。

 

「ふーん、じゃあそこまで言うなら――」

 

 何か思いついたのか、ニヤニヤと笑み浮かべてヴァルキューレ生はある提案をした。

 

「1つ頼まれて貰おうかな?」

 

 

 

「この武装した世界は、単に金だけを消費して成り立っているわけではない。

 労働者たちの汗を、科学者たちの知性を、そして子供たちの希望を消費しているのだ」

――第34代アメリカ合衆国大統領 ドワイト・D・アイゼンハワー

 

 

 

「うへ〜、先生運転免許持ってないの?」

 

 小鳥遊(たかなし)ホシノはそう聞いた。

 ここはアビドス高等学校廃校対策委員会、その部屋である。シャーレに支援を要請してこれが受理されて以来、先生は学校近くの空き家を借りてよく対策委員会に足を運んでいた。

 そんなある朝、先生の無免許が発覚したのである。

 

()の免許証なら持ってるんだけどね」

 

 先生はそう苦笑する。実際キヴォトスの外では車を乗り回せたのであろうが、その免許証もキヴォトスでは用を成さない。

 故に先生は今日、免許センターへ出向くことを決意したのであるが、それがことのほか生徒達の話題にもなっていた。

 

「ん、だから先生は車で移動する時は私の車に乗るべき」

「シロコ先輩も無免許でしょ!」

 

 何故かやる気満々のシロコにそうツッコミを入れる猫耳の会計担当、黒見(くろみ)セリカ。彼女はというとまだ1年生でありながら既に普通自動車の二種免許を取得していた。アルバイトで使うのだとか。

 

「そういえば、対策委員会で免許を持っていないのって、私とシロコちゃんだけなんですね」

 

 と、相槌を打つ金髪の生徒が十六夜(いざよい)ノノミ。シロコと同じ2年生だ。

 彼女にはアビドス土着企業セイント・ネフティスの令嬢でありながら、親の意向に背いてアビドスへの入学を選んだ経緯がある。その家庭事情のために、運転免許を取る機会にはあまり恵まれなかった。

 まあ本人にも取る意思はあまり無かったのだが。

 

「先生は免許取りたい?」

「うん。やっぱり車があるのとないのじゃ随分差があるからね。

 この間みたいに行倒れるわけにもいかないし」

 

 シロコに聞かれた先生はそう答えた。

 初めてアビドスに来た時、徒歩だった先生は広大な自治区内で道に迷って一度行倒れている。

 その時は運良くシロコに助けられたから良かったが、またどこかで同じ轍を踏む訳にもいかない。

 

「じゃあこの機会に先輩達も免許を取ってみるのはどうですか?

 車を運転しなくても、身分証代わりになりますし」

 

 エルフ耳でメガネをかけた1年生がそう提案した。自動車免許のみならず、あらゆる乗り物の免許を保持する対策委員会のメインドライバーにして書記、奥空(おくそら)アヤネであった。

 

「ナイスアイデアです、アヤネちゃん!」

 

 アヤネの提案に、ノノミはそう言って乗り気である。

 しかしながら、シロコはどうも気が進まないようだった。

 

「免許センターというと、免許返納班。生駒コイがいる……」

 

 と呟くシロコ。どうも先日の一件をまだ気にしているらしい。

 前回の事件がカイザー絡みの陰謀でなかったとはいえ、コイはカイザーとの関係が疑われる人間だ。そんな人間がいるところへ出向くのは気が進まないのかもしれない。

 まして伝説の強盗キラーとなれば、シロコには天敵のようにも思えた。

 

「あれっ、シロコちゃん。あいつ(生駒コイ)のこと知ってるの?」

 

 『たのしいバナナとり』の手帳を読んでいたホシノが、ふとその名前を聞いて顔を上げた。

 その口ぶりは、まるでホシノもコイと面識があるかのようだった。

 

「ん、この間ヘルメット団を追って自治区に来たのが生駒コイだった」

 

 ホシノ先輩は、とシロコもホシノに尋ねた。意外なところで見つかった関係に、シロコはもちろん、ノノミ達や先生も興味がある。

 

「やー、昔ちょっとね。別に大したことじゃないよ。

 余ってたレーションと空いてた教室を与えただけ、後はモモトークを交換したりとかそれぐらいかな」

 

 そう言うホシノだが、昔馴染について話すような顔からはそれだけの関係ではないことが伺えた。

 

「まあ何はともあれ、あいつはシロコちゃんが思ってるほど悪いやつじゃないから、心配しなくても大丈夫だよ」

 

 手をひらひらと振って、のんびりとホシノは所見を述べる。

 それがシロコにとって後押しとなったのは間違いないようで、「ホシノ先輩がそう言うなら」と、自身も免許センターに行く決心をした。

 

「じゃあ決まりだね。おじさんは車回してくるから、皆は準備して待ってて」

「ホシノも行くの?」

 

 デスクから車のキーを取り出して立ち上がるホシノに、先生は意外そうに聞いた。

 ホシノは既に免許を保持しており、更新期限もまだ先のはずだったからだ。

 

「先生は免許センターがどこにあるか知ってる?砂漠のど真ん中だよ」

 

 ホシノの一言で先生は察した。つまりは公共交通機関が存在せず、徒歩で辿り着くのも厳しい場所だから、ホシノが送迎してくれるというわけだ。

 

「じゃあお願いしようかな」

「うへへ、おまかせあれ~」

 

 改めて先生からお願いされ、ホシノは上機嫌に部屋を出ていった。

 

「さて、私達はどうしよっか」

 

 ホシノを見送り、先生とシロコ、ノノミが出発の準備をする間に、セリカはアヤネに聞く。ただ暇を満喫するのもいいが、やはり何かしら行動している方がセリカの性分に合っていた。

 

「とりあえず壊れた水道管をいくつか直したいんだけど、それだともう1人ぐらい人手が欲しいね」

「……ていうか、まだ1()()()()()()()()()()じゃない。どこで油売ってるんだろ」

 

 ふとセリカがその人物の存在を思い出す。対策委員会6()()の中にあって、ホシノと並んで3年生コンビの片割れを成すその生徒。

 彼女はやはり、今日も随分遅刻して対策委員会に顔を出した。

 

「まったく、あんた達は朝から元気だな」

「あっ、噂をすれば」

 

 セリカは特徴的な愛銃(ショットガン)2丁を携えた先輩の前で仁王立ちして、待ってましたと言わんがばかりの笑顔で告げた。

 

「ちょうどいいところに来たわね、()()()()()!」

 

 

 

「いちッ!いちッ!いちにィッ!」

「「そーれッ!」」

「いちッ!いちッ!いちにィッ!」

「「そーれッ!」」

 

 堅牢な要塞の外まで響き渡らんばかりの大音声で歩調が鳴り響く。対アビドス対策方面本部跡地の敷地内で、アビドス監視班第3分隊の隊員達はハイポート走をしていた。

 隊員達の装備はそれはもう豪華である。軍用規格のヘルメットとタイプⅣのプレートが入ったプレートキャリア、その他装具を装着し、錘を入れたラックサックを背負った上で、全備重量約4.8kgにもなる第6号ヴァルキューレ制式ライフル(64式7.62mm小銃)を携えて走るのだ。

 アビドス監視班においては、他部署で主に用いられる第5号ヴァルキューレ制式ライフル(SIG556)第14号ヴァルキューレ制式ライフル(Mini14)を運用していない。旧式の6号ライフルの中から良好な個体を選出し、M-LOK対応ハンドガードや伸縮式ストック、各種アクセサリー等を実装して運用している。

 市街戦闘が主となる他所と違い戦闘距離が長くなりやすい砂漠戦闘を主眼に置くアビドス監視班では、5.56mm弾よりも威力と射程で勝る7.62mm弾の方が有用、というリコの判断であった。

 さて、そんな6号ライフルをはじめとした装備を担いで走る集団に1人、交通局免許係の腕章があった。

 青みがかった黒髪のポニーテールに目つきの悪い三白眼。免許返納班期待の大型新人、仲仁田シイナである。

 

「冗談抜きで、ここは何をする部署なんですか?何か仕事はないんですか?」

 

 配属2日目にしてそうしつこく聞いてきたシイナを、コイが第3分隊に預けたのだ。

 配属初日は結局何も仕事をせず、併設された官舎で寝泊まりして終わった。それがシイナには退屈だったのだろう。活躍してさっさとこんな砂漠から異動したいというのもあるだろうが。

 

「とりまいい感じに鍛えといてくれや」

 

 そう頼まれた第3分隊長七星(ななほし)コヨミはとりあえずシイナを列中に加え、ハイポートをさせ始めたというわけである。

 

「け、警察の、仕事じゃ、ないでしょ、これ……!」

「おーい新入りさん遅れてるよー、頑張れー」

 

 息も絶え絶えに文句を垂れながら、シイナは何とかコヨミに付き添われ分隊についていく。当の第3分隊の隊員達はというと、汗は流しつつもさして疲れた様子は見られない。日頃の訓練の賜物だろう。

 そんなシイナと第3分隊を免許返納班の窓の向こうに眺めながら、防衛室長不知火カヤはコーヒーを啜った。

 

「豆変えました?」

「いいや?前と同じのっすよ」

 

 応接用ソファに座ってコーヒーを嗜むカヤに、ぼさぼさの髪を後ろで適当に結んだメガネの不良警官生駒コイは答える。実際豆の銘柄は全く変えていない。

 

「うーん……まあいいでしょう。新人の方はどうですか?」

「ご覧の通り」

 

 自分のコーヒーを淹れ、窓枠に腰掛けたコイが親指で先の光景を指してみせる。元気そうだ。

 

「生意気言いはしますがやる気は満々、体力気力共に旺盛、いやはや若いコは違いますな」

「それは何より。配属早々潰れてもらっては困りますからね」

 

 カヤはそう微笑む。代替の人員を手配するのだって楽ではないのだ、その手間を考慮する必要がなくなったのは喜ばしい。

 が、今日重要なのはそこではない。カヤにとっても、コイにとっても。

 

「で、今日は何のご用でこちらに?」

 

 その質問に表情1つ変えず、カヤは無言でファイルを差し出す。コイもまたいつものへらへらした顔でそれを受け取り、コーヒーを片手に流し読みした。

 

「アビドス方面におけるカイザーの動向?」

 

 ファイルに挿まれた書類のタイトルに、コイは一度訝しげにカヤを見る。

 カイザーグループといえば他に類を見ない超巨大グループであり、企業倫理無視の一貫した利益追求主義はしばしば批判の的にもなってきた。

 そんなカイザーであるが、非公式ながらカヤとは提携関係にある。もっともその実態は『提携』というよりも、カヤの脅迫による一方的隷属が近い。文字通り提携する途もあったかもしれないが、少なくともこの世界では違った。

 視線を書類に戻すのと同時に、カヤもまた解説を始めた。

 

「昨今、どうも私に隠して何事か企んでいるようでしてね」

「いつものことじゃないすか」

「ええ、いつものことです。が、今回はやけに規模が大きい。カイザーPMCの増強1個師団が動いているんですよ。

 しかも砂漠で何やら発掘工事まで行ってましてね。鉱物資源調査の名目で一応正規の手続きを経てはいますが、だとしたらここまで部隊を動かす理由がない」

「別のものを掘ってるとでも?」

 

 尋ねてコーヒーを口に含むコイ。とはいえコイは別にそれ自体が本命だとは思っていない。発掘工事そのものは偽装で、実態は何かしら別用途の施設を建造しているのではないかと踏んでいた。

 

「(何かの実験場とかだろうなぁ)」

 

 何も無い砂漠に作るなら実験場か演習場あたりが妥当である。そう見積もったコイだったが、故にカヤの予想外の解答にコーヒーを吹く羽目になった。

 

「『宇宙戦艦』とやらを探してるそうですよ」

 

 飛沫をハンカチでガードしたカヤは表情ひとつ変えずに、台拭きで辺りを拭くコイにそのまま説明を続ける。

 

「部隊を動かしているのはカイザーPMCの理事のようですが、配属部隊の編組を見るにカイザーコーポレーション本体がバックにいるのは間違いないでしょう。宇宙戦艦だなんてものに野望を抱くあたり考えられるのは――」

「プレジデントぐらいですか」

「その通り」

 

 コイの答えに頷くカヤ。カイザーグループ全体の頂点に君臨するプレジデントという人物は大変に野心的であり、昨年は砂漠に隠されているとかいう列車砲を探すため隠密裏に軍事作戦を展開したこともあった。

 結局その列車砲とやらは表沙汰になる前にSRT特殊学園の部隊が差し押さえたが、プレジデントは未だに()()()を続けているらしい。

 そして、ここからが本題である。

 

「そこで生駒班長、免許返納班にはこの実態調査を依頼します。もし反乱の兆候があれば速やかに報告するとともに、初動対処支援を実施して頂きたい」

 

 カヤはそう言い切る。依頼、という表現であるのも単に組織図上直接の指揮下にないからというだけで、断るという選択肢を用意してくれることは元よりない。

 またコイにも断るつもりなどは端からない。この胡散臭そうな顔をした官僚が、少なくとも今は何も考えず無茶難題を押し付けるだけの無能ではないことを、コイは既に知っている。何せカヤとは約2年の付き合いだ。

 

「緊急時の支援は?」

「『ERMINE(アーミン)』と『PANTHER(パンサー)』の2個SRT小隊を即応対処部隊(QRF)として確保してあります。支援を要請すれば1時間以内には到着してくれるでしょう」

「それなら安心して仕事が出来そうだ」

 

 相変わらずの根回しの良さに、コイは苦笑せざるを得ない。もしコイに依頼できなければ、この2個小隊に対応させる腹積もりだったのだろう。

 SRT特殊学園とはキヴォトスの行政組織の頂点たる連邦生徒会長直轄の学園であり、如何なる政治的介入も受けない直属の特殊部隊だ。少なくとも連邦生徒会長失踪前まではそうだった。

 現在はというと、本来の最高指揮官を失って機能不全に陥り、挙句政治的工作によって半ばカヤの私兵と化す始末である。

 

「承知しました。一先ず今週中には中間報告を上げておきます」

「よろしくお願いします。特に今は足元を固めておきたい時期なので、確実に」

 

 そう念を押すカヤ。時期、というのはつまり1か月後に控えた連邦生徒会長代行選挙を見据えてのことであろう。

 現在連邦生徒会長は行方不明であり、その代行を七神(なながみ)リン首席行政官が務めているが、彼女の政権運営には批判的な声もあるのが現状である。

 特に一般市民からの支持率は低迷の一途を辿るばかりであり、果てにはDU中心市街においてリンの退陣と新たな連邦生徒会長代行の就任を求める大規模なデモが発生。これはヴァルキューレ警備局によって鎮圧されたものの、連邦生徒会内に衝撃を与え、新たな会長代行を決める選挙の実施が決定したのだ。

 カヤはその立候補者の1人であり、選挙を控えた今、手駒の1つであるカイザーに反旗を翻されては困る、というわけである。

 

「とりあえず3日後にはレポートを出します。そこから先はその時次第ですな」

「結構です。そのファイルは預けるので活用してください」

 

 それではこれでと、カヤはコーヒーを飲み干して席を立つ。

 ハンカチを綺麗に折り畳んでポケットにしまいながらドアノブに手をかけるカヤに、コイは1つ質問を投げた。

 

「で、()()については?」

 

 奴ら、とはカイザーのことではない。コイが言っているのは別件の、カヤとコイが今の協力関係を築く原因となった連中のことだった。

 

「昨年末アビドス近郊での目撃情報を最後に足取りが途絶えましてね、探してはいるんですが」

「名称不明、目的不明、極めて高度に訓練されており、黒尽くめの装備をし、()()()()()()()()()()()()()を持った()()()()()()()()()。そんなのが砂漠に逃げたとなれば連邦生徒会で見つけるのは無理でしょうな」

「そういうことです」

 

 カヤはそれだけ言って帰っていく。

 まあ見つからないのも無理もない。ただでさえ手掛かりに乏しい相手を追っているのだ。

 一応関係が疑われる存在として『ゲマトリア』なる集団がいるらしいとの情報は掴んではいるが、コイ達も未だに詳細は把握できていない。

 

「どっかしらにアジトか何かあるとは思うんだがねェ」

 

 ヘイローのない人間は服装装備に関わらずそれだけでかなり目立つ。街中を大手を振って歩けない以上、第3者による各種物資の調達ルートに頼る他なく、それと連中とを繋ぐ中継点のような場所があるのではないかとコイは考えていた。

 

「……ヘイローのない男、か」

 

 コイはふと呟く。脳裏に浮かんだのは先日アビドスで出会った先生のことだ。

 そういえば先生も()()()()()()()()である。であればあの連中との関係も真っ先に疑うべきだが、何故かコイはあの男に警戒心を抱かなかった。いや、()()()()()()()()()()()

 理由は判然としない。悪人面とはいえない外観もあるだろうが、それとは別の何かが働いているように、コイは思い返してそう感じた。

 

「(調べておくに越したことはないか)」

 

 コイはそう結論付けて、内線電話の受話器を取った。いずれにしろ、今は仕事がある。

 

 

 

 アビドスの砂漠は広大であり、今なお領域を拡大している。その概ね中央に位置する旧アビドス本校跡地は、今やカイザー系列企業『カイザーPMC』の一大拠点が建造されていた。

 名目上は鉱物資源の調査拠点であるが、それが出鱈目であることは誰の目にも明らかである。周囲と隔絶する巨大な外壁の内外には多数の哨兵が配され、司令部、宿舎、格納庫や倉庫、対空レーダー、滑走路に管制塔等々、およそ資源調査に似つかわしくない施設がその内部を占めていた。

 

「で、これは一体どういうことかな?」

 

 制圧された作戦司令室で、カイザーPMCの理事は目の前の軍服姿のオートマタに尋ねた。今や理事は4名の兵士に小銃を突きつけられている。いずれもカイザーセキュリティの特殊作戦部隊(SOF)に属する隊員だ。

 軍服はカイザー本社から来たジェネラルという監督官で、元々はカイザーPMCの上級指揮官であったものの主流たる理事とそりが合わず、カイザーセキュリティに移った人物だった。

 

「こちらのセリフですよ、理事。この施設は何です?」

「ご覧の通り、発掘拠点だよ。例の宇宙戦艦のね」

 

 理事は肩を竦めてしらを切る。無論ここは宝探しのキャンプだが、それもまた1つのカバーストーリーに過ぎない。

 

「であれば地下の巨大施設は?実験施設か何かに見えますが」

「発掘品の保管施設だよ」

「得体の知れない観測機材を本社に黙って搬入しているようですがね。あれは発掘品を調べるためのものではないでしょう?」

 

 ジェネラルはしつこく問い詰める。現地部隊に不穏な動きありとの未確認情報を入手した本社――プレジデントはすぐさまジェネラルら監督部隊を派遣した。

 調査の結果は驚くべきものであり、ある時期を境に発掘作業は止まり、そのリソースは()()()()に勝手に割かれていたのだ。

 出所不明の機材を多数基地内に搬入したり、ブラックマーケット経由でいくつかのヘルメット団や傭兵を動かしてアビドス高校を襲撃させ始める始末である。

 それら全て、この理事の指示によるものだということも既にわかっている。

 

「だとしたら何だ?プレジデントの意を受け差し向けられた貴様といえど、今の段階で私を捕らえることなどできはしまい?」

「ご心配には及びませんよ。計画を妨げる者は何人だろうと直ちに排除して構わないと、プレジデントより申し付けられているのでね」

 

 ショルダーホルスターから愛銃のシングルアクションアーミー(SAA)を抜き、理事の頭に突き付けた。

 今のジェネラルの任務は計画から脱線した現地部隊を元の軌道に戻すことであり、理事の健在は精々望成目標に過ぎない。ましてその理事自身が必成目標達成の障害となるなら、生かしておく理由はない。

 しかし理事は、事ここに及んでも未だに余裕を崩さなかった。

 

「なるほどな、それで貴様を差し向けたわけだ」

 

 だが、それまでだな。そう理事が言い放ったのが合図だった。

 小銃を向けていたSOF隊員が2人、立て続けに狙撃され斃れる。残り2人が理事を盾にしようとするも間もなく5.56mm徹甲弾の直撃を受けた。

 

「ッ……!?」

 

 ジェネラルの反応は早かった。咄嗟にコンソールの陰に身を隠し、狙撃手の位置にあたりを付け射線を切りつつ司令室を飛び出す。

 数発牽制に発砲しながら、ジェネラルは通路を駆け抜けた。

 

「ブラボー、こちらブラボー00!司令室にて接敵、ブラボー01から04までがやられた!近くにいる隊員は至急急行せよ!」

 

 無線にそう怒鳴るが、誰も応答することはなかった。

 電波妨害がかかっているか、あるいは制圧した際24名はいたはずのSOF隊員がものの数秒で全滅しているのか。ともあれ応援は期待できそうにない。

 

「クソッ、理事め。この代償は高く付くぞ……!」

 

 とにかくジェネラルは走った。単独での任務達成が困難な以上、上級部隊に支援を要求する他ないが、そのためにはまず基地の外に出なければならない。

 連射音がして、そしてジェネラルの足元に銃弾が殺到する。通路が暗くて見えないが、追手が迫っているらしい。外に出るついでに、こいつらも振り切らねばならなくなった。

 

「さて、これで当面の邪魔者はいなくなったわけだが……」

 

 機能を復旧した司令室で、理事は隠れて待機していた通信兵に内線を繋げさせる。相手は理事の事業を統括指揮している統括部長だった。

 

「統括部長、状況はどうだ?」

『基地内の敵は概ね制圧しました。ジェネラルの始末も時間の問題でしょう』

「そんなことはわかっている。『事業』の方はどうなんだ?」

『それが……』

 

 事業の話となると、統括部長は途端に歯切れを悪くした。

 

『雇用したカタカタヘルメット団及び便利屋68はシャーレの支援を受けたアビドス対策委員会に撃退され、第3弾として投入予定だったバリバリヘルメット団とゴシゴシヘルメット団は突如として消息不明となっており――』

「つまり()()()()()()()()()()()()()()()()ということだな?」

『そうなります』

 

 統括部長の報告に、理事は怒り心頭であった。こうも上手く連勝されては、理事が秘密裏に提携している()()()()が小鳥遊ホシノに対して持ちかけた提案に彼女が乗ってこなくなってしまう。

 

「とにかくアビドスに圧力をかけ続けろ。シャーレがいようが物量で押せばそう長くは持つまい。とにかく窮地に立たせて小鳥遊ホシノを引きずり出すんだ」

『承知致しました』

 

 統括部長の返事を聞くまでもなく、理事はマイクを切った。

 細かい部分は統括部長に任せている。上位者のすべきことは方針を示し実行を監督することで、いちいち末端まで指導することではない。

 

「小鳥遊ホシノを引きずり込めば、キヴォトス最強の神秘を手にできる。その力があればプレジデントなど……!」

 

 理事は拳を握りしめる。宇宙戦艦などどうでもいい、彼の目的は小鳥遊ホシノの持つ神秘を兵器転用することだった。




生駒(いこま)コイ
 ヴァルキューレ警察学校:3年生
 交通局免許係免許返納班長
 公安局第1公安係第3班員、SRT特殊学園FOX小隊隊付、公安局第1公安係第3班長を経て現職。
 固有武器:『ワンスリー』HG

 本作主人公にして悪徳警官。モブヘイロー。
 ぼさぼさの黒髪を後ろで雑に一纏めにした髪型。長袖・ズボンタイプの制服に手袋、半長靴を着用している。
 キヴォトス内外の銃火器に詳しい。キンバー推し。


仲仁田(なかにだ)シイナ (本名:鏑木(かぶらぎ)シイナ)
 ヴァルキューレ警察学校:1年生
 交通局免許係免許返納班員
 交通局高速隊第4警ら隊、生活安全局押収品係本班を経て現職。
 固有武器:『第9号ヴァルキューレ制式ショットガン(車載型)』SG

 本作主人公にして新人警官。多数の十字を組み合わせた五角形のヘイロー。
 青みがかった黒髪ポニーテール。通常の半袖制服に防刃ベストを着用。
 実はショッピングが趣味。
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