ヘスティア・ファミリアのエセシスター   作:カラスガラス

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怪物祭

 

 

 近頃、なんというかベルとヘスティア様がしきりにイチャイチャしている。食べ物を食べさせ合うのはもちろん、一緒のベッドで寝ようとしたり。大体の場合はヘスティア様から仕掛けているのだが、ベルもベルで一応抵抗してはいるが抵抗しているだけ、みたいな。

 別に構わないのだが。私はベルと付き合っているわけでもなければヘスティア様とそういう関係でもないため、勝手にしてくれて構わないのだが。

 

「はいベル君、あーん」

「か、神様!?」

 

 なんてやり取りを食事の度に見せられる私はどういう反応をすれば良いのか。

 今まで同性の私しかいなかったので、初めての異性の眷族という事でテンションが上がるのは分かる。しかし、ベルにはリオンという惚れた相手がいるし、ヘスティア様はヘスティア様でそれを知っているのに恋人みたいな事をして大丈夫なのか。

 まぁ、私には関係ないから全然構わないのだが。私にはアリーゼがいるし。

 

「これから眷族増やす予定なら、1人だけ贔屓とかしない方が良いんじゃないですか? 私は別に良いんですけど」

「そこはボクがなんとかするさ! ね、ベル君!」

「え、えぇと……」

 

 と、こんな様子である。

 

「何をしたらベル君は喜んでくれるかな?」

「……何かプレゼントでもしたら良いんじゃないですかね」

 

 最後にベルがいない所でこんなやり取りをしてから早数日。今日は怪物祭(モンスター・フィリア)。都市の憲兵の役割を受け持つ【ガネーシャ・ファミリア】が中心となって、衆人の前でモンスターを調教するところを見せ物にするのだ。

 私はモンスターの調教にはあまり興味はないが、祭りというだけあって出店などがたくさん並ぶ。私の目的はそっちだ。

 

「お待たせ! 待たせたかしら」

「ううん、私も今来たところ」

 

 待ち合わせ場所にしていた中央広場に現れたのは、白いシャツにホットパンツという格好のアリーゼ。私は白いワンピース姿。共にいつものダンジョンに潜るときとは違う格好だ。

【アストレア・ファミリア】は【ガネーシャ・ファミリア】と同じように都市の治安維持を担っているが、アリーゼは他の団員が気を回してくれて今日はオフらしい。ありがたい事である。後でお菓子でも持って行かなければ。

 

「その服、初めて見るわね。うん、よく似合ってる」

「ありがとう。アリーゼも、似合ってるよ」

「ええ、誰もが見惚れるスーパー美女である私にはどんな服も似合うもの。でも、私も新しい服を買おうかしら」

「それなら、これから見に行く? 特に目的地は決めてないし。私が選んであげる」

「良いわね!」

 

 アリーゼ・ローヴェル。私と同い年の女性。付き合いはもう10年になる。

 10年前、私はこのオラリオを訪れた。モンスターの危機に晒される日々に嫌気がさして第二の故郷を飛び出して。目的としてはどこかしらのファミリアに入る事だったのだが、当時のオラリオが暗黒期と呼ばれている事など知らなかった私は呑気にも歩き回っていたところをゴロツキに絡まれ、そこをヘスティア様に助けられた。とは言ってもヘスティア様は大した力にはならず、結局はヘファイストス様の眷族に追い払ってもらったのだが。

 助けてもらった縁で私はヘスティア様の眷族になった。当時のオラリオはそれはもう治安が悪く、力こそが全てというような空気だった。

 当時の私はまだ前世の治安の良い環境の感覚が抜けきっておらず、震えて布団に包まった夜も数え切れなかった。

 このままではいけないとヘスティア様に相談したところ、強くなるしかないと教えられた。考えれば当然の話で、力が全ての世界で生き残るには力をつけるしかないのだった。

 恥ずかしい話だが、あの時の私は恐怖やストレスで頭のネジが何本か飛んでいた。人間に対する警戒が強すぎてモンスターに対する意識に欠けていた。そして当然死にかける。そこを助けてくれたのがアリーゼだった。

 そこで色々なものが決壊した私は恥も外聞もなく泣き喚き、アリーゼは全てを受け止めてくれた。涙などで服をドロドロにした上に抱き着いたまま眠ってしまったのは申し訳なかった。

 それが最初の出会い。深い包容力を持ったアリーゼを姉のように慕っていた。その想いは共に戦っていくうちに変わっていった。

 まぁ、少数派ではあるかもしれないが、神々を見れば女同士でもそこに愛があれば問題ないだろう。

 

「ねぇねぇ、これはどう?」

「そうね、たまには黒い服も良いかも」

「これ赤い色違いもあるみたいだから、アリーゼが黒を着て私が赤を着る、イメージカラー交換した色違いペアルックとかどう?」

「色を交換するのは面白そうね!」

 

 衣料店でペアルックの上着を買い、そのまま着て店を出る。

 

「フフーン、ここは任せてユイ。清く正しい私は下調べも怠らないの! 私調べによれば、この辺りで美味しいのはあそこの店のケバブよ!」

「ケバブ! さすがアリーゼ、行こ行こー!」

 

 同じものを買って味を共有してみたり、クレープのように色んな味があるものでは別々の味を買って一口ずつ交換してみたり。王道ともいえるデートを楽しんだ。

 しかし、その楽しい時間は唐突に終わりを告げた。

 

「ローヴェル氏! レグリース氏!」

 

 駆け寄ってきたのはギルド職員であり、ベルの担当アドバイザーであるハーフエルフのエイナ・チュールだった。

 

「慌ててどうしたの?」

「はい、実は……」

 

 アリーゼが話を聞くと、どうやら祭りのために捕獲されていたモンスターの一部が脱走したらしい。

 一大事だ。こういう場面で真っ先に動く【アストレア・ファミリア】の団長を見つければ飛び付きたくのも分かる。

 

「分かったわ。私たちに任せて! ごめんね、ユイ」

「ううん、仕方ないよ。また今度ゆっくり回ろ?」

「ええ」

 

 脱走したモンスターは10匹以上。私とアリーゼは手分けして討伐に向かう事にした。

 

「これ、使って」

 

 私は4次元ポーチから白い聖剣を取り出し、武器を持っていなかったアリーゼに渡した。黒い聖剣は勝手に所持者の精神力(マインド)を吸って広範囲高威力の斬撃を放つが、白聖剣は自分で込めない限りそんな事にはならない。街中のような無闇に魔力を撒き散らす事の出来ない場所では白聖剣の方が適している。

 

「ありがとう。大切に使わせてもらうわね」

 

 白聖剣も使い方を誤れば街を破壊してしまうが、アリーゼは使い方を知っているため問題ないだろう。

 

 アリーゼと別れて街を駆ける。

 市民の目撃証言を得つつ、既に4匹ほど倒したが、モンスターの1匹がダイダロス通りの方へ向かったらしい。ダイダロス通りはめちゃくちゃに建物が乱立した場所だ。それは迷い込んだら二度と出られないと言われるほど。

 最悪バベルの方角へ進んで行けばいつかは出られるため、出られないは少し誇張が入っているかもしれない。しかし、大きな通りに比べて建物が密集しているため、ここでモンスターが暴れれば被害は馬鹿にならない。

 だから、早くモンスターの元へ向かいたいのだが。

 

「手合わせ願おう」

 

 そう言って武器を構えるのは、オラリオに知らぬ者はいない男。『猛者(おうじゃ)』の二つ名を持った猪人(ボアズ)、オッタル。【フレイヤ・ファミリア】の団長であるLv.7の冒険者だ。

 それが何故ここにいて、私に武器を向けているのか。

 

「構えろ、『聖火の守人(ウェスタリス)』」

「今がどういう状況か分かってるんですか」

「我らに言葉は不要」

「話通じないんですか」

 

 しかし、言うなり彼は大剣を振り抜いた。

 

「ッ!!」

 

 両手に持った計6本の黒鍵をクロスさせて防いだが、純粋な力勝負になれば素の力がLv.6の私とLv.7の彼では勝負にならない。

 吹き飛ばされ、建物に突っ込む。

 

「……アリーゼと買った服なのに。許さない。後で正式に抗議します」

「好きにしろ」

 

 頂点とも呼ばれる王者。尊敬はしているが、それとこれとは話が別だ。

 黒鍵に追加で精神力(マインド)を込める。

 

強化(シュターク)

 

 そして、それを思い切り投擲する。

 

 鉄甲作用というものがある。

 黒鍵の元ネタとなった世界に存在する投擲技術だ。着弾時の衝撃を何十倍にも増幅させるトンデモ技術だが、鍛錬の末に私はそれの再現に成功した。さらに、同じ名前のスキルまで発現した。

 これらの純粋な技術と任意発動(アクティブトリガー)であるスキルを合わせれば、このオラリオにおいて私に投擲で勝てる者はいない。それは目の前の人物も含めてだ。

 

「ぬぅ!!」

 

 剣の腹で受け、地面に二条の跡を残したところに追撃をかける。

 

告げる(セット)

 

 勢いを失った黒鍵が、再び相手へ向かっていく。と、同時に新しく取り出した黒鍵を投擲する。

 私の目的はこの戦いに勝利する事ではない。脱走したモンスターを追う事が第一の目的だ。今の攻撃を囮にこの場を離れようとした。

 

 が、しかし。

 私が背を向けた状態で屈むと、その頭上を大剣が通り過ぎた。続いて半歩引くと、私の身体のスレスレ横を通って大剣が地面に叩きつけられ、砂煙が上がった。

 

「見ずに躱すか」

強化(シュターク)

 

 新たに取り出した強化した黒鍵6本、遠距離でも爆発的な威力を誇る投擲をゼロ距離で行う。

 こちらは魔力で編み上げられた刃だが、金属の衝突する轟音が響き渡った。

 

 目を付けられるような事はしていないはずなのに。どうしてこんな事になるのか。

 これ以上突っかかってくるなら、相応の力を出さなければ厳しい。しかし、ここはダンジョンではなく地上だ。それは躊躇われる。

 そうして出方を窺った瞬間、少し離れた場所で大きな歓声が沸き起こった。

 悲鳴が聞こえる事はあっても嬉々とした歓声が聞こえる事などないはず。あるいは誰かがモンスターを倒したのか。それならひとまずは安心出来るのだが。

 

「……応えたか」

「は? 応えた……?」

 

 突然何かを言い出したかと思えば、目の前の大男は私に背を向けた。自分勝手に仕掛けてきたと思えば、満足すれば謝罪の一言もなく立ち去る。

 

 ふざけるなよ、自己中男……! 

 

 一瞬、がら空きの背中に黒鍵を叩き込んでやろうかと思ったが、それでまた戦闘が始まっても困るため、自重した。

 

 

 

 確認のために歓声の元へ駆け付けると、そこにいたのはベルとヘスティア様だった。聞けばモンスターを倒したのはベルだったらしい。倒したのはシルバーバックだというが、駆け出しの冒険者が勝てる相手ではない。やはり、成長が異常に早い。

 そして、ベルは見覚えのないナイフを使っていた。

 

「あのナイフはどうしたんですか? ぱっと見でもかなり高そうなんですけど」

「ああ、あれはヘファイストスに頼んで打ってもらったんだ」

「ヘファイストス様直々に? あの、それで値段は?」

「……2億ヴァリス」

「は? 2億? 馬鹿ですか。確かにプレゼントとは言いましたけど……ベルにはこの事は?」

「……言ってない」

「はあぁぁ……もー、どうせまだ払ってないんでしょ。期限はいつまでなんですか」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。あのナイフはボクの問題だ。だからユイ君に頼るわけにはいかない」

「というか、武器なら私に言えば良いでしょうが」

「だって、だってぇ……」

 

 後から聞いた話では、ヘスティア様はヘファイストス様のところでバイトを始めるらしい。

 まだ私が駆け出しのときはヘファイストス様に掛け合って色々と便宜を図ってくれたし、黒鍵とか聖剣とか作れたのもヘスティア様が頼んでヘファイストス様が色々と融通してくれたからだ。アプローチは違えど力になろうとしてくれたのは同じであるため、私は良い。しかし、こんな事をそうホイホイ出来るはずもなく。

 依怙贔屓なんて人間関係にヒビが入る典型的な原因だ。ヘスティア様はもっと団員を増やしたいようだが、今から心配になってきた。

 




○主人公
・身体能力はLv.6の範囲内だが、黒鍵投擲の威力はLv.7に比肩する

○主人公のオッタルへの印象
・武人
・強さを尊敬

・自己中男
・街中で戦闘を仕掛けてくる狂人
・アリーゼと一緒に買った服をボロボロにしたのは許さない
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