ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
「ベルー、ヴェルフとリリ借りるよー」
「あっ、はい」
という事で2人を確保。今日ベルはリオンとの訓練があるらしいし、私も今日は暇だからちょうど良い。やる事が全て済んだわけではないが、例の鍵はとりあえず再現した試作品を作ったし、あとは試すという段階。
別に私1人で試しに行っても良いが、どうせ行くなら中の調査をついでに進めたいから、アリーゼたちとの予定を合わせる必要がある。そういう関係で私は今時間があった。
「リリ、ステイタスを持ってる人間がする鍛冶と持ってない人間がする鍛冶の違いって分かる? 鍛冶だけじゃなくてアイテム作りとかもそうなんだけど」
「特殊な効果を付与出来るとかですか?」
「それももちろんあるんだけどね。もっと根本的な話」
ヴェルフが炉の準備をしているのを横目にリリに話す。
「ステイタスが乗るのね」
「ステイタスが、乗る……?」
「まぁ、これは私の表現だから正確な表現かはちょっとアレだけど。ステイタスって身体能力に下駄を履かせるでしょ? でも実はそれだけじゃなくて、打った武器の能力も底上げする効果があったりする」
「はぁ……」
「私が鍛冶を始めたのはステイタスを得てからだし、これ自体は鍛冶師の間でよく知られてる話で実際に実験したわけじゃないけどね。で、大切なのはここから。ステイタスが乗るとは言ったけど、能力の上昇値的なのは一定じゃなくて、意志に左右される。ステイタスって結構意志に引っ張られるところあるから」
「まぁ、なんとなく分かります」
「つまり、何が言いたいかと言うと……」
そこでちょうどよく、鍛冶場の扉がノックされた。
「どうぞー!」
私の声に応えるように扉の向こうから現れたのは、燃え上がるような赤い髪を揺らしたアリーゼだった。
「お邪魔するわよ」
「特別ゲストのアリーゼさんです! はい拍手!」
パチパチパチとアリーゼへ向けて拍手する。あまり状況を飲み込めていないようではあるが、私に続いて遠慮気味にリリも拍手をした。
アリーゼは胸を張ってドヤ顔。かわいい。
「ヴェルフ、拍手!」
「今忙しいんだが……というか、なんで『
「言ったでしょ? ゲストって。師匠とは言ったものの、簡単な事を今更言っても仕方ないし。という事で発展編」
元々鍛冶の本場【ヘファイストス・ファミリア】で鍛冶師をしていたのだ。既に『鍛冶』のアビリティを得る段階まで来ているヴェルフにわざわざ教えられるような事はそう多くない。
ただ、何も教えられないでは師匠として不甲斐なさ過ぎるので、なんとか捻り出したのが意志が鍛冶へ与える影響だ。
「ヴェルフって武器でも防具でも良いんだけど、打つときって何考えてる? 熱した温度がこれぐらいで良いか? あと何回ぐらい叩いたら良いか? 長さは、暑さはこれぐらいで良いか?」
「そりゃあ、その時々によって」
「間違いじゃないよ。そういう基礎がなってないと後でどれだけ良い事をしても全部無駄になるから。でも、ずっとそんな感じでやられても困る」
「打つときに何を考えるのかが意志ってやつか?」
「簡単に言うとそういうこと」
そう言って、私はポーチから一振りの短刀を取り出し、ヴェルフに手渡した。
「『ドス・アリーゼ(仮)』試作品ナンバー2。ちょっと前に私が思い付きで打った短刀。もちろん手は抜いてないし、
「ユイ様もユイ様で命名の仕方が独特ですよね。普段自分で使っているものはそうでもないのに」
「分かりやすくて良いでしょ? 試作品ナンバー1はちょっと色々やり過ぎてこの場には相応しくないから気にしないように。今から素材とかは全く同じ条件で短刀打つから見ておいて」
という事でポーチから鉱石などを取り出し、ヴェルフが準備してくれた炉の前に座る。
「私はどうすれば良いかしら?」
「アリーゼもこっち来て」
「ええ。ここに立っておけば良いの?」
私に促されるまま、アリーゼは私の後ろに立った。
「そのまま私に抱き付いて」
「抱き付く? こんな感じ?」
「うん、あっ、もっと密着する感じで」
「こうかしら?」
「あ、めっちゃいい……」
アリーゼに包まれる。
念の為言っておくが、べつにこれは私の欲望を満たしているわけではなく、これからヴェルフに見せる事のために必要だからこうしてもらっているだけだ。断じて下心などない。
「俺たちは一体何を見せられてるんだ?」
「さぁ……」
その状態のまま、鍛冶を始める。
鉱石を炉に入れて熱し、柔らかくなったところで槌で叩く。
そして数十分の時間を経て、私は一振りの短剣を短刀を作り上げた。
「はいこれ、比べてみな?」
さっき渡した者と比べるようにヴェルフに手渡す。
見た目は全く同じ。しかし、そこそこ以上の鍛冶師であれば気付くだろう。
「これは、確かに違う……何がと聞かれると困るが、確実に何か」
「そうなんですか? リリには分かりませんが」
「そういうこと。さっき渡したのと1つを除いて全く同じ条件で打ったけど、違ったでしょ? たった1つ違うのは、そばにアリーゼがいて、アリーゼを想いながら打ったってこと。ただ漠然と打つよりもこっちの方が強力な武器になる。イメージとしては、想いの分が武器の能力に上乗せされてるような感じかな」
「なるほど、言いたい事は分かった。じゃあ俺の場合はベルにくっつかせた状態で打てば良いのか? むさ苦しい中で男同士長時間くっつくのは勘弁なんだが」
「これは極端な例だから、べつに横に座ってもらうとかでも良いよ。いつもアリーゼにはそうしてもらってるし。まぁ、大事なのは想いだから、本当はそばにいなくても大丈夫だけど、いた方が分かりやすいと思うから」
もはやアリーゼをおんぶしたような状態のまま、ヴェルフへと語る。というか、さっきから静かだと思ったらアリーゼ寝てるわ、これ。
「とりあえずヴェルフに知っておいてほしいのは物事の本質ね。鍛冶をするとき、自分は何をしているのか。鉄を打っているとかそういう単純な事じゃなくて、打ちながら自分は何を込めているのか、そしてそれがどんな効果を及ぼすのか」
「物事の本質……」
「そう。ステイタスに関連する事だけじゃないよ。例えばミスリルの魔力伝導率が高いのは周知の事実だけど、なんでそうなるか知ってる?」
「なんで、と言われてもな……そういうものだとしか」
「そういうものっていう認識でも問題はないんだ。だって色んな鍛冶師もそういう認識で良いもの打ってるから。でも、じゃあそれを知ってる事は無駄なのかといえば、全然無駄じゃない。知らなくても良いものは打てるけど、知ってればより良いものを打てる。あ、ちなみにミスリルの魔力伝導率が高いのはミスリルの中にあるめちゃくちゃ小さい粒みたいなものが、魔力を通すと整列するからね」
ミスリルの性質に関しては、なんとなく磁石を近付けたときの鉄に似ている。ミスリルが魔力にくっつくというわけではないから、丸っきり同じではないが。
「小さい粒……?」
「ミスリルだけじゃなくて、木とか水とかもそうなんだけど、基本的にこの世界にある物質ってめちゃくちゃ小さい粒子が集まってできてるのね」
「なんでそんな事分かるんだ?」
「顕微鏡っていう、小さいものを見れる道具があるんだけど、それを使ったら見えるよ」
「顕微鏡……初めて聞いたな」
「まぁ、私が作ったし。1Mの1000分の1のさらに1000分の1のさらに1000分の1ぐらいの大きさまで見えるよ」
「想像もつかないぞ……」
色々と有用なので、結構前に私は顕微鏡を作った。前世と違って
「今度見せてあげる。まぁ、ともかく、ヴェルフにはそういうものだから、で流してほしくないわけね。何事に対しても。オーケー?」
「ああ。けど、その本質ってやつをどうやって知れば良いんだ? 本か何かで調べたら出てくるのか?」
「そのために私がいるでしょ? 鍛冶で使うような素材については大体分析してるからちょっとずつ教えるよ。たぶんこれは調べても出てこないし。とりあえずこれは追々って事で、今回は最初に言った意志を込めた武具を打つ事が宿題ね。はい、今回はここまで。汗かいたからお風呂沸かしてきて?」
「はぁ……こき使いやがって。ためになるってのは認めるが」
師匠特権発動である。
ヴェルフが出ていくのを見届けて、今度はリリへ目線を向ける。
「じゃ、今度はリリの番ね。外行くよ」
「あの、そのまま行くんですか?」
「アリーゼのこと? わざわざ起こすのも可哀想でしょ?」
「いえ、べつに良いなら良いんですけど……」
そして、アリーゼを背負ったまま庭に出る。
庭は結構な広さがあるため、黒鍵の練習ぐらいは余裕で出来る。元々リリのために木製の的を設置していた場所まで移動し、ポーチからいつも私が使っているものよりも小さい黒鍵の柄を取り出した。
「はい、これ。リリ用の黒鍵改良型。まだ初心者だから『力』に補正かかる効果つけてみた。試してみて」
柄を渡すと、リリは刃を生成し、構えた。ただし、私のような片手に3本ずつ持つ爪持ち(私命名)ではなく、片手に1本の投げナイフ持ちだ。私は黒鍵を作ってからいきなり爪持ちで始めたが、さすがに難しかったらしい。
まぁ、いずれ出来るようになれば良い。
「確かに少し投げやすいです」
「『力』が伸びてきたら元のやつに戻すからそのつもりで。それで今回なんだけど、フォームとかはそのままで良いから、投げるときの意識の話ね」
「ヴェルフ様に言っていた、意志が影響を与えるという話ですか?」
「あー、まぁ、それもあるんだけど、リリの場合はもっと前段階かな。アリーゼ、アリーゼ起きて」
「ぅーん……」
「起こすんですね……」
という事で私の背中で寝ていたアリーゼを起こして、少し離れた場所で金属製の的を持ってもらった。
「ここからあの的目掛けて投げてみて。もちろん本気で。多少ズレても拾いにいってくれるから。あぁ、アリーゼの心配はいらないからね。今のリリじゃ、どう足掻いてもかすり傷1つ付けられないから」
「分かりました」
そうしてリリが黒鍵を投擲すると、動かさなくても正確にアリーゼが持っている的に的中し、刀身の半分ほどまで突き刺さった。金属製といっても割れないように柔らかい金属なので普通に突き刺さる。
「オッケー。じゃあ次、私の持ってる的に投げてみて。こっちも全力で」
アリーゼが持っているものと同じものをポーチから取り出し、ちょうどアリーゼとリリの真ん中ぐらいの位置に立って的を身体の横に構えた。
そして、リリが黒鍵を投擲すると、私はわざと的を引いて黒鍵の軌道上から外し、私の意図を読み取ったアリーゼが先ほどの黒鍵が突き刺さったままの的を軌道上に構えた。
「さて、私が言いたい事分かった?」
「なんとなくですが……」
アリーゼが持った的には2本の黒鍵が刺さっている。1本は刀身の半分まで、もう1本は刀身の先端4分の1ぐらいまで。
「どっちも全力で投げたとは思うけど、的が前にあるとか後ろにあるっていう意識の違いだけでこんなに差が出る。まぁ、今のはヴェルフに言ったのとは違って、意識に筋肉の動きとかが引っ張られたからなんだけど。私がこの前言った、黒鍵を投げるときの心構えみたいなの覚えてる?」
「抉り込むように射つべし、ですか?」
「そうそう。あれも適当言ってるんじゃなくて、そういう意識で投げたらちゃんと効果あるってワケ」
個人的にリリは将来的に私に並ぶとまではいかないまでも、有力な黒鍵使いになってくれる事を期待している。そのうち私みたいに黒鍵のスキルが生えてきたりしないかなぁ、とは思うが、それは高望みだろうか。いずれにせよ、ボウガンを主な攻撃手段にするよりも黒鍵を武器として持っていた方が色々と出来る事は広がるだろう。
「ちょっと抽象的かもしれないからもう少し具体的な事を言うと、黒鍵を投げるときは敵にただ当てるんじゃなくて、貫通させて後ろの物ごと粉砕するようなイメージが良いかな。それを心掛けるだけで全然違うから。次から練習のときはそうしてみて」
「分かりました」
「あ、そうだ。
「助かります」
「とりあえず今日はこんなところかな。じゃ、ヴェルフの様子見てきてもらって良い? 手間取ってたら手伝ってあげて」
「……分かりました」
師匠特権発動その2である。
リリがお風呂の方へ向かっていくのをアリーゼと2人で見送った。
「なんだかユイの新しい一面を見たみたい。やっぱりファミリアの仲間が増えると変わるのかしら」
「そう? 人にものを教えるとかは結構やってるけどなぁ……ああ、でも、アリーゼの前ではあんまりやってなかったか。アミッドたち【ディアンケヒト・ファミリア】の人たちとか、ギルドの人なんかには結構教えてたりするよ。主に医療関係。治癒魔法を使えないと
「そうね、今はまだ平和だけれど、また昔みたいな事になったらきっと、たくさん手を借りる事になるわね」
「うん。でも、そうならないようにしないとね」
「ええ。それにしても、ラキアも面倒な時期に仕掛けてくるわね。お陰でなかなか皆が揃う時間が作れないわ」
「まぁ、
「そうね、頼りにしてるわよ。ユイ」
「こっちこそ」
○主人公
・師匠特権でヴェルフだけでなくリリもこき使っている
・元々はこの世界特有の物質を調べるために作った高性能顕微鏡だったが、実は感染症などに対する知識を一時代進めた(【ディアンケヒト・ファミリア】含め医療系ファミリアやギルドに設置されている)
・リリの黒鍵投擲技術はともかく、ヴェルフの鍛冶については教えられる事が少ないので頑張って教えられる事を探している
○ヴェルフ
・主人公に教えられる事は新鮮で勉強になるが、それはそれとして顎で使われている事には一言言いたい
○リリ
・黒鍵が使いこなせればもっとベルの役に立てるので頑張って訓練している
・最近は手がマメだらけ
・片手で3本も使うのは控えめに言って変態だと思っている