「ありあとっしぁ〜……」
「はぁ……」
深夜のコンビニから出てきた男、
月見里汐莉(やまなし しおり)は
手に持ったコンビニ袋の中身を見てため息をつく。
袋の中には弁当や惣菜が所狭しと詰め込まれていた。
夜食にしては多すぎるそれは、彼が今から食べる1食分である。
食べ過ぎだと思うだろうが、過食によるストレス発散が目的であった。
彼のストレスは大学での就職活動、アルバイト、
同棲中の妹など様々な物が原因であったがどれも
深刻なものでは無い。だがそれ故に他人や親に共感されなかった。
そんな折始まったのが過食であった。しかしストレス発散のためとはいえ、そんな生活を1年続けていたため、彼の体は余計な肉を溜め込み20kg も増えてしまった。先程のため息はそれによる焦りと自分への呆れが混ざ りあったものであった。
だがそれももう終わりだと考えると幾分か気持ちが楽になった。
「……」
階段をのぼり3階にある家に帰った汐莉は、リビングにいる妹に挨拶することなく無言で手持ちの袋をそのまま電子レンジへと押し込んだ。そしてピーッという音ともに加熱が完了したそれを出して自室へと向かう。途中「いい加減痩せたら?」という妹の嘲る声を聴いたが無視して部屋に鍵をかけた。
そして汐莉は買ってきた弁当や惣菜を食べながら
情けなく涙を零した。最後にコップに入れた液体を思い切って飲み干した。誰もこんな自分の事を心配してくれないという事実とぐうの音も出ない正論を突きつけられ黙る事しか出来ない自分の不甲斐なさが嫌になる。
妹「デブが伝染るから近寄んな」
父「あと卒業まで1年なんだから我慢してくれ……」
母「まだ就職決まらないの? ちゃんとやってないんじゃない?」
本来は味方であろう家族から心無い言葉を
かけられる度に汐莉の心は削がれていった。
(もう自殺でもして楽になろう……)
そんな事を考えるようになったのはいつからだった
だろうか。押し入れの中からベルトを取り出し
窓を開け外にある手すりに括り付ける。
このまま飛び降りても確実に死ぬか分からないため、飛び降りながら首を吊る方法を選んだ。理由は単純に苦しみたくないから。
首が直ぐに折れてくれたら良いな、などと考えながら自分の首でベルトをしめる。すると覚悟していたはずの頭を一気に恐怖が支配した。これから死ぬ準備を自分が行っているという感覚がより恐怖を沸き立たせる。
(──怖い……!! 怖い!! 怖い怖い怖い怖い怖い……!!)
ガチガチと音を鳴らす歯と震える足が行為を
踏みとどまらせようと警鐘を鳴らすと共に体に異変が起きる。
息が出来ないのだ。
しかしそれはベルトを閉めたからでは無い。
ベルトと首とには十分な隙間が出来ている。
だがそれも汐莉の予定の内であった。
先程のコップには各種洗剤や農薬を混ぜたものが入っていたのだ。
こうなってはもう助からない。そう頭に言い聞かせ退路を断つ。
そしてゆっくりと、足を震わせながら窓の外へ足を出す。
ベランダは無いため下には無機質なコンクリートだけが見える。それを見て落ちたら怪我では済まないだろうななどと、どうでもいい事を考えた。そして意を決して目をつぶる。
息が苦しく意識が曖昧になってくる。
頭にはうるさいほどの心音が響いている。
体から力が抜け前向きに倒れ込む
その瞬間、汐莉は自身の死を理解した
(次は幸せになれますように)
こうして月見里 汐莉の人生は幕を閉じた。