ヘスティア・ファミリアのエセシスター 作:カラスガラス
「ぐべぇっ!?」
宙を舞う、僕の身体。視界には雲1つない青空が映っている。
「クラネルさん、貴方は武器に意識を向け過ぎだ。それでは今のように体術による攻撃に対応出来ない。視野は広く、1ヶ所に意識を集中させ過ぎないようにしなさい」
「は、はい……」
大の字で地面に横たわっている僕へ声をかけてくれるのは、たった今僕を蹴り飛ばしたリューさん。『疾風』の二つ名を持つ第一級冒険者であり僕の憧れの、なんというか、その、好きになってしまった相手である。
「とはいえ、確実に上達してきているのも事実。そして、身体能力……ステイタスの伸びも実感出来る程度には大きい。努力の賜物でしょう」
「あ、ありがとうございます」
本来なら僕なんかがお近付きになれる人ではないけれど、同じファミリアの先輩であるユイさんの縁でこうして戦い方を教えてもらえる事になったのだ。
「クラネルさんはこれからダンジョンに?」
「はい。今日も潜るつもりです」
「そうですか。忠告しておきますが、あのサポーターには気を付けてください」
「リリに、ですか?」
「ええ。私の思い過ごしであれば良いのですが」
リリというのは、最近僕と契約してくれた
気を付ける、といってもどうすれば良いのか分からないけれど、リューさんの言葉だから心の中に留めておく事にした。
◆◇◆◇◆◇
仮ホームの教会、その隠し部屋。私たち【ヘスティア・ファミリア】の生活スペースであるそこに、他ファミリアの人物が私に向かい合うように座っていた。
「遠征への同行、ですか」
「近頃どうもきな臭くてね。アミッドから聞いているかもしれないけど、強力な毒を内包する新種のモンスターも確認している。ただでさえ、未到達階層への進出だ。万全を期して、君に
私にそう語るのは、【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナ。オラリオで知らぬ者はいない都市最大派閥の一角の頭である。
ちなみに都市最大派閥は主に3つに分けられる。1つは【ロキ・ファミリア】、もう1つは【ロキ・ファミリア】と度々敵対している【フレイヤ・ファミリア】、そして最後の1つは私たち【ヘスティア・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】を中心としたヘスティア・アストレア派閥連合あるいは単純にヘスティア・アストレア派。最後の1つに関しては1つのファミリアではなく、中立的な連合だ。2つのファミリア以外にも、【ガネーシャ・ファミリア】は半分所属しているようなもので、他にもいくつかのファミリアが潜在的に所属している。
「新種……まだ聞いてないですね……」
「その情報に関してはこの提案を受ける受けないに関わらず開示しよう。いつお世話になるか分からないからね」
「助かります」
中立的な派閥とは言っても、他の派閥に手を貸してはならないというわけではない。そんな事を言うと私など治療施設で他派閥の冒険者を治療しまくっているが、報酬ありきとはいえこれは普通に手を貸している事になるだろうし。
問題になるのは他派閥同士の争い、例えば【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】の間に抗争が起こったとして、どちらかに加勢してもう片方を潰すような行為だ。そういう場合に私たちは仲裁する立場になるというだけで、ギルドからの指令などよっぽどの事がない限り行動を縛られる事はない。特に個人の行動の範囲では。
そういう意味では【ロキ・ファミリア】の遠征に同行する事自体は別に問題にはならない。
「確か59階層でしたよね?」
「ああ。僕たちは以前58階層までしか進めなかったからね」
「これってアリーゼもついてきたりとか……?」
「残念ながら彼女に同行を頼む予定はないかな。君と彼女がいるなら、それはヘスティア・アストレア派と何も変わらないだろう? 戦力としては申し分ないけど、士気の問題もある。だから今回はあくまで協力者として君1人についてきてほしい」
「うーん」
ついていくのは構わない。構わないのだが、気持ち的な問題で1人【ロキ・ファミリア】の中に混じるというのはしんどいかもしれない。アリーゼがいれば、贅沢は言わずにライラやリオン、あるいは輝夜でも良いから誰か1人でもいれば全然気分は楽なのだが。
「1人だとちょっと……」
「椿や他の【ヘファイストス・ファミリア】の団員たちも同行する。1人だけ仲間外れにはならないと思うよ」
「う──ん……それなら……」
「もちろん、同行してくれた暁には相応な対価をする」
「今度ダンジョンで指定の素材を取ってきてもらうとかでも大丈夫ですか?」
「問題ないよ」
「じゃあ、深層に3回ほど……いや、やっぱり5回……7回……」
「ははは、お手柔らかに頼むよ」
そうしてフィンさんと遠征について詰めていく。私の部隊の配置、モンスターと遭遇時の対応、消耗品の取り扱いなど。後は当日合流すれば良いだけ、というところまで話し合った。
しばらくしてフィンさんが帰ると、入れ替わるようにヘスティア様がバイトから帰ってきた。
「ただいまー。もうくたくただよ……ユイ君、何か作っておくれ〜」
「えー、何か買ってきてくださいよ。それか外に食べに行くで良いんじゃないですか?」
「それなら背負って行ってくれないと、ボクはもう一歩も動けないぜ?」
「その服でおんぶはヤバいと思うんですけど」
結局ベルが帰ってきてから、ヘスティア様は無理やり歩かせて豊穣の女主人で夕食を摂った。ベルはあの店を大層気に入ったらしい。なんでも、個人的に弁当を貰っているとか。
そして、帰ってきてからソファに寝転がって本を読んでいると、テーブルに突っ伏して寝ていたベルにヘスティア様が声をかけていた。
「ベル君、こんな所で寝ていたら風邪を引くよ? それに今日はステイタスを更新するって言ってたじゃないか」
「あ、す、すみません、神様」
ベルが座ったまま寝落ちなんて珍しいな、なんて思いながらそちらを見ると、テーブルには1冊の本が置いてあった。
なるほど、本を読んでいたら眠気に襲われたわけか。なんて考えながら、一体どんな本だろうと手に取ってみる。
たらり、と一筋の汗が背中を伝った気がした。
「魔法が発現した……」
「え、ええぇぇっ!?」
だろうなという気持ちと、ヤバいという気持ちが同居している。
いや、ベルがどこかから盗んできたわけではないだろう。ヘスティア様みたいに高額で買ってきただけに違いない。そうだ、そうに違いない。
「あの、ベル? 喜んでるところ悪いんだけど、この本って買ってきたものだよね? そうだよね?」
「え? いえ、それは借りた物で……」
「Oh……」
ヤバい。どれぐらいヤバいかと言うと、リオンと輝夜がラブラブチュッチュしだすぐらいのレベルでヤバい。いや、それは言い過ぎたかもしれない。それならまだ空から槍が降ってくる方がマシなレベルかも。
「どうしたんだい、ユイ君」
「これ、
「え?」
「これ、
ヘスティア様の顔が面白いぐらいに青くなっていく。
「あの、神様?
「簡単に言うと魔法の強制発現書さ。『神秘』や『魔導』っていう希少なアビリティを極めた者にしか作れない超貴重品……そのお値段は【ヘファイストス・ファミリア】の一級装備と同等かそれ以上」
「えっ……」
「しかも、一度使うと効果を失う」
ベルの顔も青くなった。事態の重さを理解したらしい。少し頭の中でふざけたが、ヤバい状況には変わりない。
そして、ベルは値段を気にしているかもしれないが、問題は値段ではない。その貴重さだ。ただ弁償して終わりなら私の貯えの一部を開放する事で済むのだが、
最悪、他派閥との抗争に発展する可能性すらある。しかも、理由はどうあれこちら側がやってしまったというのがさらにマズい。
「ど、どど、どうしましょう神様!?」
「お、おお、落ち着けベル君!」
「ど、ど、どうしたらいいですかユイさん!?」
「ど、ど、どうしようユイ君!?」
「……落ち着いて、2人共」
このままでは最悪の展開もあり得るが、1つだけそれを避ける方法がある。
代わりの
「【ルクレエ】」
詠唱を必要としない魔法を発動すると、私の手の中にベルが使ったものとは別の
【ルクレエ】。
【ラヴィ・ルミエール】と並ぶ私のもう1つの魔法。その効果は、私が魔力を込めて作った事があるものを再現し、作り出すというもの。とある人物の某投影魔術を彷彿とさせるが、見かけが似ているだけで別物である。
見ただけで複製するなど不可能で、まず複製したいものを自分の力で作る必要がある。しかし、一度作ってしまえば何度でも複製出来るし、この魔法で作り出したものは時間経過で消える事はない。武器以外にも
悪用すれば一儲け出来るが、そうすると他の治療系ファミリアに打撃を与えてしまう可能性もあるし、そんな事をしなくてもお金はあるし、と戦闘以外でそう頻繁に使用する魔法でもない。
面倒を避けるために特に親密な仲の者以外でこの魔法を知る者には、別の場所にあるものを呼び出す召喚魔法と偽っている。
「ベル」
「は、はい」
「これを持ち主に。いい? 君は何も見なかったし、
「えっ」
「別物って言われても白を切ること。大丈夫。魔法のスロットが増えたってアスフィも言ってたから、たぶん元の書よりランクが下がる事はない。むしろ上がってるかも」
『神秘』持ち同盟の『
「これを朝一番に持っていくこと。分かった?」
「いや、でも……」
「分かったら早く寝る!」
「は、はい!」
ベルを部屋から追い出した。
ハプニングこそあったものの、ようやく目的が果たせそうだ。
修道服を脱ぐ。
「久しぶりにステイタス更新してもらってもいいですか?」
いいですか、と言いつつ断られる想定はしていないが。
上半身のインナーや下着を脱いでベッドにうつ伏せになる。恩恵は背中に刻まれているため、ステイタス更新時にはこうして上半身裸になる必要がある。
ユイ・レグリース
Lv.6
力 :S999
耐久:A875→S953
器用:S999
敏捷:S999
魔力:S999
神秘:D
鍛冶:E
調合:F
投擲:D
魔導:F
《魔法》
【ルクレエ】
・速攻魔法
・過去に自身の魔力を込めて作成した物を創り出す
・精神力消費は生成物に依存
【ラヴィ・ルミエール】
・全癒・■■魔法
・選択詠唱連結
・詠唱連結するほど効果上昇
・第一詠唱式(体力損傷回復)
・第二詠唱式(衰弱病症快復)
・第三詠唱式(解毒解呪)
・第四詠唱式(■■)
《スキル》
【
・アイテム作製時、特殊効果を付与可能
・特殊効果は心象強度に応じて効果増幅
・アイテム作製時、『器用』に超高補正
・アイテム作製時、精神力消費減少
【
・運が良くなる
・発展アビリティ『幸運』の常時発現
・『幸運』に高補正
【
・勘が鋭くなる
・戦闘時、『幸運』に高補正
【
・
・投擲時、『力』に高補正
・投擲時、対象への攻撃力高域強化
【
・
・共闘者が少ないほど、効果増幅
・
・
「うーん、ベル君もだけどユイ君も大概おかしいぜ? Lv.6にもなればステイタスも伸びにくいはずなのに『耐久』以外カンストしてるし、その『耐久』ももうすぐカンストだよ」
「まぁ、こればっかりはズルしてるので誇れるものではないですけどね。久しぶりの更新でもありますし。でもLv.7もすぐそこですね。偉業は足りてるんですよね?」
「まあね。なんなら今すぐのランクアップも可能だよ」
「勿体ないからやめてくださいよ?」
「分かってるさ。まぁ、でも、『耐久』以外の
ステイタスの紙を確認し、すぐに燃やした。
この後すぐに寝る予定だったのだが、ベルが黙って出ていったため、様子を見に行かなければならなくなった。案の定、ダンジョンで
○君と彼女がいるなら、それは(以下略)
・ヘスティア・アストレア派閥連合の最も強い作戦は主人公とアリーゼを2人だけで敵陣に突っ込ませること
○『神秘』持ち同盟
・主人公とアスフィ、アミッドが所属している
・たまに集まって愚痴るだけ
・敵に回してはいけない
○こればっかりはズルしてるので(以下略)
・主人公はステイタス増加量倍加薬を作製し、服用している
・神の力を使っているわけではないので合法ではあるが、その存在が露見した場合に面倒な事になるため、主人公とヘスティア以外に知る者はいない
・周囲から何か言われたときは「(こんなヤバいアイテムを作る)才能」の一言で済ませている
・ただ、主人公は毎レベルで全アビリティカンストしてからランクアップする事を心掛けているので、ランクアップ速度はそれほどぶっ飛んでいるわけではない
○【ラヴィ・ルミエール】
・演出上、隠しているだけでステイタスの表記が乱れているわけではない
・いずれ正式なものが登場する
○【ルクレエ】
・某投影魔術モドキとは違い、視ただけで複製する事は出来ないが、一度自分の魔力を込めて作ったものは複製出来る
・武器だけでなく、
・スキルの効果もあって、