日常を送っていたアタシたちは謎の光と共に不思議な世界へ連れてこられた。一面真っ白なそこではアタシのロマンセンサーがビンビン働く!楽しそうじゃないか!
朝が来た。彼女らがやってきて2日目、依然明るく純白な空間にポツンと置かれた
『いただきます』
元気な声が無限の空間に響き渡る。時刻は6時半過ぎ。朝練が常識であるトレセン生にならまだしも、普通の高校に通うヒトにはいささか早い時間での朝食となった。朝食、といってもその献立は食事とは程遠い内容だった。食べていて味気のない、本当にエネルギー補給だけを目的とした炭水化物を固めただけのバー系食品と乾パンのみ。本当は缶詰とかも入れるべきなのだが、予算の関係上無いのが本当に悔やまれる。
だが何も食べないよりはマシ、と暗示をかけて食品を口に運んでいく。片やトレーナーはいつもの食事に乾パンまで着き、なおかつゆっくりと食べる時間がある豪華仕様。涙を流してでも享受したい様な至福の時間だった。
「あ、そうだトレーナー」
不意にサングラスのウマ娘が声を掛ける。囁くような仕草をするので、食事の手を止め耳を傾ける。
「昨夜タップとよろしくやってたんだろ?アタシはナイショにしといてやるけど次からは時と場合を考えてやれよな」
「ムフゥッ!」
幸い、他の4人がワイワイ騒いでいた為今の会話も、むせたことも聞かれていなかった。気道に入ったバーを何とか吐き出そうとゲホゲホしながら小さな声で訂正する。
「ゲホッ…別に俺たちは…エホエホッ…そんなことしてないって…ゲホッ!ふぅ…。俺がそういう事しない人間って知ってるだろ?なんでそうなるのさ」
「そりゃぁ…それだけ濃いタップの匂いまき散らしてるから」
濃い匂い…。抱き合って寝たことでお互いの匂いが混ざり合ってしまったのだろうか。嗅覚が優れたウマ娘ならではの気づきに彼は合点がいった。
「チッ。せっかくトレーナーのクソボケが治ったって思ったのに」
「クソボケって何さ…」
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食事を終えた一行は作戦会議へと移った。家唯一のソファにはタップダンスシチーがデカデカと寝転がりその他5人は床に座って中央に置かれたトレーナーのスマホを眺めていた。スマホには白い文字で大きく『604hPa』と表示されている。
「ナニコレ…」
茶髪の彼女が問う。少々アホの子である故、思考をぶっ飛ばして質問している。そんな姿に苦笑を浮かべながらもトレーナーは答えた。
「ここの気圧だね」
「キアツ?」
頭上にいくつものハテナを浮かべながら単語を跳ね返す。他の4人の内、半分は同調、もう半分は呆れたという表情を見せる。この説明だけで分かってもらおうとは流石に思っていない為、トレーナーは説明を始めた。
「気圧っていうのは空気から掛かる力の大きさの事。まぁ…空気の重さ、程度で考えてくれていいかな。この場合だと1mで6040㎏の重さが乗っかってるってこと」
単語こそ知っていてもいざ詳しく解説されると案外知らないことだって多い。これだってその例の1つに当たるのではないか。全員がへーという顔でトレーナーの解説を耳にしていた。
「実はいつもはもっと値が高いんだ。大体1000ちょっとかな。だけどここは400も低い。なんでだと思う?」
「単純に低気圧じゃないの?」
ツインテールの娘が回答をした。
「台風でも1000切ったら大災害級だよ…」
「あー…確か高い山上った時ポテトチップスの袋が膨らむ奴だっけ…」
次はサングラスの娘が回答をした。
「正解。標高が高ければ気圧は低くなる。富士山なんかだと、気圧が630hPaくらいかな」
「へぇ~。ってことはアタシたちは今、かのMt.フジより高い場所にいる…ってことになるのか?」
ソファのタップが白い歯を剝きだして不敵に笑う。霧の様に掴みどころがなかった状況が、少しづつ確かな存在として目に見えてきている。間違いなく勝ちが近づいてきている。そんな愉悦が止まらない。
「その通り。だからここに来るとき僕たちが気絶したのは…一種の高山病っていう可能性が考えられるね」
高山病は気圧の変化に伴った酸素濃度の低下が原因で発生する。酸素が足りなくなるのだ。今回は登山以上の急ペースでの上昇だったため、耐性とかもまるで意味をなさなかったのだろう。
「ふーん。言葉とか仕組みとか、なんとな~く知ってはいたけど、いざ実際の数字出されると…なんか、地球ってすごいんだね」
「そ。自然ってバカにできないくらい凄い力秘めてるの。人間ってのは、その自然の力をちょっぴり上手に使えるだけ」
トレーナー業だってそうなのだ。『命』という自然の力を、どうやったら最大限使えるのか。それを突き詰める仕事であり、研究。それを意識するトレーナーなど、ほとんどいないのだが。
「どうやって家ごと持ってきたのか、とか色々不思議な点は残ってるけど…そこは今日からの探検で調べていこう」
「Expedition!?ついに何だなトレーナー!」
「ああ…!ここで取れる情報は十分に取った。後は、その先にある情報を取る!」
トレーナーの瞳の奥に炎が燃える。これは…スイッチが入ったな。タップとトレーナー、船長と航海士。今、この海賊団を率いる2人の情熱は完全に一致した。これ以上に頼もしいことがあろうか。自然と他の面々のやる気も高まる。
真の意味での上陸が今、始まるのだ。
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無限に続く真っ白な空間。不思議と地面の感触はしっかりしている。
この道の空間に1枚、また1枚と道しるべのおもちゃの金貨を置いてゆく。同じ光景が続き行きも帰りも分からない空間において足跡のようにまかれる金貨たちは心強いコンパスであった。
横で一緒に歩くヘアバンドと他愛もない会話をしながら歩く。こうでもしないと心が持ちそうにないのだ。いつ何が出てくるか分からないこの地を歩くことが不安で不安で仕方がないのだ。でもそれを顔に出してはいけない。
今、この娘の心の拠り所は間違いなく俺だ。自惚れでも何でもなく、この場にいる唯一の大人が俺なのだ。もし俺が一瞬でも心の弱みを見せてしまえばそれが伝染してしまうだろう。それだけは何としても防ぎたかった。
「そういえばさ」
「何?」
ふと隣を歩く彼女が尋ねてきた。
「トレーナーさんって…何でタップだけじゃなくてあーしたちも拾ってくれたの?」
思わず目を丸くする。まさか…今聞かれるとは。いや、確かに一度も説明したこと無かったが…。
「ん~…初めての夢まで一緒に歩いてくれる仲間…だからかな」
「?」
微かに笑いつつまた金貨を落とす。思い出の栓を抜くように。
「俺の高校生時代の話なんだけどさ。あの頃の俺は滅茶苦茶バカでね、頭の悪い奴が行く高校に通ってた」
「へぇ~、以外」
「だろ?トレーナー仲間にそんなトコ出身の奴誰一人いないからさ~。毎回この話すると同じ反応貰うよ」
無論喧嘩とかは一切していないし飲酒喫煙なんて以ての外だ。ただ単純に、勉強ができなかった…いや、やらなかっただけ。そんな底辺でも友人たちと楽しくやっていた。
「そんなある日…ウマ娘レースに出会った。当時の友達たちと一緒にドはまりしてさ、毎週のようにレース場に足を運んだ」
懐かしむように上を見上げる俺を彼女は不思議そうに見つめる。遠くもう立ち返れない思い出がほんのり、心を締め付けた。
夢の為に勝手に一人になってずっと閉じこもって…それでもアイツらは俺を応援してくれた。勿論嬉しかった。でも同時に、どこか寂しかった。
「そんでさ、トレーナーって職を知った時、俺思ったんだよ。『最強のウマ娘』を育てたい…って」
それから行動に移すまでは早かった。沢山教材を買って、寝る間も惜しんで勉強して、無駄切り詰めて。とにかく『トレーナー』になる為にだけ頑張った。それ以外を切り捨てる勢いだった。トレーナーに関係ないと判断すればその勉強をまるっきりしなくなるくらいには。勿論、その教科では赤点連発。留年の危機だって迎えてた。
それでも友達も先生も皆が協力して俺の為に頑張ってくれた。お陰で卒業できたし、進学も出来た。今でも頭が上がらないよ。
「ずっと勉強漬けだった俺を支えてくれたのは紛れもなく仲間だった」
「いい話じゃん」
「ああ。でも…少しだけ不満があったんだ」
これだけして貰ってまだ贅沢を言うか。実際そうなんだけど…やっぱり湧き上がる気持ちを偽れない。
「一緒にトレーナー目指す奴がいなかった。横に立って、一緒に夢を追う存在が」
「…」
「でも君たちは…一緒に歩いてくれる仲間なんだよ。俺の夢を、タップの夢を。だから俺自身が出来るだけ助けたい。一緒にいたい。そう思ってスカウトした」
他の2人と契約したのはタップと契約した年の秋ごろ、エアシャカールが俺たちコンビの方針へアドバイスをくれた時期だ。伝わりにくかったら伝わる様に言い方を変える。そんな当たり前の事を教えてもらった後だった。
『もし俺の指導が分かりにくかったら全力で俺が合わせる。だから…一緒に走ってくれないか』
契約時の言葉は今でも鮮明に思い出せる。その言葉は以降の俺の大事な部分になっていった。
「な~るほどね~。トレーナーさん、あーしらの事大好きじゃん」
「当たり前だよ。仲間、なんだからさ」
微笑みながら送った言葉の返事は、口を窄めたいささか不満げな表情だった。
「…これだからクソボケは」
「クソボケって何さ…」
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真っ白な道に点々と置かれる金貨。アタシたちの家はもう見えない。時計がないからどれくらい歩いたかは分からない。アタシの感覚は頼れないからな!
「タップ~どこまで行くの~」
だらけた歩き方で横を歩く仲間の背中を軽く叩いて喝を入れる。すると面白いくらいに背筋が伸びてキビキビ歩き出すんだ。
何が起こるか分からないこの場所。Excitingな反面…ヤバい事が起きたらすぐに対処しないと命の危機に直結する。アタシとトレーナーで決めた約束。お互いのパートナーを絶対に守ること。その為に油断はアタシも、そしてコイツも出来ないしさせられない。
『この先は二人一組で行動しよう。ウマ娘とヒトのコンビで』
アタシのコンビはツインテ。写真を撮るのが好きだからな!証拠集めに持ってこいさ!
「行けるとこまでさ!」
雲海の様な空間をただ歩く。時々道標を落として。
退屈なほど広い空間だが、これそのものにこの世のロマンが詰まっていると思うと胸が躍る。謎だらけのこの場での冒険が楽しくてしょうがない。HA!ここに連れてきてくれた奴に感謝だな!
「はぁ…タップはすぐこうなるんだから…」
「おいおいそんな悲しそうにするなよ気楽に行こう」
「タップの舵取りんなんてトレーナーさんしかできないのに…恨むよ…」
______
皆が探検に出掛けている最中、城の中に誰一人いなくなった訳ではない。
「暇だねぇ~」
城の中には留守番としてサングラスをかけたウマ娘を茶髪のヒトの2人が残っていた。ただ留守番なだけなので何もすることがない時間を過ごす他なかった。ボードゲームを取り出す気分にもならず、圏外のスマホをいじる気にもならず、ただ静かにソファに座るしかなかった。
「勉強しなよ…」
茶髪っ子は大学進学を目指して日々勉強に励んで…はいる。成果は…まぁ…。
「つまんないこと言わないでよぉ~」
口を窄めブツブツ文句を言いつつ鞄を漁り勉強道具を取り出そうとする。
「ん?」
「どうしたの?」
筆箱を取り出したところで彼女の手が止まった。何かを見つけたようで、目を丸くしている。気になったサングラスが鞄を覗き込むと、彼女の顔に笑みが浮かんだ。
鞄の中にはスティック菓子が一箱、少し形を潰して入ってた。
「食べちゃう?」
「いーんじゃない?あ、あたしにもチョウダイよ」
口止め料。そうとも言える報酬を受け取ろうと手を差し出す。どの程度渡すかは向こうに任せるという信頼。その信頼に従い、茶髪は1箱に2つ入っている袋の1つ。即ち半分を差し出した。
「いや〜上空で食べるお菓子は格別ですな〜」
「それな」
タップは勿論トレーナーも重い矢印向けてるトレタプがまたいいんだ
っていうか!何気シレッとタップ仲間のビジュ明かされてるじゃん!やったね!
タップの仲間のウマ娘たち(グラサンとヘアバンド)は全員タプトレと同チーム設定です。ゲームの仕様上出来ないだけでタップは絶対同じチームに引き込むと思うしトレーナーもそうする