ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
「あともう少しね! 押すわよ!」
草木のない荒れ果てた大地で、1つの大きな影を中心として3つの影が踊る。
「【アガリス・アルヴェシンス】!」
紅い炎を纏って大きな影に突撃するのは『
「おい! 回復よこせ!」
大きな跳躍によって下がり、私にそう言ったのは少女のような姿のピンク髪の
「【私が願う。響き渡れ、癒しの旋律】」
それに応えて魔法の詠唱をするのは私、ユイ・レグリース。アリーゼとライラがザ・冒険者といった装いであるのに対して、私は修道服という一般的に見れば戦いに向かないであろう格好だった。
「【ラヴィ・ルミエール】」
私たちは今、バロールと呼ばれる単眼の怪物を相手にしていた。
迷宮都市オラリオ。世界の中心とも呼ばれるこの街に存在するダンジョン。その49階層に現れるモンスター、バロール。ただのモンスターではなく、階層主と呼ばれる一際強力なモンスターだ。
本来なら何十人もの戦力で当たるべきこのモンスターに何故3人で挑んでいるかと言えば、それはそれは深い理由があった。
話は今朝に戻る。
現在、私は主神であるヘスティア様と共に、ヘスティア様の友神であるヘファイストス様のお世話になっている。【ヘファイストス・ファミリア】のホームの一部を借りて生活しているのだ。
もちろん、タダで泊めてもらっているわけではなく、宿泊料としてお金は払っている。そうして我が【ヘスティア・ファミリア】結成から10年近くお世話になっていたのだが、今朝になって急にこう言われてしまった。
「ウチに居候し始めてからもう10年も経つわ。分かる? 10年よ、10年。最初は色々と物騒だったから仕方ないにしても、もうそろそろ自立しても良いんじゃない?」
それに対してヘスティア様は、
「居候って、ちゃんと家賃は払っているじゃないか。まさか、あれで足りないと言うのかい!? ヘファイストス、もしかして案外ケチ?」
と言ったので私も、
「余裕を持った女性の方がモテますよ」
と追従しておいた。
ヘファイストス様の額には青筋が浮かんだ。
「前に話してから結構経つわよね。あんたたち、もちろん新しい住居は決めたのよね?」
急に、ではなかったかもしれない。かもしれないが、ともかく住む場所を追い出される危機だったのだ。
衣食住の住がなくなる瀬戸際だったため、私はヘスティア様と共にみっともなくヘファイストス様の足にしがみついてなんとか思いとどまってもらおうとした。そしてその結果、
「そこまで言うならバロールのドロップアイテムでも取ってきてもらおうかしら。もちろん今日中にね。それが出来たら考えてあげるわ。それが無理なら諦める事ね」
という条件をなんとか取り付けた。
そして、1人では難しいので親しい仲であるアリーゼとライラを頼ったというわけだ。アリーゼはLv.6で全冒険者の中でも屈指の実力者であり、ライラはLv.5であり単純な戦闘力で言えば私を含めた3人の中で一番低いかもしれないが、一番の知恵者だ。
アリーゼはもちろん、ダンジョンの構造を詳細に把握しているライラがいなければヘファイストス様の言った条件を達成するのは不可能だった。
「【
爆発が起こる。アリーゼの魔法だ。
バロールはかなりのダメージを負っている。先ほどアリーゼが言った通り、あと一押しだ。
私はポーチからT字状の物体を3つ取り出し、それぞれ人差し指と中指、中指と薬指、薬指と小指の間に挟んだ。そこへ
そして先ほどまで両手で持っていた、赤いラインの入った黒い刀身の剣を片手持ちへ。その剣はただの剣ではない。
右手に黒鍵、左手に黒い聖剣を持ち、バロールへと向かう。バロールはビーム攻撃を放ってくるが、ライラが駆け回って気を散らしてくれているおかげでそれほどこっちには飛んでこない。
私の接近に気付いたバロールの薙ぎ払いを、聖剣を振って軌道を逸らす。聖剣の軌跡を黒い魔力がなぞった。シスターの修道服のような私の戦闘衣を掠ったが、問題はない。
「アリーゼいくよ!」
「分かったわ!」
叫ぶのと同時に黒鍵を投擲。3本全てがバロールの目元に突き刺さり、その衝撃で巨体が仰け反った。
ありったけの
「【
「
紅い炎と黒い魔力の塊がバロールを襲う。
程なくしてその身体は灰となって消滅した。
ちなみにだが、私はいわゆる転生者だ。詳細は省くが、この世界に転生してこのオラリオを訪れた。今手に持っている黒い聖剣も先ほど投擲した黒鍵も前世のアニメにあった武器を再現したものである。
「よし、ドロップアイテムも落ちてる」
バロールのドロップアイテムを四次元ポーチにしまう。このポーチも言わずと知れたアニメの道具を再現したものだ。
「ありがとう2人とも。あとは帰るだけだね。ダッシュで」
「お前マジで覚えとけよ」
「もー、怖い顔し・な・い・で?」
49階層までほぼノンストップ猛ダッシュで潜って、そこから休憩なしでバロール戦だ。我ながら無茶苦茶な事に付き合わせた自覚はある。
ライラに睨まれたので、お返しで抱き締めてあげた。
「第一級冒険者で大男も投げ飛ばせるパワーがあるのに、女の子の身体が柔らかいのって不思議だよねぇ」
「アタシにはお前のアーパーなおつむの方が不思議だよ。リオンにやって殴り倒されたの忘れたのか」
「アリーゼが良くて、なぜに私はダメなのか」
「下心が透けてるからだろ」
「下心なんて、そんなまさか」
中和成功。ハグにはリラックス効果があるとかどこかで聞いたが、本当だったようだ。
ライラは小人族で身体が小さいので抱き締めやすい。
「お疲れ様のハグね! 私も混ぜてもらおうかしら!」
そこへアリーゼが加わった。私とアリーゼでライラを挟む形だ。
「ちょ、暑苦し」
「ちょっとしんどかったけど、たまにはこういうのも良いんじゃないかしら! 刺激は私の情熱的な炎をより引き立てさせる最高のスパイスだもの! ああ、今日は一際輝いているわ、私!」
「さすがアリーゼ! よっ、一番星!」
「フフーン、バロールさえも私の引き立て役にすぎないのね!」
「2人でやってくれ。頼むから」
時間は限られているため、そこそこの時間でハグを止めて走り出す。
私の魔法は傷だけでなく体力も回復させられるので、魔法を使いながらであれば、この49階層から地上まで休息なしで走り切る事が出来る。しんどいのはしんどいが、生活の危機であるため仕方ない。
地上に戻る頃には夜になっていたが、日付はまだ変わっていなかった。
「ヘファイストス様! 取ってきました!」
「ウソでしょ、あんた……!?」
私はなんとか猶予を貰う事に成功した。
これはヘスティア様やアリーゼたちとわちゃわちゃしながら繰り広げられる私たちの
○【ヘスティア・ファミリア】
・約10年前に結成された
・団員数たったの1人
・【ヘファイストス・ファミリア】のホームに居候している(家賃は払っている)
○主人公(♀) ユイ・レグリース
・転生者
・黒髪ボブカット
・普段着、部屋着、戦闘衣全て修道服を模したもの
・何もない日は一日中ダラダラしている
・前世に見た創作物の武器を再現して我が物顔で使っている
○【アストレア・ファミリア】
・全員生存している