BAD COP   作:ノキシタ

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 皆さまお久しぶりでございます。なんとか年内に次話投稿出来ました。

 皆さまはスバルちゃんお迎え出来ましたでしょうか?スバルちゃんかわいいですよね。しかもアリウスのあの状況にあって周りの子達を気にかけることが出来るところもいいですよね。作者も手続き上の手違いで官舎追い出されたんでスバルちゃんに慰め(健全)てもらいたいものです。(早口)

 あっちなみに私はスバルちゃんお迎えできてないです。ご縁がないみたいですね。オォンアォン(嗚咽)

※令和8年5月10日午後17時18分:あとがきのキャラクター紹介を一部改訂致しました。


武器屋

「いやぁお客さん、いい時に来たね!ちょうど掘り出し物が入ったところでさ」

 

 ブラックマーケットの一角、とある倉庫にて、1人の武器商人と2人の客が商談をしていた。

 武器商人といっても色々と種類がある。彼女はキヴォトスの外にある『スプリングフィールド』というメーカーの銃や部品の専門店を自称していた。当然密輸品である。

 対する客は2人とも初めて見る顔ぶれだ。片方は黒いズボンとライダースジャケット、もう1人は上下赤のジャージにサングラス。

 しかし商人は警戒していない。この店は完全会員制で、入るには会員証か会員の紹介状が必要だ。この2人は会員の中でも上得意のスパスパヘルメット団からの紹介状を持っていた。

 実際、赤い方はどう見てもヘルメットをなくしたヘルメット団員にしか見えない。

 

「これなんかどう?最新のオペレーターだ。スプリングガイドの中にレーザーサイトが内蔵されてる上に、スライドにはRMRサイトを搭載可能なマウント、バレルにはサプレッサーを装着可能なネジ切り加工がされてる」

「いいねえ、何発撃った?」

「キヴォトスに来てからはまだ撃ってない。新品ピカピカさ」

「弾の種類と数は?」

「.45ACPが16発」

「そりゃ凄いな。試し撃ちさせてくれよ」

 

 黒い方が銃を手に取り、ためつすがめつ品定めしながらそう言う。

 本来なら試し撃ちなどは許していない。弾倉に弾を込めたまま強奪される恐れがあるためだ。

 

「まあスパスパさんとこの紹介だしな、特別だぞ」

 

 そう言って商人は9mmパラベラム弾の入った弾倉を渡す。どう見ても45口径弾ではない。

 弾倉を挿し込みスライドを引いて装填。乱雑に立てられていた空き缶に照準し――撃たずにその銃口を倉庫の入り口へ向け、ワンマガジン全弾叩き込んだ。

 開きかけの扉から、ひいっ、という小さな悲鳴が聞こえる。今日商談をする予定はなかったし、おそらくは紹介状を貰って初めて来た客だろう。

 

「今日はもう店仕舞いだ、一昨日来な!」

 

 黒い方こと生駒コイが扉に向かって吠えたのと、赤い方こと仲仁田シイナが商人を取り押さえ17号拳銃を突きつけたのはほぼ同時であった。

 

「動くな。銃刀密輸規制法違反の現行犯で逮捕する」

「くそっ、あんたらヴァルキューレか!騙しやがって!」

 

 怒りと恐怖の混じった顔でそう喚く商人にコイは逆にキレて、並ぶ商品達を指差した。

 どれもガラクタである。

 

「騙しやがってだァ?テメェこの野郎、じゃあここに並んでるガラクタは何だお前?まともな銃これしかねえじゃんかよ。

 それにこいつはスプリングフィールドじゃなくてSTACCATOだ、デタラメ抜かしやがって」

 

 スライドを2度引いてチャンバークリアした銃を懐にしまいつつ、シイナに組み伏せられる商人の前にしゃがんで顔を覗いた。

 

「それはそうと、あんたにゃ聞きたいことがある。

 直近2週間、カイザーからの根回しで客に武器弾薬を供与したのはあんただな?」

「な、なんのことだか」

「シラ切ろうってなら結構。あんたは北砂尾支所で2日だけ拘留した後釈放するとしよう。

 すると明日の商談に来るのはスパスパ団の馬鹿共と生活安全局のサツ官だけだ。大捕物の直後に本来来るはずだった商人が無罪放免で出てきたら、スパスパ団の上の連中はどう思うかな」

「わ、わかった!わかったよ!話せばいいんだろう」

 

 コイの脅しに商人はあっさり折れた。本来外部の人間が知らないはずのスケジュールまで知られている以上隠し立てはできないと思ったのだろう。

 司法取引をして上得意を売ったと思われたくはない、それもあって商人は素直に口を開いた。

 

「ここの他にもう1つ店を持ってて、そこでカタカタヘルメット団に武器やら弾薬を渡した。金は前金で貰ってたからな」

「カイザーPMCから?」

「いや、カイザーローンだ。現金で一括。多分、カタカタ団の連中もカイザーローンから金を貰ってるはずだ」

「その武器でカタカタ団は何をするって?」

 

 その質問には、商人も首を横に振った。流石に目的までは聞いていないかとコイがため息をついたとき、何か思い出したように商人が顔を上げる。

 

「確かめたわけじゃないが、確かどこかの高校を攻撃しに行くって言ってた」

「いつ?」

「先々週に来たから多分その次の日だろう。『センセイ』ってやつが来たせいで、今までの装備じゃ刃が立たないとかなんとか」

 

 証言を聞いたコイとシイナは顔を見合わせた。センセイなる存在がいるアビドス自治区内の高校など、アビドス高校しかない。

 

「で、なんでカイザーローンがそれに噛んでる?」

「知らないよ。最近、やけに熱心にアビドスに圧力掛けてるらしいからそれ絡みじゃないか?」

 

 傭兵や便利屋も雇ったって聞くし、そう続けた商人の証言をしっかりボイスレコーダーに残して、コイはシイナに合図して拘束を解かせた。もうこいつに価値はない。

 

「喋ってくれてありがとよ。司法取引と見なして密輸法違反は見逃してやる」

 

 それだけ告げて、コイとシイナはさっさと帰ろうとする。

 その後ろ姿に、拘束を解かれ自由になった商人が戸惑い交じりに声を上げた。あのSTACCATOをまだ返して貰っていない。

 

「お、おい銃返せよ!」

「密輸法違反は見逃してやるっつったが景品表示法違反まで見逃すと言ったか?ここの商品のうち正しい表記してあるのがいくつあんだね?」

「だぁー、もうわかったよ、持ってけよ!」

 

 完全に観念した様子で投げやりに答える商人を尻目に、2人は倉庫を後にした。

 

 

 

 コイ達が乗ってきたのはパトカーではなかった。いや、厳密にはパトカーであるが、中でも覆面パトカーと呼ばれる類である。

 

「どしたシナモン、えらく静かだな」

 

 停車している覆面パトカーの中でコイはそう尋ねた。

 

「そうですか?別に普通だと思いますけど」

「だったらさっきのとこで脅迫と窃盗の現行とか言ってたろ」

 

 セブンスターに火を点けるコイにため息をつきながら、シイナは喫煙の現場を見ないように運転席から外を眺める。その口からは意外な回答が飛び出た。

 

「制服着てない時ぐらい仕事を忘れていたいんですよ」

 

 それより、とシイナはコイに尋ねる。なぜ最初の行き先にここを選んだか。

 

「まあ勘だわな」

 

 シイナの疑問に、さも普通のことだと言うようにコイは答えた。

 

「カイザーが攻撃に打って出られるのはあくまで戦闘力上での話だ。建前的なことを加味すれば、自前の兵隊は極力出したくないはずだろう。

 そこで使える外部戦力、ヘルメット団や傭兵なんかの出番って訳だが、そいつらもまともな装備を持ってる訳じゃない」

「そんな捨て駒達の装備を整えさせるために、武器商人が必要だと」

「あとは手当たり次第ってとこ。1発目で大当たり引いたのは運だな」

 

 コイはそう答えるが、とはいえ全くの当てずっぽうでここを選んだわけでもない。

 いくらカイザーといえど、反社会的組織に武器を供与していたという事実はビジネスにおいて大きな痛手となる。となればある程度情報が保全できる商人や業者を選ぶだろう。完全会員制なら部外者が出入りすることも少ない。

 超巨大グループといえどそれは取引先があるからこそ成立するのであって、極端な話だが全ての取引先が契約解除を切り出せばカイザーは手も足も出ない。現実にそうならないのは、表立って悪事をしないという巧妙さと隠蔽工作によるものだった。

 

「で、これからどうするんですか?」

「人を待つ――というか来たな」

 

 間もなく聞こえてきた走行音。やがて倉庫街の一角から黒いワンボックスカーが現れ、覆面パトカーの前方に停車した。

 降りてきたのはフルフェイスヘルメットに黒い作務衣で服装を統制した少女達だった。手にはアサルトライフル(SIG553)。ヘルメット団だ。

 

「……あれを待ってたんですか?」

「あたぼうよ」

 

 言うなりコイは覆面パトカーを降りる。懐の17号拳銃を確かめながら、とりあえずシイナもそれに続く。

 するとワンボックスカーからも誰か降りてきた。作務衣は他と同じだが、ヘルメットは軍用のFASTタイプを被っている。周囲のヘルメット団員が頭を下げている辺り、あれがボスなのだろう。

 そのボスはコイの前まで来ると、自ら跪き頭を垂れた。

 

「お久しぶりです、義姉上」

「おうおひさ。元気にしてたか、リョウ?」

「お陰様で、今日も平穏無事に」

「そりゃ何より」

 

 その光景を見て戸惑うシイナ。何故ヘルメット団のボスがコイに頭を下げ、しかも義姉上呼ばわりをしているのか。

 

「ああ、シナモン。こいつは澤井(さわい)リョウ。スパスパヘルメット団のボスだ」

「スパスパヘルメット団って、さっきの商人に渡した紹介状の……?」

 

 コイがシイナにリョウのことを紹介すると、リョウもまたシイナに静かな声で自己紹介をした。

 

「スパスパヘルメット団を預かっております、澤井でございます。以後、お見知り置きを」

「あっどうも。仲仁田シイナです。よろしく」

 

 紹介もそこそこに、コイはポケットから薄汚れた手帳を取り出してリョウに渡した。先程の武器商人に会う前、商人の事務所に立ち寄って失敬してきたものである。

 

「紹介状送ってくれてありがとな、お陰で色々と収穫があったよ」

「これはその報酬、ということで?」

「中身は控えた。もうあたしらにゃ無用の長物だが、お前さんらの役には立つだろう」

「拝見致します」

 

 手帳をぱらぱらとめくり、流し読みしていくリョウ。その顔はページを追うにつれて険しくなっていった。

 一通り読み終えると、リョウは険しい表情をそのままに顔を上げる。

 

「……やはり我々の情報をマーケットガードに売っていたのは奴でしたか」

 

 忌々しげに吐かれたマーケットガードという名。マーケットガードとはブラックマーケットの自警団のようなものであり、マーケット内での行き過ぎたルール違反や、マーケット自体に対する攻撃の排除などを行っている。

 というのは建前で、実態はスポンサーの私兵と化すことがほとんどだ。アビドスにあるブラックマーケットでは、ほとんどがカイザーローンの支配下にある。カイザーローンがブラックマーケットにも支店を広げているためだ。

 スパスパヘルメット団は昨今、このマーケットガードによる度重なる妨害によって本業である違法電子機器の製造販売を阻害され、資金難に陥っていた。

 ピンポイントで弱点を突くマーケットガードの行動からスパイの存在を疑い、あらゆる取引先に内偵調査を始めた矢先、コイから連絡があったのである。

 

「処分は任せる。煮るもよし焼くもよし、ここから先、ヴァルキューレは関与しない」

「ありがとうございます。あとは我らで決着をつけましょう」

「そうしてくれや。じゃあな」

 

 用件を済ますやさっさと踵を返して覆面パトカーに向かうコイ。久しぶりの再会だろうに、世間話の1つもない。

 とはいえ本人達の関係性に口を出す立場でもないので、シイナもまた覆面パトカーに戻った。運転席に座った時には、スパスパヘルメット団も車に乗り込んでいた。

 

「いいんですか?」

「何が?」

「久しぶりだったんでしょう。何か話したりは?」

「別に。どうせまた会えるさ」

「……そうですか」

 

 別に今日生きていたからといって明日生きている保証などどこなもないのだが、それをコイが心得ていないはずはない。本当に話すことがないと思っているのだろう。

 

「……それで、次はどちらに?」

「本当ならあと何件か武器屋回るはずだったんだがな、手掛かりが出た以上調べない手はない」

「じゃあカタカタヘルメット団のアジトですね」

「いや、その前に寄りたいところがある」

 

 住所の書かれた紙をコイは寄越した。アビドス自治区内の別のブラックマーケットにあり、立地としてはアビドス自治区とミレニアム自治区の境界ぎりぎりに存在している。

 

「ここは?」

「行きつけの武器屋。この手の仕事に制式銃なんざ持ち出した日にゃマスコミの餌食だからな」

「私物の銃を買えと?」

「今回は奢ってやる。次から自分で買いな」

「ありがとうございます」

 

 シイナは行き先を確認してカーナビに入力し、サイドブレーキを解除した。

 

 

 

 ブラックマーケットとは合法、非合法を問わず営利行為を行う集団や店舗の集合体であったが、いつしかそれは犯罪者の住処を兼ね、自ら自治をするようになり、今や一種の街として見られることも多くなった。

 そんなブラックマーケット同士の交易も盛んになると、ブラックマーケット間を繋ぐ専用道路やルートの開拓が急速に進められた。安全かつ高速な交易路は経済活動を促進し、今やブラックマーケットはアビドスの主要産業と揶揄されるようにまでなった。

 そしてこれら非合法開拓道路を取り締まれるだけの自治行政能力は、アビドスには当然のように存在しない。

 

「そんな非合法道路の方が公道よりも整備されてるなんて……」

 

 歩道を巡回する清掃ロボットを横目にしつつシイナは呟く。

 違法営業で儲けた金によって支えられるブラックマーケット間高速道路の事業基金は、その莫大な資力を持って次々と土地を買収、道路を新設拡張し、最新の維持設備まで完備させていた。ここまで豪華な道路はD.U.でさえ滅多にお目にかかれない。

 

「バックにカイザーがいるってのもあるだろうな。カイザーローンが支店を建て始めてから、基金に金をつぎ込み始めたのさ」

「しかしブラックマーケットに支店を出すというのも、中々リスキーだと思いますが」

「ブラックマーケット自体が全て違法な訳じゃない。適法な手続きをすればお縄になることはないし、実際カイザーローンも今のところ法に触れる真似は表立ってしてはいない」

「でも犯罪者や予備軍の温床です。強盗に遭うリスクもあるんじゃないですか?」

「そのためのマーケットガードだ。だからカイザーは真っ先に奴らを取り込んだわけ」

 

 解説する間に、目的のブラックマーケットが見えてきた。多くのブラックマーケットとは違い、高層ビルが立ち並ぶ様は1つの大都市のようでもあった。

 

「ミレニアム出身の不良や犯罪集団が入り込んでから、途端に急成長した典型だな」

「ミレニアムにも不良がいるんですか?」

 

 シイナはふと聞いてみる。とにかく頭がいいイメージのあるミレニアムにおいて、不良であるとか犯罪者といった者は想像しずらいのだろう。

 

「頭がいいからこそ犯罪に走るやつもいるのさ。違法賭博然り、インサイダー取引然り、サイバー犯罪然り。

 頭がいいのとお利口なのはイコールではないってわけだ」

「確かに」

 

 最近日頃から実感するようになった事象に納得した様子でシイナは頷くと、ブラックマーケットに入り地下道路に進んでいく。

 しばらくトンネルを走って地上の裏路地に出ると、居住区画に入った。プレハブ小屋が立ち並ぶ様は高層ビル街の営業区とは大違いだ。

 

「この奥ですね」

「そうそう」

 

 居住区画の奥にある駐車場に覆面パトカーを停める。すぐ目の前に、『ガンズ・イシカワ』の看板を付けたプレハブ小屋があった。

 パトカーを降りて店に入る。鉄板を貼り付けただけのような雑な扉を開けると、中は意外にも洒落たカフェスタイルの空間が出迎えてくれる。

 木目調のカウンターに木材と鉄パイプのテーブルや椅子、装飾として置かれた植物が彩る店内は、陽当たりの悪さからくる暗さとペンダントライトの明かり、そして壁にずらりと架けられた銃によって、さながら『夜の秘密基地』といった独特な雰囲気を演出していた。

 

「いらっしゃい。……おや、誰かと思えばコイじゃない」

 

 カウンター越しにそう声を掛けたのは、タキシード姿の女子だった。

 銀髪ウルフカットの彼女こそ、この店の店主、伊志川(いしかわ)マナカである。

 ブラックマーケットに店を構え、実際密輸品も取り扱う彼女だが、ミレニアムの学籍を保持している点でそこらの不良とは一線を画している。お陰でミレニアムの各種学生サービスも利用でき、そこから得た情報や技術も商売道具としていた。

 

「久しぶりね。そちらは?」

「仲仁田シイナ。部下だよ」

「へぇー、あなたも部下を持つようになったんだ。世も末ね」

 

 マナカに軽口を叩かれながら、コイはそれを笑い飛ばしてカウンター席に座る。

 

「言ってろ。いつもの1つ」

「はいはい」

 

 拭いていたグラスを置いて注文を受けるマナカは、ついでシイナにも目を向けた。

 

「シイナちゃん、でいいかな?何にする?ああ、メニューはこっちね」

 

 マナカが差し出したメニューを受け取って流し読みする。

 書いてあるのはどれも飲料か料理だ。ソフトドリンクの他にワインやカクテル等のアルコールもある。料理は一見すると洋風がメインだが、中には牛の角煮や麻婆豆腐といった趣の異なる料理もメニューに含まれていた。値段も手ごろで、大手チェーンのファミレスにも引けをとらない。

 そして不思議なことに、武器弾薬は一切記載がない。

 

「とりあえず、牛串焼きと烏龍茶を」

「はいよ、ちょっと待っててね」

 

 注文を受けたマナカは早速調理を始める。

 冷凍庫から出した牛肉をミレニアム特製瞬間解凍機で解凍し、串に刺して特製のタレにくぐらせる。

 そしてカウンター裏にある炭火焼き調理器に乗せて焼き始める。側に設けられた換気装置とマナカの火加減のお陰で焦げ臭さを感じることはなく、うまい具合に炭火焼きの良い香りだけがほのかに流れてきた。

 

「この換気具合を調整するのにはなかなか苦労したよ」

 

 シイナの心中を知ってか知らずかそう話すマナカ。変なところに努力と技術をつぎ込むのはミレニアムの伝統芸らしい。

 同時並行で飲み物を用意している間に、コイがマナカを紹介した。

 

「こいつは伊志川マナカ。ミレニアムサイエンススクール3年でここの店主」

「こんなところに店を出してよく学籍剥奪されませんね」

「一応オンラインで授業には出てるらしいからな」

「オンラインで?」

 

 コイの回答はシイナを驚かせはしたが、ミレニアムにおいては実際珍しいことではない。

 各々の研究、開発を奨励するミレニアムにおいて研究に関係のない時間の拘束は一際忌避されており、研究のためなら授業をオンラインで受講したり、必要な申請をすれば公認欠席が認められたりするなどの制度が整っている。

 マナカも公欠で通したかったようだが、さすがに申請が通らなかったようでオンラインでの受講に切り替えていた。

 

「はい、お待ち。牛串焼きと烏龍茶」

 

 話をするうちに料理が出てきた。肉汁が光を反射して輝く串焼きと、グラスに注がれた烏龍茶は、見てくれこそ他の飲食店とは大差ない。

 

「いただきます」

 

 そう言って串焼きを食するシイナ。程よい弾力はなるほど牛肉だし、それほど高級品ではないのは確かだろう。

 とはいえ事前の下処理によって余計な硬さを低減し、肉汁の旨味と塩コショウの塩味によって補完された全体的な味わいは、そこらのファミレスでは味わえないだろうことはシイナにもわかった。

 

「んで、こっちがコイのね」

「あざっす」

 

 そしてマナカがコイに出したのは、バタピーと中ジョッキのビールだった。

 受け取るやビールを一気に傾けて飲み干すコイ。喫煙にとどまらず未成年飲酒までやっていたことに頭を抱えそうになったが、そんなことを言えばシイナとて営業許可の出ていない飲食店で飲食しているのだから同罪だろう。なにも考えないことにした。

 

「っかー!やっぱビールは密輸品(スーパードライ)だわな、のどごしが違うわ」

「こらコイ。イッキ飲みは体によくないよ」

「アルコール飲んでる時点で健康もクソもあるかよ。おかわり」

 

 ご機嫌にジョッキを突き出すコイに苦笑を投げかけ、マナカはジョッキを受け取った。

 

「で、今日はどうしたの?」

「看板に書いてある通りのことを頼みにな」

「なに、また何か壊したの?」

「違う違う、こいつの銃を見繕って欲しいのさ」

 

 言いつつ、シイナの肩をばんばん叩くコイ。やっぱり酔ってるなと、シイナは苦い顔をするしかない。

 

非正規任務(ブラックオプス)に制式拳銃持ち出すのはリスキーだかんな」

「なるほど、それで部下ちゃんに私物の銃を買ってあげようってことね」

 

 納得したマナカはキッチン下のボタンを押す。するとカウンター奥のワインの棚が回転してガンラックが現れ、キッチンも格納されて作業台が展開された。

 元々店内に飾られていた銃はいずれもコッキングハンドルとトリガーが抜かれて撃てないものになっていたが、今現れたのは違う。れっきとした『商品』だ。

 

「それでシイナちゃん、どんな銃がお好みかな?」

 

 マナカはシイナに尋ねた。見たところ、ガンラックにはハンドガンからアサルトライフル、サブマシンガンまで、普段使いするような銃種は揃っている。

 シイナは一瞬考えこむ。どんな銃が好みか。

 そもそも今まではハンドガン、ショットガン、アサルトライフルしか使ったことがなかった。アサルトライフルにしても銃身の短いPDRだけだし、ショットガンもソードオフされた9号ショットガンぐらいしか使ったことがない。

 対してハンドガンはそれこそアリウスにいた頃から使っている。最初に使ったのは粗悪なアリウス製量産型ハンドガン(SIG P220)で、それから何回か機種を乗り換えている。その経験から、シイナは答えを出した。

 

「ハンドガンがいいです。口径は9mm、4インチ程度のバレルでトリガープルは約1kg、トリガーの遊びも詰めてください」

 

 シイナが欲したのはハンドガン、それも自分の()()についてこれるようなものだった。

 今まで使ってきたものは、いずれもトリガーを引くのに必要な力であるトリガープルが重かったり、トリガーストロークがあったりして、シイナの反射速度にどうしても追い付けない部分があった。

 勿論、一般的な拳銃には、安全上相応のトリガープルやストロークが設けられるべきではある。これらがなければ暴発の恐れがあるからだ。

 だがそれは同時に、シイナの射撃の判断から発射までのタイムラグを伸ばす原因にもなっていたのである。

 

「はいよ、ちょっと待ってね……」

 

 注文を受けたマナカが後ろのガンラックに視線をやる。いくつかの銃を取ったところで、ふとコイが何か思い出した。

 

「あ、そうだ。これ使えない?」

 

 そう言って取り出したのは、つい先刻武器商人から強奪したハンドガンだった。

 厳密にはSTACCATO C2と呼ばれる9mm自動拳銃で、3.9インチブルバレルを備えたコンパクトモデルだ。サイトをマウントできる箇所やアンダーレールもあり、拡張性は十分ある。

 

「そうやって本体代金浮かせようって腹でしょ?」

「いいじゃん別に」

「わかったよ。これベースで調整するけど、シイナちゃんもいいかな?」

「ええ。お願いします」

 

 シイナの意向も確認して、マナカはSTACCATOをベースにシイナの専用武器を作り始めることにする。

 ガンラック下の引き出しを開けて、必要なパーツを見繕うマナカ。いくつかパーツと工具を取り出して作業にかかる。

 

「なあ、あたしのビールは?」

「今手が離せないからセルフサービスで」

「客に注がせんのかい」

「コイのことだし別にいいかなって」

「わーったよ」

 

 カウンターから空ジョッキを取ってビールサーバーへ向かうコイ。そんなコイに、マナカはふと尋ねた。

 

「ネルには会ったの?」

「いや」

「どうして?会いたがってたわよ」

「あっちが会いたくてもこっちが会いたくねェの」

 

 手をひらひらと振って答えた時、コイのポケットからバイブレーション。着信だ。

 スマホを出してみると発信者はリョウだった。普段自分から電話してこないリョウが発信してきたということは、何かあったのだろう。

 

「わり、ちょっと電話してくるわ」

 

 コイはそう言ってジョッキを片手に店の外に出ていった。

 店のジョッキを外に持ち出すのはどうなんだと思うシイナだったが、そこはそれ、マナカも容認しているらしい。アイコンタクトで追わなくていいと言っている。

 本人が言うならその通りにするとして、シイナには気になっていることがあった。

 

「ネルって、C&Cの美甘(みかも)ネルのことですよね?お知り合いなんですか?」

 

 シイナが尋ねたのは、先ほどのやり取りに出てきた人物のことだ。

 美甘ネル。ミレニアムの生徒会組織『セミナー』管下にある武力行使部隊『Cleaning&Clearing(C&C)』のリーダー。『約束された勝利の象徴』と評される彼女が、何故問題警官のコイに会いたがるのか。

 

「幼馴染。昔は私とコイとネルで随分やんちゃしたなぁ」

「会わなくなったのは、いつ頃から?」

「学校自体がバラバラになったのは中1の夏ぐらいかな。通ってた中学校がなくなったの」

 

 マナカは作業を進めながら当時のことを話した。

 元々通っていた中学校が廃校になり、3人は別々の学校へ転校することになったのだという。マナカは親に受験させられた私立の進学校へ。ネルは受験する金も意思もなかったので近所の公立中学校へ。

 そしてコイは、身寄りがなかったのでD.U.にある全寮制の学校へと転校したのだ。

 

「びっくりしたよね。あのコイが『アレス警察予備学校』の卒業生だなんてさ」

「アレス警察予備学校の!?」

 

 その学校の名前はシイナでさえ知っていた。十数年前、当時の連邦生徒会長肝いりで立ち上げられた中学校相当の特別訓練学校が、アレス警察予備学校だった。

 『キヴォトス内外のあらゆる脅威に備える』ことを主たる理念に置いており、その実態は警察というより軍隊が近い。あまりの厳しさに、転校希望者や自殺者が後を絶たなかったと言われている。

 現在はその役割をSRT特殊学園やヴァルキューレ警備局が担うようになり、SRTが表舞台に姿を現したのと前後して閉校となった。コイ達がちょうど最後の代になる。

 

「それでも、転校してからしばらくは会ってたんだ。コイが会いに来なくなったのは、そうだな、だいたい2年前ぐらい。

 その辺からコイも性格変わっちゃって、今みたいになったの」

「2年前……」

 

 マナカの言う時期に、シイナは心当たりがあった。免許センターに来ていたホシノとコイが話していた『2年前の事件』。あれがコイを変えたのではないか。

 

「2年前、何があったんですか?」

 

 しかしそう聞かれても、マナカはうーんと唸って首を傾げる他ない。フレームを削ったり付け足したりしながら口を開くが、そこに核心的な答えはないらしい。

 

「私もよく知らないんだよね。当時コイは公安局にいて、尾刃(おがた)カンナって人と一緒に何かの事件を担当してたってことぐらいしか」

「そうですか……」

 

 そこまでで、話題は一先ず切り上げることにした。

 マナカから得られた情報は少なかったが、それでも収穫はある。尾刃カンナといえば現職の公安局長だ。期別もコイと同期で部署も同じ。カンナに聞けば何かわかるだろう。

 そこまで考えて、ふとシイナは引き出しを見やる。奥にアサルトライフルらしきものが見えた。

 

「伊志川さん、あのライフルは?」

「ん?ああ、これね」

 

 言われてマナカもライフルを引っ張り出す。部品がいくつか欠けた、どう見ても撃てるものではないライフルだ。

 

「その辺で買ってきたジャンクね。パーツ取りに使えるかなと思って買ってきたの」

「へぇ……」

 

 そのライフルを見て、シイナは気付く。自分の戦い方、特に本気で戦う時にはどんな武器を使っているか。

 勿論ハンドガンは必須だ。だがそれは左手に持っている。右手は?

 そう、右手の武器がない。

 

「伊志川さん」

「なに?」

 

 シイナは財布の中身を確認して、マナカに切り出した。

 

「そのライフル、私に売ってくれませんか?」

 

 

 

 店の外に出たコイは、ジョッキを傾けながら応答ボタンを押してスマホを耳に当てていた。

 

「もしもし、私だけど」

『突然ご連絡して申し訳ございません。今お時間よろしいでしょうか?』

 

 電話口の声は間違いなくリョウだった。喋り方もいつも通り。()()を使ってこないあたり、誰かに脅されているというわけでもないらしい。

 単純に連絡すべきことがあってのことか。

 

「いいけど、どした?」

『例の武器商人を締め上げたところ、気になる情報を吐きましたので、一応ご報告に』

「気になる情報?カイザー関係か?」

『いえ、連邦生徒会関係です』

「なに?」

 

 コイは訝しんだ。どうしてここで連邦生徒会の名前が出てくる?

 とにかくリョウに話を続けさせた。

 

『カタカタヘルメット団が武器を買いに来る前、ある客が超高出力の電気ネットを買いたいと言って来たことがあったそうです。取り扱いがなかったので、別の商人を紹介したそうですが』

「電気ネット?害獣の捕獲とかに使うあれか。それで?」

『この商人、数年前から連邦生徒会の関連施設に忍び込んで、廃棄品などを盗んでは売りさばくこともしていたようです。その時に見かけた職員が、その時来た客だと言っています』

「……連邦生徒会関連施設の職員が電気ネットを買いに違法な武器商人を訪ねたと?」

『そうです』

 

 解せないな、そう思いながら再びビールを喉に流し込むコイ。

 連邦生徒会の関係者で必要な備品なら、申請をすれば財務室経由で調達できる。高出力な電気ネットなど、適当な理由を付ければ公費で買えただろう。わざわざ自腹を切って、しかも違法な商人の下を訪ねる理由がない。

 

「その関連施設ってのは?」

『商人が言うには、『連邦技術研究所』だと』

 

 その名前にコイは表情を険しくした。

 連邦技術研究所、通称、連邦技研は連邦生徒会の組織の1つであり、行政委員会科学室の直下にある研究機関だ。

 主な業務は各地の科学技術の収集と保存であり、業務特性から文化室からも予算を配当されている、極めて贅沢な環境にある機関のはずである。

 まかり間違っても職員が自腹を切ることはない。少なくとも職務上の出費においては。

 

「連邦技研が?ますます解せんな」

『他にも何かわかったらお知らせいたします』

「おう頼むわ。そんじゃ」

 

 それだけ言って電話を切る。リョウに頼んで商人の身柄を引き渡してもらうこともできるが、そんなことをしても得られる情報はないだろう。面通しをするにしても、それまで留置場に入れとくのも負担になる。このままリョウ達に粛清してもらった方が早い。

 ビールを飲み干して店内に戻ると、何故かシイナがマナカの隣にいた。しかもシイナも銃を弄っている。

 

「なんでお前さんまで銃弄ってんの?」

「2丁目を買ったので」

「早えわ」

 

 苦笑するコイはとりあえずジョッキを置いて、部下に指示を出すことにする。

 

「すまんが用事が出来た。あたしはちょっと外すから、夜1時30分に砂尾町南のエンジェル24の駐車場に来い。それまではここにいろ」

「了解しました」

「素直で結構。マナカ、お代置いとくぞ」

 

 それだけ告げてさっさと店を後にするコイ。善は急げとも言うし、示した時間までは割と余裕がない。

 ブラックマーケットの航空機発着場に向かいながら、コイは電話をかけた。

 

『はい。防衛室長、不知火です』

「生駒です。至急調べていただきたいことがあります」




澤井(さわい)リョウ
 学籍なし:14歳
 スパスパヘルメット団長
 固有武器:『いもうと(ウィンチェスターM1905)』RF

 コイの協力者の1人。3本の矢が刺さった灰色の円形ヘイロー。
 灰色のストレートロングに黒の作務衣。
 コイに拾われるまでの記憶がほとんどなく、ただ唯一の所持品であるライフルの名前だけを覚えるのみだった。今の名前はコイから貰ったものである。


伊志川(いしかわ)マナカ
 ミレニアムサイエンススクール:3年生
 武器店『ガンズ・イシカワ』店長
 固有武器:『ワサビ(AK−19コンパクトモデル)』AR

 コイの協力者の1人。正六角形の中に正三角形を2つ上下逆に重ねたオレンジ色のヘイロー。
 銀髪のウルフカット。タキシードを着用。
 コイが全幅の信頼を置くガンスミスであり、中学1年までの同級生でもある。一応オンラインで授業には出ているらしく学籍を維持している。
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