ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

19 / 34
アポロン・ファミリア

 

 

 新生【ヘスティア・ファミリア】ホームの完成パーティーの翌日。

 

「「「かんぱーい!」」」

 

 とある酒場にてベル、リリルカ、ヴェルフの3人はジョッキを突き合わせていた。

 

「ランクアップおめでとう、ヴェルフ」

「おう、ありがとな」

「Lv.2の上級鍛冶師(ハイ・スミス)となれば、作る装備の価値も跳ね上がりますね」

「ああ、これでヘファイストス様の名を汚すような下手なものは作れなくなったな」

 

 主題はヴェルフのLv.2ランクアップのお祝いだ。

 昨日の会で自身のランクアップを吹聴するような真似は出来なかったからである。Lv.6やLv.7へのランクアップと比べればどうしても霞んでしまうため、それも仕方ない。

 

「ですが、これでこのパーティーも解散という事になりますね……ヴェルフ様がパーティーに加わったのは、ランクアップして『鍛冶』のアビリティを手に入れるためでしたから」

 

 ヴェルフは元々1人でランクアップするのは難しいから、という理由でベルたちのパーティーに参加していた。これで当初の目的は達成した事になる。

 しかし、リリルカの言葉を聞いて不安そうにするベルにヴェルフは笑った。

 

「今さら用が済んだから、はいさよならなんて言わないさ。これからも一緒だ」

 

 ヴェルフの言葉に、ベルはホッと息をついた。

 

「そういえば、ベル様。次のランクアップはまだですか?」

 

 そして、次はベルのレベルへと話題は移る。

 

「18階層から戻ってアビリティはかなり上がったけど、さすがにランクアップはまだかな……」

「おいおい、ようやく俺もLv.2に上がったってのに、そんなにポンポン上がられたらたまらねぇぜ」

 

 ベルがランクアップに要した期間は一ヶ月半だ。それを考えれば、次のランクアップもそう遠くないのではないかと思うのは自然だろう。とはいえ、それを鑑みてもさすがに早すぎるが。

 あくまで談笑の種だったのだが、そこに突っかかってくる者がいた。

 

「なんだ、なんだぁ!? 一丁前にどこぞの兎が調子に乗ってるのが聞こえてくるぞぉ!?」

 

 そう大声をあげたのは、小人族(パルゥム)の少年だった。

 

世界最速(レコード・ホルダー)だか何だか知らないけど、逃げ足だけは速い兎が逃げ回ってランクアップして? またそうやってランクアップしようって!? インチキやり放題でオイラなら恥ずかしくてホームから出られねぇよ!」

 

 ベルたちが言い返さないのを良い事に、その少年は続ける。

 

「見ろよ、売れない下っ端鍛冶師にガキのサポーター。他派閥の寄せ集めの凸凹パーティーだ! ま、インチキルーキーにはお似合いか!?」

「「「ハッハッハ!!」」」

「やれやれ……」

「無視してください、ベル様」

「う、うん」

 

 このときベルはいつかのリューとの会話を思い出していた。

 

『いいですか、クラネルさん。冒険者は荒くれ者ばかり。喧嘩を吹っ掛けられる事も日常茶飯事でしょう。しかし、その者の行動はそのファミリアの行動です。貴方の行動がそのまま【ヘスティア・ファミリア】の評判に繋がります。人数の少ないファミリアなら特に。もし、行動を起こそうと思ったなら、1度立ち止まって考える事です』

 

 ここで喧嘩を買ってしまえば、【ヘスティア・ファミリア】は野蛮なファミリアと思われるかもしれない。そうなったら、主神のヘスティアにも、団長のユイにも迷惑が掛かってしまう。

 

「それも仕方ないか! なんたって、たまたますごい人間を引き入れられただけで、そいつにおんぶに抱っこの胸だけで威厳もない! 『聖火の守人(ウェスタリス)』がいなければ何も出来ない落ちこぼれ女神が率いてるんだからな!」

 

 思わず立ち上がりそうになるが、何とか色々と教えてくれたリューの姿を思い浮かべて耐えた。

 

「店を出ましょうベル様、ヴェルフ様。お金は先にリリが出しておきますから」

「ありがとう、リリ」

「わりぃな、リリスケ」

 

 そしてヴァリスを取り出して店主の方へ向かったリリルカの足元にどこからか足が伸び、リリルカは転んだ。床には硬貨が散らばった。

 

「おいおい、どこ見てんだ!」

 

 先ほど突っかかってきた組とは別の組の人間だった。

 さらに、転んだリリルカへ手が伸びる。その腕を、ベルは掴んだ。

 

「何をするつもりですか!」

「転んだから手を貸してやろうと思っただけだろうが。あぁ、いて〜〜こりゃ、腕を痛めたかもな」

 

 突っかかってきていた組やたった今絡んできた組の他にも、店の中にいた者たちが立ち上がる。

 

『しかしクラネルさん。不必要な争いは避けるべきですが、どうしても避けられないときはある。特に守るべき仲間がいるときは、優先順位を見誤らないように』

 

 そして、開戦。冒険者同士の争いが始まった。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 ベルがボロボロになって帰ってきた。

 聞けば、【アポロン・ファミリア】と喧嘩をして帰ってきたという。ベルは喧嘩とかしなさそうだったから、少し意外だ。

 

「あんまり喧嘩とかはしない方が良いと思うよ? 後で報復とかされるかもしれないし。まぁ、もうされた後かもしれないけど」

 

 魔法で治療しつつ、アドバイスをしておく。

 ベルは大人数相手に善戦したものの、最終的にLv.3の【アポロン・ファミリア】の団長にボコられたらしい。さすがにベルといえどもLv.3の冒険者は厳しかったようだ。

 冒険者はモンスターにはない技や駆け引きを用いてくるので、レベル差は対モンスターよりも対冒険者の方が響いてくる。

 

「リリに手を出されて、囲まれて、避けられませんでした」

「うーん、まぁ、難しいね……あれかな、もっとリオンと一緒に街を歩き回ったりしてたらそういう事もなくなるんじゃない? あ、これを口実にしてデートに誘ったらどう?」

「なんか、ものすごくかっこ悪いと思います。あと、そんな事を言ったらリューさんのスパルタがもっとスパルタに……」

「あぁ……ちなみにヘスティア様はどう思います?」

「仮にもウチはアストレアのところと合わせたらロキやフレイヤのところと並ぶ派閥なんだから、普通に考えたらベル君たちに喧嘩を売られる事もそうそうないはずなんだけど……」

 

 ベルと一緒に帰ってきたリリとヴェルフにも声を掛けてみる。

 

「ていうか、喧嘩になる前に色々言われたんだよね? 2人は何か言われた? あ、そうだ、私の悪口は言ってなかった?」

「俺たちはともかく、なぁ?」

「さすがに今や都市最強と並ぶユイ様を侮辱する事など出来ませんよ。怒らせたら何をされるか分かりませんし」

 

 派閥云々というより、普通に私がナメられているのかもしれないと聞いてみるも、どうやらそういう感じではないらしい。

 

「あれ、私ってそういうイメージ?」

「ベルは18階層で殺されそうになったって言ってたな」

「いや、あれは、ベルが悪いし……だって、アリーゼの……」

「本人がどうあれLv.7の冒険者なんてそんなものです。Lv.7のイメージが少し前までの猛者(おうじゃ)に固定されているというのもあると思いますが」

「あぁ……あの猪ね。そりゃ、あんなのと並べられたらそうなるか……」

 

 と、それだけで終わればまだ良かったのだが、翌日ベルは【アポロン・ファミリア】の使者からある招待状を受け取って来た。

 それは神の宴への招待状だった。ただし、神のみが参加する通常のものではなく、眷族を連れて来る事を条件としたいつもと違った催しだった。

 

「必ず眷族を連れてくること。しかも2人……」

 

 ヘスティア様が唸る。

 十中八九ベルを連れて来させるための条件だろう。1人だとヘスティア様が私を連れて行く可能性もある。

 

「普通に行ったら良いんじゃないですか? 大衆の前で変な事はしてこないでしょうし」

「うーん、でもなぁ……」

「じゃあ私はアリーゼとドレス選んでくるので」

「おい、結局アリーゼ君が目的なんじゃないか!?」

 

 

 

 そして、あっという間に宴の時間になった。

 ヘスティア様は眷族が2人しかいないため、自動的に私とベルだが、アストレア様はアリーゼとリオンを連れて来た。アリーゼはもちろんだが、リオンも連れて来るようにそれとなく促しておいた。

 

 各神がお気に入りの眷族を連れて来ているだけあって、私が知っている人物も多かった。

 今目の前にいるのもその1つ。

 

「やいやい、フレイヤ! そっちの猛者(おうじゃ)君が随分ユイ君にちょっかいを掛けてくれたみたいじゃないか!」

「あら、そうなのオッタル?」

「…………」

「ごめんなさいね、ヘスティア。私からよく言っておくから」

「本当だぞ! あと、ベル君にもちょっかいを掛けるんじゃないぞ!」

 

 ヘスティア様が公衆の面前でフレイヤ様に釘を刺した。普段は頼りないが、たまにこうして頼りないになって助かる。

 猪男は無表情で、もう1人の眷族としてついてきていた『白妖の魔杖(ヒルドスレイブ)』も無表情だった。一体何を考えているのか全然分からない。

 

 そしてダンスタイム。

 

「私と1曲踊って頂けますか、愛しい人(マシェリー)?」

「ええ、喜んで」

 

 私はもちろんアリーゼと踊った。

 見てみれば、ベルはリオンと踊っていた。種族柄、肌の接触を嫌うリオンに普通に触れられている時点でかなり進展している。

 それを見たヘスティア様は「くぅ……ベル君も親離れをする時期か……」なんて呟いていた。あれだけ猫可愛がりしていたのに、リオンとの恋愛事情自体は邪魔をするつもりはないらしい。

 

 他にもヘスティア様とロキが喧嘩していたりと色々あった。

 そして主催の神アポロンが壇上に現れ、挨拶を行った。神の宴に眷族を連れて来るという趣向は好評だったようで、神々から歓声が上がっていた。

 

 私はアリーゼと食べ物に手を付けながら聞いていたのだが、最後に神アポロンはベルの方へ歩み寄って行った。そしてベルの目の前でニヤリと笑う。

 すぐにヘスティア様がベルを庇うように割り込んだ。

 

「やあ、ヘスティア。先日は私の子供たちが世話になったようだねぇ」

「……こっちこそ」

「私の子は君の子に重症を負わされた。それなりの代償を要求したい」

 

 そう言って指し示した先には、全身を包帯でぐるぐる巻にした小人族(パルゥム)の少年がいた。

 片腕は三角布で吊っているし、もう片方の手には松葉杖を持っていた。

 

 ……そんなに重症なら動かない方が良いと思うのだが。重心もそんな怪我をしている風には見えないし。

 

「怪我ならウチにはユイ君が……」

「身体の傷を癒せば良いという話ではない。私の子は心にも大きな傷を負ったのだ」

「ッ……」

「先に仕掛けたのもそちらだというじゃないか。証人もいる」

「何が証人だ! 先に仕掛けたって、そっちがイチャモン付けてきたんだろう!? こんな茶番、付き合ってられるか!」

 

 ベルの証言を聞く限り、悪いのは普通に向こうだ。先に手を出したとは言うが、そもそもリリに小さくとも危害は加えられたわけではあるし、こんな公衆の面前で詰め寄られるだけ向こうに正当性があるとは思えない。

 それに、小人族(パルゥム)の少年の怪我も嘘くさい。本人に何も話させない辺り、他の神に嘘だとバレないようにしていると勘繰ってしまう。

 そんなにベルとヘスティア様を陥れたいのか、それとも通したい要求があるのか。

 

「嫌な感じね」

「うん、ちょっと行ってくるね」

 

 私がヘスティア様の元へたどり着くよりも前に、相手は宣言した。

 

「ほう? 罪を認めないつもりか、ヘスティア? ならば仕方ない。我々【アポロン・ファミリア】は君に戦争遊戯(ウォーゲーム)を申し込む!」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)

 それはファミリア間の戦いだ。

 

「我々が勝ったら、ベル・クラネルを貰い受ける!」

「はぁ!?」

 

 つまりは神アポロンはベルたちの個人的な諍いをファミリア同士の戦いに広げた上で、ベルを【ヘスティア・ファミリア】から引き抜こうとしているわけだ。

 

「今なら撤回も効きますが。血迷った言動をなかった事にするなら今のうちですよ」

「血迷ってなどいないさ、『聖火の守人(ウェスタリス)』」

「私に勝てるとでも?」

「君に勝つんじゃない。君のファミリアに勝つのだ。戦争遊戯(ウォーゲーム)はルール無用の殺し合いではなく、ルールに則ったゲーム。やりようはいくらでもある」

「……そうですか。こっちが受けなければ無駄ですけどね。行きましょう」

 

 向こうがベルをもらうなんて言っている以上、こちらが勝てば同じような要求をしてファミリアのメンバーを増やす事は出来るが、そんな事をしてメンバーを増やすつもりはない。仮に戦争遊戯(ウォーゲーム)をやるとしても負けるつもりはないが、こちらが受けるメリットはない。

 ヘスティア様が受けるとか言わないうちに離れなければ。

 

「逃げるのか? 後悔するぞ」

 

 何をするつもりか知らないが、私は冒険者のゴタゴタを取り締まる正義の側だ。何かしたら引っ捕らえてギルドに付き出す。

 

 

 

 翌日。闇派閥(イヴィルス)の件でアリーゼたちに相談するためにホームを出た私を待ち構えていたのは。

 

「これからどこへ行くんですかい」

戦争遊戯(ウォーゲーム)の準備は出来ました?」

「ウチらのホームはこっちですぜ」

 

 後悔するというのがどういう事か、神アポロンがやろうとしている事が分かった。

 

 私が【アストレア・ファミリア】のホームに入るまで、【アポロン・ファミリア】の団員は付きまとってきた。さすがに他ファミリアのホームの中にまでは入って来なかったが、外に出るとまた付きまとってきた。

 Lv.7の身体能力で振り払っても、街中に配置された別の【アポロン・ファミリア】団員が付きまとってくる。私有地のような場所以外の全てで。

 

 彼らは何かルールを破っているわけではない。例えば街中で戦闘を仕掛けてきたりしたら、それを理由にギルドに付き出せるが、今はただ話し掛けるという何ら違法性のない行動をしているだけだ。

 これが『凶狼(ヴァナルガンド)』とかならボコられて終わりだろうが、仮にも秩序の側に立っている私がそんな事は出来ない。

 

 そんな集団ストーカー行為はその日にとどまらず、次の日もまた次の日も。

 アリーゼがいるときにも付きまとってくる。それどころか、私たちの会話に割り込んで妨害してくる。こんな状況じゃアリーゼとデートも出来ない。ダンジョンまで付きまとって来るから闇派閥(イヴィルス)関連にも手を付けられない。

 

「あああぁぁぁッッッ!!! アイツらマジで2度とこんな事出来ないようにボコボコにしてやろうか!!??」

「ああっ、ユイ君がとうとう我慢の限界に……!」

「受けてやるわ、戦争遊戯(ウォーゲーム)ぐらい!! かかってこい、全員ぶっ飛ばしてやるッッ!!」

「ま、マズい! ユイ君が超やる気に!」

 

 戦争遊戯(ウォーゲーム)なら合法的にぶっ飛ばせる。向こうもやりたいみたいだし、やってやれば良いんだ。

 

「おいおい、ベル。お前のとこの団長やる気だぞ、戦争遊戯(ウォーゲーム)。まぁ、普通にやれば結果は見えてるが」

「う、うん……」

「少し不味いかもしれませんね」

「何がマズいんだ、リリスケ? 正直相手が何人いてもLv.7なら余裕だろ?」

「単純に戦力がものをいう形式ならその通りですが、戦争遊戯(ウォーゲーム)の形式は多岐に渡ります。過去には5対5の代表戦なんて形式も」

「2人しかいない【ヘスティア・ファミリア】だと物理的に勝てないぞ、それ。さすがにそんな理不尽はないだろ……ないよな?」

「分かりません」

 

 リリたちが何やら言っているが、片方が物理的に勝てないようなルール設定になる事はない。なぜなら戦争遊戯(ウォーゲーム)は一種のエンタメ。最初から結果が決まっているような面白くないものにはならない。

 

「あの変態男神が2度と手を出せないようにしてやるんですよ! ヘスティア様! 宣戦布告しに行きますよ!」

「はぁ、仕方ないか。ごめんね、ベル君。君を奪わせるような事は絶対にしないから」

 

 私とヘスティア様は【アポロン・ファミリア】ホームに乗り込み、宣戦布告をした。

 





○ベル
・罵倒されるだけなら我慢したが、仲間に手を出されるなら話は別である

○アポロン
・団員に指示して【ヘスティア・ファミリア】に喧嘩を売らせた
・【フレイヤ・ファミリア】や【ロキ・ファミリア】と違って、【アストレア・ファミリア】や【ヘスティア・ファミリア】は多少喧嘩を売っても大事にはならないと考えている(戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛けるのは多少喧嘩を売るでは済まない)
・なにやら自信があるようである

○主人公、集団ストーカーへ怒り爆発
・仮に【アポロン・ファミリア】が原作通りの襲撃を行なっていた場合、主人公はホームに襲撃返しをかまし、アポロンとヒュアキントスをボコった上でギルドに突き出していた

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。