ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
アリーゼたちと
額に宝石のようなものが付いている少女のような姿。下半身が人型ではなく蛇のような形であれば、たまにダンジョンで見かけるヴィーヴルそのものだろう。
「……ベル」
四次元ポーチから黒鍵を取り出した私とモンスターの間にベルが割り込んだ。
「待ってください! この子は、ウィーネはただのモンスターじゃないんです!」
「最近は一緒にダンジョンに行ってないし、同じファミリアのみんなをほったらかしにしてる事は悪いと思ってる。けど、何で次から次に問題を持ってくるの」
18階層のイレギュラーの件は事故みたいなところがあったからまだ良いとして、【アポロン・ファミリア】の件は喧嘩を買ったベルたちにも責任があるし、【イシュタル・ファミリア】の件はこっちからすれば完全に巻き込まれ事故。
ただでさえ最近はドタバタしているのに、ベルが入ってきてからは問題が起こる頻度が異常だ。
「ウィーネは……!」
「ウィーネって何? そのモンスターの名前? ……色んな趣味があるのは分かる。だからもしベルが怪物趣味でも構わない。でも、地上まで連れてくるのは容認出来ないよ。特に、このファミリアでは」
ベルの趣味が何であれ私にとってはどうでも良い。だが、趣味の範囲を逸脱した行為は看過出来ない。
この行為は、決して許す事は出来ない。
「今すぐ灰に帰すか、ダンジョンに戻すか。どっち」
「待ってください、ユイさん! 話を聞いてください!」
本当は今すぐ魔石を砕いてしまいたい。こんな事が世間にバレたらどうなるか。そんな事、考えたくもない。
しかし、当のモンスターは暴れもせずにじっとしている。ベルが新たなスキルでテイムした可能性もなくはないかと思い直して私は黒鍵を下げた。突然の事に視界が狭くなっていたかもしれない。
「分かった。じゃあ、話して」
そうしてベルが語った内容は。
ダンジョンで傷付いたこのヴィーヴルを見つけた。泣いていたというのと、他の冒険者に狙われていたので咄嗟に庇った。さらに言葉を話すという事も分かり、放っておけなかったベルが他のみんなの反対を押し切って連れて来た。という事だった。
「…………」
頭が痛い。心なしか身体がダルいような気もする。
「【私が願う。響き渡れ、癒しの旋律】──【ラヴィ・ルミエール】」
一瞬和らいだが、すぐに再発した。
そうだ、【ラヴィ・ルミエール】は環境ダメージのような継続ダメージに弱いんだった。
「話を聞いて改めて言うけど、それはウチの手には負えない。見なかった事にするか、【ガネーシャ・ファミリア】なら何とかしてくれるかもしれないけど」
「ユイ……ベル、きらい……?」
「……ちょっと君は黙ってて」
ベルが言ったように、ヴィーヴルが人の言葉を話した。少しイントネーションが変だが、普通のモンスターにはあり得ないレベルの知能がある。
とはいえ、話の内容までは分かっていないのだろうか。
「ヘスティア様も、許したんですか?」
「ボクにも不測の事態なんだ。だから一先ず様子見を、と思って……」
思わず溜め息が出てしまう。
「ヘスティア様なら分かってるでしょう? 私たちは【ヘスティア・ファミリア】だけでやってるわけじゃないって。モンスターを匿うなんて事、知られたら私たちだけじゃなくてアリーゼたちにも迷惑が掛かる。それでもし、アリーゼの正義にヒビが入ったらどうするんですか。もし、正義のファミリアへの市民たちの信頼が失墜したら。どう責任取るんですか」
私たちだけに何かが起こるならまだ良い。だが、現実問題として恐らくそうはならない。
【ヘスティア・ファミリア】は【アストレア・ファミリア】と同盟を組んでいる。元々【ヘスティア・ファミリア】が私しかいなかったという事もあってセットで扱われる事が多い。実際、あまり詳しくない人からは私とアリーゼが同じファミリアだと思われている事もあった。
つまり、私たちの問題はアリーゼたちの問題と見られる。私たちがモンスターを匿えば、アリーゼたちもモンスターを匿うような人間だと見られかねない。それだけは絶対に避けなければならない。
「分かってる。けど、こうして連れて帰って来てしまった以上、無闇に動かすのも……」
ヘスティア様の言う通り、無闇に連れ出しても目撃される確率は上がって危険だ。だが、ホームに匿っているこの状況もかなりまずい。
私は生い立ちが特殊で価値観も他の人とは違うからこうして話せる余裕があるだけで、例えば一般の人がこの光景を見れば逃げ出すだろうし、すぐに噂は広がる。
「……ウィーネだっけ、喉乾いてない? 美味しいジュースがあるんだけど、飲む?」
「あ、ありがと……」
ヴィーヴルは私からポーチから取り出したビンに入ったジュースを受け取り、何も疑う事なくそれを口にした。
「話は分かりましたけど、結局ダンジョンに帰す以外ないですよね。ベルもリリたちも、1回ちゃんと話そう。今まではなぁなぁでいたけど、このファミリアにいる以上守ってほしい事は共有しててもらいたいから」
広間のソファーに腰を下ろして、改めて団員のみんなを見渡す。
「まず、このファミリアは私たちだけのものじゃない。もう知ってるかもしれないけど、都市三大派閥の内の2つが【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】っていう1つずつのファミリアなのに対して最後の1つが【ヘスティア・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の2つだとされているのは、それだけ【ヘスティア・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】が親密にしてるっていうのと、民衆にも私たちが2つで1つだと思われているから。ここまでは良いよね?」
みんなが頷く。
「だから、私たちの醜聞は【アストレア・ファミリア】の醜聞にもなる。こんな事が知られたら【アストレア・ファミリア】は正義のファミリアから怪物を匿う危険集団だと思われる。同じファミリアの仲間だから私に迷惑をかけるのは良いよ。でも、アリーゼたちに迷惑をかけるのは駄目。だからベル」
「は、はい」
「【アポロン・ファミリア】の件は確かにちょっと困ったけど、最初の喧嘩は冒険者ならよくある事だし、
「はい……」
「【ソーマ・ファミリア】の件はちょっと危なかったけど、体裁上【ヘスティア・ファミリア】はほとんど無干渉だから良いし。命と春姫に関しては」
「「は、はい……」」
「こっちには団員が攫われたっていう立場があったからある程度大きく動いても大丈夫だった。アリーゼだって仲間が攫われたなんて事になったら同じようにするだろうし。でも、今回のは違う」
と、ヴィーヴルの方を見ると、フラフラと身体が揺れ、焦点が合わなくなっていた。それから数秒で、パタリと倒れた。
「ただの鎮静剤だから大丈夫」
みんなが慌てる前に制止する。
先ほどのジュースに混ぜたものが効いたらしい。
「とにかく、私だからまだ話す余地があるけど、他の人はそうはいかないよ。だから……」
と、その瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「俺が出てくる」
1人私に言及されなかったヴェルフが玄関へ向かった。
「だから、このままここに置いておくとかは絶対に無理。取れる選択肢はここで殺して、なかった事にするか、ダンジョンに放して見なかった事にするか。放すなら今から私がダンジョンに連れていくから。どっちか決めて」
「ここに置いておけないというユイ様の意見にはリリも賛成です。しかし、最終的にダンジョンに帰すにしても、そこまで急がなくても良いのではありませんか? 話すモンスターという前代未聞の現象です。こうして連れてきてしまった以上、情報を集めてからでも遅くはないと思います。本人から何か聞けるかもしれませんし」
「……今はタイミングが悪いの。私はアリーゼたちと大きい案件を抱えてるから、こっちまで手を回せる余裕がない」
リリの言う事はもっともだ。だが、今は本当にタイミングが悪い。
ただでさえ
最悪なのは、【ロキ・ファミリア】を始めとする他ファミリアと意思疎通が取れずに
やらなければならない事が多い。無い手は広げられない。
「話の途中で悪い。ユイにお客さんだ。緊急の用らしい。【ディアンケヒト・ファミリア】だ」
ヴェルフが戻って来た。
しかし、またもやタイミングが悪い。今日はアミッドがいるはずだ。それでも私を呼びに来たという事はアミッドでは手に負えないような大規模な事故でも起こったか、あるいはアミッド本人に何かあったか。
「ちょっと待ってて」
待たせるわけにもいかない。玄関へ向かう。
「突然すみません、『聖火の守人(ウェスタリス)』様」
そこにいたのはヴェルフが言った通り『ディアンケヒト・ファミリア』に所属している女性だった。何度か業務で話した事があり、私と面識がある人だった。
「どうしたんですか?」
「実は……」
聞けば、歓楽街のアマゾネスたちが正体不明の相手から襲撃を受けて重軽傷含めて怪我人が多数出ているという。しかも、襲撃に使われたのは
ある程度の
「分かりました。場所は『ディアンケヒト・ファミリア』の治療院ですか?」
「はい!」
「先に戻っていてください。すぐ向かいます」
「助かります!」
どうしてこうも悪い事が重なるのか。
「ヘスティア様、その子はもう私の部屋でいいので静かな所に寝かせておいてください。いつ起きるか分からないですけど、起きたらこれを飲ませてください。みんなも私が帰ってくるまで余計な事はしないで」
ともかく、アミッドたちの方を放置する事も出来ない。ヘスティア様に鎮静剤入りのジュースを渡してホームを出た。
治療院は何度も訪れた事のある場所だ。走ればすぐに到着した。治療院では外にまで慌ただしさが漏れてきていた。
「ユイさん! 良いところに。話はどこまで聞いていますか!?」
「大体は」
中に入るとアミッドはすぐに私に気付いて駆け寄って来た。
「すぐ見せてもらっても良い?」
「こちらです!」
案内された場所には数人のアマゾネスがベッドに横たわっていた。
「【私が望む。邪法を滅せ、聖なる息吹】──【ラヴィ・ルミエール】」
アマゾネスたちの下に
「大丈夫。私の魔法でも解呪出来る」
「良かった。それではここはお任せしても?」
「うん。あと、特効薬の開発とかはやってる? 何だったら開発と並行で進めるけど」
「それは私の方で。以前恐らく同系と思われる物を確認していますので、もう少しで完成します」
「了解。じゃあアミッドはそっちに集中して。怪我人は私が診る」
「お願いします」
アミッドが奥へ下がって行った。
さて。
いっその事私が元凶を叩きに行った方が早いような気がしないでもないが、この場を放っておく事も出来ない。
「人手が足りないので手分けしましょう。数人この場に残って
一瞬で症状を診断出来るという私の魔法の特性上、固まってくれていた方が手っ取り早い。配置を変更しておく。
「ひとまずアミッドの特効薬が完成するまで踏ん張りましょう。その後、襲撃が止まないようでしたら私が原因を叩きに行きますので」
「「「はい!」」」
アミッドの代わりに指示を出し、私は治療に集中した。
その後、アミッドの特効薬が完成し、それまで私が治療していたおかげもあって怪我人たちの状態も持ち直した。だが、運ばれてくる数は減らなかったため、根本を叩く事にした。
治療院を再びアミッドに任せ、【フレイヤ・ファミリア】によって半壊滅した歓楽街へ向かえば、アマゾネスたちを襲っていたのは
何度か撃退すれば襲撃はなくなったが、私の焦りは大きくなった。少し前までは【ロキ・ファミリア】とのすり合わせをどうするか、など攻める側の思考だったが、この大胆な犯行を考えれば守る側としても考える必要がある。仮に
私がホームに帰れたのは一夜明けてからだった。
○主人公
・前世から引き継いだ価値観もあって、喋るモンスターを受け入れる事は出来る
・しかし、それはアリーゼがいなかったらの話で、そのモンスターを匿う事でアリーゼを傷付ける可能性がある以上、認めるわけにはいかない
・不定期で医療従事者へ向けて公開講義を行っているため、ギルド職員や医療系ファミリアの団員のほとんど全員と面識があり、有事の際にスムーズに連携を取る事が出来る
○
・すぐに動きを見せる事はないだろうと主人公は考えていた