ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

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今回は主人公の前世の話とアリーゼとの出会いの話です。




過去編(10年前) アリーゼとの出会い:前編

 

 

 順風満帆な人生とは到底言い難かった。

 10歳にもならない内に両親を交通事後で亡くし、祖父母は両方とも私を引き取れる状態ではなく。結局たどり着いたのは一度だけ会った事のある親戚の元だった。

 そこは一般の家庭ではなく、キリスト系の教会を運営している一家だった。そこで私は手伝いをしながら生活させてもらっていた。

 

『どうしたんだい、そんなシケた面して』

 

 そんな私の面倒を見てくれたのは、親戚ではなくその教会で何年も活動しているというベテランのシスターだった。ベテランとはいっても、私に比べればという話で、年はまだ二十代だった。

 

『信仰が分からない? そんな難しい事考えなくて良いんだよ。いつか分かったときにまた考えれば良い』

『学校で友達が出来ないぃ? そういうのはねぇ……』

『アニメに興味あるのかい? だったら私のオススメはねぇ……』

 

 優しくて、愉快な人だった。

 色んな事を教えてもらった。仕事のサボり方とか、至福の時だと言って休日のだらだらした過ごし方とか、それはどうなんだと思った事もあったけれど。

 

 本当の姉のように思っていた。

 もしも将来誰かと結婚する事になったら、一緒にバージンロードを歩いてほしいなんて、そんな事だって密かに思っていた。

 

 結局、それは叶う事はなかったけれど。

 一緒にお酒を飲む事すら出来なかったけれど。

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 この世界は私に優しくない。

 だって、普通2度目の人生を与えてくれるっていうなら。少しぐらい私に都合の良い世界にしてくれてもいいはずなのに。

 外を歩けば、スリや喧嘩は当たり前。路地裏に連れ込まれそうになったことも。果てには闇派閥(イヴィルス)などという極悪集団が我が物顔でこの街を荒らしている。

 弱者はただ虐げられるしかない。そんなこの街で、私は震えて過ごすしかなかった。

 

 この世界での故郷は常にモンスターに襲われるという脅威に晒されていた。世界の中心と呼ばれるオラリオならモンスターに襲われる心配もなく、安全だという話だったのに。

 モンスターには襲われなくても、安全とは程遠かった。聞いていた話と全然違う。

 

 神の恩恵(ファルナ)というものを刻まれたとき、最初から発現していた魔法もスキルも半分は役に立たない。残りの2つも運が良くなるのと勘が鋭くなるというもの。

 勘はともかく、こんな世界に生まれ変わらせておいて、何が幸運。

 

「いつまで、こんな事……」

 

 ヘスティア様に拾われて、ヘスティア様の友神のヘファイストス様の住居にお邪魔している。お借りした1部屋、私は1日のほとんどをそこで過ごしていた。

 

「ここから1歩外に出るために、怯えて、震えて……こんな生活が、ずっと続くんでしょうか」

「ユイ君……」

「もう、疲れました。何か……」

 

 今の状況を変える何か。

 ヘスティア様は語った。簡単な事だった。

 力が支配する世界だ。強くなれば良い。ただそれだけの事だった。

 

 

 ヘスティア様には止められた。ヘファイストス様にも止められた。

 酷い顔をしているという自覚はあった。でも、今動かなければ永遠に踏み出せないだろうと思った。

 

 ダンジョンと呼ばれる迷宮。冒険者はそこでモンスターを倒して経験値(エクセリア)を獲得し、ステイタスを強化していく。

 そこへ、ヘファイストス様から借りた剣を持って訪れた。

 

 ゴブリンやコボルトといったモンスター。

 対峙するのは初めてではなかった。恩恵を刻まれてからまだそれ程日が経っていなかったときにヘファイストス様の眷族と一緒にダンジョンに潜った事があった。

 あのときはこんなのと戦うなんて無理だと思ったけれど、地上の現状を考えるとまだダンジョンの方がマシかもしれない。なんて。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 モンスターは魔石を壊せば死ぬ。でも、そんな器用な真似は私には出来ない。

 モンスターだって生き物だ。首を切れば死ぬし、頭を砕いても死ぬ。

 

 剣を振り回す。

 ただひたすらに。技などあるはずもない。

 

「はぁはぁはぁ…………」

 

 首から上を狙って、振り回す。

 素人の剣術できれいにモンスターの肉を断ち切る事なんて出来ない。一振りするごとにぐちゃりという気持ちの悪い感触。

 

 ぐちゃり。

 びちゃ。がりっ。

 ぐちゃ。

 ばきっ。ぬちゃ。

 ぐちゃ。ぐちゃり。

 

 何度目か分からないモンスターの絶命と共に、剣が根元から折れてしまった。

 

「あ……ヘファイストス様に、謝らないと……」

 

 そういえば、何階層まで下りてきたんだったっけ。

 もはや使い物にならなくなった剣を眺めながら、ぼんやりと考えた。

 

「そっか……もういいんだ」

 

 冷たい地面に座り込んだ。

 迫るモンスターからは目を逸した。

 

 …………。

 

 ……。

 

「危ないわよ!」

 

 燃えるような赤い髪が目の前を横切った。

 

 誰かは分からない。ただ、助けられたのだという事は分かった。

 

「ほら、立てる?」

 

 手が差し出された。

 思わず手を伸ばそうとして、やめる。

 

「……放っておいてください」

 

 例えここで助けられても、先延ばしになるだけ。

 苦しい時間が、延びるだけ。

 

「放っておくなんて出来ないわ。だってあなた、このままじゃ死んじゃいそうだもの」

「……べつにいいじゃないですか」

「良くないわ」

「あなたに関係ない」

「こうして知り合ったんだから、関係ないなんて事もないわよ」

 

 自分勝手な者が多いという冒険者の中で、きっと彼女は優しい性格なのだろう。きっと他の冒険者なら私なんてさっさと見捨てるか、そうでなくてもここまで言われたら放っておくはずだ。

 

「助けてくれてありがとうございました。私はもう大丈夫なので行きます」

 

 彼女が先に進まないなら、私が離れればいい。

 なんとか立ち上がって、この場を離れる。そうしようとした私の腕が掴まれる事によって、私はこの場を離れる事も出来なくなった。

 振り払うだけの力も残っていなかった。

 

「待って」

「…………」

「あなた、酷い顔してる。手もこんなに震えて」

 

 ちっぽけな勇気を振り絞ってきたのに。

 もう1人にしてほしいのに。

 離してくれない。

 

 希望なんてないと分かっているのに。

 何も変わらないと分かっているのに。

 

「地上まで送るわ。きっとあなたの神様も心配してるわよ」

「……地上に戻ってどうしたらいいんですか」

「どうしたらって」

「地上に戻っても何もない。このまま生きてたって良い事なんて何もない。どうしろって言うんですか」

 

 こんな事をするつもりはなかったのに、一度罅が入れば溢れ出てしまった。

 

闇派閥(イヴィルス)はどこに潜んでいるかも分からない。闇派閥(イヴィルス)だけじゃない。そこら中に暴漢が溢れてる。一歩外に出たら何があるか分からない! 襲われそうになった事だって何度もあった! 何も悪い事なんてしてないのに! こんな世界は嫌! こんな世界で、私は生きていける自信がない!」

 

 前世の記憶に引きずられてきる自覚はある。

 違った進化をしているとはいえ、文化のレベルは比べ物にならない。娯楽のレベルだって低い。

 それぐらいなら耐えられた。でも、常に身の危険に晒されるような生活は、もう耐えられなかった。

 

 生まれ変わってまで苦しむほど、私は悪い事をしたのだろうか。

 ずっと、そんな事ばかりが頭の中を巡っていた。

 

 両親が小さい頃に他界して、親戚が経営している教会で生活していた。人の役に立つ事もいっぱいしてきた。

『良い事をすれば気持ち良いだろう?』なんて言っていたシスターと一緒に様々な活動を行った。

 善い行いはたくさんしていたはずなのに。

 

 会いたい。シスター。

 ズケズケと踏み込んでくるところはあったけど、困っていたら絶対に助けてくれた。

 シスターがいたら、今頃……。

 

「ごめんなさい。今の私じゃあなたの事を本当の意味で助ける事は出来ない。でも、必ず安心して暮らせる世界を取り戻すから」

「ぇ……」

 

 気付いたら私は赤髪の彼女に抱かれていた。

 

「今はまだ、力も足りなくて、仲間も足りないけど。みんなが笑って過ごせる世界を」

 

 鼓動が聞こえる。

 懐かしい。

 昔、両親がいない寂しさで泣いていたときにシスターが同じように心臓の音を聞かせてくれた。『こうすれば安心するだろう?』なんて言って。

 

「うぅ……会いたい……会いたいよ、シスター……」

 

 見ず知らずの彼女に、私は。

 

「帰りたいよ……シスター……」

 

 誰にも話した事のない前世の記憶を零してしまっていた。

 

「ええ、帰りましょう」

 

 

 

 あれからどうやって地上に戻ったのか覚えていない。

 でも、とても安心したのは覚えている。ヘスティア様が言うには赤髪の少女が私を抱いて届けてくれたらしい。きっと、あの彼女だろう。

 

 アストレアという神の眷族だという彼女の元を私は訪れた。

 それはもう一度彼女に会いたいと思ったからであり、助けてくれたお礼を言うためでもあり、そして戦い方を教えてほしいと頼むためでもあった。彼女は、アリーゼ・ローヴェルさんはそんな厚かましい私の願いを聞き入れてくれた。

 

「力任せに振ってもダメよ」

 

 昨日死にかけて、助けられて。

 アリーゼさんにシスターの面影を見たからかどうかは自分でもよく分からないけれど、少しだけ、私も前を向こうと思った。

 

「怖くないのかって? そういうときはバーニングよ!」

「気持ちとか心とか、色々とバーニングよ!」

「困ったときはバーニング!」

 

 ……やっぱりシスターとはちょっと違うかもしれない。

 

 

 




○主人公
ユイ・レグリース
Lv.1
力 :I16
耐久:I9
器用:I23
敏捷:I36
魔力:I0

《魔法》
【ルクレエ】
・速攻魔法
・過去に自身の魔力を込めて作成した物を創り出す
・精神力消費は生成物に依存

《スキル》
作製者(ウティ・アルティザン)
・アイテム作製時、特殊効果を付与可能
・特殊効果は心象強度に応じて効果増幅
・アイテム作製時、『器用』に超高補正
・アイテム作製時、精神力消費減少

多幸運命(ボヌール・ソール)
・運が良くなる
・発展アビリティ『幸運』の常時発現
・『幸運』に高補正

超常直感(アノルマル・アンチュイシオン)
・勘が鋭くなる
・戦闘時、『幸運』に高補正


・ずっと前世の記憶に縋っていた
・今回の出来事を機に、一歩前に踏み出した
・新たな依存先を見つけたとも言う
・実はヘファイストスの眷族とヘスティアが密かについて来ていたため、アリーゼがいなくても助かってはいた

○主人公(前世)
・享年17歳
・とある事情で入院していた病院が火事になり、逃げ遅れて死亡
・不幸体質

○シスター
・前世で主人公の親戚が経営する教会に所属していたシスターの1人
・特定の人物を「先生」と呼ぶような感覚で、主人公は「シスター」と呼んでいた
・主人公の人格形成に大きく影響を与えた
・休日のだらけた過ごし方もアニメ関係もこの「シスター」が主人公に伝授したもの
・オススメのアニメはFate/stay night(3ルート全て)
・劇場版Heaven's Feelは3作全て主人公と映画館に見に行った

○アリーゼ
・まだ団員が自分1人だけしかいない
・戦闘衣は主人公にびちゃびちゃにされた
・「シスター」と同じ優しい心を持つが、「シスター」よりもちょっとだけ天然おバカ

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