ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
初めてダンジョンに潜ってから数日が経った。ベルは担当アドバイザーによる授業を受けつつ、私が付き添って3階層まで到達階層を伸ばしていた。
「昨日も言った通り、今日は深層に用があるから私は付き添い出来ない。帰ってくるのは明日になるだろうから、明日もかな。今まで見た感じソロでもある程度は大丈夫そうだから1人で潜っても良いけど、1階層か、進んでも2階層までにしておくこと」
今日は数日後に必要となる素材を採取するためにダンジョン深層を訪れる予定になっている。そのため、ベルに付き合う事は出来ない。
1人でも全然行けない事はないのだが、さすがに寂しいので初めはアリーゼを誘った。しかし、どうしても外せない用事があるという理由でバツ。ならばライラはというと、この前のバロールアタックが未だに響いているのか、また今度なとやんわり断られてしまった。
その時アリーゼたちと一緒に輝夜を誘ってみたものの、阿呆と2人きりで一夜を明かすなど御免だと断られた。その理論だとアリーゼもアウトだと思うのだが? アリーゼとは2人でダンジョンに潜るくせに、なぜに私はダメなのか。
仕方ないので近くにいたリオンを誘ったところ了承を貰えたので、リオンと2人で潜る予定である。
「ごめん、待った?」
「私も今来たところです」
まるでデートの待ち合わせのような台詞だが、リオンは待ったなら待ったと言うため本当に今来たところなのだろう。
「今回は言ってた通り一応43階層がゴールで、道中にも色々と拾いながら進んでもいく。寄りたい所があるなら付き合うよ」
「ならば、私は……」
軽く打ち合わせをしつつ、ダンジョンへ向かう。
「それでね、輝夜はなんて言ったと思う? 阿呆だよ、阿呆。そりゃあ、私だって自分が真面目ちゃんだとは思ってないけど」
「確かに輝夜は口が悪い。私もクソ雑魚などと、何度言われた事か……」
リオンとは共通の知り合いも多い。駆け出しのときから【アストレア・ファミリア】の面々とは親密にさせてもらっていたし、ダンジョンに潜るときはソロか【アストレア・ファミリア】の団員と一緒かのどちらかなので、私は半分【アストレア・ファミリア】と言っても過言ではない。アストレア様にもよくしてもらっているし。
そのため、話題にはこと欠かさない。
「今はアリーゼ、リオン、輝夜の3人がLv.6だけど、ライラとか他の子はそろそろ上がりそう?」
「ライラはもうランクアップ出来るところを保留していると。先日の深層探索で偉業が溜まったとか」
「あぁ……まあ、そりゃそうか。でもどうして保留に?」
「Lv.6になれば、彼の
「なるほどねぇ」
如何に高潔なエルフといえども、女子トークとなれは下世話にもなる。
特にイレギュラーもなく、目的の素材を確保した私たちは安全階層である39階層で一夜を明かした。
こんなに親しいし握手ぐらいなら普通にしてくれるのに、未だにハグはしてくれない。道のりは長いぜ。
翌日は18階層のリヴィラの街で優雅にお茶をしつつ、適当に街を回ってから、上層に上がる事にした。水浴びにも誘ってみたが、案の定断られた。
そして階層を1つずつ上がっていたとき、それは起こった。
──ブモオォォォッッ!!
場所はダンジョン5階層。駆け出しの冒険者の適切狩場に響き渡る咆哮。
「これは、まさか……ミノタウロス!?」
「バカな……ここは上層、中層のモンスターがいるはずが……!」
それは私たちの知っているモンスターの声だ。ただし、それは中層に分類される13階層以下に現れるはずのもの。こんな上層にいるはずもないモンスターだ。
ミノタウロス。この階層を狩場とするようなLv.1の冒険者ではどうあがいても勝てないモンスターである。しかも声からして複数体。
「リオンはこのまま真っすぐ行って。私はこっちを片付ける」
「……分かりました」
リオンと別れて声のした方へ向かう。5階層はそれほど広くない。目標はすぐに見つかった。
冒険者を屠ろうとしているのであろう、その腕が振り下ろされるよりも早く、4次元ポーチから取り出した黒鍵を投擲。ミノタウロスの頭は爆散した。
「無事ですか?」
ミノタウロスに襲われていたのは男2人女1人の冒険者パーティ。外傷といった外傷はなさそうだが、穴という穴から体液を垂れ流しており、中でも女性は下の方が少し哀れな事になっていた。
冒険者には獲物を横取りしてはならないという不文律があるが、この場合は問題ないだろう。問題はこの場をどうすれば良いのかという事である。
「た、助かったのか……?」
リーダーらしき最も前に出ていた男はまだ大丈夫そうだが、もう1人の男は完全に腰が抜けてしまっているし、紅一点は尊厳的な意味でかなり悲惨である。
投擲した黒鍵を回収しつつ、どうしようか迷った私は、ポーチの中に入れておいた飲料用の水をバケツ1杯ぐらい女の人にぶっかけておいた。
「ダンジョンで何かが起きているようなので、今日のところはこれで切り上げた方が良いですよ」
そう言って私はリオンの方へ向かおうと踵を返した。その瞬間、何故かその場にいた私と特に関わりのない【ロキ・ファミリア】の第二級冒険者と目が合ったが、特に用事などはなかったのでそのままスルーした。
合流したリオンは既にミノタウロスを倒した後だったが、何故か少し落ち込んでいた。聞けば、勢い余って襲われていた冒険者をミノタウロスの血で真っ赤にしてしまい、声を掛けようとすると逃げられてしまったらしい。
「まぁ、ミノタウロスに襲われて錯乱してたかもだし、仕方ないよ。それで、『剣姫』と『
それはそれとして、リオンの近くに何故か【ロキ・ファミリア】の『剣姫』こと金髪のヒューマン、アイズ・ヴァレンシュタインと『凶狼』がいた。上層にいるはずのないミノタウロスがいたからと言われればそれまでだが。
「遠征の帰りに遭遇したミノタウロスの群れが馬鹿みてぇに上層に上がっていったんだよ」
話を聞けば、遠征帰りの【ロキ・ファミリア】が遭遇したミノタウロスの群れが逃げるように上層に向かい、彼らはそれを追いかけてきたらしい。さっき会った【ロキ・ファミリア】の団員もミノタウロスを追いかけて来たのだろう。
各階層に団員を置いてきていて、リオンが倒したのが最後だったらしい。上層にミノタウロスが生まれるなどというイレギュラーでなくて良かったが、天下の【ロキ・ファミリア】がミノタウロス程度を逃すなんてよっぽど疲れていたのだろうか。
差し迫った危険は去ったという事で私とリオンは地上に戻った。魔石や必要のないドロップアイテムを換金して、ホームに帰るリオンについていって【アストレア・ファミリア】の面々にちょっかいをかけてから、廃教会に戻った。
「ただいまー」
すると、そこには羊皮紙を手に頭を悩ませているヘスティア様が。ステイタスを写すのに使うものだ。私はまだステイタスの更新をしていないし、更新したときは確認してすぐに燃やすようにしているので私のものではない。となるとベルのステイタスだろう。
「どうかしたんですか? 変なスキル生えてきたとか?」
「うーん、そうなんだよねぇ。どこかで見たようなのと同じにおいがするやつが生えてきたんだよねぇ」
「どこかで見たような?」
要領を得ないので、羊皮紙を直接見せてもらうとヘスティア様の反応に納得出来た。
・早熟する
・
・
「あらら……ベルにこの事は?」
「まだ伝えてないよ」
スキルや魔法はその人物の意思や行動に大きく左右される。私のような例外はあるとはいえ、例えば誰かを守りたいと強く願った者に盾の魔法が発現したり、常に指揮を取るような者にはその声が通りやすくなるスキルが発動したりする。
この場合、ベルは誰かに懸想しているという事だ。心に秘めているはずの想いがステイタスとして現れている。これは恥ずかしい。
しかし、これはただ恥ずかしいだけでは済まない。早熟する、というのが何を指すのかにもよるが、仮にステイタスが伸びやすくなるなんて効果があればそれは紛れもないレアスキルである。しかも、想いの丈によって効果が左右する。仮にこれを伝えて懸想が揺らいだりしては勿体ないし、ひとまずは伝えずに様子を見るのはアリだろう。
「そういえば、ベルは今どこに?」
「晩ごはんの買い出し」
「あぁ……なるほど。それで、この懸想の相手は分かってるんですか?」
「君もよく知ってる、アストレアのところのリオン君さ。なんでもミノタウロスから助けられたって」
「えっ、ていう事はあのときリオンが助けたのがベルだったって事ですか!?」
まさかリオンがミノタウロスの血で真っ赤にしてしてしまったのがベルだったとは。しかもリオンに惚れるなんて。
難しい恋だとは思うが、可愛い後輩だ。応援しよう。アリーゼじゃなくて良かった。
「アリーゼ君じゃなくて良かったね。ホントに。ファミリア内で修羅場なんて冗談じゃないよ」
「修羅場って……」
「洒落にならないからね? スキルになるぐらいの強い想いなんて、暴発したときには一体どうなる事やら」
「でもベルって大人しそうだし、あんまりそういう感じにはならなそうですけど」
「ベル君だけじゃなくてユイ君の事も言ってるんだぞ。自分のスキルを忘れたなんて言わせないからね?」
もちろん忘れてなんておりませんとも。
まぁ、それはそれとして。
「1人で5階層まで下りるなんて。後で説教しないと」
私はのんきに買い物をしているであろう後輩の帰りを待った。
○主人公の【アストレア・ファミリア】主要4人の好きランキング
1位アリーゼ・ローヴェル
・命と心の恩人
・大好き
・この世で一番好き
2位ライラ
・気軽に話しやすい
・色々と教えてくれる
・一緒にアイテムを作ったりする
・抱き心地が良い
3位リュー・リオン
・気軽に話しやすい
・愚痴を言い合える
・素直
・スキンシップを拒否される
4位ゴジョウノ・輝夜
・いざというときには頼りになる
・戦闘技術が高い
・口が悪い
・スキンシップを拒否するオーラが出ている