涸れ井戸に雫   作:るりつばき荘

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【10】ホットなギフト

 クリスマス休暇に入ると、ホグワーツ内は閑散としていた。

 白い雪の降り積もる景色に紛れ、ボルドーカラーのシルエットが校庭を横切る。

 一歩、一歩と足を進めるたびに、手に握った釣り竿の先が寂しげに揺れた。寒さと徒労に堪らず溜息をつくと、シルエットの持ち主こと初野文音は、とぼとぼとスリザリン寮へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 休暇前、最後の授業が終わるとスリザリン寮では「ちょっとしたパーティー」が開かれた。

 屋敷しもべ妖精に作らせた食事が並び、男子生徒が周りを驚かせてやろうとクラッカーを打ち鳴らす。賑やかな光景を尻目に、文音は隅で監督生の話に拍手を入れたり、ダフネ・グリーングラスやトレイシー・デイビスとクリスマスの予定を語りながら過ごした。

 

「パパが『ゾンコの悪戯専門店』の飴のせいで1か月もしゃっくりが続いたことがあってね。だからその年以降、我が家のクリスマスは飴禁止なんだ。ダフネやフミネはクリスマスは何をするの?」

「私も家に帰って家族と一緒にクリスマスを過ごす予定よ。一つ下の妹が、手紙を書くたびにホグワーツのことを聞いてくるの。帰ったらずっと質問攻めにされそうだわ」

「そうなんだ。二人とも、楽しんでね。ちなみに私はホグワーツに残ります」

「えっ、そうなの!?」

「父さんが仕事で忙しいから、帰っても会えないんだ」

 

 文音が帰省しないことを告げると、グリーングラスとデイビスは同情の眼差しを彼女へ送った。

 ホグワーツに残るのは嘘ではない。

 編入してきた経緯が経緯なのだ。帰省を希望する筋合いはないし、願い出たところでその意思を喜ぶ者はいないだろう。

 そもそもマホウトコロを退学してすぐに、醜聞が広まるのを恐れた親族からマグル界の片隅に追いやられた身だ。最早、日本に帰る場所はない。

 それに、実際に文音の父親は仕事で常に家を空けていた男である。もし今年、家に帰ったところで会えないのは間違いないだろう。

 よって彼女らに教えた理由も、秘密を隠したままではあるが嘘は言っていない。

 

「でも来年のクリスマスは帰るつもりだよ。年越しも夜までずっと起きて、朝になったら箒に乗って初日の出を見に行くんだ」

 

 二人の視線を受け、文音は努めて明るく振舞った。笑顔を浮かべ来年の予定を語る姿に、グリーングラスとデイビスも「それいいね!」と笑う。

 しかし来年になったところで、文音のスケジュール帳にそんな予定など書き足されやしない。

 

(今のは完全な嘘だなあ。あーあ、また嘘ついちゃったよ)

 

 これも、心配する二人を安心させるため。

 とは言え、嘘八百を並べる己に文音は虚しさを覚えた。同時に、入学以降何度ついたか分からない嘘に罪悪感も募るばかりだ。

 日本に帰ってクリスマスを楽しく過ごす機会は、今後あるのだろうか。

 

 

 翌日になると、帰省する予定の生徒たちは慌ただしく荷物を引っ張り、ホグワーツをあとにした。

 その後ろ姿に手を振りながら、途端に静まり返った談話室に立ち尽くす。今年のクリスマス休暇でホグワーツに残るスリザリン生は、文音一人だけであった。

 

(……やることがない)

 

 長い休暇の始まりだ。勉強に専念しようがまだまだ時間に空きがある。

 文音は休暇が始まってすぐ、マクゴナガルに社会奉仕活動を願い出た。

 

「……わかりました。あなたが希望するなら、休暇中も社会奉仕活動のスケジュールを組んでおきましょう」

「ありがとうございます」

 

 マクゴナガルに深々と頭を下げると、文音は新たに作られたスケジュール表を眺めた。今は授業もないのに、ホグワーツの教師たちも家に帰らず職場で過ごす予定のようだ。

 クリスマス・イヴの日も、文音は校舎内の細々とした掃除や雑用をこなした。

 

 ふくろう小屋に餌を入れていると、猛禽類のくりくりとした瞳が彼女に向けられる。この後、ふくろう達は外へ飛び立ち、託されたクリスマスプレゼントを飼い主のもとまで運ぶ役目に赴くのだ。

 文音はふくろうを飼った経験はないが、実家では巨大なウミツバメを育てていた。数年前、マホウトコロ入学にあわせ、通学手段として飼い始めた動物である。

 小さかった文音は、そのウミツバメをトンコツと名づけ可愛がっていた。名前の由来は、もちろんラーメンからである。しかし使用人の夫婦や兄より、「生き物の名前をふざけてつけちゃいけない」と後々になってやんわり注意された。当時ひょうきんだった子供が安易にウケを狙ったのだと、大人たちはすぐに見抜いていたのだった。

 

 マグル界に住むようになっても、使用人夫婦とトンコツは文音についてきてくれた。純血の名門一族に生まれたにも関わらず、皮肉にも血の繋がらない者だけが文音を見放さなかったのである。

 

 

 

 クリスマス当日を迎えると、談話室には文音宛てに複数のクリスマス・カードが届いていた。

 差出人はダフネ・グリーングラスとトレイシー・デイビス、そしてセドリック・ディゴリーからだった。丁度数日前、セドリックにもホグワーツに残ることを伝えていたが、しっかり覚えていてくれたようだ。

 セドリックはカードに添えて、七色の砂糖羽根ペンの詰め合わせを同封していた。

 

(うわー丁寧だなー。セドリックみたいな人間が、社会で誰とでも上手くやっていけるタイプになるんだな)

 

 一日に数分間だけの、ほんの少しの交流しかない人間にもカードを送る律儀な少年。

 文音は砂糖羽ペンを咥えながらセドリックに感心した。

 

 だが、文音のクリスマスはこれで終わりだった。

 三通のクリスマス・カードのメッセージを読み、砂糖羽ペンを舐めつくすと目の前にはもう何も残っていない。

 僅かでも、贈り物があっただけで幸いである。

 少しばかりの楽しい時間を切り上げると、文音は校庭の雪かきに励むべくボルドーカラーのコートを羽織った。

 

 

 相変わらず冬のホグワーツは寒い。

 屋外は冷気で覆いつくされ、少しでも風が吹くとぶるぶると身が震えるが、雪かきであくせくと動いていると徐々に暑くなっていった。

 スコップに詰め込んだ雪を捨てによろよろと足を踏み出すと、少し先から賑やかな声が聞こえた。

 塀の角から覗くと、ハリー・ポッターたちが雪合戦をして遊んでいた。彼を含め五人の少年がせっせと雪玉をつくっている。

 その中に、以前自分を揶揄おうと声をかけた双子の姿を見つけて文音は眉を寄せた。ロン・ウィーズリーやもう一人の少年とお揃いの赤毛だ。おそらく、彼らはロン・ウィーズリーの兄弟だろう。

 

 雪かきをしていた手がぴたりと止まり、文音の目は彼らが遊ぶ姿に釘付けとなった。

 ポッターらも文音と同じように、家には帰らずホグワーツで過ごしていた。だが、彼女と違って和気藹々と日々を楽しんでいる。

 

 

 

『パパが『ゾンコの悪戯専門店』の飴のせいで1か月もしゃっくりが続いたことがあってね。だからその年以降、我が家のクリスマスは飴禁止なんだ』

『私も家に帰って家族と一緒にクリスマスを過ごす予定よ。一つ下の妹が、手紙を書くたびにホグワーツのことを聞いてくるの。帰ったらずっと質問攻めにされそうだわ』

 

 

 帰省した同級生たちも、今頃楽しいひとときを過ごしていることだろう。

 

「……」

 

 文音は黙ったまま、スコップを握りしめた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「ほら、これが釣竿と毛針だ。餌はこのブリキの中だ。だけど、おまえさん……本当に釣りをするつもりか?グレイリングすら釣れるか分からんぞ、それに……」

「ありがとうございます。でも、まずはやってみます」

 

 やめるよう強くは引き留めないが、ハグリッドは何度も文音に尋ねながら釣り具を渡した。

 道具を受け取り礼をすると、文音はそのまま黒い湖へと目指す。

 

 クリスマスから二日後、文音はハグリッドに頼み込んで釣り道具を借りた。目的はもちろん、釣りをするためだ。

 ポッターたちが雪合戦で遊ぶ光景を見た翌日、文音は寮に帰り色々な暇つぶしを探しては取り組んだ。

 社会奉仕活動の時間以外に、勉強や編み物、『カナミの魔女通信』を読み返したり、厨房で屋敷しもべ妖精に叫ばれる中で一からビーフシチューを作ったり。

 そしてさらに一日後には、釣りをしようと思い立ったのである。

 

 釣り竿とブリキのバケツが歩くたびにガチャンと音が立つ。降り積もった雪を踏む音も重なり、少々騒がしいアンサンブルとなった。

 昨日は様々なことに手を出したが、折角なので外に出る遊びにも挑戦しようと考えた。

 一人で黙々と釣りに臨むつもりだが、文音が釣りをしたのは過去に一度だけだ。使用人夫婦に連れられてやってきた川で初めて釣り竿を持ったが、獲物は空き缶だけ。ろくな魚を釣り上げた記憶はない。

 それでも意気揚々と出向いたのは、釣りが屋外に出られ、周囲を気にせず一人でも行える暇つぶしからだった。

 

 

 しかし、ホグワーツに雪が降り積もっている点から、文音は察するべきだったのだ。

 黒い湖の表面は凍りつき、魚釣りなどできる様子もなかった。

 

「……」

 

 湖に近づき、凍った水面を強めに叩いてみる。氷の層は厚く、叩き割って釣竿を垂らすにも大きな労力を伴うことを物語っていた。さらに、竿を沈めたところでまともな獲物が手に入るかも分からない。

 

(私……なにやってんだか。しょーもない)

 

 暫く経つと、文音は諦めてハグリッドのもとへ釣り具を返しに行った。

 

 

 

 

 夜になり、教師やポッターたちなどの居残り生が夕食を終え大広間を去ったあと、文音はひとりで遅めの食事をとった。

 クリスマスを過ぎた彼女の献立は、ビーフシチューと紅茶のパウンドケーキだ。先日、暇つぶしとして厨房にこもり自分で料理したメニューである。

 指導役もいないままビーフシチューを作ったが、日頃から屋敷しもべ妖精の調理を見てきたのもあって、悪くない味だった。もっとも、ドラコ・マルフォイであればまたしても「安っぽい味」と評価しそうだが。

 パウンドケーキには、ホイップクリームを沢山付け足して一つずつ口に入れる。今はクリスマス・シーズンなので、豪勢にしたって罰は当たらない。

 

 料理はそこそこイケる味でよかった、と文音は咀嚼しながらぼんやりと考えた。あと数日で年越しを迎えれば、いよいよクリスマスの輪郭も消えていくだろう。

 

 ハロウィーンの時は大した盛り上がりのない日本魔法界だが、クリスマスであればイギリス同様世間は賑わいをみせる。

 実家にいた頃は、使用人夫婦が手料理を振る舞い、帰省した光も揃って食卓を囲んでいた。

 

 

「……もういいや。お腹いっぱい。ごちそうさまでした」

 

 完食しないまま、文音は夕食を終えた。作りすぎてしまったビーフシチューとケーキは、まだ鍋と皿の上に残っている。

 あとは厨房に持ち帰って片付けなければ。

 文音が椅子から立ち上がろうとしたとき、不意に声がかかった。

 

「おや。ごきげんようフミネ。少し遅い夕食のようじゃな」

「!……こんばんは。ご無沙汰してます」

 

 首をぐりんっと動かすと、すぐそばにアルバス・ダンブルドアが立っていた。

 ホグワーツの校長という、忙しい立場にある彼と二人きりで会うのは、これで二回目だ。日々、社会奉仕活動で校舎内の至る所をうろついていても、彼の姿を見かけることはなかった。

 

 ――どうしてここに、彼がいるのだろう。

 思わぬ遭遇に目を丸くし、椅子から立ち上がり頭を下げる文音を、ダンブルドアは「クリスマス休暇じゃ。お祝いというのは無礼講こそがルールじゃよ」と制す。

 その言葉に文音がそろりと頭を上げると、ダンブルドアはテーブルに置かれている余った料理に目をやった。

 

「おお。これは、なんとも豪華なディナーじゃな。わしの腹の虫が騒ぐ前に、きみに耳当てを着けさせるべきだった――よかったら、頂いても?」

「へっ!?あの、これはしもべ妖精じゃなくて私が作ったんです。先生のお口に合わないかも……」

「ならば尚更、興味深いのう。それにわしは占い学の先生じゃないが、食べる前から分かっているよ。この御馳走は美味しい、とな」

 

 不安を露わにして忠告する文音をよそに、ダンブルドアは完全に彼女の作った料理を食べるつもりであった。

 「本当にいいんですか?」と何度も念を押す文音の声をかわし、彼女に同席の許可を得ると髭をふわりと揺らし座る。

 彼が杖を振ると、空いた皿が勝手に動き鍋からビーフシチューをよそった。

 瞬く間に、盛り付けされた食事が彼の前に置かれる。

 ダンブルドアはスプーンを手に取り、優雅に口元まで運ぶと目を丸くして賞賛した。

 

「やはり、思った通りじゃ!ビーフがごろごろ入っていて、実に良い味じゃ。ビーフシチューは、ビーフが多く入っていればいるほど絶品になるからのう」

「ありがとう、ございます。でも本当に大丈夫ですか、『安っぽい味』じゃないですか?」

 

 ダンブルドアの言葉を疑うように聞き返しながらも、文音は安堵した。

 

 ――彼は夕食をとるためだけに、ここに来たのだろうか?

 そしてもう一度、答えを見つけられぬままの疑問が胸の中で燻る。

 この遭遇を単なる偶然で済ますのも何だか引っかかる。自分に接触した意図があるのではないかと、文音は彼のスプーンを握っている手に目を落とす。

 暫くし、料理を完食したダンブルドアはナプキンをテーブルの上へ戻すと口を開いた。

 

「いやあ、実に美味しかった。ありがとう、フミネ」

「いいえ……本当にこんな物しか出せずに、申し訳ないぐらいです」

「ちょっとした旅行から帰ってきたばかりで、それはそれは腹が減っていたからのう。渡りに船じゃった」

「旅行ですか、いいですね。どちらに行かれたんですか?」

「海の向こう――日本に行っておったよ」

 

 いやあ日本のコタツという道具は実に魅惑的だった、と朗らかに思い出を語るダンブルドアに対して、文音は固まった。

 日本に、行っていたのか。自分の故郷に。

 

 丁度ここ最近、故郷での記憶を振り返る毎日を過ごしていた文音にとって、ダンブルドアの出す話題は彼女の心を刺激するものであった。

 一体なぜ、日本に行っていたのか。

 文音が声に出すよりも早く、ダンブルドアは重ねて告げた。

 

「きみの育ての親にも会った。フクギ夫妻は、元気そうにしていたよ」

「!」

 

 幼い頃から我が家で働く使用人夫婦の名前に、今度こそ文音の心臓はうるさく拍動した。

 福木(ふくぎ)とは、常に家を不在にしていた父や兄に代わり、文音の生家の家事全般を担っていた使用人夫妻である。夫のほうの矢津雄(やつお)はきっぷの良い人柄で、妻のつた江は気さくな性格だった。

 両者ともスクイブで、家を勘当されまともな職にも就けない中、文音の父である玄治(げんじ)に拾われた恩を忘れず文音の面倒を見続けてくれた夫婦だ。

 

 彼らは今、どうしているのか。私のことを覚えているのか。今の日本はどんな様子なのか……。

 目を見開いたまま、文音はダンブルドアの顔を見つめた。しかし、言いたいことや聞きたいことは多々あるのに、思うように口が動かない。

 

 ダンブルドアは、文音が何かを言い淀む様子を見ると、静かに立ち上がり最後に告げた。

 

「ところで、豪華な食事を頂いたのだから、相応の礼をしなくてはならん。おっと、そうじゃそうじゃ、これを言うのも忘れておった」

「……?」

「フミネよ。少し遅くなったが、メリークリスマス!」

 

 言うや否や、ダンブルドアは瞬く間に大広間から忽然と姿を消した。

 

「……えぇ……?」

 

 呆けること暫く。

 文音はぽかんと空いた口を閉じて、再び一人きりになった大広間をあとにした。

 

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 

 

 片づけを終えた文音が寮に帰ると、思わぬ光景が彼女を出迎えた。

 

 合言葉を言ったのち、寮の重厚な扉が開かれる。疲れたなと腕を回しながらとぼとぼ歩いていると、動物の鳴き声が耳に入った。

 今のスリザリン寮には自分一人しかいないはずである。異変に気付いた文音がすぐさま顔を上げると、懐かしい存在が文音のすぐ近くまで舞い降りた。

 

「ト……トンコツ!!あんた、なんでこんなところに……!」

 

 鳴き声の主は、文音が実家で飼っていたウミツバメだった。

 長らくの間、会いたくても会えなかった存在の一匹だ。

 ペットのほうも、飼い主との久しぶりの再会に喜んでいるのだろう。トンコツはもう一度談話室内を飛び回った後、文音の前にとまった。

 

(信じられない、どうしてトンコツがホグワーツに?)

 

 喜びと驚きの中、チャコールグレーの羽毛を撫でるとトンコツがピイピイと囀る。

 通常のウミツバメよりもずっと巨大なペットだが、その愛嬌は小動物にも劣らない。

 まるで夢をみているかのような心地だ。

 現実を受け止めきれないでいると、文音の愛鳥は暖炉の傍らへ飛び、近くに置かれている荷物の存在を飼い主に示す。

 

 あれは一体なんだろう。

 文音は首を傾げながら近づき、トンコツのそばにある大小いくつかの包みを拾い上げる。どうやら届け物のようだ。赤色に可愛らしくラッピングされており、宛名には日本語で文音の名前が書かれている。

 包みを裏返し、送り主の名前を確認すると、文音はまたしても目を見開いた。

 

 

『福木矢津雄・つた江』

 

 

 見間違うはずもない。包みには、文音が幼い頃から世話になっていた夫婦の名前が記されていた。

 恐る恐る、慎重な手つきでラッピングの紐をほどいていく。途中で包装紙が破れないように、長い時間をかけて丁寧に開封した。

 包みの中には「カナミの魔女通信」の4巻と5巻、うさぎのぬいぐるみ、少し前に流行した魔法のヘアブラシなど、いくつかのプレゼントが入っている。

 そしてさらに、白い封筒に入った手紙がある。

 ペーパーナイフで封蝋を剥がすと、文音は手紙に目を通した。

 

『文音さんへ。

 メリークリスマス。

 お元気ですか。ダンブルダー先生から、イギリスの冬は日本よりもずっと厳しいと聞きました。

 風邪はひいていませんか。毎日ごはんをたくさん食べて、暖かくして寝てくださいネ。

 私達は最近、マグル界の集会所で囲碁に明け暮れています。そちらでは楽しい遊びはありますか。

 ダンブルダー先生から文音さんの様子についてお聞きしました。

 言葉も通じない遠い国で、一人で頑張るのはとても大変なことでしょう。

 黙々と努力する姿にアッパレです。

 そんな文音さんに、ささやかながらクリスマス・プレゼントをお送りいたします。

 いまはまだ会うことも叶いませんが、ホグワーツを卒業して日本に戻ってきたら、たくさんお祝いしましょうネ。

 文音さんが帰ってくる日を楽しみに待っています。

                  

 福木矢津雄・つた江』

 

 

 

 文音はベッドに寝そべり、夜が更けるまで手紙を何度も読み返した。

 

(「文音さん」だなんて、手紙の中でだけ改まった呼び方をして。いつもは「お嬢様」って呼んでいるのに、変なの。それにダンブルダー先生って、誰なのさ)

 

 少女の細い指が、角ばった字をなぞる。

 目から、涙がしとしとと小雨のように流れ続け、枕は湿り気を帯びていた。

 

 その様子に、飼い主の体調が悪いのかと、トンコツが心配そうに顔を覗き込んだのであった。

 

 

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