ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

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59階層へ

 

 

「Lv.2になったと聞きました。ミノタウロスを倒したとか」

「はい。リューさんが教えてくれたおかげです」

 

 ミノタウロスとの激闘が明けて、僕は報告のために【アストレア・ファミリア】のホームである星屑の庭を訪れた。

 リューさんとの鍛錬は大体この星屑の庭の庭……ややこしいけれど、【アストレア・ファミリア】のホームの庭で行っていた。時々通りかかる【アストレア・ファミリア】の皆さんとも挨拶をする事があるから、しっかり話した事はなくても顔だけは覚えてきた。

 

「一月余りでランクアップ。常識外れではありますが、貴方にはそれが合っている。英雄になるというならば、立ち止まっている暇はありません」

「はい! これからもよろしくお願いします!」

「例のサポーターの件も解決したようですし、懸念すべき材料は解消したようで何よりです。ところで、私はクラネルさんがユイに気絶した状態で運ばれてきたと小耳に挟みました」

「はい……?」

「例え強大な敵を打ち倒したとしても、その後動けなくなっていては困ります。鍛え直しです。構えなさい」

「え……!? ほぐぇっ!?」

 

 宙を舞う僕の身体。

 やっぱりリューさんはスパルタだった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

「結局治療師(ヒーラー)っていうのは最後まで立ってないといけないわけなので、磨くとしたらまずは逃げの技術ですね。だからもし並行詠唱を練習するなら、最初は余計な事はせずにただ走りながらの詠唱が良いと思いますよ。専門の治療師(ヒーラー)ならこちらから敵にアクションを起こす事はないですから。まぁ、そんな事リヴェリアさんとか他の人から聞いてるかもしれないですけど」

「いえ、勉強になります!」

 

 ベルとリリを地上に送り届けた後、急いで18階層に向かった私は現在【ロキ・ファミリア】と合流し50階層を目指していた。

 道中の話し相手になってくれているのは【ロキ・ファミリア】の治癒師(ヒーラー)の人たちだ。

 

「はいはい! 治癒師(ヒーラー)も戦闘技術を磨いた方が良いですか?」

「もちろん可能なら磨くのが望ましいですよ。戦える治癒師(ヒーラー)は強いので。それに前線で治療する事も出来ますし。でも、戦うという事はそれだけやられるリスクも増えるって事なので、その辺りは慎重に」

「分かりました!」

 

 さすがにフィンさん、リヴェリアさん、ガレスさんぐらいしか友好関係がないというのも寂しい。という事で、リヴェリアさん紹介のもと治癒師(ヒーラー)同士で交流を深めているのだ。

 私の出番が本格的に出てくるのは51階層以降との事なので、今のところただ雑談しているだけであるが。

 

「あの、治癒師(ヒーラー)として何かアドバイスはありませんか……?」

「そうですね。1つ言うとしたら、仲間だけじゃなくて自分を治癒する練習もしておいた方が良いって事です。何度も言いますけど、例えパーティーが壊滅したとしても最後まで立っているのは治癒師(ヒーラー)である必要があります。自分の生存率を上げるのも大事ですよ」

 

 傷を負った者が現れれば、【ロキ・ファミリア】の治癒師(ヒーラー)が癒す。私はそれを傍で見ているか、適宜アドバイスをする。

 結局、私は1度も自分の魔法を使う事なく50階層に到着した。

 

「さて、最後の打ち合わせを始めようか」

 

 テントなどを張り終え、拠点の作成が完了してから少し。フィンさんを中心として【ロキ・ファミリア】幹部および数名、私、椿さんは集まっていた。

 

「事前に伝えてある通り、51階層からは少数精鋭で進む。パーティーには僕、リヴェリア、ガレス、アイズ、ティオナ、ティオネ、ベート。サポーターにはラウル、ナルヴィ、アリシア、クルス、レフィーヤ。鍛冶師として椿。そして、治癒師(ヒーラー)としてユイ。とはいえ、椿もユイもそれぞれ戦力として数えている。剣を取って戦ってもらう事になると思っておいてくれ」

「おうとも」

「分かりました」

 

 パーティーメンバーの確認が済むと、今度は椿さんが武器を取り出した。

 

「では、渡すものを渡していくぞ」

 

【ロキ・ファミリア】の主要戦闘員で不壊属性(デュランダル)の武器を持っていない者に対して、新たに不壊属性(デュランダル)の武器を打ってきたらしい。武器すら溶かす毒を持つ新種のモンスター対策だそうだ。

 私の場合、黒鍵は使い捨てで使えるし、聖剣類は不壊属性(デュランダル)を備えているため新たに武器を用意しなくても問題ない。

 

「僕から伝える事は全て伝えた。他に何かある者はいるかい?」

「それでは、私から1つ」

 

 フィンさんの言葉に私は手を挙げた。

 そして、私の治癒魔法【ラヴィ・ルミエール】についてパーティーメンバーに教えておいた。

 第一から第三までの詠唱に、その効果。治癒師(ヒーラー)として参加するのだから、治癒を受ける側も詳細を把握していた方が戦闘中もスムーズになる。

 

 その後は解散となり、明日にいよいよ51階層へ進行するという事になった。

 他の面々は寝る前に何か色々やっているようだが、私はすぐに自分のテントに戻り、寝袋に包まった。しかし、すぐに眠る事は出来なかった。

 51階層から下は50階層までとは比べ物にならない危険地帯だと言われている。ヘスティア・アストレア派閥連合としての到達階層は51階層であるため、51階層までは実際に知っているが、52階層以降は私にとって未知である。もちろん事前に知識としては知っているが、足を踏み入れるのは初めてだ。

 恐らく死に瀕するような事態にはならないだろう。しかし、何かがあると直感は言っている。そして、それはきっと59階層。【ロキ・ファミリア】ですら未知の領域だ。さらに言えば、私は命を預かる治癒師(ヒーラー)。緊張するなという方が無理である。

 アリーゼがいたらまた話は違ったのだが。

 

 四次元ポーチに収納されている多数のアイテムの中から、1つのものを取り出す。

 それは何の変哲もないシャツだった。ただし、私のものではなくアリーゼのもの。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 やっぱりアリーゼの匂いは落ち着く。

 もちろん、盗んできたわけではない。遠征出発前に正式に借りてきたものだ。この遠征が終わったらちゃんと返す予定である。

 本当は他にも色々借りようと思ったのだが、どこからか見ていたライラに「……ほどほどにしとけよ。マジで」という大変ありがたいお言葉を頂いたため、シャツ1枚で我慢する事になった。他の人に聞かれないようにこっそりアリーゼに頼んだはずだったのに。

 ともかく、これでぐっすり眠れる。そう思った瞬間、外から声が掛かった。

 

「ユイ、今大丈夫だろうか? 明日の事で少し合せておきたい事があるのだが」

「リヴェリアさん? どうぞ」

「ああ、すまない……な?」

 

 リヴェリアさんも治癒の魔法を使えるのでその辺りの事だろうかと、天幕に招いた。個人用であるため狭いが、もう1人入るぐらいは大丈夫だろう。

 しかし、リヴェリアさんは入ってきた途端に語尾が消えていった。何かあったのかと考えてみれば。

 

「……あっ」

 

 私は今アリーゼのシャツの匂いを嗅いでいたのをすっかり忘れていた。そのシャツは赤を基調としたもので、見る者が見ればアリーゼが好みそうだという事は分かる。

 

「いや、すまない……なんというか、その……」

「こ、これはちゃんと貸してもらったやつなので!」

「そ、そうか……それは、安心だな……?」

 

 マズい。これは大変マズい。

 このままでは【ロキ・ファミリア】内での私の評判が……。

 

「話! 何か話があったんですよね!?」

「あ、ああ……」

「早く済ませましょう!」

「そうだな……」

 

 打ち合わせる事は打ち合わせ、そして私はなんとか先ほど見た事を黙っておくという約束を取り付けた。

 おかげで緊張はほぐれたが、私の尊厳を懸けた厳しい戦いだった。

 

 

 

 翌日。ついに59階層へ向けての進行が始まる。

 

「さて、ここからは無駄口はなしだ。総員、戦闘準備」

 

 フィンさんの掛け声に、みんなが体勢を整える。私もそれぞれの指の間にT字型の黒鍵を挟み、刃を生成する。

 

「行くぞ!」

 

 前衛は【ロキ・ファミリア】幹部陣、私はサポーターや椿さんと同じ後衛に控えた。

 さすがは【ロキ・ファミリア】、少し前にアリーゼ、ライラとダンジョンタイムアタックをしたときにも劣らない速度で進んでいく。

 

「ユイ! こいつを持っておいてくれ!」

 

 椿さんがドロップアイテムを私の方へ放り投げてきた。

 

「もう、後でいくつか分けてくださいよ」

 

 私の両手は黒鍵で埋まっているのだが、仕方ないので頑張ってポーチを広げてキャッチする。

 

 新種の芋虫型のモンスターと遭遇しながらも、それほど時間を置かず52階層へ降りる階段にたどり着いた。

 

「いよいよ52階層に降りる。ここからはもう補給は出来ないと思ってくれ」

 

 52階層からは、モンスターからの狙撃に晒されるという。58階層に生息するヴァルガング・ドラゴンというモンスターが階層無視の砲撃を放ってくるらしい。

 実際に見た事はないが、そんなに何層もぶち抜く砲撃だ。とてつもない威力だろう。まともに食らうのは避けたい。

 

「ベート、転進しろ!」

 

 フィンさんが叫んだ直後、『凶狼(ヴァナルガンド)』の進行方向に巨大な炎の柱が昇った。

 なるほど、これが。

 

 迂回し、ルートを変える。

 そして、下に気を向けた瞬間。

 

「ラウル、避けろ!」

 

超凡夫(ハイ・ノービス)』を庇った『千の妖精(サウザンド・エルフ)』がモンスターの粘糸のようなものに捕まった。

 すぐに黒鍵を投擲し、モンスターによる拘束を解くが、引き寄せられた際の慣性に従って『千の妖精(サウザンド・エルフ)』の体は止まらない。

 さらにタイミングの悪い事に下からの砲撃。新たにできた縦穴に彼女は落ちてしまった。

 黒鍵により穴の側面に縫い付けようとするが、タイミング悪くまたもや下からの砲撃。完全に射線を遮られてしまった。

 

 私の失態だ。

 サポーターとして参加していた『千の妖精(サウザンド・エルフ)』は私に近い位置にいて、しかも私には即座の遠距離攻撃手段があった。

 こういうときに実感する。私は直感に頼り切りだという事に。

 直感は私自身に対する攻撃などには反応するが、他人には反応しづらい。アリーゼなど親しい者にはそこそこ働くが、今ここにいるメンバーのほとんどには当てはまらない。

 

「私がカバーします。皆さんは正規ルートで進んでください。フィンさん、58階層で合流しましょう。恐らく58階層まで大きなイレギュラーはないかと。あるとすれば59階層」

「僕も同意見だ。すまない、レフィーヤを頼む」

 

 こんな階層でパーティーを分けるのは得策ではないが、かといって多数の荷物もある中で全員大穴に飛び込むなどそれこそ愚策。

 人数が限られた中でカバーに入るなら、近距離から遠距離の広い範囲に対応出来る私が適任だろう。モンスターの接触を許してしまった私の責任もある。

 

 私は縦穴に飛び込んだ。

千の妖精(サウザンド・エルフ)』は既にかなり下まで落下していた。

 さらにその下では再び砲撃を放とうとしているドラゴン。

 

雷光(ブリッツ)

 

 黒鍵を目にも止まらぬ速度で投擲。

 

爆発(バン)

 

 着弾と同時に爆破し、砲撃を阻止した。

 側壁を蹴って下に加速し、自由落下の『千の妖精(サウザンド・エルフ)』に追い付いた。

 

「ぁ……あ……」

「落ち着いて。私の目を見てください。ゆっくり深呼吸しましょう。吸って、吐いて。そう、その調子です」

 

 突然こんな奈落に落とされるような状況になればパニックになるのも仕方ない。しかし、さすがは【ロキ・ファミリア】というべきか、立ち直りは早い。

 

「身体に触れても大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です……」

 

 エルフには身体の接触を好まない者も多い。この緊急時に好き嫌いを言っている場合ではないだろうが、確認は大切だ。

 他派閥の者を雑に扱うわけにもいかないため、『千の妖精(サウザンド・エルフ)』の身体をお姫様抱っこの形で抱く。周囲を飛んでいた飛竜は手首のスナップで投げた黒鍵で処理した。

 

「このまま着地します。しっかり掴まっていてください」

 

 数秒後、58階層の地面に着地した。

 

「私が前衛と遊撃を受け持つので、後衛をお願いします。精神力回復薬(マジック・ポーション)はいくらでもあるので残りの精神力(マインド)は気にせず魔法を撃ちまくってください」

 

 身体を降ろしつつ、作戦を伝える。

千の妖精(サウザンド・エルフ)』が頷いたのを見て、私は新たに取り出した黒鍵を手にモンスターへ駆ける。

 まずは高火力ブレスを放ってくるヴァルガング・ドラゴン。黒鍵を爪のように振るい、首を断ち切る。

 支えを失ったように倒れる巨体を足場に、別方向へ加速する。道中の小物を切り裂きつつ、次のヴァルガング・ドラゴンへ標的を定める。

 射線が『千の妖精(サウザンド・エルフ)』に被らないように動き、放たれたブレスを跳んで躱した。そして、空中ですれ違い様に首を掻き斬った。首が長細い竜系のモンスターは首を狙いやすくて助かる。

 

「は、疾い……!?」

「あの、詠唱は……」

「す、すみません! 【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ】……」

 

千の妖精(サウザンド・エルフ)』が詠唱を始めたのを確認し、残りのモンスターへ視線を向ける。

 しかし、次の瞬間縦穴から新たな援軍が到着した。

 

「おりゃあ──!!」

「レフィーヤ無事!?」

 

 援軍は『大切断(アマゾン)』と『怒蛇(ヨルムンガンド)』の2人。どちらも近接戦主体の戦士だ。

 Lv.5なのでそうそう遅れをとる事はないだろうが、念の為意識の一部を向けていると全然戦えている様子だった。

 これは前衛は2人に任せて私は遊撃に専念した方が良いかもしれない。経験を積ませる的な意味でも。

 

「『猛者(おうじゃ)』に使ってたあの黒いやつ使わないの?」

「あれは細かい制御が難しいので味方が入り乱れていると使えないんですよ」

 

大切断(アマゾン)』に答える。

 まあ、使えない事もないが。私が個人的に黒鍵の方が好きだからこっちを使っているというのはある。出来る事も多いし。

 

「ちょっと、あんた。なんか団長と分かり合ってる風だったけど、まさか狙ってるわけじゃないでしょうね」

「いや、狙ってませんけど」

 

怒蛇(ヨルムンガンド)』からは妙な邪推。アリーゼがいるのに他を狙ったりしない。というか、フィンさんを狙ってるのはライラである。

 

「なんか余裕そうですね。私下がっても良いですか?」

「本当に狙ってないでしょうね?」

「だから、私にはアリーゼが」

「【ヒュゼレイド・ファラーリカ】!!」

 

 私たちの言葉を遮るように『千の妖精(サウザンド・エルフ)』の魔法が炸裂した。前衛2人が下がってきていると思ったが、魔法のタイミングを察知したのだろう。

 

「……まぁ、もう何でも良いので残りを片付けましょう」

 

 良い感じに数が減ったモンスターへ向かって、私は真っ先に駆けた。

 




○フィンを巡る戦い
・ティオネの筆頭ライバルはライラ
・種族という点でも付き合いの長さという点でも負けている
・ライラは1度嫌な予感や前世の因縁云々などと言われて断られたが、さすがにもう何年かすればそんな事を言ってられなくなる可能性が高い
・他者に気を取られている場合ではない
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