ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
アリーゼたちと合流した翌日。
ライラとは適当に商店を見漁ってから地上に帰るという事で別れ、私とアリーゼはリヴィラの街に最近できたカフェで優雅に朝食を嗜んでいた。
「そういえば、ユイは聞いた? 兎くんの話」
「Lv.2 に上がったとは聞いたよ」
「じゃあ二つ名は?」
「もう付いたの? それは聞いてなかった」
「
「そうなんだ。確かに。あんなにベルの事が好きなんだから私の『
話題はベルについて。
話は尽きない。ランクアップが早すぎる事とか、ミノタウロスを倒した事とか、いくらでも出てくる。
「リオンが戦い方を教えてくれたのが大きかったかな。ミノタウロス相手にも駆け引きとか出来てたし」
「そうなの。それを教えてあげればきっとリオンも喜ぶわ」
「一体私が何に喜ぶのですか? アリーゼ、ユイ。……ようやく見つけました」
突然私たちの会話に第三者が加わった。
「リオンか……びっくりした」
「あら? リオン、地上に戻ったんじゃなかったの?」
誰かと思えば、昨日地上に帰ったはずのリオンだった。よくよく見てみれば、後ろにライラもいる。
「一度ホームに戻ってから、もう一度潜ってきました」
「緊急の案件だ。誰にも聞かれない場所に移動するぞ」
真剣な表情だったため、私もアリーゼも頷いた。少しだけ名残惜しいという気持ちもあったが。
街があるとはいえ、ダンジョンの中だ。密談する場所などいくらでもある。
私たちは森へ移動した。
「それで、緊急の案件っていうのは?」
ここで良いだろうという所まで来て、私は切り出した。
「昨晩私が貴女たちと別れてからの話です。飲み水を補給するために少し遠回りをして連絡路へ向かっていたとき、私は
「
「徹底的に潰したはずなのに……」
オラリオは今でこそ平和になったが、およそ5年前までは荒れ放題で治安最悪の暗黒期が続いていた。その原因ともいえるのが、
オラリオ総出で1つの芽も残さないぐらい徹底的に潰したのだ。それが再び活動を始めたとなれば、一大事も一大事だ。今の段階で軽率に他の人たちに話せる内容でもない。
「例の自爆用の火炎石を確認しました。繋がりは不明ですが、ユイの言っていた食人花もいました。仲間と思われる者に邪魔されて情報を聞き出す事は出来ませんでしたが、奴らの持ち物を手に入れる事は出来ました。これを」
リオンが差し出したのは、
「ユイにはこれの解析をお願いしたい」
「なるほどね……」
確かに私は
「オッケー。任せて。帰ったら調べてみる」
「まぁ、ソレはユイに任せるとして、だ。あのクソッタレ共が何か企んでるってんなら、それを潰すのもアタシらの仕事だろ?」
「そうね。再興したのか、それとも残党がいたのかはともかく、ここにいたという事はまたダンジョンで何かしようと企んでいるのかもしれないわ。ひとまず、リオンが昨日見たっていう場所に案内してもらってもいい?」
「分かりました」
私たちはリオンの案内で移動した。
同じ18階層内であるため、それほど時間は掛からなかったが、たどり着いた場所は17階層と19階層のそれぞれへ繋がる連絡路から、どちらも離れた位置にあった。
「リオン、お前……こんな場所まで水汲みに来たのか?」
「……以前、この辺りに
リオンの耳が少し赤くなった。
「それにしても、どうしてこんな場所にいたのかしら」
「上か下への移動が目的じゃないとしたら、この辺りに隠れ家があるとか? 人が来る可能性は低いだろうし、モンスターが流れてくる可能性も低い。奴らにとっては都合の良い場所なのかも」
「その考えはありそうね。手分けして少し捜索してみましょうか。何かあってもなくても30分後にもう一度この場所に集合しましょう」
「了解!」
私たちはそれぞれ4方向に別れて捜索する事になった。
18階層は基本的に探索途中の休憩所としてしか使わないから、こんな階層の端の方へ来る事はそうそうない。何度も行き来した階層なのに新鮮な気分になる。
私の直感は探し物にも反応したりするので、案外すぐに見つかるかと思ったが、なかなか見つからない。あるいはリオンみたいな理由で本当に通り掛かっただけなのかもしれないと思い始めた頃。
「……これは」
18階層を取り囲む1番外側の壁。岩で出来ているはずのその壁の一部が崩れて、中から明らかに異常な金属光沢が漏れてきていた。徐々にダンジョンの修復機能で中身が覆い隠されていく。
どう考えてもおかしい。ダンジョンの壁や地面の材質は基本的に同じ階層ならおおよそ同じ。岩のすぐ奥が金属で覆われているなど考えられない。
「オリハルコン?」
表面の岩を砕くと不自然な空間があり、その奥に金属でできた明らかに人工物の扉らしきものがあった。
触れてみて確信する。最硬精製金属、オリハルコン。最硬金属と呼ばれるアダマンタイトを超える硬度の金属。しかも、どう見ても自然の産物ではない、意匠を凝らした扉。
向こう側に何かがある。
ここはダンジョンの端で、本来なら向こう側は土や岩石で埋まっている何もない空間のはずなのに。
壊してみるか。オリハルコンは確かに硬いが、黒聖剣の全力の一撃なら破れない事はないだろう。
いや、アリーゼたちと合流してからの方が良いか。
そう考えたとき、ポーチの中にしまっていた
「ッ!?」
扉がゆっくりと開いた。その直前、
あまりに突然の事だったため、急いで閉じろ閉じろと念じると、上手く作動したのか扉は閉じた。
「ふぅ……なるほど、見つからないわけだ」
ひとまずアリーゼたちと合流しよう。
私は岩壁が修復されて隠れていくオリハルコンの扉を背に合流場所へ向かった。
「マジかよ……何かあるかとは思ったが、これは予想外過ぎるだろ」
「まさか、ダンジョンの向こう側にこんな空間が……?」
「うーん、何だか秘密基地って感じでテンション上がるわね!」
「たぶんそんな楽しいものじゃないと思うよ?」
ライラ、リオン、アリーゼのそれぞれの反応だ。
私たちは今、扉の中の空間を進んでいた。
「明らか人工物だな。ご丁寧に竜か何かの彫像まで置いてやがる」
「やはり、
「隠れ家っつーか、こりゃあ迷宮だな。一応地図を作ってはいるが、かなり広い」
前をライラとリオンの2人、後ろを私とアリーゼが歩いている。ただし、ただ無防備に歩いているのではなく、4人とも全員私製のローブを纏ってる。
透明ローブ。
纏っている者を透明な状態にする
「これ、もしかして壁全部アダマンタイトかも」
「全部? この広さの壁を全部アダマンタイトで作ろうとしたら、いかに私たち【アストレア・ファミリア】といっても破産してしまうわ」
「うん。しかも、これを作った人、たぶんかなりの腕の
「それは言い過ぎね。ユイほどの
進む。
天井など所々に彫像が飾られているが、恐らく監視カメラのような働きをしているのだろう。アリーゼたちは見ても気付いていなかったが、微弱な魔力がどこかとリアルタイムでやり取りしているのを私は感じられた。
透明ローブは声を消す事はないため、音声まで拾われていない事を願うばかりだが、未だに敵からの干渉が感じられないという事は私たちの存在がバレていないのだろうか。罠という可能性もあるが、私の直感的にその可能性は低そうだ。
「ていうか、全然人いねぇじゃねぇか。みんな出払って留守にしてんのか? ユイ、お前の直感でどこに潜んでるのか分からねぇのか?」
「無茶言わないでよ……何となく上にいそうな気はするけど、細かい場所とかは無理。
「いや、十分便利だろ。アタシの勇者さまが泣くぞ」
「アタシの、って。何か進展あったの?」
「……いや、フィンだって最近忙しそうにしてるし」
「もー、忙しくても一緒に食事する時間ぐらいあるでしょ。チンタラしてたら『
ライラの地図がどんどん大きくなっていく。
途中、何度かリオンが持ってきた
それから少し進み、初見で深追いするべきではないという意見が一致し、私たちは最初の扉から18階層へ戻った。
既に夕日が沈む時間になっていたため、リオンも私たちが泊まっていた宿に泊まる事になった。少し狭かったが、私、ライラ、アリーゼ、リオンの順に横たわって眠った。
翌日。リオンはアストレア様に報告しに一旦地上へ戻り、私とアリーゼとライラはあの扉から
交代制にして、まずはライラが見張るというのでアリーゼの提案で私とアリーゼは水浴びをする事にした。
「最初の方は慣れなかったけど、慣れたら外で水浴びするのも良いよね。露天風呂みたいで」
「そうね。私も開放感があって良いと思うわ」
「まぁ、誰か来るかもしれないからちょっとソワソワするけど」
「そう? 世界に愛された私は見られて恥ずかしい部分なんてないから、むしろ見せつけてやりたいくらいだけれど」
「──やめてね?」
「も、もちろん、冗談よ……?」
事前に人気がない事は確認しているし、誰かが近付いて来たら気配で分かるため、いわゆる覗きをされる可能性は低いと分かってはいる。しかし、仕切りなどはないし、所詮はただの川だ。やっぱりそこで裸になるのは、何とも言えない感覚になる。
体の汚れを落とし、身を清める。
ソワソワするのはするが、気持ち良いのには変わらない。
肩まで水に浸かり、空を見上げる。まあ、空は見えないが。
赤い目と目が合った。
……目が合った?
「おわあぁぁあっ!?」
バキッ。白い頭のシルエットが落ちてきた。
バシャーン。水が勢いよく跳ねる。
「あら? 兎くんじゃない」
「……【ルクレエ】」
黒鍵を握る。
投擲。少し狙いがズレた。
ベルの頬に一筋の赤い跡を付け、後ろの直線上の木々が倒れた。
「ひ、ひいぃぃっ!? ご、ごめんなさあぁぁいっ!!」
「あの、ユイ? ちょっと目が怖いなーって思ったり思わなかったり」
「アリーゼの裸を覗くなんて許せない。後で締め上げようね」
「あっ、本気で怒ってるやつね!?」
水浴びを終えた頃には見張り交代の時間がきたため、ベルを締め上げるのは後回しになった。1人だと寂しいかと思って1人辺りの時間を短くし過ぎたかもしれない。
その後、結局もう3人で見張れば良いじゃん、となってから少し。
「あれは……」
「大きいわね」
「どうなってんだ。ここは安全階層だぞ」
18階層の天井から巨大なモンスターが降ってきた。それもただのモンスターではない。形としてはゴライアスそのもの。ただし、灰色ではなく黒色。しかも、
1体は通常のゴライアスの数回りも大きく、残り2体は大きさこそ普通だが、身体の形が歪だった。
どう見ても普通ではなかった。
嫌な予感がした。
○覗き
・主人公には直感があるため、普通は覗く前に警告か黒鍵で狙撃される
・『幸運』があれば主人公の直感をすり抜けられるかもしれない
・身の危険を感じたヘルメスは素早くその場を離れた
○ベル
・ヘルメスに唆された
・命の危険を感じた
・リューさんがいなかったとても反省している
○3体
・すべて黒いゴライアスであり、神への刺客
・ただし、うち2体は急造の影響か、本来1度に出現するのは1体という制限故か、不完全な状態で生み出された
・余談だが、ヘスティアはこれが3度目のダンジョン侵入であり、7年前には18階層を訪れ、そこで神威が漏れやすいステイタスの更新をした事がある
明日は更新を休みます