あれから暫く時間が過ぎた昼下がり、ギルドハウスの窓から暖かな日の光が差し込むリビングで、ソファに座りながらユウキは本を読んでいた。
テーブルには彼が自分で注いだ紅茶がティーカップからふわふわと湯気を立ちこめらせている。
「ぅん~・・・ん?」
読んでいる本の内容に頭を悩ませるユウキ、その様子をコッコロは影からこっそりと見つめていた。
(キャル様に言われたことを話さなくては・・・ですが、集中されているようですし)
声を掛けるべきか今は控えるべきか、そう考えるだけで動くことが出来ないコッコロをよそに、ユウキは読書に没頭していた。
「よしっ!」
「キュッ!?」
暫くして一区切りついたのか、ポンッと勢いよく本を閉じたユウキはふぅ~と一息をついて紅茶の入ったティーカップを口に運んだ。
「あっつ!!」
だが、どうやら紅茶の温度が思いのほか熱かったようで、ユウキは突然大きな声をあげると勢いよくむせ込んだ。
その様子に、慌ててコッコロが影から飛び出してユウキの方に駆け寄る。
「主様!?大丈夫ですか!!」
「かっはっ!あぁ~うん、大丈夫、大丈夫、ちょっとお茶熱くしすぎちゃったみたい」
心配そうな表情をするコッコロに微笑みかけると、ユウキは口元を袖で拭ってユウキははぁ~っと一呼吸置いて落ち着いた。
「ごめんね、騒がしくしちゃって」
「いえ、お怪我がないようで私も安心しました」
「あはは、また心配掛けちゃったな」
コッコロの言葉を聞いて、ユウキは少し罰の悪そうな顔をしながら頬を掻いた。
「主様・・・私はお邪魔でしょうか?」
「えっ?」
余りに唐突なコッコロの言葉に、ユウキはキョトンとした表情で彼女の方を見る。ユウキの視線の先で、コッコロは悲しそうな視線を向けていた。
「主様は・・・あの時さらわれた後からとても逞しく成長なされて、料理も一人で行えますし、言葉遣いも大人びていますし、最近は何か独り立ちの準備をされているように見えるのです。先程読まれていた本も資格関係のものでしたし」
「まぁ、そうなんだけど」
コッコロに指摘されて少し言い淀みつつユウキはソファに置いていた本を自身の影に寄せた。
「それで、いつまでもつきまとうわたくしはもう必要無いのではないかと考えてしまって」
そう言い終えてうつむくコッコロの様子を見て、ユウキは「う~ん」と唸りながらこめかみを押さえて、どんな言葉をかけようかと悩んだ後、どこか諦めたようにフフッと笑って口を開いた。
「まぁ、そうだね、隠れて独り立ち出来るようになろうとは思ってたよ。バレバレだったみたいだけど」
そう言いながら落ち込むコッコロの肩をポンポンと叩いて励ますように微笑みかけてみせる。
「けどそれはさ、コッコロちゃんが邪魔になったとかじゃなくて、僕も皆に見合う人になろうって思ったからなんだ。ペコリーヌさんは今は王家の人だし、奉仕活動とはいえキャルちゃんも働いてるし、コッコロちゃんも何でもそつなくこなせるしね」
「主様・・・」
ユウキの言葉を聞いて驚きの表情を見せるコッコロから照れくさそうに目を逸らしながら、ユウキは自分の手に視線を落とした。
「別の世界に飛ばされて、僕はユースっていう僕にそっくりの人に出会った。彼は顔は僕に似てたけど、他は全然違くてさ。大人っぽくて、戦いも凄かったし、なんだか・・・精神的にも強くて、迷いこんで困ってた僕を優しく導いてくれた」
そう語るユウキの目は輝いており、表情はどこか誇らしげだった。それを見て、コッコロは思わず笑みがこぼれた。
今まで、彼からは純粋な好奇心からくるワクワクと楽しそうな表情や笑顔は見かける事は合ったが、今のように何かに格好いいものに憧れ夢中になっているような男の子らしい表情を見ることが出来たのは初めてと言って良かった。
(こうして新しい表情を見られるのでしたら、成長というのも悪い事ではないのですね)
コッコロがそう思っているのはつゆ知らず、ユウキは語り続ける。しかし、彼の表情は先程とは打って変わって少し辛そうな、曇りが見えるようなものに変わっていた。
「それを見て、顔はそっくりな人のハズなのにどうしてこんなに違うんだろうって思って、それから色々悩んでさ。それで、皆のことも改めて考えるようになって、僕って皆に助けて貰ってばっかりだったなって事に気がついて、それでこのままじゃいけないと思ったんだ」
自身の拳を強く握りユウキは決意めいた目をしてそう呟いた。語り終えたユウキはふぅ~と一息つくと、コッコロに謝りながら少し気恥ずかしそうに苦笑した。
「ごめんね、急に長々と喋っちゃって」
「いえ、私こそ早とちりをしてしまって申し訳ありません。主様はとても良い出会いを成されていたと知って、私は嬉しく思います」
「そう、ありがとう。けど僕もまだまだだなぁ~、今日だってコッコロちゃんにしんぱいかけちゃってたし」
天を仰ぎながらため息をつくユウキを見て、コッコロや彼の肩をさすって、首を横に振る。
「いえ、私が心配したのは主様と離れたくないという私の焦りが起こしたものです。主様が気に病む必要はございません・・・それに、主様のお話をお聞きして私も決めました」
「何を?」
首を傾げるユウキに、コッコロにしては珍しいいたずらっぽい表情をして彼を見上げると、朝方キャルに頼まれていた就職に関する内容を話し始めた。
「主様、前々からキャル様にお願いされていた事がありますよね?恐らく私には内密で」
「えっ、あぁ~ばれてる?」
「えぇ、キャル様とペコリーヌ様が把握しておられて私だけ知らされていなかったとなれば、何か恣意的な事を感じざるの当然ですから、主様は私が反対すると思われたのでは?」
「あはは~かなわないなぁ、コッコロちゃんには・・・内緒にしててごめんなさい」
自分の思っていた事を全て見透かされていたことでユウキは苦笑をした後、隠していたことをしっかり謝罪した。
「いえ、実際主様の考えは当っていましたから、謝る必要はございません。今までの私では色々な事を邪推してしまい反対してしまっていたかも知れません」
「やっぱり・・・」
「ですが」
彼女の言葉を聞いて苦々しい表情をするユウキを見つつ、彼女は彼の思考は遮るようの言葉を続けた。
「事故とは言え一人で訪れた場所で、主様は新たな出会いをして、そこから素晴らしい事を学ばれました。ですから、私も考えを改めるべきだと思ったのです」
「ってことは!?」
「主様、キャル様からカウンセラーお仕事の募集があると伝言を預かっております。挑戦されますか?」
「うん、ありがとうコッコロちゃん!!」
コッコロの言葉に、ユウキは嬉しそうに頷く。その様子を見ながらコッコロは嬉しいような、けどどこか悲しいような複雑な表情をしていた。
自分は彼の従者だ、彼を守る事は責務であるが縛り付けることはしてはいけない。分かってはいたのだが、こうして自分から離れてしまうのは寂しいものだ。
(ですが、主様が成長してまた新しい表情を私に見せて下さるのであれば、それも悪くないのかも知れませんね)
まだ若干後悔が残る心をそう納得させて、コッコロはため息を吐きながらこめかみを押さえた。
子供の独り立ちを経験する親というのはこんな気持ちだったのかなと考えて、まさかこの年でそれを味わうとはと苦笑する。
そんな風に思っていると、ユウキが振り返って声を掛けてきた。
「ところでコッコロちゃん」
「なんでございましょう?」
「カウンセラーってどんな仕事なの?」
「っ!?あぁ~そうですね、簡単に言えば人の相談に乗る仕事になります。資格が必要なのですが、今回の場合は内定後研修中に」
余りにも自然に尋ねてくるユウキに一瞬キョトンとしつつも、何とか落ち着きを取り戻して説明を始める。
(これは・・・まだまだ手がかかりそうですね)
心の中でそう思いながらコッコロは嬉しそうに微笑んだ。
「これは・・・一体」
荒廃した世界、少年は唖然とした表情で空を見上げていた。
空中には幾つものゲートが開いており、空を覆い尽くそうとしていた。
彼がこれまでこの世界で生きてきて、今までにない現象だった。そもそも複数のゲートが同時に開くこと自体が希なのに、今回のように同じ場所に複数同時にゲートが開くなんて異常事態にも程がある。
「向こうの世界に何か異変が起こってるのか?」
この世界と向こう、ユウキ達がいる世界は密接にリンクしている。向こうの世界で起こった出来事はこちらの世界と密接に関係している。
前回彼が向こうの世界に赴いた際に時系列を確認したが、以前起こった皇帝との決戦とこちらの世界では魔物が大量発生した時期が一致していた。
その他には、彼が向こうの世界で長期間活動した場合に起こった2つの世界の融合などあったが、今回彼は向こうに影響が出るほど長期間活動していない上に今回のようにゲートが複数開く事象はそのどちらにも当てはまらないことだった。
つまり、向こうの世界でこれまでにない出来事が起こったという事になる。
「これは・・・確かめる必要があるな」
そう呟いた彼は、覚悟を決めた様子で天空に開いたゲートを見つめていた。
さぁ、明日から新章「皇帝の遺産」がスタート!!
どんな展開になりユウキ達はどうなっていくのか、楽しみにしていた下さい!!
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