新・世界樹の迷宮Ⅱ 死ナザル騎士ト永久ノ凱歌   作:b畜農家

2 / 2


 


 

 どこに行きますか?

 自室 

  中庭 

  教授室 

  教室 

  ブリーフィング室 

 


 

 そして一ヶ月後、君は自室で荷物を準備していた。

 隊の中で一番大柄な君は、必然的に大荷物を背負う役割にある。言ってしまえば、君のソードマンとしての訓練の大半は、たくさんの荷物を背負っていても機敏に動けるようにするためにあてられていた。

 

 あの後聞いた話、公女護衛の支援費は国が負担してくれるそうだ。それは当たり前のことだ。

 なんでも公女が儀式を行う場所__【ギンヌンガ遺跡】は魔物も出る上深度がかなりあるらしいので、となれば必然的に泊まり込みになるだろうし食料を多めに持ち込むべきだろう。

 

 着替えや下着、手入れ道具はもちろんのこと、鍋やフライパンも持ち込むとなるとなかなか重量がある。

 しかし、君は荷物が増えるのは案外嫌いではなかった。荷造りは楽しいし、荷物(これ)が軽いと落ち着かないあたり君は相当末期かもしれない。

 

「デルミヌス、入っていいかい?」

 

 ドアがノックされるので君が応じると、いつも通りの恰好をしたザックが赤毛を揺らして部屋に入った。

 荷造りが済んだので暇つぶしに来たのだという彼の言葉に、君は困って頭をかいた。

 


 

 【こんなにモテたら体がもたないですね

フラヴィオは?

 


 

「フラヴィオくんはチビスケたちに手いっぱいで荷造りができないってぼやいていたよ。

 ふふ、子どもに好かれるのは才能だね」

 

 フラヴィオは子どもによく好かれる。泣いてる子どもを見かけると、その子がすっかり自分を信頼してくれるようになるまで傍にいたくなるらしい。

 きっと、いつも通り子どもたちに泣きながらすがりつかれて困り果ててることだろうと考えるとほっこりした。

 

 そういうことを考えながらも、荷物を詰める手は止めず。最後にチェックリストが埋まったメモを入れると、君はいつも持っているハンカチに香水をふりかけ、丁寧に畳んでポケットにしまった。薔薇の香りがふわりと立つ。

 

「そのハンカチ、相当大事なんだね」

 

 ザックが言う。

 君は黙ってはにかんだ。

 子どもの頃よく遊んだ女の子との淡い思い出が詰まったハンカチだなど恥ずかしすぎて口が裂けても言えない。

 

「ひょっとして、子どものころ遊んだ誰かに買ってもらった大事なもの・・・とか?

 おや、図星かな」

 

 ひっくり返った君に、ザックはくすくす笑いかけた。

 


 

ひょっとしてロナン・ドイルをおじいちゃんに持っていたり?

 【先輩マジDetective・・・!

 


 

「うーん、もしかしたらそうかもね。はは、メディックは廃業して今からでも探偵を目指そうかなあ。

 それじゃボクはそろそろ戻るよ。君も、仲良しの子どもに行ってきますくらい言っておくんだよ」

 

 ザックのいなくなったその後、君はリュックのバランスがおかしくないか何度か確かめ、ザックに続いた。

 


 

 どこに行きますか?

  自室 

  中庭 

  教授室 

  教室 

  ブリーフィング室 

 ミズガルズ出入り口門  New!

 


 

「ロズーシャ、そんなことしたってデルミヌスは行ってしまうよ」

 

 子どもたちを伴って見送りに来た教授は、君の太ももにコアラめいて抱き着いている少女を説得していた。

 このプラチナブロンドの女の子、ロズーシャはみんなの中で最年少であり、君たちが任務で出かけようとするたび駄々をこねて泣き喚くのだ。

 

 今日はわめき散らすのではなく、黙って君の膝にすがりついて必死にすすり泣きをこらえている。そういう態度を取られると君の胸は痛み、後ろ髪を引かれてしまう。

 年長組は慣れたもので見送りにも来てくれないが、年少組は君たちが任務で出かけるとなるといつもこうだ。ロズーシャの顔は見えないが、しゃくりあげるたび肩は何度も跳ね、今にもダムが決壊する寸前に思えて、下手な発言は憚られた。

 

「教授の言う通りさ。

 行かないでってぐずったり、そうやって抱き着いて困らせるより、いってらっしゃいを言ってあげた方が生産性があっていいと思うけどね」

あの~、ザック先輩?そういうのはもっとこうオブラートに包んでですね

 

 フラヴィオがしなびたナスビのような顔をして言った。

 君が声をかけると、彼女は顔を引き離した。涙のシミができたズボンに鼻水がてれーっとアーチを作る。

 


 

 【黙って頭を撫でる

毎日手紙を出すと小指を出す

 


 

 ロズーシャは(はな)をこすり、こすり、君のごつい小指にちいちゃな小指をそっと絡めた。

 

「・・・ローズ。私からもデルミヌスに話があるから、いいかな?」

 

 教授は神妙な顔をして君を見てくる。

 


 

愛の告白、始まります?

 【まるで今生の別れのようですね

 


 

「ぷっ。やめたまえよ、もう。

 ・・・デルミヌス、今回の任務は君にとって非常に難しいものになるだろう。

 だが、神様は人に乗り越えられない試練を与えたりはしない。それどころか、いくらかの逃げ道を用意してくれるという。

 辛くなったら逃げていい、だなんて軽々しく言うことはできないが、しかし苦しくなったらいくらでも愚痴を言っていいのだからね。

 君は・・・体に気を付けて。昔から辛さ苦しさを飲み込む悪い癖があるのだから、特にさっき言った言葉を心のどこかに留め置いてほしいな」

 

 どうして教授はこんなに真面目な顔をしてわかりきったことを言ってくるのだろう。

 調査隊の任務は、いつも死んでもおかしくない荒事が多かったが、君たちを本当の子どものように思っていると公言してはばからない教授は、君たちが帰ってくるたび固い握手と熱いコーヒーで迎えてくれた。その気持ちはうれしいし、人間歳を取れば心配性になっていくのはわかるが、しかしここまで神妙な顔をされると少しおかしくなってしまう。

 珍しく教授はむっとした。

 

「真面目に受け取ってないね?ああ悲しい。私は君を心配して言っているというのに」

 


 

心配しなくても、五体満足で帰ってきますって

 【教授こそ、甘いものの摂りすぎは駄目ですよ

 


 

「・・・そうだね。君は昔から、頑丈さが取り柄だったからね」

 

 教授は悲し気に言った。

 フラヴィオが君の肩に手を置いて、そろそろ、と耳打ちする。

 君は首を振って、馬車に乗り込んだ。

 目元を赤くした子どもたちに混じって手を振る教授に手を振り返しながら、君は馬車に揺られてミズガルズを後にした。

 

「っかし、教授も筋金入りのお前のこと大好き人間だよなー。

 あんなラブコールをかましまくってたら一周回ってうらやましくなるぜ」

 

 君に睨みつけられて、フラヴィオはケタケタ笑った。

 

「じょーだんじょーだん!どうせ好かれるなら金髪美人で胸のでかいお姉さんのほうがよっぽどいいもんな」

「ははあ」

 

 ザックがにやりと笑った。「君、今までエッチしたことなかったでしょ」

 

「な、なんでそう思うんです・・・?てか、先輩はやったことがあるような口ぶり・・・」

「そうだよねー。怖いよねー。痴情のもつれとかねー」

「ねえ!したことあるんですか?ないんですか?」

「うーん、どうだろうね?君の想像にお任せするよ」

いいんですか!?想像しちゃいますよ色々!?きょいきょいとかいんぐりもんぐりとか色々!!

 


 

 【やめろよお前マジー!

フケツよ、フラヴィオちゃんッ!

 


 

 ゲラゲラ笑いながら君は叫んだ。

 男子同士だからこその救いようがない猥談。

 三人は誉れ高きエリートであったが、同時にただの男の子でもあった。

 今この瞬間、君たちはどこにでもいるただの少年に戻っていた。

 

 _____それが、いつか永遠に無くなってしまう青春であるということを知らないままに。

 

 

 最後のひと揺れと共に、馬車は共用馬繋場(ばけいじょう)に停まった。

 さすがに疲労感を隠せない顔をした御者が飛び降りて、繋ぎ石に手綱を結び付けてから馬車の扉を開けた。

 

「ふー、長旅だった」

 

 フラヴィオは首をもみながら言った。

 

「ま、普段の行軍とかに比べりゃはるかにマシだけどな」

「デスクワーク職人のボクからしたら、尻が痛くなるのもふくらはぎがパンパンになるのも同じに思えるけどねえ」

 

 ザックは眼鏡を拭きながら、くすんだ顔で口角を歪めた。

 君はさっさと馬車から下りて、冷たく澄み渡った青空に向かって思いっきり腕を伸ばしていた。

 

 白い壁に緑の屋根の家々が取り囲む、世界有数の大樹【世界樹】の、どっしりとして雄大な佇まい。

 巨人の腕を思わせる立派な幹から生える枝葉はまるで空を覆う天蓋のようで、赤ん坊の手のひらのような葉の隙間からは陽の光がはらはらと町並みに光のかけらを落としている。

 これは、世界樹が擁する【迷宮】を抜きにしても人々が足しげく訪れるわけである。自然信仰が誕生するのもうなずける。

 少し離れたところからフラヴィオが呼んでいる。

 君は返事をすると、リュックを背負いなおしてその後についていった。

 


 

 どこに行きますか?

  ??? 

  ??? 

      

  ??? 

  ??? 

 ラガード公宮 

  樹海入り口 

 


 

 関所で鑑札をもらった。一枚につき二十エンだ。

 こうしないと、不正する人間が後を絶たないらしい。

 店を利用したりするのに必要だから無くさないよう念を押されたそのあとは、看板や人に道を聞きつつ、カレドニアチームのいる大公宮を目指していく。

 大公宮が近づいてくるにつれ、武器屋や酒場、宿屋が多くなっていく。まだ昼間ということもあってか、あちこちで呼び込みの声や何かが焼けるいい匂いがする。

 それに比例するように、ピカピカの鎧を着た少年やへそ出しの赤毛の剣士、娼婦のような露出の女性と、見るからに冒険者という装いの人とすれ違うのが多くなっていった。

 ここが、ハイ・ラガード。

 世界でも有数の、世界樹で栄える国。

 

 大公宮に着いた。

 一番軽装のザックが紹介状を持って番兵に話しかける。

 番兵の顔がほっと緩んだ。

 

「ミズガルズの方々ですね?お待ちしておりました。

 公女様がたはすでに中で待機していますので、お通りください。

 あ・・・一応注意しておきますが、宮中ではお静かにお願いします」

 

 大公宮の中は、しんと冷えて静かだった。誰かが小走りになっている抑えた足音や、ひそひそと立てる声がそれを助長するようだった。

 君が見事な石造りの建築に見惚れながら歩いていると、つま先をちょんとつつかれる。

 

「あんまりきょろきょろしてると田舎ッぺ丸出しだぞ、デルミヌスよ」

 


 

 【だって、フラヴィオ・・・

こんなに立派だと気になるのも当たり前だと思わないか?

 


 

「ま、ごもっともだけどさ。おれだって気になるし」

「フラヴィオ、デルミヌス、おしゃべりはその辺にした方がいいんじゃないかな」

 

 ザックの忠告に、君たちはハッとして背筋を正した。

 豪奢な服を着たいかにも重鎮らしき老人を相手に、小さな声であれこれと喋っている、三人の冒険者に囲まれた少女がいる。今しがた、こちらに気づいて振り向いた。

 彼女は、まだ十六歳くらいに見える若い娘だった。桃色のドレスにも鎧にも見える衣装を着こみ、そこから伸びる手足は小鹿のように華奢だ。

 

____時が止まったように思えた。

 それは少女の深い紫水晶の瞳と目が合ったからだろうか。

 

「・・・・・・ス、・・・・・・ミヌス、おい、デルミヌス?」

 

 頭をはたかれ、君は我に返った。

 無精ひげの目立つ聖騎士らしい男が、うろんな目をして君を見ている。その横で、年若い巫術師が眼鏡の奥で目を細めていた。

 黒髪の錬金術師が、こちらに歩み寄って握手を求めてきた。

 

「遠路はるばる、ご苦労様だ。

 我々はあなた方と組ませてもらうことになるカレドニアチームだ」

「ミズガルズ調査隊のザックです。今回はよろしく頼みます」

「フラヴィオと言います。よろしくお願いします」

 


 

ミズガルズのデルミヌス。不束者ながら護衛任務に尽力させてもらいます

 【美しい・・・

 


 

「まあ、それではあなたがたがクロード様たちのように私を守ってくださる方々なのですね?

 初めまして、私はアリアンナ・カレドニア。カレドニアの第一公女にして当代の【印の公女】です」

「・・・クロエ、クロエ。ベル、自己紹介」

「アイサー。俺ぁパラディンのベルトラン。ま、よろしくな?」

 

 けだるげにベルトランは言った。クロードがぎろっと赤い目を剥いて頭一つ分大柄な彼を睨む。

 

「・・・・・・ベルトラン、そんな適当な自己紹介はやめろ。

 お前はもう少し、誉れ高き聖騎士としての自覚を持て」

「誉れはとっくに死んでんだよ。あー、そこのでっかい少年。俺は守るタイプのソードマンみたいなもんだから、そのへん気楽に頼むわぁ」

「そんなソードマン、いない」

「俺がそうなんだからいるじゃねえかよ、クロエ」

「そうなのですか、クロード?世の中は広いですね」

「いやいやいや、そうかー?ほんとにそうかー?」

「彼を参考にしてはお終いです、我が君」

「・・・ウォッホン。六人とも、話はそこまでにしてもらえるかの?」

 

 老人が大仰に咳をして会話の流れを変えた。

 

「儂はここ、大公宮の按察大臣を務めさせてもらっておるダンフォードじゃ。

 みなのもの、無事合流できたようだの。なによりなにより。

 さっそく【ギンヌンガ】に赴いてもらいたいものじゃが・・・その前にこなしてほしいミッションがある」

 

 君は首を傾げ、続きを促した。

 

「まず、一度樹海へ登り、そこにいる衛士から札を受け取ってほしいのじゃ。

 これは事故が頻発する樹海で、おぬしらの連携関係を構築するために必要なことじゃ。

 無論、公女殿の身柄を保障するために儂らも全面的な支援をさせてもらうぞい」

「それに対して反論はありませんが」

 

 ザックは聞いた。

 

「支援とは、具体的に何を言うのですか?」

「ウム。支援は国が信頼を置く店舗への伝手、宿泊所の提供、非常時の資金援助である」

 

 フラヴィオが渋い顔をしたのを見て、ダンフォードは、

 

「・・・・・・儂もいち公国の公女を支援するにしてはずいぶん控えめな内容であるというのは自覚しておる。そのあたり、言い訳をする気はないわい」

「私がそう進言したのです。支援は最小限でいいと」

 

 アリアンナが言った。

 フラヴィオが渋面をしたまま彼女に視線を送る。

 

「一口に支援と言っても、無から有が生まれるはずがありません。

 なにより手取り足取りでは、いざというとき自分で立つのもままならないでしょう。

 ですから、そうしてほしいと」

 

 フラヴィオはなにか言おうとしたが、口を閉じた。

 その一連のしぐさを腕組みして眺めていたベルトランが、ぽつりと。

 

「高潔なのはいいことだが、そういう考えはもっと多角的に見てから決断するべきだとオッサン思うがねぇ」

 

 そんなことを言った。

 アリアンナは不思議そうな顔をした。クロードは気まずそうだ。

 クロエは帽子を直している。

 君はこの何とも言えない空気感を打破すべく、なにか助け舟を出してやってもいい。

 


 

 【・・・そういう姿勢は間違ってはいないと思いますよ

とりあえずみんな、頑張りましょう!

 


 

「・・・そう。リュックの人の言う通り。

 ないものねだってもしょうがないから、あるもので頑張ろう」

 

 おー、とクロエは拳を突き上げる。

 他の六人は顔を見合わせて、一人また一人とそれに続いた。

 





【クソほどどうでもいいセカダンコソコソ話】
 これはちょいネタバレになるんですが(要注意事項)
 ベルトランの立場的にカレドニアかハイ・ラガードに拘束されていてもしょうがないだろうなぁ・・・って思うの。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。