ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
暗黒期と呼ばれるこの時代。私が冒険者になってから数年、Lv.4になった今でも変わらず
オラリオの秩序は乱れ、人々は日々の生活に苦慮する。しかし、その中で光がないわけではなかった。その1つがアリーゼが率いる【アストレア・ファミリア】だ。正義を司るアストレア様を主神とする彼女たちは正義の名の下に悪を切り裂く。
私はそんなアリーゼたちについて行って
「敵の本命、行くわよ! ユイ!」
「了解!」
煙の上がる工場地帯。
こちらへ向かい来る、あるいは背を向けて去ろうとする白濁色のローブに身を包む者たちへ向けて私は黒鍵を投擲する。黒鍵はそれぞれいずれかの四肢に突き刺さり、壁や地面に釘付けにした。
さらに剣を手にアリーゼが突っ込み、残った悪の眷族を切り裂いた。
私が中・遠距離を、アリーゼが近距離を受け持つ2人の連携戦術だ。
「ふぅ。こんなものね」
「ライラたちも制圧出来たみたいだし、この場は一件落着かな」
工場の全ての区画を制圧し、ひと息つく。
そんな様子を見て、地面に縫い付けられた
「何なんだ、お前たちはぁ!?」
「あら、自己紹介が必要?」
それに対してアリーゼは自信たっぷりにフフン、と胸を張った。
「弱きを助け、強きを挫く! たまにどっちも懲らしめる! 差別も区別もしない自由平等、全て正なる天秤が示すまま!」
いつの間にか、他の【アストレア・ファミリア】のメンバーも集まってきていた。
「願うは秩序、想うは笑顔! その背に宿すは正義の剣と正義の翼! 私たちが【アストレア・ファミリア】!」
「と、【ヘスティア・ファミリア】ね」
カッコよくアリーゼの名乗りが決まる。
実は裏で結構練習しているのは内緒である。
後処理を遅れて現れた【ガネーシャ・ファミリア】に任せ、私はアリーゼたちと別れて【ヘファイストス・ファミリア】のホームに戻った。当たり前のように他ファミリアのホームに立ち入っているのは、訳あって私と主神のヘスティア様が住ませてもらっているからだ。
「おかえり、ユイ君」
「ただいまです、ヘスティア様」
ヘスティア様に迎えられ、全身の力を抜く。
「今日の夜ご飯はカレーらしいぜ?」
「楽しみです」
「今日も調合室に籠もるのかい?」
「はい、あと少しで『神秘』が1段階上に行きそうなので」
少しだけ休憩し、ほとんど私専用として貸してもらっている1室を訪れた。様々な素材や薬品などが置かれた調合室だ。
一般的な冒険者に比べて治癒の魔法を使える
作れる者が少ない
そして、それらの
「今日は、あともう少し……」
そうして今日も夜が深まっていく。
人々の不安を晴らすために、街ではギルド主催の炊き出しが定期的に行われる。
農業系ファミリアの最大手である【デメテル・ファミリア】が全面協力のもと行われているだけあってその規模は大きく、また少し前の陰鬱とした空気が嘘かのように街には活気が戻っていた。
あくまで一時しのぎに過ぎないとしても、ずっと暗いままではいつか不安で潰れてしまう。こうしてたまには明るくなれる日があるというのは大切な事だろう。
そんな様子を、私は少し高い建物の屋根の上から眺めていた。
アリーゼたち【アストレア・ファミリア】の仕事はこの炊き出しの手伝いだが、今回の私の仕事はどちらかといえば警備となる。Lv.4といえばこのオラリオでも上から数えた方が早い戦力の1人だ。ただの雑用をさせるよりも、という事だろう。
他にも【ロキ・ファミリア】からはLv.5の第一級冒険者であるガレスさんも警備のために足を運んでいる。何なら有事の際はアリーゼたちも大きな戦力になる。よっぽどの事がない限りこの場所を荒らされるような事はないだろう。
私の目線の先ではアリーゼがリオンと仲良く何かを話している。
リュー・リオン。【アストレア・ファミリア】に入った中では最も新人のエルフ。といっても、既にLv.3に到達しており戦力としては十分。
思えば【アストレア・ファミリア】もメンバーが増えたものだ。最初にアリーゼに会ったときはまだアリーゼ1人しかいなかったのに。
べつに何か思うところがあるわけではないが。アリーゼと2人だった日々が懐かしいと思っただけだが。
「お主は参加しなくて良いのか?」
と、そこへ話し掛けてきたのはガレスさんだった。
「私は警備担当ですから。それに、私は遠距離攻撃手段を主として使うので、こうして見渡せる場所にいた方がもしものときに対応しやすいんです」
「見渡せる、か……その割には目線が1箇所に固定されているようだが」
「アリーゼが輝き過ぎているせいですね。そんなつもりはないのに、どうしても目が引き寄せられる」
「お、おう……そうか。まぁ、気張り過ぎんようにな」
もちろんアリーゼだけを見ているわけではない。
いや、確かに視界の中心にはアリーゼがいる事が多いかもしれないが、他の場所も見ているし、Lv.4のステイタスを持つ私は視野も広い。
そうして見張る事少し。特に異常は起こらないかと思った瞬間、悲鳴があがった。それもただの悲鳴ではなく、命の危険を感じさせるもの。
「ッ……!」
即座にポーチから黒鍵の柄を取り出し、刃を生成。悲鳴があがった方角では、1人の人物が長剣を人々に向かって振り回していた。
「
追加効果を付与した黒鍵を純粋な投擲技術に、
私自身もそれを追うように跳んだ。
「ってぇ……ビリビリきやがる」
私の黒鍵を長剣で受けて無事でいた相手は冒険者であれば知らない者はいない危険人物だった。
『
「アレは私が相手します! 皆さん、早くここを離れてください! 邪魔です!」
「てめぇ、【アストレア・ファミリア】とよくくっついてるクソガキか!」
周りに人がいては戦いにくい。警備のための冒険者も、言い方は悪いが低レベル帯ではむしろ邪魔になる。
「
「づっ!? てめぇ、ホントにLv.4かよ!」
『
「
「ちぃッ! ちょこまか動き回ってんじゃねぇ!」
「
「ぐあっ!?」
他の人間が巻き込まれない程度に離れたところで『
敵は私に対抗し得る遠距離攻撃手段を持っていない。魔剣ならあるかもしれないが、並の魔剣なら対応出来る。
「
爆発の煙の中へ両手で6本の黒鍵を投擲した。
視界は悪いが、おおよそどの辺りにいるかは分かる。
「ぐぅぅッ!?」
恐らく何本かは突き刺さっただろう。こちらからも見えづらいが、それは相手からしても同じ。向こうからすれば見えないところから攻撃されているに等しいだろう。
煙が晴れると、そこには腹と足に1本ずつ黒鍵が突き刺さった『
「てめぇだけは、殺してやる! こっちに来やがれぇ!!」
「投降しなければその刺さった黒鍵を爆破する」
「んなッ!? てめぇ、それがアストレアのガキどもとつるんでる奴の言う事かよ!」
「アリーゼは関係ない。アリーゼを侮辱するなら問答無用で爆破する」
「どんな思考回路してやがる! 脳みそ腐ってんのか!?」
新たにポーチから黒鍵の柄を取り出し、構える。
「わ、分かった! 投降する! だからやめてくれ!」
急に従順になった。
しかし。
「なーんて言うと思ったかぁ!?」
「知ってる。
爆破直前に引き抜いたらしい。『
追おうとしたが、周囲で爆発音や炎が上がったため、追跡は諦めてそちらへ向かった。
定例の
フィンさんは仲裁しようとしていたが、それも効果は薄く。最終的に場を収めたのはアリーゼだった。荒くれ者の第一級冒険者たちを手玉に取る様子はさすがと言わざるを得なかった。
『
ともかく、アリーゼのおかげでスムーズに進んだ会議で共有された中で、懸念すべき事は主に以下の通りだった。
工場地帯から魔石製品に使用される撃鉄装置が盗まれたが、それは爆破装置に利用される可能性がある。
敵側に最低でもLv.6の戦士がいる。
そして、本題として【ヘルメス・ファミリア】の調査により
1つを【ロキ・ファミリア】、1つを【フレイヤ・ファミリア】、そして1つを【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】が担当し、3日後に掃討作戦が行われる事になった。
3日後に大規模な作戦が行われるが、それを敵側に悟られるわけにはいかない。そのため、冒険者たちの活動も直前までは今まで通りにする必要がある。
私も1人、パトロールのために街を歩いていた。敵のアジトに乗り込むような場合はまた別だが、このような見回りは1人で行う事も多い。同じ場所を複数人が回っても効率的ではないからだ。
「そこの可愛らしい君、少し良いかな?」
そこへ、背後から声を掛けられた。
自意識過剰なわけではないが、周囲に私以外の人間はいなかったため、振り向く。
「どうかしましたか?」
振り向いた先にいたのは黒髪の男神だった。ただし、神にしては覇気がない。頼りなさそうな雰囲気を感じる。
「いやぁ、可愛い子ちゃんが目に入ったからつい声を掛けちゃってね」
「それは、どうも」
こうして見回りをしていると声を掛けられる事は珍しくない。それが一般市民なら良いのだが、神なら少し面倒くさい。この男神もそうだが、ダル絡みしてくる神が多い。
「あらら、何だか不機嫌?」
「いえ、仕事中なので気を張っているだけです」
「ほらほら、バレバレの嘘ついてるし」
これだ。
こっちはせっかく穏便にいこうとしているのに神にはそういう気遣いも通じない。
「君ってあれだろう? 【アストレア・ファミリア】の子たちとよく一緒にいるっていう。ああ、そうだ。名乗るのが遅れたね。俺はエレンっていうんだ」
「そうですか。私たちがこうして見回りをしてはいますが、危険がないわけではないので1人で出歩かない事をおすすめします。では」
「ちょいちょいちょい! ここはお互いに名乗る流れだろう!?」
「はぁ……レグリースです」
「へー、レグリースちゃんか」
「もう良いですか」
「もうちょっとだけ! これだけ教えてくれたら帰るから!」
めんどくさ。という言葉を何とか飲み込んだ。
「君にとって正義とは何かな。正義の眷族たちと共にいるんだ。君はどんな正義を持って戦っているんだい?」
「めんどくさ」
「おいおい……隠さなくなったなぁ」
「……私に正義なんて大層なものはありませんよ」
「じゃあ、一体何を胸に戦っているんだい?」
「アリーゼが戦っているから。ただそれだけです」
「それだけじゃなさそうだけど……まぁ、良いか」
「……それでは」
結局その日は胡散臭い神に絡まれた以外、特に何も起こらなかった。
あっという間にに
私たちが担当するのは3つの拠点のうち1つ。【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】+私が突入メンバーだ。アイテムなどの準備は万端、戦力的にも問題ない。
でも、そのはずなのに不安が消えない。何かが起こると私の直感が言っている。
「うん、私も何だかイヤーな感じがするわ! でも、今はやれる事をやって、考えるのは後にしましょう!」
「……そうだね、アリーゼ」
突入の時間は刻一刻と迫っている。私は配置に戻った。
時間はすぐに来た。ライラの時間の合図と共に一斉に突入する。
「進めえ!!」
シャクティさんの声に続いて【ガネーシャ・ファミリア】の面々が電撃侵攻を仕掛ける。
私はアリーゼと共に最前線を走り、他の【アストレア・ファミリア】の面々もそれぞれ散っていく。
「来やがったなぁ、クソガキぃ!! この前の借り返してやるよぉ!!」
みんなが
「やるよ、アリーゼ」
「ええ、いくわよ!」
アリーゼを前衛に、『
私たちのコンビネーションなら『
「【アガリス・アルヴェシンス】!」
「
アリーゼが鍔迫り合い、私が黒鍵でそれをサポートする。
私の投擲が『
アリーゼの攻撃の間を通して私が決定打を狙っても良い。
「ちぃッ! てめぇだけが遠距離攻撃持ってると思うなよぉ!?」
『
「アリーゼ、こっち!」
「ええ!」
「【ルクレエ】──
アイアスの盾で魔剣による炎攻撃を防いだ。
今、お互いに射線は遮られているが、私には攻撃手段がある。
「
真上に投げた黒鍵が推進力を得て『
「
アリーゼが離れた今、遠慮する必要はない。爆撃しようとした瞬間。
少し離れた場所で。
意識を塗り潰すような、特大の爆発が起こった。
「「ッ……!!??」」
これは。
まさか。
「ヒャハハハハハハハッ!! 始まりやがったぜぇ!!」
狂喜に震える『
自爆。
轟音が連鎖する。
盗まれた撃鉄装置による自爆装置。
セーフティのようなものは見当たらない。たったの一操作。スイッチを起動する、それだけで発動する破壊兵器。
「アリーゼ!!」
どこかに隠れていた
取るに足らない末端。しかし、自爆装置の存在で一気に危険なものへと早変わりする。
アリーゼを抱き寄せ、Lv.4の身体能力を全力で発揮してその場を離れる。
敵の自爆によって、リオンと仲の良かったシャクティさんの妹であるアーディがやられた。
自爆の連鎖によって他の【ガネーシャ・ファミリア】の団員も多数死傷した。
最悪の状況だ。最悪の状況のはずなのに、まだ何かがあると私の直感が言う。
これ以上何があるのかと、そう考える暇もなくそれは起こった。
敵の本拠地で起こった爆発の連鎖。それはこの場所だけに留まらず。
破壊の波はオラリオ中へ広がっていった。
走る。赤く染まっていく街を走る。
白濁色のローブが目に入れば即座に黒鍵を投擲する。敵は捕縛しても自爆するため、手を使えないようにさせる必要がある。それが難しい場合は最悪、被害を抑えるために何もさせずに殺すしかない。
被害範囲が広すぎる。少しでも人手が欲しい今、より広い範囲をカバー出来るようにアリーゼたちとは別れた。
「こんなの、分かるわけない……!」
何かが起こるとは感じていた。でも、こんな事になるなんて。直感はそこまで万能じゃない。何が起こるかまでは分からない。
人々は街の中心へ向かって避難している。
避難場所となっている中央広場を中心として、円を描くように駆ける。
止まない爆発音の中、
その場所だけ、爆発が起きていない。それどころか、周囲の光景に反して異様なほど静か。
「…………!? リヴェリアさん! ガレスさん!」
そこに倒れていたのは【ロキ・ファミリア】幹部であり、オラリオで数えるほどしかいないLv.5の超実力者。リヴェリアさんとガレスさんだった。
ただの
考えるまでもなく。
下手人は明らかに只者ではない空気を纏っている灰髪の女。
「
あの2人を相手にして無傷の相手に、牽制になるかどうかすら怪しい攻撃を仕掛ける。優先事項はリヴェリアさんとガレスさんを回収してこの場を離れること。あの女に勝つ事ではない。
それに対する女の反応は。
「【
「ッッ……!!」
脳内で最大級のアラートが鳴る。
私は真横に全力で跳んだ。
私がいた場所に不可視の破壊の力が通り過ぎた。黒鍵など当たり前のように破壊されている。
絶対に食らっては駄目だ。今すぐに逃げるべきだ。
「また、雑音が増えたな」
私がどうにか出来る相手ではない。
全て投げ出して逃げたい。
でも、Lv.5の2人を失うわけにはいかない。何とか隙を作らなければならない。
四次元ポーチから白い聖剣を取り出す。この辺りに既に市民の影はない。多少暴れたところで巻き込む心配はない。
「【
斬撃が掻き消された。
2つ目の魔法。恐らく防御系。これも1つ目と同様詠唱が
だが、2つの魔法を同時に使用する事は出来ないだろう。聖剣の攻撃を2つ目の魔法で防ぐならば、その間攻撃の魔法を封じられるかもしれない。
「勘が良い。これも、ただの魔剣ではないな。良いだろう。少し本気を出してやる」
絶え間のないように魔力の斬撃を飛ばしながら、リヴェリアさんとガレスさんに近付く。
「【ルクレエ】」
そして、バケツをひっくり返したように生成した
「【
たった今別の魔法を使っていたはずなのに、切り換えが速すぎる。
「づうぅぅッッッッ!!!」
吹き飛ばされた。
視界が真っ白で、何も分からない。
耳鳴りが酷くて、何も聞こえない。
平衡感覚もおかしい。どっちが上か、どっちが下かも分からない。
分からない。何も分からない。何も考えられない。
誰かに覆い被さられたのだけは分かった。
けれど、それ以降の記憶はなかった。
後から聞いた話だが。
街は
9柱もの神が天界に送還され。
【フレイヤ・ファミリア】の最強は敗北し。
冒険者、市民問わず犠牲者は数え切れず。
私たちは大敗北を喫した。
○主人公
・Lv.4
・『静寂』の異名を持つ女になす術なく敗北
・復活したガレスに庇われた事により最悪の事態は回避した
・治癒魔法はまだ使えない
○アリーゼ
・本編時点ではほとんどやらなくなったが、この頃はノリノリで名乗りをやっている