ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
朝、目が覚める。
ゆっくりと伸びをし、ベッドから下りてカーテンを開けて日の光を浴びる。
一日の始まりを感じながら、本棚に並ぶ書籍を吟味する。
これだと決めた本を持ってベッドに戻り、柔らかいマットレスの上で読書を開始する。
優雅な朝のルーティンである。
「ユイさん、ヘファイストス様がお呼びです」
私の自室として使っている部屋にノックをして入ってきたのは、【ヘファイストス・ファミリア】の団員である少女だった。度々お世話になっているため、この部屋を訪れるのもこれが初めてではない。彼女はヘファイストス様をリスペクトしているのかワイシャツを着ている。胸元は開けていないが。
それに対して私が着ているのは修道服。私がこれを着ている理由には前世で親戚が教会を運営していたため比較的身近だという事と、色々と影響を受けた作品の中で私のお気に入りキャラクターが着ていたという事、このオラリオではファッションが多様性万歳しているため修道服を着たところで目立ったりしないという事などがある。さすがにヘスティア様リスペクトでもあの格好は出来ないが。
「ヘファイストス様が?」
「とても大事な話だとか……」
仕方ないので読書を中断し、ヘファイストス様が待つという部屋へ向かった。
「来たわね」
そこには仁王立ちのヘファイストス様がいた。
なんだか嫌な予感がする。私の勘が、これから良くない事が起こると言っている。
「部屋、そろそろ返してもらうわよ」
私とヘスティア様の動きは速かった。
「ヘファイストスぅ〜〜!」
「お慈悲を〜〜!」
私とヘスティア様で、ヘファイストス様の両足にそれぞれしがみついた。必殺泣き落としである。
「あんたたちねぇ……!」
前回はバロールのドロップアイテムで許してもらったが、今回も同じ事は出来ない。ライラに二度と付き合うか、と言われてしまったのだ。アリーゼは手伝ってくれそうだが、ライラがいないと一日で戻ってくるのはさすがに無理だ。
「違うファミリアが同じ屋根の下で生活してるのがそもそもおかしいのよ。取り敢えず、1つ物件を用意してあげたから。新しい住居が決まるまではそこで生活しなさい」
「頼むよ、ヘファイストス〜〜! 今の家具の配置が気に入ってるんだよぉ〜〜!」
「ここの炉が気に入ってるんですよぉ〜〜! あと調合室とかも」
「……椿、頼んだわよ」
ヘファイストス様の声に反応するようにある人物が部屋に入ってきた。
「本当にこうなったのか……」
呆れるように呟いたその人物の名は椿・コルブランド。左右の違いはあるもののヘファイストス様と同じような眼帯を左目に付けた長身で豊満な身体を持つ女性だ。ヒューマンとドワーフのハーフであり、【ヘファイストス・ファミリア】団長を務めるオラリオでも最高クラスの鍛冶師である。
彼女は私とヘスティア様をそれぞれ両脇に抱える形で持ち上げた。
「ぐおぉぉ! は、離すんだ椿君!」
「女神ともあろう者が情けないぞ」
「ぐはあっ!?」
初めは抵抗しようとしたヘスティア様だったが、精神攻撃を受けて沈黙した。椿さんはLv.5なのでどの道抵抗出来なかっただろうが。
私はLv.6で椿さんよりも力が強いため、抵抗しようと思えば抵抗出来たが、そうなるとヘファイストス様の足がもげるので大人しく離した。
ポイッポイッと【ヘファイストス・ファミリア】ホームの門から捨てられた私たちは渋々ヘファイストス様が用意してくれたという物件に向かっていた。
「全く、ヘファイストスもボクたちの扱いがヒドいよね!」
「追い出す事はないですよねー」
ブーブーとヘファイストス様への愚痴を語りながら足を進める。別に穀潰しとして食っちゃ寝ニートをしていたわけではないのだ。ちゃんと家賃も払っていたし、たまに家事を手伝う事だってしていた。
確かにヘスティア様はほとんどニートだったかもしれないが、私はダンジョンに潜ったり【ヘファイストス・ファミリア】の店にポーションなどのアイテムを卸したりと、色々とやっていたのだ。
「ここだね」
そう言ってヘスティア様が指し示したのは使われていない古びた教会だった。
「えぇ……これ、住めるんですか?」
「さすがに住めない場所を渡すような意地悪はしないと思うけど……」
その教会には隠し部屋があり、そこには水道など生活に必要なものが最低限揃っていた。私は格好だけ見れば、これ以上に合った場所もないのかもしれないが、とにかくボロい。早急に新しいホームを探す必要がある。
「取り敢えず新しいホーム探してくるので昼食と夕食に何か買ってきてもらっていいですか?」
「そうだね……まずは腹を満たさねば……」
こんな感じで廃教会から出てきて、オラリオの街を行く宛もなく歩く。そういえば新しい家って、どうやって見つけるのだろうか。
「あら? ユイじゃない! こんな時間にどうしたの? いつもならダンジョンに潜っているか、ヘファイストス様のところでぐーたらしているのに」
「アリーゼ、さすがにその言い方は失礼では……」
フラフラと歩き回っていると、よく見知った2人と出会った。
1人はこの前のバロールタイムアタックに付き合ってくれたアリーゼ。もう1人は金髪のエルフ、リュー・リオンである。2人とも正義の女神アストレア様の眷族【アストレア・ファミリア】だ。
「実は……」
ひとまず私は現状を2人に伝えた。
「なるほど、それは大変ね! でも、いつまでもヘファイストス様に頼りっきりは良くないわ。ヘスティア様の事はユイが養ってあげないと。ああ……思い出すわ! あれはまだ私たちのファミリアも貧しかった頃、その辺に生えている草で作ったスープに、『いいのよ……』とアストレア様に言わせてしまった記憶が……」
「思い出させないでください。しかし、今の貴女は貧乏というわけでもない。本格的に新しい住居を探すなら、【ゴブニュ・ファミリア】を頼るのも手でしょう」
アストレア様が雑草スープを口にする光景は不敬ながら想像出来る。ヘスティア様であればやだやだと言って拒否するだろうが、アストレア様は優しいので渋々であってもそれを表に出さずに受け入れてくれるだろう。
ともあれ、リオンの助言のおかげで【ゴブニュ・ファミリア】が建築関係もやっているという事を思い出した。あそこは鍛冶師のイメージが強いので完全に忘れていた。
「ありがとう2人とも! だいすぐぇ!?」
ありがとうのハグをしようとしたら、リオンから顎へ掌底を食らった。同性同士のハグは普通のスキンシップのはずなのに!
「すみません。つい反射的に」
「シクシク……」
「よしよし、誰もが見惚れるスーパー美人であるこの私が抱き締めてあげるから元気を出して?」
「アリーゼ大好き」
「……何ですか、この茶番は」
あまり遅くなるとヘスティア様が不機嫌になるかもしれない。名残惜しいが、2人と別れて【ゴブニュ・ファミリア】へ向かった。
そこで物件の希望などを伝え、後日詳細を詰めるという事になった。
私は新しい武器を作るための鍛冶場は欲しいし、ポーションなどを調合するための調合室は欲しいし、広いお風呂は欲しいし、たくさんの本が収納出来る書庫は欲しいし、将来【ヘスティア・ファミリア】の団員が増えてもいいように建物は大きくして欲しいし、なんなら後で増築出来るようにして欲しいし、バーベキューとかが出来るように敷地は広くして欲しいし、と色々条件を伝えた。すると、早く決めたかったのだが、そんな都合の良い物件があるかとため息をつかれてしまった。
しかし、せっかくのマイホームで妥協したくなかったので納得した。
「ただいまー。取り敢えず【ゴブニュ・ファミリア】に見積もり出してもらう事にしたか、ら……えっと?」
「あ、えっ、は、はじめまして!」
「……はじめまして?」
仮ホームの廃教会に戻ると、見覚えのない少年がいた。白髪に赤い瞳で、兎を連想させる。
いやいや、どちら様。ヘスティア様は? まだ買い物の途中かな?
「…………」
「…………」
えっ、気まず!
悪い人ではなさそうだと私の勘は言っているのだが、ひとまず不法侵入犯として【ガネーシャ・ファミリア】に突き出した方が良いのだろうか。
「さっき引っ越してきたばっかりで盗るような物はないと思うけど」
「えっ!? ち、違いますよ!?」
家に見知らぬ人間がいるという状況に初めて遭遇したから、どうすれば良いのかよく分からない。
「おーユイ君、帰ってきてたんだね」
そこへ奥からヘスティア様が顔を覗かせた。
「あの、ヘスティア様。不審者がいるんですが」
「不審者? あー、違う違う! その子はボクの新しい眷族さ!」
「新しい眷族? 増やす気になったんですか」
「せっかくヘファイストスの所から独立したからね。どうせならロキの所を超えるビッグなファミリアを目指すのさ! この子はその第一歩だよ」
なるほど、新しい眷族。確かにこれまではヘファイストス様が居候が増える事を良しとしなかったので眷族が増える事はなかったが、【ヘスティア・ファミリア】のホームができればそんな制限はない。【ゴブニュ・ファミリア】にも広いホームを要望しておいたので問題はない。
今までが少なすぎたし。団員たった1人のファミリアなど駆け出しもいいところである。発足から10年も経っているのに。
「そうだったんですか。まぁ、私も団員を増やす事は考えてたので全然良いんですけど、せめて新しいホームを見つけてからの方が良かったんじゃ?」
「た、確かに……」
せっかくその気になっても、この仮ホームの現状を見てお断りされる可能性も無きにしもあらずであろう。
「ま、改めまして。【ヘスティア・ファミリア】の『
「べ、ベル・クラネルです! よろしくお願いします!」
話を聞けば、ベルは冒険者になるべく様々なファミリアを訪れたらしいのだが、数十のファミリア全てに追い返されてしまったらしい。そうして途方に暮れていたところをヘスティア様が拾った、と。私もヘスティア様に拾われたようなものなので、なんとなく運命的なものを感じる。
人となりについては心配していない。普段はだらしなくてもヘスティア様には一定の人を見る目があるし、私の勘も特に危ない人だとは告げてこない。
「冒険者になりたいんだよね?」
「はい!」
希望に満ちたその顔を見て、やらなきゃいけない事が増えちゃったな、なんて私は新生活に少しだけ胸を膨らませた。
ヘファイストス様のところを追い出されたのは大変不本意ではあるが。
○【アストレア・ファミリア】
・主人公の無茶に付き合わされる事が多いため、複数の第一級冒険者が誕生している
・アリーゼ・ローヴェル……Lv.6
・リュー・リオン……Lv.6
・ゴジョウノ・輝夜……Lv.6
・ライラ……Lv.5
・その他Lv.4複数