ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

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異端児(ゼノス)

 

 

 アマゾネス襲撃事件が終息し、朝日が昇り始めた頃にようやく私はホームへ戻る事が出来るようになった。

 アマゾネスが受けた傷は私やアミッドの魔法でしか治せない強力な呪詛(カース)だったが、アミッドが開発した特効薬のおかげで他の治療師(ヒーラー)でも治療出来るようになった。という事で解放された私はホームへ戻っていたのだが、そのホームが何者かに監視されているというのが感じられた。

 

「どこから……」

 

 この感じ、人間ではない。

 集中する。そして見つけた。

 私の直感が指し示したのは、近くの建物の屋根の上。そこにはフクロウがいた。ただし、その目はただの目ではなかった。

 

「ッ……やられた……!」

 

 黒鍵を複製し、投擲。フクロウの人工物である目を貫いた。

 あの目は恐らく魔道具(マジックアイテム)。それも、見た映像をどこに送るような。

『神秘』持ちでもなければ作れないが、私が把握しているオラリオの『神秘』持ちで私たちのホームを監視する必要がある者などいない。いるとすれば、迷宮モドキを作った者あるいはその者が残した遺産を持つ者。最も可能性が高いのは闇派閥(イヴィルス)だ。

 

「みんな! 起きて!」

 

 早朝だが、構わずみんなの部屋を回る。

 

 最悪の想定としては、闇派閥(イヴィルス)が私たちが嗅ぎ付けているという事を察知して逆にこちらを監視し、ファミリアの誰かを人質に取るなどだったが、幸いにもファミリアのメンバーは誰一人として欠けていなかった。

 

「こんな朝に、どうしたんだい……ユイ君……」

 

 眠り眼を擦りながら起きてきたみんなを代表してヘスティア様が言った。

 

 同じファミリアとはいえ、ベルたちを巻き込むつもりはなかった。下手に混乱を招くのは避けたいため、民衆にも知られないうちに終わらせるつもりだった。ベルたちも知らないまま終わればそれが良かったが、確定ではないとはいえ闇派閥(イヴィルス)に監視されている可能性がある以上、ベルたちが身を守るためにも共有しておく必要がある。

 

「ごめん、みんな。聞いて。真剣な話」

 

 広間に集めたみんなの顔を順に見渡す。ウィーネと名付けられたヴィーヴルもついて来たが、今は良い。

 

「えっと、ウィーネの話ですか……?」

「いや、その話じゃない。昨日私が言った事覚えてる? 大きい案件抱えてるって」

「はい」

 

 ベルに答える。

 そっちも大きい案件だが、こっちの方が直接の危険度は高い。

 

「本当は黙ってる予定だったんだけど、事情が変わったんだ。だからみんなに言っておくよ。単刀直入に聞くけど、闇派閥(イヴィルス)って知ってる?」

闇派閥(イヴィルス)……ですか?」

「うん。5年前ぐらいまで暴れてた犯罪集団なんだけど、それが最近また活動を始めた」

 

 そこまで言ったところでバンッとテーブルを叩きながらリリが立ち上がった。

 

「そんな! 闇派閥(イヴィルス)はユイ様や【アストレア・ファミリア】の方々が壊滅させたと……!」

「ごめん。残党が残ってたみたい」

「では、まさか、また暗黒期のように……!?」

「そうさせないために私たちは動いてる。今はアジトを見つけてその調査もしてた」

 

 リリはまだ理性的な方だ。私やアリーゼたちが正義として矢面に立って闇派閥(イヴィルス)を潰したのが約5年前。5年という時が長いと感じるか短いと感じるかはそれぞれだが、依然として当時の暗い記憶を強く持っている者は多い。

 

「それでユイ君、どうしてそれを話す気になったんだい?」

「さっき帰ってきた時に、このホームが何者かに監視されてたからです」

「な、なんだって!?」

 

 ざわりと動揺が広がった。

 

「と言っても、監視の目は鳥に仕込まれた魔道具(マジックアイテム)で、闇派閥(イヴィルス)の仕業だと決まったわけではありません。ただ、可能性は高い」

「待ってくれ。ならユイは俺たちが闇派閥(イヴィルス)に狙われるって言いたいわけか?」

「昨日までは、まだ大きな動きを見せるとは思ってなかった。でも、昨日。これは公式には発表されてないから、内密にしてほしいんだけど、昨日【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスたちが闇派閥(イヴィルス)に襲われたの。私が呼ばれたのもその関係」

「そ、そんな……! アイシャさん……!」

「春姫殿!?」

「アイシャ・ベルカ……『麗傑(アンティアネイラ)』は無事だったけど、私が行ったときにもう手遅れだったり、運ばれて来たときにはもう、って人は助けられなかった」

 

 今回の襲撃で少なくない犠牲者が出た。私の力でも救えなかった人がいた。

 いや、言い訳だ。私の【ラヴィ・ルミエール】第四詠唱式を使えばきっともっと救える人はいたはずだ。でも、私は使わなかった。まだ間に合ったはずの人を私は見捨てた。

 死者の蘇生という奇跡だ。それが知られたら。そう考えると多くの目がある場所では使えなかった。

 

「ごめん、話を進めるよ。すぐには動かないだろうと思ってた闇派閥(イヴィルス)が昨日大胆な動きを見せたから、これからも同じぐらい動いてくる可能性がある。だから、私たちが狙われる可能性は十分あり得る。みんなには悪いけど、私は奴らを潰した張本人だから」

 

 みんなが黙る。

 当然といえば当然かもしれない。みんなからすれば、とばっちりも良いところだ。

 

「みんなの事はちゃんと守れるようにする。でも、この件は【ロキ・ファミリア】とか他のファミリアとも連携しないとだから。その子まで手を回せないっていうのはそういう話なの」

「ヘスティア様は、この事を知っていたのですか?」

「うん、ボクはユイ君から聞いていた」

 

 ヘスティア様には暗黒期から一緒に戦っていたのもあって、あらかじめ概要は話していた。ただ、ベルたちに関しては、昨日までの段階では闇派閥(イヴィルス)がすぐに大きな動きを見せないだろうと思っていた事もあって、無駄に不安にさせないために伝えていなかったのだ。現状はベルたちも冒険者とはいえ、守るべきオラリオの住民である事には変わりない。

 秘密裏に処理して、知らないままに平和に過ごしてくれるのが一番良かった。

 

「ボクも無闇に話さない方が良いって事に賛成していたんだ。だから、ごめんよ。黙ってて」

「とりあえずは【アストレア・ファミリア】に保護してもらえるように言ってみる。闇派閥(イヴィルス)にはこれ以上何もさせないために、こっちから攻め込むつもりなんだけど、他のファミリアと協力する事を考えたら何人かは残っても大丈夫だと思うから」

「うん。でも、そうなると……」

 

 ヘスティア様が目線をウィーネへ向けた。

 そう。ベルたちを【アストレア・ファミリア】に保護してもらうとすると、また1つ問題が出てくる。

 

「やっぱりすぐにでもダンジョンに……」

 

 私がそう言った瞬間、玄関のチャイムが鳴った。

 

「あ、僕が出てきます!」

 

 嫌な予感がした。

 

 

 

 訪れたのは、一見モンスターのスパルトイに見違えるような人物だった。フェルズと名乗り、元人間だというその人物が語ったのは、喋るモンスターの事だった。

 人間と同じように言葉を話すモンスターは異端児(ゼノス)と呼ばれており、ベルが連れて来たウィーネ以外にも結構な数がいて、既に接触しているらしい。ギルドのウラノス様はこの事を知っている、というより主導していて、他にもガネーシャ様が知っていると。

 そして、その異端児(ゼノス)たちは地上への進出を望んでいるらしい。

 

「ヘスティア様」

「嘘をついている様子はないよ」

「…………」

 

 そんな話を聞かされてどうしろと。

 現実的に考えて、いくら人間と同じように話せるだけの知能があったとしてもモンスターが地上で暮らすのは不可能だ。そんな事をいざというときに身を守る手段がない民衆が受け入れられるわけがないし、自衛手段があったとしても普段モンスターと戦っている分冒険者はそれが敵だと強く理解している。よほどの酔狂でなければ到底受け入れられないだろう。

 

『それと、すまない。魔道具(マジックアイテム)を使って君たちを監視していたのは私だ。その子とどう接するのか、彼らの希望となり得るのかを確かめたかった』

「そうですか」

 

 これは朗報ではある。危険がないとは言えないが、闇派閥(イヴィルス)でなかったならベルたちの安全が現在進行形で脅かされているわけではないという事なのだから。闇派閥(イヴィルス)と因縁のある【ヘスティア・ファミリア】である以上気を抜く事は出来ないが。

 

「それで、ここに来た目的は?」

『その子……ウィーネを異端児(ゼノス)たちの元へ連れて行ってほしい』

「……分かりました。階層と場所を教えて下さい。私がすぐに届けてきます」

『待ってくれ。君だけではなくベル・クラネルたちも共に行ってほしい』

「却下です。ベルたちの歩幅に合わせてゆっくり行けるほど暇じゃない」

『どうしても、だろうか』

「貴方がギルドの人間なら共有しておきますが、今は闇派閥(イヴィルス)をどうにかする必要があります。というか、そもそも送り届けるなら貴方が行けば良い話では? そこそこの実力がありそうですし」

『それでは意味がない。我々は彼らへの架け橋となる者を探している。ベル・クラネルと、君を含めたこの場の仲間たちはそうなり得る。その子を保護して送り届けるという彼らにとっても受け入れやすいこの機会を逃したくない』

「であれば一旦ウィーネを預かってください。べつにそれが嫌だと言っているわけではありません。タイミングが悪いだけです。最近の闇派閥(イヴィルス)の動きを見るに、そう放置していて良い時間はない」

『……分かった。ウラノスに相談してみよう』

 

 そう言ってフェルズと名乗った者はホームを去った。

 

 そしてそれから少し。ウィーネがいる以上、下手に動く事も出来ずホームで待っていると、ギルドからの遣いが訪れた。持ってこられたのは、ギルドからの強制任務(ミッション)の通達だった。

 その内容は、【ヘスティア・ファミリア】全員でウィーネを指定の場所まで届けるというもの。

 

「うーわ……最悪」

 

 ウラノス様の判断だとは思うが、なぜこうなったのか。後でやると言ったのに。闇派閥(イヴィルス)が何か事を起こさないという確信でもあるのか。あるいはそっちは【ロキ・ファミリア】が張っているから大丈夫だとでも言いたいのか。

 ともかく、せめて簡易な封筒で済ますのではなく意思疎通をしようとする姿勢だけでも見せろと思った。

 

 とはいえ、爆弾を早々に処理出来ると考えれば悪い事ばかりではない。あっちが強制任務(ミッション)という形をとってきたなら、万が一の場合は責任を押し付けられる。今はポジティブに考える事にしよう。

 

 

 





○主人公
・ベルたちと共に原作通り異端児(ゼノス)の隠れ家までウィーネを送り届けた
・試すために襲い掛かられたが、軽くいなした

○ウラノス
闇派閥(イヴィルス)異端児(ゼノス)を天秤に掛けると重要度は異端児(ゼノス)へ傾く
・【ヘスティア・ファミリア】に対して強制任務(ミッション)という形をとったのは、ウィーネを抱えたままの【ヘスティア・ファミリア】には余計な事をせずに直行でダンジョンへ向かわせた方が良いと考えたのと、何かがあったときはウラノスの名の下に処理しようとしているから
・強引ではあったが、その他【ヘスティア・ファミリア】団員はともかく、主人公を失うのはオラリオにとっても損失が大きいため、万が一【ヘスティア・ファミリア】が孤立しそうな場面になれば全力でなんとかするつもりである(仮に主人公がオラリオを離れるような事態になれば【アストレア・ファミリア】もどうなるか分からない。特にアリーゼ)
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