街が地獄に変わってから、いったいどれだけの時間が経ったのだろう。ウィルスの流出、しかも人口密集地で起きたそれはあっという間に街を汚染してしまった。顔色の悪いそれが歩き回る光景はまるでロメロの映画のようだった。
どうしてこうなってしまったのか。すべてはこの街を支配するアンブレラ社のせいだ。彼らは山中で非合法な生物兵器の研究を行っていた。そればかりか、あまつさえ事故によって危険なそれらを流出させたのだ。この事件に私を含めたSTARSが派遣され、そこでこの世のものとも思えぬ狂気の研究と対峙した。結局生きて帰ってこれたのは私を含め5人だけだった。だが、幸運なことに私たちは研究所からこの非合法の研究の資料の一部を持ち帰っていた。すべてはアンブレラ社を糾弾するために。あんな悪夢のような事態を二度と起こさないために。
そう、いきごんでいたのだけれど。帰還した私たちを待っていたのはとても酷いものだった。連日マスコミらは事件を解決できなかった私たちを能無しの税金泥棒と報道し、民衆もそれを信じていた。証拠を提出してもそれは署長によって握りつぶされた。すぐにアンブレラ社が妨害をしているのだと気付いた。ラクーンシティの住民の半数以上はアンブレラ社かその関連企業に勤めている。そしてアンブレラ社も莫大な投資をこの街に行っている。加えて忌々しいことに署長はアンブレラ社と関係があるらしい。街の隅々まで浸透している権勢をもってすれば証拠のもみ消しなど簡単なことだったろう。
誰も私たちの言うことを信用しない。クリスは反アンブレラのためラクーンシティを去った。バリーもアンブレラの魔の手から家族を国外に逃がす手続きをするためにカナダにいる。残ったのはブラッドとジルと私の三人だった。ジルはこの逆境の中、諦めること無く活動している。ブラッドは知らない。臆病風に吹かれた彼は逃げ回っているらしい。私もできることは全部やった。だが、良い結果を得ることはできなかった。
そんな中この事態である。スターズを無能と罵っていた人も関係無く皆死んだ。そういえばジルと最後に会った時、彼女は生存者の救助を行っていたが、まだ生存者はいるのだろうか。警察官がこんなことを考えるのは不謹慎だろうか。
今私は、職場である警察署に向かっている。件のジルと合流したいという理由もあるが、警察署は避難場所になっているはずだ。やはり警察官として市民を助けるという職務を全うしなければならないだろう。単純に警察署に言って装備を整えたいというのもあるけれど。
曲がり角に差し掛かり、安全を確認するために顔だけだして覗く。
そこには数体のゾンビがいた。だが、食事に夢中のようでこちらに気付いている気配は無い。気付いたところで動きの遅いゾンビなら走り抜ければ戦うこと無くやり過ごせるだろう。
それだけなら別になんてことは無い。問題はその傍らにアンブレラ社マークの付いた巨大なタンクが転がっていることだ。アークレーの研究所でも見たが、生物兵器は保存なり運搬なりを行うとき、裸のまま運ぶ訳にはいかないので何らかの容器入れられる。その容器にとても似ているのだ。しかも私が見たエリミネーターやハンターの容器よりも遥かに大きい。ボディビルダーも易々と許容してしまうだろう。容器があり、しかも中が空であるということは、中身は既に出てしまったか元々空だったのかのどちらかだ。元々空だったのなら良いのだが、そもそもこんな街のど真ん中に違法な生物兵器の容器が転がっているとは考えにくい。なんらかの生物兵器が投入されたと考えるべきだろう。
ここまで大型のものなら、それこそあのアークレーで遭遇したT002クラスだろう。そんなものが街に解き放たれたなって、考えたくも無い。何とか遭遇することだけは避けたい。幸い、付近にはそれらしい奴は見当たらない。ゾンビが数体うろついているだけだ。多分大丈夫だろう。というか、大丈夫だと思いたい。
意を決して、飛び出す。やはり、そこのはゾンビしかいなかった。
これならいける。
速足に通りを駆け抜ける。私の存在に気付いたゾンビが腕を伸ばすが、動きは緩慢でその手は空を切った。私もスターズの一員だ。苦手だったが訓練も受けているし、あの悪魔もような夜を生き延びたのだ。今更こんな奴にやられるようなことはあり得ない。ゾンビの数もそう多い訳じゃ無い。このまま走り抜けてしまおう。
だが、それは叶わなかった。
突如として甲高い飛翔音が聞こえた。私は咄嗟に地面に伏せる。その瞬間、頭上をなにかが通り過ぎ、私から少し離れた場所にあった車が吹き飛んだ。その衝撃を受けて私も転がる。
状況が全く分からなかった。だが、それ以上に爆風がまずかった。強く頭を揺らされたのか、意識がはっきりとしない。考えが纏まらない。
そんな中、件の下手人が近づいてくる。とにかく逃げたかったが、頭がふらついて体をうまく動かせない。
瓦礫と砂利と砕けたガラスを踏みつける音が近づいてくるが、なにかそれとは違う音が聞こえた。
「……スターズ」
ああ、死神の声が聞こえる。
今日、私は死ぬかもしれない。
缶詰ってあんまり美味しくないね。ランチョンミートっていうの? これ。不味いっていうか味がしないわ。
発信機を引きちぎって自由の身になった後、これからどうしたら良いか全く分からなかった。いくら考えても分からなかったので、俺はたまたま近くにあったレストランに入って腹ごなしをすることにした。ああそうだよ。現実逃避と言い換えても良い。T103なんてマジでやってらんねーよ。どう頑張ってもバットエンド直行じゃねーか。っていうことしか浮かばなかったんだよ。
あーでもあんまり美味しくないなぁ。というか、この美味しくないっていうの味が云々じゃなくて、俺のせいじゃないのかな。T103というか、生物兵器に味覚は要らないだろうし、そういったものはオミットされると思うんだよね。戦闘兵器に無駄なものは搭載される訳が無いんだ。だから、この缶詰を美味しく感じないのだろう。あ、スプーン折っちゃった。
というか、本当にどうしようかな。もうマジ無理。生物兵器って時点詰んでる。レオンやジルとかの主人公達と協力できれば脱出できるかもしれない。がこのプランは俺が生物兵器ということから使えない。絶対に敵対される。特にジルは洋館事件でT103の前身のT002を知っている。協力はほぼ無理だ。かといって、直接街から出るのも無理だろう。軍、あるいはアンブレラのの私兵が十中八九街を封鎖しているだろう。T103は強力な生物兵器で、それこそリッカーやハンターなんぞより遥かに強い。でも、複数の完全武装の兵士には分が悪い。というか封鎖のために配置されているのは生身の兵士だけじゃ無いだろう。装甲車でもあれば確実に死ぬ。これも無理ゲーだからダメ。
はー、マジでどうしよ。さっきからこれしか言ってないけど一向に解決しない。
俺が不毛な思考に嵌っていると、外から爆発音が聞こえてきた。
缶詰とスプーン(3代目)を放り投げ、咄嗟に立ち上がり体勢を整える。こういう動きが出来ちゃうあたり、もう元の俺じゃ無いんだなってつくづく思う。音を立てないようにゆっくりと移動し、窓からブラインド越しに外を確認する。
車が燃え上っていた。というか、爆散している。このレストランに来るまで少し歩いたが、その時に幾つか炎上した車を見かけた。だが、それは大きな損傷は無く、精々エンジンがひしゃげている程度だった。だが、この車は違う。何かが爆発したように、その部分から弾け飛んでいる。そこから少し離れた所に人間が転がっていた。肌は煤や埃にまみれていたが、血色が良いので感染者では無いだろう多分。若い女性のようだ。見た感じ、年齢は10代後半から20代前半といったところだろうか。人相は爆風で埃や塵が舞っているので良く分からない。ただ、髪色が焦げ茶色っぽいということは分かった。
なんだこれは。車を爆弾で吹き飛ばしたんだろうか? いや、リアルに世紀末みたいな状況だけど、邪魔な訳でも無い車を爆破するなんてことは無いだろう。
しばらく様子を窺っていると、ジャリジャリという砂利を踏む音が聞こえてきた。やがて音の主は姿を現した。
2メートル半はあろうかという長身にボディビルダーも真っ青な屈強な肉体。黒いコートを着て体を大きなベルトで縛っている。右腕にはミサイルランチャーを携えている。なるほど、こんなミサイルなら、車も吹き飛ばせるだろう。特筆すべきはその頭部である。表面がてらてらと光っている。右目は手術痕で潰れ、唇は無く歯がむき出しである。
疑いようも無いネメシスT型、ゲーム的には追跡者やネメシスと呼ばれる生物兵器だ。作中ではひいたすジルを追いかけ続けたトラウマものの敵である。
あれ、でもおかしい。この状況的にネメシスはそこの女性を狙ったのだろう。でもネメシスは知能が高い。おそらくスターズを狙うようにプログラムされているはずなのだが、彼女はジルじゃない。なんで狙ったんだ?
そうこうしている内に、ネメシスはどんどん近づいていく。件の女性に一直線だ。ということは、彼女がターゲットなのか。でもスターズって黄道特急事件と洋館事件でジルやクリスとか主人公ら以外に全滅したんじゃあ。あぁバリーとかブラッドもいるか。
あ。いるじゃん女性のジル以外のスターズ隊員。ってことは。
タイミング良く風が吹き、景色が晴れる。女性の顔をはっきりと捉えることができた。幼い顔立ちにブルネットの髪。
間違いない。あの女性はレベッカ。レベッカチェンバースだ。
実はレベッカの登場は最初期のプロットには無かったりする。相棒的なキャラが必要になったのでレベッカを出しただけで、登場は最初から決まっていたのではなかったのです。
旧版というか改定前は結構適当でした。でもレベッカかわいいから後悔はしてない。