ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
【ヘスティア・ファミリア】対【アポロン・ファミリア】の
『
現在私は変態男神とヘスティア様を中心に行われている神々の会議を盗み聞きしていた。
場所はバベルの塔。水晶のような手のひらサイズの板からヘスティア様たちの声が聞こえてくる。
この水晶板は前世におけるスマートフォンと少し前に見たダンジョンモドキの監視カメラから着想を得た。電波がないため電子機器の類いは再現出来ないと思っていたが、電波がないなら魔力で代用すれば良いのだ。
長い間
ヘスティア様には小型の片耳イヤホンを渡している。集音機能もつけているため、上での会話はヘスティア様のイヤホンを通して水晶板へ。もしこちらから伝える事があれば、この水晶板からヘスティア様のイヤホンへ音声を届ける事も出来る。
神の集いに下界の者は同伴しないというのが不文律であるだけで、離れた場所で盗み聞いたりアドバイスを送ったりするのは禁止でもなんでもないため、バレたからといってどうにかなるわけでもないだろうが、一応ヘスティア様には髪を下ろしてもらっている。服もいつもと違うものを着てもらったので、気合いが入っているだけと勘違いさせられるかもしれない。
『えーっと、なになに? 総力戦……ん? 下に小さく何か……なっ、互いの大将は自陣の城から出てはならない!?』
神ヘルメスがくじを引いて形式が決まったらしい。
総力戦は文字通り互いの総力戦を削り合う。3日以内に敵を全て倒すか、3日経過後生き残りの人数が多い方のファミリアが勝ちとなる。
この形式は他の形式に多い大将を倒せば勝ちというものではない。名目上の互いのファミリアの団長を大将として扱うが、大将も兵の1つ。大将が倒れたとしても、最終的に生き残りが多ければ勝ちとなる。
『良いじゃないか! 大将が逃げ回ってはつまらない!』
『仕込んだな……! アポロン!』
『おい、アポロン。中立の立場である俺から見てもその条件は【ヘスティア・ファミリア】側が不利過ぎる。やり過ぎだ』
『言いがかりはやめてもらおうか! 公平なくじの結果だ』
変なルールが追加されているが、他の神へ根回しでもしていたのだろうか。
生き残りが多い方が勝つのだから、状況によっては大将が逃げ回るという場面も発生し得る。見ていて面白くないというのはその通りかもしれないが。
3日間という長丁場になるため、互いのファミリアには休憩所を兼ねる城が割り当てられるが、それぞれの城は数キロ単位で離れた場所にある。その城から大将は動けない。つまり、【ヘスティア・ファミリア】側の城に敵が近付いて来ない限り私は戦う事も出来ないという事だ。攻城戦ではないし、人数では勝っているのだから、敵がこちらの城に近付く意味もない。
『誰だよ、書いたの』
『ユイちゃんの活躍見れねーじゃん』
『俺の天使の活躍見せろー!』
『見せろ見せろー!』
『だぁーれが俺の天使だ!! ユイ君はボクのだぞ!!』
が、私としてはべつに構わない。というか、むしろこのどう考えても不利な状況で相手を完膚なきまでにボコボコにした方が喧嘩を売られる事もなくなるだろう。
「それで良いですよ」
『っ……で、でも……』
「代わりに、レベル差があり過ぎるからもし私に挑むなら命の保障はしないって言っておいてください」
『……分かった。それで良い。ただ1つ言っておく。もしウチのユイ君に挑むなら、命の保障はしない。レベル差があり過ぎる』
『ああ。子供たちによく言って聞かせておこう!』
そうして、
「お疲れです」
「あぁ……良かったのかい、アレで。ユイ君が城から動けないなら戦えるのは実質ベル君だけだし、あんな事を言ったら余計城に近付かれなくなるよ」
「ベルは今リオンたちが鍛えてくれてますし、城にはどの道近付かれませんよ」
ヘスティア様は心配しているが、私にはもう勝ち筋が見えているため問題ない。
ベルも今はリオンに加えてアリーゼやライラ、輝夜が鍛えてくれている。私1人でも問題ないが、元はベルから始まった事だ。出来るだけ活躍してほしいと思う。輝夜とか特にスパルタだからちょっと可哀想な事になってないか心配だが。
それからほどなくして、
「えーっ!! ユイさん戦えないんですか!?」
「これ、マズくないか?」
「マズいなんてものじゃないです。実質ベル様1人で戦わなければなりませんし、ベル様1人で敵の数を最低でも1人まで減らさなければなりません。敵の大将を残すとしても、とても現実的ではありません!」
「大丈夫、大丈夫。何とかなるって」
「な、何とかって……」
「適当過ぎるだろ……」
「このままでは本当にベル様が【アポロン・ファミリア】に行ってしまいます!」
ベル、ヴェルフ、リリの仲良し3人組がワイワイやっている。本当に大丈夫なのだが、見ていて面白いのでもう少しこのままにしておこう。
「じゃあ私は武器打ってくるから、夕食準備よろしくー。あ、ヘスティア様の分はヘファイストス様の所に行ってて必要ないからー」
そう言い残して私は鍛冶場に籠もった。
Lv.7に上がったのに合わせて色々作り直す必要があるのだ。
翌日、
「何だって!? サポーター君が攫われた!?」
「あぁ……ベルに差し入れを持って行く途中に……」
リリが何者かに攫われたらしい。何者かとはいいつつも、しっかりとあるファミリアのエンブレムを付けていたとの事で特定は難しくないだろうが。
なんだかんだあって【タケミカヅチ・ファミリア】の桜花君、命ちゃん、千草ちゃん。【ミアハ・ファミリア】のナァーザがリリ救出作戦に参加してくれる事になり、そこに私とヴェルフを加えた6人で作戦を決行する事になった。
ミアハ様とヘスティア様が仲良いのは知っていたが、この作戦に眷族を貸すほどなのかと聞いてみれば、ベルたちは普段
私以外は全員【ヘスティア・ヘスティア】ではないため、多少やんちゃしてもアリーゼたちに迷惑は掛からないという点で考えても結構良い。
それからほどなくして、リリは【ソーマ・ファミリア】の酒蔵に捕らわれているという事が分かった。
「改めて確認ね。せっかく武器を持ってきてくれたところ悪いけど、騒いで注意を引くだけで良いからね。その隙に私が裏から入って様子見てくるから。後でややこしくなるから戦闘は出来るだけ避けてね」
場所は【ソーマ・ファミリア】のホーム前。
他メンバーと別れて私は透明ローブを身に纏う。
敷地自体がそれほど大きくないため、リリの居場所もすぐに分かった。見張りがいたため、透明になったまま軽く殴って気絶させる。
「リリ」
「っ!? こ、この声は……」
「私、私。ユイだよ」
フードをとって檻越しに顔を見せる。
「どうしてここに……」
「攫われたって聞いたから。もう他人でもないしね。一応リリのファミリアだから自分の意思で戻るなら良いけど、そうじゃないなら……」
「ベル様の事は放っておくのに、リリの事はこんなに助けようとしてくれるんですね」
「いや、あれは、ほら……? リオンが鍛えてくれてたし……そんなに毎日ダンジョンに付き合うのは疲れるし……」
「ベル様はリリを助けてくれたとき、最初女の子だからなんて言ってましたけど。ユイ様もそんな感じですか?」
「そりゃ、アリーゼの事があるからどっちかというと女の子の方が好きだっていう自覚はあるけど……誰でも良いってわけじゃないよ。ここまでするのは、私たちがもう仲間だからでしょ?」
というか、あれ? なんで助けに来たのに私が責められる感じになってるの?
まあ、良い。あまりもたもたしている暇はないし。
見張りの懐から檻の鍵を取り出し、リリを解放した。
「とりあえず今は
「えぇ……」
そうしてリリを透明ローブの内側に隠して【ソーマ・ファミリア】ホームから脱出しようとしていると、外で金属同士がぶつかるような音が聞こえてきた。
「なんでドンパチやってるの……?」
ただ騒いで注意を引きつける作戦だったはずなのに。
「どうしよう。私が割り込むわけにも……いや、仲裁というていならいけるかな。あっ、リリ……!?」
リリが私から離れてどこかへ駆け出した。私から離れると透明ローブのステルス効果を得られない。
リリが向かったのは【ソーマ・ファミリア】の主神がいる場所だった。
ここの主神は酒造りにしか興味がないという話を聞いた事があるが、リリは見事に自分の話を聞かせて戦いをやめろという主神命令を引き出した。
ついでに、【ヘスティア・ファミリア】に
少しして、ヴェルフが【ヘスティア・ファミリア】に
さらに少しして、命ちゃんも【ヘスティア・ファミリア】に
ベルの危機を助けるため、らしい。
ちょっと不安を煽り過ぎたかもしれない。
本当はそんな事しなくても普通に勝てるのだが、馬鹿正直に打ち明けると殺されてしまうかもしれない。そのときが来るまで黙っておこう。
○条件付き総力戦(元々そんなものはない。アポロンが勝手に作らせた)
・確実に敵大将を封じ込められる
・【アストレア・ファミリア】のように大将以外に強力な戦力がいればあまり問題にならないが、【ヘスティア・ファミリア】のように大将だけが突出していると戦力的に大幅な制限を受ける
・1つの島をフィールドとして使うため、例え大将が魔導師でも逃げ回られるとどうしようもない
・同じLv.7でも、【ヘスティア・ファミリア】の大将が主人公ではなくアリーゼかオッタルならほとんど勝ち目はなかった
・普通に考えて【ヘスティア・ファミリア】側が不利過ぎるため、抗議すれば別の形式に変更する事は認められた(他の神々がヘスティアを支持する)
・が、文句のつけようもないぐらいボコボコにしたい主人公からすれば好都合だった
○アポロン
・他の神に根回しをしていた(【ヘスティア・ファミリア】にもアンチはいる)
・勝てなさそうな形式が引かれたら、何かと理由を付けて引き直しを要求するつもりだった
・が、狙ったものを引けたので何としてもそれで押し切るつもりだった
・色々と想定が甘い
・奇跡的に思い通りに事が進んだ
○ヘルメス
・余計な事をするとマジで送還されそうなので、今回はちゃんと中立でいた