消失!タップダンスシチー海賊団   作:アテル

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Rize up~オズの世界へ~

 Hey!アタシはタップダンスシチー!世界を股にかける大大大ウマ娘さ!そんなアタシだが、いつだって表舞台で踊っている訳じゃない。普段はトレーナーや仲間たちと一緒に楽しい毎日を送っている。

 

「HAAAA!I won!」

「なぁあああ!タップ強すぎるううう!」

「アタシに勝ちたいなら、もう3年は修行するんだな!」

 

 アタシたちのアジト()は特注さ!海賊の船を模した少し古めの板張り床の上には数々の金貨が散乱してるし、デッキを模したロフトには樽っぽい収納棚が置いてある。ま、基本中身は散らかしっぱで中にはなーんも入ってないんだがな!

 

「2人とも、そろそろトレーナーさん帰ってくるから片付けろよ」

 

 アタシたちは『タップダンスシチー海賊団』というチームで名を馳せている。アタシ含めたウマ娘3人が所属するチームの名称なんだが、ヒトも含めたアタシたち6人組として使う方が多い。

 今はヒト組3人はいない。ウマ娘組3人だけさ。トレーニングがあるかないかで言えば今日はあるが、基本ここで顔合わせしてから始めている。1日1回は顔を合わせる。アタシたち『家族』の掟さ。

 

「OK!さ、片づけをするか…」

「そうだね。トレーナーさん整理には厳しいし…」

 

 遊んでいたボードゲームの片づけを開始する。う~ん、これどこに入れるんだっけ。

 

「それはこの箱だな」

「Thanks」

 

 手間取っているとサングラスを輝かせながら1人がアドバイスをくれる。communion of mind with mind、心の通った家族に言葉は要らないのさ。

 

「ただいまー」

 

 お、来たな。彼がアタシたちの航海士、我らがトレーナー殿だ。少し前まではいつもここで仕事してたんだけど怒られてこうしてちょこっと顔を出すようにしたらしい。少し寂しいのはナイショだ。

 

「来たな、トレーナー」

「おかえり」「おかえりなさい」

 

 ここに入るときの合図は『ただいま』と決めている。家だからな、私たちの。

 

「ただいま~!ってあれ?もう皆来てるの?」「そうみたいね。あ、ただいま」

 

 トレーナーに続き、残る2人もやって来た。さてと、ようやく全員揃ったな!

 

「うっし!皆揃ったな!それじゃ、いつも通りに行くか!」

「そうだね。じゃあ…3人はアップ行ってきて」

「Got it!」

 

 アタシが笑うとトレーナーも笑ってくれる。それがたまらなく嬉しくて、尻尾が言う事を聞かない。アイツと心が通じ合って、お互いの運命を託し合っている今が何物にも代えがたくて…きっとこれは…

 

ガタガタガタガタ

 

 突如、地面が揺れた。

 

「みんなしゃがんで!」

 

 トレーナーの指示を聞いた瞬間、即座にしゃがんだ。しかし何人かは怖さと驚きから中々体が言う事を聞いてくれず立ちすくんでいる奴らもいた。なりふり構ってる暇はない。アタシとトレーナーはそれぞれ別々の突っ立っている仲間の所へ行く。そして頭を抱える様に抑えながら一緒にしゃがむ。

 

「光った!?」

 

 彼が窓の外を見て叫ぶ。彼の言う通り、外からフラッシュが何度も発生し思わず目を覆う。

 何なんだよこれ…どうしちまったんだよ…。

 

「う、うわぁぁ!」

 

 そして急に体が浮かび上がった。いや、浮かび上がったんじゃない。この家が…回っている!?

 

「Trainer!」

「タップ!」

 

 家の回転に巻き込まれ、家具や物がぐちゃぐちゃに飛び散っていく。地震だと恐れ、床に伏せていた皆も回転に巻き込まれ転がっていった。アタシも、体が一瞬持っていかれたがすぐに踏ん張って出来る限り安全になる様動く。

 

『うわああああああ!!!!』

 

 激しくなるフラッシュに目をやられつつ、アタシたちは意識を手放した。

 

 

______

 

 

 

「うぅ…ここは…」

 

 謎の回転に巻き込まれてしばらくした後。最初にトレーナーが目を覚ました。揺れる視界をなだめながらゆっくり顔を上げると真っ先に目に映るのは荒れた室内。机もロフトの方まで飛んで大破しているし、照明も落ちて割れてしまっている。

 流石に破片が危ない為少しまとめると同時に、近くにいる人間をどかしておく。気絶した際、無理に起こさない方がいい。

 

「…嫌な予感はするけど、外見るか」

 

 起きて気づいた違和感がある。やけに空気が違うのだ。まるで夜明け前の様な澄み切った空気。いくら気絶していたとはいえ丸一日なんて考えられない。彼の明晰な頭脳が告げる。

__状況確認を怠るな、と

 

「…こうなるか」

 

 ドアを開け外に出ると全く違う景色が広がっていた。青々しく無造作に広がる雑草ではない。

 これは、雲。()()の血であり肉の源。魂の根源。ようこそ我が家へ。

 

「さて、どうしたもんかな…」

「Uhh…What’happen?」

「タップ!大丈夫か?」

 

 タップが起き上がると、トレーナーがすぐに駆け寄る。あちこちを触診し、ケガの有無を()()()確認する。彼女はそれをケロッとした顔で受けるも、その意図を読み取り少しにやけた。ケガがないことを確認したトレーナーは胸を撫で下ろし、外傷以外の体調を問う。

 

「ケガはないか。体調はどうだ?気分が悪いなんかも…」

「Allgreen.何にも問題ないよ」

 

 よかった。彼が大きく息を吐くと、それに呼応されたように他の4人が一斉に目を覚ます。新たに目覚めた彼女らにも、トレーナーは1人1人安全確認を行っていった。全員の無事が確認され、ささやかな安心がやってくる。

 

「とりあえず皆無事だね」

「にしても…何だったんだ、アレ?」

 

 不思議がる顔を見て、トレーナーが外に出るよう促す。ただ1人、重苦しい顔をして。

 タップダンスシチーから順に外に出ていく。

 

「…!わぁ」

 

 誰の声だろうか。全員がそう言いたくなるような光景が広がっているのだ。辺り一面が(私たち)に覆われその下が全く見えない。幻想的?魅惑的?否、そんなに美しいものではない。もっと現実的であり生々しいものだ。最も、生命こそこの宇宙で一番の魅力と考える者からすれば、それは神秘的に見えるだろう。

 

「ここ…どこ?」

 

 光景に目を奪われるのも幾刹那。すぐに彼女らは今自分が置かれている状況に危機感を感じ出す。目覚めた赤子は、その周囲に母親がいないと泣き出す。それは自分の安全を守るための本能だ。『個』である以上、そういう摂理なのだ。『海賊団』とて例外ではない。『1個』の海賊団でしかない彼女らにとって、その周囲、母体である世界から孤立すればそうなるのも当然だろう。

 

「分からない。俺たち、一体どこまで来ちまったんだろうな…」

 

 呟くような彼の声には投げやりな感情が含まれていた。少なくとも、その顔を見ていた茶髪の彼女にはそう写った。

 悔しいのだ。己の知らないこの状況が。守るべき彼女らを不安にさせている自身が。

 

「知らないなら、探検するしかないさ!」

「待つんだ。今は状況を整理しよう。行動はそれからでも遅くない」

 

__目の前のこいつらは、逃げるどころか俺たちを捕まえて離さないからな。

 

 

______

 

 

 

 家の中に帰った俺たちは状況整理を始めることにした。何より大事なのは現在地の確認だ。周囲の光景が違う以上、同じ場所にいるとは考えられない。そう考えスマホを見てみるが…

 

「圏外か」

「Me too」

 

 圏外。それにGPSも仕事できていないようで、地図アプリがあらぬ位置を指している。この時点で俺の心の焦りが肥大化した。予想は出来ていたが、予想出来たからと言って対策があるとは限らない。場所が分からない上に常識を超越したこの状況…さて、どうしたモノか。

 

「時間は…アナログ時計なら仕事するか。…午後6時。大体2時間半の気絶になるのかな」

 

 拘りのゼンマイ式アナログ腕時計には2つの針が直線を示していた。秒針がしっかり動いているので壊れている、なんてことはないだろう。

 俺がトレセンを出たのが3時過ぎなので、家に到着したのは3時半前後のはずだ。2時間も気絶するなんて、相当凄まじい揺れ?だったのだろう。

 これで状況確認の鉄則、5W1Hの内WhereとWhenが確認できた。Whoなんか見るまでもないからいいとして、残すはWhyとHowか。WhatはHowとほぼ同じなので割愛だ。

 

「皆は気絶する前の状況、覚えてる?」

「えぇっと…私たちが入ってきたら…急に揺れ出して…」

「その後、なんかグルグル~って」

 

 俺が覚えているのもそれだけだ。地震かと思ったら家自体が揺れ出した。そんな認識。それから気絶して、起きたらここだ。…謎は多いが、とにかくHowは確認成功。…誰もがこんな認識ならWhyは聞くまでもないか。

 

「まるでThe wizard of Ozだな」

「オズの魔法使いか。それっぽいって言えば…そうなのかな」

 

 ケンタッキー州訛りのタップの英語は少し聞き取りにくい。こうやって通訳を挟まないと、皆にも伝わりにくいのだ。

 にしても、オズの魔法使いか。もしその通りなら家が揺れた原因は竜巻か。…ははっ、夢はあるね。すごくイヤ~な夢が。

 

「オズの魔法使い!懐かしい~!ママに読んでもらってたな…うぅ…ママ…」

「ほら泣かない。今トレーナーが脱出の手立てを考えてくれてるんだから、アタシたちも協力しなきゃ」

「うぅ…ありがとう」

 

 不安からか、涙を零す娘も現れ始めた。早急に解決したいが…ギャンブルに動くには状況が整ってなさすぎる。そうした俺の足踏みがタップも感じ取ったのか、もどかしい表情をしていた。

 焦燥感が心を這いまわる。集中しようとしても焦りと危機感が煩わしくらい訴えかけてきて考えがまとまらない。こういう時は考えるのを一旦やめるのが正解なのだが、焦りはそれすら許さない。とにかく考えろという指令が脳から発せられ、休む手をはたく。

 埒の明かないジレンマに悩まされていると、ふと足元で金貨が光った。

 

「…取り敢えず、片づけをして気を紛らわせよっか」

 

 餌に飛びつく獣の様に、俺はこの好機へ後先考えずに飛びついた。

 

 

______

 

 

 

 その後は散らかってしまった部屋の片づけを始めた。ガラス片や木片に関しては包む新聞紙がここに無い為一か所に集める崖に留め、あちこちに飛んで行った金貨やらボードゲームの駒やらの回収に努めた。これが存外大変で細かいせいかあれが足りないこれが足りないのオンパレード。結局片付けにかなりの時間を要した。

 

「こんなもんか」

 

 一先ずの片づけは済んだ。足の踏み場もあるかどうかの室内は見違えるほどスッキリし、少しは生活できる位にはなった。

 

「うぅ…お腹すいた…」

 

 ヘアバンドが特徴的な彼女がボヤく。腕時計を見ればもう夜の10時過ぎ。片付けに夢中で気が付かなかったがもう真夜中なのだ。…俺もまだまだだな。少なくとも体調管理くらいは必須なのにそれを疎かにするなんて。

 

「ん、確かにそうだな。トレーナー、ご飯ってあるかな?」

 

 サングラスの娘が続く。その言葉を受け頷いてから奥に向かって行った。皆不思議そうな顔をしてこちらを見るが気にせず納戸からリュックを引っ張り出した。それも6個。いや~結構頑丈にしといてよかった!

 

「リュックサック?」

「そ、災害用のやつだね。この中に3日分の食料はあるはずだよ。大きいのはウマ娘用、小さいのはヒト用だよ」

 

 もしもの為に備えていた防災リュックをここで使う事になるとは。購入してまだ半年で勿体ない気もするが、こう言う時の為に買ったのだからいいだろう。

 

「えっ!トレーナーさんこんなの買ってたんですか!?」

「流石はタップたちのトレーナー…。しっかりしてるね」

「備えあれば憂いなし、だからね」

 

 周囲から子供っぽい夢だのなんだの言われるが、俺だって多少は大人だ。こうして高校生と一緒の空間でそれなりの時間を過ごすんだから実質教え子だ。それ相応の責任を持った行動が必要だろう。

 

「HA!流石は我らが航海士殿だな。さぁ!宴を始めようか!」

「今日はゆっくり休んで欲しいけどね!」

 

 こんな状況なのだ。目に見えてないだけで、皆疲れている。しかもこんな時間なのに照明なしでも明るい為、体内時計も狂ってしまいそうだ。無理にでも寝て休みを設けて欲しい。

 

「はい!もう今日は寝る!」

 

 という訳で食事が終わった後、ちょっとキツめな雷を飛ばして無理矢理寝かしつける。休みが必要な事実は揺るがないのだから…まぁ…我慢してもらおう。

 

「…まぁ、しょうがないか」

「そうだね。じゃ、おやすみ~」

 

 聞き分けがいい娘が大半なので、支給した簡易アイマスクを装着し皆眠りにつく。タップもそれに促され、渋々といった形ではあるが床に就いた。

 

「よし」

 

 それを見届けた俺は外に出て家の屋根に上る。流石に女子同じ部屋で寝た、なんてのは色々はばかられるので屋根をベッドにして寝るつもりだ。

 外に出れば、再びあの澄んだ空気が肌に触れる。11月にも関わらずダウンジャケットを引っ張り出したくなる寒さに凍えながらも、仕方がなく目を閉じ…

 

「ん?何で夜なのにこれだけ澄んでいるんだ?」

 

 空気が澄むのは基本朝。それは夜の間ホコリやらが地面に落ち、邪魔なモノが空気中に漂わなくなるからだ。裏を返せば昼間からこれだけ澄んでいるのは、ホコリが常にない空間である、又は常にホコリが地面に落ちるくらいの乾燥し気温が低いという証拠。

 前者後者どちらも可能性がある。…まだ明るいし、取り敢えず気圧を計測しよう。インターネットに繋がらないだけでスマホの機能は健在だからな。

 

「ビンゴ。どうやらこの空間の正体が少し見えてきた」

 

 示された気圧は600hPa。富士山+300m位の標高と同じ程度の気圧だ。これだけ極端に気圧が低い地域など、本当に標高が高いくらいしかありえない。これなら気絶の原因も何となく見えて来る。高山病だって慣れたという可能性は否めなくなる。かなり大きな手掛かりがすぐそばにあるじゃないか。

 この状況に対する大きすぎる手がかりを前に俺の心が疼きだした。そして仮説を立てる度に新たに湧いてくる疑問に対しての思考に胸が躍りスマホのメモに書き込む手のスピードが増していく。希望を目にした俺は鬼に金棒。頭脳は無限の可能性を導き出し、何時間も思考を続けられる活力が湧きだす。

 

「ま、今日はこれくらいにして後は明日みんなと話し合いかな」

 

 皆に休めと指示した自分がそれに背く訳にはいかない。少し書いた所で湧いた待ったの掛け声に従い、ワクワクを胸に秘め、腕を組んで枕にしながら寝転がる。硬いのにどこか柔らかいプレハブ小屋の屋根は、不安で足元が見えないこの場において俺を受け止めてくれるハンモックのように思えた。家という存在が与える安心感を存分に味わい、心が休まる。

 ドタバタした始まりとは正反対な穏やかな流れで、俺の瞼は幕を下ろした。

 

 

______

 

 

 

 寝ようとしても寝付けない。ずっと明るいせいだ。ムクリと起き上がり周りを見るとアタシ以外の奴は寝静まっていた。なんかちょっと…寂しいな。

 

「…I go to the trainer」

 

 トレーナーがいないことに気が付いた。アイツ、またアタシたちに気を使ったな。一緒に寝るくらいwelcomeだっての。

 家の外に出て周囲を見渡し見る。…いない。…どこに行っちまったんだよ。

 フツフツと湧き上がる寂しさと怒りで感情が滅茶苦茶になり、思わず暴れたくなってしまう。アタシの気性はここまで荒かったのだろうか。

 

「Found!」

 

 むしゃくしゃしながらも探していると、屋根に見慣れた靴があった。屋根に飛び移りそのお顔を覗きに行くと、トレーナーは意に介さず目を閉じたまんまで居た。彼の表情はどこか苦しそうで落ち着けていないのが丸分かりだった。

 アタシと一緒じゃないか。

 そう考えた次の瞬間には、腕を枕にしていた彼の体制を動かしアタシが横に寝た時に抱き締められるようにした。そしてすぐに横に眠り彼の腕に巻き付く。腕に顔を埋め、アイツの温もりに、匂いに、優しさに包まれる様な形を採る。

 不安が一瞬にして消えていく。一心同体のアタシたちがあるべき形に収まったこの安心感。まるで家族と送る時間の様な自然であり何物にも代えがたい極上の至福が、荒れていた心をなだめてくれる。

 案外疲れているのだ、アタシも。初めて経験する巻き込まれての冒険。身体的にも大きな負荷だっただろう。だがそれ以上に仲間たちが心配だ。アタシは性格上心理面での不安は少ない。だが彼女らはそうではない。どうすればアイツらを守れるんだ。考えていたらいつしか不安に悩まされて、トレーナーを求めていた。

 

「どうしたの?」

 

 トレーナーの声がした。言いたいことがいっぱいあるはずなのに、アタシは何も言いたくなかった。精一杯の講義として、アイツに抱き着くことしかできなかった。

 …どうしてかな。アンタといると我儘の抑えがいつも以上に効かなくなる。

 

「…勝手に離れるな」

 

 どうにか言葉をひねり出した。本当はもっとかける言葉があったんじゃないか。そんな気もするが、今はこれでもいいと思えた。

 矛盾まみれさ。

 …アタシの呟き、聞こえているはずなのに何も応じてくれない。抱き締める力を強くし次の行動を促す。

 

「タップ…」

「ほら、手。Hold me」

 

 ハッキリと言うとトレーナーはようやく抱き締めてくれた。大きく荒々しい手なのに抱き締められると心地よさに満たされる。

 まったく、察しが悪いぞトレーナー。これじゃアタシのエスコートを任せられないじゃないか。

 そんな愚痴を思い浮かべていると頭に優しい衝撃がした。一定のリズムで叩かれるそれが、トレーナーの優しさだと気が付くのにそう時間はかからない。

 それでいいんだよ…。それで。ああ…気持ちいい。ママを思い出すよ。子供の頃、こうして寝かしてもらったっけ。

 I’m into you…trainer…

 

 

______

 

 

 

 寒さに凍え、眩しさに悩まされ、中々寝付けない時間を過ごしているとふと勝手に体勢を変えられた後、横に温かい感触を感じた。こんな夜中?に何だろうとゆっくり目を開けると目に飛び込んできたのは見慣れたウェーブのかかった髪。タップのものだった。

 

「どうしたの?」

 

 しかし質問への返答は来ず、代わりに抱擁がやってきた。普段の様子とはまるきり違う今に少々戸惑ったが存外寂しがり屋の彼女だ。普段と違うこの状況に不安を覚えたのだろうか?

 

「…勝手に離れるな」

 

 困った笑顔を浮かべ、彼女を引き離そうと思っていた時微かな呟きが聞こえた。勝手に家を抜け出したことに怒っている様だ。いや…俺は間違いがないように大人として当然の行動をしただけであってな…。

 そんな事を言っているとタップが俺を抱きしめる力が強くなった。

 

「タップ…」

「ほら、手。Hold me」

 

 全くこの娘は…。こっちの悩みなんてお構いなしに好き放題する態度に困りながらも、この状況では嬉しくもある。俺は諦めて彼女の腰に手を回す。ギュッとこちらに寄せると彼女の温かさが直に伝わってきて安らぎがもたらされる。

 タップはというと、俺の胸に顔を埋めて表情を見せてくれない。それでも尻尾や耳の様子から喜んでくれているのが伝わってくる。不思議と、彼女の頭に手が伸びた。優しく頭を叩き、メトロノームの様な優しいリズムを刻む。ポン…ポン…ポン…。1回、また1回と叩く度、タップの尻尾の動きは小さくなっていく。やがてダランとした感触と共に体の力が抜けた様にもたれかかってくる。

 

「Trainer…」

「…ありがと。おやすみ、タップ」

 

 さっきと違い温もりが体を包んでくれている。寒さが厳しいがこれならぐっすり眠れそうだ。愛する船長に感謝を述べ、俺も夢の世界へ飛び立つ。




単発でやろうとしてたけど思ったより長くなったんで分割します。

タップダンスシチーのシナリオはいいぞ。みんなも引こうね
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