ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
今日の治療を終えて帰路につく。
既に日は沈みかけており、人の流れも朝とは逆方向へ向かっている。
「今日の夕食って何かあったっけ?」
「えぇと、確か昨日買ったものがまだ。あっ、でも今日は僕の分はいらないです」
「どこかで食べてくるの?」
「はい、豊穣の女主人っていう店で」
私もベルと共に仮ホームの方へ、その流れに乗っていく。
「あ〜、あそこね」
「知ってるんですか?」
「うん、何度か行ってるからね」
「そこのシルさんという人に朝食を貰って、その代わりに夕食をそこで食べるという事に……」
雑談をしながら歩いていると、夕食の話になった。以前のヘファイストス様の所にいた頃は食堂で係の人が作ってくれるものを頂戴していたのだが、今の教会に移ってからは当然係の人などいないため自分たちで作る必要がある。
私はともかく、ぐーたら女神のヘスティア様も料理なんてからっきしだ。目玉焼きなど誰でも作れるようなものは作れるが、まぁお察しというやつである。
「私も行こうかな」
「あっ、そうですね。一緒に行きましょう!」
「そうだ、アリーゼも誘っていい?」
「アリーゼさん、ですか?」
「そうそう、【アストレア・ファミリア】の団長『
「もちろん知ってます! リュー・リオンさんと同じファミリアの!」
久しぶりに豪華なご飯が食べたくなってきた頃合いだ。
リオンの事でテンションが上がるベルを微笑ましく思いつつ、頭の中で今晩のメニューを思い浮かべる。あそこの料理は全て絶品だから、何を食べようか今から迷ってしまう。
「リオンも呼ぶ?」
「ええっ!? それは、でも、いや、お、お願いします!」
「ふふ、その前にヘスティア様に弁当でも買って一旦帰ろっか」
「? 神様は一緒に行かないんですか?」
「私たちだけ主神連れて行ったら、アリーゼたちも遠慮するでしょ?」
「確かに……」
ヘスティア様を連れて行かない理由は今言ったのが1つだが、もう1つは酔っ払ったら面倒くさいからだ。せっかくアリーゼと食べに行くのに酔っ払いに絡まれるのは勘弁である。
露店ですぐに食べられる状態で売られていた弁当を買って帰り、ブーブーと文句を垂れるヘスティア様をなんとか説得、ベルと共に【アストレア・ファミリア】のホームである星屑の庭に向かった。
「アリーゼー! ご飯行こー!」
「良いわよ! 行きましょう!」
アリーゼは二つ返事で了承してくれた。
「リオンも行こー」
「私もですか? 私がいると2人の邪魔になるのでは……」
「今日は2人じゃないからね。ほら、ベル。この子、ウチの期待の新人」
「べ、べべ、ベル・クラネルです!! ミノタウロスから助けてくれてありがとうございました!!」
「貴方は、あの時の……」
「なになに? 2人って知り合いだったの?」とリオンとベルの間に割り込もうとするアリーゼを止めて、私は昨日の事を伝えた。
「偶然ってあるのね〜」
「ね〜」
とよそよそしい2人を眺め、互いに簡単な自己紹介を済ませたところで豊穣の女主人へと移動した。
「ベルさんっ、来てくれたんですね!」
「シ、シルさん……はい、来ました。1人じゃないですけど」
「お客様が増えるのは大歓迎です!」
店員の1人と仲良さげなベル。この店の店員はみんな可愛いから気持ちは分からなくもないが、せっかくリオンがいるのに他の女と仲良くするのはあまりよろしくないのでは、と思わなくもない。
今日は予約の団体客がいるという事で、私たちは端の方へ案内された。アリーゼやリオンは目立つので、むしろ端の方で願ったり叶ったりである。
料理を注文し、4人分が揃ったところで私は音頭を取った。
「それでは、私たち【ヘスティア・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】の益々の親交を願って……かんぱーい!」
「乾杯!」
「乾杯」
「か、乾杯」
アリーゼ、リオン、ベルも続いて口を合せて乾杯した。
「そういえば、良いホームは見つかったの?」
「いやぁ、ちょうど良い物件がなかったから新しく作ってもらおうかと思ってて」
「そうだったの」
「そうそう。せっかくだから星屑の庭の近くに建ててもらおうかなって」
ベルがリオンと話せるように私はアリーゼと2人で話していたのだが、隣を見るとチラチラとリオンを見ては料理に目を落とすを繰り返しているベルがいた。当然、話など弾んでいない。
4人でテーブルを囲んでいて、私の隣にベル、正面にアリーゼ、斜め前にリオンが座っているのだが、普通に喋っている私たちと対照的に隣半分はお通夜状態だった。
仕方がないので話題を振ってあげる事にした。
「そうだリオン、ベルに戦い方教えてあげてよ」
「……私が、ですか?」
「ほら、私の戦い方って参考にならないと思うからさ」
「確かにあの黒鍵という武器は他のどの武器種にも当てはまらない。参考にするのは難しいでしょう」
「剣も使うけど、結局勘頼りなところも多いからね」
自然にベルとリオンに繋がりを作る私の手際の良さに頷いていると、店の入口から団体客が来たようだった。ぞろぞろと入ってくるのはこの街では知らぬ者のいない有名人たち。
【ロキ・ファミリア】
その団員たちが主神のロキを先頭に現れた。
「団体客って【ロキ・ファミリア】だったのね」
「うん、ヘスティア様連れて来なくて良かった……」
ここにヘスティア様がいたら大変な事になっていただろう。
アリーゼが挨拶に行こうとしたが、向こうは向こうで遠征の打ち上げをしているようだから後で良いんじゃないかと引き止めた。ロキはセクハラ女神だが、私は別に【ロキ・ファミリア】に思うところはないため、後でアリーゼと一緒に挨拶にでも行こうかと思っていたところに、聞こえてきた。
「ミノタウロスの野郎、こっちは疲れてるっていうのによぉ。馬鹿みてぇに上層に上がって行きやがって。しまいには情けなく逃げ回るひょろくせぇガキがいやがった。勘弁してほしいぜ、全く。震え上がって情けねぇ」
『
勘と予測により、私は次に何が起こるかを容易に察した。
「アリーゼ、この場は任せていい?」
「……? いいわよ?」
私が立ち上がると同時にリオンも立ち上がった。しかし、向かう先は別々だ。私はカウンターの方へ、リオンは【ロキ・ファミリア】のテーブルの方へ。
「すみません、オムライスとパスタをこのタッパーに入れてもらってもいいですか? お代はこれで。お釣りはいらないのでアリーゼたちの分も払っておいてください。残りは迷惑料って事で」
「はぁ、ちょっと待ちな」
これから起こる事を予想したのか、店長のミアさんはため息をつきながらも私のタッパーを受け取った。そうしているうちに、リオンは【ロキ・ファミリア】のテーブルに到着する。
「取り消しなさい」
「あぁ?」
「クラネルさんは情けなくなどない」
まぁ、この場にいない見知らぬ人間の悪口を言っていたならともかく、この場にいる見知った人間の悪口を言われればこうなるだろう。向こう側に正当性がなければ、特に。
「駆け出しのLv.1の身でミノタウロスを相手に生き延びたのは称賛されこそすれ、貶められる筋合いはない。むしろ、Lv.5の身でミノタウロスを取り逃がす貴方の方が情けない」
「なんだと……?」
あちゃー。これはえらい事になるぞ。
とはいえ、客観的に考えれば例えイレギュラーがあったとしてもミノタウロスを取り逃がして上層の冒険者を危険に晒したのは【ロキ・ファミリア】で、誰が悪いかを決めるとすればそれは【ロキ・ファミリア】だろう。第一級冒険者が何人も所属している彼らからすればミノタウロスなど足元にも及ばない雑魚モンスターも同然なのだから。
まぁ、こういう場合、ある程度傍観してからアリーゼがいい感じに収めてくれる。この場はアリーゼに任せよう。
「誰が情けねぇだと?」
「貴方以外に誰がいる、『
「テメェ、あのガキの事妙に肩を持つじゃねぇか。ハッ、テメェの
「なっ!? ふざけるな! クラネルさんは私の伴侶などではない!」
あちゃー。これはひどい。
リオンからすれば、私の伴侶なんて思われたらクラネルさんが可哀想だ、みたいなニュアンスだろうが、こんなに食い気味に否定されると多分ベルからすると告白する前に振られたみたいになっている。しかも、直前に雑魚だなんだと罵られ、番という言葉に視野が狭くなったリオンにそれは否定してもらえない有り様。可哀想。
なんて思っていると、ガタッと大きな音を立てて立ち上がったベルは走って店を出ていった。教会とは逆方向。ダンジョンへ向かったのだろう。
そしてちょうどミアさんが料理を詰めたタッパーを渡してくれたので、私はアリーゼにアイコンタクトをして、ベルに続いて店を出た。
案の定、ベルはダンジョンに向かっていた。
がむしゃらに進んでいくベルがたどり着いたのは、ダンジョン6階層。この層からは新米殺しの異名を持つ全身が影で出来たようなモンスター、ウォーシャドウが出現する。
冒険者になって半月に満たないような人間が勝てる相手ではない、のだが。
「…………」
戦えている。
私の直感のようなズルもないのに、しっかり見て対応出来ている。
いや、というか前に一緒にダンジョンに潜ったときからこの短期間でちょっと強くなりすぎじゃない?
オムライスを立ち食いしながら観察するが、明らかに急成長している。
例のスキルの早熟の効果だろうか。ベルは危ない場面がありながらも、ウォーシャドウに勝利した。
それからも、ベルはただがむしゃらに戦い続けた。何時間も、それこそ地上では朝日が上っているのでは、と感じるまで。
そして、ついに疲労が限界に達したベルは絞り出すように言った。
「ユイさん……僕、強くなりたいです」
「……大丈夫。君は強くなるよ」
末恐ろしい才能だ。
私は心の底からそう思った。
○豊穣の女主人での騒動
・アリーゼの正しさの前にみんながひれ伏した
○ベルを招待した店員
・主人公とアリーゼという勘が鋭い者が固まっていたため、あまりベルの方に近付けなかった