新・世界樹の迷宮Ⅱ 死ナザル騎士ト永久ノ凱歌   作:b畜農家

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 君は今、子どもに話しかけようとしている。

 群衆は忙しく通り過ぎ、屈強な白髪赤目というけったいな容姿の君など気にも留めていないようだ。

 いきなり名も知らない人間に話しかけられても警戒するだけだろう。君はまず名乗ることにした。

 


 

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 君は、自分はデルミヌスというのだと子どもに告げて、元気づけるつもりでこう喋り出した。

 いきなりであるが、辛くても笑顔な人間はすごくかっこいいと君は考えている。

 五歳の頃、君は孤児院に捨てられた。白い髪と赤い目を怖がられて、本当に自分の子どもかと疑われてのことだ。

 幼い子どもが親に捨てられるというのは殺されるも同然だ。君は当時、悲しみに暮れていた。

 しかしそんな君に、その時一緒だった男の子が親身になって付き合ってくれた。自分だって孤児だというのに、大丈夫だよ、と笑顔を向けてくれたのだ。なんかかっこいいなあ・・・と君は思った。

 

「ひっぐ、う"ぇ"え"・・・ママぁぁ」

 

 で、話し相手の子どもはというと、全く聞いていない。身なりからして迷子だろうか、しゃくりあげ、涙をむちゃくちゃに拭っている。

 そりゃあ、親とはぐれたら心細いはずである。君は鼻をぽりぽり掻き、着物の袖に手を差し込んだ。

 取り出したのは、手のひらに収まるくらいの白いボールが三つ。君は子どもの目線にしゃがみこんで、それをひょいひょいと投げ上げてはキャッチするを繰り返した。

 

 要するにジャグリングだ。泣き疲れた子どもは顔を上げて、腫れぼったい目を丸くした。

 君はちらっと笑うと、親指を突き立てた。

 笑顔のタネは案外どこにでも転がっているものだ。子どもも笑顔になり、指を突き返す。君はそんな子どもにボールを持たせ、彼が拙い手つきでさっきの動きを真似るのを柔らかなまなざしで見下ろしながら、栗色の髪をわしわし撫でた。

 

「アル!アル!」

 

 その時、甲高い声が聞こえてきたかと思うと、栗色の髪を振り乱した若い女が靴を鳴らして二人の間に割り込み、男の子のほそい体をひしっと抱きしめた。

 

「アル!アルフレド!よかった、心配したんだぞ!一人で行っちゃダメだってパパたち言ったろ」

 

 父親が後に続いて、抱き合う母子を見てほっと胸を撫で下ろした。

 視線が君に流れる。

 

「息子を見てくれてありがとうございます。ほらアル、お兄さんにありがとうは?」

「ありがとお!」

 

 君はにこにこしながら、お安い御用だと言った。それから、涙を拭いながら何度も何度も頭を下げる母親にやめてほしいと恥ずかしがった。

 親子は、今度こそしっかりと手を繋いで雑踏に消えていく。その背中を見送った君は、うーんと背伸びをしてあくびを一つ。

 今日もまたいいことをしたぞと息を吐く君のごっつい背中を、

 

「よおっ、デルミヌスじゃんか!」

 

 誰かが、気楽な調子で叩いた。

 子どものように幼いが、大人の寂寥も感じさせる不思議な声色。

 ほっとして振り返る。

 黒髪をざっくり結ったつぶらな瞳の青年が、買い物袋を抱えてこちらを見ていた。

 君はとたん、いたずらっぽい笑顔になって。

 


 

待ったぞ、フラヴィオ

 【親友を待たせるなんてあんまりひどいと思わないか?

 


 

 そう返した。

 

「わりぃ、わりぃ」

 

 こうして、君とフラヴィオの任務明けの買い出しはなごやかに終わった。

 

 

 ミズガルズ図書館。

 かの【グリモア】技術を人々に広めた功労者で、服のシミ落としから古代語まで、ありとあらゆる知識を集める知の殿堂だ。

 君はミズガルズ調査隊の隊員として世界各地を飛び回るエリートの中のエリートである。

 同時に孤児院としての側面も持っており、君とフラヴィオはそこで互いに噛みついたりじゃれあって育った幼馴染の間柄なのだ。

 

 ところで君の目の前にあるこれはミズガルズ学院名物の揚げパイだ。一日二回、タダでもらえる上に腹持ちもよく、日替わりの具材が楽しめる。今日の具材はキノコ&ひき肉と巣入り蜂蜜だと。

 ナイフで切り分けフォークで口に運べば・・・なんだこれはァ~ッ。バターで炒められたキノコのかぐわしさがひき肉の野性味ある肉汁に深みを出している。蜂蜜は口の中でどろりと溶けて、刻み混ぜられた巣が程よいアクセントを加える。

 


 

 【う、美味すぎる・・・♡

揚げパイ Berry Delicious・・・♡

 


 

「よう食うなあ、お前。これで四つ目だ」

 

 先んじて燃料(おやつ)を食べ終わり、お茶を飲んでいたフラヴィオが興味深そうな顔をしてそれを見ていた。

 ここはミズガルズの食堂。なにせ二人はエネルギーみなぎる男の子、昼食だけでは夕食まで保つはずがない。

 

「なあ、デルミヌス。ここ最近食う量増してないか?第二の成長期とかじゃないよな」

 

 フラヴィオはただの食べ盛りにしてはおかしいと思っているようだ。

 なにせここの揚げパイはこってりしていて、レンジャーとして野山を駆け回るフラヴィオでも「二つで充分ですよ」なのである。君はソードマンなので食べる食事の量もものすごいが、それにしても食べる量が多すぎる。

 そんな親友の主張に、君はもっともらしくうなずいた。

 


 

 【どれだけ食べても腹が減ってしょうがないんだ

そのうち自分というサナギを破って何かが羽化するかもしれん

 


 

「いやいやいや、ホラーなこと言うなよ!

 やめろよ?先輩が無理やり読ませてきた【恐怖!蜘蛛男!】みたいにカラダ突き破って化け物がこんにちわするとか」

「おや、ひどいね。【恐怖!蜘蛛男!】はゴシックホラーの頂点だろ?」

ぶぼっ!

 

 フラヴィオはお茶を噴き出した。

 いつもながら神出鬼没のザック先輩は、眼鏡の奥にあるハシバミ色の目を柔和に細めてむせるフラヴィオと彼にハンカチを渡してその背中をさする君を眺めている。

 

ゲェッホガホッ!ぐふっ・・・はあ、はあ、せ、先輩、いるならいると言ってくれなきゃ・・・」

「んふ。いやぁ、君らの反応が面白くてね?

 面白いリアクションをしてくれる後輩はいじりがいがあってかわいいのさ」

「かわいい後輩を思ってるのならもうちょっと配慮ってやつをですねー!」

 

 ザックは上品に笑ってフラヴィオの肩をぽんぽん叩く。

 

「ボクは先に行ってるから、君らも準備をしてくるように」

「はあ・・・へ?」

「それじゃあ」

「いやいやいや!待って待って!なにがどうしてそうなるんですか!?」

「おうい、白衣を掴まないでくれよ。伸びちゃう」

「説明してくださいよー!ほんとにもー!!ほっといたらすぐ置いてけぼりにするんだから!!」

 

 ザックは襟元を正して、こう言った。

 

「教授室に来いって言伝を頼まれたんだよ。教授がボクらに用事があるんだとさ」

「え?またおれ、何か言われるんで?」

「かもね」

 


 

なにかあったらすぐ疑われるフラヴィオに悲しき過去っ・・・!

 【フラヴィオは自分と違って非品行方正だからなー

 


 

「なんでだよ!?そんな過去ないから!おれはもう嘘つきは卒業したってのっ」

「とりあえず、早くおいでね。教授が理由のない遅刻は嫌いだってこと、君ら知ってるでしょ」

「そりゃもちろんですけど、おれ着替えに行ってもいいですか?」

「え、なんで?」

どっかの誰かのせいで盛大にお茶をこぼしたもんでですねッ!!

「あっはっは。そうだったね」

「ったーくー・・・お前は先行って教授の話聞きに行けよ、デルミヌス」

 

 君は頷いて、食堂を後にした。

 


 

 どこに行きますか?

  自室 

  中庭 

 教授室 

  教室 

  ブリーフィング室 

 

 


 

「やあ、デルミヌス。元気そうでよかったよかった。

 ザックも時間通り彼を連れてきてくれたね、結構。フラヴィオは・・・ああ、着替えかね。それなら遅刻は不問にしてしんぜよう」

 

 キタザト教授はにこやかに来客を出迎えた。薄く開けた窓から若草の風。上等なマホガニーのテーブルには、熱々の紅茶が四人分並んでいる。

 かいつまんだ説明をさせてもらうが、彼は君とフラヴィオの面倒をその逞しい両手で引き受けてくれた恩人で、立場を鼻にかけた態度もしない謙虚な人だ。怒るとものすごく怖いので特にフラヴィオは彼に苦手意識を持っているが、君はむしろ教授を親のように慕っている。

 

「さて、私は無駄な時間が嫌いだからさっそく本題に移ろうか。

 ・・・デルミヌス、君はカレドニア公国のことは知っているかね?」

 

 熱い紅茶で唇を湿らせて、教授はこう切り出した。

 君は___

 


 

 【当然知っている

何のことやらとしらばっくれる】 

 


 

「ははは、デルミヌスは減点だね。どれ、優秀なザック君は彼に説明を」

「こういう場面でふざけるのが君の悪い癖だってボクは思うよ?

 カレドニア公国は製鉄技術で知られる小国ですね。それでいて、独自の文化を王族が連綿と受け継いでいるとも。もしかして、教授の話もそれに関係して?」

「さすが、察しがいいね。そう、カレドニアは百年に一度、王族の第一公女が【印の公女】として、同盟関係にある隣国ハイ・ラガードとの末永い平和と繁栄を祈る儀式を執り行うのだよ。優れた隊員である君には、それの護衛を依頼したい」

 

 穏やかな日光が差し込む部屋に、薄板のような緊張が張り始めた。

 君は事の次第を飲み込み、乾いた舌を唾で潤した。

 その表情を見た教授は、鷹揚にもっともらしく首を振った。

 

「・・・荷が勝ちすぎてると思っているだろうね?私も“調査隊”隊員に公女の“護衛”を任せるというのはいささかおかしいと考えているよ。

 しかしこれは、公国側たっての頼み事なのだ」

 


 

頼み事?

 【自分の魅力が有り余り過ぎたとか?

 


 

「ああ、これは十年前のことなのだがね。カレドニアの宰相がここ、ミズガルズ孤児院の視察に来たことがある。

 その時剣の稽古をしている・・・ああ、八歳だったころの君の太刀筋に、これはと光るものを見出したようでね。『もしも彼が剣士として大成したのなら、ぜひ公女の護衛につけさせてほしい』と言ってくれたのだ。・・・フラヴィオ!いつまで扉の前で待っているのだね」

 

 不意に教授が大声を上げた。あわただしくノブが回って、気まずそうな笑みを顔に貼り付けたフラヴィオが入って来た。

 

「ははは~。いやぁ、別に聞き耳立ててたわけじゃないんですよ?その~・・・タイミングが」

「はいはい、君も座りなさい。・・・・・・で、だ。当然一人で護衛などというナンセンスな話ではない。こちらからは君と特に連携の取れているフラヴィオ、医術に精通するザック君を、向こうからも国お抱えの錬金術師(アルケミスト)聖騎士(パラディン)巫術師(ドクトルマグス)の三名を派遣する取り決めになっているよ。

 公女を含めれば七名で護衛任務を行うことになるね」

 

 ふんむ・・・

 君は腕組みをして、ソファに深く腰掛けた。

 

 サバイバルに長けたフラヴィオ、ザックの医術師(メディック)としての腕は言わずもがな。魔物絡みの荒事にアルケミストは必須だろうし、パラディンは当然護衛に必要だ。ドクトルマグスは何度か組んだことがあるので、その便利さはよく知っている。そんな面子なら、聞くからに戦いに向いてなさそうな公女の護衛も楽ちんだろう。

 しかしもう一つ訊かねばならないことがある。公女を護る重要性に対する、たった六名という護衛人数の異様な少なさだ。君はそれを口にした。

 

「そうだね、通常なら三桁単位の大人数で任務に挑むのが当然だ。

 しかしカレドニアでは代々ごく限られた人数で儀式を行うのが通例とされていて、六名はむしろ多い方なのだよ。ううむ、こういうのは悪しき風習と言うべきだが、“譲歩”に“譲歩”を繰り返してここまで人数を増やしたのだというのを知っておいてほしいね」

「教授自らがですか?」

「まさか、私にそんな力はない。上層部が『調査隊隊員を護衛任務につけるのは構わないが、この人数の少なさはおかしい』と一丸になって声を上げてくれたおかげだよ」

 

 それは当然だ。

 納得を紅茶で飲み下した君の横で、フラヴィオが渋い顔をした。

 

「それにしても、相談の一つもなしにそんな話を進めるなんていけずな教授ですね。

 教授の一存で断れるわけないのはわかってますし、コイツはそんなこと気にしないのわかってますけれど、知らないところでそんな話が進んでいたなんておれだったらちょっぴり怒ってる」

 

 君は、失礼だ、そんなこと言うべきじゃないと口にしたが、フラヴィオは退かなかった。

 

「いーや!お前が怒らないからおれが怒るの!

 まったくお前ってやつは子どものころから大人の言うことをハイわかりましたって聞きやがって」

 

 ぷりぷりしながら君へ何度目かの説教を始めたフラヴィオを見ながら、教授は苦笑いした。

 

「私も同じ気持ちだとも。

 上層部側は『エリート中のエリートである調査隊』から『公女護衛を成功させた人材』を輩出して、ミズガルズの名をより上げたいのだろうね。

 それが叶うのなら、彼らは()()()()()()()こともいとわないだろうさ」

 


 

 どこに行きますか?

 自室 

  中庭 

  教授室 

  教室 

  ブリーフィング室 

 

 


 

 出発は三日後ということで、君は自室で荷物を準備していた。

 隊の中で一番大柄な君は、必然的に大荷物を背負う役割にある。君のソードマンとしての鍛錬は、言ってしまえばたくさんの荷物を背負っていても機敏に動けるように

 

「そのハンカチ、そろそろ買い換えたほうがいいんじゃないのかな?」





【シンセカコソコソどうでもいい話】

 キタザト教授はエトリアに医院を開いているキタザキ先生のいとこ。
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