はぁっ…はぁっ…いっ…!
トレーナーさん大丈夫!?足が…!
いや、いいんだ。自分でやったことだし。それより、あの蔦の怪物からは上手く逃げられそうか?
うん!もう少しで皆のとこに帰れるよ!
激しい足音がアジト内に響く。苛立ちと焦燥を思わさせる力強さと早さを抱く足音は玄関に向かっていった。
「trainer!」
熱い抱擁…というには些か状況が重いか。タップダンスシチーが一方的にトレーナーを抱きしめる。
彼女がアジトに帰還した数分後、トレーナーらは帰ってきた。しかしその様相は壮絶でありタップの心配がこうした行動を引き起こしたのだ。ヘアバンドに担がれ明らかに疲弊した表情を浮かべている。脚が動かないのかだらんと垂れ、上体をせかせかと動かすのに精一杯といった具合だった。
「タップ…ただいま」
「トレーナー…」
彼を椅子に座らせながら見つめる微かに潤う瞳を、トレーナーは見逃さず微笑んだ。微笑み彼女の頭に手を乗せ和ませる。愛情を込めて。
「ちょっぴり無茶しただけ。…タップ、探検の成果…教えてくれないか?」
トレーナーのか細い微笑みに一抹の不安を覚えながらもタップは頷く。
「アンタの予想通り、ここは空の上さ。そしてここはsomeoneの中…鳥籠みたいなもんだろうな」
「どうやって分かった?」
さっとサバイバルナイフを取り出す。その先端には、壁を切り取った際の付着物がまだ残っていた。鈍く光らせ申告をする。
「壁があった。それを切ってみれば…ってことさ」
「完璧だ。ありがとう」
お互い力強く頷く。信頼に対し結果で、結果に対し信頼で。託した以上の成果に、トレーナーは安心を得ていた。
その奥でヘアバンドが収穫物を皆に見せていた。といっても、銃は使ってその場に投げ捨ててきた以上、ポテチと弾がいくつか、そしてそれを包むにしては余分すぎる風呂敷位しかないが。
「トレーナー…あんたは何を見つけたんだい?」
「俺たちより前に来た遭難者の痕跡を見つけたよ。それと、ちょ~っとまずい事態の情報もね」
呼吸を落ち着け、幾分かいつもの調子を取り戻しつつあるトレーナーが笑う。笑みの奥には、勝利の確信が潜んでいた。何かもう決めている。タップは確信を抱き、魂を預ける覚悟をまた決める。
釣られて不敵な笑みを浮かべながら問いかける。
「なんだ、トレーナー。daemonにでも会ったのかい?」
「鬼…そうとも言えるかもね。人を眠りに落とす悪い鬼だ」
その瞬間、タップの目が光る。勘が冴え渡った鈍い光はトレーナーの目を捕らえ、その内心を汲み取ろうと尖っていく。
「トレーナー。アンタら『も』、なのか?」
「…!あぁ、俺たち『も』、だ」
タップの鋭い目線をこじ開けるかのように力強くトレーナーが見つめる。勘が重なった。船長と航海士の向いた方面が完全に一致した。この場の全員の意識が一致する。さぁ!船出の時だ!
「トレーナー!航路を教えてくれ!」
「ああ!俺たちがここから出る方法…それは、落下傘だ!」
勇気が力をくれ、気力を沸き起こす。心を預けられる相棒がいるから、彼らは笑っていられる。仲間がいれば百人力。それを彼らは、誰よりも体現していく。
「落下傘?」
ツインテが聞き返す。下手に想像できる作戦であるからこそ、不安が僅かにこみあげてきたのだ。
「そう、落下傘。…オズの魔法使いに照らし当てるなら、気球化作戦とかでもいいよ」
「作戦名の問題じゃなくって!!6人分の落下傘なんて用意できるの?」
パラシュート、現代ならばそう呼ぶだろうか。一人分でさえ大きな装備を要するにも関わらずそれを全員分など相当な量だ。それを用意仕切れるだけの材料があるのか?トレーナーにしては非論理的な方法を持ち出され、驚きも十分に含んだ反論になってしまった。
だがトレーナーは不敵な笑みを浮かべる。自信満々、そんな笑顔だった。タップに似てしまったのか。地に足付けた理論展開を飛び越え突飛と言う他ないような方法に戸惑いが広がる。可能なのか、無茶じゃないのか。だが不安が広がるのなど百も承知だった。
「出来る」
「…どれくらい、布が欲しいんですか?」
しかし皆が力強く頷き、指示を仰ぐ。彼の論に異論を唱えないしその必要もない。最愛の船長が一番信頼している人を信じる。確かな愛とゆるぎない自身が彼女らの瞳の炎を燃え上がらせる。
「その前に…ごめん、少し確認させてもらうね」
少女らを掻き分けて向かうはヘアバンドが収穫物を包んでいた風呂敷代わりのコンテナカバー。その材質を手触りで確認していた。彼女におぶられていた時から薄々感じていたがこの布は随分質がいい。国際貨物線に採用されるのだから当然と言えば当然だが、製造年を考えればもっとおんぼろでも不思議ではないはずだ。
「酸素の薄さが幸いか」
回収したカバーは3枚。布の大きさは縦が眺めでトレーナーの腕で横3尋半、縦は6尋半以上。ざっと横6.3m、縦12mくらいだろうか。それが3枚この場にはある。
「75平方が3枚、一人に割ける分は33か…心もとないな…」
35~40平方メートルは必要だと踏んでいたが為、仮定していた量よりも少ない実態に少し焦りを覚える。他に…他に何か布はないだろうか…。必死に目線を動かしているとカーテンが目に入った。
いたし方がない。背に腹は代えられない。腹をくくってトレーナーは指示を飛ばした。
__________
慌ただしく人が動く。荷物を抱えて走る者、糸を用いて手芸を為す者、皆それぞれ与えられた役割を精一杯全うしている。
「トレーナーさんパラシュートの作り方わかる?!」
「分からないよ。やったことないんだから」
部屋の中央、そこでヘアバンド・茶髪・サングラスが布を縫い合わせていた。ミシンはない。手縫いで強固に縫い上げるしかないのだ。一応安心と信頼の瞬間強力接着剤で補強はしているが、落下傘作戦に耐えるには補強をしておいて損はないだろう。
先ほど、ヘアバンドが船の荷物を盗んできたときに使った風呂敷の他にもツインテがかき集めているプレハブ小屋内のありとあらゆる布を使って6枚のパラシュートを結い上げる。
「あーんもうどうしたらいいの~」
「ネットで検索もできないんだ。頭ん中にある奴を見よう見まねでやるしかないだろ?あ~コラそこまっすぐ縫わなきゃアタシのと合わなくなるだろ」
「ひーん!」
トレーナーが提案した落下傘作戦。概要はその名の通りの落下傘をして落ちるという算段だった。落下地点予測なども本来ならすべきだが何の情報を得られないならばどうしようもないだろう。何より、先の霧がまた襲ってきて完全敗北を迎える方を避けたかった。
「なぁ…アタシは何すりゃいいんだ…」
「今忙しいからタップはそこでトレーナーさん介護してて!」
「え~」
「ねぇ…俺は…」
「怪我人は安静に!」
「はい…」
気遣いの声をかけるが総ツッコミを食らってしまった。タップは不器用だからとか、トレーナーは怪我をしてるとか、色々2人を心配する気持ちから来るのが半分、もう半分は折角の見せ場なんだしという見栄から来る少女らの可愛い自尊心だった。
何はともあれ、手持無沙汰になってしまった二人は部屋の隅で小さく並んで腰かける。
「…There's no place like home.」
「…ごめんね」
タップのつぶやきにトレーナーが返す。普段の彼女らしからぬしんみりした呟きと、彼女らしい愛に満ちた言葉が心を掻き立てる。離れて不安にさせただろうか。タップもあの霧に巻き込まれ、さらにツタに追われ、恐怖を感じてしまっただろうか。…自身の決断、彼女も乗ってくれたとはいえもう少しいい決断ができたのではなかっただろうか。後悔が言葉の端に漏れ出る。
タップの口が少し緩む。嬉しかった。彼が自身を心配してくれてることが。『家族』の愛を今また感じられて、故郷から離れたこの地でも家族を作れた事実があって、彼女は心からこの賑やかな家族を愛していた。
彼女の手がトレーナーの肩に延び、捕まえる。トレーナーが少し跳ねた。
「ん~や、むしろ嬉しいのさ。アンタらが、家なんだからな」
「…タップ」
肩に回されていた手が、トレーナーの頬をつかむ。ぎゅむっと口がすぼまり、カワハギみたいな面になった彼の顔を見てタップの笑顔が弾けた。
「だからトレーナー!笑え!アンタもアタシの家族なんだ!」
ハッハ~と軽快に笑い飛ばす彼女に釣られてトレーナーの顔も綻びる。彼女の名を呼び、少し勢いをつけて彼女にもたれかかる。突然の甘え行為に驚きながらも彼女は優しく受け止める。温かい体温に身を委ね、押し寄せる疲れを受け入れ、そっと体を休ませる。
その寄りかかりを受け入れタップダンスシチーはトレーナーの体をもう少し、密着させた。
お…お久しぶりです。しばし短編ばっか書いてた…。科学的要素が大変だったんや許して
実はこの話で当初決めてたプロットから完全に逸脱しました。ここからはキャラが成る様に成っていくんでライブ感をお楽しみください。果たして彼女らは無事生き残れるのか!!
次回、多分最終回!!