ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
「そうそう、その調子よ!」
アリーゼさんと一緒にダンジョンに潜っている。私はアリーゼさんに見守られながらモンスターと戦っていた。
手にはヘファイストス様から借りた剣。この前1本折ってしまったため、お願いして2本目をお借りした。怒られるかと思ったけれど、そんな事はなく、どこか嬉しそうに貸してくれた。
「だいぶ慣れてきたじゃない!」
「あ、ありがとうございます……アリーゼさんのおかげです」
コボルトの魔石を拾ってリュックサックに入れる。
アリーゼさんの教えのおかげで、5層程度までなら危なげなく戦えるようになってきた。ステイタスの更新をすれば、数値としても強くなってきているのが分かる。
「そろそろ休憩にしましょうか? もうお昼だし、一旦食べに帰る?」
「お弁当作ってきました。アリーゼさんの分も」
「あら本当? なら、いただこうかしら!」
少し脇道の方へズレたところにあるルームで、壁を傷付けた。
ダンジョンはモンスターを生み出すよりも壁の修復を優先するため、こうして休憩するときは壁を傷付けると良い。アリーゼさんに教わった事だ。
朝早く起きて台所を使わせてもらって作った弁当をリュックの底から取り出す。揺れても大丈夫なように詰めて詰めて作ったけれど、一応崩れていないかアリーゼさんに背中を向けながら確認した。ちょっと片寄っているだけで全然大丈夫そうだった。
「わぁ、すごい……ユイ、あなた料理上手なのね……!?」
「昔色々やってて、料理はちょっと得意なんです」
料理は前世で結構やっていたため、食材さえあれば作ろうと思えば色々と作れる。オラリオに来てからは全然やってなかったけれど。
アリーゼさんのすぐ隣に腰を下ろした。
「これ、すごく美味しい!」
「良かったです……」
ちゃんと味見はしたけれど、やっぱり実際に食べてもらう瞬間は緊張する。美味しいと言ってくれて、安心した。
「ふふ、ユイは甘えん坊さんね」
「あ、ごめんなさい」
「良いのよ? 好きなだけ甘えてくれて」
いつの間にかアリーゼさんにもたれかかっていた。
私は急いで姿勢を正して自分の分の弁当に手を付けた。
アリーゼさんと出会ってから1ヶ月ほど経った。
ヘスティア様もヘファイストス様も私が明るくなったと言ってくれた。自分でも、1ヶ月前に比べたら随分と明るくなったと思う。明るくなったというよりは、前が塞ぎ込み過ぎていたという方が近いけれど。
今日もアリーゼさんとダンジョンに潜る。朝から潜っているため、今回も弁当を持ってきている。
モンスターを危なげなく狩りながら進んでいると、なんとなくアリーゼさんの調子が良くなさそうだった。
「アリーゼさん、調子が悪いなら今日は……」
直後、ぐうぅぅ〜〜という音がなった。
「実は朝ご飯食べてなくて……」
「ちょっと早めにお弁当食べます?」
「昨日の夜も雑草のスープ……」
「今すぐお弁当食べましょう!」
急いで休憩出来るルームを探して弁当を広げた。
「あの、なんでそんな事に……?」
「奮発して装備を新しくしたから金欠で……」
食事事情が壊滅的な事になっている理由を聞けば、それは単純明快だった。そういえば、最近アリーゼさんの装備が新しくなっていた。
確かによく考えて見れば、剣1本にも結構なお金が掛かる。私はヘファイストス様の好意で色々使わせてもらっているけれど、本来はお金が掛かるものばかりだ。
このままではいけないと、素直に思った。幸いにして、ヘファイストス様のおかげで私には少しお金に余裕がある。
「今日、夜ご飯食べに行きませんか? 奢りますので。武器とかはヘファイストス様が貸してくれるので、お金には余裕があるんです」
「それは魅力的なお誘いね……でも、アストレア様がいるし……」
「アストレア様の分も奢ります」
「えっと、じゃあ……お願いしようかしら」
今日のダンジョン探索は早めに切り上げる事にした。
このご時世に外食が出来る場所は限られる。その中で、私がたまに利用するようになった店がある。
豊穣の女主人という食事処で、店主が凄腕の元冒険者らしく荒くれ者はもちろん、
地上に戻ってから、まずはアリーゼさんと一緒に夜ご飯を外で食べてくるという旨をヘスティア様に報告した。すると、ヘスティア様も行くというので合流して3人でアストレア様の元へ。私が奢ると言ったら申し訳なさそうにしていたアストレア様を、普段お世話になっているお礼だと何とか説き伏せて4人で豊穣の女主人へ向かった。
本当かどうかは分からないけれど、ヘスティア様はアストレア様とマブダチだとか言って食事中盛り上がっていた。私はアリーゼさんの胃の中に次々と料理が消えていくのを眺めていた。
その後、せっかくだからとお泊り会をする事になり、ヘスティア様がヘファイストス様に直談判した事で私が借りている部屋でアリーゼさんとお泊り会をする事になった。アストレア様はヘスティア様と、新たにヘファイストス様を加えて仲良く2次会をするらしい。
「何だか恥ずかしいところを見せちゃったわね」
「そんな事ないですよ。私だって初めて会ったときとかひどかったですし」
私の部屋は1人用であるため、ベッドも布団も1つずつしかない。だから、私たちは同じベッドに転がって布団を共有していた。
1人用のベッドに布団なので、アリーゼさんとは肩が触れ合うほど密着している。
「…………」
「アリーゼさん?」
「思ったんだけど」
「はい?」
「私たちって同い年じゃない?」
「え、はい」
「いつまでもアリーゼさん、っていうのもちょっと他人行儀な気がするのよねー。という事で、アリーゼって呼んでみて」
唐突な提案に少し固まる。
アリーゼさんは私にとって命の恩人であり、この世界で前を向くきっかけをくれた尊敬の人だ。それをいきなり呼び捨ては、少しハードルが高い。
「アリーゼ……さん」
「アリーゼ!」
「あ、アリーゼ……」
「そう!」
何というか、むず痒いというか恥ずかしいというか。言い表しづらい感覚に襲われていると、アリーゼさ……アリーゼがさらに付け加えた。
「あとは言葉遣いね。ほら、私みたいに対等にお気楽に話してみて?」
「お気楽……?」
たぶんタメ口で話せという意味だとは思う。
「ほらほら。何か言ってみて?」
「えっと、アリーゼ……明日からはもっと長くダンジョンに潜る? 今より稼がないと、また雑草スープに……」
「あっちゃー、痛いところを突かれたわね。それはまぁ、お願いしようかしら。それはそれとして、ほら。何か他にはない?」
「えっと、えっと、じゃあ……アリーゼ、手を握っても、良い……?」
「ええ、良いわよ!」
触れ合っていた方の手が握られた。暖かい、体温が伝わってくる。
私は何を言ってるんだろうか。
ちょっとパニックになって変な事を口走ってしまった。
マズい。手汗が滲んでいるかもしれない。
離そうとしたらニギニギされた。
なんだか安心する。懐かしい。
昔、眠れないときに握ってくれた手と同じだ。
私はいつの間にか眠っていた。
とてもぐっすり眠れた。
○主人公
・まだ修道服ではなく普通の冒険者衣装を着ている
・アリーゼに対して呼び捨てタメ口で話すようになった
・アリーゼに手を握られた感覚はずっと覚えている
・料理が上手い(が、食堂があるのでオラリオに来てから今までアリーゼ以外に振る舞った事はない)
○アリーゼ
・金欠時の最終奥義は雑草スープ
・以降も金欠になるとアストレアに振る舞われるし、ファミリアの仲間が増えた暁にはファミリア全員に振る舞われる事になる