ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

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医療に関する知識は素人なのでご了承ください。



知っておくべき事

 

 

 翌日の朝。

 早速準備をしてダンジョンへ向かうベルへ声を掛ける。

 

「ベル、昨日も言った通り今日は昼には地上に戻ってくること。着替えたらバベルの治療施設の方に来てね。話は通しておくから」

「分かりました!」

 

 ベルに話を聞くと、5階層に下りた件はアドバイザーのエイナちゃんにこってり絞られた後だと言ったため、私からはあまり強く言わなかった。代わりに、ダンジョンの危険というものを直接見てもらう事にした。

 

 涎を垂らしながら寝転けているヘスティア様を横目に私も教会を後にした。

 ダンジョンに蓋をするように天高く建てられている塔バベル。換金所やシャワー室、【ヘファイストス・ファミリア】のお店など様々な施設が入っている。私の目的地はその中の1つである治療施設である。

 

「『聖火の守人(ウェスタリス)』様、お待ちしておりました」

 

 私は職員の人に出迎えられた。

 月に4、5回ほどの頻度で私はここで出張治療師(ヒーラー)として働いている。少なくない賃金を貰っていて、貴重な資金源の1つである。

 

「これ、頼まれていた素材です」

「助かります。ありがとうございます」

 

 ポーチから昨日一昨日で採って来た素材を渡す。この治療施設で使用する回復薬(ポーション)などの調合に使用するものである。

 

「本日担当していただく患者はこちらになります」

 

 そして、次に渡されたリストを見る。

 このバベルはダンジョンの真上に立っているだけあって、ダンジョンで負傷した冒険者がよく担ぎ込まれてくる。常駐している職員が対応出来る怪我であれば良いが、そうでないほど重傷であった場合は定期的にここを訪れる治療師に任せられる。

 それは私であったり、医療系ファミリアで有名な【ディアンケヒト・ファミリア】の団員であったりする。特に重傷な者は私か、【ディアンケヒト・ファミリア】団長の『戦場の聖女(デア・セイント)』ことアミッド・テアサナーレが担当する。彼女の方がここを訪れる頻度も高いため、担当する数も彼女の方が多い。

 

 まずはリストにある1人目の病室へ向かう。

 リストはカルテのようになっており、ある程度どんな状況か分かるようになっている。

 

「失礼します。『聖火の守人(ウェスタリス)』ユイ・レグリースです」

「あ、あぁ……」

 

 ベッドに寝かせられているのはアマゾネスの女性だ。カルテによればLv.2で、中層の探索中に怪物の宴(モンスターパーティー)が発生し、パーティメンバーと分断される。なんとか逃げられたものの、右足の骨が粉砕され、左腕は橈骨は残ったものの尺骨が食い千切られ欠損。高等回復薬(ハイ・ポーション)で応急処置をしたが、右足は歪な形に、左腕はただ繋がっているだけでほとんど機能は失った。

 

「症状は聞いています。まずは詳細を把握するために一度魔法をかけます。いいですか?」

「……やってくれ」

「分かりました。【私が願う。響き渡れ、癒しの旋律】──【ラヴィ・ルミエール】」

 

 患者の身体の下に魔法円(マジックサークル)が現れる。

 私のこの魔法は治療の他に、対象の身体の状態を把握する事が出来る。どこを怪我しているのか、あるいはどんな病気なのか、などだ。他の治療師と違って診断に時間を取らないのがかなりのメリットである。

 

「状態の把握が出来たので、具体的な治療について説明します」

「…………」

「まず、貴女の今の状態ですが、右足はバラバラになった骨が回復薬(ポーション)によって歪にくっついてしまっています。そして左腕ですが、ただ一部を欠損しただけでなく、軽く毒を貰っています」

「治るのか……?」

「はい。元通りに治療する事は可能です」

 

 患者の顔の色が少し明るくなった。

 続けて治療に関しての説明に移る。

 

「右足については、完全に骨がくっついているわけではないので一度バラバラの状態に戻してから正常な形に繋ぎ直します。左腕はまず解毒し、それから残った部分の細胞の記憶、それと正常な右腕を参考にして再生します」

「話は聞いていたけど……そんな事、本当に出来るのか……?」

 

 彼女が不安そうな声を出した。

 既に他の職員から話は聞いているはずで、費用その他に納得したからこそ、ここにいる。しかし、不安なものは不安なのだろう。

 ちなみに、治療とは切っても切り離せないのが治療費の問題だが、お金の問題は全てギルドがやってくれている。治療にかかる費用の提示から、治療費の受け取りまで全てだ。治療費はお金にうるさいディアンケヒト様含めた【ディアンケヒト・ファミリア】と協議して決められており、私は後でギルドからまとめて受け取っている。

 

「ええ。完璧に元通り、という保証は出来ませんが、これまでの生活が出来るという状態には出来ます」

「そうか……」

「最終確認ですが、右足左腕の両方を治療するという事でよろしいですね?」

「ああ、頼む」

「分かりました」

 

 私に通されたという事は治療に関しては同意を取り付けられてはいるのだが、念の為だ。既に他の職員が治療費についても説明している。

 最終的な同意を貰ったところで、治療に取り掛かる。

 

「右足の骨を一度バラバラに戻すので局所麻酔を使いますが、痛ければ言ってください」

「……分かった」

 

 順番としては、まず右足の骨をバラバラにしてから、魔法を右足と左腕の両方に作用させる。

 外からの力でバラバラに出来たら良いが、上手く出来ない部分があれば、ピンポイントで歪な接合部位を切開し、接合を剥がす。そのままでも大丈夫な部分はそのままに、剥がすべき箇所を全て剥がし終わると次は魔法の出番だ。

 

 前世の医療ではしないであろう、悪く言えば野蛮な方法だ。恐らくこういう場合、矯正などで時間をかけて正常な形に戻していくのだろう。

 魔法という超常の力があるからこそ出来る力業だ。

 

「【私が願う。響き渡れ、癒しの旋律】」

 

 患者の身体の下に魔法円(マジックサークル)が現れる。しかし、今回はこれだけでは終わらない。

 

「【私が望む。邪法を滅せ、聖なる息吹】」

 

 新たな魔法陣が現れ、2つの魔法円(マジックサークル)が重なった。

 

「【ラヴィ・ルミエール】」

 

 私の魔法【ラヴィ・ルミエール】は普通の魔法ではない。【ロキ・ファミリア】の九魔姫(ナイン・ヘル)は1つの魔法でありながら詠唱連結によって氷の攻撃や炎の攻撃を使い分ける事が出来る。

 私のこの魔法はそれとは少し違う、けれど大きな分類として同じ詠唱連結魔法に属する選択詠唱連結。第一詠唱式は体力や損傷の回復、第二詠唱式は衰弱や病症の回復、第三詠唱式は解毒や解呪を司っている。それぞれを単体で使う事も出来るし、任意の詠唱式を重ね掛けて使う事も出来る。また、重ねて使う事でそれぞれの効果も増幅する。

 今使っているのは第一詠唱式と第三詠唱式だ。

 

 右足は骨を正常な形に繋ぎ直し、切開した傷口を塞ぐだけなので難しくない。問題は左腕の方だ。これが食い千切られた肉片でも残っていれば簡単なのだが、残っていないためゼロから再構成する必要がある。

 骨は治癒力を高める事で比較的簡単に作り直せる。まず骨を作り直し、文字通りそれを骨組みとして筋肉や他の組織を再生する。

 

 戦闘中のように急ぐ場面ではないため、ゆっくりと時間をかけて丁寧に作り直した。

 

「終わりました。麻酔のせいで右足の感覚はまだないと思いますが、左腕の方に違和感はありませんか?」

「信じられない……元通りだ。違和感なんてないよ」

「良かったです」

 

 処置が完了し、一息つく。

 魔法で全て治した。麻酔さえ切れれば健康体だ。経過観察も必要ない。

 

「今まで通り動いてもらって構いませんが、そうすると違和感を感じるかもしれません。できたての筋肉なので仕方のない事ですが、動かしているうちに自分の筋肉になるはずです」

「あぁ……ありがとう」

「それでは私はこれで。どうぞお大事に。失礼します」

 

 病室を出て、治療完了の報告をしつつ休憩室に向かう。

 午前中はあと2人の患者を治療する予定になっている。

 

 

 午前中の治療を完了し、用意された弁当を食べて午後の治療に備えていると、休憩室に職員に案内されたベルが現れた。

 

「お疲れ様。昼食はもう食べた?」

「はい、食べました」

「それじゃあ、午後は私の仕事を後ろから見てもらうね。将来的にこの仕事をやってもらうってわけじゃないから、この仕事を覚える必要はないけど、とにかく見てて」

 

 私の真剣な顔を見て、ベルは静かに頷いた。

 そして私はベルを連れて今日で一番深刻な傷を負っている患者のいる病室へ向かった。

 

「失礼します。『聖火の守人(ウェスタリス)』ユイ・レグリースです」

「は、入ってくれ!」

 

 病室から返ってきたのは男性の声。患者は女性だったはずなので、看病していた仲間だろうか。

 病室の中央にはベッドが置かれているが、そのベッドにはヒューマンの女性が横になっている。布団が掛けられているため身体の状態は見えないが、顔はミイラかというほど包帯でぐるぐる巻きにされており、相当な重傷である事が伺える。

 

「っ……!!」

 

 後ろでベルが息を飲んだ。

 

「こちらは【ヘスティア・ファミリア】の新入り、ベル・クラネルです。後学のために同席させる事をお許しください」

「ああ、分かった! だから早くこの子を診てくれ!」

「ありがとうございます。それでは、早速ですが、詳細を把握するために一度魔法をかけます」

 

 ベルの紹介も早々に、治療に入る。ベルが同席する事については前もって職員を通して許可を貰っている。

 患者本人が話せる状態ではないため、早々に第一詠唱式のみの【ラヴィ・ルミエール】を使用した。

 カルテから大体は分かっていたが、この患者の傷は大きく分けて2つ。1つは見て分かる通り顔だ。モンスターによって顔面全体がズタズタにされているが、特にひどいのは眼球だ。右の眼球は切り裂かれる程度だが、左の眼球は眼軸ごと消失している。もう1つは両足だ。右足は膝から下が、左足は太腿の真ん中辺りから下がそれぞれ消失している。

 正直、出血で死んでいないのが不思議な状態だ。片足の切断だけでも十分出血多量となり得るのだ。地上に戻って来れただけで奇跡と言える。

 

 話を聞けば患者の兄だという男へ私は語った。

 

「状態の把握が出来ました」

「それで、こいつは治るのか!?」

「はい。可能です」

「だったら……!」

「ただし、注意点が1つ。足の再生についてです。なくなってしまった部分を一から作り直す事になりますが、両足ともが欠損してしまっていて、無事な方を参考に作り直すという事が出来ないため、元と同じ足にはどうやっても出来ません。日常生活はもちろん、激しい運動も以前と同じように出来る足にはなりますが、どうしても違和感は生じます」

「ああ、それぐらいは」

「とは言っても時間が経てば馴染んでくるはずなので、ご心配なく。それではこれより治療に取り掛かりたいと思いますが、顔右足左足全ての再生治療を行うという事で構いませんか?」

「ああ、頼む! 金なら何年かかってでも必ず払う!」

「分かりました。では、始めます」

 

 私が行う治療は様々だが、喪失した四肢の再生はその中でも治療費が最上級に高い。具体的には、【ディアンケヒト・ファミリア】の最高級の義肢の倍以上だ。安くやりすぎると義肢が売れなくなるので仕方ないのだが、如何に稼ぎの良い上級冒険者であってもそうポンポン払える額ではない。そのため、ローンも受け付けている。私はそこまでお金に困っていないし、面倒な部分は全てギルドに任せている。もちろんローンの組み立ても。私は毎月纏まったお金をギルドを通して受け取る形になっている。

 

「まずは包帯を取りますね」

 

 顔に巻かれた包帯、両足に巻かれた包帯を丁寧に外していく。

 痛々しい患部があらわになり、ベルの悲鳴を押し殺したような息遣いが聞こえたが、私は気にせずに詠唱を開始する。

 

「【私が願う。響き渡れ、癒しの旋律】」

 

 体力と損傷を回復させる第一詠唱式。

 

「【私が祈る。病理を払え、快方の風】」

 

 衰弱や病症を回復させる第二詠唱式。

 

「【私が望む。邪法を滅せ、聖なる息吹】」

 

 毒や呪詛(カース)を回復させる第三詠唱式。

 

「【ラヴィ・ルミエール】」

 

 3つの魔法円(マジックサークル)が重なる。今回毒や呪詛(カース)はないが、他の効果を増幅させるために第三詠唱式まで使用した。

 

 最初に比較的簡単な顔面から。喪失した左眼球以外は傷を塞げば良い。回復薬(ポーション)か他の魔法かで表面だけ塞がっている傷もあるが、まとめて繋ぎ合わせる。そして、残った右眼球を参考に左眼球を作り直す。

 顔面の修復が終わると次は残っている部分の多い右足だ。左足が残っていればまだ型として使えるのだが、ないものは仕方ない。本当のゼロから作る必要がある。ここまで来るともはや治療というよりは人体錬成だ。元より魔法など超常の産物のようなものなので今さらだが。

 出来る限り不自然じゃないように右足の膝から下を作り直したら、次は左足だ。今作ったばかりの右足を型として使えるので右足よりは簡単に作り直せる。

 

「無事、終わりました」

「リーフは助かったのか!?」

「ええ。少しすれば、目を覚ますでしょう」

「ありがとう……! ありがとう……!」

「それでは私はこれで。どうぞお大事に、とお伝えください。失礼します」

 

 行くよ、とアイコンタクトを送れば、ベルは慌てて私の後ろについた。そのまま職員に報告をして、休憩室に向かった。

 

「さっきの人はね。無理して下の階層へ足を運んだとか、無茶を通したとか、そういうわけじゃない。適正階層で、しかも何度も訪れて慣れてすらいた所でああなった。私が言いたい事は分かる?」

「はい……僕は軽率な事をしました」

「ダンジョンに潜っている以上はどうやっても危険は避けられない。場合によっては危険でも下の階層に向かわなければならない事もある。だから冒険をする事は私も否定しないよ。でも、これだけは覚えておくこと。ダンジョンは私たちを殺しにかかってくる。それを忘れた者から死んでいく」

 

 ともかく、ベルには適度な緊張感を持ってほしいわけだ。こうしてダンジョンに殺されかけた人を直に見ればある程度の危機感は持ってもらえるだろう。

 まぁ、1日でバロールを倒して帰って来ようとするような人間が言う言葉ではないが。




○主人公
・オラリオで3本の指に入る治療師(ヒーラー)という一面がある
・2桁億ヴァリスの貯蓄がある
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