激遅更新のせいで実感ないんですが、もう投稿開始から1年経ってたんですねぇ。1話毎の間隔がデカすぎる!執筆サボってたってはっきりわかんだね(キヴォトスでは恥ずかしいアレ)。
こんなほぼエターナル状態の作品を未だにお気に入り登録して下さっている方々に厚く御礼申し上げます。
年内には次話投稿します(可能公算低)。
※令和8年5月10日午後17時17分:あとがきのキャラクター紹介を一部改訂致しました。
「地下生活者が死んだ?」
だから何だと言わんがばかりにうんざりそうに言うのはベアトリーチェという女性である。ゲマトリアのメンバーだ。
今はアリウスの残党を率いて何かの実験を準備しているらしく、そんな折緊急会議と相成って時間をとられている。不機嫌なのはそのためだろう。
「奴の生き死はともかく、問題は地下生活者が
マエストロと呼ばれる木人形が尋ねる。芸術家を自称している彼だが、今回ばかりは芸術性を鑑みる前に状況を整理する必要があった。
「私のもとに送り付けられた写真、そしてフランシスの証言、何より地下生活者の遺体から摘出された特殊な5.56mm弾。どう考えても他殺です」
「で、そのフランシスは来ていないようですが?」
解説する黒服にため息をついてベアトリーチェが指摘する。無論フランシスが来ないのは単なる無断欠席ではない。
「地下生活者が殺害された時、偶然彼もその場に居合わせていたようでしてね。彼も重傷を負って現在手当てを受けています」
一応はそれで納得したらしいベアトリーチェが頷いたのを見て、黒服は事の次第を説明することにした。
「経緯としてはこうです。
まずフランシスが地下生活者の下を訪れ、そのタイミングで何者かが侵入、地下生活者を殺害し、フランシスに重傷を負わせ写真を撮って逃走。後に私の下に写真を送り付けた」
「おかしいですね、写真が届いたのと同時にフランシスから連絡があったのでしょう?フランシスはなぜすぐに連絡しなかったのです?」
「所持していた携帯端末も全て破壊されたようでして、最寄りのセーフハウスまで退避してかけてきたようです」
「ほぉう……」
ベアトリーチェは頬杖をつく。疑わしいと言いたげではあるが、そんなことを口にするのも面倒そうである。
一方マエストロはこの事件に危機感を持っていた。
「いずれにせよ、何者かが殺意を持って地下生活者の所へ来て、殺害を成功させたと。目的は警告か?」
「ええ、おそらくは。地下生活者を狙ったのも
「フランシスをあえて殺さずに生かしておいたのも、地下生活者が殺されたと我々に伝えさせるためか……相手はどんな奴らだ?」
尋ねられ、黒服は手元のファイルを開いた。この会議室に来る前、フランシスを訪ねて聞き取りした内容だ。
「全身黒ずくめの装備をした男6人組、ヘイローもないのでおそらくはキヴォトス外の人間でしょう。
動きが洗練されていて連携も取れていることから、何かしらの軍事訓練は受けていると思われます」
「キヴォトス外の人間……例の先生の同類?」
「可能性はあります。断定はできませんが」
そうして黒服はファイルを閉じる。ここからは処置対策の話だ。とはいえ……
「いずれにしても危険な相手です。身元を明らかにして無害化できるまでは、安易に単独行動するのは控えましょう。居場所も定期的に変えることが望ましいですね」
それしか言いようがなかった。あまりにも情報がなさすぎる。
例の少女兵といい、黒ずくめの男達といい、ゲマトリアは驚くことに殆ど情報を手にしていない。
今まで慎重に各々の探求をしてきた、悪く言えば暗躍してきたゲマトリアが情報で後手に回るとは。
ありきたりな対策だけ決めてとりあえず解散しようとした時、ベアトリーチェがふと尋ねる。
「ところで黒服、その特殊な5.56mm弾とは、どう特殊なのです?」
「詳しいことはまだ。ただ――」
黒服は少し間を開けて、地下生活者の遺体検案書をテーブルに置いて見せる。
頭に2箇所、胸に5箇所、腹に3箇所の銃創、そしてその周りに広がる赤色で塗りつぶされた表示。
「地下生活者の遺体は、被弾した箇所を中心に局所的に被曝していました」
免許センター前の駐車場でホシノが待つことおよそ1時間。
試験を全て終え、合否発表も終わり、シロコとノノミはしばらくして免許センターから出てきた。
「あ、シロコちゃーん、ノノミちゃーん。こっちだよー」
ホシノは軽自動車の横で手を振って2人を呼ぶ。よく見ると手には何やら封筒のようなものを持っていた。合格したらしい。
「2人ともどうだった?」
わかっていながら、ホシノは尋ねる。やはり本人から合格の言葉を聞きたかった。
そしてその答えも、わかっていた通りである。
「ん、合格」
「私もです☆」
「うへへ、よかったねぇ。行きの車で稽古つけた甲斐があったよ〜」
顔をほころばせるホシノは、ふと先生がいないことに気付く。先生も受験していたはずだが、まさか落ちたのだろうか。
「あれ、先生は?」
「免許返納班に顔出してくるって言ってた。この前のお礼がしたいって」
それについては気が乗らない様子のシロコ。いくらコイがホシノのお墨付きを得ていても、悪い人間ではないことと強盗キラーは両立し得る。
「ちなみに先生も合格してましたから、心配ご無用ですよ、ホシノ先輩」
「そっか〜。それじゃジュースでも飲みながら待とうか。そんなに時間もかからないだろうし」
何飲みたい?と聞きながら、ホシノは2人をつれて自販機へ向かうことにした。
「こんにちは。コイはいるかな?」
同刻、コイとシイナが免許返納班の事務室へ戻ったすぐ後に、先生は免許返納班を訪れた。
菓子折りを手にした来客を認めるや、デスクに足を乗せ思いっきりくつろいでいたコイは、足をデスクから降ろす。よもや先生がやってくるとは思ってもいなかった。
「おっ、こんちは先生。こないだはどうも」
「こちらこそ助かったよ。それでお礼をしようと思って――あれ、シイナ?」
話す途中でシイナの存在にも気付いた先生は、少し驚いた様子を見せる。
確かに、最後に会ったときはまだ生活安全局の所属で、コイとは別部署を名乗っていた。
「ど、どうも」
「ごめんシイナ、君の分は今日持ってきてないんだ。今度持ってくるね」
「いや、お気持ちだけで結構ですから……」
遠慮がちに、というより警戒した様子で断るシイナ。ノリのいいコイとは対照的だが、年頃の少女としてはむしろこのぐらいが普通だろう。
「まあ立ち話も難ですし、どうぞお掛けください。飲みもん要ります?コーヒーしかありませんが」
「いや、大丈夫。ホシノ達を待たせてるし」
「ありゃ、そんじゃ長話というわけにもいきませんな。とまれ差し入れ感謝しますよ、口が寂しかったところだ」
どの口がとシイナは突っ込みそうになったが、すんでのところで押し留める。ここでコイの喫煙を暴露すればこのダーティ班長は先生に説教されるに違いないが、それ以上の処罰は上が首を振らないだろう。
長居されてもシイナとしては気まずいし、黙っておくことにした。
そんなシイナを横に話は進む。
「そういや、先生は試験受かったんで?」
「うん。免許証もちゃんと作ってもらえたよ」
「そりゃ何より」
言いつつ、コイは先生の片手にあった新品の免許証を見る。
そこには先生の本名もあった。当然といえば当然だが、そういえばコイもシイナも、先生の名前を知らない。気にしたこともなかった。
「『
「ん?ああ、これ。そうらしいね」
「
まるで自分の名前でないかのような口ぶりに、コイは訝しむ。見るとシイナも違和感を持ったようで、スマホから視線を上げていた。
「実は私、キヴォトスに来るまでの記憶が無くてさ。
唯一の持ち物がこれだったから、多分これが名前なんだろうけど」
そう話して、先生は上着の内ポケットから黒いパスケースを取り出して見せる。
中に入っていたのは身分証のようだ。写真は間違いなく先生自身のものであるから本人の持ち物であることは確かだろうが、問題はその身分証の発行機関だった。
「『総務省』?聞いたことない部署だ。シナモン知ってる?」
「いいえ、全く」
「まあリンちゃんが言うには、私はキヴォトスの外から来た人間みたいだから。多分、外にはあるんだろうね」
身分証と運転免許証をしまう先生。リンちゃんという呼び名はおそらく七神リンのことだろうが、やけに親しげな呼び名だ。
「首席行政官どのとは随分親しいようで」
「うん。シャーレの運営に関してはいつも助けられてばかりだよ」
「ふーん……」
コイはデスクのコーヒーを1杯口に含んで頭を回した。話す先生の様子から流石に男女の関係にあるわけではなさそうだが、シャーレの運営に首席行政官が直接口を出してくるというのは考えものだ。
単に世話を焼いているだけならまだしも、これを盾に超法規組織を私物化しようものなら大問題だ。そういった打算が働いている可能性は考慮に入れるべきだろう。
あの防衛室長にでも一つ耳打ちしとくか、そう思った時、先生はふと腕時計を見ていた。
「あっ、もうこんな時間だ。ホシノ達をずっと待たせるわけにもいかないから、今日は失礼するね」
「うっす。お気を付けて。気が向いたらいつでも遊びに来ていただいて結構ですよ」
「ありがとう。また今度来るね。それじゃ」
やや急ぎ目に走っていく先生と、それを見送るコイとシイナ。
廊下から足音が聞こえなくなると、コイは扉を閉めて椅子に座り、先生の突然の来訪で咄嗟に閉じていたラップトップを開いて作業を再開する。
「で、生駒班長は何してるんですか?」
咄嗟に隠したことを流石に訝しんでか、シイナがスマホをいじりながら聞いてきた。変な所で目敏いものだ。
「朝言ったろ、面白い仕事があるって」
「免許試験の手伝いの次は何です?オンラインチェスでもやらせようってことですか?」
「おっ、何でオンラインチェスだと?」
「姉がパソコンでよくやってましたのでね。どうせ班長のことだから、私の家族関係もご存知でしょう」
ため息交じりにそう言うシイナ。コイが自分のことを調べ上げている以上、隠すことでもないと思ったのか素直に話してくれる。
「立派な警官だったよ、お姉さん」
「珍しいですね、生駒班長が人のこと褒めるなんて」
「誰にだって憧れの1つや2つあるだろ、そりゃ」
「なのに憧れの存在とは真反対に突き進んでるんですね」
「憧れとは理解の対極にある感情なのさ。よぉし出来た」
コイはラップトップで作った資料をデスクの脇にあるプリンターから出力させる。
その資料とはずばり、地図だった。アビドス全域が網羅されており、いくつかの地点がピックアップされている。
「シナモン、こっち来い」
部屋の隅から長机を引っ張り出し、地図を張り付けながらコイはシイナを呼ぶ。
渋々と言った様子で来たシイナに、コイはファイルを投げて寄越した。
「何ですかこれ……『アビドス方面におけるカイザーの動向』?」
そのファイルは、カヤからコイに渡されたものであった。
ファイルの内容を一読、というより何度も読み直して、シイナはこめかみを押さえつつファイルを返した。
「……本当に防衛室長の実働部隊だったんですね、ここ」
「最初からそう言ってんだろ」
なんとかこれが偽造された物だと信じたかったシイナだが、書式、発簡者、文書番号、秘密区分など、いずれにおいても完璧すぎるほどに具備されている。紛れもない公文書であることは最早疑いようもなかった。
「で、これを私に見せて何をさせたいんです?」
物言いたげに睨見つけるシイナに、コイは思わず吹き出してしまった。
確かに言いたいことの1つや2つはあるだろうが、ここは仕事を手伝ってもらうとしよう。コイは地図の上にオーバーレイシートを被せた。
「まず状況を整理しよう。我が任務は『アビドス地域に展開するカイザー勢力の実態を調査せよ』であり、地位は『防衛室長より派遣された1個班』、役割は『調査及び初動対処』である」
オーバーレイに任務、地位、役割を書き込み、地位の横に保有戦力を記入する。棒人間が2人。
「調査対象はアビドスに展開するカイザー勢力。事前情報より、増強1個師団規模と見積もられる」
我の分析の下に彼の分析を書き加える。増強を意味する記号が付いた歩兵師団の部隊符号の方が、棒人間2人だけの記号よりもずっと強大に見えた。
「次に地形。アビドス地域は沿岸部を除き概ね砂地に市街地が点在するほか、自治区境界付近には境界沿いに城森川が流れ、また中規模の山脈が城森川北岸に1条、砂漠地帯南西部に2条横走し山脚地形を成す区域がある。
カイザーの拠点は砂漠地帯中央に位置する旧アビドス本校舎跡地に位置。また現アビドス高等学校が砂漠地帯東端から東15kmに位置するアビドス本町に所在する。
基本的に開豁しているが、境界沿いの城森川による河川障害及び城森川北岸と砂漠地帯南西の山脚地形は車両の機動を制限をする」
新たなオーバーレイを重ね、次々と地形情報を書き込んでいくコイ。
機動障害図を兼ねた地形分析オーバーレイを見て、ふとシイナはあることに気付いた。
「つまりカイザーは自分達の拠点では地の利を活かすことができない?」
「活かす地形がない、が正解だろうな。砂漠のど真ん中にいるんだ、地形障害なんざ皆無だろう。いいとこ目ぇつけたな」
「ど、どうも」
照れ隠しに顔を下に向けわざとらしくオーバーレイを眺めるシイナに笑いをかみこらえつつ、コイはさらにオーバーレイを重ねる。
「続いて敵情。敵は砂漠地帯中央にある自らの拠点を中心に拠点外壁沿いに防御できる。
また保有戦力の一部を派遣することにより、アビドス地域内各市街地を攻撃できる。
特に注意すべき可能行動は、UAV攻撃、航空攻撃、特殊武器攻撃。
我の任務達成に重大な影響を及ぼす可能行動は、UAV攻撃及び偵察活動、である」
カイザー拠点を中心とした赤い円や、そこから伸びる赤い矢印が図示され、敵の手札が文字や記号で描かれる。
こうして整理されると、いかに強大な相手かは説明するまでもなく理解できる。増強1個師団という部隊符号の大きさが、具体的に図となって表れていた。
さらにオーバーレイを重ねるコイ。だが今度は何かを図示するでも、文字で列挙するでもない。
「んで作戦だが……まあそんなもんはない」
オーバーレイに『Going where the wind blows!』と適当になぐり書きして、コイはステッドラーを投げた。ここまで真面目にやってきた状況整理を最後の最後でひっくり返され、シイナ自身もひっくり返りそうになる。
「状況に合わせて臨機応変に、ですか」
「そういう事。わかってきたじゃない」
さも愉快そうに笑うと、コイは部屋の一角にあるロッカーを開け、カーテンで周囲を閉ざした。そして服を脱ぎ出す音。
「何やってるんですか?」
「着替えだよ。シナモンも早く着替えろ。私服持ってきてんだろ?出かけるぞ」
「どこに?」
黒いカーゴパンツにブーツ、白いTシャツの上から黒いライダースジャケットを羽織ってカーテンを開けたコイは、ベルトに通したマガジンポーチにマガジンを4本ほど挿しながらニヤリと笑って答えた。
「買い物だ」
・固有武器『ワンスリー』
コイが愛用する
キヴォトス外から密輸されたパーツや既存品を加工、調整したパーツなどの実装、グリップセーフティの削除などがなされたカスタム銃。意外なことに継続的に整備、改修が行われている。
13番目の愛銃であり、かつての所属部隊の通称を冠するこの銃は、元々は同僚達から誕生日に贈られたものだという。
同僚達も原隊ももうこの世にいないが、コイにはまだこの銃を手放す気はないようだ。