ep:1 過去からの刺客
「はぁ、はぁ」
町の外れにある廃墟、ボロボロのコートを羽織った1人の青年が息を切らしながら建物の影に身を潜めていた。
「まだこの辺りにいるはずだ!!絶対に逃がすな!!」
少し離れた場所では、鎧を着た司令官らしき人物の指示に従って兵士達が各方面に散会していく。
「チッ、面倒な事を」
思わず口に出しながら、隠れていた場所から離れる。
出来るだけ月明かりに照らされないよう、影から影へ最低限の距離で移動をしながら、青年は自分がここまで落ちぶれる事ととなった出来事を思い出していた。
運命の日、皇帝が追放された姫と裏切り者の手により倒されたあの日、皇帝の右腕として執行官の任に付いていた青年の立場は逆転、裏切り者や皇帝の意に背く者を追い始末する側からこちらが追われる側に転落してしまった。
(・・・キルヤ、全く上手く立ち回ったものだ)
自分と同じ皇帝側の人間だったのにもかかわらず、皇帝の陥落前に裏切った事と姫のお気に入りだったことで執行猶予と奉仕活動という軽い処罰のみに止められた少女の事を思いながら、青年は憎々しげに奥歯を噛んだ。
「っ!」
少女への憎悪を募らせつつ移動しようとした時、辺りを見回している1人の兵士の姿が目に入った。
向こうはまだこちらに気がついていないようだ。ここはなんとかやり過ごして見つからないように逃げようかとも考えたが
(・・・もういいか、逃げるのにも流石に飽きた)
青年は小さくため息をついて、音を立てぬようにしながら懐から大きめのダガーを取り出した。
「おはよぉ~」
「おはよう、朝ご飯出来てるわよ」
寝癖混じりの頭を掻いて欠伸を噛み殺しながらユウキが階段を降りてくる。それを見上げながらキャルはリビングで紅茶を飲みながらくつろいでいた。
「あれ?ペコさんとコッコロちゃんは?」
「ペコリーヌは王宮に呼び出されてて、コロ助はバイトの早番だって朝早く出てったわよ。と言うかこの前言われてたでしょ」
「そう・・・だったっけ?」
「・・・しっかりしなさいよ」
「ごめん、最近色々勉強の事で頭がいっぱいで」
「あぁ~そういえば私が紹介した仕事、今研修期間だっけ?」
ユウキは少し前から、王宮で働く職員達の為のカウンセラー見習いとして働いている。
キャル持参が持ってきた話ではあるものの、始めは彼が上手くやっていけるか心配していたが、教育担当や周りの職員の話を聞く限り、少し天然まじりな優しい性格と研修に真剣に打ち込む様子から中々に高評価を得られているようだった。
「なんか困ってることとかない?」
「ううん、皆優しいから大丈夫だよ」
「そっ、まぁそれなら良いんだけど」
キャルの質問に笑顔で答えるユウキ、彼の様子を見る感じ何かため込んでいる様子もないので仕事に関しては特段問題はないのだろう。
だが、キャルはそれとは別に1つ気になっている事があった。
「あんた、職員の女性陣から色々話しかけられてるみたいだけど、まさか一緒に出かけようとか誘われてないでしょうね?」
「あぁ~今度美味しいレストランがあるから一緒に行こうって言われたよ、それがどうかしたの?」
「なっ!?あぁ~そこまでが早いのがいたとは・・・あんた、女の子と会うときは色々気をつけなさいよ、思わせぶりなこと言わない!後嫌な思いさせちゃうかもとか考えないで駄目な事はキッパリ断る!良いわね」
「う、うん、分かった」
キャルに詰め寄られて反射的に頷いただけで、特に理解出来ていなさそうなユウキを見て、キャルはため息を吐いた。
キャルが気にしていること、それはユウキが意外にも女性受けが良いと言うことだ。元々顔立ちは悪くなかったし、真面目で優しいうえどこか抜けている部分があるので庇護欲のようなものもくすぐられる。
年上が多い職場では、考えれば考えるほど受けが良さそうなキャラだ。どうして仕事を進める前に気がつけなかったのか、キャルは自分を責めた。
(誰かと付き合うとかならまだしも、泥沼の色恋沙汰に巻き込まれでもしたら目が当てられないのよね。職場もギルドも)
女心に気づけないユウキが、複数の女性に思わせぶりな態度を取ってしまいそれで女性同士の喧嘩にでも発展したら、職場の空気は地獄へと変わるだろう。
それにギルド内でもコッコロのメンタルに相当なダメージが入ってしまう事は目に見えていた。
(しかも、なんかペコリーヌもこいつのこと好きそうな節があんのよねぇ~)
眠気眼の瞳をこすりながら朝食を口に運ぶユウキを見て、キャルは表情を歪めて頭を掻いた。
ペコリーヌが明確にユウキを意識しているという確証はない。だが、中々こちらに顔を出せなくなったのが原因なのかギルドの面々に会うと前以上にテンションが上がるようになった。
だが、その中でもユウキに対する接し方がどこかおかしいのだ。
具体的には自分やコッコロにはぐいぐいくっついてくるのに対して、ユウキにはどこか距離を取った接し方をするようになったり、彼とふれ合うときはなんだか緊張しているような気がする。
王家の人間として男性と接する際に気をつけるよう言われているのもあるが、どうにも怪しい。
(まあ、実際ピンチを救って命がけで戦ってくれた訳だし、惚れない方がおかしいわね・・・そんな事言ったら私もだけど)
「おいしいぃ~」と情けないが幸せそうな声を漏らすユウキを見ながら、キャルは苦笑した。
事実、ユウキの事は意識している。しかし、コッコロやペコリーヌがいる中アプローチしていこうと言うほど強い思いではないし、何より彼女の中では彼への好意より罪悪感の方が強かった。
かつての主、マナとの決戦の最中、彼は自分をマナの元に送るために瀕死の重傷を負っている。元々は命を狙っていたキャルとしては、その事実は重くのしかかっていた。
自分なんかが行くのはおこがましい、それにもし気持ちを伝えて今の仲間達との関係性が崩れてしまうのは嫌だ。
そう言った思いから、キャルは今抱えている自分の気持ちは墓場に持って行くつもりでいた。
「ん?キャルちゃんどうかした?」
「えっ?あぁ~いや、美味しそうに食べるなぁ~と思っただけよ」
いつの間にかユウキをじっと見つめていたようで、彼のそう問いかけられる。それに対してキャルは目線を逸らしながらそうはぐらかした。
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